説明

スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法

【課題】 ニワトリの表皮から、純度の高いスフィンゴミエリン、特にヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、簡単な操作で収率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 (A)鶏皮粉末から総脂質を抽出し、乾燥処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた乾燥総脂質を、脂肪族炭化水素系溶剤と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、スフィンゴミエリンを主体とする不溶部と、可溶部とに分離する工程、(C)前記(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部を、水と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、可溶部に含まれる非脂質成分を除去する工程、(D)前記(B)工程で得られた可溶部を乾燥処理後、水溶性ケトン系溶剤で抽出処理し、プラズマローゲン型グリセロリン脂質を主体とする不溶部を分離回収する工程、を含むことを特徴とするスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニワトリの表皮から、機能性食品素材、医薬品素材、化粧品素材などとして有用なスフィンゴミエリン、特にヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、簡単な操作で収率よく製造する方法、並びにこの方法で得られたスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂質とは、分子中に長鎖脂肪酸または類似の炭化水素鎖をもち、生体内に存在するか、生物に由来する物質を指す。この脂質は、単純脂質と複合脂質に分類することができる。単純脂質は、C、HおよびOより構成され、一般にアセトンに可溶で、単純脂質のトリアシルグリセロールは動物体では、脂肪組織にエネルギーの貯蔵体として存在する。一方、複合脂質は、リン酸のPや塩基のNなどを含む脂質群である。したがって、複合脂質は、疎水性部分(脂肪酸部分)と親水性部分(リン酸や塩基の部分)からなり、両親媒性を示し、一般的には、前記単純脂質がアセトンに可溶であるのに対し、複合脂質はアセトンに不溶である。このような複合脂質は生体膜の構成成分となっている。
【0003】
前記複合脂質は、(1)グリセロリン脂質[ホスファチジルコリン(別名レシチン)、ホスファチジルエタノールアミンなどが属する。]、(2)スフィンゴリン脂質(スフィンゴミエリン、セラミドシリアチンなどが属する。)、(3)スフィンゴ糖脂質(セレブロシド、スルファチド、ガングリオシドなどが属する。)、および(4)グロセロ糖脂質(微生物や高等植物に存在するジアシルグリセロールに種々の糖が結合したものなどがある。)に大別することができる。なお、前記(2)スフィンゴリン脂質および(3)のスフィンゴ糖脂質を総称してスフィンゴ脂質と呼ばれる。
【0004】
前記グリセロリン脂質は、グリセロリン酸を骨格にもつリン脂質の総称で、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ジホスフィチジルグリセロールなどがある。このグリセロリン脂質は、非極性部分が脂肪酸のエステルであるものが多いがビニルエーテル結合をもつプラズマローゲン型のものもある。
【0005】
このグリセロリン脂質は、生体膜の構成成分として重要であるが、中でもプラズマローゲン型のグリセロリン脂質は、ビニルエーテル結合のラジカル感受性が高いため、抗酸化性を有するリン脂質として、近年注目されている。最近、プラズマローゲン型グリセロリン脂質が、細胞膜の抗酸化性分であるα−トコフェロール(ビタミンE)とは異なった機構により、コレステロールを含むリン脂質膜の酸化安定性に寄与していることが報告されており(例えば、非特許文献1参照。)、またプラズマローゲン型グリセロリン脂質は、細胞膜やリポタンパク質の抗酸化性に関与するだけでなく、細胞の情報伝達システムに重要な役割を有することが指摘されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
このようなプラズマローゲン型グリセロリン脂質は、痴呆症における脳の神経細胞死を防止する作用が期待されているが、安全で大量に入手可能な供給源は見当たらないのが実状である。
【0007】
一方、スフィンゴ脂質は、スフィンゴシンなどの長鎖塩基をもつ脂質の総称で、前述したように主としてスフィンゴ糖脂質とスフィンゴリン脂質からなる。スフィンゴ糖脂質は、糖と長鎖脂肪酸の外に、長鎖塩基であるスフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシン、その他を含むものである。最も単純なスフィンゴ糖脂質は、セレブロシドであるが、さらにそれに硫酸基のついたスルファチド、中性糖が数分子ついたセラミドオリゴヘキソシド、シアル酸のついたガングリオシドなどがある。これらの物質は、細胞表層に存在し、認識機構に関与するものと考えられている。
【0008】
スフィンゴリン脂質は、セラミド1−リン酸の誘導体とセラミド1−ホスホン酸の誘導体に分けられ、前者ではスフィンゴミエリン、後者ではセラミドシリアチン(セラミドアミノエチルホスホン酸)がよく知られている。
【0009】
これらのスフィンゴ脂質は、近年、その分解代謝物であるセラミド、スフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸などが細胞内の情報伝達に関与することが明らかにされ、注目されている。また、スフィンゴ脂質は、コレステロールなどとともに、「ラフト」と呼ばれる膜微小ドメインの形成に関与し、この微小ドメインが情報伝達の場として重要な役割を果たすことが明らかにされてきたことにより、ますます注目の度を増している。
【0010】
このようなスフィンゴ脂質は、従来牛脳から抽出され、利用されていたが、安全性の問題から、現在穀物や真菌由来のものが利用されている。しかしながら、これらの穀物や真菌由来のスフィンゴ脂質を構成するスフィンゴイド塩基組成は、哺乳動物のものとは異なるため、ヒト型のスフィンゴ脂質と比べて生体利用性が低いという問題があった。
【0011】
ところで、食品、動物組織などの総脂質から比較的多量のスフィンゴミエリンを製造するためには、ケイ酸などを使用したカラムクロマトグラフィーで段階的に溶出して製造するか、あるいは、溶媒分画法で段階的に分画して製造されている。いずれも、複雑な手順が必要である。溶媒分画法では総脂質にアセトンを加えて複合脂質(リン脂質)を沈殿させ(不溶部)、その不溶部をエーテルで洗ってグリセロリン脂質を除いたものを粗スフィンゴ脂質画分とする方法が一般的である。この画分にはスフィンゴミエリンだけでなくセレブロシドなどのスフィンゴ糖脂質も含まれる。
【0012】
一方、鶏皮のリン脂質には、ヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン資質が多く含まれていることが知られている。
【非特許文献1】「J.Lipid Res.」、第44巻、第164〜171頁(2003年)
【非特許文献2】「J.Mol.Neurosci.」、第16巻、263〜272頁;discussion 279〜284頁(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情のもとで、ニワトリの表皮から、純度の高いスフィンゴミエリン、特にヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、簡単な操作で収率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、鶏皮粉末に特定の工程を施すことにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) (A)鶏皮粉末から総脂質を抽出し、乾燥処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた乾燥総脂質を、脂肪族炭化水素系溶剤と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、スフィンゴミエリンを主体とする不溶部と、可溶部とに分離する工程、(C)前記(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部を、水と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、可溶部に含まれる非脂質成分を除去する工程、(D)前記(B)工程で得られた可溶部を乾燥処理後、水溶性ケトン系溶剤で抽出処理し、プラズマローゲン型グリセロリン脂質を主体とする不溶部を分離回収する工程、を含むことを特徴とするスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法、
(2) (B)工程における混合溶剤が、n−ヘキサンとアセトンとを容量比4:6〜6:4の割合で含み、かつその使用量が、乾燥総脂質1g当たり、10〜30mLである上記(1)項に記載の方法、
(3) (C)工程における水溶性ケトン系溶剤がアセトンであり、水とアセトンとを容量比3:7〜7:3の割合で含み、かつその使用量が、(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部の乾燥処理物1g当たり、10〜30mLである上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) (D)工程における水溶性ケトン系溶剤がアセトンであり、その使用量が、(B)工程で得られた可溶部の乾燥処理物1g当たり、10〜30mLである上記(1)または(2)項に記載の方法、
(5) 上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法を用いて得られたことを特徴とするスフィンゴミエリン、および
(6) 上記(1)、(2)または(4)項に記載の方法を用いて得られたことを特徴とするプラズマローゲン型グリセロリン脂質、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ニワトリの表皮から、機能性食品素材、医薬品素材、化粧品素材などとして有用なスフィンゴミエリン、特にヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、簡単な操作で収率よく製造する方法、並びにこの方法で得られたスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法は、以下に示す(A)工程、(B)工程、(C)工程および(D)工程から構成されている。
[(A)工程]
この(A)工程は、鶏皮粉末から総脂質を抽出し、乾燥処理する工程である。当該(A)工程においては、まず、鶏皮粉末を調製するが、その場合、ニワトリ表皮をそのまま粉末化してもよいし、必要に応じ、脱脂処理し、脂肪分をある程度除去したのち、粉末化してもよい。ニワトリ表皮の脱脂処理には、機械的方法、温水浸漬加熱方法、直接加熱方法、脂肪族炭化水素系溶媒(n−ヘキサン)による方法などを採用することができる。
【0018】
次いで、このようにして得られた鶏皮粉末から、溶剤を用いて、総脂質を抽出し、乾燥処理して、乾燥総脂質を得る。総脂質の抽出に用いる溶剤としては、食品衛生上安全であって、かつ抽出効率のよいものが用いられる。このような溶剤としては、特にエタノールが好適である。この抽出処理は、常法に従って行うことができる。ただし、この抽出工程ではエタノール可溶の非脂質成分も抽出される。
【0019】
抽出液は、常法に従い、ロータリエバポレーターなどを用いて溶剤を留去させることにより、あるいは窒素ガスを導入することなどにより、乾燥総脂質が得られる。
[(B)工程]
この(B)工程は、前記(A)工程で得られた乾燥総脂質を、脂肪族炭化水素系溶剤と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、スフィンゴミエリンを主体とする不溶部(以下、粗スフィンゴミエリンと称することがある。)と、可溶部とに分離する工程である。
【0020】
当該(B)工程において、乾燥総脂質の抽出処理に用いられる混合溶剤の一成分である脂肪族系炭化水素系溶剤としては、例えばn−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、これらの中でn−ヘキサンが好適である。
【0021】
まて、前記混合溶剤の他方の成分である水溶性ケトン系溶剤としては、例えばアセトンおよび/またはメチルエチルケトンなどを用いることができるが、これらの中でアセトンが好適である。
【0022】
混合溶剤として、n−ヘキサンとアセトンとの混合物を用いる場合、その割合は、容量比で4:6〜6:4が好ましく、4.5:5.5〜5.5:4.5がより好ましい。
【0023】
また、この混合溶剤の使用量は、乾燥総脂質1g当たり、通常10〜30mL程度である。この混合溶剤の量が10mL未満では、抽出処理を十分に行うことができず、不溶部中のスフィンゴミエリンの純度低下や回収率の低下を招くおそれがある。一方30mLを超えると、その量の割にはスフィンゴミエリンの純度や回収率の向上効果が発揮されにくい。混合溶剤の好ましい使用量は、乾燥総脂質1g当たり、15〜25mLである。抽出処理は常法に従って行うことができる。
【0024】
抽出処理液は、遠心分離処理を施すことにより、可溶部とスフィンゴミエリンを主体とする不溶部に分離することができる。
【0025】
[(C)工程]
この(C)工程は、前記(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部を、水と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、可溶部に含まれる非脂質成分を除去する工程である。
【0026】
前記(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部の粗スフィンゴミエリンの純度は、通常40質量%以上である。この粗スフィンゴミエリン中には、通常スフィンゴミエリン以外に、ホスファチジルコリンが6質量%以下の割合で混入しているが、その他のリン脂質は混入されにくい。
【0027】
この(C)工程における水溶性ケトン系溶剤としてはアセトンが好ましく、混合溶剤として水とアセトンを用いる場合、その容量比は、3:7〜7:3が好ましく、5:5がより好ましい。また、この混合溶剤の使用量は、(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部の乾燥処理物1g当たり、10〜30mL程度である。
【0028】
抽出処理液は、遠心分離処理を施すことにより、可溶部とスフィンゴミエリンを主体とする不溶部に分離することができる。その後、不溶部に残存する水分は、アセトン処理により除去することができる。この粗スフィンゴミエリンの純度は、通常70%質量以上である。この粗スフィンゴミエリン中には、通常スフィンゴミエリン以外に、ホスファチジルコリンが12%質量以下の割合で混入しているが、その他のリン脂質は混入されにくい。
[(D)工程]
この(D)工程は、前記(B)工程で得られた可溶部を乾燥処理後、水溶性ケトン系溶剤で抽出処理し、プラズマローゲン型グリセロリン脂質を主体とする不溶部(以下、粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質と称することがある。)を分離回収する工程である。
【0029】
当該(D)工程においては、まず、前記(B)工程で得られた可溶部を、常法に従って乾燥処理する。例えばロータリエバポレーターを用いて、前記可溶部中の混合溶剤を留去させる方法などを用いることができる。次いで、このようにして得られた乾燥処理物を、水溶性ケトン系溶剤により、常法に従って抽出処理する。この際使用する水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンおよび/またはメチルエチルケトンを挙げることができるが、アセトンが好適である。
【0030】
抽出溶剤としてアセトンを使用する場合、乾燥処理物1g当たり、通常10〜30mL程度である。溶剤の使用量が10mL未満では、抽出処理を十分に行うことができず、不溶部中のプラズマローゲン型グリセロリン脂質の純度低下や回収率の低下を招くおそれがある。一方30mLを超えると、その量の割にはプラズマローゲン型グリセロリン脂質の純度や回収率の向上効果が発揮されにくい。溶剤の好ましい使用量は、乾燥処理物1g当たり、15〜25mLである。
【0031】
抽出処理液は、遠心分離処理を施すことにより、可溶部とプラズマローゲン型グリセロリン脂質を主体とする不溶部(粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質)に分離することができる。不溶部におけるプラズマローゲン型グリセロリン脂質の量は、通常40質量%以上である。
【0032】
このような本発明の方法によれば、鶏皮の総脂質から、簡単な手段によって、スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、高い純度で収率よく製造することができる。
【0033】
本発明の方法によれば、鶏皮の乾燥粉末から、通常、粗スフィンゴミエリンを0.25〜0.40質量%程度、および粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質を1.2〜2.0質量%程度の割合で得ることができる。
【0034】
スフィンゴミエリンは、セラミドの第一級アルコール性ヒドロキシル基とコリンリン酸がリン酸ジエステル結合したもので、下記の式(I)
【0035】
【化1】

【0036】
(式中、R−COは脂肪酸残基を示す。)
の構造を有し、通常動物体の脳組織のみならず、臓器組織にも広く存在する。
【0037】
本発明の方法で得られるニワトリ表皮由来のスフィンゴミエリンを構成するスフィンゴイド塩基は、大部分が4−トランス−スフィンゲニン(スフィンゴシン)であることから、当該スフィンゴミエリンは、生体利用性の高いヒト型スフィンゴミエリンである。
【0038】
スフィンゴミエリンは、その分解代謝物であるセラミド、スフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸などが脂肪内の情報伝達に関与することが明らかにされており、またコレステロールなどとともに、「ラフト」と呼ばれる膜微小ドメインの形成に関与し、この微小ドメインが情報伝達の場として重要な役割を果たすことが明らかにされている。さらに、スフィンゴミエリンは、皮膚の保湿効果や大腸がん予防効果などが期待されている。
【0039】
一方、本発明の方法で得られる粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質には、主としてホスファチジルエタノールアミン(PE)が含まれており、一部ホスファチジルコリン(PC)が含まれている。前記PEは、約80質量%がプラズマローゲン型であり、またPCにも約30質量%のプラズマローゲン型が含まれている。
【0040】
下記の式(II)および式(III)に、それぞれジアシル型グリセロリン脂質およびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の構造を示す。
【0041】
【化2】

【0042】
R1、R2=長鎖肪肪族基

【0043】
通常のグリセロリン脂質(レシチン)は、式(II)で示されるようにグリセロールのsn−1(1位)に脂肪酸アシル基とのエステル結合をもつが、プラズマローゲン型は、式(III)で示されるようにグリセロールのsn−1にアルケニル基をもつビニルエーテル結合を有している。
【0044】
なお、Xがアミノエチル基である場合、ホスファチジルエタノールアミンであり、Xがトリメチルアミノエチル基である場合、ホスファチジルコリンである。
【0045】
前記プラズマローゲン型グリセロリン脂質は、ビニルエーテル結合のラジカル感受性が高いため抗酸化性リン脂質として注目されており、コレステロールを含むリン脂質膜の酸化安定性に寄与していることが知られている。またプラズマローゲン型グリセロリン脂質は、細胞膜やリポタンパク質の抗酸化性に関与するだけでなく、細胞の情報伝達システムに重要な役割を有することが指摘されている。このようなプラズマローゲン型グリセロリン脂質は、痴呆症における脳の神経細胞死を防止する作用や、アテローム性動脈硬化症の発症予防効果などが期待されている。
【0046】
本発明はまた、前述した本発明の方法を用いて得られたことを特徴とするスフィンゴミエリン、およびプラズマローゲン型グリセロリン脂質をも提供する。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
鶏皮の凍結乾燥粉末400gを、抽出溶剤としてエタノール1000mLを用いて抽出処理したのち、抽出液をロータリエバポレーターにより乾燥して、総脂質80gを得た。
【0048】
次いで、この乾燥総脂質に、その1g当たり、20mLのn−ヘキサン/アセトン(容量比1/1)混合溶剤を加え、氷冷下に1時間抽出処理した。その後、抽出処理液を、1000Gにて10分間遠心処理して上清の可溶部と沈殿物(不溶部)を分離した。該沈殿物に1g当たり50%アセトン水溶液20mLを添加してよく撹拌し、その後、1500Gにて10分間遠心処理して上清の不溶部と沈殿物(不溶部)を分離した。さらに、沈殿物にはその1g当たり20mLのアセトンを添加して撹拌後、1500Gにて10分間遠心処理して上清の不溶部と沈殿物(不溶部)を分離した。この沈殿物はほとんどがスフィンゴミエリンであった(粗スフィンゴミエリン)。
【0049】
次に、前記可溶部をロータリエバポレーターにより乾燥して得られた乾燥物に、その1g当たり、20mLのアセトンを加えて抽出処理した。その後、抽出処理液を、1000Gにて10分間遠心処理して、上清の可溶部と沈殿物(不溶部)を分離した。不溶部として、スフィンゴミエリンが除かれたリン脂質が得られ、その大部分はプラズマローゲン型グリセロリン脂質であった(粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質)。
【0050】
このようにして、鶏皮の乾燥粉末から、粗スフィンゴミエリンおよび粗プラズマローゲン型グリセロリン脂質(以下、単に粗プラズマローゲンということがある。)を得た場合、8回の実験の結果、鶏皮の乾燥粉末40gから、総脂質25.6±2.8g、中性脂肪20.5±3.4gが得られ、粗プラズマローゲンの回収率は0.65±0.09g、粗スフィンゴミエリンの回収量は0.13±0.02gであった。
【0051】
図1は、各操作で得られた物質のUV−205nm検出クロマトグラム並びにELSD検出クロマトグラムであり、鶏皮の総脂質からアセトン(1g/20mL)のみで沈殿させるとすべてのリン脂質が沈殿するが、総脂質をn−ヘキサン・アセトン(1:1)(1g/20mL)で1回処理して得られる沈殿物を50%アセトン水溶液で抽出するとスフィンゴミエリンがほぼ選択的に沈殿していることを示している(粗スフィンゴミエリン)。ELSD検出クロマトグラムではこの粗スフィンゴミエリンには約11質量%のホスファチジルコリンが混入しているが、その他のリン脂質は検出されない。さらに、ヘキサン・アセトン(1:1)で沈殿させた後、その上清(可溶部)を乾燥後アセトン(1g/20mL)で処理すると総リン脂質からスフィンゴミエリンの大部分が除かれたリン脂質が沈殿することを示している(粗プラズマローゲン)。
【0052】
図2は、上記の方法で得た粗プラズマローゲンおよびその塩酸処理後のUV−205nm検出クロマトグラム並びにELSD検出クロマトグラムである。
【0053】
UV−205nm検出クロマトグラムから計算するとPEの約80質量%およびPCの約30質量%はプラズマローゲンであることを示している。
(注。ELSD、エバポレイト光散乱;UV、紫外線;PC、ホスフィチジルコリン;SM、スフィンゴミエリン;PE、ホスファチジルエタノールアミン;PS、ホスファチジルセリン;PI、ホスフィチジルイニシトール;LPC、リゾホスファチジルコリン;LPE、リゾホスファチジルエタノールアミン)。
【0054】
このように、総脂質をその1g当たり、ヘキサン・アセトン(1:1)で1g当たり20mLで処理して得られる沈殿物を1g当たり50%アセトン水溶液20mLで抽出すると不溶部(沈殿物)は大部分がスフィンゴミエリンである。さらにヘキサン・アセトン可溶部を乾燥後、乾燥処理物をその1g当たり、アセトン20mLで処理した不溶部からプラズマローゲンが回収できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法によれば、機能性食品素材、医薬品素材、化粧品素材などとして有用なスフィンゴミエリン、特にヒト型スフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質を、簡単な操作で収率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】各操作で得られた物質のUV−205nm検出クロマトグラム並びにELSD検出クロマトグラムである。
【図2】本発明の方法で得られた粗プラズマローゲンおよびその塩酸処理後のUV−205nm検出クロマトグラム並びにELSD検出クロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鶏皮粉末から総脂質を抽出し、乾燥処理する工程、(B)前記(A)工程で得られた乾燥総脂質を、脂肪族炭化水素系溶剤と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、スフィンゴミエリンを主体とする不溶部と、可溶部とに分離する工程、(C)前記(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部を、水と水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、可溶部に含まれる非脂質成分を除去する工程、(D)前記(B)工程で得られた可溶部を乾燥処理後、水溶性ケトン系溶剤で抽出処理し、プラズマローゲン型グリセロリン脂質を主体とする不溶部を分離回収する工程、を含むことを特徴とするスフィンゴミエリンおよびプラズマローゲン型グリセロリン脂質の製造方法。
【請求項2】
(B)工程における混合溶剤が、n−ヘキサンとアセトンとを容量比4:6〜6:4の割合で含み、かつその使用量が、乾燥総脂質1g当たり、10〜30mLである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(C)工程における水溶性ケトン系溶剤がアセトンであり、水とアセトンとを容量比3:7〜7:3の割合で含み、かつその使用量が、(B)工程で得られたスフィンゴミエリンを主体とする不溶部の乾燥処理物1g当たり、10〜30mLである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(D)工程における水溶性ケトン系溶剤がアセトンであり、その使用量が、(B)工程で得られた可溶部の乾燥処理物1g当たり、10〜30mLである請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を用いて得られたことを特徴とするスフィンゴミエリン。
【請求項6】
請求項1、2または4に記載の方法を用いて得られたことを特徴とするプラズマローゲン型グリセロリン脂質。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−179588(P2008−179588A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16056(P2007−16056)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(599046254)有限会社梅田事務所 (11)
【Fターム(参考)】