説明

スラリーループ反応装置のスゥエリングの制御

【課題】スラリーループ反応装置のスゥエリングの開始および進行を制御する方法。
【解決手段】いくつかのプラント測定で得られる測定値の変動を増幅して導かれる希釈量の希釈剤でスラリーループ反応装置を希釈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーループ反応装置中でのオレフィン重合に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高密度ポリエチレン(HDPE)は、先ず最初は、得られるポリマーの溶媒である液体中での付加重合で製造されていた。この方法はすぐにチーグラー方式またはフィリップス方式のスラリー条件下での重合に代わった。このスラリー重合はパイプループ反応装置で連続的に行なわれる。この場合に作られるポリマー流は液体媒体(一般には反応希釈剤と未反応単量体)中に懸濁したポリマーの固体粒子のスラリーである(下記文献参照):
【特許文献1】米国特許第2285721号明細書
【0003】
液体媒体を汚染に曝さない状態で、不活性希釈剤と未反応単量体とから成る液体媒体をポリマーから分離できることが望ましい。すなわち、液体媒体を精製サイクル無しに最小量で重合帯域へ再循環することができる。
下記文献に記載のように、ポリマーと液体媒体とからなるスラリーは、スラリーループ反応装置の一つまたは複数のセッティングラグからフラッシュチャンバ中へ定期的に排出させて回収される。
【特許文献2】米国特許第3152872号明細書
【0004】
従って、この方法はバッチ操作になる。上記混合物をフラッシュするのはポリマー流から液体媒体を除去するためである。従って、蒸発させられた重合希釈剤はその後に再圧縮して、再調整し、浄化する必要がある。
【0005】
この反応装置は経済的な観点からその運転可能な限界まで追求されている。重合反応の動力学を増加させる3つの重要なファクタは単量体および任意成分のコモノマーの高濃度化、高温度および固形分の高濃度化にある。一般に循環ポンプの電源消費量は固形分の増加と共に増加する。ポリマー特性や反応装置の特性に応じて上記3つのパラメータ(単量体および任意成分のコモノマーの高濃度化、高温度および固形分の高濃度化)の任意の一つが在るレベルより少しづつ増加すると、ノイズレベルが増加し、電源消費が徐々に増加し、正しく制御しないと、安全運転のためのシュットダウンが作動することになる。この挙動はスエリング(swelling、膨張、増加)現象として知られている。同じタイプの挙動は他のプラント制御の測定でも観測でき、例えば反応装置の温度、スラリー密度、冷却ジャケット中またはその一部を循環する冷却水の温度変化等で経験される。
【0006】
本明細書および以下のスラリーループ重合に関する説明では、「スゥエリング(swelling)」とは当業者に周知のもので、いくつかのプロセス変数の、普段より大きな急速な変動によって特徴付けられるプロセスの不安定性の開始に関連する現象、と定義でき、その最も多くの外乱はポンプパワーである。「急速」という用語は一連のピークが1分未満で離れていることを意味する。正常運転でのポンプパワーの変動が10kW未満の範囲の場合、スゥエリングが確実に起こったときは上記範囲が10ファクタだけ増加したときである。ポンプパワーの消費変動は重要で、それが制御できない場合には直ぐに安全閾値に達し、自動制御が働き、シャットダウンが作動して、重合プロセスの運転が停止してしまう。
【0007】
不安定状態の開始は、測定可能なプロセス変数、例えば反応装置温度、反応装置中の単量体および/またはコモノマーの濃度および/または固体濃度に関するプロセス限界値を超えることにリンクしている。しかし、プラントの効率(有用性)は、他のパラメータの中でも、特に安定性の要求とは逆であるこれらの変量にリンクしている。従って、自然のプロセス変動がスゥエリング不安定を開始するリスクのある複数の次元での安定性限界にできるだけ近い所で運転したいという強い経済的要請(希望)がある。
【0008】
固形分濃度が高い所での運転制御方法は例えば下記文献で公知である。
【特許文献3】欧州特許第EP-A-432555号公報
【0009】
この特許の方法では下記(a)〜(c)が要求される希釈剤流の流量をタイプ分けする制御信号を作って重合方法を制御している:
(a)循環する反応スラリーに対して最小速度を維持し、
(b)反応装置中の選択した位置での最大圧力ヘッドを維持し、
(c)循環ポンプに供給する最大電力レベルを維持する。
希釈剤流の最大流量を要求する上記信号(a)(b)(c)の一つが自動的に選択されて希釈剤流を制御する。
【0010】
一般に、単量体濃度と反応装置温度は製品の品質を狭いスペック内に維持するために一定値に維持される。一般に、製品品質(これは、反応装置の処理能力と反応装置中での滞在時間が一定の場合、反応装置中に存在する固体質量を生産量で割った値で定義され、固体濃度の増加と共に増加する)は固体濃度の高くすることで改善する。
【0011】
もちろん、反応装置中での滞在時間を増加し、触媒との接触時間を最大にして最終製品の粒子の状態(granulometry)を改善することも求められる。反応装置中に存在する固体質量は反応装置体積の製品にスラリー密度および固形分密度を掛けたもので定義され、そして、スラリー密度は固形分の増加とともに増加するので、固形分を増やすことは大変望ましいことである。しかし、残念なことに、スゥエリングの最大の原因は固形分が増えることである。
【0012】
以上の全ての理由から、スゥエリングの開始にできるだけ近い条件で反応装置を運転するのが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、スゥエリングの開始を検出することにある。
本発明の他の目的は、スゥエリングの開発を制御、抑制することにある。
本発明のさらに他の目的は、触媒生産性を改善し、反応装置処理能力を改善することにある。
本発明のさらに他の目的は、反応装置またはセッティングラグ中での固体濃度を増加させることにある。
本発明のさらに他の目的は、スラリーループ反応装置でのポリマー生産量を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では希釈によってスゥエリングを制御する。この希釈は一つまたは複数の標準偏差(standard deviation)または分散(deviation)、変動範囲、または、スゥエリングが発生した時に変動レベルの増加を表示するプラント制御測定値の分散にモノトーンで関係する一つまたは複数のその他の機能によってトリガーされる。
【0015】
上記の特許文献3(欧州特許第EP-A-432555号公報)では実際のポンプパワーの所定閾値以上に増加するのを避けるために希釈剤流の流速を操作するが、本発明はこの特許とは逆で、プラント制御測定値の実効値を制御するのではなく、選択したプラント制御測定値の標準偏差を制御する。
【0016】
上記定義のスゥエリングは[図1]に示すように実際のポンプパワーの有意な増加なしに始まる。本発明の目的は始まったばかりのスゥエリングを早い段階で制御することにある。上記のプラント制御測定値の例としてはポンプ電源消費量、反応装置温度、スラリー記録密度または冷却液体の入口と出口の温度差またはこれら測定値を任意に組合せたものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[図1]は通常運転状態でのポンプ電源消費量(kWで表示)を時間(時で表示)の関数で表したものである。一般的なポンプ電源消費は200kW〜800kWのオーダで、これは反応装置の大きさおよび形状に応じて変わる。信号の標準偏差はホワイトノイズのための1〜10kWのオーダである。固形分が増加すると、同じホワイトノイズを保ったまま、ポンプ電源消費増加は非常にゆっくりと増加する。スゥエリングが発生すると、同じ[図1]に見られるように、標準偏差が増加し始め、次第に容認できないレベルに達し、最後にはシステムをシャットオフすることになる。
その他のプラント制御測定値、例えば、反応装置の温度、スラリー密度および冷却ジャケットまたはその一部中を循環してきた冷却水の温度変化(これらに制限されるものではない)も、固体濃度の増加と共に増加する標準偏差の変化を示す。
【0018】
驚いたことに、この変動の増加は、反応装置の固有な信号特性の一定ホワイトノイズへの重ね合せ(superposition)に起因し、この固有な信号の振幅はスゥエリング現象の間、次第に増加するということを発見した。
【0019】
いくつかの信号のパラメータ、例えば標準偏差(standard deviation)または分散(deviation)、バリアンス、変動範囲、または、標準偏差にモノトーンで関連するのその他の因子を研究した。検出器に関連する変数を計算する前に上記の反応装置の固有な信号特性の強さに応じて、上記信号に通常の数学的信号処理、例えば逆畳込み、周波数弁別、規格パターン認識法を適用することができる。
スゥエリングは反応装置の媒体を希釈することで制御され、それによって固形分および温度は低下する。
【0020】
ポンプ電源消費の信号パラメタが所定閾値以上に増加した時には、直ちに反応装置の制御ループを修正して、反応装置中により多くの希釈剤を噴射する。噴射する希釈剤の量は次第に増加させ、一般には開始値の2倍の大きさの新しい値まで増加させる。代表的な希釈剤はイソブタンである。この制御スキームを用いることによってスゥエリングのちょうど開始点、従って、固体濃度を最大値に保つことができ、製造設備の収率を最大にすることができる。
【0021】
本発明は下記(a)〜(d)の工程から成る方法を開示する:
(a)循環するスラリーの均一性を改善するための装置を必要に応じて備えたスラリーループ反応装置を用意し、
(b)スゥエリング中の変動レベルの増加を表すプラント制御パラメータを時間の関数で測定し、
(c)得られた測定値を処理してスゥエリングの開始をリアルタイムで検出し(必要に応じて信号対雑音比の増幅することを含む)、
(d)スゥエリングの開始を識別(同定)し、
(e)変動レベルが所定レベルに到達した時に反応装置を少しづつ希釈する。
【0022】
循環するスラリーの均一性を改善するための上記装置は、循環するスラリーがメインラインとは異なる速度で流れるバイパス管路にすることができる。
上記の所定レベルは低固形分含有率で測定した変動レベルのパーセンテージとして定義される。このパーセンテージは300%以下、好ましくは250%以下、さらに好ましくは180%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】はスゥエリング制御なしの場合のバイパス無しのループ反応装置のポンプパワー(kWで表示)を時間(時で表示)の関数で表した図。
【図2】は主ループの2つの位置の間に挿入されたバイパス管路(2)を有するループ反応装置(1)の概念図で、セッティングラグ(3)も示されている。
【図3】はスゥエリング制御なしの場合のバイパス管路を備えたループ反応装置でのポンプパワー(kWで表示)を時間(時で表示)の関数で表した図。
【図4】は図3に対応するスゥエリングの場合に反応装置の希釈を制御するのに使用される本発明が提案するプロセス信号を表す図。反応時間の検出を見易くするためにポンプパワーは上部に表示してある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合プロセスにおいて、いくつかのプロセス変数のいつもより大幅に大きな急速な変動によって特徴付けられる不安定状態(instability)の開始に関連する現象として定義されるスゥエリング(swelling)を制御する方法において、
下記(a)〜(d)の工程から成ることを特徴とする方法:
(a)循環するスラリーの均一性を改善するための装置を必要に応じて備えたスラリーループ反応装置を用意し、
(b)スゥエリング中の変動レベルの増加を表すプラント制御パラメータを時間の関数で測定し、
(c)得られた測定値を数学的信号処理で処理してスゥエリングの開始をリアルタイムで検出し、
(d)変動レベルが所定レベルに到達した時に反応装置を少しずつ希釈する。
【請求項2】
必要に応じて備えられる循環するスラリーの均一性を改善するための上記装置が、循環するスラリーがメインラインとは異なる速度で流れるバイパス管路である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラント制御パラメータがポンプ電源消費、反応装置温度、スラリー密度または冷却ジャケット中またはその一部を循環する冷却水が経験した温度変化である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プラント制御パラメータがポンプ電源消費である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)の処理が信号対雑音比の増幅を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記の希釈が、一つまたは複数の標準偏差または分散、変動範囲、または、プラント制御測定値の分散にモノトーンで関係する一つまたは複数のその他のファンクションによってトリガーされ、制御され、前記のプラント測定値はスゥエリングが発生した時に変動レベルの増加を表示する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応装置中に噴射される希釈剤の量を次第に増加させて希釈度を次第に増加させる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
低固形分含有率で測定した変動レベルのパーセンテージとして定義される所定レベルの変動が300%以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記の所定レベルの変動が180%以下である請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−522302(P2007−522302A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552603(P2006−552603)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050519
【国際公開番号】WO2005/082518
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】