説明

スポンジチタン製造方法

【課題】 クロール法によるスポンジチタンの製造において、タップ作業での溶融物輸送管の閉塞を簡単な操作で効果的に防止する。
【解決手段】 副生物である溶融MgCl2 を反応途中に還元反応容器10の底部から縦管状の溶融物輸送管13を介して還元反応容器10外へ抜き取るタップ作業の前に、溶融物輸送管13内に気体を圧入して溶融物輸送管13内の溶融物液面を溶融物輸送管13の容器底部側開口部まで下げる。溶融物輸送管13内の溶融物が還元反応容器10内へ押し込まれ、その溶融物中の溶融Mgが、比重差により還元反応容器10内の溶融MgCl2 より上に浮上する。その後に還元反応容器10の底部から溶融MgCl2 の抜き取りを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロール法によるスポンジチタン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用材料等として使用される展伸材用金属チタンは、クロール法によるスポンジチタンの製造、スポンジチタンの溶解凝固(チタンインゴットの製造)等の工程を経て製造される。クロール法によるスポンジチタンの製造では、図3(a)に示すように、レトルトと呼ばれる還元反応容器10が使用される。還元反応容器10は耐熱性に優れたステンレス鋼等からなり、上部の蓋体に取付けられた四塩化チタン供給管11及び不活性ガス供給管12、並びに底部に連結された溶融物輸送管13などを備えている。
【0003】
溶融物輸送管13は、ここでは還元反応容器10の横に垂直に配置された外部縦管であり、その下端部は、反応中に容器底部内に溜まる副生物を抜き出すために、その容器底部に接続されている。溶融物輸送管13の上端部は、他の溶融物輸送管との接続、蓋板の取付けなどのためにフランジ構造になっている。
【0004】
操業では、炉内に設置された還元反応容器10内を溶融Mg50で満たし、残りの容器内空間をArガスで満たした状態で、四塩化チタン供給管11から液状の四塩化チタンを容器内に滴下する。容器内に滴下された四塩化チタンが容器内の溶融Mg50により順次還元されることにより、容器内にスポンジチタン60が生成されていく。スポンジチタン60の生成に伴って液状のMgCl2 70が副生する。副生物であるMgCl2 70は比重差のために、還元反応容器10の底部内に溜まる。
【0005】
副生MgCl2 70が容器内に溜まっていくと、スポンジチタン60の生成効率が低下する。これを防止するために、操業中に副生MgCl2 70が還元反応容器10から抜き出される(特許文献1)。この操作はタップと呼ばれており、操業中に何回も繰り替えされる。このタップ操作の詳細は以下のとおりである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−292832号公報
【0007】
移動式の回収容器20を還元反応容器10に横付けする。回収容器20は、上部に垂直に取付けられた導入管21を有している。導入管21は溶融物輸送管であり、他の溶融物輸送管との接続等のために、上端部はフランジ構造となっている。回収容器20が還元反応容器10に横付けされると、導入管21の上端部と溶融物輸送管13の上端部を接続管30にて連結する。接続管30も溶融物輸送管13や導入管21と同じく溶融物輸送管であり、両端部がそれぞれの溶融物輸送管の管端部にフランジ結合される。
【0008】
回収容器20と還元反応容器10の連結が終わると、還元反応容器10の不活性ガス供給管12からArガスを容器内に圧入する。これにより、還元反応容器10の底部に溜まったMgCl2 70が溶融物輸送管13、同じく溶融物輸送管である接続管30及び導入管21を介して回収容器20内に排出される。効率的な排出のために、溶融物輸送管13の下端部は外周面の最下部に接続されている。
【0009】
操業中にこの操作を繰り返すことにより、還元反応容器10内での、四塩化チタンと溶融Mg50との反応が円滑に進む。
【0010】
クロール法によるスポンジチタンの製造では、上述したタップの他に、追加チャージと呼ばれる作業が行われることもある。追加チャージは、操業中に溶融Mg50を補充する作業であり、操業中に副生物であるMgCl2 を抜き出すと、還元反応容器10内の空間が増大し、ここに溶融Mg50を注入すると1バッチあたりのスポンジチタン生成量が増大することを狙った操作である。この作業の詳細を図3(b)により説明する。
【0011】
追加チャージの際には、図3(a)に示した接続管30を外し、回収容器20を遠ざける。代わりに移動式のMg容器40を還元反応容器10に横付けする。Mg容器40は内部に溶融Mg50を収容しており、上部に取付けられた垂直な不活性ガス供給管41及びMg排出管42などを装備している。Mg排出管42の上部は、接続管30を共用するために回収容器20の導入管21と同じ縦管形状になっており、下部は溶融Mg50の導出のためにMg容器40の底部に達している。
【0012】
Mg容器40が定位置に固定されると、Mg排出管42と溶融物輸送管13を接続管30により接続する。この状態で不活性ガス供給管41からMg容器40内にArガスを圧入する。これにより、Mg容器40内の溶融Mg50が排出管42及び溶融物輸送管13を経て還元反応容器10内に注入される。
【0013】
タップと追加チャージを繰り返すことにより、1バッチあたりのスポンジチタン60の収量が向上する。追加チャージの回数は、例えば100時間の反応の場合、十数回のタップ作業に対して数回である。
【0014】
このようなクロール法によるスポンジチタンの製造における問題点の一つとして、前述したタップ作業での、溶融物輸送管の閉塞がある。具体的には、タップ作業の際に、接続管30内や還元反応容器10における溶融物輸送管13の上部内に閉塞が発生するのである。溶融物輸送管に一旦閉塞が発生すると、その交換作業や加熱溶解作業などが必要になり、作業効率が著しく低下する。溶融物輸送管を強制的に加熱すれば閉塞を防止できる可能性はあるが、この対策はコストがかかり、現実的な対策とはいえない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、タップ作業での溶融物輸送管の閉塞を簡単な操作で効果的に防止することができるスポンジチタン製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、クロール法によるスポンジチタンの製造作業に従事しており、その過程で、タップ作業での輸送管閉塞に関して以下の事実を経験的に認識した。
【0017】
溶融Mgの追加チャージを行わない操業よりも追加チャージを行う操業の方が、タップ作業での輸送管閉塞の発生頻度が高い。より具体的には、追加チャージを行った後のタップ作業で輸送管の閉塞が発生しやすい。追加チャージを行わない操業でも輸送管の閉塞は発生し、それは最初のタップ作業で生じるケースが多い。本発明者の調査によると、輸送管における閉塞物質は、タップ作業で抜き出されるMgCl2 ではなく、Mgを主成分としていることが判明した。
【0018】
これらの経験的知見から、タップ作業での輸送管の閉塞の原因は、還元反応容器10の溶融物輸送管13内に残る溶融Mgであると、本発明者は推測した。すなわち、操業開始時、還元反応容器10内は溶融Mgで満たされているが、同時に溶融物輸送管13内も溶融Mgで満たされている。反応の進行に伴ってMgCl2 が副生するが、溶融MgCl2 の比重は溶融Mgの比重より大きく、溶融物輸送管13内の溶融Mgが溶融MgCl2 と入れ代わることはない。仮に溶融MgCl2 が溶融物輸送管13内に侵入しても、輸送管内の少なくとも液面付近は溶融Mgで占有されることになる。追加チャージを行った後も同様に溶融物輸送管13は溶融Mgで満たされている。その結果として、初回タップの際、或いは追加チャージ後のタップ作業の際には、抜き取り開始直後に接続管30内に溶融Mgが流入し、管内面に付着し凝固して閉塞を発生させることになる。
【0019】
溶融MgCl2 より溶融Mgの方が閉塞を発生させやすい理由は不明であるが、両者の熱伝導率などの物性値の違いによるものと考えられる。
【0020】
本発明者は、これらの事実を総合的に検討した結果、タップ作業の前に、溶融物輸送管13内を不活性ガスにより逆方向に加圧し、溶融物輸送管13内の溶融物を還元反応容器10内へ押し戻すのが、合理的、効率的な対策となり得るとの結論に到達した。すなわち、タップ作業の際に還元反応容器10と接続された回収容器20内に不活性ガスを圧入すれば、溶融物輸送管13内の溶融物は還元反応容器10内へ容易に押し戻される〔図3(a)参照〕。還元反応容器10内へ押し戻された溶融物中の溶融Mgは、還元反応容器10内の溶融MgCl2 より比重が小さいので、還元反応容器10内の溶融物中を浮上する。その後、加圧を停止すれば、還元反応容器10の底部内に溜まった比重の大きい溶融MgCl2 のみが溶融物輸送管13内に流入し、溶融物輸送管13内が溶融MgCl2 に完全置換される。
【0021】
このようにして、タップ作業の前に、一旦、溶融物輸送管13内の溶融Mgを溶融MgCl2 に置換することにより、接続管30などの一連の輸送管における閉塞が防止される。
【0022】
本発明のスポンジチタン製造方法は、かかる知見を基礎として完成されたものであり、還元反応容器の内部に溶融Mgを保持し、炉内で溶融MgとTiCl4 を反応させることによりスポンジチタンを生成し、副生物である溶融MgCl2 を反応途中に還元反応容器の底部から縦管状の溶融物輸送管を介して還元反応容器外へ抜き取るスポンジチタン製造方法において、前記溶融物輸送管を介して還元反応容器内の溶融MgCl2 を還元反応容器外へ抜き取る前に、溶融物輸送管内に気体を圧入して溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げ、しかる後に溶融MgCl2 の抜き取りを行うものである。
【0023】
本発明のスポンジチタン製造方法においては、溶融物輸送管を介して還元反応容器内の溶融MgCl2 を還元反応容器外へ抜き取る前に、溶融物輸送管内に気体を圧入して溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げる。溶融物輸送管内を押し下げられた溶融物は還元反応容器内に流入し、溶融物中に溶融Mgが存在すれば、比重の小さい溶融Mgは容器内の溶融物中を浮上する。この後に溶融MgCl2 の抜き取りを行えば、溶融物輸送管内の溶融物中に溶融Mgが混入している場合でも、その溶融Mgが溶融物輸送管内から排除されるため、溶融Mgの排出が防止され、溶融Mgの排出に起因する輸送管の閉塞が防止される。
【0024】
溶融物輸送管を経由して還元反応容器内へ溶融Mgをチャージし、そのチャージの後に溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げ、溶融MgCl2 の抜き取りを行うならば、追加チャージを行った後のタップ操作の際に、溶融物輸送管内の溶融Mgが溶融MgCl2 と置換され、そのタップ操作時の輸送管の閉塞が防止される。この点において、本発明のスポンジチタン製造方法は、還元反応中に追加チャージを行う操業に特に有効であり、溶融Mgの追加チャージ、並びにこれに続く溶融物輸送管内の溶融物の下降及び溶融MgCl2 の抜き取りを複数回繰り返すスポンジチタン製造方法に更に有効である。
【0025】
還元反応容器の溶融物輸送管内を気体の圧入により輸送管内の溶融物を押し下げると、それに伴って、その溶融物が還元反応容器内に注入される。溶融物輸送管の容積は還元反応容器の容積に比べて非常に小さいので、溶融物輸送管内の溶融物が還元反応容器内に注入されても、その注入による容器内圧力の上昇は軽微である。輸送管内の溶融物の押し下げを続け、その溶融物の液面が容器底部側開口部まで下がると、溶融物輸送管内に圧入される気体が還元反応容器内の溶融物中へバブルとして吹き出す。これにより還元反応容器内の圧力が急激に上昇する。この容器内圧力の上昇を検知すれば、溶融物の液面が容器底部側開口部に達した時点を簡単かつ正確に把握できるので、還元反応容器内の圧力が急激に上昇した段階で気体の圧入を中止すればよい。
【0026】
溶融物輸送管内に気体を圧入する方法については、後の実施形態のところで詳しく説明する。
【0027】
溶融物輸送管内に圧入する気体は、水分が除去されているものでなければならない。しかし、乾燥空気や窒素ガスが反応中の還元反応容器内に入ると、スポンジチタンの品質が低下するので、これらは望ましい気体とは言えない。望ましい気体はArガスに代表される不活性ガスである。
【発明の効果】
【0028】
本発明のスポンジチタン製造方法は、溶融物輸送管を介して還元反応容器内の溶融MgCl2 を還元反応容器外へ抜き取る前に、溶融物輸送管内に気体を圧入して溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げ、還元反応容器内へ戻すという簡単な操作により、溶融物中の溶融Mgを溶融物輸送管内から排除できるので、タップ作業での溶融物輸送管の閉塞を低コストで効果的に防止することができる。また、本来なら排出されるべき溶融物輸送管内の溶融Mgを、還元反応容器内へ送ってスポンジチタンの生成に活用できるので、溶融Mgの利用効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1(a)(b)(c)は本発明のスポンジチタン製造方法の一実施形態を工程順に示す模式図である。
【0030】
本実施形態のスポンジチタン製造方法では、まず、図3(b)に示すように、Mg容器40を接続管30により還元反応容器10と接続する。このとき、還元反応容器10内はArガスにて置換されている。Mg容器40と還元反応容器10との接続が終わると、Mg容器40の不活性ガス供給管41から容器内にArガスを圧入する。これにより、Mg容器40内の溶融Mg50がMg排出管42、接続管30及び溶融物輸送管13を介して還元反応容器10内に注入される。これが初期チャージである。
【0031】
初期チャージが終わると、還元反応容器10から接続管30、Mg容器40を分離し、溶融物輸送管13の上端部を閉止して、還元反応容器10の四塩化チタン供給管11から液状の四塩化チタンを容器内に滴下する。これにより、還元反応容器10内にスポンジチタン60が生成される。同時に液状のMgCl2 70が副生し、還元反応容器10の底部内に溜まる〔図3(a)及び図1(a)参照〕。
【0032】
操業が一定期間経過し、タップのタイミングが到来すると、図1(a)に示すように、還元反応容器10に回収容器20を連結する。具体的には、還元反応容器10の溶融物輸送管13と回収容器20の導入管21とを接続管30により接続する。このとき、溶融物輸送管13内は、還元反応容器10内と同レベルの高さまで溶融Mgで満たされている。回収容器20は、図3(a)に示した回収容器20と異なり、容器上部に接続された不活性ガス供給管22を有している。
【0033】
還元反応容器10と回収容器20の連結が終わると、図1(b)に示すように、回収容器20の不活性ガス供給管22からArガスを圧入する。その加圧ガスは、回収容器20の導入管21、接続管30を経て溶融物輸送管13に達し、溶融物輸送管13内の溶融Mg50の液面を下方へ押し下げる。これにより、溶融物輸送管13内の溶融Mg50が還元反応容器10内に流入する。加圧を続けると、溶融物輸送管13内の溶融Mg50の液面が溶融物輸送管13の下端開口部まで下がる。これにより溶融物輸送管13内から溶融Mg50が排除され、還元反応容器10内の溶融物中に注入される。還元反応容器10内の溶融物中に注入された溶融Mg50は比重差によりMgCl2 より上に浮上する。
【0034】
同時に、加圧ガスは還元反応容器10内の溶融物中にバブルとなって注入され、還元反応容器10内の圧力を急激に上昇させる。すなわち、溶融物輸送管13内の溶融Mg50が還元反応容器10内に押し込まれる間は、溶融物輸送管13の容積が小さいこともあり、還元反応容器10内の圧力の上昇は僅かであるが、加圧ガスが還元反応容器10内の溶融物中に注入され始めると、還元反応容器10内の圧力が急激に上昇する。還元反応容器10内の圧力は図示されない圧力計により監視されており、加圧ガスの侵入による急激な圧力上昇を検知した時点で、加圧ガスの注入を停止する。
【0035】
このようにして、溶融物輸送管13から溶融Mg50を含む溶融物が排除されると、図1(c)に示すように、還元反応容器10の不活性ガス供給管12から容器内へArガスを圧入する。これにより、還元反応容器10の底部内に溜まった副生MgCl2 が溶融物輸送管13、接続管30及び導入管21を通って回収容器20内へ排出される。このとき溶融物輸送管13、同じく溶融物輸送管である接続管30及び導入管21のいずれをも溶融Mg50は通過しない。このため、接続管30を始めとする溶融物輸送管の閉塞が防止される。
【0036】
こうしてタップ作業がスムーズ且つ安全に行われると、還元反応容器10から接続管30及び回収容器20を分離し、次のタップ作業に備える。還元反応容器10からMgCl2 を抜き取るタップ作業時に、排出されるMgCl2 に溶融Mgの一部が懸濁して混入し、溶融物輸送管13内に溶融Mg50が侵入することがある。溶融物輸送管13内に溶融Mg50が侵入すると、比重差によりMgCl2 より上に浮上し、液面近傍に集まる。このため、次のタップ作業を行う際にも、予め溶融物輸送管13内から溶融物を還元反応容器10内へ押し込み、しかる後にタップ作業を開始する。
【0037】
追加チャージを行うときは、前述した初期チャージのときと同様に、還元反応容器10にMg容器40を接続し、Mg容器40の不活性ガス供給管41から容器内へArガスを圧入する。これにより、Mg容器40内の溶融Mg50がMg排出管42、接続管30及び溶融物輸送管13を介して還元反応容器10内に注入される。追加チャージを行った後は、溶融物輸送管13内が溶融Mg50で満たされるので、追加チャージの後のタップ作業では、初期チャージの後のタップ作業と同様に、溶融物輸送管13内の溶融物の還元反応容器10内への事前の押し込みは重要である。
【0038】
上記実施形態では、追加チャージを行う関係から、初期チャージにMg容器40を使用して、溶融物輸送管13から還元反応容器10内へ溶融Mg50を注入したが、追加チャージを行わない場合は、還元反応容器10の上蓋を開けて上方から初期チャージを行うのが一般的であり、追加チャージを行う場合にも初期チャージを上方から行うことは可能である。
【0039】
上記実施形態では又、タップ作業の際の溶融物輸送管13内の溶融物の押し込みを、溶融物輸送管13に接続された回収容器20内をArガスで加圧することにより実施したが、還元反応容器10と回収容器20を接続する接続管30から押し込み用のガスを圧入することも可能である。押し込み用ガスの圧入機構を備えた接続管30の主要部の構成を図2に示す。
【0040】
図2は還元反応容器10と回収容器20を接続する接続管30の反応容器側の端部を示している。この接続管30は、溶融物輸送管13の上端部にフランジ結合される垂直な縦管部31と、縦管部31の中段部から回収容器20へ向けて斜め下方に延出する斜管部32と、縦管部31内を昇降する開閉機構33とを備えている。縦管部31の下部内、より詳しくは、斜管部32との接続部より下方には、前記開閉機構33によって開閉される絞り部34が設けられている。開閉機構33は逆錐状のヘッド部35と、その昇降駆動部を兼ねる不活性ガス供給管36とを有している。ヘッド部36は、不活性ガス供給管36の下端部に連通状態で取付けられると共に、先端部(下端部)に不活性ガス噴出口37を有しており、縦管部31内を下降した状態で絞り部34を閉止し、上昇した状態で斜管部32との接続部より上方に収納される。
【0041】
溶融物輸送管13内の溶融物を押し下げるときは、ヘッド部36が下降して絞り部34を閉止し、この状態で先端部(下端部)の不活性ガス噴出口37からArガスを噴出する。これにより、溶融物輸送管13内の溶融物の液面が下がる。還元反応容器10内のMgCl2 を排出するタップ時には、ヘッド部36は、MgCl2 の排出を阻害しないように、斜管部32との接続部より上方の退避位置まで上昇する。
【0042】
このような押し込み用ガスの圧入機構を備えた接続管30によっても、タップ作業の際の溶融物輸送管13内の溶融物の押し込みは可能である。
【実施例】
【0043】
還元反応容器10を使用して約10トンのスポンジチタンを製造する際に、図1の方法により、タップ前に溶融物輸送管13内の溶融物の押し下げを行った。反応期間内に行ったタップ回数は11回、タップ量合計は33.5トンである。チャージは初期チャージを含め6回行った。初期チャージ量は6トン、追加チャージ量は平均2.1トンである。
【0044】
タップ前の溶融物輸送管13内の溶融物の押し下げを行わなかった場合、タップ時における溶融物輸送管の詰まり頻度は、10バッチ平均で1バッチ当たり(11タップ中)約3回であったが、タップ前の溶融物輸送管13内の溶融物の押し下げを行うことによりこれが0回になった。
【0045】
タップ前の溶融物輸送管13内の溶融物の押し下げを行うと、溶融物輸送管13内に残っている溶融Mgが、回収容器20へ排出されることなく還元反応容器10内へ返還されて溶融Mgの無駄がなくなる。その量は本実施例では約100kgと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)(b)(c)は本発明のスポンジチタン製造方法の一実施形態を工程順に示す模式図である。
【図2】押し込み用ガスの圧入機構を備えた接続管の主要部の構成図で、接続管の還元反応容器側の端部を示している。
【図3】(a)(b)は従来のスポンジチタン製造方法を工程順に示す模式図である。
【符号の説明】
【0047】
10 還元反応容器
11 四塩化チタン供給管
12 不活性ガス供給管
13 溶融物輸送管
20 回収容器
21 導入管(溶融物輸送管)
22 不活性ガス供給管
30 接続管(溶融物輸送管)
31 縦管部
32 斜管部
33 開閉機構
34 絞り部
35 ヘッド部
36 不活性ガス供給管
40 Mg容器
41 不活性ガス供給管
50 溶融Mg
60 スポンジチタン
70 副生MgCl2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応容器の内部に溶融Mgを保持し、炉内で溶融MgとTiCl4 を反応させることによりスポンジチタンを生成し、副生物である溶融MgCl2 を反応途中に還元反応容器の炉底部から縦管状の溶融物輸送管を介して還元反応容器外へ抜き取るスポンジチタン製造方法において、
前記溶融物輸送管を介して還元反応容器内の溶融MgCl2 を還元反応容器外へ抜き取る前に、溶融物輸送管内に気体を圧入して溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げ、しかる後に溶融MgCl2 の抜き取りを行うことを特徴とするスポンジチタン製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスポンジチタン製造方法において、前記溶融物輸送管を経由して還元反応容器内へ溶融Mgをチャージし、そのチャージの後に溶融物輸送管内の溶融物液面を溶融物輸送管の容器底部側開口部まで下げ、溶融MgCl2 の抜き取りを行うスポンジチタン製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスポンジチタン製造方法において、前記溶融Mgのチャージ、並びにこれに続く溶融物輸送管内の溶融物の押し下げ及び溶融MgCl2 の抜き取りを複数回繰り返すスポンジチタン製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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