説明

スラブ調撚糸加工糸及びその加工方法

【課題】本発明は、フィラメントからなる1本の糸から容易に撚糸加工できシャリ感に優れたスラブ調撚糸加工糸、スラブ調布帛及び加工方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】熱セット可能なフィラメントからなる糸12は、まず、撚糸機1からトップガイド14に給送される間に撚糸加工が行われ、撚糸加工糸15となる。次に、押え部材3の押えローラが進退動作することで、撚糸加工糸15は給送されながらヒータ2に断続的に接触して加熱処理され熱セットされる。そのため、撚糸加工糸15は、加熱処理された部分は熱セットされて集束部分が形成され、集束部分以外の部分にはスラブ調の膨らみが形成されたスラブ調撚糸加工糸24に加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブ調撚糸加工糸及びその加工方法に関し、特にフィラメントからなる1本の糸を用いたスラブ調撚糸加工糸及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スラブヤーンのようにところどころで径が太くなっている意匠撚糸を製造するために、仮撚加工法が用いられている。例えば、特許文献1には、仮撚加工法において、捲縮加工性を有する芯糸の加撚域に捲回糸を供給して、捲回糸のオーバーフィード量を周期的に変化させることによりスラブヤーン的な意匠効果を与えることができることが記載されている。また、特許文献2には、少なくとも1本が熱可塑性合成繊維からなる2本以上の連続フィラメントが同時に仮撚加工され、かつ糸条の長手方向に間歇的もしくは不均一に短繊維束が交絡されている複合糸であって、2本以上の連続フィラメントからなる仮撚加工糸の長手方向に右方向の撚を有する比較的強固に収束された加撚収束部と該加撚集束部とは逆方向の撚を有する比較的軽度に集束された解撚集束部とが交互に存在するファンシーヤーンが記載されている。また、特許文献3には、熱可塑性合成繊維撚糸をその長さ方向に断続的に熱セットして撚止部分と非撚止部分を交互に作ったのち完全解撚し、更にその解撚方向に加撚することにより、撚止した部分には撚が多くかかり非撚止部分には撚が少なくかかるようにした特殊撚糸が記載されている。また、特許文献4には、高配向ポリエステル未延伸糸を原糸として、長手方向に対して部分的な加熱処理を施し、引き続いて延伸仮撚加工を施してポリエステル加工糸を製造する方法において、該加熱処理を0.05g/d以下の低張力下で、しかも加熱体に対する接糸部の一部のみを該加熱体より間歇的に離しつつ行うことで、非加熱部分に延伸が集中して、染着差を有するポリエステル仮撚糸の製造方法が記載されている。また、特許文献5には、熱可塑性樹脂からなる未延伸フィラメント糸をピンヒーターに間歇接触させ延伸して糸の長さ方向に太さ斑を形成させて製造することが記載されている。
【特許文献1】特公昭47−49459号公報
【特許文献2】特開昭56−134226号公報
【特許文献3】特開昭60−126348号公報
【特許文献4】特開平7−90735号公報
【特許文献5】特開2004−44036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1及び2においては、仮撚において糸を複数本用いているので、得られる糸は太いものとなり、複数の糸が交絡しているため、得られた糸にさらに加撚をして細くすることは困難である。また、仮撚なので、得られる糸はシャリ感に乏しいものとなる。特許文献3においては、用いる糸は1本であるが、加撚して断続的に熱セットして完全解撚し、更に解撚方向に加撚するようにしているので、仮撚と同様の工程となっており、工程が複雑で、一度解撚しているので得られる加工糸がシャリ感に乏しいものとなる。特許文献4及び5においても、同様に用いる原糸は1本であるが、仮撚加工を行っているため、シャリ感に乏しいものとなる。
【0004】
そこで、本発明は、フィラメントからなる1本の糸から容易に撚糸加工できシャリ感に優れたスラブ調撚糸加工糸、スラブ調布帛及び加工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスラブ調撚糸加工糸は、フィラメントからなる1本の糸を撚糸加工した糸であって、断続的に熱セットされた集束部分が形成されており、該集束部分以外の部分にはスラブ調の膨らみが形成されていることを特徴とする。さらに、前記集束部分以外の部分は、前記集束部分よりも糸の撚り数が小さいことを特徴とする。さらに、前記集束部分とそれ以外の部分とで糸の繊度が異なっていることを特徴とする。
【0006】
本発明に係るスラブ調布帛は、上記のスラブ調撚糸加工糸を少なくとも一部に備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るスラブ調撚糸加工糸の加工方法は、給糸されたフィラメントからなる1本の糸を一定の撚り数で撚糸する撚糸加工工程と、撚糸加工された糸が巻き取られる前に糸に対して断続的に熱セットを行う加熱処理工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る別のスラブ調撚糸加工糸の加工方法は、給糸された未延伸のフィラメントからなる1本の糸を一定の撚り数で撚糸する撚糸加工工程と、撚糸加工された糸が巻き取られる前に糸に対して断続的に加熱して加熱部分を延伸させる加熱処理工程とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のような構成を有することで、断続的に熱セットによる集束部分が形成されており、該集束部分以外の部分にはスラブ調の膨らみが形成されているので、外観はスラブ調であるが、フィラメントからなる1本の糸を撚糸加工しているので、得られるスラブ調撚糸加工糸は、通常の撚糸加工糸と同様に細く仕上がって取り扱いが簡単になり、布地に織成又は編成することも容易になる。また、集束部分では従来の撚糸加工糸と同様に細く仕上げられており、そのため布地に仕上げた場合に従来の撚糸加工糸と同様の優れたシャリ感を得ることができる。
【0010】
また、集束部分以外の部分は、集束部分よりも糸の撚り数が小さくなることで、集束部分以外の部分ではフィラメントの撚糸前の光沢が残り、集束部分との間の光沢の差が生じ、スラブ調の外観がより際立つものとなる。
【0011】
また、集束部分とそれ以外の部分の糸の繊度を異ならせることにより、集束部分とそれ以外の部分の糸の太さの差異が際立ってくることから、スラブ調の外観をより強調することができる。
【0012】
そして、こうしたスラブ調撚糸加工糸を少なくとも一部に備えているスラブ調布地は、糸の集束部分以外の部分がスラブ調の膨らみをよりいっそう表出するようになる。すなわち、交絡する糸によりスラブ調の膨らみが潰れて拡がり、外観上スラブ調の模様が際立つようになる。また、フィラメントからなる1本の糸を加工しているため、従来のスラブヤーンほど糸の径の太い部分の凹凸が目立つことはなく、滑らかな手触りに仕上げることができる。
【0013】
スラブ調撚糸加工糸の加工方法は、給糸されたフィラメントからなる1本の糸をほぼ一定の撚り数で撚糸する撚糸加工工程では従来と同様の撚糸加工を行えばよく、また、撚糸された糸が巻き取られる前に糸に対して断続的に熱セットを行う加熱処理工程では、簡単に熱セットを行うことができ、簡単な工程でスラブ調撚糸加工糸を加工することができ、製造コストも抑えることができる。
【0014】
別のスラブ調撚糸加工糸の加工方法は、未延伸のフィラメントからなる1本の糸を用いて撚糸加工した後巻き取られる前に断続的に加熱して加熱部分を延伸させることで、延伸部分の糸の繊度を細く仕上げることができ、さらに巻き取られる前に延伸されるので延伸部分にも撚糸が加わるようになって、全体として撚糸加工した糸に仕上げることができる。加工後の糸は、延伸部分とそれ以外の部分とで糸の繊度が異なるようになり、よりスラブ調の外観が強調されたものに仕上げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態であるスラブ調撚糸加工糸の模式図である。スラブ調撚糸加工糸は、フィラメントからなる1本の糸を撚糸加工したもので、領域Bが糸の集束部分を示しており、領域Aは、集束部分以外のスラブ調の膨らみが形成された部分を示している。領域Bでは、撚糸された後熱セットされているので、撚糸された状態がセットされてフィラメントが集束して細くなっている。それに対して、領域Aでは、撚糸されたものの加熱されていないので、フィラメントがばらけた状態になっており、領域Bに比べて膨らんだように形成されている。
【0017】
スラブ調撚糸加工糸に用いる糸としては、未撚糸の熱セット可能なフィラメントを用いることができる。例えば、ポリエステル等の合成繊維、アセテートといった再生繊維、シルク等の天然繊維を用いることができる。
【0018】
こうした繊維の熱セットは、ポリエステル繊維のように熱可塑性樹脂からなる繊維の場合には、非結晶領域の一部がヒータの加熱により結晶化率が高まり、形態が固定されることでセットされると考えられている。したがって、領域Bのように撚糸によりフィラメントが集束された状態で適度の加熱を施すことで、その集束状態を固定することができる。こうして集束された部分以外の部分では、熱セットされていないため、撚りが戻る現象が生じるようになる。本発明者が実験を行ったところ、集束部分以外の部分の長さが短くなるほど撚りの戻りにより撚り数が少なくなる。撚り数が小さくなると、フィラメントが撚糸前に有していた光沢が残り、集束部分との間で光沢に差が生じるようになる。また、撚り数が小さいために、フィラメントがばらけやすくなって膨らみが形成されるようになり、スラブ調の外観を呈するようになる。そして、撚り数が小さいと、染色工程で染料が集束部分に比べて染み込みやすくなって濃淡が生じるようになる。。
【0019】
また、上述した繊維からなるフィラメントで未延伸にものを用いてもよい。未延伸のフィラメントを適度の張力を加えながら加熱すると延伸して繊度が細くなる。したがって、常温で延伸を生じない程度の張力を加えながら断続的に糸を加熱することで、加熱部分のみ延伸させて繊度が異なる部分を糸の所々に形成することができる。
【0020】
また、シルクのような蛋白繊維やアセテートといったセルロース系の繊維製の場合には、これらの繊維は吸湿性が高いため、繊維自身が吸湿により膨潤し、ヒータの加熱により乾燥すると収縮して、形態が固定されると考えられている。したがって、こうした繊維の場合にもフィラメントで撚糸して集束した状態で適度の加熱を行うことで、集束した状態に固定することができる。そして、加熱処理しない領域Aでは、熱セットにより固定されていないためフィラメントがばらけた状態になって外観上スラブ調に膨らんでみえるようになる。また、未延伸のフィラメントを加熱により所々延伸した場合には、延伸部分とそれ以外の部分で糸の繊度が異なるため、延伸されていない部分が膨らんでみえ、スラブ調の外観がより強調される。
【0021】
本発明のスラブ調撚糸加工糸は、外観はスラブ調であるが、加工に用いる糸は単糸のフィラメントのみであるので、得られるスラブ調撚糸加工糸は細くて、従来の撚糸と同様に扱えるので、機械等にひっかかる事がなく織成や編成しやすいものとなる。
【0022】
図2は、本発明のスラブ調撚糸加工糸を用いた布帛を示した模式図である。この例では、経糸に通常の糸を用いて、緯糸に本発明のスラブ調撚糸加工糸を用いている。スラブ調の膨らみが形成された領域Aは、不規則に形成することができるので、布帛にした場合に布帛全体にランダムに領域Aが点在するようになり、より自然な風合いに仕上げることができる。領域Aの部分は、領域Bに比べ撚り数が小さくばらけやすいため経糸に挟持されることで膨らみが潰れて拡がった状態となり、外観上膨らみがより際立つようになってシャープな印象を与えることができる。また、領域Aは、潰されて平面状に形成されるため、布帛表面に従来のスラブヤーンほど大きな凹凸が生じることはなく、滑らかな手触りの布帛に仕上がる。そして、集束部分である領域Bは、経糸と同様に通常の撚糸加工されて細く加工されているため、シャリ感に優れたものとなっている。
【0023】
図3は、本発明に係る実施形態である加工方法を実施する加工装置に関する概略図を示している。撚糸機1の給糸ボビン11から供給される熱セット可能なフィラメントからなる糸12は、撚糸機1の上部に設けられた開口部に挿入されて内部の通糸路を通って下方に案内され、撚糸機1の下部のスピンドル13の側面から外部に導出しており、撚糸機1の直上に配置されたトップガイド14により、さらに上部に案内される。トップガイド14を通過した糸は撚糸加工糸15となっている。以上のような撚糸加工工程はいわゆるダブルツイスターと称されており公知のものである。
【0024】
トップガイド14を通過した撚糸加工糸15は、ヒータ2と押え部材3からなる加熱処理工程によって断続的に熱セットされてスラブ調撚糸加工糸24となり、案内ローラ44を介してフィードローラ41に送られて、クレードル42によって回転されている巻取りローラ43に巻き取られる。案内ローラ44は、その位置を図3の左右方向に調整できるようになっており、押さえ部材3により撚糸加工糸15にかけられる張力を調整するようになっている。また、フィードローラ41は、糸の送り速度よりも速く回転するように設定されており、糸の巻き取りの際の張力を調整するようになっている。
【0025】
図4は、撚糸加工工程を行う撚糸機1の概略断面図を示している。本実施形態においては撚糸機1としてダブルツイスターを用いているが、単糸による撚糸機であれば特に限定されず、例えばイタリー式撚糸機やラージアップツイスター等であってもよい。給糸ボビン11の中空軸にはボールテンサー16が挿着されており、給糸ボビン11はボビンホルダー17に装填されている。ボビンホルダー17は、漏斗状の形状をしており、中心部にはボールテンサー16を支持する円筒状突起が設けられている。上部の内周面には一対の磁石18が互いに対向する位置に固着されており、ボビンホルダー17の外周には、所定の間隔をおいて、磁石18と反対極のリング状の磁石19が配置されている。
【0026】
ボビンホルダー17は、図示されないベアリングを介してスピンドル13内に載置されている。スピンドル13は、回転自在に基台等に設置されており、スピンドル13の下部に垂設された回転軸には、回転駆動用のベルト10が接触している。
【0027】
給糸ボビン11から供給される糸12は撚糸機1の上部からボールテンサー16の開口部に挿入されて、ボールテンサー16の内面に突設された案内部により案内されて下方に送給される。スピンドル13の中心部には通糸路が形成されており、送給された糸は、この通糸路を通ってスピンドル13の側面から外部に導出される。外部に導出した糸は、巻取りローラ43に巻き取られるため、連続して給送されるようになる。
【0028】
スピンドル13がベルト10により回転駆動された場合、ボビンホルダー17の内周面に設けられた磁石18とリング状の磁石19とは互いに吸引し合うので、スピンドル13の回転にもかかわらずボビンホルダー17は静止状態を保つようになる。スピンドル13の内部から側面に導出された糸は、ボビンホルダー17内では静止しているので、スピンドル13の回転により撚りがかけられることになる。
【0029】
スピンドル13の側面から導出された糸は、スピンドル13により回転軸の回りを回転されることでバルーン状に外側に膨らみながらトップガイド14に向かって給送されるが、トップガイド14に規制されてさらに撚りがかけられることになる。したがって、トップガイド14を通過した糸には2度にわたり撚糸加工が行われるようになる。
【0030】
図5は、加熱処理工程を行うヒータ2及び押え部材3の部分に関する側面図、図6は、その正面図を示している。トップガイド14の直上には円筒形のヒータ2が軸方向を糸の給送方向とほぼ直交するように配置されている。ヒータ2は1対の基部21の間に円筒状の加熱部22を有しており、基部21の一方から電源コード23により供給された電気により加熱部22が加熱されるようになっている。加熱部22の表面温度を一定にするためには、加熱部22はなるべく大きくすればよく、本実施形態では幅4cmで、梨地メッキがなされた金属体を用いている。
【0031】
ヒータ2の上方には、押え部材3が配置されている。押え部材3は、駆動ロッド32が突設されたエアシリンダ31を備えており、駆動ロッド32は、図5に示すように、糸の給送経路に向かって進退動作する。図6に示すように、駆動ロッド32は、糸の給送経路からずれた位置に配置されており、駆動ロッド32の先端にはローラ保持軸33の一方の端部が固定され、他方の端部が糸の給送経路に向かうように取り付けられている。そして、ローラ保持軸33の他方の端部には押えローラ34が回動自由に取り付けられている。
【0032】
押え部材3の上方には糸をフィードローラ41に案内するとともに、押え部材3により糸にかけられる張力を調整するために図5の左右方向に位置調整可能な案内ローラ44が配置されており、案内ローラ44の位置が右方にいくほど、糸にかかる張力が大きくなり、左方にいくほど張力が小さくなるようになっている。案内ローラ44の上方には糸を巻き取りローラ43に導き、巻き取りの張力を調整するためのフィードローラ41が配置されている。
【0033】
トップガイド14を通過した撚糸加工糸15は、ヒータ2の加熱部22及び押えローラ34との間を通り、案内ローラ44に接触してフィードローラ41に巻き付くように給送される。そして、押え部材3のエアシリンダ31にエアが供給されると駆動ロッド32が突出し、押えローラ34は図5の鎖線で示す位置に移動する。この状態では、撚糸加工糸15は、ヒータ2の加熱部22と非接触状態となり、加熱処理されることはない。エアシリンダ31のエアの供給が停止されると、駆動ロッド32がバネ等で付勢されて引っ込み、押えローラ34は図5の実線で示す位置に移動し、撚糸加工糸15は加熱部22の表面に接触した状態となり、所定の張力がかけられた状態で加熱処理されるようになる。
【0034】
上記のような駆動ロッド32の進退動作が断続的に行われることで、撚糸加工糸15には、加熱処理されて熱セットされた集束部分と、集束部分以外の加熱処理されず熱セットされないスラブ調の膨らみが形成された部分とが形成されて、スラブ調撚糸加工糸24となる。
【0035】
ヒータ2の加熱部22は、撚糸加工糸15との接触面積が小さくできる形状であればよく、円筒形に限らず、例えば撚糸との接触部分に円筒面を有するものや線材でもよい。また、良好な熱セットが生じるためには、ヒータ温度が250℃〜300℃であることが好ましい。また、押さえ部材3の断続的な進退動作による加熱処理時間を適宜変えることにより熱セットされた集束部分の長さを自由に変更することができる。したがって、不規則な間隔で集束部分を形成することができる。ただし、熱セットされていないスラブ調の膨らみ部分の長さが長くなると、膨らみ部分は熱セットされていないので縮れが発生するようになるため、熱セットによる集束部分に挟まれた熱セットされていない膨らみ部分の長さは3〜4cm程度であることが好ましい。なお、こうした縮れを防止するために巻き取られたスラブ調撚糸加工糸24に、公知の方法によって、撚セットするようにしてもよい。
【0036】
また、未延伸のフィラメントを撚糸加工する場合は、押え部材3により加熱処理する際に張力が強すぎると加熱部分以外も延伸してしまうことになるので、案内ローラ44の位置を調整して加熱部分のみが延伸する程度の張力が加わるようにする。このように糸に加わる張力を調整することで、加熱部分のみ延伸するようになって糸の繊度が細くなる。そして、糸が巻き取る前に延伸するので、加熱部分にも延伸しながら撚糸が加わるようになり、糸全体にほぼ一定の撚り数が加わった撚糸加工糸となる。また、加工後延伸されない部分は延伸部分よりも繊度が太く縮むようになるため、よりスラブ調の外観が強調されたものとなる。
【0037】
巻き取られた撚糸加工糸は、巻き取られた状態のまま80℃の蒸気中に40分間置くことで後セット処理を行い、撚糸加工糸を安定した状態にする。
【実施例1】
【0038】
ポリエステル繊維のフィラメント36本からなる繊度84dtex(75denier)の糸をダブルツイスターを用いて糸速10m/min、撚数700t/m、スピンドル回転数7000〜10000回転として撚糸加工を行い、撚糸加工された糸に上述した加熱処理を行った。ヒータの表面温度を300℃に設定し、押さえ部材によりヒータの加熱面から0.01〜0.02秒間断続的に離間させて、スラブ調撚糸加工糸を製造した。その結果、熱セットによる集束部分が断続的に形成され、集束部分の間に約4cmの長さのスラブ調の膨らみ部分を有するポリエステル繊維のスラブ調撚糸加工糸が得られた。撚り数を測定(JIS L 1013準用)したところ、集束部分に比べスラブ調部分では撚り数が約1/3に減少していることがわかった。
【実施例2】
【0039】
また、シルクのフィラメント63本からなる繊度72dtex(65denier)相当の糸をダブルツイスターを用いて糸速10m/min、撚数450t/m、スピンドル回転数7000〜10000回転として撚糸加工を行い、撚糸加工された糸に上述した加熱処理を行った。ヒータの表面温度を350℃に設定し、押さえ部材によりヒータの加熱面から0.01〜0.02秒間断続的に離間させて、スラブ調撚糸加工糸を製造した。その結果、熱セットによる集束部分が断続的に形成され、集束部分の間に約4cmの長さのスラブ調の膨らみ部分を有するシルクのスラブ調撚糸加工糸が得られた。
【実施例3】
【0040】
ポリエステル繊維のフィラメント48本からなる繊度167dtex(150denier)の糸を用いて実施例1と同様にスラブ調撚糸加工を行った。ただし、熱セットは糸の内部まで加熱して熱セットを行う必要があるので、ヒータの表面温度を350℃とした。その結果、熱セットによる集束部分が断続的に形成され、集束部分の間にスラブ調の膨らみ部分を有するポリエステル繊維のスラブ調撚糸加工糸が得られた。
【実施例4】
【0041】
ポリエステル繊維のフィラメント36本からなる繊度140dtex(125denier)の未延伸のフィラメントを用いて実施例1と同様にスラブ調撚糸加工を行った。ただし、熱セットは糸の内部まで加熱して熱セットを行う必要があるので、ヒータの表面温度を350℃とした。その結果、熱セット及び延伸による繊度84dtex(75denier)の集束部分が断続的に形成され、集束部分の間に繊度140dtex(125denier)のスラブ調の膨らみ部分を有するポリエステル繊維のスラブ調撚糸加工糸が得られた。図7は、製造されたスラブ調撚糸加工糸の拡大写真を示している。
【実施例5】
【0042】
実施例3において製造されたスラブ調撚糸加工糸を(緯・経)糸に用いて、経糸密度82本/インチ、緯糸密度54本/インチで平織りしたところ、図8の拡大写真に示すような不規則なスラブ調模様を有するスラブ調布地が得られた。このスラブ調布地は、前述のように布地の表面に大きな凹凸がなく、平滑で優れたシャリ感を有するものであった。また、スラブ調の部分による濃淡効果が得られ、今までにない布地を得ることができた。
【0043】
以上説明したように、本発明を用いることで、マルチフィラメントからなる1本の糸を用いて撚糸加工しながら撚りの多い所と少ない所がランダムに設定されたスラブ調の糸に加工することができ、そうした糸を用いてランダムなスラブ調模様の布帛を製造することが可能となる。
【0044】
撚りの多い所や少ない所は、上述したようにヒータを用いた熱セットにより制御することができる。ヒータの温度制御や移動制御は、コンピュータ制御により精度よく行うことが可能で、例えば、糸の繊度や撚り数により温度制御するとよい。糸の繊度の場合、太い糸の場合にはヒータ温度を高くなるように制御し、細い糸の場合にはヒータ温度を低くなるように制御すればよい。また、ヒータを退避させて糸から離すタイミングを制御することで、熱セットされないスラブ調部分を自由に設定することができる。
【0045】
また、従来のスラブ調糸では複数本の糸を絡めて製造しているため細い糸を製造することが技術的に困難であったが、本発明に係るスラブ調加工糸は、1本の糸から加工されるため、従来製造が困難であった細いスラブ調糸も容易に製造することができる。本発明者は、本発明に係る加工方法を用いて56dtex(50denier)以下の糸をスラブ調に加工できることを確認しており、こうした従来にない細いスラブ調糸を用いることで新規なデザインの布帛を製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るスラブ調撚糸加工糸に関する外観図である。
【図2】本発明に係るスラブ調布帛に関する外観図である。
【図3】本発明に係る加工方法を実施する加工装置の概略全体図である。
【図4】撚糸加工工程を行う撚糸機に関する概略断面図である。
【図5】加熱処理工程を行う機構に関する側面図である。
【図6】加熱処理工程を行う機構に関する正面図である。
【図7】スラブ調撚糸加工糸の外観を撮影した拡大写真である。
【図8】スラブ調布帛の外観を撮影した拡大写真である。
【符号の説明】
【0047】
1 撚糸機
2 ヒータ
3 押え部材
14 トップガイド
15 撚糸加工糸
24 スラブ調撚糸加工糸
44 案内ローラ
41 フィードローラ
42 クレードル
43 巻取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントからなる1本の糸を撚糸加工した糸であって、断続的に熱セットされた集束部分が形成されており、該集束部分以外の部分にはスラブ調の膨らみが形成されていることを特徴とするスラブ調撚糸加工糸。
【請求項2】
前記集束部分以外の部分は、前記集束部分よりも糸の撚り数が小さいことを特徴とする請求項1に記載のスラブ調撚糸加工糸。
【請求項3】
前記集束部分とそれ以外の部分とで糸の繊度が異なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラブ調撚糸加工糸。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のスラブ調撚糸加工糸を少なくとも一部に備えていることを特徴とするスラブ調布帛。
【請求項5】
給糸されたフィラメントからなる1本の糸を一定の撚り数で撚糸する撚糸加工工程と、撚糸加工された糸が巻き取られる前に糸に対して断続的に熱セットを行う加熱処理工程とを備えていることを特徴とするスラブ調撚糸加工糸の加工方法。
【請求項6】
給糸された未延伸のフィラメントからなる1本の糸を一定の撚り数で撚糸する撚糸加工工程と、撚糸加工された糸が巻き取られる前に糸に対して断続的に加熱して加熱部分を延伸させる加熱処理工程とを備えていることを特徴とするスラブ調撚糸加工糸の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−144154(P2006−144154A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333972(P2004−333972)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(504427330)有限会社丸山商店 (1)
【Fターム(参考)】