説明

スラストころ軸受

【課題】回転が停止状態であっても、ころと一対のレースとが同じ位置に当接し続けないようにして、フレッチング摩耗の発生を防ぐことができる、耐久性に優れたスラストころ軸受を提供する。
【解決手段】スラストころ軸受であって、一対のインナレース12とアウタレース13ところ14と保持器15を備え、インナレース12は回転軸に固定され、アウタレース13はハウジング6に回転自在に支持され、アウタレース13のころの転走面の反対面には、放射状に多数の羽根状突起28が形成され、回転軸16の回転中はインナレース12とアウタレース13との間の流路に潤滑油を供給し、アウタレース12とハウジング6との間の流路への潤滑油の供給を停止し、回転軸16の停止中はインナレース12とアウタレース13との間の流路への潤滑油の供給を停止し、アウタレース13とハウジング6との間の流路に潤滑油を供給するよう制御するオイル制御部40を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車のトランスミッション等で使用されるスラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
スラストころ軸受は、例えば、自動車のトランスミッション等の回転部分に装着され、回転軸に作用するスラスト荷重を支承するものである。ともに円環状に形成され、一対となったインナレースおよびアウタレースと、インナレースとアウタレースとの間に配置された複数のころと、複数のころを放射状に配置する保持器とを備えている。このインナレースとアウタレースとが相対的に回転するとき、ころは自転しながら公転する。一方、各レースに相対的な回転がない状態において、ころは一対のレースの同じ位置に当接したままスラスト力を支承するため、例えば、軸方向に垂直方向の微少振動等によって、かかる支承部の油膜が途切れて、金属接触が発生することがある。また、このような現象は、軸受が回転していない停止状態において、同様に軸受に微少振動が負荷されている場合にも発生することがある。このような金属接触は、いわゆるフレッチング摩耗の発生要因となり、スラストころ軸受の耐久性を低下させている。例えば、特許文献1では、かかる金属接触を防止するため、一対のレースが同期回転するとき、あるいは回転の停止状態で微少振動が負荷されるとき、ころがレースの同じ位置に当接し続けないようにする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−339322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、一対のレースをそれぞれ重力によって径方向に移動自在とし、それぞれの移動量に差を設けることにより、鉛直上部片面におけるころはレースの外周寄りの位置に当接し、一方、鉛直下部片面におけるころはレースの内周寄りの位置に当接するようにしたものである。そして、振動等によってかかる当接部に作用し、多少なりとも不均等になる周方向の摩擦力により、レースや保持器が少しずつとは言え回転する傾向とするものである。
【0005】
このため、一対のレースが相対回転するとき、一対のレースは、それぞれ一旦偏位した方向に偏位し続ける、あるいは、それぞれ外周側に寄ったり、内周側に寄ったり、勝手に偏位するため、ころの自転や公転が円滑でなくなるおそれがあるという問題があった。また、一対のレースのそれぞれの移動量を規制する手段を、一対のレースの双方に対して、それぞれ設ける必要が生じるため、製造コストが上昇するという問題があった。さらに、レースを略水平にして使用する場合には、レースの移動量に差がつかないため、所望の効果が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、回転が停止状態で微少振動が負荷されていても、ころの特定面が一対のレースの同じ位置に当接し続けないようにして、フレッチング摩耗の発生を防ぐことができる、耐久性に優れたスラストころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、自動車のトランスミッション等の回転部分に装着してスラスト荷重を支承するスラストころ軸受であって、ともに円環状に形成されたインナレースおよびアウタレースと、前記インナレースと前記アウタレースとの間に配置された複数のころと、複数の前記ころを保持する保持器とを備え、前記インナレースは回転軸に固定され、前記アウタレースはハウジングに回転自在に支持され、前記アウタレースと前記ハウジングとの間及び前記アウタレースと前記ハウジングとの間には、潤滑油の流路が形成され、前記アウタレースの前記ころの転走面の反対面には、放射状に多数の羽根状突起が形成され、前記回転軸の回転中は、前記インナレースと前記アウタレースとの間の流路に潤滑油を供給し、前記アウタレースと前記ハウジングとの間の流路への潤滑油の供給を停止し、前記回転軸の停止中は、前記インナレースと前記アウタレースとの間の流路への潤滑油の供給を停止し、前記アウタレースと前記ハウジングとの間の流路に潤滑油を供給するよう制御するオイル制御部を備えたことを特徴とする。
【0008】
本請求項のスラストころ軸受は、インナレースは回転軸に固定され、アウタレースはハウジングに回転自在に支持されている。そして、軸受内の潤滑油の流路を制御するオイル制御部は、回転軸が回転停止状態となると、インナレースとアウタレースとの間との間に形成された流路に流していた潤滑油を止めて、アウタレースとハウジングとの間に形成された流路へ潤滑油を流す。アウタレースに形成された羽根状突起は、この潤滑油の流れを受けることにより、アウタレースを回転させる。従って、回転が停止状態であっても、アウタレースを回転させて、ころを自転および公転させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転が停止状態であってもアウタレースを回転させて、ころを自転および公転させることにより、ころと一対のレースとが同じ位置に当接し続けないようにして、フレッチング摩耗の発生を防ぐことができる、耐久性に優れたスラストころ軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態のスラストころ軸受を示す要部側面断面図。
【図2】本発明の実施形態のスラストころ軸受を示す軸方向断面図。
【図3】本発明の実施形態のスラストころ軸受のオイル制御部の構成および動作を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明のスラストころ軸受の要部側面断面図であり、図2は図1のスラストころ軸受のA−Aの軸方向断面図である。図3は、図1のスラストころ軸受のオイル制御部の構成および動作の説明図である。
【0012】
図1に示すように、スラストころ軸受10は、環状に形成され、回転軸16の端面7に当接するインナレース12と、環状に形成されて回転軸16の端面に平行なハウジング6の内面に回転自在に支持されるアウタレース13と、インナレース12とアウタレース13の間に配置された複数のころ14と、複数のころ14を保持する保持器15と、軸受内部に供給する潤滑油を制御するオイル制御部40を備えている。
【0013】
このようなスラストころ軸受10では、インナレース12が駆動側(回転側)に、アウタレース13が被駆動側(固定側)に配置されることがあり、また、アウタレース13が駆動側(回転側)に、インナレース12が被駆動側(固定側)に配置されることもある。
【0014】
インナレース12は、断面が略L字形状となっており、回転軸16の軸線に直交するインナレース本体部21と、このインナレース本体部21の内径部からアウタレース13側に延在する短円筒状の折曲げ部22と、折曲げ部22の端部から径方向外方へ延在する保持器抜止め用の環状突起23とからなる。
【0015】
アウタレース13は、断面が略J字形状となっており、インナレース12に対し、ころ14を挟んで略対称に形成されており、回転軸16の軸線に直交するアウタレース本体部24と、アウタレース本体部24の外径部からインナレース12側に延在する短円筒状の折曲げ部25と、折曲げ部25の端部から径方向内方へ延在する保持器抜止め用の環状突起26と、アウタレース本体部24の内径部からインナレース12の反対側に延在する短円筒状の折曲げ部29とからなる。この折曲げ部29には、アウタレース13の背面側13aに潤滑油を流入させるための通孔27が周方向に複数形成されている。
【0016】
また、図2に示すように、アウタレース13の背面側13aとなるころ14の転走面の反対面には、径方向に湾曲した羽根状突起28が放射状に等間隔に多数形成されている。アウタレース13は、折曲げ部25にてハウジング6と摺接するとともに、折曲げ部29において回転軸16と摺接し、ハウジング6及び回転軸16に対し、回転自在に支持されている。このインナレース12およびアウタレース13は、鋼板をプレス成形することによって一体に形成されている。
【0017】
複数のころ14は、軸受中心を中心として放射状に配置されるとともに、保持器15のポケット34に軸方向の両側へ抜け出さないように保持され、その周面がインナレース12およびアウタレース13の各本体部21,24の内面に当接させられている。
【0018】
保持器15は、薄い鋼板を素材として打ち抜き、プレス成形加工によって一体加工したもので、内径側環状板31と、外径側環状板32と、これら両環状板31,32の周方向に所定の間隔を隔てて掛け渡された複数の柱部33と、これら隣接する柱部33の間に形成された複数のポケット34とを備えている。保持器15は、径方向に複数回屈曲させられており、これにより、各柱部33は、断面略M字状に形成されている。
【0019】
図1に示すように、インナレース12とアウタレース13とは、インナレース12の突起23がアウタレース本体部24と非接触となるように、また、アウタレース13の突起26がインナレース本体部21と非接触となるように、保持器15を介して組み付けられている。インナレース12の突起23の外径は、保持器15の内径側環状板31の内径よりも大きくなされており、また、アウタレース13の突起26の内径は、保持器15の外径側環状板32の外径よりも小さくなされており、これにより、保持器15と各レース12,13とが軸方向に分離できないようにしている。
【0020】
このスラストころ軸受10によると、ころ14と各レース本体部21,24とによって、回転軸16の軸線方向の荷重を支えることができ、この状態でインナレース12およびアウタレース13が相対回転すると、ころ14が回転し、回転軸16に対する摩擦抵抗が軽減される。
【0021】
スラストころ軸受10の潤滑油は、潤滑油供給装置(図示せず)から、回転軸16の外周に設けられた複数の第1供給孔16bおよび第2供給孔16cから、それぞれオイル制御部40を介して、軸受内部に供給される。このオイル制御部40は、第1制御弁50と第2制御弁60とから構成される。
【0022】
第1制御弁50を介して、軸受内部に供給された潤滑油は、インナレース12とアウタレース13の間を放射状に貫通し、ころ14および保持器15を潤滑し、インナレース12の外径部とアウタレース13の折曲げ部25との間から排出される。また、第2制御弁60を介して、軸受内部に供給された潤滑油は、アウタレース13の背面側13aを放射状に貫通し、ハウジング6の外径部とアウタレース13の折曲げ部25との間から排出される。
【0023】
図1に示すように、第1制御弁50は、インナレース12とアウタレース13の間の開口部に配置され、インナレース12とアウタレース13の間の潤滑油の供給を制御する。第2制御弁60は、アウタレース13の背面側13aに配置され、アウタレース13の背面側13aの潤滑油の供給を制御する。
【0024】
第1制御弁50は、流入孔51aが回転軸16に形成された第1供給孔16bと連通し、排出孔52aがインナレース12とアウタレース13の間に形成された開口部と連通するように配置される。従って、第1制御弁50は、弁が開放状態において、インナレース12とアウタレース13の間に潤滑油を供給する。
【0025】
第2制御弁60は、流入孔62aが回転軸16に形成された第2供給孔16cと連通し、排出孔61aがアウタレース13の折曲げ部に形成された通孔27と連通するように配置される。従って、第2制御弁60は、弁の開放状態において、アウタレース13の背面側13bに潤滑油を供給する。
【0026】
図2に示すように、回転軸16の外周には、第2供給孔16cが周方向に等間隔に形成されており、第2制御弁60は、流入孔62aと第2供給孔16cが連通するように、周方向に等間隔に配置される。
【0027】
図1に示すように、オイル制御部40を構成する第1制御弁50と第2制御弁60は、隣接して配置されており、図示していないが、回転軸16の外周には、第1供給孔16cが第2供給孔16cに隣接して周方向に等間隔に形成されており、第1制御弁50は、流入孔51aと第2供給孔16cが連通するように、周方向に等間隔に配置される。
【0028】
次に、オイル制御部40を構成を説明する。
図3(a)は、スラストころ軸受10の回転状態におけるオイル制御部40を示しており、下側が第1制御弁50であり、上側が第2制御弁60となっている。図3(b)は、停止状態のオイル制御部を示している。図中の細線矢印は、潤滑油の流れを示しており、太線矢印は、スラストころ軸受10が回転状態のときに発生する遠心力Fが作用する方向を示している。なお、図面右側が回転軸16の軸部側であり、図面左側がころ14および保持器15側である。
【0029】
図3(a)の下側に示すように、第1制御弁50は、第1ハウジング51と、第2ハウジング52と、ダイアフラム53とから構成されている。第2ハウジング52は、略円筒形状の第1ハウジング51に嵌め込まれた構造となっている。
【0030】
第1ハウジング51は、略円筒状の部材である。第1ハウジング51の円筒の一方の面には、流入孔51aが設けられ、他方の面には第1開口部51cが設けられている。この流入孔51aの内方の周縁は、弁座51bが形成されている。
【0031】
第2ハウジング52は、第1ハウジング51より一回り小さな略円筒形状の部材である。第2ハウジング52の円筒の一方の面には、第2開口部52cが設けられ、他方の面には、排出孔52aが設けられている。
【0032】
ダイアフラム53は、鋼等からなる円盤状の弾性部材であり、中央に略円錐状の弁体54を有し、周縁に支持部53bを有している。このダイアフラム53は、弾性変形していない状態において、弁体54を有する中央部が周縁より高くなっている。また、弁体54と周縁の支持部53bとの間の環状部には、透孔53aが数箇所形成されている。ダイアフラム53は、弁体54を有する面を第1ハウジング51の第1開口部51cに向けて、第1ハウジング51と第2ハウジング52の間に配置される。第1ハウジング51に第2ハウジング52が嵌め込まれることにより、ダイアフラム53は、第1開口部51cと第2開口部52cに挟持され、可撓可能に支持される。
【0033】
第1ハウジング51に第2ハウジング52が嵌め込まれた組付け状態において、ダイアフラム53上の弁体54は、先端面54aと第1ハウジング51の弁座51bとが当接するように配置される。つまり、組付け状態および停止状態では、弁は閉鎖状態になっている。そして、ダイアフラム53が弾性変形することにより、弁体54の先端面54aと第1ハウジング51の弁座51bとの間に隙間が形成され、弁が開放状態となる。弁体54は、ニトリルゴム等からなる弾性部材であり、ダイアフラム53に圧着して固定されている。
【0034】
図3(a)の上側に示すように、第2制御弁60は、第1制御弁50とほぼ同等の構成となっており、第1ハウジング61と、第2ハウジング62と、ダイアフラム63とから構成されている。第2ハウジング62は、略円筒形状の第1ハウジング61に嵌め込まれた構造となっている。
【0035】
第1ハウジング61は、略円筒状の部材である。第1ハウジング61の円筒の一方の面には、排出孔61aが設けられ、他方の面には第1開口部61cが設けられている。排出孔61aの内方の周縁は、弁座61bが形成されている。
【0036】
第2ハウジング62は、第1ハウジング61より一回り小さな略円筒形状の部材である。第2ハウジング62の円筒の一方の面には、流入孔62aが設けられ、他方の面には第2開口部62cが設けられている。
【0037】
ダイアフラム63は、鋼等からなる円盤状の弾性部材であり、中央に略円錐状の弁体64を有し、周縁に支持部63bを有している。このダイアフラム63は、弾性変形していない状態において、弁体64を有する中央部が周縁より低くなっている。また、弁体64と周縁の支持部63bとの環状部分には、透孔63aが数箇所形成されている。ダイアフラム63は、弁体64を有する面を第1ハウジング61の開口部61cに向けて、第1ハウジング61と第2ハウジング62の間に配置される。第1ハウジング61に第2ハウジング62が嵌め込まれることにより、ダイアフラム63は、第1開口部61cと第2開口部62cに挟持され、可撓可能に支持される。弁体64は、ニトリルゴム等からなる弾性部材であり、ダイアフラム63に圧着して固定されている。
【0038】
第1ハウジング61に第2ハウジング62が嵌め込まれた組付け状態において、ダイアフラム63上の弁体64は、先端面64aと第1ハウジング61の弁座61bとの間に隙間が形成されるように配置される。つまり、組付け状態および停止状態では、弁は開放状態となっている。そして、ダイアフラム63が弾性変形することにより、弁体64の先端面64aと第1ハウジング61の弁座61bとが当接され、弁が閉鎖状態となる。
【0039】
このように、第2制御弁60は、第1制御弁50とほぼ同等な構成であるが、配置が第1制御弁50と第2制御弁60は異なっている。第1制御弁50は、回転軸16に設けられた第1供給孔16bと流入孔51aが連通するように、第1ハウジング51を軸側として配置される。第2制御弁60は、回転軸16に設けられた第2供給孔16cと流入孔62aが連通するように、第2ハウジング62を軸側として配置される。
【0040】
上記のように構成されるスラストころ軸受10の動作を説明する。
図3(a)に示すように、回転軸16が回転状態の場合、オイル制御部40の第1制御弁50において、遠心力Fが外力として弁体54に作用する。これにより、弁体54は径方向外方へ移動することにより、ダイアフラム53が弾性変形し、弁体54の先端面54aと第1ハウジング51の弁座51bとの間に隙間が形成され、弁は開放状態となる。
【0041】
一方、第2制御弁60では、回転軸16の回転による遠心力Fが外力として弁体54に作用する。これにより、弁体64が径方向外方へ移動することにより、ダイアフラム63が弾性変形し、弁体64の先端面64aと第1ハウジング61の弁座61bとが当接され、弁は閉鎖状態となる。
【0042】
回転軸16が回転状態にあるときに、軸受に供給された潤滑油は、回転軸16に形成された第1供給孔16bと連通する流入孔51aから第1制御弁50に流入すると同時に、回転軸16に形成された第2供給孔16cと連通する流入孔62aから第2制御弁60に流入する。第1制御弁50に流入した潤滑油は、ダイアフラム53に形成された透孔53aを経由して、開放状態となった弁を介して、排出孔52aからインナレース12とアウタレース13の間へ排出される。第2制御弁60に流入した潤滑油は、ダイアフラム63に形成された透孔53aを経由した後、閉鎖状態となった弁により、排出が止められる。このように、回転軸16が回転状態では、潤滑油はインナレース12とアウタレース13の間へ流れ、アウタレース13の背面側13aへは流れないように制御される。
【0043】
図3(b)に示すように、回転軸16が停止状態の場合、オイル制御部40の第1制御弁50において、弁体54に作用する外力はなく、ダイアフラム53が弾性変形し、弁体54が径方向内方へ移動することにより、弁体54の先端面54aと第1ハウジング51に形成された弁座51bとの隙間が閉じられ、弁は閉鎖状態となる。
【0044】
一方、第2制御弁60では、弁体64に作用する外力はなく、ダイアフラム63が弾性変形し、弁体64が径方向外方へ移動することにより、弁体64の先端面64aと第1ハウジング61に形成された弁座61bとの間の隙間が形成され、弁は開放状態となる。
【0045】
回転軸16が停止状態にあるときに、軸受に供給された潤滑油は、回転軸16に形成された第1供給孔16bと連通する流入孔51aから第1制御弁50に流入すると同時に、回転軸16に形成された第2供給孔16cと連通する流入孔62aから第2制御弁60に流入する。第1制御弁50に流入した潤滑油は、ダイアフラム53に形成された透孔53aを経由した後、閉鎖状態となった弁により、排出が止められる。第2制御弁60に流入した潤滑油は、ダイアフラム63に形成された透孔53aを経由して、開放状態となった弁を介して、排出孔61aからアウタレース13の背面側13aへ排出される。このように、回転軸16が回転状態では、潤滑油はアウタレース13の背面側13aへ流れ、インナレース12とアウタレース13の間へは流れないように制御される。
【0046】
以上説明した実施形態によれば、次に示す効果が得られる。
回転軸16が停止状態の場合であっても、オイル制御部40により、潤滑油はアウタレース13の背面側13aを流れる。このアウタレース13の背面側13aへ流れる潤滑油は、径方向の内方から外方へ向かって放射状に流れ、アウタレース13の背面側13aに形成された羽根状突起28に対し、径方向外方に押し出す力として作用する。アウタレース13はハウジング6に回転自在に支持されているので、羽根状突起28に作用する径方向外方に押し出す力のうち周方向の成分により、アウタレース13は周方向に回転する。
【0047】
回転するアウタレース13は、ころ14を周方向に自転及び公転させるので、ころ14と一対レース12,13との当接面は同じ位置に当接し続けることがない。従って、フレッチング摩耗の発生を防ぐことができる。
【0048】
以上、本発明のスラストころ軸受を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0049】
上記実施の形態では、制御弁は、回転軸が回転状態の場合に弁体に発生する遠心力と、弁体を支持する弾性部材の弾性変形とにより制御されており、弾性部材にはダイアフラムを用いているが、コイルばね等の他の弾性部材を使用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
4:外輪、 5:内輪、 6:ハウジング、 7:端面、
10:スラストころ軸受
12:インナレース、 13:アウタレース、13a:背面側、
14:ころ、 15:保持器、
16:回転軸、 16a:中空部、 16b:第1供給孔、 16c:第2供給孔、
21:本体部(インナレース)、 22:折曲げ部、 23:環状突起、
24:本体部(アウタレース)、 25:折曲げ部、 26:突起、
27:通孔、 28:羽根状突起、 29:折曲げ部、
31:内径側環状板、 32:外径側環状板、 33:柱部、 34:ポケット、
40:オイル制御部、
50:第1制御弁、
51:第1ハウジング、 51a:流入孔、 51b:弁座面、 51c:第1開口部、
52:第2ハウジング、 52a:排出孔、 52c:第2開口部、
53:ダイアフラム、 53a:透孔、 53b:支持部、
54:弁体、 54a:先端面、
60:第2制御弁、
61:第1ハウジング、 61a:排出孔、 61b:弁座面、 61c:第1開口部、
62:第2ハウジング、 62a:流入孔、 62c:第2開口部、
63:ダイアフラム、 63a:透孔、 63b:支持部、
64:弁体、 64a:先端面、
F:遠心力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のトランスミッション等の回転部分に装着してスラスト荷重を支承するスラストころ軸受であって、
ともに円環状に形成されたインナレースおよびアウタレースと、
前記インナレースと前記アウタレースとの間に配置された複数のころと、
複数の前記ころを保持する保持器と
を備え、
前記インナレースは回転軸に固定され、
前記アウタレースはハウジングに回転自在に支持され、
前記アウタレースと前記ハウジングとの間及び前記アウタレースと前記ハウジングとの間には、潤滑油の流路が形成され、
前記アウタレースの前記ころの転走面の反対面には、放射状に多数の羽根状突起が形成され、
前記回転軸の回転中は、
前記インナレースと前記アウタレースとの間の流路に潤滑油を供給し、
前記アウタレースと前記ハウジングとの間の流路への潤滑油の供給を停止し、
前記回転軸の停止中は、
前記インナレースと前記アウタレースとの間の流路への潤滑油の供給を停止し、
前記アウタレースと前記ハウジングとの間の流路に潤滑油を供給する
よう制御するオイル制御部を備えたことを特徴とするスラストころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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