説明

スプロケット及びそれを用いた自動二輪車

【課題】軽量且つ耐久性に優れ、しかもチェーンへの攻撃性を低減し得るスプロケット及びそれを用いた自動二輪車を提供する。
【解決手段】スプロケット6を構成するスプロケット金属板の厚さT1が、スプロケットに噛み合うチェーン7の平行な内プレート10の間隔巾T2よりも薄く、かつスプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯部20が該波型形状の波の頂部22の外端部に形成され、該スプロケット歯部20がチェーン7に適正に噛み合うように、スプロケット歯部20における波型形状の厚さT3がチェーン7の平行な内プレート10の間隔巾T2に整合され、各スプロケット歯部20の表裏面の外端側をチェーン7の内プレート10間の内方側へ傾斜された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に好適な巻掛伝動装置のスプロケット及びそれを用いた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動二輪車や自転車或いは種々の産業機械の動力伝達系において、チェーンとスプロケットとを用いた巻掛伝動装置が広く採用されている。また、チェーン及びスプロケットの形状やサイズに関しては、JIS規格のJISB1801、JISB1802に夫々規定されている。
【0003】
前記スプロケットにおいては、素材の使用量を少なくしてその製作コストを安価にするためや、自動二輪車等においては、車体重量の軽減や、加速時における応答性などの改善のため、所定の配列で複数の軽減孔が形成され、スプロケットの重量が軽減されたものも実用化されている。また、自動二輪車の後輪側に設けられるスプロケットは、外部に露出させることも多く、軽減孔の形状により自動二輪車の外観、意匠が大きく左右されるので、軽減孔の形状やサイズに関しても多数の提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、スプロケットの重量を極力軽減するため、スプロケットを構成するスプロケット金属板の厚さが、スプロケットに噛み合うチェーンの平行な内プレートの間隔巾よりも薄く、かつスプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯部が該波型形状の波の頂部の外端部に形成され、該スプロケット歯部がチェーンに適正に噛み合うように、スプロケット歯部における波型形状の厚さがチェーンの平行な内プレートの間隔巾に整合されるように構成され、スプロケット金属板の板厚が従来のスプロケットの1/2に設定された、チェーンに対してガタなく円滑に噛合するスプロケットが記載されている(特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−110806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1記載のスプロケットでは、チェーンとスプロケットとの噛合関係を良好に維持するため、表面側に配置されるスプロケット歯部の表面と、裏面側に配置されるスプロケット歯部の裏面に対して切削加工或いはプレス加工を施して、従来のスプロケットと同様にスプロケット歯部の表裏面に対して面取りを行っていたが、このように構成すると、スプロケット歯部がスプロケットの回転中心と略直交する方向に延設されることから、チェーンラインが精確に張設されていなかった場合や、チェーンラインが緩んでいる場合や、チェーンが伸長してチェーンが緩んだ状態でスプロケットに対して巻掛伝動するとき、スプロケット歯部の歯先がチェーンの平行な内プレートの間隔巾に対してスムーズに噛合わなく接触、衝突したりすることがあるので、チェーンの平行な内プレートに対してスプロケット歯部の歯先が適正に噛み合うように、また平行なプレート間隔巾に対して適正に整合させることが望まれていた。特にスプロケットやチェーンの耐久性が向上することが期待されている。
【0007】
本発明の目的は、スプロケット金属板の板厚が薄く、スプロケットが軽量化され、スプロケット歯部の損傷や摩耗が効果的に防止されスプロケットの耐久性が向上されるとともに、チェーンがスプロケット歯部にスムーズに噛み合うことができ、回転エネルギーのロスが少なくなると共にチェーンへの攻撃性が低減され得るスプロケット及びそれを用いた自動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスプロケットは、スプロケットを構成するスプロケット金属板の厚さが、スプロケットに噛み合うチェーンの平行な内プレートの間隔巾よりも薄く、かつスプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯部が該波型形状の波の頂部の外端部に形成され、該スプロケット歯部がチェーンに適正に噛み合うように、スプロケット歯部における波型形状の厚さがチェーンの平行な内プレートの間隔巾に整合され、各スプロケット歯部の表裏面の外端側がチェーンの内プレート間の内方側へ傾斜されたものである。
【0009】
このスプロケットにおいては、スプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯部が該波型形状の波の頂部の外端部に形成され、該スプロケット歯部がチェーンに適正に噛み合うように、スプロケット歯部における波型形状の厚さがチェーンの平行な内プレートの間隔巾に整合され、各スプロケット歯部の表裏面の外端側がチェーンの内プレート間の内方側へ傾斜されているので、スプロケット歯部は、チェーンの平行な内プレート間においてローラに、ローラの一端側と他端側とに交互に噛み合いながら、スプロケットとチェーン間において動力を伝達することになる。このため、チェーンの形状や強度に応じてスプロケット金属板を薄肉に構成することができ、スプロケットの大幅な軽量化が可能となる。また、波型形状に形成されたスプロケット金属板の外周部により、スプロケット全体の捩じれに対する強度、剛性が高くなって、スプロケットの耐久性や信頼性を向上でき、しかもスプロケットの回転により波型形状部分が空気を切るので、スプロケットの温度上昇が抑制されて、温度上昇による強度低下も効果的に防止できる。更に、スプロケットの使用途中で外面に付着した泥水等は、スプロケットの回転による遠心力でスプロケットとチェーンとの噛合部分へ移動することになるが、波型形状部分の溝に沿って泥水等が外部へ効率的に排出されるので、スプロケットとチェーン間に泥水等が噛み込まれることが防止され、スプロケット及びチェーンの耐久性が向上する。更にまた、各スプロケット歯部の表裏面の外端側をチェーンの内プレート間の内方側へ傾斜させているので、チェーンラインが精確に張設されていなかった場合や、チェーンが緩んでいる場合や、チェーンが伸長してチェーンが緩んだ状態でスプロケットに対して巻掛伝動するとき、スプロケット歯部の歯先がチェーンの平行な内プレートの間隔巾に対してスムーズに噛み合わなく接触、衝突したり、横ぶれがすることがなく、チェーンの平行な内プレートに対してスプロケット歯部の歯先が適正に噛み合うようになり、スプロケット歯部とチェーンとの噛み合い関係を良好に維持することが可能となる。その結果、スプロケット歯部の歯先の損傷や摩耗が効果的に防止でき、スプロケット歯部の弾性変形が抑制され、チェーンの外れが防止されるとともにスプロケット歯部でチェーンが傷つけられることが防止され、スプロケットやチェーンの耐久性が向上できる。
【0010】
ここで、前記スプロケット金属板の厚さは、チェーンの形状、強度等に応じて任意に設定可能で、例えば波型形状の厚さに対して4/5〜1/10に設定できる。尚、波型形状の厚さとは、金属板の外周部を周方向に沿って表裏に交互に突出させた波型形状における、表面側の波の頂部と、裏面側の波の頂部間における、スプロケットの厚さ方向(軸方向)の間隔を意味する。
【0011】
前記各スプロケット歯部の表裏面の外端側が、テーパー状に傾斜されることもでき、また湾曲状に傾斜されることもできる。また、スプロケット歯部の表裏面の外端側の傾斜は、プレス加工により行うこともできるし、切削加工により傾斜させることもできる。
【0012】
前記スプロケット歯部の歯数は、波型形状部分における波のピッチを同一ピッチに設定して、スプロケットの外観、意匠性を向上することができることから偶数歯に構成することが好ましいが、波型形状部分における少なくとも1つの波のピッチが他の波のピッチと異なるように構成され、スプロケット歯部の少なくとも1つが、波型形状の波の途中部の外端部に形成されて、奇数歯に構成することもできる。具体的には、波型形状部分における少なくとも1つの波のピッチが他の波のピッチの2倍に設定され、この波型部分に関しては波の途中部の外端部にスプロケット歯部が形成されることになる。
【0013】
前記スプロケット金属板の中央部に、取付用シャフトに嵌入される芯孔が形成され、取付用シャフトの取付面に対面するスプロケット金属板の取付面に、波型形状の一側面の頂部を含む面内に位置する凸部面が形成されるものも好ましい実施の形態である。このように構成すると、スプロケットのボス部の凸部面を取付用シャフトの取付部に対面して重ね合わせ固定することができ、取付用シャフトとスプロケット歯部の軸方向の位置関係を従来のスプロケットと同じに設定した状態で使用できるので、軸方向に位置調整することなく、既存のスプロケットに代えて本発明のスプロケットを組み付けることができる。
【0014】
前記スプロケット金属板の素材としては、素材コストや製作コストを考慮すると炭素鋼板を用いることが好ましいが、ステンレス鋼板を用い、少なくともスプロケット歯部を反りや変形を防止するように焼入れすることも好ましい実施の形態である。
【0015】
前記スプロケットは、自転車やゴーカート等にも適用できるが、耐久性及び信頼性、軽量化に対する要求が厳しい、自動二輪車に好適に適用できる。
【0016】
本発明に係る自動二輪車は、請求項1乃至9のいずれかに記載のスプロケットを用いたものである。自動二輪車においては、エンジンからの駆動力を伝達するためのスプロケット及びチェーンの耐久性及び信頼性、軽量化に対する要求が厳しいことから、本発明に係るスプロケットが好適に適用される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスプロケットによれば、チェーンの形状や強度に応じてスプロケット金属板が薄肉に構成されることができ、スプロケットの大幅な軽量化が可能となること、波型形状に形成されたスプロケット金属板の外周部により、スプロケット全体の捩じれに対する強度、剛性が高くなって、スプロケットの耐久性や信頼性が向上できるとともに、温度上昇による強度低下が効果的に防止できること、スプロケットとチェーン間に泥水等が噛み込まれることが防止され、スプロケット及びチェーンの耐久性が向上できること、更に各スプロケット歯部の表裏面の外端側がチェーンの内プレート間の内方側へ傾斜されているので、チェーンラインが精確に張設されていなかった場合や、チェーンが緩んでいる場合や、チェーンが伸長してチェーンが緩んだ状態でスプロケットに対して巻掛伝動するとき、スプロケット歯部の歯先がチェーンの平行な内プレートの間隔巾に対してスムーズに噛合わなく接触、衝突したり、横ぶれすることがなくなり、チェーンの平行な内プレートに対してスプロケット歯部の歯先が適正に噛み合うようになり、スプロケット歯部とチェーンとの噛み合い関係を良好に維持することが可能となる。その結果、スプロケット歯部の歯先の損傷や摩耗が効果的に防止でき、スプロケット歯部の弾性変形が抑制され、チェーンの外れが防止できるとともにスプロケット歯部でチェーンが傷つけられることが防止され、スプロケットやチェーンの耐久性が向上できる。
【0018】
また、本発明に係るスプロケットを用いた自動二輪車によれば、スプロケットとチェーンとからなる動力伝達系として、軽量で且つ耐久性及び信頼性に優れた動力伝達系を備えた自動二輪車を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、自動二輪車1のエンジン2の出力軸3には駆動スプロケット4が設けられ、後輪5には従動スプロケット6が設けられ、両スプロケット4、6にはチェーン7が張設され、エンジン2からの出力は、駆動スプロケット4とチェーン7と従動スプロケット6を経て後輪5に伝達されるように構成されている。本実施の形態では、このような構成の巻掛伝動装置を備えたオフロードタイプの自動二輪車1の駆動スプロケット4に本発明を適用した場合について説明するが、オンドードタイプの自動二輪車の駆動スプロケットに対しても本発明を同様に適用できる。
【0020】
チェーン7は、図2、図8に示すように、内外に平行配置される1対の内プレート10及び1対の外プレート11と、両内プレート10の両端部間に配置したローラ12と、ローラ12を挿通して内プレート10と外プレート11とを回動自在に連結するリンクピン13とを備え、内プレート10と外プレート11とをリンクピン13で無端ループ状に交互に連結した周知の構成のものである。
【0021】
従動スプロケット(以下、単にスプロケットと称する。)6は、図2〜図8に示すように、金属板をプレス成形により製作したものである。スプロケット6を構成するスプロケット金属板の素材としては、スプロケット6の少なくともスプロケット歯部20に対してステンレス鋼板または炭素鋼板を用いることになる。特に、ステンレス鋼板からなるスプロケット金属板は、変態点温度以上に加熱した後、10℃/分以上で50℃/分以下の緩やかな冷却速度、例えば常温にて緩やかに冷却することにより焼入れ処理を施すことができ、炭素鋼板のように変態点以上に加熱後、急冷する必要がないので、スプロケット6の歪や反りを少なくすることができるので好ましい。特に軽量化を図るために軽減孔28を形成する場合には、スプロケット素材の強度、剛性が優れ、簡単な焼入れ処理により最高の硬度剛性にすることが望まれるので、焼入れ処理をしたステンレス鋼板は硬度剛性に優れるため、これを用いることが好ましい。ステンレス金属板の焼入れ処理は、一般的な手法で行うことができ、例えば高周波加熱コイルにより、スプロケット金属板を加熱して行うことができる。焼入れは、スプロケット歯部20のみに施すこともできるし、スプロケット6全体に施すこともできる。尚、スプロケット6は、プレス成形以外に鋳造や鍛造等により製作することもできる。
【0022】
図2〜図8に示すように、スプロケット金属板の厚さT1は、スプロケット6に噛み合うチェーン7の平行な内プレート10の間隔巾T2よりも薄く設定されている。具体的には、スプロケット金属板の厚さT1は、内プレート10の間隔巾T2の4/5以上では重量軽減のメリットが十分に得られず、1/10以下では強度が十分に確保できないので、4/5〜1/10、好ましくは4/5〜1/5に設定されている。図2〜図8に示すスプロケット6では、スプロケット金属板の厚さT1を内プレート10の間隔巾T2の約1/2に設定したものを開示している。スプロケット金属板の厚さT1は、全体にわたって一様な板厚に設定することが、製作コストを低減する上で好ましいが、例えばスプロケット歯部20の板厚のみが他の部分よりも厚肉になるように構成したものを用いることも可能である。
【0023】
スプロケット金属板の外周部には、周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされた波型部21が形成され、波型部21の各波の頂部22及び頂部22から隣接する頂部22に至る傾斜部23は半径方向に放射状に配置されている。波型部21の外周部には、頂部22の外端部が歯先20aとなり、傾斜部23の外端部の途中部が歯底20bとなるように複数のスプロケット歯部20が形成され、スプロケット歯部20がチェーン7に適正に噛み合うように、スプロケット歯部20における波型部21の厚さT3が、チェーン7の平行な内プレート10の間隔巾T2よりもやや薄くなって適正なクリアランスが確保されるように整合されている。スプロケット歯部20の歯数は、図3に示すスプロケット6では42個に設定したが、エンジン出力等に応じて任意の個数に設定でき、また波型部21の形成範囲は、図3に示すスプロケット6では、スプロケット6の外端部から中央部側へ向けて半径の約2/5の範囲に形成したが、少なくとも外周部にスプロケット歯部20を形成可能な範囲であれば任意の範囲に設定できる。
【0024】
各スプロケット歯部20の表面20F及び裏面20Rは、スプロケット歯部20を曲げ加工することにより、外端側がチェーン7の内プレート10間の内方側へ傾斜された、テーパー状又は湾曲状の傾斜面に構成されている。表面側へ突出するスプロケット歯部20の表面20Fと、裏面側へ突出するスプロケット歯部20の裏面20Rとは、同じ方向に傾斜したテーパー状又は湾曲状に形成され、各スプロケット歯部20の厚さが、歯元から歯先20aにわたって一様な厚さとなるように構成されている。表裏面20F、20Rは、スプロケット歯部20がチェーン7に対して良好に噛合するように、テーパー状に形成する場合には、スプロケット6の回転中心と直交する方向に対する傾斜角度を、例えば20°〜30°に設定することになり、湾曲状に形成する場合には、例えばその曲率半径を10mm〜25mmに設定することになる。また、テーパー状と湾曲状の両者を組み合わせた形状に形成することも可能である。更に、スプロケット歯部20の半径方向の全長に亙ってテーパー状や湾曲状に形成したり、半径方向の途中部よりも歯先側においてテーパー状や湾曲状に形成することもできる。
【0025】
スプロケット歯部20の加工は、別途に行うことも可能であるが、スプロケット金属板に対してスプロケット歯部20や軽減孔28を形成するための金型で、スプロケット歯部20や軽減孔28と同時にプレス成形することが、作業工程数を少なくする上で好ましい。このようにスプロケット歯部20に対して曲げ加工を施すと、歯先20aにおいても十分な強度剛性が確保され、歯先20aの損傷を防止できる。一方それに伴いチェーン7の損傷も防止できる。加えて、スプロケット6の表裏への歯先20aの弾性変形並びに塑性変形も抑制され、弾性変形によるチェーン7とスプロケット6の噛み合わせ不良を防止して、スプロケット歯部20によりチェーン7が傷つけられるという不具合を防止できるとともに、自動二輪車などにおいてはその走行時における振動で、スプロケット6からのチェーン7が脱落するという不具合も効果的に防止でき、走行安定性が図れる。但し、表面側へ突出するスプロケット歯部20の表面20Fと、裏面側へ突出するスプロケット歯部20の裏面20Rとは、傾斜面に加えて切削により面取り形状に形成することも可能である。
【0026】
自動二輪車1の後輪5におけるホイールのボス部(これが取付用シャフトに相当する)30には軸孔31が形成され、軸孔31には複数のベアリング32が装着され、後輪5はこれら複数のベアリング32を挿通する車軸33に回転自在に支持されている。スプロケット6は後輪5のボス部30に形成した鍔状の取付部34にボルト35で固定され、スプロケット6の中央部には、ボス部30に嵌入する芯孔24が形成され、スプロケットの芯孔24と波型部21間にはスプロケット6の取付部25が形成され、スプロケット6の取付部25には表面側突出部25Fと裏面側突出部25Rとが、波型部21よりも大きなピッチの矩形波状に、周方向に沿って交互に突出形成されている。裏面側突出部25Rの裏面側には正面視略5角形状の平坦な凸部面26が形成され、この凸部面26は波型部21の表面側の頂部22を含む面内に配置され、裏面側突出部25Rの中央部にはテーパー状の座ぐりを形成したボルト挿通孔27が形成され、スプロケット6は、芯孔24をボス部30の端部に挿入した状態で、ボス部30の取付部34に裏面側突出部25Rの凸部面26を対面的に重ね合わせ、スプロケットの取付部25をボス部30の取付部34にボルト35で固定して後輪5に組付けられている。このように、裏面側突出部25Rの凸部面26が波型部21の表面側の頂部22を含む面内に配置されているので、凸部面を後輪5の取付部34に重ね合わせてスプロケット6を後輪5に固定することで、通常のスプロケットと同様に、スプロケット歯部20の軸方向位置が後輪5に対して適正位置に配置されるように構成される。なお、スプロケット6の取付部25の凸部面26が裏面側突出部25Rに形成された一例を説明したが、凸部面は表裏面突出部25R、25Fの表裏面に設けてもよい。
【0027】
各裏面側突出部25Rの外周部の両端部と各表面側突出部25Fの中央部及び外周部の両端部には、スプロケット6の重量を軽減するための正面視三角形状の軽減孔28が形成されている。軽減孔28の形状や個数は任意に設定可能であるが、表面側突出部25Fの側部の内端部又は途中部と、表面側突出部25Fの外周部の中央部とを連結するリブ部29が形成されるように構成することで、軽減孔28を極力大きく設定しつつスプロケット6の強度剛性を十分に確保できるように構成されている。スプロケット6の表面又は裏面における軽減孔28の空隙率は5〜40%、に設定されている。空隙率が40%を越える場合には、スプロケット6の強度剛性を十分に確保できず、5%未満の場合には、軽減孔28による軽量化の効果が少ないので、空隙率は12〜23%に設定することが好ましい。
【0028】
次に、前記スプロケット6の作用、効果について説明する。
図8に示すように、本発明のスプロケット6は、スプロケット歯部20の表裏面20F、20Rが傾斜された形状になっているので、チェーン7が精確に張設されていなかった場合や、チェーン7が緩んでいる場合や、チェーン7が伸長して緩んだ状態でスプロケット6に対して巻掛伝動するとき、スプロケット歯部20の歯先20aがチェーン7の平行な内プレート10の間隔巾に対してスムーズに噛み合わなく接触、衝突したり、横ぶれすることがなくなり、チェーン7の平行な内プレート10に対してスプロケット歯部20の歯先20aが適正に噛み合い、スプロケット歯部20とチェーン7との噛み合い関係を良好に維持することが可能となる。その結果、スプロケット歯部20の歯先20aの損傷や摩耗が効果的に防止でき、スプロケット歯部20の弾性変形ないし塑性変形が抑制され、チェーン7の脱落、外れが防止できるとともにスプロケット歯部20でチェーン7が傷つけられたり、スプロケット6が傷つけられたりすることが防止され、スプロケット6やチェーン7の耐久性が向上できる。
【0029】
次に、前記スプロケット6の構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0030】
(1) スプロケット6の波型部21では頂部22を放射状に形成したが、図9に示すスプロケット6Aの波型部21Aのように、頂部22Aを一方向に湾曲状に形成することもできる。また、頂部22が半径方向に対して一方向に傾斜状になるように形成することもできる。
【0031】
(2) スプロケット6では、一定周期で表裏に交互に突出させて波型部21を形成しているので、スプロケット6は偶数歯となるが、図10〜図12に示すスプロケット6Bのように、波型部21Bの少なくとも1つの波における頂部22間のピッチを他の頂部22間のピッチP1の2倍、つまり1周期分のピッチをあけて頂部22を形成してもよい。この波においては、頂部22の外端部にスプロケット歯部20を形成するとともに、頂部22間の傾斜部23Bの途中部の外端部にスプロケット歯部20Bを形成し、偶数歯のスプロケットにおいては、傾斜部23Bの個数を偶数に設定し、奇数歯のスプロケットにおいては、傾斜部23Bの個数を奇数に設定することも可能である。但し、傾斜部23Bを複数設ける場合には、スプロケット6Bのバランスを良くするため、傾斜部23Bを円周一定間隔おきに設けることが好ましい。
【0032】
尚、本実施の形態では、自動二輪車1の従動スプロケット6に本発明を適用した場合について説明した、自転車や電動アシスト自転車、ゴーカート、小型自動車など、自動二輪車1以外の各種乗り物や、産業機械に対してもスプロケットを備えたものであれば、本発明を同様に適用することが可能である。
【0033】
次に、前記スプロケットの性能を評価するために行った評価試験について説明する。
スプロケットとして、外観形状が図3〜図7に示すような外観形状で、各部の寸法が表1に示すように設定されたステンレス製のスプロケットを用いた。また、試験機として排気量600cc、装備重量180kgの自動二輪車に適用することを想定し、模擬レースコースの走行条件(平均速度178km/h、最高速度277km/h)、チェーン平均張力4.3KN、チェーン最高張力6.8KNを1サイクルとして、走行距離が4.3kmの走行時に加減速を繰返し、20,000kmに相当する試験を実施した。評価試験機は大同工業株式会社製のDID520VMを用い、チェーンとしてチェーンピッチが15.875mを用い、駆動スプロケットとしてサンスター技研(株)製の駆動スプロケット17T−#520を用いた。
【0034】
この試験機にスプロケットをセットして、20,000Kmの走行試験を行い、走行試験後におけるスプロケットの各部の寸法を測定し、走行試験前との変化量を求めた。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
この走行試験の結果、厳しい条件下で20,000km相当の走行試験を行ったが、表1から歯底径の減少は0.023mmと極めて小さく、また歯底振れの変化量が0.01mmと極めて僅かで磨耗も偏磨耗もほとんどなく、チェーンがスプロケット歯部に対してスムーズに噛合していることが実証できる。チェーンに関しては損傷、破損、磨耗や伸長変形は認められず、またローラの摩耗もローラ間の伸びもほとんど認められなかった。このことから、本発明のスプロケットは、チェーンに対する攻撃性が少なく、チェーンの耐久性を向上できることが判った。また、スプロケットに関しては、スプロケット歯部の損傷、破損、磨耗や変形は認められず、スプロケットの耐久性も十分に確保できていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】自動二輪車の側面図
【図2】図1のII-II線断面図
【図3】スプロケットの正面図
【図4】図3のIV-IV線断面図
【図5】スプロケットの要部平面図
【図6】図3のVI-VI線断面図
【図7】図3のVII-VII線断面図
【図8】スプロケットとチェーンとの噛み合い状態の説明図
【図9】他の構成のスプロケットの正面図
【図10】他の構成のスプロケットの正面図
【図11】同スプロケットの要部平面図
【図12】図10のXII-XII線断面図
【符号の説明】
【0038】
1 自動二輪車 2 エンジン
3 出力軸 4 駆動スプロケット
5 後輪 6 従動スプロケット
7 チェーン
10 内プレート 11 外プレート
12 ローラ 13 リンクピン
20 スプロケット歯部 20a 歯先
20b 歯底 20F 表面
20R 裏面 21 波型部
21a 溝部 22 頂部
23 傾斜部 24 芯孔
25 スプロケットの取付部 25F 表面側突出部
25R 裏面側突出部 26 凸部面
27 ボルト挿通孔 28 軽減孔
29 リブ部
30 ボス部 31 軸孔
32 ベアリング 33 車軸
34 取付部 35 ボルト
6A スプロケット 21A 波型部
22A 頂部
6B スプロケット 20B スプロケット歯部
21B 波型部 23B 傾斜部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプロケットを構成するスプロケット金属板の厚さが、スプロケットに噛み合うチェーンの平行な内プレートの間隔巾よりも薄く、かつスプロケット金属板の外周部が周方向に沿って表裏に交互に突出する波型形状とされ、スプロケット歯部が該波型形状の波の頂部の外端部に形成され、該スプロケット歯部がチェーンに適正に噛み合うように、スプロケット歯部における波型形状の厚さがチェーンの平行な内プレートの間隔巾に整合され、各スプロケット歯部の表裏面の外端側がチェーンの内プレート間の内方側へ傾斜された、
ことを特徴とするスプロケット。
【請求項2】
前記スプロケット金属板の厚さが、波型形状の厚さに対して4/5〜1/10に設定された請求項1記載のスプロケット。
【請求項3】
前記各スプロケット歯部の表裏面の外端側が、テーパー状に傾斜された請求項1または2記載のスプロケット。
【請求項4】
前記各スプロケット歯部の表裏面の外端側が、湾曲状に傾斜された請求項1または2記載のスプロケット。
【請求項5】
前記各スプロケット歯部が、プレス加工によりその表裏面の外端側が、傾斜された請求項1乃至4のいずれかに記載のスプロケット。
【請求項6】
前記各スプロケット歯部が、切削加工によりその表裏面の外端側が、傾斜された請求項1乃至4項のいずれかに記載のスプロケット。
【請求項7】
前記スプロケット歯部の少なくとも1つが、波型形状の波の途中部の外端部に形成された請求項1乃至6いずれかに記載のスプロケット。
【請求項8】
前記スプロケット金属板の中央部に、取付用シャフトに嵌入される芯孔が形成され、取付用シャフトの取付面に対面するスプロケット金属板の取付面に、波型形状の一側面の頂部を含む面内に位置する凸部面が形成された請求項1乃至7のいずれかに記載のスプロケット。
【請求項9】
前記スプロケット金属板がステンレス鋼板であり、少なくともスプロケット歯部が焼入れされた請求項1乃至8のいずれかに記載のスプロケット。
【請求項10】
自動二輪車に用いられることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のスプロケット。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のスプロケットを用いた自動二輪車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−198451(P2007−198451A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15879(P2006−15879)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】