説明

スピーカー用振動板、及びその製造方法

【課題】成形性に優れ、軽量、高剛性、かつ音響特性に関し良好な周波数特性を有するスピーカー用振動板を提供する。
【解決手段】発泡体層と、前記発泡体層の両主面の表層部分において、経糸と緯糸との交点が表面に露出するようにして前記発泡体層と一体化された一対のガラスクロスと、を具えるようにして、スピーカー用振動板を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に平面型スピーカー用として有用なスピーカー用振動板、およびその製造方法に係り、特に成形性に優れ、軽量、高剛性、かつ音響特性に関し良好な周波数特性を有するスピーカー用振動板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカー用振動板について、用途に応じて種々の材料が用いられている。例えば、音響機器のコーン型スピーカーに用いられるスピーカー用振動板の強度不足の改善を目的としてアラミド繊維、カーボン繊維、ガラス繊維などの高強度繊維の織布に、天然繊維、化学繊維を絡めて成形したものが提案されている(特許文献1)。しかしながら、このような振動板は強度が低く、高音域の振動特性が満足できるものではなかった。
【0003】
このため、剛性の高い無機繊維に樹脂含浸してなる織布を予め加熱処理することにより、加熱処理前に無機繊維の織布に付着されている油剤を揮発あるいは分解してなる基布と、この基布と異なり、さらに密度が小さくかつ内部損失の大きな材料を用いた振動板とを接着剤により貼り合わせ、加熱プレスにより互いに固着することによって、高感度で、再生周波数帯域が広く、高調波歪の少ない等の音響特性を有するコーン型スピーカー用振動板を提供することが提案されていた(特許文献2)。しかしながら、このような振動板は樹脂含浸した無機繊維の織布を表面に配しているため、弾性率の低い樹脂層が振動板の表面を覆っていることから、音圧特性が低いという問題があった。
【0004】
このような観点から、高音域の振動特性の改善のため、含浸した熱硬化性樹脂が熱硬化状態となった織布と、この織布の背面側に熱圧着一体化した紙板とを備え、前記織布の織目を表出させることにより、高音域の振動特性に優れたコーン型スピーカー用振動板が提案されている(特許文献3)。しかしながら、熱硬化性樹脂を織布に含浸してプリプレグ状とした後、織布の織目のみを表面側に表出させるように成形することは非常に困難なことであった。
【0005】
また、上述した振動板を平面型スピーカー用として使用する場合、強度が弱く、音域特性を十分に満足させることはできなかった。強度を高くするために、無機繊維織布としてガラス繊維を使用することが考えられる。しかしながら、ガラス繊維の厚さを厚くする必要があり、振動板全体の比重が高くなって、音圧特性の低下を招いてしまうという問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63−70786号公報
【特許文献2】特開2000−92590号公報
【特許文献3】特開2009−21832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、成形性に優れ、軽量、高剛性、かつ音響特性に関し良好な周波数特性を有する、特に平面型スピーカーとして使用可能なスピーカー用振動板、およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、発泡体層と、前記発泡体層の両主面の表層部分において、経糸と緯糸との交点が表面に露出するようにして前記発泡体層と一体化された一対のガラスクロスと、を具えることを特徴とする、スピーカー用振動板に関する。
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、スピーカー用振動板を特定の発泡体層の両主面側に配置したガラスクロス層とからなる構造とし、前記ガラスクロスの経糸と緯糸との交点のみが表面に露出するようにスピーカー用振動板を構成することによって、成形性に優れ、軽量、高剛性で、且つ音響特性に関して良好な周波数特性を有することを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
なお、成形性、軽量性、高剛性は、上述したスピーカー用振動板を構成する材料組成に起因すると考えられるが、周波数特性は、ガラスクロスの経糸と緯糸との交点のみが表面に露出することに起因すると考えられる。但し、その詳細な作用効果については現状のところ、明確にされていない。
【0011】
なお、本発明の一例において、発泡体層は、熱硬化性樹脂及び中空球状無機物質を含む母材と、この母材中に内包された、熱可塑性樹脂からなる外郭内に揮発性液体発泡剤が収容されてなる熱膨張性マイクロカプセルとを含む発泡性樹脂組成物からなり、前記発泡性樹脂組成物中の、前記中空球状無機物質の含有量が1質量%〜60質量%であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が1質量%〜10質量%であることが好ましい。上述のような要件を満足する発泡性樹脂組成物を用いることによって、上述した構成のスピーカー用振動板を簡易に形成することができる。
【0012】
また、本発明のその他の例において、上記中空球状無機物質は、ガラスバルーン、シラスバルーン、及びシリカ−アルミナバルーンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの物質を用いることによって、上記中空球状無機物質を簡易に形成することができる。
【0013】
本発明のさらにその他の例において、上記熱膨張性マイクロカプセルは、未膨張の状態での平均粒径が2μm〜50μmであることが好ましい。これによって、以下に詳述する製造方法で上述したスピーカー用振動板を製造する際に、上述した構成のスピーカー用振動板を簡易に形成することができるとともに、表面平滑性などの特性劣化を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の他の例において、上記熱膨張性マイクロカプセルは、膨張開始温度が70℃〜150℃であり、最大膨張温度が150℃〜200℃であることが好ましい。
【0015】
膨張開始温度を前者の範囲に設定することによって、上記発泡性樹脂組成物の調整時に上記熱膨張性マイクロカプセルが膨張することがなく、成形等によってスピーカー用振動板を形成する際の温度で膨張が開始するようになるので、上記スピーカー用振動板製造の際に不具合を生じることがない。
【0016】
さらに、最大熱膨張温度を後者の範囲に設定することによって、形成時の最大温度、すなわち以下に詳述するように、発泡体層とガラスクロスとを一体化する際の温度において、発泡体層中の上記熱膨張性マイクロカプセルの膨張度合いを設計通りにすることができる。すなわち、形成時の温度を利用して、熱膨張性マイクロカプセルの膨張度合いを設計通りにすることができるので、熱膨張性マイクロカプセルの膨張度合いを設計通りにするために別途熱処理等を行う必要がない。したがって、スピーカー用振動板を製造する際の製造工程を簡略化することができる。
【0017】
さらに、本発明のその他の例において、前記振動板の密度が0.2g/cm〜1・0g/cmであり、弾性率が3GPa〜15GPaであることが好ましい。このような特性の範囲にすることによって、良好な周波数特性を示し、音響特性に優れるようになる。なお、これら物性値と音響特性との関係については現在のところ明確ではない。
【0018】
本発明のスピーカー用振動板は、任意の方法によって製造することができるが、例えば、以下に示すような製造方法によって製造することができる。
【0019】
すなわち、一対のガラスクロス間に、熱硬化性樹脂及び中空球状無機物質を含む母材と、この母材中に内包された、熱可塑性樹脂からなる外郭内に揮発性液体発泡剤が収容されてなる熱膨張性マイクロカプセルとを含み、前記中空球状無機物質の含有量が1質量%〜60質量%であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が1質量%〜10質量%である発泡性樹脂組成物を配置する第1の工程と、前記一対のガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を、前記熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張開始温度以上に加熱し、前記発泡性樹脂組成物を発泡させるとともに、前記一対のガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を、前記一対のガラスクロスの経糸と緯糸との交点が表面に露出するようにして融着させる第2の工程と、を具えることを特徴とする、スピーカー用振動板の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軽量、高剛性、かつ音響特性に関し良好な周波数特性を有するスピーカー用振動板を提供することができる。また、本発明によれば、このような特性に優れるスピーカー用振動板を容易に製造するための製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態におけるスピーカー用振動板の平面図である。
【図2】図1に示すスピーカー用振動板をA−A線に沿って切った場合の断面図である。
【図3】図1に示すスピーカー用振動板をB−B線に沿って切った場合の断面図である。
【図4】実施形態におけるスピーカー用振動板の製造方法に関する説明図である。
【図5】実施形態におけるスピーカー用振動板の製造方法に関する説明図である。
【図6】実施例および比較例のスピーカー用振動板の出力音圧周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例のスピーカー用振動板の出力音圧周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(スピーカー用振動板)
図1は、本実施形態におけるスピーカー用振動板の平面図であり、図2は、図1に示すスピーカー用振動板をA−A線に沿って切った場合の断面図であり、図3は、図1に示すスピーカー用振動板をB−B線に沿って切った場合の断面図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、本実施形態のスピーカー用振動板1は、発泡体層2と、この発泡体層2の両主面側に配置された一対のガラスクロス3とを有するものであり、各ガラスクロス3の経糸と緯糸の交点3A及び3Bが表面及び裏面に露出してなるものである。なお、図1では、一方の主面側の状態を示している。
【0025】
本実施形態では、スピーカー用振動板を特定の発泡体層の両主面側に配置したガラスクロス層とからなる構造とし、前記ガラスクロスの経糸と緯糸との交点のみが表面に露出するようにスピーカー用振動板を構成することによって、成形性に優れ、軽量、高剛性で、且つ音響特性に関して良好な周波数特性を有する。
【0026】
なお、成形性、軽量性、高剛性は、上述したスピーカー用振動板を構成する材料組成に起因すると考えられるが、周波数特性は、ガラスクロスの経糸と緯糸との交点のみが表面に露出することに起因すると考えられる。但し、その詳細な作用効果については現状のところ、明確にされていない。
【0027】
使用するガラス繊維については特に限定されないが、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Rガラスなどの高強度ガラスクロスが好ましく使用できる。ガラス繊維の集束数については特に限定されないが、通常使用される100本から200本が好ましく使用できる。
【0028】
ガラスクロスの織り密度は1インチ当たり10本から100本が好ましく、さらに好ましくは20本から60本である。織り密度が1インチ当たり10本よりも少ないと振動板の弾性率が低くなり、また100本よりも多いと振動板の比重が増加することにより、何れも音圧特性が悪くなるため好ましくない。
【0029】
ガラスクロスの経糸と緯糸の比率は、表面に露出させるべき交点密度に応じて適宜決定する。例えば、0.4−1.5の範囲、好ましくは0.8−1.3の範囲が望ましい。0.4−1.5の範囲を外れると織布の密度が粗、或いは密になりすぎるため音圧特性が悪くなるため場合がある。
【0030】
ガラスクロスの織りについては特に限定されないが、有効な交点密度が高いことから、平織りが特に好ましい。すなわち、平織りとすることによって、所望の数の交点密度を簡易に形成することができる。
【0031】
ガラスクロスの厚さは特に限定されないが、振動板の全厚さに対して2.5%から25%が好ましい。ガラスクロスの厚さが、2.5%よりも薄いと弾性率が低く、25%よりも厚いと弾性率は高くなるが重量増により、何れも音圧特性が悪くなるため好ましくない。ガラスクロスを以上の範囲とすることによって適正な弾性率を有する振動板を得ることが出来る。
【0032】
発泡体層2は、例えば熱硬化性樹脂及び中空球状無機物質を含む母材と、この母材中に内包された、熱可塑性樹脂からなる外郭内に揮発性液体発泡剤が収容されてなる熱膨張性マイクロカプセルとを含む発泡性樹脂組成物からなり、前記発泡性樹脂組成物中の、前記中空球状無機物質の含有量が1質量%〜60質量%であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が1質量%〜10質量%であることが好ましい。上述のような要件を満足する発泡性樹脂組成物を用いることによって、上述した構成のスピーカー用振動板を簡易に形成することができる。なお、上記発泡性樹脂組成物の詳細については以下に説明する通りである。
【0033】
発泡性樹脂組成物における熱硬化性樹脂は、少なくともエポキシ樹脂を含有するものであればよく、例えばエポキシ樹脂のみからなるものであってもよいし、また例えばエポキシ樹脂とこれ以外の熱硬化性樹脂とからなるものであってもよい。
【0034】
エポキシ樹脂としては、1分子に2個以上のエポキシ基を含有するものが好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD(アセトアルデヒド)型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0035】
また、これらのエポキシ樹脂に他の族または型のエポキシ樹脂を混合した混合物、もしくはこれらの相互反応物を用いることもできる。他の族または型のエポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、含複素環エポキシ樹脂、水添型(水素添加型)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、芳香族、脂肪族、もしくは脂環式のカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂、スピロ環型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0036】
一方、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0037】
このような熱硬化性樹脂に対応して、発泡性樹脂組成物には熱硬化性樹脂と反応して硬化物を生成し得る硬化剤を含有させることが好ましい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂と反応して硬化物を生成し得るものであれば特に制限されるものではなく、例えばエポキシ樹脂の硬化剤として、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等の酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール樹脂、無水フタル酸誘導体、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、アルミニウムキレート、BFのようなルイス酸のアミン錯体等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0038】
硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂の種類、硬化剤の種類等によっても異なるものの、例えばエポキシ樹脂については、そのエポキシ当量によっても異なるものの、エポキシ樹脂100質量部に対して、通常2質量部〜150質量部とすることが好ましい。
【0039】
中空球状無機物質は、発泡体層2の軽量化等を目的として加えられるものであり、各種の無機質バルーン、例えばガラスバルーン、シラスバルーン、フライアッシュ、シリカ−アルミナバルーン等のセラミックバルーンが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、特にガラスバルーンを用いることが好ましい。これらの物質は、入手が容易であって、上述の中空球状無機物質を簡易に構成することができる。
【0040】
中空球状無機物質の平均粒径は30μm〜150μmとすることが好ましい。中空球状無機物質の平均粒径が150μmを超える場合、スピーカー用振動板1を得るための形成時に壊れやすく、また発泡体層2の表面が粗くなるために好ましくない。また、中空球状無機物質の平均粒径が30μm未満の場合、発泡性樹脂組成物の成形性が低下するためにスピーカー用振動板1の製造が困難となり、また発泡体層2における単位体積あたりの含有量が多くなるために軽量化が困難となるおそれがある。
【0041】
中空球状無機物質の含有量は、発泡性樹脂組成物の全体中、1質量%以上60質量%以下であり、好ましくは5質量%以上50質量%以下である。中空球状無機物質の含有量が1質量%未満の場合、発泡体層2の軽量化、高剛性化が困難となるおそれがあり、60質量%を超えると、発泡性樹脂組成物の成形性が低下し、熱膨張性マイクロカプセルの含有量が相対的に少なくなり、その熱膨張も阻害するおそれがある。
【0042】
中空球状無機物質の見かけ密度は0.2g/cm〜0.7g/cmであることが好ましい。中空球状無機物質の見かけ密度が0.2g/cm未満の場合、スピーカー用振動板1を得るための成形時に壊れやすく、また0.7g/cmを超えると、発泡体層2の軽量化が困難となるおそれがある。中空球状無機物質の見かけ密度を上記範囲内とすることで、発泡性樹脂組成物の成形性を良好にしつつ、発泡体層2を軽量、高剛性なものとすることができる。
【0043】
なお、上記中空球状無機物質は、熱硬化性樹脂との密着性を向上させる観点から表面処理されていることが好ましい。表面処理剤としては、例えば有機シラン化合物、有機チタネート化合物、または有機アルミネート化合物が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0044】
有機シラン化合物としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0045】
有機チタネート化合物としては、例えばテトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレングリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。また、有機アルミネート化合物としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピネート等が挙げられる。
【0046】
中空球状無機物質の表面処理は、通常の方法によって行うことができ、例えば水または各種の有機溶剤に表面処理剤を溶解し、これに中空球状無機物質を浸漬し、乾燥させてもよいし、また例えばヘンシェルミキサー等のミキサー中で中空球状無機物質を加熱攪拌しつつ、水または各種の有機溶剤に表面処理剤を溶解したものを少しずつ添加するようにしてもよい。
【0047】
発泡性樹脂組成物を構成する熱膨張性マイクロカプセル(図2及び3では、膨張後のン熱膨張性マイクロカプセルを符号“6”で示している)は、形成時にその熱により膨張するものであり、スピーカー用振動板1を軽量化しつつ、高剛性、かつ、上述のように、ガラスクロス3の経糸と緯糸の交点3A及び3Bが表面及び裏面に露出させて、音響特性に関し良好な周波数特性を有するものとするために加えられるものである。
【0048】
熱膨張性マイクロカプセルは、揮発性液体発泡剤と、この揮発性液体発泡剤を内部に収容する熱可塑性樹脂により構成される外殻とからなるものである。具体的には、振動板を形成する際の加熱温度で揮発する揮発性液体発泡剤を該温度で軟化する熱可塑性樹脂からなる外殻で包んだものである。このようなものとすることで、形成時にその熱により適切に膨張させることができ、これにより発泡性樹脂組成物を発泡状態とすることができる。
【0049】
このように形成時の温度で適切に膨張させる観点から、熱膨張性マイクロカプセル、すなわち揮発性液体発泡剤と外殻との合計量中の揮発性液体発泡剤の含有量は5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0050】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は70℃以上であることが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が70℃未満であると、例えば発泡性樹脂組成物の調製時、具体的には混合、混練時に熱膨張性マイクロカプセルが膨張するおそれがある。なお、形成時の温度で適切に膨張させる観点から、熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は150℃以下であることが好ましい。
【0051】
したがって、熱可塑性樹脂は、形成時の温度で適切に軟化して、内部に収容された揮発性液体発泡剤の揮発膨張によって膨張するようなものであることが必要であり、例えば70℃〜150℃の温度で軟化するものが好ましい。また、外殻を構成する熱可塑性樹脂は、形成時の熱膨張によって破裂せず、カプセル状態を維持することができるように、形成時の温度で十分に大きな粘性を有するものが好ましい。
【0052】
このような条件を満たすものとしては、例えば塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタアクリトニトリル、もしくはメチルメタクリレートの重合体、またはこれらの二種以上の共重合体、例えば塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、これらの一種以上とハロゲン化ビニル、スチレン系モノマー、酢酸ビニル、ブタジエン、ビニルピリジン、クロロプレンをはじめとする種々の単量体との共重合体が挙げられる。
【0053】
この熱可塑性樹脂は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート等の架橋剤で架橋または架橋可能とされていてもよい。これらの熱可塑性樹脂中でも、特に熱膨張開始温度および最大膨張温度が高い(メタ)アクリロニトリルのホモポリマーまたは(メタ)アクリロニトリル含有量の高い共重合体が好適に用いられる。
【0054】
揮発性液体発泡剤としては、常温では液体で、形成時の温度で気化するイソブタン、イソペンタン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ネオペンタン、ヘキサン等が挙げられるが、これらの中でもイソブタン、イソペンタン等の低沸点炭化水素が好適なものとして挙げられる。
【0055】
揮発性液体発泡剤としては上記以外のものも用いることができ、例えばジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の特定のフレオン類や、代替フレオン類、石油エーテルのような炭化水素類、塩化メチル、塩化メチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロルエチレン等の塩素化炭化水素等が挙げられるが、必ずしもこれらのものに限られるものではない。
【0056】
熱膨張性マイクロカプセル(外殻)の平均粒径は未膨張の状態で2μm〜50μmが好ましく、より好ましくは5μm〜40μm、さらに好ましくは10μm〜30μm以下である。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径が上記範囲よりも小さい場合、形成時の膨張率や膨張力が十分でなくなるおそれがあり、また上記範囲よりも大きい場合、形成時の膨張率や膨張力が大きくなりすぎるために、得られる発泡体層2の表面平滑性が低下するおそれがあり、またスピーカー用振動板1の機械的強度も十分でなくなるおそれがある。
【0057】
さらに、熱膨張性マイクロカプセルの最大膨張温度、すなわち熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が最大となるときの温度は150℃〜200℃であることが好ましい。本実施形態は、上述したように、発泡体層2及びガラスクロス3からなるため、形成時の最大温度、すなわち発泡体層2とガラスクロス3とを一体化する際の温度である150℃〜200℃において、熱膨張性マイクロカプセルの膨張度合いを設計通りにすることができるので、熱膨張性マイクロカプセルの膨張度合いを設計通りにするために別途熱処理等を行う必要がない。したがって、スピーカー用振動板を製造する際の製造工程を簡略化することができる。
【0058】
なお、膨張開始温度、最大膨張温度の測定は、例えば熱膨張性マイクロカプセルを円筒形のアルミニウム容器等に入れ、TMA(TAインスツルメンツ社製)を用いて上から加圧端子により力を加えた状態で昇温し、加圧端子の垂直方向における変位量を測定することにより行うことができ、変位が観測され始めた温度を膨張開始温度とし、最大変位量となった温度を最大膨張温度とすることができる。
【0059】
このような未膨張の熱膨張性マイクロカプセルとしては、市販されているものを好適に用いることができ、例えばエクスパンセル[EXPANCEL](日本フィライト社製)が挙げられる。これは、外殻が上記した塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体またはアクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合体等からなり、揮発性液体発泡剤がイソブタンまたはイソペンタン等からなるものである。
【0060】
具体的には、商品番号642、551、461(外殻;塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、揮発性液体発泡剤;イソブタン、熱膨張開始温度;約90℃(商品番号642)、約100℃(商品番号551)、約110℃(商品番号461))、商品番号091、092(外殻;アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合体、揮発性液体発泡剤;イソペンタン、熱膨張開始温度;約130℃)等が挙げられる。これらは、最大約4倍程度の大きさに膨張するため、体積にすると約60倍程度に膨張する。
【0061】
熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、発泡性樹脂組成物の全体中、1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。熱膨張性マイクロカプセルの含有量が上記範囲よりも少ない場合、形成時の膨張率や膨張力が十分でなくなるおそれがあり、また熱膨張性マイクロカプセルの含有量が上記範囲よりも多い場合、形成時の膨張率や膨張力が大きくなりすぎるために、スピーカー用振動板1の機械的強度が十分でなくなるおそれがある。
【0062】
発泡性樹脂組成物には、上述した熱硬化性樹脂等に加えて、かつ本発明の趣旨に反しない限度において、その他の成分、例えば無機充填剤、カップリング剤、消泡剤、着色剤、硬化促進剤、形状維持剤等を含有させることができる。
【0063】
無機充填剤としては、例えばシリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。無機充填剤の粒径は、発泡性樹脂組成物の流動性等の点から平均粒径が0.1μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜30μmであることがより好ましい。
【0064】
発泡性樹脂組成物の調製は、公知の樹脂組成物の調製方法を適用して行うことができ、例えば熱硬化性樹脂、中空球状無機物質、および熱膨張性マイクロカプセルの他、必要に応じて添加されるその他の成分を配合して、混合、混練することにより行うことができる。なお、発泡性樹脂組成物を調製するための混合、混練においては、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張開始温度よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0065】
このような発泡性樹脂組成物を発泡させて得られる発泡体層2は、例えば厚さが100μm〜5000μmであることが好ましい。また、発泡体層2の発泡倍率は2〜10であることが好ましい。発泡倍率が上記範囲よりも小さくなると、発泡体層2の比重が過度に大きくなるおそれがあり、上記範囲を超えて大きくなると、発泡体層2の剛性が十分でなくなるおそれがある。
【0066】
ここで、発泡倍率は、熱膨張性マイクロカプセルを熱膨張させていないいわゆる未発泡の発泡体層2の密度と、熱膨張性マイクロカプセルを熱膨張させた発泡済みの発泡体層2の密度とから、「未発泡の発泡体層2の密度/発泡済みの発泡体層2の密度」により求められるものである。なお、発泡倍率の調整は、例えば熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径、含有量等を調整することによって、また例えば形成条件、具体的には成形温度、成形時間、成形圧力、成形金型のクリアランス等を調整することによって行うことができる。
【0067】
また、このような発泡体層2と被覆層3とからなるスピーカー用振動板1は、軽量、高剛性、かつ音響特性に関し良好な周波数特性を有するものとする観点から、密度が0.2g/cm〜1.0g/cmであることが好ましく、弾性率(曲げ弾性率)が2GPa〜15GPaであることが好ましく、さらに好ましくは4GPa〜10GPaである。
【0068】
(スピーカー用振動板の製造方法)
次に、図1〜図3に示すスピーカー用振動板1の製造方法について説明する。
【0069】
図4は、上記製造方法の一例を示したものである。この製造方法では、上下一対の成形用金型11、12を用い、まずその対向する内面11a、12a上にそれぞれ一対のガラスクロス3を配置する。この際、ガラスクロス3が例えば金属箔等のシート状のものの場合には、内面11a、12aに貼り付けるようにすることで配置することができ、また例えばガラスクロス3が熱硬化性コーティング材のように塗料状のものの場合には、内面11a、12aに塗布するようにすることで配置することができる。
【0070】
その後、成形用金型11、12において、内面11a,12a上に対向配置されたこの一対のガラスクロス3の間に発泡体層2となる発泡性樹脂組成物2aを配置する。なお、発泡性樹脂組成物2aは、このように成形用金型11、12の内部に一対のガラスクロス3を配置した後、この一対のガラスクロス3の少なくとも一方に塗布してもよいし、成形用金型11、12内に注入等により配置してもよい。また、成形用金型11、12内に配置する以前に、発泡性樹脂組成物2aを一対のガラスクロス3で狭持した積層体を準備し、この積層体を成形用金型11、12内に配置して、以下に示すような熱プレス成形に供することもできる。
【0071】
そして、発泡性樹脂組成物2aと一対のガラスクロス3とが内部に配置された成形用金型11、12を加熱、加圧することにより熱プレス成形する。この加熱により、熱膨張性マイクロカプセルが熱膨張して発泡状態の発泡体層2が得られると共に、この発泡体層2によって一対のガラスクロス3が接着されることにより一体化されてスピーカー用振動板1を得ることができる。
【0072】
成形用金型11、12としては、例えば平型金型、ドーム型金型、エッジ金型等を用いることができ、このようなものの中からスピーカー用振動板1の形状等に合わせて適宜選択して用いることができる。また、成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の公知の成形方法を適用することができ、これらの中でも発泡性樹脂組成物2aと一対のガラスクロス3とからサンドイッチ構造のスピーカー用振動板1を容易に得る観点から圧縮成形が好適に用いられる。
【0073】
成形条件、すなわち成形温度、成形圧力、成形時間、金型クリアランス等は、必ずしも限定されるものではなく適宜設定することができるが、発泡性樹脂組成物2aを適切に発泡させる観点から、好ましくは成形温度が150℃〜200℃、成形圧力が1MPa以上350MPa以下、成形時間が1分以上20分以下、金型クリアランスが0.6mm以上1mm以下である。
【0074】
また、スピーカー用振動板1の製造方法としては、発泡性樹脂組成物2aと一対のガラスクロス3とを連続的に一体化する連続成形法を適用してもよく、例えばロールラミネート法やダブルベルトプレス法等の連続ラミネート法を適用してもよい。
【0075】
図5は、ダブルベルトプレス法による製造方法の一例を示したものである。この製造方法に用いるラミネート装置21は、上下一組の回転するスチールベルト22を有しており、それらが対向する比較的に幅の狭い部分が発泡性樹脂組成物2aと一対のガラスクロス3とを加熱、加圧して一体化するためのラミネート部23となっている。
【0076】
一組のスチールベルト22は、図中矢印で示すように、ラミネート部23においてそれぞれ右側から左側へと移動するように構成されている。また、ローラー25によって保持されるとともに、ローラー25において向きを変えながら、所定の方向に連続して移動できるように構成されている。
【0077】
ラミネート部23のクリアランス、すなわちラミネート部23における一組のスチールベルト22の対向する表面間の間隔は、最終的に得ようとするスピーカー用振動板1の厚さ、具体的には発泡体層2やガラスクロス3の厚さによっても異なるものの、例えば0.1mm以上2mm以下である。
【0078】
ラミネート部23における加熱は、全体を一様な温度としてもよいが、発泡性樹脂組成物2a等の導入側(図中、右側)から順に徐々に温度を上昇させることが好ましく、例えば図示するように導入側から順に低温領域、高温領域とすることが好ましい。低温領域は、例えば発泡性樹脂組成物2aを発泡させ、一組のガラスクロス3を貼り合わせると共に、この発泡性樹脂組成物2aの表面を平滑化する観点から、70℃〜150℃とすることが好ましい。また、高温領域は、発泡性樹脂組成物2aを硬化させて全体を完全に一体化する観点から、150℃〜200℃とすることが好ましい。
【0079】
このようなラミネート装置21については、ラミネート部23における一組のスチールベルト22に引き込まれるようにして図中右側より一対のガラスクロス3が連続的に導入される。また、このラミネート装置21に導入される一対のガラスクロス3の間には図示しない塗布装置等によって発泡性樹脂組成物2aが連続的に導入される。
【0080】
そして、このように一対のガラスクロス3の間に発泡性樹脂組成物2aが配置されたものは、まずラミネート部23における低温領域を通過させることで、例えば発泡性樹脂組成物2aを発泡させ、一対のガラスクロス3を貼り合わせると共に、この発泡性樹脂組成物2aの表面を平滑化する。その後、さらに高温領域を通過させ、必要に応じて加圧することで、例えば発泡性樹脂組成物2aを硬化させて全体を完全に一体化するとともに、発泡性樹脂組成物2aを最大限に発泡させる。このようにして発泡性樹脂組成物2aと一対のガラスクロス3とが一体化されたものは、所望の形状に切断することで最終的なスピーカー用振動板1とすることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明について、実施例を参照して詳細に説明する。
【0082】
(実施例1)
最初に、以下に示すような割合で各成分を配合し、混練機を用いて回転数60rpmで10分間の混練を行い発泡性樹脂組成物[1]を調製した。各成分の投入順序は、以下に記載される通りの順序で行った。なお、各成分の投入順序は、必ずしもこのような投入順序に限定されるものではない。
【0083】
樹脂組成物[1]
(1)エポキシ樹脂: 100質量部
(2)硬化剤: 35質量部
(3)中空球状無機物質: 54質量部
(4)熱膨張性マイクロカプセル: 4質量部
【0084】
各成分の詳細は以下に示す通りである。
・エポキシ樹脂:JER807(商品名)、ジャパンエポキシレジン社製
・硬化剤:TCG3049B(商品名)、京セラケミカル社製
・中空球状無機物質:
K−37(商品名)、住友3M社製、ガラスバルーン、平均粒径50μm、見かけ密度0.37g/cm3
・熱膨張性マイクロカプセル:
(053)DU40(商品名)、日本フィライト社製、平均粒径15μm、膨張開始温度100℃、最大膨張温度160℃
【0085】
次に、平型金型の両金型内面に離型剤を塗布した後、一対のガラスクロスとしてAS1067(旭化成エレクトロニクス社製、商品名、公称厚さ30μm)を配置し、さらに該ガラスクロスの間に上記した発泡性樹脂組成物[1]を導入し、温度160〜180℃、圧力5MPaの条件で30分間の熱圧プレス成形を行い、厚さ0.4mmのスピーカー用振動板を製造した。
【0086】
(実施例2)
樹脂組成物[2]を使用した以外は、実施例1と同様にして厚さ0.4mmのスピーカー用振動板を製造した。
樹脂組成物[2]
(1)エポキシ樹脂: 100質量部
(2)硬化剤: 33質量部
(3)中空球状無機物質: 150質量部
【0087】
(実施例3)
ガラスクロスとしてAS2116(旭化成エレクトロニクス社製、商品名、公称厚さ100μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして厚さ0.4mmのスピーカー用振動板を製造した。
【0088】
(比較例1)
上述したガラスクロスの代わりに、厚さ45μmのガラスエポキシプリプレグTLP−551(京セラケミカル社製、商品名)を用いた以外は実施例1と同様にしてスピーカー用振動板を製造した。
【0089】
(比較例2)
上述したガラスクロスの代わりに、厚さ30μmの高分子フィルム(カプトンEN(商品名)、東レデュポン社製)を用いた以外は実施例1と同様にしてスピーカー用振動板を製造した。
【0090】
次に、上記した実施例および比較例の各スピーカー用振動板について、以下の特性評価を行った。結果を表1、図6、7に示す。
【0091】
(密度)
各スピーカー用振動板の密度をJIS K6758に準拠して測定した。
(弾性率)
各スピーカー用振動板の曲げ弾性率を熱分析(DMA)法により測定した。
(比弾性率)
上記した弾性率と密度とから、「弾性率/密度」により算出した。
(出力音圧周波数特性)
実施例1〜3、及び比較例1、2のスピーカー用振動板について、それぞれ同様のスピーカーに組み込み、日本オーディオ社製のレスポンスチェッカーを用いて音圧の周波数特性を取得した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、発泡体層の両主面にガラスクロスを配して、さらに経糸と緯糸の交点を露出するようにして作製した実施例のスピーカー用振動板は、経糸と緯糸の交点が露出していない比較例のスピーカー用振動板と比較して比弾性率が高く、また図6,7に示すように高音域における出力も高く、良好な出力音圧周波数特性が得られることがわかる。
【0094】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 スピーカー用振動板
2 発泡体層
2a 発泡性樹脂組成物
3 ガラスクロス
6 (熱膨張後の)熱膨張性マイクロカプセル
11、12 成形用金型、
11a、12a 成形用金型の内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体層と、
前記発泡体層の両主面の表層部分において、経糸と緯糸との交点が表面に露出するようにして前記発泡体層と一体化された一対のガラスクロスと、
を具えることを特徴とする、スピーカー用振動板。
【請求項2】
前記発泡体層は、熱硬化性樹脂及び中空球状無機物質を含む母材と、この母材中に内包された、熱可塑性樹脂からなる外郭内に揮発性液体発泡剤が収容されてなる熱膨張性マイクロカプセルとを含む発泡性樹脂組成物からなり、
前記発泡性樹脂組成物中の、前記中空球状無機物質の含有量が1質量%〜60質量%であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が1質量%〜10質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のスピーカー用振動板。
【請求項3】
前記中空球状無機物質は、ガラスバルーン、シラスバルーン、及びシリカ−アルミナバルーンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のスピーカー用振動板。
【請求項4】
前記熱膨張性マイクロカプセルは、未膨張の状態での平均粒径が2μm〜50μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のスピーカー用振動板。
【請求項5】
前記熱膨張性マイクロカプセルは、膨張開始温度が70℃〜150℃であり、最大膨張温度が150℃〜200℃であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のスピーカー用振動板。
【請求項6】
前記振動板の密度が0.2g/cm〜1・0g/cmであり、弾性率が3GPa〜15GPaであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載のスピーカー用振動板。
【請求項7】
一対のガラスクロス間に、熱硬化性樹脂及び中空球状無機物質を含む母材と、この母材中に内包された、熱可塑性樹脂からなる外郭内に揮発性液体発泡剤が収容されてなる熱膨張性マイクロカプセルとを含み、前記中空球状無機物質の含有量が1質量%〜60質量%であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が1質量%〜10質量%である発泡性樹脂組成物を配置する第1の工程と、
前記一対のガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を、前記熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張開始温度以上に加熱し、前記発泡性樹脂組成物を発泡させるとともに、前記一対のガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を、前記一対のガラスクロスの経糸と緯糸との交点が表面に露出するようにして融着させる第2の工程と、
を具えることを特徴とする、スピーカー用振動板の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、成形用金型の相対向する内面上に前記ガラスクロスをそれぞれ配置する工程と、前記成形用金型内の、相対向して配置された前記ガラスクロスによって形成された空間に前記発泡性樹脂組成物を配置する工程とを含み、
前記第2の工程は、前記成形用金型を前記熱膨張開始温度以上に加熱するとともに、前記成形用金型で前記ガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を加圧する工程を含むことを特徴とする、請求項7に記載のスピーカー用振動板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の工程は、一対の成形用ベルト間に形成された空隙内に、前記発泡性樹脂組成物と、この発泡性樹脂組成物を挟み込むようにして、前記一対のガラスクロスを供給する工程を含み、
前記第2の工程は、前記空隙内で前記発泡性樹脂組成物を前記熱膨張開始温度以上に加熱するとともに、前記一対の成形用ベルトで前記ガラスクロス及び前記発泡性樹脂組成物を加圧する工程を含むことを特徴とする、請求項7に記載のスピーカー用振動板の製造方法。
【請求項10】
前記熱膨張開始温度は、70℃〜150℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載のスピーカー用振動板の製造方法。
【請求項11】
前記発泡性樹脂組成物を最大限に膨張させる第3の工程を具えることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一に記載のスピーカー用振動板の製造方法。
【請求項12】
前記第3の工程は、前記発泡性樹脂組成物を150℃〜200℃に加熱して実施することを特徴とする、請求項11に記載のスピーカー用振動板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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