説明

スピーカー振動板用フィルム

【課題】極めて軽量で摩擦による自己帯電性を有することで、帯電のための高電圧を印加することを必要とせず、且つ、塵や埃が付着しづらく、また付着した塵や埃は振動により容易に除塵可能であるため、帯電状態を安定的に維持できることにより、静電型スピーカーシステムを構築できる新たなスピーカー用振動膜を提供することにある。
【解決手段】スピーカー振動用フィルムは、高分子フィルム表面の少なくとも一部が、非結晶質のフッ素系被膜で被覆されてなり、単位面積当たりの質量が5mg/dm以上150mg/dm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー用振動板に関し、さらに詳細には、静電型スピーカーや超音波型スピーカーに使用して好適なスピーカー振動板用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶デバイスや有機ELデバイスによる超薄膜型のディスプレイや、携帯電話などの移動通信端末の小型化、高機能化に伴い、搭載されるスピーカーに対しても、小型化、薄膜化、省電力化、音質改良に対する要求が高まっている。特に、静電型スピーカーシステムは、フレキシブル性を有することから、有機ELディスプレイには有用なスピーカーシステムとして期待できる。しかしながら、静電型スピーカーの問題点としては、振動膜に高い電位を印加して帯電させることが必要であり、そのため、安全性の課題が残されている。また、乾燥した環境で長時間使用すると、振動膜表面に塵が付着し、そのため、音質や音量に影響し、さらに、湿度の高い環境に長時間放置すると、帯電した振動膜が放電して帯電が低下し、音が出にくくなるなどの問題がある。
【0003】
このような課題を解決する方法として、高分子フィルム表面を導電性高分子で処理したフィルムを振動膜に使用して湿度の影響を抑制する方法(特許文献1)や、集塵機能を有する部材を設置してごみの付着を抑制する方法(特許文献2)や、振動膜表面に形成する導電性膜を縁部分に形成しないことで、放電を発生し難くする方法(特許文献3)などが提案されている。
【特許文献1】特開平7−046697号公報
【特許文献2】特開2008−148195号公報
【特許文献3】特開2010−016603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高分子フィルム表面を導電性高分子で処理したフィルムを振動膜に使用して湿度の影響を抑制する方法では、湿度に対しては対策が可能ではあるが、使用経時に伴う塵や埃の付着や、或いは、帯電させるために高電位を印加することが必要であり、根本的な対策とはならない。また、集塵機能を有する部材を設置して塵や埃の付着を抑制する方法や、振動膜表面に形成する導電性膜を縁部分に形成しないことで、放電が発生し難くする方法などでは、構造が複雑になってスピーカーシステムが厚くなったり、或いは、放電は一部緩和できるものの、振動膜表面からの放電を防止することは不可能であり、さらに、システムとしては高電位を印加することが必要であることから、根本的な改善にはならないのが現状である。
【0005】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになしたものであって、極めて軽量で摩擦による自己帯電性を有することで、帯電のための高電圧を印加することを必要とせず、且つ、塵や埃が付着しづらく、また付着した塵や埃は振動により容易に除塵可能であるため、帯電状態を安定的に維持できることにより、静電型スピーカーシステムを構築できる新たなスピーカー用振動膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち第1の発明は、高分子フィルム表面の少なくとも一部が、非結晶質のフッ素系被膜で被覆されてなり、単位面積当たりの質量が5mg/dm以上150mg/dm以下であることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0007】
高分子フィルムと非結晶質のフッ素系皮膜とを組み合わせてスピーカー振動板用フィルムとすることで、軽量で強度に優れると共に、帯電性に優れたスピーカー用振動板フィルムに好適なフィルムを形成することができる。
【0008】
また、第2の発明は、前記非結晶質のフッ素系被膜が被覆された表面の算術平均粗さRaは5nm以上500nm以下であることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0009】
さらにまた、第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記高分子フィルム表面と、前記非結晶質のフッ素系被膜との間に、無機微粒子または高分子微粒子を含む微粒子層が形成されることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0010】
さらにまた、第4の発明は、上記第3の発明において、前記無機微粒子および高分子微粒子が誘電体であることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0011】
さらにまた、第5の発明は、上記第3または第4の発明において、前記無機微粒子は、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆され、前記微粒子層内の無機微粒子同士は、互いのシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基が化学結合していることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0012】
さらにまた、第6の発明は、上記第3から第5のいずれかの発明において、前記無機微粒子は、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆され、前記微粒子層内の無機微粒子は、該無機微粒子を被覆するシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基と、前記高分子フィルムと、が化学結合することにより、前記高分子フィルム表面に固定されることを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【0013】
さらにまた、第7の発明は、上記第3から第6のいずれかの発明において、前記微粒子層は、撥水性を有するバインダー成分を含むことを特徴とするスピーカー振動板用フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明におけるスピーカー振動板用フィルムは、誘電性に優れた非結晶質のフッ素系被膜が高分子フィルム表面に形成され、さらに、誘電体からなる微粒子を含んでなることから、自己帯電性に優れ、且つ、振動膜の振動により容易に摩擦帯電することから、高い電位を印加する必要がなくなり、また、長時間振動膜の帯電が保持でき、高電位による感電や長期間使用しなくても音が出にくくなることがなくなる。
【0015】
さらに、無機微粒子や有機微粒子からなる微粒子層により、非結晶質のフッ素系被膜の表面には、微細な凹凸が形成されることから、表面への塵やごみの付着が抑制されると伴に、塵やごみが付着したとしても、その接触面積が極めて低くなり、振動膜の振動により振動膜表面から容易に脱離するので、長期間使用しても、音質の変化や音量の低下などが抑制できる。従って、高電圧を印加するトランスなどを必要としない安全性の高い、新たな静電スピーカーシステムが構築できるスピーカー振動板用フィルムを提供できる。
【0016】
さらに、本発明におけるスピーカー振動板用フィルムは、高分子フィルム表面に非結晶質のフッ素系被膜を形成することで、高分子フィルムの機械的特性が大きく改良される。すなわち、応力―歪特性において、高分子フィルム本来の強度が向上すると伴に伸度が著しく向上することを見出した。機械的特性の改良により僅かな電位変化を大きな変位に変換できる薄膜によって、軽量なスピーカー振動板用フィルムの実用的な設計に極めて有用な材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1のスピーカー振動板用フィルムの断面図である。
【図2】実施形態2のスピーカー振動板用フィルムの断面図である。
【図3】実施形態3のスピーカー振動板用フィルムの断面図である。
【図4】実施形態4のスピーカー振動板用フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下に、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルムについて詳述する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム100の断面の一部を拡大した図である。本実施形態のスピーカー振動板用フィルム100は、スピーカー用振動膜の本体部をなす基体1の表面上に非結晶質のフッ素系被膜2が被覆されることにより構成されている。図1では基体1の表面全体を、非結晶質のフッ素系被膜2が被覆してる状態を示したが、基体1の少なくとも表面の一部を被覆していればよく、例えばフッ素系被膜2が海島状の海または島のような配置をなしていてもよい。
【0020】
本実施形態のスピーカー振動板用フィルム100の基体1は、高分子からなるフィルムあるいはシートである。材料としては例えば、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリエーテルフェニルエーテルサルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVF(poly vinyl fluoride)や、FEP(fluorinated ethylene propylene copolymer)や、ETFE(ethylene tetra fluoroethylene)や、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PVDF(poly vinylidene difluoride)などの熱可塑性樹脂や、ポリアリレートや、PPTA(Poly(p-phenylene terephthalamide))などの溶融液晶ポリマーが挙げられる。これらの高分子からなるフィルムの厚さは、1.0μm以下では、ハンドリングに問題がある場合があり、10μm以上では、質量が高くなるので、振動膜を振動させるために高いエネルギーが必要となる傾向にあり、消費電力が高くなる傾向にあるため、1.0μm以上、10μm以下が好ましい。
【0021】
本実施形態の非結晶質のフッ素系被膜2は、その材料の一例として、サイトップ(等力商標)(商品名:旭硝子株式会社製)や、テフロンAF(「テフロン」は登録商標)(商品名:デュポン株式会社製)や、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)などが用いられる。これらのフッ素系樹脂はその分子構造の単位が環状であったり環状構造を含むため、非結晶質であり、特定の溶剤に溶解可能である。
【0022】
この特性を用いて、スピンコート法や、浸漬法や、スプレー法などの方法で容易に基体1の表面に均一なフッ素系被膜2を形成できる。また、これらの材料により形成されるフッ素系被膜2は、誘電率も低く、低吸水率で防湿性に優れていることから、帯電しやすく、且つ、帯電しても環境により放電し難い特性を有し、スピーカー用振動膜100として優れた特性を発現できる。これらの非結晶質のフッ素系被膜2の厚さは、0.01μm以下では帯電後の放電し難い特性が不安定となる傾向にあり、5.0μm以上としても、帯電性などの特性はほぼ一定状態を示すので、振動膜の質量が大きくなることで振動に過剰のエネルギーを要するという点や材料コストが高くなるなどの点で好ましくない。よって、フッ素系被膜2の厚さは、0.01μm以上、5.0μm以下が好ましい。特に本発明における振動板用フィルムは、その単位面積当たりの質量が5mg/dm以上150mg/dm以下であることが必要である。質量が150mg/dm以上になると振動膜を振動させるために高いエネルギーが必要となり、また5mg/dm以下では振動膜としての強度が不十分であったり取り扱い性が困難となり好ましくない。
【0023】
また、本実施形態のスピーカー振動板用フィルム100は、JIS K 7127の引張特性の試験により測定される、フィルムのMD(Machine Directrion:樹脂の流れ方向)及びTD(Transverse Directrion:MD方向に直交する方向)方向における強度(N)が、MD方向及びTD方向ともに7N以上であることが好ましい。なお、スピーカー振動板用フィルムという用途から、MD方向及びTD方向ともに7〜80N程度であれば実用的な設計に適した材料として供給できる。
【0024】
また、同様の試験により測定される伸度(%)は、MD方向又はTD方向のいずれかがで5%以上であることが好ましい。特にMD方向又はTD方向のいずれかの伸度が10%以上50%以下であれば、僅かな電位変化を大きな変位に変換でき、エネルギー効率の高いスピーカー振動板用フィルムを構成することができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態のスピーカー振動板用フィルム200について図2を用いて詳述する。
【0026】
図2は、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム200の断面の一部を拡大した図である。本実施形態のスピーカー振動板用フィルム200は、スピーカー振動板用フィルムの本体部をなす基体1の表面上に非結晶質のフッ素系薄膜2が被覆されることにより構成され、且つ、スピーカー振動板用フィルム200の表面は微小な凹凸3を有している。この凹凸3が形成されるスピーカー振動板用フィルム200は、表面の算術平均粗さRaが5nm以上500nm以下となっている。本実施形態のスピーカー振動板用フィルム200の表面の微小な凹凸は、高分子フィルム基体1の表面がエンボス加工や、ナノインプリンティング法や、酸素プラズマなどの物理的な方法や、或いは化学エッチングなどの化学的な方法により形成される。この凹凸により、帯電してスピーカー振動板用フィルム200の表面に付着した塵や埃は、フィルムの表面に接触する面積が少なくなるので、スピーカー振動板用フィルム200の振動により容易に脱離し、塵や埃の蓄積を抑制できる。図2においても、非結晶質のフッ素系被膜2が基体1の表面全体を被覆している状態で示したが、基体1の少なくとも表面の一部を被覆していればよいことは図1と同様である。
【0027】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態のスピーカー振動板用フィルム300について図3を用いて詳述する。
【0028】
図3は、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム300の断面の一部を拡大した図である。本実施形態のスピーカー振動板用フィルム300は、スピーカー振動板用フィルム300の本体部をなす基体1の表面上にバインダー成分5を含む無機微粒子4aまたは有機(高分子)微粒子4bからなる微粒子層が形成され、該微粒子層の表面には非結晶質のフッ素系被膜2が形成されている。ここで、バインダー成分5を含む無機微粒子4aまたは有機微粒子4bは基体1の表面に微小な凹凸を形成するために導入されたものであり、この凹凸により、スピーカー振動板用フィルム200の表面に付着した塵や埃は容易に脱離し、その蓄積を抑制できる。
【0029】
本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム300に用いられる無機微粒子4aとしては、例えば、Al2O3、TiO2、ZrO2、SnO2、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Sb2O3、PbO、CuO,Cu2O、NiO、Ni3O4、Ni2O3、CoO、Co3O4、Co2O3、WO3、CeO2などの単一の無機酸化物が挙げられる。また、複合酸化物としては、例えば、BaTiO3、SrTiO3、ZnFe2O4、SiO2・Al2O3、SiO2・B2O3、SiO2・P2O5、SiO2・TiO2、SiO2・ZrO2・、Al2O3・TiO2、Al2O3・ZrO2、Al2O3・CaO、Al2O3・B2O3、Al2O3・P2O5、Al2O3・CeO2、Al2O3・Fe2O3、TiO2・CeO2、TiO2・ZrO2、SiO2・TiO2・ZrO2、Al2O3・TiO2・ZrO2、SiO2・Al2O3・TiO2、SiO2・TiO2・CeO2、TiC、TaC、KNbO3-NaNbO3系強誘電体セラミックス、(Bi1/2Na1/2)TiO3系強誘電体セラミックス、タングステン・ブロンズ型強誘電体セラミックスなどが挙げられる。これらの無機微粒子4aは単独、或いは2種類以上、混合されて用いられ、また、これらの無機微粒子粒4aの粒子径は、10nmから500nmであれば良い。なお、粒子径は、体積平均粒子径を意味し、本明細書において、特に記載しない限りは、平均粒子径は体積平均粒子径とする。
【0030】
また、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム300に用いられる高分子微粒子4bとしては、例えば、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PVFや、FEPや、ETFEや、PTFE、PVDFなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの高分子微粒子4bは単独、或いは2種類以上、混合されて用いられる。また、これらの高分子微粒子4bの粒子径は、10nmから1.0μmであれば良い。
【0031】
また、本実施形態のスピーカー振動板用フィルム300の無機微粒子4aまたは高分子微粒子4bからなる薄膜にはバインダー成分5が含まれている。バインダー成分5としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがシランモノマーが挙げられる。
【0032】
さらに、非結晶質のフッ素系被膜2が基体1の表面の一部を被覆している場合においては特に、バインダー成分5が、はっ水性を有する化合物であれば、湿度の高い環境等においても振動膜の帯電を長時間保持でき、一層好適である。バインダー成分5としてのはっ水性を有する化合物5としては、例えば、ステアリン酸アクリレートや、反応性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、反応性シリコーンオリゴマー、例えば、松下電器産業株式会社製フレッセラDが用いられる。
【0033】
さらに、はっ水性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、3−パーフルオロデシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが用いられる。
【0034】
さらに、はっ水性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、その他のフッ素化合物、例えば、2−パーフルオロオクチルエタノールや、2−パーフルオロデシルエタノールや、2−パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2−パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどを用いてもよい。
【0035】
さらに、はっ水性を有する化合物5としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF11(CHSi(OCHや、CF(CF15(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH5)や、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCH5)や、CH(CF(CH)8Si(OCH5)3や、CF(CFCONH(CHSi(OCHや、CF(CFCONH(CHSiCH(OCHや、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP−801M(信越化学工業株式会社製)や、X−24−7890(信越化学工業株式会社製)や、パーフルオロブテルビニルエーテルおよびその重合体や、フルオロオレフィン共重合体などを用いてもよい。
【0036】
バインダー成分5は、微粒子層における無機微粒子4a又は高分子微粒子4bに対して、0.1質量%以上40質量%以下添加することが好ましい。0.1質量%未満では無機微粒子4a又は高分子微粒子4bを強固に固定することが十分とはいえず、40質量%をこえると非結晶質のフッ素系被膜の表面に微小な凹凸を形成するという効果が弱くなる。
【0037】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態のスピーカー振動板用フィルム400について図4を用いて詳述する。
【0038】
図4は、本発明の実施形態のスピーカー振動板用フィルム400の断面の一部を拡大した図である。本実施形態のスピーカー振動板用フィルム400は、スピーカー振動板用フィルム400の本体部をなす基体1の表面上にバインダー成分を含む無機微粒子4aからなる微粒子層が形成され、該微粒子層表面には非結晶質のフッ素系被膜2が形成されている。また、無機微粒子4a表面は、シランモノマー6で被覆され、該シランモノマーは化学結合7(共有結合)によって基体1の表面で結合することにより、無機微粒子4aを強固に保持している。なお、図3、図4において、非結晶質のフッ素系被膜2は基体1の表面上に形成されたバインダー成分5を含む無機微粒子4aまたは有機微粒子4bからなる微粒子層全体を被覆している状態で示したが、その一部を被覆していることでもよいことは図1、図2と同様である。
【0039】
さらに、基体1の少なくとも表面の一部を非結晶質のフッ素系被膜で被覆する形態として、無機微粒子4aまたは有機微粒子4bからなる微粒子層の内部に非結晶質のフッ素系樹脂が共存する構造としてもよい。すなわち、基体1の上に、フッ素系皮膜として、無機微粒子とフッ素系皮膜とが混合した被膜が形成されてもよい。この場合でも、帯電性や防塵性などについて同様の効果が得られる。
【0040】
ここで、シランモノマー6が不飽和結合部または反応性官能基を無機微粒子4aの外側に向けて配向して結合する理由について詳述する。これは、シランモノマー6の片末端であるシラノール基が親水性であるため、同じく親水性である無機微粒子4aの表面に引きつけられやすく、一方、逆末端の不飽和結合部または反応性官能基は疎水性であるため、無機微粒子4aの表面から離れようとするからである。このため、シランモノマー2のシラノール基は、無機微粒子4aの表面に脱水縮合反応により共有結合するため、シランモノマー6は不飽和結合部または反応性官能基を外側に向けて配向しやすい。したがって、多くのシランモノマー6については、不飽和結合部または反応性官能基を外側に向けて無機微粒子4aと共有結合することにより、不飽和結合部または反応性官能基と基体1の表面とが化学結合を形成する。
【0041】
すなわち、本実施形態で用いられる無機微粒子4aの微粒子層が形成されたスピーカー振動板用フィルム400は、不飽和結合部または反応性官能基を有する反応性に優れたシランモノマー6を用いることで、基体1と対向する無機微粒子4a表面のシランモノマー6と基体1表面との間で化学結合7を形成することで、無無機微粒子4aを基体1上に固定している。さらに、無機微粒子4a表面のシランモノマー6同士の化学結合7により基体1上の複数の無機微粒子4a同士も結合するため、より強固に無機微粒子4aが基体1に固定される。
【0042】
脱水縮合により無機微粒子4aに共有結合するシランモノマー6が有する不飽和結合部または反応性官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基及びイソシアネート基などが挙げられる。
【0043】
本実施形態で用いられる無機微粒子4aからなる薄膜が形成されたスピーカー振動板用フィルム400で用いられるシランモノマー6の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
これらの無機微粒子4aの表面に被覆されているシランモノマーの量としては、無機微粒子4aに対して、0.1質量%以上、10質量%以下担持されてあればよく、10質量%以上では結合強度はほぼ一定状態となり、0.1質量%以下では十分な強度が得られないので好ましくない。
【0045】
次に、本発明の第4実施形態のスピーカー振動板用フィルム400の製造方法について説明する。まず、シランモノマー6が表面に化学結合している無機微粒子4aをメタノールやエタノール、MEK(methyl ethyl ketone)、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合し、分散させる。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や、塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えるようにしてもよい。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて無機微粒子4aを分散媒中で解砕・分散させ、無機微粒子4aを含むスラリーを作製する。
【0046】
なお、無機微粒子4aと不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマー6との共有結合は通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液にシランモノマー6を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子4aの表面にシランモノマー6を脱水縮合反応により共有結合させてシランモノマー6からなる薄膜を形成する方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー6を加えた後、或いは、シランモノマー6を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー6を無機微粒子4aの表面に脱水縮合反応により共有結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0047】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー6を加えた後、或いは、シランモノマー6を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー6を無機微粒子4aの表面に脱水縮合反応による共有結合させる場合、シランモノマー6の量は、無機微粒子4aの平均粒子径にもよるが、無機微粒子4aの質量に対して0.01%質量から40.0質量%であれば無機微粒子4a同士と基体1との結合強度は実用上問題ない。また、結合に関与しない余剰のシランモノマー6があっても良い。
【0048】
続いて、以上のようにして得られた無機微粒子4aが分散したスラリーを固定する基体1の表面に塗布する。具体的な無機微粒子4aが分散したスラリーの塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャストコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法を用いれば良く、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0049】
そして、必要に応じて、加熱乾燥などで分散媒を除去し、基体1と、無機微粒子4aとを化学結合させる。具体的には、無機微粒子4aの表面のシランモノマー6間で化学結合7を形成させることにより無機微粒子4a同士を結合させるとともに、結合した無機微粒子4aを、シランモノマー6と基体1表面との間の化学結合7を形成させることにより、基体1上に固定させる。
【0050】
本実施形態においては、基体1とシランモノマー6とを化学結合7させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いることが好ましい。
【0051】
実施形態で用いられるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられ、基体やシランモノマーの形状や形態に応じて適宜選択して用いられる。なお、パーオキサイド触媒による処理、熱や光エネルギーによる処理、および放射線による処理によって、無機微粒子4a表面とシランモノマー6間の化学結合を形成させることができる。
【0052】
ここで、シランモノマー6のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、基体1の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などの親水化処理をしてもよい。
【0053】
以上の工程により、基体1に、シランモノマー6により強固に結合した無機微粒子4aからなる微粒子層が形成される。無機微粒子4aはシランモノマー6により強固に基体1に結合しているため、剥がれなどを抑制することができて高い耐久性が維持される。
【0054】
次に、基体1又は形成した微粒子層の上に、非結晶質のフッ素系皮膜2を形成する。非結晶質のフッ素系被膜2は、材料として、例えばサイトップ(商品名:旭硝子株式会社製)や、テフロンAF(「テフロン」は登録商標)(商品名:デュポン株式会社製)や、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)などを用いることができる。これらの非結晶質のフッ素系樹脂は、特定のフッ素系溶剤に可溶であるため、フッ素系樹脂の品種、重合度や固形分濃度、またフッ素系溶剤の種類を選定することにより、溶液の粘度や固形分濃度を広く変えることが可能である。フッ素系被膜2は、浸漬法やスプレー法、スピンコート法などの、薄膜形成に通常用いられる種々の方法で基体1の表面に直接、または無機微粒子4aや有機微粒子4bからなる薄膜が形成された凹凸のある表面に形成する。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
<スピーカー振動板用フィルムの作製>
(実施例1)
PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)に対して、フッ素系皮膜材料としての、CT-solv.100E(旭硝子(株)製)にて希釈したサイトップ(旭硝子(株)製CTL-102AE)を浸漬にて塗布し、100℃で、1分間乾燥して実施例1のスピーカー振動板用フィルムを作製した。
【0057】
(実施例2)
基体をPETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ6.9μm)にした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0058】
(実施例3)
PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)に対して、フッ素系皮膜材料としての、ノベック(住友スリーエム(株)HFE-7200)にて希釈したテフロンAF(「テフロン」は登録商標)(デュポン(株)製AF 1601 SOL FC 100ML 6%)を、浸漬にて塗布し100℃、1分間乾燥した。
【0059】
(実施例4)
基体をエンボス加工を施したフィルムにした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0060】
(実施例5)
無機微粒子であるジルコニア微粒子(日本電工(株)製、PCS)をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-503)を微粒子に対して5.0質量%加えて、pHを4.0に塩酸で調整した後、調整した微粒子を含む溶液をビーズミルにより平均粒子径20nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱してシランモノマーをジルコニア微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。
【0061】
メタノールに上記方法で作製したシランモノマー被覆ジルコニア微粒子を3質量%となるよう加え、シランモノマー被覆ジルコニア微粒子に対して、バインダー成分としてテトラメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-04)を15.0質量%分散し、ビーズミルにより再度粉砕分散してスラリーを生成した。スラリーにおける微粒子の平均粒子径は20nmであった。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0062】
また、PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)の表面をコロナ処理により親水化した後、固形分を5質量%に調整した上記スラリーを塗布し、100℃、1分間乾燥した。
【0063】
その後、スラリーを塗布したPETフィルムに対して電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、酸化ジルコニウム微粒子をシランモノマーのグラフト重合によりPETフィルム表面に結合させた。
【0064】
さらに、得られた無機微粒子薄膜上に、サイトップを浸漬にて塗布し100℃、1分間乾燥した。
【0065】
(実施例6)
高分子微粒子であるPTFE微粒子のメタノール分散液((株) 喜多村製、KD-800AS 粒径0.3μm)を固形分5質量%に調整し、バインダー成分としてフッ素樹脂(セントラル硝子(株)製、セフラルコートCC-04)を微粒子に対して20質量%となるように添加しスラリーを調製した。
【0066】
また、PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)の表面をコロナ処理により親水化した後、調製したスラリーを塗布し、100℃、1分間乾燥した。
【0067】
さらに、得られた高分子微粒子からなる微粒子層上に、サイトップを浸漬にて塗布し100℃、1分間乾燥した。
【0068】
(実施例7)
高分子微粒子であるPTFE微粒子((株) 喜多村製、KT-500L 粒径0.3μm)をノベック(住友スリーエム(株)HFE-7200)に固形分5質量%分散し、バインダー成分としてフッ素樹脂(セントラル硝子(株)製、セフラルコートCC-04)を微粒子に対して15質量%、フッ素系被膜材料としてのサイトップを微粒子に対して5質量%となるように添加しスラリーを調製した。
【0069】
また、PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)の表面をコロナ処理により親水化した後、調製したスラリーを塗布し、100℃、1分間乾燥した。
【0070】
(比較例1)
バインダー成分をPTFE微粒子に対して100質量%にした以外は実施例5と同様の方法で作製した。
【0071】
(比較例2)
アルミ箔(東洋アルミニウム(株)製、厚さ6.0μm)を処理しないままの状態で特性を評価した。
【0072】
(比較例3)
PETフィルム(東レ(株)製、厚さ1.4μm)を処理しないままの状態で特性を評価した。
【0073】
(比較例4)
PVDFフィルム(クレハ(株)製、厚さ4.0μm)を処理しないままの状態で特性を評価した。
【0074】
(比較例5)
基体をPVDFフィルム(クレハ(株)製、厚さ12μm)にした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0075】
以上の実施例及び比較例に対して以下の試験を行って特性を評価した。
【0076】
(電荷量)
電荷量は、それぞれのサンプルを10×10cmの大きさに切り取り、羽毛はたきで試験サンプルを摩擦し帯電させた後、春日電機株式会社製のクーロンメーター(NK-1001)を接続させた静電電荷量測定器(ファラデーケージ型 KQ-1400)を用いて測定した。さらに、測定後、50℃、湿度90%RH(Relative Humidity)の環境下で試験サンプルを1週間放置した後、再度電荷量を測定した。
【0077】
(表面粗さ)
微細凹凸層の表面凹凸状態として算術平均粗さRaを、触針式の表面粗さ計((株)アルバック製DEKTAK3030ST)により測定した。
【0078】
(防塵性)
家庭や建築物の室内、屋内区間における塵埃に比較的類似したコットンリンタ(日本空気清浄協会製 直径1.5μm、長さ1mm以下)を用いて防塵性の評価とした。試験サンプル(10×10cm)に満遍なくコットンリンタを振りかけた後、軽く衝撃を加え、重量を測定してコットンリンタ付着前後の試験サンプルの重量差を測定し評価した。その際、コットンリンタの付着前後に電荷量を測定した。
【0079】
(音出力状態)
それぞれのサンプルを振動板とし、電極をSUS325のメッシュ板、緩衝部材をPET不織布とした静電スピーカを構成した。そのスピーカの音の出力状態を騒音計(NL-20 リオン(株)製)にて評価した。その際、80dB以上の場合は音の出力を(○)とし、40dB以上80dB未満の場合を(△)、40dB未満の場合を(×)として評価した。
【0080】
(応力―歪特性)
JIS K 7127の引張特性の試験方法に従い、測定対象とするフィルムのMD(Machine Directrion:樹脂の流れ方向)及びTD(Transverse Directrion:MD方向に直交する方向)方向に平行に、幅50mm、つかみ間隔200mmとなるようにそれぞれの方向の短冊サンプルを切り出し、試験片とした。引張り試験機RTG―1210(A&D社製)に各々のサンプルをセットし、100mm/分の速度で引張り荷重をかけてゆくときの伸びと引張り荷重の曲線であるS−Sカーブから、降伏点における荷重と伸びとを強度[N]及び伸度[%]として表1に示した。
【0081】
上記評価試験の結果を表1から表3に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】




【0084】
【表3】

【0085】
以上の結果より、実施例1〜6に示すように、非結晶性のフッ素樹脂を含む膜をフィルム表面に形成することで、放電を抑制でき、音の出力が経時的に安定することがわかる。
【0086】
さらに、微小な凹凸形状をフィルム表面に形成し、表面粗さを5nm以上500nm以下とすることで、綿埃の付着を抑制でき、放電を抑制できることが確認された。
【0087】
一方、比較例1〜4に示すように、帯電特性が劣っていたり、あるいは導電性を有する基体の場合、音の出力が低下することがわかる。結晶性のフッ素樹脂であるPVDFフィルムを用いた比較例4は、非結晶性のフッ素樹脂を含む膜をフィルム表面に形成した実施例1〜6に比べ、明らかに放電しやすいことが判る。また、表面粗さが500nm以上である比較例1、3ではコットンリンタが付着しやすく、そのために電荷は容易に放電することで、耐久性が劣ることが確認された。また、比較例5は、単位面積あたりの質量が大きく、帯電させた状態であっても音出力が悪く好ましくない。
【0088】
機械的特性については、高分子フィルム表面に非結晶質のフッ素系被膜を形成した実施例1、3及び5において、高分子フィルムのみの比較例3に比べ、強度が約20〜50%、伸度は4.7〜7.5倍も向上する。機械的特性の改良、特に著しい伸度向上による僅かな電位変化を大きな変位に変換できることと、強度向上による薄膜で軽量なスピーカー振動板用フィルムの実用的な設計が可能となることが確認された。
【0089】
よって、本発明で得られたフィルムは帯電特性に優れ、長期にわたって性能が保持される有用なスピーカ振動板用フィルムであることが確認された。
【符号の説明】
【0090】
100、200、300、400 スピーカー振動板用フィルム
1 基体
2 フッ素系被膜
4a 無機微粒子
4b 高分子微粒子
5 バインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルム表面の少なくとも一部が、非結晶質のフッ素系被膜で被覆されてなり、単位面積当たりの質量が5mg/dm以上150mg/dm以下であることを特徴とするスピーカー振動板用フィルム。
【請求項2】
前記非結晶質のフッ素系被膜で被覆された表面の算術平均粗さRaは5nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスピーカー振動板用フィルム。
【請求項3】
前記高分子フィルム表面と、前記非結晶質のフッ素系被膜との間に、無機微粒子または高分子微粒子を含む微粒子層が形成されることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のスピーカー振動板用フィルム。
【請求項4】
前記無機微粒子および高分子微粒子が誘電体であることを特徴とする請求項3に記載のスピーカー振動板用フィルム。
【請求項5】
前記無機微粒子は、不飽和結合部又は反応性官能基を有するシランモノマーで被覆され、
前記微粒子層内の無機微粒子同士は、互いのシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基が化学結合していることを特徴とする請求項3または4に記載のスピーカー振動板用フィルム。
【請求項6】
前記無機微粒子は、不飽和結合部又は反応性官能基を有するシランモノマーで被覆され、
前記微粒子層内の無機微粒子は、該無機微粒子を被覆するシランモノマーの不飽和結合又は反応性官能基と、前記高分子フィルムと、が化学結合することにより、前記高分子フィルム表面に固定されることを特徴とする請求項3から5のいずれか1つに記載のスピーカー振動板用フィルム。
【請求項7】
前記微粒子層は、撥水性を有するバインダー成分を含むことを特徴とする請求項3から6のいずれか1つに記載のスピーカー振動板用フィルム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−65295(P2012−65295A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210235(P2010−210235)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】