説明

スラリー状有機無機複合ゲルおよび有機無機複合ゲル塗膜の製造方法

【課題】 平滑な表面を有し、特定媒体および溶質を含むことのできる力学物性に優れた薄層ゲル塗膜の製造法を提供する。
【解決手段】 水溶性のラジカル重合性モノマーを水膨潤性粘土鉱物の共存下に所定の水分量で重合させて有機無機複合ゲルを合成した後、該有機無機複合ゲルを特定範囲の水媒体量となるよう膨潤させてから、もしくは、膨潤後、更に水媒体を加えてから、有機無機複合ゲルを粉砕させることによりスラリー状有機無機複合ゲルを調製する。それを用いて塗膜を形成した後、媒体または溶質を含む媒体を含浸させることにより、力学特性に優れ、平滑な薄膜状で、且つ、目的とする媒体および溶質を含む有機無機複合ゲル塗膜が得られ、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面平滑性に優れ、薄層ゲル塗膜の製造に有用な、スラリー状有機無機複合ゲルおよび有機無機複合ゲル塗膜の製造方法に関するものであり、電解質ゲルなどとして電池やコンデンサー分野で利用できる。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは有機高分子の三次元ネットワーク構造内に水や有機溶媒を含み膨潤したソフトマテリアルで、医療、食品、土木、スポーツ関連、或いは電子・電気などの分野で利用されている。ゲルを基材上に薄く形成させて使用する要求があり、医療用のシップやバップ剤などは薬物を入れたゲルや粘着剤を基材に薄く塗布して使用している。これらにおいてゲルの厚みは一般に百ミクロン以上のもので、平滑性などの表面状態もさほど高い精度は求められていない。一方、リチウムイオン電池などの電池材料やコンデンサーなどでは電解質層にゲルを用いる試みが行われている。この場合、基材上に薄層ゲルを形成させる必要があり、また、ゲル厚みのブレが特性のブレにつながることから、平滑性な表面を有するものが求められており、更に、ゲルの強度、特に圧縮に対する強度も強いものが求められている。
【0003】
近年、有機高分子と粘土鉱物の三次元ネットワーク内に水媒体を含有するナノコンポジット型ゲル(以後、「NCゲル」と称する)は高い水膨潤性と優れた力学的特性を有することから注目されている(非特許文献1、2参照)。特許文献1では、フィルム状のNCゲルシートを加熱プレスなどの方法で薄膜化する方法が開示されている。しかし、この方法で得られる膜厚には限界があることや工程が複雑であるという問題があった。また、基材上に貼り付けて使用する場合、接着させる必要があった。特許文献2では、微粒子状のNCゲル分散液について開示されている。しかし、この方法は炭化水素系溶媒の中で乳化重合させる方法であり、コスト高となり、また使用した炭化水素を除去する必要があった。更に、粒径が比較的大きいことから、得られる塗膜表面が粗いという問題もあった。一方、特許文献3では、NCゲルを乾燥させ粉末状に粉砕させたものを再膨潤させることで力学強度に優れたゲルが得られること、更に、任意の形に成形可能であることが示されている。しかし、この方法で得られたゲル塗膜は力学強度に比較的優れるものの表面平滑性に乏しく、表面凸凹のある塗膜しか得られないという問題や、粉砕したゲルを再結合させるために特定の添加剤を必要とするという問題があった。また、特許文献4では、NCゲルと同じ組成のクレイとポリマーの水分散液とその塗膜について開示されているが、得られた塗膜の水膨潤能が極めて低く、水と接触させてもゲルとなることは無い。以上のように、従来知られているいずれの方法でも、高い表面平滑性と優れた力学物性に有し、特定の媒体を含ことのできる薄層のゲル塗膜を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−95586号広報
【特許文献2】特開2011−012107号広報
【特許文献3】特開2011−1482号広報
【特許文献4】特許第4430124号広報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Haraguchi、T.Takehisa、Advanced Material 2002年, 第14巻, 1120-1124頁.
【非特許文献2】原口和敏、化学と工業、2005年、第58巻、第4号、457−460頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、平滑な表面を有し、特定媒体および溶質を含むことのできる力学物性に優れた薄層ゲル塗膜の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
水溶性のラジカル重合性モノマーを水膨潤性粘土鉱物の共存下に所定の水分量で重合させて有機無機複合ゲルを合成した後、該有機無機複合ゲルを特定範囲の水媒体量となるよう膨潤させてから、もしくは、膨潤後、更に水媒体を加えてから、有機無機複合ゲルを粉砕させることによりスラリー状有機無機複合ゲルを調製する。それを用いて塗膜を形成した後、媒体または溶質を含む媒体を含浸させることにより、力学特性に優れ、平滑な薄膜状で、且つ、目的とする媒体および溶質を含む有機無機複合ゲル塗膜が得られることを見いだし本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、分子内に1個の(メタ)アクリルアミド基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマー(A)及び水膨潤性粘土鉱物(B)を水媒体(C)中に溶解又は分散させ、且つ、下記式(1)で表される水媒体(C)の質量比(K)が3〜15である水溶液を製造し、
該水溶液中で前記水溶性ラジカル重合性モノマー(A)を重合させることにより有機無機複合ゲルを得る工程1、
該有機無機複合ゲルを水中で(K)が40〜200となるように膨潤させる工程2、
膨潤した有機無機複合ゲルを粉砕させる工程3、
により得られるスラリー状有機無機複合ゲルの製造方法を提供する。
式(1) (K)=W/(W+W
(式中、Wは水媒体(C)の質量、Wは水溶性ラジカル重合性モノマー(A)の質量、Wは水膨潤性粘土鉱物(B)の質量を表す。)
【0009】
また、本発明は、分子内に1個の(メタ)アクリルアミド基若しくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマー(A)及び水膨潤性粘土鉱物(B)を水媒体(C)中に溶解又は分散させ、且つ、下記式(1)で表される水媒体(C)の質量比(K)が3〜15である水溶液を製造し、
式(1) (K)=W/(W+W
(式中、Wは水媒体(C)の質量、Wは水溶性ラジカル重合性モノマー(A)の質量、Wは水膨潤性粘土鉱物(B)の質量を表す。)
該水溶液中で前記水溶性ラジカル重合性モノマー(A)を重合させることにより有機無機複合ゲルを得る工程1、
該有機無機複合ゲルを水中で(K)が20〜100となるように膨潤させる工程2、
更に、膨潤した有機無機複合ゲルに水(D)を、{(W+D)/(W+W)}が40〜200となるように添加して粉砕させる工程3、
により得られるスラリー状有機無機複合ゲルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造法で得られるスラリー状有機無機複合ゲルは様々な基材に塗工可能であり、薄層で、且つ、力学物性や平滑性にも優れ、特定の媒体や溶質を含む有機無機複合ゲル塗膜を形成させることができるため、電子・電気分野などで必要とされるゲル塗膜および電解質ゲルとして有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得た乾燥塗膜の表面観察写真。
【図2】実施例1で得たゲル塗膜の表面観察写真。
【図3】比較例1で得た乾燥塗膜の表面観察写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における水溶性ラジカル重合性モノマー(A)は、分子内に一個の(メタ)アクリルアミド基もしくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマーで、且つ、水に溶解する性質を有するものである。なお、本発明で言う水媒体には、水単独以外に、水と混和する有機溶媒との混合溶媒で水を主成分とするものが含まれる。
【0013】
(メタ)アクリルアミド基を有するラジカル重合性モノマーとしては、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体モノマー、メタクリルアミド、メタアクリルアミド誘導体モノマーがあげられ、特にアクリルアミドまたはその誘導体モノマーなどのアクリルアミド基を有するものが好ましく用いられる。具体的には、アクリルアミド誘導体モノマーとしては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミドが、一方、メタアクリルアミド誘導体モノマーとしては、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミドが挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。一方、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマーとしては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールアクリレート、(ポリ)エチレングリコールメタアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレートなどが挙げられる。
【0014】
水溶性ラジカル重合性モノマー(A)としては、以上に示した単一のラジカル重合性モノマーの他、これらから選ばれる複数の異なるラジカル重合性モノマーを併用することも有効である。特に(メタ)アクリルアミド基を有するラジカル重合性モノマーと(メタ)アクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマーを併用することは好ましい。例えば、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)とポリ(メトキシエチルアクリレート)の共重合体があげられる。ここで、アクリルアミド基を有する水溶性ラジカル重合性モノマーの重合体は、水膨潤性粘土鉱物との相互作用が強いため有機無機複合ゲル中で架橋点として働く効果があり、力学強度の高いゲルが得られる。一方、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマーの重合体は、媒体を安定して含ませる効果がある。更に、その重合体のガラス転移温度が室温以下である(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマーを、(メタ)アクリルアミド基を有するラジカル重合性モノマーと併用した場合は、有機無機複合ミクロゲルの塗膜としての一体化を促進する効果がある。
【0015】
本発明における水膨潤性粘土鉱物(B)としては、水に膨潤性を有するものであり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0016】
本発明における水溶性ラジカル重合性モノマー(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(W/W)は、0.03〜2.0であることが好ましく、より好ましくは、0.05〜1.5、特に好ましくは、0.1〜0.7である。0.03より小さい場合、ゲルの力学特性が損なわれる場合があり、2.0を越えるとゲルの塗膜形成能が小さくなる。
【0017】
本発明では最終的に得られるゲル塗膜の力学物性(特に、耐クリープ性や強度)を更に向上させることなどを目的として、少量の有機架橋剤を併用することができる。有機架橋剤としては、分子内に2個またはそれ以上の2重結合を有する水溶性ラジカル重合性モノマー(F)が用いられ、特に2個の(メタ)アクリルアミド基や2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性モノマーが好ましく用いられる。具体的には、N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体や、ジエチレングリコール(メタ)アクリレートやジポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これら有機架橋剤は、通常、ラジカル重合性有機モノマー(A)と一緒に添加され、使用される。
【0018】
有機架橋剤の使用量は、水溶液ラジカル重合性モノマー(A)1モルに対して、分子内に2個以上の2重結合を有する水溶液ラジカル重合性モノマー(F)は0.001〜1モル%が好ましく、より好ましくは0.01〜0.2モル%、特に好ましくは0.01〜0.1モル%である。1モル%を越えるとゲルが脆くなる場合があり、0.001モル%未満では目的とする効果が大きくない。
【0019】
本発明におけるスラリー状有機無機複合ゲルは層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)の存在下、特定量の水媒体(C)中で水溶性ラジカル重合性モノマー(A)を重合して有機無機複合ゲルを調製した後、該ゲルを水中で膨潤させ、さらにその時の膨潤率に応じて水(D)を加えた後、粉砕する方法で得られる。なお、本明細書においては、有機無機複合ゲルの製造時に使用し、ほぼ全量がゲル中に取り込まれる水、及び有機無機複合ゲル中に取り込まれた水を「水媒体(C)」と表記する。
【0020】
良好なスラリー状有機無機複合ゲルを得るためには、Wを水媒体(C)の質量、Wを水溶性ラジカル重合性モノマーの質量、Wを水分散性粘土鉱物の質量とした場合、(K)=W/(W+W)で表される水媒体の質量比.)を3〜15の範囲で用いて有機無機複合ゲルを得ること(工程1)が必要である。Kが3未満および15を超えた範囲では、次工程で用いる有機無機複合ゲルとして、不均一となったり、力学物性が小さくなるなど不適切となる場合が多い。
【0021】
本発明においては、上記工程1で得られた有機無機複合ゲルを、ゲルに最終的に含まれる水媒体(C)のKが40〜200となるように水中で膨潤させる工程2、次いで得られた膨潤有機無機複合ゲルを粉砕させる工程3により、スラリー状有機無機複合ゲルが製造される。ここで、工程2で得られるゲルのKが40未満では、工程3で良好なスラリー状有機無機複合ゲルとすることが困難となり、また、Kが200を超えるとスラリー状有機無機複合ゲルの塗工性が低下したり、ゲル塗膜の力学物性が低下する場合が多い。
【0022】
また、本発明のスラリー状有機無機複合ゲルの製造においては、工程1で得られた有機無機複合ゲルを、ゲルに最終的に含まれる水媒体(C)のKが20〜100となるように水中で膨潤させる工程2,次いで得られた膨潤有機無機複合ゲルに水(D)を、ゲルの中に含まれている水媒体(C)と水(D)の和のKが40〜200となるように加えてから粉砕させる工程3によっても製造することができる。ここで、工程2におけるKが20未満では、工程3でのスラリー化が均一に進まず、Kが100を超えると工程3でのスラリー化で塗工性に優れたスラリー状有機無機複合ゲルが得られない場合がある。また、工程3でのKが40〜200の範囲外になると、前節で述べたのと同じ問題が生じる。
【0023】
本発明における水媒体(C)としては、イオン交換水、超純水、蒸留水などが使用可能である。また、本発明における水媒体(C)としては、水単独以外に、ラジカル重合性モノマー(A)、水膨潤性粘土鉱物(B)、重合開始剤などとの良好な均質溶液を調製することを目的として、水と均一混合する有機溶媒を水と混合して使用することも可能である。水に均一混合する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒などが挙げられる。溶媒の量は、重合に使用する水溶液中の50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。有機溶媒の混合量が大きいと、逆に水膨潤性粘土鉱物(B)の分散性を損なう場合がある。なお、重合において使用する水又は水溶液は真空脱気処理及び/または窒素やアルゴンなどのバブリングにより溶存酸素を除去したものが好ましく用いられる。
【0024】
本発明における水溶性ラジカル重合性モノマー(A)の重合反応としては、水溶性ラジカル重合性モノマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)と水媒体(C)からなる均質な水溶液に過酸化物などの熱重合開始剤や光重合開始剤または更にそれらの重合促進剤を添加して、室温保持、または、加熱や紫外線照射などにより重合させる方法が用いられる。
【0025】
本発明で用いる熱重合開始剤及び触媒としては、親水性の熱重合開始剤及び触媒のうちから適宜選択して用いることができる。具体的には、熱重合開始剤としては、ペルオキソ二硫化カリウムやペルオキソ二硫化アンモニウムなどの過酸化物、VA−044、V−50、V−501、VA−057(和光純薬工業株式会社製)などのアゾ化合物が好ましく用いられる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有するラジカル開始剤なども用いられる。触媒として、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが好ましく用いられる。
本発明で用いる紫外線重合の開始剤としては、親水性および非水溶性の開始剤をいずれも用いることができ、特に好ましくは非水溶性のものである。アセトフェノン、ジメトキシベンジル、ベンゾインフェニルカルビノール、ヒドロキシメチルフェニルプロパノン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのベンゾイン誘導体などを用いることができる。これらの非水溶性重合開始剤は、クレイ水分散液中に極めて少量で分散させられるほか、水溶性ラジカル重合性モノマー(A)または少量の水と均一に混合する有機溶媒にあらかじめ溶解させておいた後、クレイ水分散液中に分散させることができる。紫外線照射は公知の紫外線照射装置、例えば、高圧水銀、低圧水銀、メタルハライド、キセノンなどの紫外線光源とした市販の紫外線照射装置を使用することができる。照射時間は使用する紫外線強度や開始剤量及び反応液量などにより異なり、通常、数秒〜1時間の範囲で選択される。
【0026】
熱重合開始剤、及び光重合開始剤の使用量は、モノマーと粘土鉱物の合計質量(W+W)の0.01〜2質量%、特に0.02〜1質量%が好ましい。2質量%を越えても効果は変わらなく、不必要な成分が増加することとなり、0.01質量%未満では重合収率等が不十分な場合がある。尚、本発明の目的を阻害しない範囲内で、有機無機複合ミクロゲル分散液に公知の増粘剤、レベリング剤、脱泡剤、充填材を併用することは可能である。
【0027】
本発明で用いる重合温度は、ラジカル重合性モノマー、重合触媒及び開始剤の種類などに合わせて設定される。通常、熱重合は0〜100℃の範囲、好ましくは10〜90℃、より好ましくは50〜80℃の範囲で行われ、紫外線重合は0〜50℃の範囲、好ましくは0〜30℃の範囲で行われる。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、水溶液量などの条件により異なり特に限定されないが、一般に数十秒〜数十時間の間で行う。また、重合の雰囲気は、熱重合、紫外線重合共に窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく用いられる。
【0028】
本発明における有機無機複合ゲル塗膜の製造法としては、スラリー状有機無機複合ゲルをそのまま、もしくは、水分率等を調製して粘性を調整した後、基材上にダイコーター、ロールコーターなどのコーター、または刷毛などを用いて塗工し、その後、一端、無含水または低含水率となるまで乾燥させ、次いで、水や特定の媒体(E)を含浸させて、有機無機複合ゲル塗膜を得る方法が必須である。乾燥塗膜に媒体(E)を含浸させる方法としては、例えば、媒体に浸漬させる方法、媒体を接触させる方法、媒体を塗布する方法などを挙げることができる。
【0029】
本発明における媒体(E)としては、均一に含有されるものの中から目的に応じて選択して用いられ、例えば、水、有機溶媒、或いはイオン液体などが用いられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、或いは、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの液状の多価アルコール重合物、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルやメチルセロソルブなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル類、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトンなどの環状エステル類、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、エチルメチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートなどの鎖状および環状のカーボネート系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル系溶媒、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロルムや塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒などが用いられる。上記の中でも本発明で用いる媒体(E)としては、カーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒、ニトリル系溶媒を用いることは好ましい。これら有機溶媒は単独で用いても構わないし、水を含む複数の溶媒を併用し混合溶媒としても構わない。イオン液体としては、室温で液状の常温溶融塩が用いられ、イミダゾリウム塩誘導体、ビリジニウム塩誘導体、アルキルアンモニウム塩誘導体、ホスホニウム塩誘導体が用いられる。
【0030】
本発明においては、上記媒体(E)中に、無機塩、電解質、或いは、有機分子などの溶質(F)を含ませることが好ましく用いられる。媒体(E)に添加可能な溶質(F)としては、媒体(E)に均一に分散または溶解しうる化合物、例えば、電解質や塩の中から目的に応じて選択して用いられる。具体的には、電解質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、或いは、炭酸ナトリウムや炭酸リチウムなどの炭酸塩、塩化リチウムや塩化カルシウムなどの塩化物、塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウムなどの(過)塩素酸塩、四フッ化ほう酸リチウム、四フッ化ほう酸ナトリウム、四フッ化ほう酸カリウムなどのフッ化ホウ酸塩、六フッ化りん酸リチウム、六フッ化りん酸ナトリウム、六フッ化りん酸カリウムなどのフッ化リン酸塩、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムなどのフッ化イミド塩やフッ化スルホン酸塩が挙げられる。更には、アジピン酸、マレイン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸などのカルボン酸類、トリエチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウムなどのアミン類、アンモニウム塩、コラーゲン、ビタミンなどが挙げられる。
【0031】
これら媒体(E)または溶質(F)を含む媒体(E)を含浸させて得られる有機無機複合ゲル塗膜は、表面平滑性を有する均一なゲルであり、多くの場合、一体化している。本発明による製造法を用いると、100ミクロン以下の膜厚の薄層の表面平滑なゲル塗膜を得ることができ、また、ゲルを基材から隔離し、単独の有機無機複合ゲル膜として用いることも出来る。有機無機複合ゲル膜は、小さな屈曲率で曲げたり、大きく延伸することができる。また、本発明の製造法によると、使用する水溶性ラジカル重合性モノマーの重合体のガラス転移温度が100℃を越えるものの場合でも、均一で柔軟且つ平滑な表面を有する薄層ゲル塗膜を得ることができる。これに対して、水膨潤性粘土鉱物(B)を用いずに、公知の有機架橋剤のみを用いたゲルでは、スラリー状ゲルから均質な薄層塗膜は得られない。
【実施例】
【0032】
以下で、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明は下記実施例だけに限られるものでは無い。
【0033】
(実施例1)
水溶性ラジカル重合性モノマーとして、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA、興人株式会社製)を5g、水膨潤性粘土鉱物として、合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG)を2g(粘土鉱物/DMAA=0.4)、超純水(18MΩ)を47.5g、これらを100mLのフラスコに入れ、窒素雰囲気下で撹拌し均質溶液とした(K=7.1)。尚、超純水は窒素をバブリングし、窒素置換したもの用いた。この溶液を氷浴に入れ、10分間ゆっくりと撹拌した後、予め調製した純水10gとペルオキソ二硫化カリウム(KPS:関東化学株式会社製)0.2gからなる重合開始剤の水溶液2.5mLを撹拌下で加えた。重合液1を50mLのボトルに移し、内部を窒素雰囲気とし、50℃で20時間反応させた。重合後の溶液は無色透明で液全体がゲル化していた。(工程1)
ゲルを厚み5mmほどのフィルム状にカットし、純水に浸漬させて、50℃で5時間保持した。ゲルは膨潤し、K=42となった。(工程2)
得られた膨潤ゲルに更に、ゲル中の水媒体(W)と添加する水(D)の合計が{(W+D)/(W+W)}=80となるように、純水を加えてから、調理用ミキサー(ミルサー IFM−700G、岩谷産業株式会社製)でゲルを粉砕した。粉砕したゲルは脱泡機(AR−250、シンキー株式会社製)で脱泡処理を施した。(工程3)
得られたスラリー1は流動性があり塗工可能であった。スラリー1をガラス板に約0.7mmの厚さで塗布し、80℃で乾燥させた。約5ミクロンの乾燥塗膜が得られた。乾燥塗膜は平滑なものであった。
【0034】
ゲルを塗布したガラス板を純水に10分間浸漬させた。乾燥塗膜が水を含水してゲル化した。ゲルは平滑であった。膜厚は約55ミクロンであった。乾燥塗膜およびゲル塗膜表面をマイクロスコープ(デジタルマイクロスコープVHX−900(キーエンス株式会社製))で観察したところ、写真1(図1)および写真2(図2)に示すように、表面はいずれも平滑であった。ゲルの上に3×3cmの金属板(厚さ1mm)を載せ、5kgの重りを載せた。重りを取り除き、加圧したところを観察したが、加圧していない場所と差異は見られなかった。圧縮試験にて、ゲルが流動したり、大きく塑性変形したり、破壊したりしたいずれかの現象が生じた場合を「×」、明らかな変形が見られた場合を「△」、変形が非常に小さい場合を「○」、加圧していない場所と差異が殆ど見られない場合を「◎」とした。結果を表1にまとめて示す。ゲルをガラス板から剥離したところ、一体化したゲル薄膜が得られた。ゲルは強く500%まで引張っても破壊されなかった。ゲルの強度を、500%以上延伸しても破断しない場合を「○」、500%以下で破断した場合を「△」、100%以下の延伸で破断した場合を「×」で示す。
【0035】
ガラス板に塗布した乾燥塗膜を水酸化カリウム(1モル/L)の電解質水溶液に5分間浸漬させて再含液させた。含液後のゲル塗膜は平滑であった。圧縮試験を行った結果は「○」であった。また、γ−ブチロラクトンにヘキサフルオロリン酸リチウムを0.5モル/Lの濃度で溶解した電解質溶液、及びエチレングリコール(EG)にアジピン酸を1モル/L溶解させた電解液に、ガラス板に塗布した乾燥ゲルを5分間浸漬させて、再膨潤ゲルを得た。再膨潤ゲルの塗膜はいずれも平滑なものであった。圧縮試験を行った。ブチロラクトンが「○」、EGが「◎」であった。ゲルをガラス板から剥離したところ、いずれも一体化したゲル薄膜が得られた。ゲルはいずれも強く500%まで引張っても破壊されなかった。
【0036】
イオン液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムメチルサルフェート(bmiMS)(フルカ株式会社製)とメタノールとの1/1(質量比)の溶液に、ガラス板に塗布した乾燥ゲルを5分間浸漬させて、再膨潤ゲルを得た。再膨潤ゲルを80℃で乾燥しイオン液体を含有するゲルを得た。塗膜は平滑なものであった。圧縮試験を行った。「◎」であった。ゲルをガラス板から剥離したところ、いずれも一体化したゲル薄膜が得られた。ゲルはいずれも強く500%まで引張っても破壊されなかった。
【0037】
(実施例2)
水膨潤性粘土鉱物として、合成ヘクトライトの代わりにモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同じ方法でスラリー2を製造した。但し、工程2でのKは37、添加する純水(D)の量はD/(W+W)=43であった。実施例1と同じようにガラス板に塗布し、乾燥塗膜とし、純水に膨潤させた。膜厚は約45ミクロンであった。結果を表1にまとめて示す。
【0038】
(実施例3)
水溶性ラジカル重合性モノマーとして、DMAAの代わりに、N,N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)を5.7g、触媒としてテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)40μLを用いた以外は実施例1と同じ方法で重合溶液を調製した。重合溶液を20℃で20時間保持して有機無機複合ヒドロゲルを合成した(K=6.5)。重合後の溶液は無色透明で液全体がゲル化していた。(工程1)
ヒドロゲルを5mm程の厚みにカットし、フィルム状とした。カットしたゲルを純水に浸漬させて、20℃で一晩保持し、膨潤ゲルを得た(K=30)。(工程2)
更に、純水(D)をD/(W+W)=30となるように加え、調理用ミキサーでゲルを粉砕した。粉砕したゲルは、脱泡機で脱泡処理を施した。(工程3)
実施例1と同じ方法でガラス板に塗布し、乾燥塗膜とし、純水に膨潤させ、再膨潤ゲルを得た。ゲルの厚みは約40ミクロンであった。表面は平滑性に優れていた。圧縮試験を行ったが加圧していない場所と差異は見られなく良好なものであった。また、ゲルをガラス板から剥離し延伸させたところ、破断することなく500%以上まで延伸させることができた。
【0039】
(実施例4)
水溶性ラジカル重合性モノマーとして、DMAAの代わりに、2−メトキシエチルアクリレート(MEA:興亜合成株式会社製)4.6gとDMAA1.5g、合成ヘクトライトを2.0g用いた以外は実施例3と同じ方法で有機無機複合ヒドロゲルを製造した。
【0040】
ヒドロゲルを5mm程の厚みにカットし、フィルム状とした。カットしたゲルを3Lの純水に浸漬させて、20℃で一晩保持し、膨潤ゲルを得た(K=45)。(工程2)
更に、純水(D)をD/(W+W)=115となるように加え、調理用ミキサーでゲルを粉砕した。粉砕したゲルは、脱泡機で脱泡処理を施した。(工程3)
実施例1と同じ方法でガラス板に塗布し、乾燥塗膜とし、純水に膨潤させ、再膨潤ゲルを得た。ゲルの厚みは約20ミクロンであった。表面は平滑性に優れていた。圧縮試験を行ったが加圧していない場所と差異は見られなく良好なものであった。ゲルをガラス板から剥離し延伸させたところ、破断することなく500%以上まで延伸させることができた。また、実施例1と同じように水酸化カリウム水溶液を再含液させた。再膨潤ゲルは平滑であり、圧縮試験も「◎」であった。
【0041】
また、炭酸ジメチルと炭酸エチレンの重量比1:1混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムを1モル/Lの濃度で溶解した電解質の非水系溶液に、ガラス板に塗布した乾燥ゲルを10分間浸漬させて、再膨潤ゲルを得た。再膨潤ゲルの塗膜は平滑であった。ゲルを圧縮した結果も「◎」であった。
【0042】
イオン液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(bmiPF6)(フルカ株式会社製)とテトラヒドロフランとの1/1(質量比)の溶液に、ガラス板に塗布した乾燥ゲルを5分間浸漬させて、再膨潤ゲルを得た。再膨潤ゲルを80℃で乾燥しイオン液体を含有するゲルを得た。塗膜は平滑なものであった。ゲルを圧縮結果は「◎」であった。ゲルをガラス板から剥離し延伸させたところ、破断することなく500%以上まで延伸させることができた。
【0043】
【表1】

【0044】
(比較例1)
水膨潤性粘土鉱物の代わりに、有機架橋剤として、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)(特級、和光純薬工業株式会社製)0.039gを使用した以外は、実施例1と同じ方法でスラリー2を製造した。尚、工程1で得られた有機架橋型のヒドロゲルは有機無機複合ゲルに比べ非常に脆いものであった。但し、ここで使用した有機架橋剤(BIS)の量はゲルとしての強度を有する最適量であり、これ以上ではドロドロのものとなり、これ以上ではより脆いものとなった。実施例1と同じ方法でガラス板に塗布し、乾燥塗膜としたが、実施例1と同様にして測定した乾燥塗膜の表面観察結果写真3(図3)に示すように、非常に多くの深い亀裂が見られ、平滑な塗膜は得られなかった。また、実施例1と同じようにして水に浸漬させたが、一体化した均質なゲルは得られなかった。また、得られた不均質なゲルも圧縮すると容易に押しつぶれ、圧縮試験の評価は「×」であった。通常の有機架橋のゲルではゲルを微粉砕し、スラリー状とした後、塗工しても一体化したゲル塗膜とならないことが確認された。
【0045】
(比較例2)
実施例1において、工程2を行わないで、工程1の後に、工程3で純水(D)をD/(W+W)=73となるように加え、実施例1と同じようにスラリー化を行った。スラリーの粒径が大きいものであった。このスラリーを実施例1と同様な方法で塗工すると表面にブツの多い不均一な乾燥塗膜が得られた。一方、スラリーを1晩放置すると、粒子が含水により良好に膨潤し均質なスラリーが得られた。このスラリーを実施例1と同様な方法でガラス板に塗工し乾燥させると平滑な乾燥ゲルが得られた。この乾燥ゲルを実施例1と同じ方法で水を再含水させたところ、再含水ゲルの表面は凸凹したものであった。ゲルを剥離したが不均質であった。また、延伸試験では約200%で破断した。
【0046】
(実施例5、比較例3)
実施例4において、MEAを5.4gとDMAAを0.5g、合成ヘクトライトを0.8g使用した以外は、実施例4と同じ手順で有機無機複合ヒドロゲルを製造した。
【0047】
ヒドロゲルを5mm程の厚みにカットし、フィルム状とした。
【0048】
実施例5として、カットしたゲルを3Lの水とエタノールの1/1(質量比)に浸漬させて、20℃で一晩保持した。ゲルは膨潤し、Kは25となった。一方、比較例3として、カットしたゲルを3Lの純水に浸漬させて、15℃で1日保持した。膨潤ゲルのKは15であった。(工程2)
実施例5と比較例3において、更に、純水(D)を各々、D/(W+W)が15と25となるように(なお、(W+D)/(W+W)}は共に40)と純水を加え、調理用ミキサーでゲルを粉砕した。粉砕したゲルは、脱泡機で脱泡処理を施した。(工程3)
実施例1と同じ方法でガラス板に塗布し、乾燥塗膜とし、純水に膨潤させ、白濁した再膨潤ゲルを得た。ゲルの厚みは約15ミクロンであった。
【0049】
実施例5のゲルは平滑性に優れていたが、比較例3のゲルは不均質で所々にブツが見られる不均一なものであった。圧縮試験を行ったが加圧していない場所と差異は見られなく良好なものであった。ゲルをガラス板から剥離して引張ったところ、実施例5のゲルは500%以上まで引き伸ばすことが可能であったが、比較例3のゲルは約200%延伸で破断した。
【0050】
また、実施例5を実施例1と同じように水酸化カリウム水溶液を再含液させた。再膨潤ゲルは平滑であり、圧縮試験も「◎」であった。
【0051】
また、実施例5の乾燥塗膜を炭酸ジメチルと炭酸エチレンの重量比1:1混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1モル/Lの濃度で溶解した電解質の非水系溶液に、ガラス板に塗布した乾燥ゲルを10分間浸漬させて、再膨潤ゲルを得た。再膨潤ゲルの塗膜は平滑なものであった。また、ゲルを圧縮した結果は「◎」であった。
【0052】
【表2】

【0053】
(実施例6)
実施例1と同じ組成と方法で有機無機複合ゲル1を調製した。得られたゲルを純水(D1)に浸漬し、50℃で3日間保持した。ゲルは膨潤し、Kは80となった。
【0054】
工程2で得られたK=80の膨潤ゲルをそのまま粉砕し、脱泡機で脱泡した。粘性の高いスラリーが得られた。実施例1と同じ方法でゲル塗膜を調製した。塗膜は平滑であった。圧縮試験を行ったが、「◎」であった。ガラス板より塗膜を剥離したが、500%以上まで延伸することができた。
【0055】
(比較例4)
実施例1において、重合時の純水を175gとして実施例1と同じ手順で有機無機複合ゲルの合成を行った(K=25)。非常に弱いゲルが得られた。実施例1と同じように純水(D1)に浸漬した結果、膨潤し、K=67となった。更に、純水(D)をD/(W+W)=13となるように加え(なお、(W+D)/(W+W)}は80)、ゲルを粉砕した。得られたスラリーは流動性があり、塗工可能であった。実施例1と同じ手法で乾燥塗膜とゲル塗膜を調製し、膜厚約55ミクロンのゲルを得た。ゲルは平滑であった。圧縮試験を行ったところ、小さな変形が見られた「○」。ガラス板からゲルを剥離した、ゲルは弱く300%の延伸までで破断した。実施例1と同じように水酸化カリウムを含浸させた。圧縮試験を行うと、明らかな変形が見られた「△」。ゲル合成時時の水量を多くすると(K=25)、力学的性質が劣るのが確認された。
【0056】
(比較例5)
実施例2において、工程2後にK=37のゲルを用いて、工程3で水(D2)を添加しないで、K=37のゲルのみを粉砕した。ゲルは小さく粉砕されたが、粉砕されたゲルは塊となり、塗工することは出来なかった。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個の(メタ)アクリルアミド基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマー(A)及び水膨潤性粘土鉱物(B)を水媒体(C)中に溶解又は分散させ、且つ、下記式(1)で表される水媒体(C)の質量比(K)が3〜15である水溶液を製造し、
該水溶液中で前記水溶性ラジカル重合性モノマー(A)を重合させることにより有機無機複合ゲルを得る工程1、
該有機無機複合ゲルを水中で(K)が40〜200となるように膨潤させる工程2、
膨潤した有機無機複合ゲルを粉砕させる工程3、
により得られるスラリー状有機無機複合ゲルの製造方法。
式(1) (K)=W/(W+W
(式中、Wは水媒体(C)の質量、Wは水溶性ラジカル重合性モノマー(A)の質量、Wは水膨潤性粘土鉱物(B)の質量を表す。)
【請求項2】
分子内に1個の(メタ)アクリルアミド基若しくは(メタ)アクリロイルオキシ基を有する水溶性ラジカル重合性モノマー(A)及び水膨潤性粘土鉱物(B)を水媒体(C)中に溶解又は分散させ、且つ、下記式(1)で表される水媒体(C)の質量比(K)が3〜15である水溶液を製造し、
式(1) (K)=W/(W+W
(式中、Wは水媒体(C)の質量、Wは水溶性ラジカル重合性モノマー(A)の質量、Wは水膨潤性粘土鉱物(B)の質量を表す。)
該水溶液中で前記水溶性ラジカル重合性モノマー(A)を重合させることにより有機無機複合ゲルを得る工程1、
該有機無機複合ゲルを水中で(K)が20〜100となるように膨潤させる工程2、
更に、膨潤した有機無機複合ゲルに水(D)を、{(W+D)/(W+W)}が40〜200となるように添加して粉砕させる工程3、
により得られるスラリー状有機無機複合ゲルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスラリー状有機無機複合ゲルを基材に塗布し乾燥させ、次いで、媒体(E)を含浸させることにより得られる有機無機複合ゲル塗膜の製造方法。
【請求項4】
媒体(E)中に溶質(F)を含むことを特徴とする請求項3記載の有機無機複合ゲル塗膜の製造方法。
【請求項5】
溶質(F)が電解質または塩であることを特徴とする請求項4記載の有機無機複合ゲル塗膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241085(P2012−241085A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111320(P2011−111320)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】