説明

スライス厚測定方法、ファントムおよびX線CT装置

【課題】X線CT撮影による断層像のスライス厚を安定して測定できるようにする。
【解決手段】ファントムを、X線CT撮影されるスライス空間60内におけるスライス厚方向(z方向)の厚さがスライス厚方向と垂直な一方向(例えばx方向)に対して線形に変化するよう形成された部分52aを含む部材を有するものとする。そして、そのファントムをX線CT撮影して得られた断層像61における上記一方向の画素値のプロファイルP0を一次微分して得られる第1のプロファイルP1に基づいて、断層像61のスライス厚tを求める。このようなファントムによれば、ワイヤや板で構成される従来のファントムと異なり、破断の恐れがなく、スロープ面を高い直線精度で加工・維持し易いため、スライス厚を安定して測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層像のスライス(slice)厚測定方法、その方法の使用に適したファントム(phantom)、およびその方法を実施するためのX線CT(Computed Tomography)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT装置において、校正等を目的として、断層像のスライス厚を測定する方法が知られている。
【0003】
一般的なスライス厚測定方法では、スライス厚方向に対して傾斜するように設けられたタングステンワイヤ(tungsten wire)やアルミ(aluminum)板で構成されるファントムを撮影し、得られた断層像におけるCT値のプロファイル(profile)の半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)等を求めることにより、スライス厚を算出することが多い(例えば、特許文献1、段落[0003]〜[0005]、図1,2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−102718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タングステンワイヤは経年変化で劣化して破断し易く、アルミ板は直線性を保持し辛い。そのため、従来の一般的なスライス厚測定方法では、スライス厚を安定して測定することが難しい。
【0006】
このような事情により、X線CT撮影による断層像のスライス厚を安定して測定できるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点の発明は、X線CT装置によりファントムを撮影して断層像を得る第1のステップ(step)と、前記断層像における画素値のプロファイルに基づいて前記断層像のスライス厚を測定する第2のステップとを備えたスライス厚測定方法であって、前記ファントムは、撮影されるスライス空間内においてスライス厚方向のX線透過性がスライス厚方向と垂直な一方向に線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しており、前記第2のステップは、前記断層像における前記一方向の画素値のプロファイルを一次微分して得られる第1のプロファイルに基づいて、前記断層像のスライス厚を求めるステップであるスライス厚測定方法を提供する。
【0008】
第2の観点の発明は、前記部材が、前記スライス空間内においてスライス厚方向と平行になるよう形成された表面を有しており、前記断層像における前記表面の一部を通過する方向の画素値のプロファイルを一次微分して得られる第2のプロファイルに基づいて、前記X線CT装置の空間周波数特性(MTF;Modulation Transfer Function)を求める第3のステップをさらに備えた上記第1の観点のスライス厚測定方法を提供する。
【0009】
第3の観点の発明は、X線CT撮影用のファントムであって、撮影空間に載置したときに、撮影されるスライス空間内におけるスライス厚方向の厚さが、スライス厚方向と垂直な一方向に対して線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しているファントムを提供する。
【0010】
第4の観点の発明は、前記部材が、前記スライス空間内における表面の一部がスライス厚方向と平行になるよう形成されている上記第3の観点のファントムを提供する。
【0011】
第5の観点の発明は、前記部材が、前記スライス空間内における、前記スライス厚方向および前記一方向と直交する方向の幅が1mm以上、10mm以下となるよう形成されている上記第3の観点または第4の観点のファントムを提供する。
【0012】
第6の観点の発明は、前記部材が、前記スライス空間内における、スライス厚方向および前記一方向と平行な面による断面が、スライス厚方向に対して平行な直線と、スライス厚方向に対して垂直な直線と、スライス厚方向に対して傾いた直線とを辺として含む図形となるよう形成されている上記第3の観点から第5の観点のいずれか一つの観点のファントムを提供する。
【0013】
第7の観点の発明は、前記部材が、前記図形を底面とする柱形状を有する部分を含んでいる上記第6の観点のファントムを提供する。
【0014】
第8の観点の発明は、前記部材が、プラスチック(plastic)樹脂である上記第3の観点から第7の観点のいずれか一つの観点のファントムを提供する。
【0015】
第9の観点の発明は、ファントムをX線CT撮影して断層像を得る撮影手段と、前記断層像における画素値のプロファイルに基づいて前記断層像のスライス厚を測定するスライス厚測定手段とを備えたX線CT装置であって、前記ファントムが、撮影されるスライス空間内におけるスライス厚方向の厚さがスライス厚方向に垂直な一方向に対して線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しており、前記スライス厚測定手段が、前記断層像の前記一方向における画素値のプロファイルを一次微分して得られる第1のプロファイルに基づいて、前記断層像のスライス厚を求めるX線CT装置を提供する。
【0016】
第10の観点の発明は、前記部材が、前記スライス空間内における表面の一部がスライス厚方向と平行になるよう形成されており、前記断層像の前記表面の一部を通過する方向における画素値のプロファイルを一次微分して得られる第2のプロファイルに基づいて、前記X線CT装置の空間周波数特性(MTF)を測定する特性測定手段をさらに備えた上記第9の観点のX線CT装置を提供する。
【0017】
第11の観点の発明は、ワイヤを含むファントムを撮影して断層像のスライス厚を測定する方法を用いて求められるスライス厚と、前記スライス厚測定手段により求められるスライス厚との相関関係を示す情報に基づいて、前記スライス厚測定手段により求められたスライス厚を、前記方法を用いて求めた場合のスライス厚に変換する変換手段をさらに備えている上記第9の観点または第10の観点のX線CT装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
上記観点の発明によれば、ファントムとして、X線CT撮影されるスライス空間内におけるスライス厚方向の厚さがスライス厚方向と垂直な一方向に対して線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有するものを用いるようにしている。これにより、ファントムを比較的厚みのある部材で構成して、劣化による破断の恐れをなくし、また、部材のスロープ(slope)面を高い直線精度で維持しつつ、撮影によって得られる断層像にそのスライス厚の情報を与えることができる。その結果、安定してスライス厚を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るX線CT装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態係るスライス厚測定用のファントムの構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係るX線CT装置によるスライス厚測定処理のフロー(flow)図である。
【図4】本実施形態に係るファントムの断層像の一例を示す図である。
【図5】ファントムの断層像からスライス厚を求める処理の概念図である。
【図6】ファントムの断層像からMTFを求める処理の概念図である。
【図7】従来法によるスライス厚換算値を校正曲線から求める処理の概念図である。
【図8】本実施形態によるX線CT装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置の構成を示す図である。
【0022】
本実施形態に係るX線CT装置100は、操作コンソール(console)1と、撮影テーブル(table)10と、走査ガントリ(gantry)20とを具備している。以下、それらを順に説明する。
【0023】
操作コンソール1は、操作者からの入力を受け付ける入力装置2と、被検体40をスキャンするための各部の制御や各種演算などを行う中央処理装置3と、走査ガントリ20で取得したデータ(data)を収集するデータ収集バッファ(buffer)5と、画像を表示するモニタ(monitor)6と、プログラム(program)やデータなどを記憶する記憶装置7とを具備している。
【0024】
撮影テーブル10は、被検体40を載せて走査ガントリ20の開口部に搬入・搬出するクレードル(cradle)12を具備している。クレードル12は、撮影テーブル10に内蔵するモータ(motor)で昇降および水平直線移動される。
【0025】
走査ガントリ20は、回転部15と、回転部15を回転可能に支持する支持部16とを有する。回転部15には、X線管21と、X線管21を制御するX線コントローラ(controller)22と、X線管21から発生したX線81をコリメート(collimate)して整形するコリメータ(collimator)23と、X線管21から照射され、被検体40を透過したX線81を検出するX線検出器24と、X線検出器24の出力を投影データに変換して収集するデータ収集装置(DAS;Data Acquisition System)25と、X線コントローラ22,コリメータ23,DAS25の制御を行う回転部コントローラ26とが搭載される。支持部16は、制御信号などを操作コンソール1や撮影テーブル10と通信する制御コントローラ29を具備する。回転部15と支持部16とは、スリップリング(slip ring)30を介して電気的に接続されている。
【0026】
次に、本実施形態に係るスライス厚測定用のファントムの構成について説明する。
【0027】
図2は、本実施形態に係るスライス厚測定用のファントムの構成を示す図である。なお、図2において、(a)は、正面図、(b)は、上面図、(c)は側面図をそれぞれ示している。
【0028】
本実施形態に係るファントム50は、ケース(case)51と、部材52と、水53とにより構成されている。以下、それらを順に説明する。
【0029】
ケース51は、図2に示すように、円柱形状を有している。また、ケース51は、透明なアクリル(acrylic resin)により構成されている。ケース51の外側には、ファントムホルダ(phantom holder)取付部(不図示)が設けられている。これにより、ファントム50は、ファントムホルダ(不図示)を介してクレードル12上に保持されるようになっている。なお、ケース51の形状は、円柱形状に限定されず、他の形状であってもよい。また、ケース51の材料は、アクリルに限定されず、他のプラスチック樹脂などであってもよい。
【0030】
部材52は、図2に示すように、ケース51の内部に、ケース51の円柱軸付近に位置するよう設けられている。部材52は、X線吸収係数が水より大きくタングステンなどの重金属類より小さい材料で構成されている。これは、ファントム50の断層像において、そのスライス空間60内での部材52の厚さに応じたCT値が得られるようにするためである。本例では、部材52は、プラスチック樹脂であるアクリルにより構成されている。プラスチック樹脂は、安価で、加工性がよく、剛性も比較的高いので、部材52の材料として好適である。部材52は、ファントム50を、走査ガントリ20の撮影空間にファントムホルダを用いて載置したときに、X線CT撮影(以下、単に撮影という)されるスライス空間60内において、スライス厚方向すなわちz方向のX線透過性が、スライス厚方向と垂直な一方向(例えばx方向)に線形に変化するよう形成された部分(例えば52a)を含んでいる。なお、ここでは、部材52は、空間的に均一なX線透過性を有しており、z方向の厚さが上記一方向に線形に変化するよう形成されたものとする。
【0031】
水53は、図2に示すように、ケース51の内部に充填されている。すなわち、部材52の周囲は、この水53ですべて満たされている。
【0032】
部材のCT値は、スライス空間60内におけるスライス厚方向の厚さに応じて変化し、例えば0〜130HU程度で変化する。また、水のCT値は0HUである。したがって、このような構成のファントム50を撮影して得られた断層像では、スライス空間60内の部材52の厚さに応じてCT値が一方向(例えばx方向)にスロープ状に変化するプロファイルが得られる。そして、このスロープ状のプロファイルに基づいて、断層像のスライス厚を求めることができる。
【0033】
また、部材52は、ファントム50を、走査ガントリ20の撮影空間にファントムホルダを用いて載置したときに、撮影されるスライス空間60内における表面の一部(例えば記号Eで示す面)がスライス厚方向と平行になるように形成されている。つまり、部材52は、スライス面(xy面)に対して垂直なエッジ(edge)面を有している。
【0034】
これにより、ファントム50を撮影して得られた断層像において、部材52の上記表面の一部(例えばE)に対応する位置すなわちエッジを境にCT値がステップ状に変化するプロファイルが得られる。そして、このステップ状のプロファイルに基づいて、X線CT装置の断層像再構成における空間周波数特性を求めることができる。なお、ここでは、空間周波数特性として、MTFを求める。MTFは、変調伝達関数とも呼ばれる。MTFは、通常、一方の軸に空間周波数(cycles/mm)または空間分解能(lp/cm)を取り、他方の軸に入力変調に対する出力変調の比を取ったグラフ(graph)として表される。
【0035】
また、部材52は、スライス空間60内における、スライス厚方向(z方向)および上記一方向(x方向)と直交する方向(y方向)の幅dyが1mm以上、10mm以下となるよう形成されている。
【0036】
これにより、ある程度の剛性を保ちつつ、X線の散乱を抑制してアーチファクトの少ないファントム50の断層像を得ることができる。
【0037】
部材52について、もう少し詳しく説明する。
【0038】
部材52は、例えば、スライス厚方向に対して平行な第1の直線L1と、スライス厚方向に対して垂直な第2の直線L2と、当該第2の直線L2に対して角度θだけ傾いた第3の直線L3とを辺として含む図形を底面とした柱状部分を有するものとすることができる。この図形としては、例えば、直角三角形や直角台形、直角多角形等を考えることができる。また、角度θは、断層像のスライス厚が比較的小さいときでも、部材52のスライス厚方向の厚さの変化が断層像に明確に現れるよう、例えば、5°〜45°程度が好ましい。
【0039】
本例では、部材52は、図2に示すように、三角柱部分52aと、直方体部分52bとから成り、三角柱部分52aと直方体部分52bとは、一体的に形成されている。三角柱部分52aは、上記第1から第3の直線L1〜L3を三辺とし角度θを約15°とする直角三角形を底面とした柱状部分である。三角柱部分52aの柱軸方向の幅dyは、約5mmである。ファントム50がファントムホルダを介してクレードル12上に保持されたとき、三角柱部分52aは、その柱軸方向がy方向を向くように設けられている。つまり、三角柱部分52aの斜面T、すなわち底面である直角三角形の斜辺に相当する第3の直線L3に対応する面が、スライス面すなわちxy平面に対して角度θで傾くように設けられている。また、三角柱部分52aの斜面Tと角度180°−θを成す側面Eは、yz面に対して平行となるように設けられている。部材52は、ケース51内部の円形の底面51aに接着剤等で固定されている。
【0040】
このように、本例のファントム50は、厚み(体積)がある程度存在する、まとまった形状(細かったり、薄かったりすることのない)の部材で構成される。そのため、タングステンワイヤやアルミ板等で構成される従来のファントムとは異なり、経年変化や衝撃により劣化して破断することがなく、また、部材のスロープ部分を高い直線精度で加工・維持することができる。その結果、安定してスライス厚を測定することができる。
【0041】
これより、本実施形態に係るX線CT装置によるスライス厚測定処理について、フロー図を参照して説明する。
【0042】
図3は、本実施形態に係るX線CT装置によるスライス厚測定処理のフロー図である。
【0043】
ステップS1では、ファントム50を撮影テーブルのクレードル12上にファントムホルダを介して載置する。このとき、撮影するスライス空間60にファントム50の部材52の斜面Tが含まれるよう位置合せを行う。例えば、走査ガントリ20の回転部15から射出されるレーザスライスライト(Laser slice light)またはポジショニングライト(positioning light)が、この斜面Tに当たるように、クレードル12あるいはファントム50のz方向の位置を調整する。
【0044】
ステップS2では、スライス厚条件を含む撮影条件を設定する。スライス厚条件は、例えば、0.625mm,1.25mm,2.5mm,5mm,・・・などが設定される。
【0045】
ステップS3では、設定された撮影条件に従ってファントム50を撮影する。撮影は、コンベンショナルスキャン(conventional scan)すなわちアキシャルスキャン(axial scan)で行うのが一般的であるが、他のスキャン方式、例えばヘリカルスキャン(helical
scan)で行ってもよい。この撮影により、ファントム50の投影データを収集する。
【0046】
ステップS4では、撮影によって得られた投影データを基に、上記スライス厚条件に従って、図4に示すようなファントム50のスライス空間60に対応する断層像61を再構成する。断層像61のスライス厚方向はz方向、スライス面はxy平面である。
【0047】
ステップS5では、図5に示すような、断層像61の部材52の部分におけるx方向のCT値のプロファイルP0を求める。プロファイルP0は、三角柱部分52aの斜面Tによって、撮影されるスライス空間60内の部材52の厚さが変化することによりCT値がスロープ状に変化する部分P0aを含んでいる。また、プロファイルP0は、三角柱部分52aの側面Eによって、水53と部材52との境界が存在することによりCT値がステップ状に変化する部分P0bを含んでいる。
【0048】
本例のファントム50は、従来のファントムと形状が異なる。そのため、プロファイルP0は、従来のファントムを撮影して得られるプロファイルと形状が異なる。したがって、このプロファイルP0からスライス厚等を従来と同様の方法で直接的に求めることはできない。そこで、ステップS6以降では、このプロファイルP0から、従来のファントムを撮影して得られるプロファイルと同様のプロファイルを得るステップを組み入れている。この点は、本スライス厚測定方法の特徴の一つである。
【0049】
ステップS6では、プロファイルP0におけるファントム50の三角柱部分52aの斜面Tに対応する部分、すなわちCT値がスロープ状に変化する部分P0aを含む領域を、x方向に一次微分して、絶対値処理を行い、図5に示すような第1のプロファイルP1を得る。第1のプロファイルP1では、プロファイルP0でスロープ状に変化する部分P0aが、パルス状に変化する部分P0a′に変換されている。このように、プロファイルP0を一次微分することで、タングステンワイヤやアルミ板等で構成される従来のスライス厚測定用ファントムを撮影した場合と同様のプロファイルを得ることができ、従来と同様の方法でスライス厚を求めることができる。なお、本例では、プロファイルP0を一次微分した後に絶対値処理を行っているが、この絶対値処理は、波形の認識やその後の処理を容易にするために値を正に変換するものであり、必須処理ではない。
【0050】
ステップS7では、図5に示すように、第1のプロファイルP1におけるパルス(pulse)状に変化する部分P0a′の半値幅(FWHM)dを求め、次式に従って断層像61のスライス厚tを求める。
【0051】
t=d・tanθ …(数式1)
【0052】
ステップS8では、プロファイルP0におけるファントム50の三角柱部分52aの側面Eに対応する部分、すなわちCT値がステップ状に変化する部分P0bを含む領域を、x方向に一次微分して、絶対値処理を行い、図6に示すような第2のプロファイルP2を得る。第2のプロファイルP2では、プロファイルP0でステップ状に変化する部分P0bが、ピーク(peak)状すなわちデルタ(δ)関数的に変化する部分P0b′に変換されている。このように、プロファイルP0を一次微分することで、z方向に平行なピンで構成される従来のMTF測定用ファントムを撮影する場合と同様のプロファイルを得ることができ、従来と同様の方法でMTF曲線を求めることができる。
【0053】
ステップS9では、第2のプロファイルP2をフーリエ変換(Fourier transform)して、図6に示すような、X線CT装置の空間周波数特性を示すMTF曲線Cを求める。
【0054】
ステップS10では、本スライス厚測定方法により求めたスライス厚tを基に、図7に示すような、予め記憶されている校正曲線(または校正直線)Qを用いて、従来のスライス厚測定方法によるスライス厚の換算値t′を求める。
【0055】
一般的に、あるスライス厚測定方法により測定されたスライス厚は、少なからず測定誤差を含むものである。そして、その誤差の傾向は、測定方法によって異なり、測定方法に依存することが多い。上記のように、本スライス厚測定方法によるスライス厚測定値を、従来のスライス厚測定方法によるスライス厚測定値に変換することができれば、スライス厚測定方法を従来の方法から本方法に途中で切り換える場合であっても、測定値の癖を保つことができ、過去からの定期的なスライス厚測定による品質管理に一貫性を持たせることができる。
【0056】
なお、従来のスライス厚測定方法としては、例えば、ワイヤ法や傾斜板法などが挙げられる。ワイヤ法は、タングステンなどのワイヤがスライス面に対して斜めに張られたファントムを撮影して断層像を得、その断層像におけるCT値のパルス状のプロファイルの半値幅から断層像のスライス厚を求める方法である。傾斜板法は、原理はワイヤ法と同様であり、ワイヤの代わりにアルミなどの傾斜板を用いる方法である。
【0057】
また、校正曲線とは、同じスライス厚条件の設定下における、本例のスライス厚測定方法によるスライス厚測定値と、従来のスライス厚測定方法によるスライス厚測定値との対応関係を示すものであり、両法によるスライス厚測定値の相関関係を示すものである。
【0058】
ステップS11では、スライス厚t、スライス厚tの従来法による換算値t′、MTF曲線Cをそれぞれ表示する。
【0059】
このような実施形態によれば、本実施形態に係るファントム50は、タングステンワイヤやアルミ板等で構成される従来のファントムとは異なり、ある程度厚みのある部材となるので、部材52が劣化して破断することがなく、また、部材52のスロープ面を高い直線精度で加工・維持することが容易である。そのため、安定してスライス厚を測定することができる。
【0060】
また、本実施形態では、ファントムを構成する部材の表面の一部が、スライス厚方向に平行な面となっている。そのため、スライス厚測定だけでなく、MTF測定もできる。従来は、スライス厚測定とMTF測定とでそれぞれ違うファントムを用いて別々に撮影を行う必要があったが、本例では、1つのファントム50を1回撮影するだけで両方を測定することができるため、効率がよい。
【0061】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明の実施形態は、上記のものに限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の形態を取り得る。
【0062】
例えば、ファントム50の構成、部材の形状、材料は、一例であり、これらに限定されるものではない。
【0063】
例えば、本例では、ファントム50を構成する部材52が、図8(a)に示すような、三角柱部分52aを有しているが、これに代えて、図8(b)に示すような、台形を底面にした台形柱部分52a′としてもよい。また例えば、三角柱部分52aに代えて、図8(c)に示すような、多角形を底面にした多角形柱部分52a″としてもよい。
【0064】
また例えば、本例では、部材52の材料を、アクリルとしているが、他のプラスチック樹脂でもよく、あるいは、フッ素樹脂、セラミックス(ceramics)等であってもよい。
【0065】
また例えば、本例では、ファントム50は、部材52の周囲を水53で満たしているが、水の代わりに空気などの気体で満たすようにしてもよい。
【0066】
また例えば、ファントム50におけるファントムホルダ取付部やケース51は必須の構成要素ではなく、なくてもよい。
【0067】
また例えば、本例では、第1のプロファイルP1の半値幅(FWHM)からスライス厚を求めているが、他の波形幅、例えば最大波高値のN%(0<N<100,N≠50)の値をとる位置での全幅から求めてもよい。
【0068】
また例えば、本例では、スライス厚測定とMTF測定とを同時に行っているが、もちろんいずれか一方のみを測定してもよい。
【0069】
また例えば、本例では、従来法によるスライス厚換算値t′を同時に求めているが、従来法は一つに限定されず、複数の従来法について、あるいはその中から選択された幾つかの従来法について、換算値を求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 操作コンソール
2 入力装置
3 中央処理装置
5 データ収集バッファ
6 モニタ
7 記憶装置
10 撮影テーブル
12 クレードル
15 回転部
16 支持部
20 走査ガントリ
21 X線管
22 X線管コントローラ
23 コリメータ
24 X線検出器
25 データ収集装置(DAS)
26 回転部コントローラ
29 制御コントローラ
30 スリップリング
40 被検体
50 ファントム
51 ケース
52 部材
52a 三角柱部分
52a′ 台形柱部分
52a″ 多角形柱部分
52b 直方体部分
53 水
60 スライス空間
61 断層像
81 X線
P1 第1のプロファイル
P2 第2のプロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線CT装置によりファントムを撮影して断層像を得る第1のステップと、前記断層像における画素値のプロファイルに基づいて前記断層像のスライス厚を測定する第2のステップとを備えたスライス厚測定方法であって、
前記ファントムは、撮影されるスライス空間内においてスライス厚方向のX線透過性がスライス厚方向と垂直な一方向に線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しており、
前記第2のステップは、前記断層像における前記一方向の画素値のプロファイルを一次微分して得られる第1のプロファイルに基づいて、前記断層像のスライス厚を求めるステップであるスライス厚測定方法。
【請求項2】
前記部材は、前記スライス空間内においてスライス厚方向と平行になるよう形成された表面を有しており、
前記断層像における前記表面の一部を通過する方向の画素値のプロファイルを一次微分して得られる第2のプロファイルに基づいて、前記X線CT装置の空間周波数特性(MTF)を求める第3のステップをさらに備えた請求項1に記載のスライス厚測定方法。
【請求項3】
X線CT撮影用のファントムであって、
撮影空間に載置したときに、X線CT撮影されるスライス空間内におけるスライス厚方向の厚さが、スライス厚方向と垂直な一方向に対して線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しているファントム。
【請求項4】
前記部材は、前記スライス空間内における表面の一部がスライス厚方向と平行になるよう形成されている請求項3に記載のファントム。
【請求項5】
前記部材は、前記スライス空間内における、前記スライス厚方向および前記一方向と直交する方向の幅が1mm以上、10mm以下となるよう形成されている請求項3または請求項4に記載のファントム。
【請求項6】
前記部材は、前記スライス空間内における、スライス厚方向および前記一方向と平行な面による断面が、スライス厚方向に対して平行な直線と、スライス厚方向に対して垂直な直線と、スライス厚方向に対して傾いた直線とを辺として含む図形となるよう形成されている請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項7】
前記部材は、前記図形を底面とする柱形状を有する部分を含んでいる請求項6に記載のファントム。
【請求項8】
前記部材は、プラスチック樹脂である請求項3から請求項7のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項9】
ファントムを撮影して断層像を得る撮影手段と、前記断層像における画素値のプロファイルに基づいて前記断層像のスライス厚を測定するスライス厚測定手段とを備えたX線CT装置であって、
前記ファントムは、撮影されるスライス空間内におけるスライス厚方向の厚さがスライス厚方向に垂直な一方向に対して線形に変化するよう形成された部分を含む部材を有しており、
前記スライス厚測定手段は、前記断層像の前記一方向における画素値のプロファイルを一次微分して得られる第1のプロファイルに基づいて、前記断層像のスライス厚を求めるX線CT装置。
【請求項10】
前記部材は、前記スライス空間内における表面の一部がスライス厚方向と平行になるよう形成されており、
前記断層像の前記表面の一部を通過する方向における画素値のプロファイルを一次微分して得られる第2のプロファイルに基づいて、前記X線CT装置の空間周波数特性(MTF)を測定する特性測定手段をさらに備えた請求項9に記載のX線CT装置。
【請求項11】
ワイヤを含むファントムを撮影して断層像のスライス厚を測定する方法を用いて求められるスライス厚と、前記スライス厚測定手段により求められるスライス厚との相関関係を示す情報に基づいて、前記スライス厚測定手段により求められたスライス厚を、前記方法を用いて求めた場合のスライス厚に変換する変換手段をさらに備えている請求項9または請求項10に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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