説明

スラスト軸受

【課題】相手部材に対して短時間にワンタッチで、簡単かつ確実に組み込むことが可能なレースを有する組込性に優れた低コストのスラスト軸受を提供する。
【解決手段】相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれるスラスト軸受であって、相手部材Hに組み込まれる中空円環状のレース2と、レースに沿って構成された軌道面2s上を転動する複数の転動体4とを備える。レースには、その内径側或いは外径側に、周方向に沿って所定間隔で複数の爪部8pが突出して設けられており、相手部材にレースを組み込む際、当該相手部材によって弾性変形された各爪部が、当該相手部材に対して突っ張り力を作用させることで、当該レースを相手部材に位置決め固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にアキシアル荷重(或いは、アキシアル荷重及びラジアル荷重の双方の荷重)を支えて回転するスラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のオートマチックトランスミッション(AT)をはじめ、部材相互が相対回転する部分(具体的には、相対回転する部材相互間)には、各種のスラスト軸受が適用されている。なお、オートマチックトランスミッション(AT)とは、自動車の速度やエンジンの回転数に応じて、変速比を自動的に切り替える(即ち、シフトチェンジを自動的に行う)自動変速機のことを指す。
【0003】
このようなスラスト軸受には、その構成であるレースを相手部材に組み込んで嵌合させるために、当該レースに突起を設けると共に、その突起が係合可能な凹溝を相手部材に設け、これら突起と凹溝とを互いに係合させることで、当該スラスト軸受を部材相互間に組み込むといった組込技術が適用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US5647675A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したような従来の組込技術では、レースに突起を設けるだけでなく、相手部材にも、当該突起の位置や寸法(例えば、大きさ、形状)等に応じた設計の凹溝を別途設けなければならない。この場合、当該スラスト軸受自体の製造コストがかかるだけでなく、相手部材に凹溝を設けるための加工コストが別途加算されることとなる。そうなると、当該スラスト軸受を部材相互間に組み込むために要するコストが上昇してしまう。
【0006】
特に、レースを相手部材の所定位置に正確に組み込むためには、上記した突起と凹溝との位置合せや寸法管理などについて高い精度が要求され、これら突起及び凹溝を設けるためのプロセスに手間や時間がかかるため、その分だけ、さらに当該スラスト軸受を部材相互間に組み込むために要するコストが上昇してしまう。
【0007】
更に、上記したような従来の組込技術では、スラスト軸受を部材相互間に組み込む際には、その前段階において、上記した突起を凹溝に沿わすようにレースを相手部材に組み込む必要がある。この場合、レースを相手部材に組み込む環境や周辺構成によっては、その組込処理にある程度の熟練が必要な場合も想定される。
【0008】
そうなると、熟練の程度によっては、レースを相手部材に組み込むために要する時間が長期化し、その結果、部材相互間に対するスラスト軸受の組込性が著しく低下してしまう場合がある。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、相手部材に対して短時間にワンタッチで、簡単かつ確実に組み込むことが可能なレースを有する組込性に優れた低コストのスラスト軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれるスラスト軸受であって、相手部材に組み込まれる中空円環状のレースと、レースに沿って構成された軌道面上を転動する複数の転動体とを備え、レースには、その内径側或いは外径側に、周方向に沿って所定間隔で複数の爪部が突出して設けられており、相手部材にレースを組み込む際、当該相手部材によって弾性変形された各爪部が、当該相手部材に対して突っ張り力を作用させることで、当該レースを相手部材に位置決め固定させる。
本発明において、各爪部は、レースに装着可能なアダプタに一体的に設けられており、アダプタは、軌道面を回避した位置で、レースに接合されている。
本発明において、アダプタは、周方向に沿って連続して構成された中空円環状を成しており、各爪部は、当該アダプタの内径側或いは外径側に、周方向に沿って所定間隔で突出して設けられている。
本発明において、アダプタは、レースの周方向に沿って所定間隔で複数設けられており、各爪部は、各アダプタにそれぞれ少なくとも1つずつ設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相手部材に対して短時間にワンタッチで、簡単かつ確実に組み込むことが可能なレースを有する組込性に優れた低コストのスラスト軸受を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るスラスト軸受の構成を示す断面図、(b)は、一実施形態に係るアダプタの構成を示す平面図、(c)は、一実施形態に係るアダプタの他の構成を示す平面図、(d)は、レースと共にスラスト軸受が相手部材に組み込まれた状態を示す断面図。
【図2】(a)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の構成を示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の構成を示す断面図。
【図3】(a)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の主要な構成を示す断面図、(b)は、同図(a)に示されたスラスト軸受の主要な構成の斜視図。
【図4】(a)は、本発明の他の実施形態に係るスラスト軸受の構成を示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の構成を示す断面図、(c)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の構成を示す断面図、(d)は、本発明の変形例に係るスラスト軸受の構成を示す断面図。
【図5】(a)は、他の実施形態に係るスラスト軸受のアダプタの構成を示す平面図、(b)は、他の実施形態に係るスラスト軸受のアダプタの他の構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るスラスト軸受について添付図面を参照して説明する。なお、図1(a),(d)、図2(a),(b)、図3(a)の各添付図面では、スラスト軸受の構成が断面して示されているが、その構成を視覚的に理解し易くするために、断面を表すハッチングが省略されている。
【0014】
図1(a)には、1枚レース形のスラスト軸受が示されており、当該スラスト軸受は、相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれるようになっている。ここで、相対回転に対向配置された部材としては、例えば、一方の部材(相手部材とも言う)を非回転のハウジングH(図1(d)参照)とし、他方の部材(図示しない)を回転部材(又は、回転軸)として規定することができる。
【0015】
この場合、スラスト軸受は、相手部材(ハウジング)Hに組み込まれる中空円環状のレース2と、レース2に沿って構成された中空円環状の軌道面2s上を転動する複数の転動体4と、複数の転動体4を回転可能に保持しながら、当該各転動体4と共にレース2に沿って公転する保持器6とを備えている。
【0016】
複数の転動体4としては、「玉」又は「ころ」を適用することができるが、ここでは一例として、その直径が小さく、長さが直径の3〜10倍という細長いころを想定する。また、保持器6としては、複数の転動体(ころ)4をレース2に沿って1つずつ回転可能に保持できるものであればよい。なお、保持器6には、周方向に沿って等間隔で複数のポケット6pが構成されており、複数の転動体(ころ)4は、各ポケット6pに1つずつ回転可能に保持される。
【0017】
レース2は、中空円板状のレース本体部2aと、このレース本体部2aの外径側から連続し、複数の転動体(ころ)4を保持した状態の保持器6を、外径側から覆うように延出した中空円筒状の外径側リップ部2bとを有している。なお、レース本体部2aは、スラスト軸受の回転軸(図示しない)に直交する方向に沿って平行に配置されており、一方、外径側リップ部2bは、スラスト軸受の回転軸の方向に沿って平行に配置されている。
【0018】
このようなスラスト軸受において、レース2には、その外径側に、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で複数の爪部8pが突出して設けられており、各爪部8pは、レース2に装着可能なアダプタ8に一体的に設けられている。
【0019】
この場合、各爪部8pは、アダプタ8と共に一体成形してもよいし、或いは、アダプタ8とは別体で成形した各爪部8pを、アダプタ8に後付けしてもよい。いずれの場合も、少なくとも各爪部8pは、ばね鋼材で成形することが好ましい。アダプタ8の全体を、ばね鋼材で成形してもよいことは言うまでもない。なお、ばね鋼材とは、例えば、炭素系、シリコンマンガン系、マンガンクロム系、クロムバナジウム系などの鋼材を含む概念である。
【0020】
アダプタ8は、周方向に沿って連続して構成された中空円板状のアダプタ本体8aを有しており、各爪部8pは、当該アダプタ本体8aの外径側に、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で突出して設けられている。
【0021】
この場合、アダプタ本体8aの外径側に設けられる爪部8pの個数については、例えばレース2自体の形状や大きさや、当該レース2を組み込む相手部材(ハウジング)Hの形状、或いは、スラスト軸受の使用目的や使用環境などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。例えば周方向に沿って等間隔に爪部8pを4個設けてもよいし(図1(b)参照)、或いは、例えば周方向に沿って等間隔に爪部8pを3個設けてもよい(図1(c)参照)。
【0022】
また、各爪部8pの形状については、図面では一例として、矩形状のものが示されているが、これに限定されることはなく、例えば、三角形状、楕円形状、円弧形状、台形状など各種の形状に設定することができる。更に、各爪部8pの肉厚や突出量(突出長さ)、周方向幅(周方向長さ)については、当該爪部8pが一定の強度(剛性)を維持しつつ、かつ、弾性変形可能となる程度に設定すればよい。
【0023】
ここで、外径側に複数の爪部8pが周方向に沿って等間隔で突出して設けられたアダプタ8(アダプタ本体8a)において、各爪部8pは、中空円板状の当該アダプタ本体8aの外径側から末広がり状に傾斜して設けられている。そして、アダプタ8は、そのアダプタ本体8aを、レース2のレース本体部2aに装着させることで、当該レース2に一体化されている。なお、各爪部8pの末広がり傾斜角度は、当該各爪部8pを屈曲させることで、任意に設定することができる。
【0024】
アダプタ8をレース2に装着させる場合には、まず、アダプタ8の各爪部8pがレース2の外径側リップ部2bの外周に沿って回り込むように、当該アダプタ8のアダプタ本体8aをレース2のレース本体部2aに当接させる。次に、互いに当接し合ったアダプタ8とレース2とを(具体的には、アダプタ本体8aとレース本体2aとを)接合させる。これにより、アダプタ8をレース2に装着させることができる。
【0025】
アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させる方法としては、例えば、スポット溶接や、接着剤による接着など既存の接合方法を適用すればよい。この場合、接合位置としては、接合処理に際してレース2の軌道面2sが変形等するのを防止すべく、当該軌道面2sを回避した位置で、アダプタ8とレース2とを互いに接合させることが好ましい。なお、当該軌道面2sを回避した位置であれば、任意の位置を接合位置として設定することができる。
【0026】
図面では一例として、アダプタ本体8aとレース本体2aとの間において、その内径側に沿って周方向に所定間隔(例えば、等間隔)で、複数個所に亘ってスポット溶接が施された箇所Wが示されている。なお、スポット溶接とは、2枚の母材(アダプタ本体8a、レース本体2a)を圧着しつつ電流を流し、その抵抗熱で金属を溶かして接合する既存の接合法である。この場合、周方向全周に亘って連続してスポット溶接を施してもよい。
【0027】
このようにアダプタ8をレース2に装着させた状態において、レース2(具体的には、外径側リップ部2b)の外径側に、周方向に沿って等間隔で複数の爪部8pが、所定の末広がり傾斜角度で突出して設けられたスラスト軸受が構成される。この場合、各爪部8pの末広がり傾斜角度は、当該各爪部8pと外径側リップ部2bとの成す角度として規定され、当該各爪部8pを屈曲させることで、任意に増減変更することができる。
【0028】
そして、当該スラスト軸受を、相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込む場合には、そのレース2を、相手部材(ハウジング)Hに組み込めばよい。ここでは一例として、相手部材(ハウジング)Hに予め、レース2の外径よりも大きな内径で円環状の凹所Hp(図1(d)参照)が形成されている状態において、当該凹所Hpにレース2を組み込む場合を想定する。
【0029】
このとき、凹所Hpとレース2(外径側リップ部2b)との間に、比較的大きな隙間が介在するような場合には、その隙間に応じて、各爪部8pの末広がり傾斜角度を大きくすればよい。これに対して、凹所Hpとレース2(外径側リップ部2b)との間に、比較的小さな隙間が介在するような場合には、その隙間に応じて、各爪部8pの末広がり傾斜角度を小さくすればよい。要するに、相手部材(ハウジング)Hの構成に応じて、各爪部8pの末広がり傾斜角度を設定すればよい。
【0030】
ここで、相手部材(ハウジング)Hの凹所Hpにレース2を組み込む際、当該相手部材(ハウジング)Hによって各爪部8pは弾性変形される。このとき、各爪部8pには、その弾性変形に応じた反力(戻り力)が蓄積され、レース2が凹所Hpに完全に組み込まれたとき、それまでに蓄積された反力(戻り力)が、弾性変形された各爪部8pから相手部材(ハウジング)Hに働く。
【0031】
このとき、各爪部8pが、当該相手部材(ハウジング)Hに対して突っ張り力を作用させることで、当該レース2を相手部材(ハウジング)Hに位置決め固定させる。これにより、当該レース2の相手部材(ハウジング)Hからの脱落が防止された状態で、当該スラスト軸受を相手部材(ハウジング)Hに対して堅牢に固定することができ、その結果、当該スラスト軸受を相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込むことができる。
【0032】
図1(d)には、レース2を相手部材(ハウジング)Hに形成された円環状の凹所Hpに組み込むことで、当該スラスト軸受が相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれた状態が示されている。なお図面には、部材相互のうち、一方の部材(相手部材)としての非回転のハウジングHのみが示されており、他方の部材としての回転部材(又は、回転軸)は省略されている。
【0033】
この状態において、保持器6で保持された複数の転動体(ころ)4は、それぞれ、レース2の軌道面2sと、回転部材(又は、回転軸)との間に沿って接触しつつ回転可能となる。この状態で、双方の部材が相対回転すると、複数の転動体(ころ)4が、レース2の軌道面2sと、回転部材(又は、回転軸)との間に沿って転動することで、双方の部材は円滑に相対回転し続けることができる。
【0034】
以上、本実施形態によれば、周方向に沿って所定間隔で複数の爪部8pが突出して設けられたレース2を相手部材(ハウジング)Hに組み込むだけで、当該スラスト軸受を相対回転可能に対向配置された部材相互間に確実に組み込むことができる。この場合、従来のように、レースに突起を設けると共に、当該突起の位置や寸法(例えば、大きさ、形状)等に応じた設計の凹溝を別途設ける必要はない。これにより、当該スラスト軸受を部材相互間に組み込むために要するコストを大幅に低減することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、相手部材(ハウジング)Hの構成に応じて、各爪部8pの傾斜角度を設定するだけで、レース2を相手部材(ハウジング)Hに組み込む際、当該相手部材(ハウジング)Hによって弾性変形された各爪部8pが、当該相手部材(ハウジング)Hに対して突っ張り力を作用させることで、当該レースを相手部材(ハウジング)Hに簡単かつ確実に位置決め固定させることができる。
【0036】
この場合、相手部材(ハウジング)Hとレース2の各爪部8pとの間において、従来のような高い精度の位置合せや寸法管理などが不要となる。これにより、これら各爪部8p及び凹所Hpを設けるためのプロセスが簡略(簡素)化され、その分だけ、さらに当該スラスト軸受を部材相互間に組み込むために要するコストを大幅に低減することができる。
【0037】
更に、本実施形態によれば、スラスト軸受を部材相互間に組み込む際、レース2を相手部材(ハウジング)Hに対して短時間にワンタッチで組み込むことができる。この場合、レース2を相手部材(ハウジング)Hに組み込む環境や周辺構成が煩雑であっても、その組込処理に要する熟練の程度は不要となる。これにより、レース2を相手部材(ハウジング)Hに組み込むために要する時間を大幅に短縮化されるため、部材相互間に対するスラスト軸受の組込性を飛躍的に向上させることができる。
【0038】
なお、上記した一実施形態では、1枚レース形のスラスト軸受を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図2(a)に示すように、2枚レース形のスラスト軸受にも上記した一実施形態の構成を適用し、同様の効果を実現することができる。ここで、2枚レース形のスラスト軸受には、レース2に対向し、かつ、保持器6で保持された複数の転動体(ころ)4を挟んで反対側に配置され、上記した他方の部材としての回転部材(又は、回転軸)に組み込まれる中空円環状のレース10が設けられている。
【0039】
また、上記した一実施形態では、アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させる方法として、アダプタ本体8aとレース本体2aとをスポット溶接する場合を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図2(b)に示すように、アダプタ本体8aの内径側の一部8b(加締め部ともいう)を、レース本体2aの内径側を覆うように変形させて回り込ませる(加締める)ことで、アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させてもよい。
【0040】
また、上記した一実施形態では、中空円板状のアダプタ本体8aの外径側に、複数の爪部8pが周方向に沿って等間隔で突出して設けられたアダプタ8を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図3(a),(b)に示すように、アダプタ8をレース2の周方向に沿って分散させて配置してもよい。この場合、アダプタ8は、レース2(具体的には、外径側リップ部2b)の外周方向に沿って、所定間隔(例えば、等間隔)で複数設けられており、各爪部8pは、各アダプタ8にそれぞれ少なくとも1つずつ設けられている。
【0041】
なお、図面では一例として、各アダプタ8に1つずつ爪部8pを設けた構成が示されているが、各アダプタ8に複数の爪部8pを設けて構成してもよい。また、図面では一例として、アダプタ本体8aと外径側リップ部2bとをスポット溶接(溶接箇所W)した構成が示されてが、これに代えて、例えば接着剤で接着してもよい。
【0042】
また、上記した一実施形態では、相手部材(ハウジング)H(図1(d)参照)に予め形成された円環状の凹所Hpにレース2を組み込む場合を想定して説明したが、これとは別に、相手部材(ハウジング)Hに予め形成された円環状の凸部(図示しない)に中空円環状のレース2を組み込む仕様も想定される。
【0043】
そこで、かかる仕様に対応した他の実施形態に係るスラスト軸受について添付図面を参照して説明する。なお、図4(a)〜(d)の各添付図面では、スラスト軸受の構成が断面して示されているが、その構成を視覚的に理解し易くするために、断面を表すハッチングが省略されている。
【0044】
図4(a)には、1枚レース形のスラスト軸受が示されており、当該スラスト軸受は、そのレース2の内径側に、上記した相手部材(ハウジング)Hの凸部を挿通して組み込むことで、相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれるようになっている。この場合、レース2以外の構成は、上記した一実施形態と同一であるため、以下、その同一の構成に付された参照符号と同一の符号を本実施形態で用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。
【0045】
レース2は、中空円板状のレース本体部2aと、このレース本体部2aの内径側から連続し、複数の転動体(ころ)4を保持した状態の保持器6を、内径側から覆うように延出した中空円筒状の内径側リップ部2cとを有している。なお、レース本体部2aは、スラスト軸受の回転軸(図示しない)に直交する方向に沿って平行に配置されており、一方、内径側リップ部2cは、スラスト軸受の回転軸の方向に沿って平行に配置されている。
【0046】
このようなスラスト軸受において、レース2には、その内径側に、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で複数の爪部8pが突出して設けられており、各爪部8pは、レース2に装着可能なアダプタ8に一体的に設けられている。
【0047】
この場合、各爪部8pは、アダプタ8と共に一体成形してもよいし、或いは、アダプタ8とは別体で成形した各爪部8pを、アダプタ8に後付けしてもよい。いずれの場合も、少なくとも各爪部8pは、ばね鋼材で成形することが好ましい。アダプタ8の全体を、ばね鋼材で成形してもよいことは言うまでもない。なお、ばね鋼材とは、例えば、炭素系、シリコンマンガン系、マンガンクロム系、クロムバナジウム系などの鋼材を含む概念である。
【0048】
アダプタ8は、周方向に沿って連続して構成された中空円板状のアダプタ本体8aを有しており、各爪部8pは、当該アダプタ本体8aの内径側に、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で突出して設けられている。
【0049】
この場合、アダプタ本体8aの内径側に設けられる爪部8pの個数については、例えばレース2自体の形状や大きさや、当該レース2を組み込む相手部材(ハウジング)Hの形状、或いは、スラスト軸受の使用目的や使用環境などに応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。例えば周方向に沿って等間隔に爪部8pを4個設けてもよいし(図5(a)参照)、或いは、例えば周方向に沿って等間隔に爪部8pを3個設けてもよい(図5(b)参照)。
【0050】
また、各爪部8pの形状については、図面では一例として、矩形状のものが示されているが、これに限定されることはなく、例えば、三角形状、楕円形状、円弧形状、台形状など各種の形状に設定することができる。更に、各爪部8pの肉厚や突出量(突出長さ)、周方向幅(周方向長さ)については、当該爪部8pが一定の強度(剛性)を維持しつつ、かつ、弾性変形可能となる程度に設定すればよい。
【0051】
ここで、内径側に複数の爪部8pが周方向に沿って等間隔で突出して設けられたアダプタ8(アダプタ本体8a)において、各爪部8pは、中空円板状の当該アダプタ本体8aの内径側から先細り状に傾斜して設けられている。そして、アダプタ8は、そのアダプタ本体8aを、レース2のレース本体部2aに装着させることで、当該レース2に一体化されている。なお、各爪部8pの先細り傾斜角度は、当該各爪部8pを屈曲させることで、任意に設定することができる。
【0052】
アダプタ8をレース2に装着させる場合には、まず、アダプタ8の各爪部8pがレース2の内径側リップ部2cの内周に沿って回り込むように、当該アダプタ8のアダプタ本体8aをレース2のレース本体部2aに当接させる。次に、互いに当接し合ったアダプタ8とレース2とを(具体的には、アダプタ本体8aとレース本体2aとを)接合させる。これにより、アダプタ8をレース2に装着させることができる。
【0053】
アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させる方法としては、例えば、スポット溶接や、接着剤による接着など既存の接合方法を適用すればよい。この場合、接合位置としては、接合処理に際してレース2の軌道面2sが変形等するのを防止すべく、当該軌道面2sを回避した位置で、アダプタ8とレース2とを互いに接合させることが好ましい。なお、当該軌道面2sを回避した位置であれば、任意の位置を接合位置として設定することができる。
【0054】
図面では一例として、アダプタ本体8aとレース本体2aとの間において、その外径側に沿って周方向に所定間隔(例えば、等間隔)で、複数個所に亘ってスポット溶接が施された箇所Wが示されている。なお、スポット溶接についての説明は、上記した一実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、周方向全周に亘って連続してスポット溶接を施してもよい。
【0055】
このようにアダプタ8をレース2に装着させた状態において、レース2(具体的には、内径側リップ部2c)の内径側に、周方向に沿って等間隔で複数の爪部8pが、所定の先細り傾斜角度で突出して設けられたスラスト軸受が構成される。この場合、各爪部8pの先細り傾斜角度は、当該各爪部8pと内径側リップ部2cとの成す角度として規定され、当該各爪部8pを屈曲させることで、任意に増減変更することができる。
【0056】
そして、当該スラスト軸受を、相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込む場合には、そのレース2を、相手部材(ハウジング)Hに組み込めばよい。ここでは、相手部材(ハウジング)Hに予め形成された円環状の凸部(図示しない)を、中空円環状のレース2の内径側に挿通させることで、当該レース2を相手部材(ハウジング)Hに組み込むことができる。
【0057】
このとき、凸部とレース2(内径側リップ部2c)との間に、比較的大きな隙間が介在するような場合には、その隙間に応じて、各爪部8pの先細り傾斜角度を大きくすればよい。これに対して、凸部とレース2(内径側リップ部2c)との間に、比較的小さな隙間が介在するような場合には、その隙間に応じて、各爪部8pの先細り傾斜角度を小さくすればよい。要するに、相手部材(ハウジング)Hの構成に応じて、各爪部8pの先細り傾斜角度を設定すればよい。
【0058】
ここで、相手部材(ハウジング)Hの凸部にレース2を組み込む際、当該相手部材(ハウジング)Hによって各爪部8pは弾性変形される。このとき、各爪部8pには、その弾性変形に応じた反力(戻り力)が蓄積され、レース2が凸部に完全に組み込まれたとき、それまでに蓄積された反力(戻り力)が、弾性変形された各爪部8pから相手部材(ハウジング)Hに働く。
【0059】
このとき、各爪部8pが、当該相手部材(ハウジング)Hに対して突っ張り力を作用させることで、当該レース2を相手部材(ハウジング)Hに位置決め固定させる。これにより、当該レース2の相手部材(ハウジング)Hからの脱落が防止された状態で、当該スラスト軸受を相手部材(ハウジング)Hに対して堅牢に固定することができ、その結果、当該スラスト軸受を相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込むことができる。
【0060】
ここで、本実施形態に係るスラスト軸受において、その動作や効果についての説明は、上記した一実施形態と同様であるため省略する。
【0061】
なお、上記した他の実施形態では、1枚レース形のスラスト軸受を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図4(b)に示すように、2枚レース形のスラスト軸受にも上記した他の実施形態の構成を適用し、同様の効果を実現することができる。ここで、2枚レース形のスラスト軸受には、レース2に対向し、かつ、保持器6で保持された複数の転動体(ころ)4を挟んで反対側に配置され、上記した他方の部材としての回転部材(又は、回転軸)に組み込まれる中空円環状のレース10が設けられている。
【0062】
また、上記した他の実施形態では、アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させる方法として、アダプタ本体8aとレース本体2aとをスポット溶接する場合を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図4(c)に示すように、アダプタ本体8aの外径側の一部8b(加締め部ともいう)を、レース本体2aの外径側を覆うように変形させて回り込ませる(加締める)ことで、アダプタ本体8aとレース本体2aとを互いに接合させてもよい。
【0063】
また、上記した他の実施形態では、中空円板状のアダプタ本体8aの内径側に、複数の爪部8pが周方向に沿って等間隔で突出して設けられたアダプタ8を想定したが、これに限定されることはなく、例えば図4(d)に示すように、アダプタ8をレース2の周方向に沿って分散させて配置してもよい。この場合、アダプタ8は、レース2(具体的には、内径側リップ部2c)の内周方向に沿って、所定間隔(例えば、等間隔)で複数設けられており、各爪部8pは、各アダプタ8にそれぞれ少なくとも1つずつ設けられている。
【0064】
なお、図面では一例として、各アダプタ8に1つずつ爪部8pを設けた構成が示されているが、各アダプタ8に複数の爪部8pを設けて構成してもよい。また、図面では一例として、アダプタ本体8aと内径側リップ部2cとをスポット溶接(溶接箇所W)した構成が示されてが、これに代えて、例えば接着剤で接着してもよい。
【符号の説明】
【0065】
2 レース
2s 軌道面
4 転動体
6 保持器
8 アダプタ
8p 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置された部材相互間に組み込まれるスラスト軸受であって、
相手部材に組み込まれる中空円環状のレースと、
レースに沿って構成された軌道面上を転動する複数の転動体とを備え、
レースには、その内径側或いは外径側に、周方向に沿って所定間隔で複数の爪部が突出して設けられており、
相手部材にレースを組み込む際、当該相手部材によって弾性変形された各爪部が、当該相手部材に対して突っ張り力を作用させることで、当該レースを相手部材に位置決め固定させることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
各爪部は、レースに装着可能なアダプタに一体的に設けられており、
アダプタは、軌道面を回避した位置で、レースに接合されていることを特徴とする請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
アダプタは、周方向に沿って連続して構成された中空円環状を成しており、各爪部は、当該アダプタの内径側或いは外径側に、周方向に沿って所定間隔で突出して設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
アダプタは、レースの周方向に沿って所定間隔で複数設けられており、各爪部は、各アダプタにそれぞれ少なくとも1つずつ設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスラスト軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate