説明

スレート葺屋根補修用屋根板保持金具、スレート葺屋根の補修構造およびその補修工法

【課題】既設のスレート葺屋根材の固定用フックボルトへの取付けを堅固に行うことができる他、取付け・取外しが簡単なスレート葺屋根補修用の屋根板保持金具と、その保持金具を用いることで達成されるスレート葺屋根補修構造と、そして、金属製折曲げ屋根材の安定した取付けを低コストで行うことのできるスレート葺屋根の補修工法とを提案する。
【解決手段】断面略台形状を呈し、その左右傾斜側部がスレート葺屋根の波形凸部を跨ぐ、その両側の傾斜面に沿って配置される一対の側板部を有する台座部と、該台座部上面の幅方向端部から上方にそれぞれ突設された一対の支持部とからなる保持金具と、
この金具をスレート葺屋根材に取付けてあるフックボルトに固定して、その上に2枚の金属製折曲げ屋根材の重ね合わせ端部を載置したのち長ビス止めをし、老朽化したスレート葺屋根を覆う補修工法と、その補修構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅や学校、ガレージ、工場、倉庫、店舗等の屋根葺に用いられている老朽化したスレート葺屋根材を、これを取り壊すことなく新しい金属製折曲げ屋根材を覆い被せて補修する際に用いられるスレート葺屋根補修用の屋根板保持金具、スレート葺屋根の補修構造およびその補修工法に関しての提案である。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化したスレート葺屋根の補修を行う場合、まず、古くなったスレート葺屋根材を取り外し、次いで、新たなスレート葺屋根材等を取付けて新しい屋根を葺上げる方法が一般的である。この工法では、とくに工場等の場合、その葺替工事の間、工場作業を長期間に亘って休止しなければならないという問題があった。また、何よりも、近年では、取り外したスレート葺屋根材は、その多くがセメントの他に10〜20mass%程度の石綿をも含むものがあるため、大量に発生するこの廃棄物の処理が環境汚染になるという点で大きな問題となっていた。さらに、葺替工事中は屋根がなくなるため、風雨を凌ぐための養生を行うことが必要になり、しかも骨組だけになるため危険であり、しかも室内にも足場などを設置する必要があるという問題もあった。
【0003】
これに対し、従来、老朽化したスレート葺屋根を取り壊すことなく、その上を金属製折曲げ屋根材にて覆うことにより、スレート葺屋根を補修する方法がある。このような施工方法の例としては、例えば、特許文献1および2に開示されているような方法が知られている。
【0004】
特許文献1では、既存のスレート葺屋根板を固定しているフックボルトに、支持金具(固定金具)を、取付けると共に、係止部材によって上側から押さえて固定し、次いで、支持金具上に、新規の外装下地材を載置し、固定具によって固着し、その後、該外装下地材上に新規の外装材を載置し、外装材の凸部上方から、外装下地材に至るまでドリルビスを打入させることにより、外装材を外装下地材上に支持固定する外装材葺替え構造を提案している。
【0005】
また、特許文献2では、既存の波形スレート板を固定しているフックボルトに、略逆U字状の支持フレームを挿入し、該支持フレームに設けられている圧入係止部によって係止した後、波形スレート板上に新設のカバールーフを被覆し、カバールーフ上方からドリルビスを打ち込んで、ドリルビスの下端を支持フレームの頂部に固定するという、スレート屋根の葺替構造を提案している。
【特許文献1】特開2003−184228号公報
【特許文献2】特開2000−336851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術、例えば、特許文献1は、固定金具と補修用屋根板材(外装材)との間に、下地材を設け、カバールーフとなる新設の屋根板材の波形凸部から、この下地材に至るまで止着部材(ドリルビス)を挿通することで、屋根板材を下地材に固着させるのであるが、この場合、下地材の設置が不可欠であり、該下地材を固定金具上にネジ止め等によって固着させる必要があるため、設置に手間がかかると共に、工期が長くなることにより、コストアップとなる。また、カバールーフの設置高さが、下地材の高さ分だけ高くなり、不安定になるという問題がある。さらに、カバールーフの波形凸部の下方が空洞となり、それを下方から支持するものがないため、作業者がこの凸部を踏み込むと、凹んだり変形するおそれがあった。
【0007】
さらに、特許文献1の技術では、支持金具とは別体の係止部材を設け、該係止部材を移動可能にしたことにより、フックボルトの芯がズレている場合にも対応できるようしているが、別部材を設けることによるコストアップの問題がある。
【0008】
また、特許文献2の葺替構造は、既設のスレート葺屋根材上に支持フレーム(固定金具)を介して新設の屋根材を取付けるものであり、特許文献1のような下地材を必要としていない。しかしながら、この文献2では、既設のフックボルトの上部を切取らず、支持フレームから突出した該フックボルト上に新設の屋根板を葺くようにしているため、新設のカバールーフの山部(凸部)高さが高くなり、一般的な板幅(914mm)の屋根板を使用する場合、スレートの働き幅780mmに対し、働き幅が1山間隔少ない650mmになる。したがって、屋根板材が特殊仕様となると共に、屋根板材の使用量も増えるため、コストアップとなる。
【0009】
また、既設のスレート葺屋根材は、フックボルトがスレート葺屋根材の山芯(凸部)部になくズレている場合があるが、特許文献2のような固定金具では、そのズレに対応することができず、固定金具が斜めに係止された状態になりやすく、そのために、その上部に取り付けられる新設の屋根板までも傾いてしまうという問題があった。
【0010】
また、既設のフックボルトが部分的に腐食し、断面が欠損してしまった場合や、既設のスレート葺屋根材が割れてしまった場合などに、一度取り付けた支持金具を取り外すことがあるが、これら特許文献1および特許文献2の技術では、固定金具が丸穴形の係止片によってフックボルトに固定されているため、取り外しの際には、工具を使って係止片をこじあけたり、リベット等の固定具に電動ドリルで穴を開ける作業が必要になり、その作業に手間がかかるという問題があった。
【0011】
さらに、これらの従来技術では、固定金具を既設のスレート葺屋根材の凸部を完全に覆うように(固定金具をスレート葺屋根材の凹部(谷部)から支えるように配置されているため、固定金具の形状が大きくなるとともに、作業員が歩くなどして上から荷重がかかった場合に、開きやすいという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、既設のスレート葺屋根材の固定用フックボルトへの取付けを堅固に行うことができる他、取付け・取外しが簡単で、しかも固定用フックボルトの軸芯のズレ(横ズレ)にもよく対応することができるスレート葺屋根補修用の屋根板保持金具と、その保持金具を用いるまで達成されるスレート葺屋根補修構造と、そして、金属製折曲げ屋根材の安定した取付け(施工)を低コストで行うことのできるスレート葺屋根の補修工法とを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した課題が解決でき、上記目的の実現に有効な解決の手段として、下記の要旨構成に係る新規技術を提案する。
【0014】
本発明の第1の解決手段は、
既設のスレート葺屋根上を覆う金属製折曲げ屋根材を支持するための屋根板保持金具であって、この保持金具は、下部が台座部として構成され、上部が支持部として構成されていて、断面略台形状をなすものであり、
上記台座部は、スレート葺屋根材の波形凸部を跨ぐように配設される部分であって、台座上板部と左右の傾斜側板部とからなり、かつ、その台座上板部には、中央部の前後方向を切り起して形成される一対の対向する矩形状係止爪を有すると共に、この係止爪に挟まれた左右方向には、スレート葺屋根材固定用フックボルトを挿入するための長孔状ボルト挿通孔とを有し、
上記支持部は、台座上板部の前後方向の端縁から上方にそれぞれ立設された一対の支持部側板およびこれらの支持部側板上端からそれぞれ外側に翼状に張設した支持部上板とからなることを特徴とするスレート葺屋根補修用屋根板保持金具に関する。
【0015】
なお、本発明の上記スレート葺屋根補修用屋根板保持金具は、
(1)前記台座部は、左右傾斜側板部のそれぞれの下端部に、外向きに延在させた鍔片を有すること、
(2)前記係止爪は、フックボルトのねじ部に噛合してこれを係止する対向する端縁が、長孔状ボルト挿通孔の長手方向に沿って直線的に形成され、かつこの係止爪の左右方向両端部の外側には、それぞれ、フックボルトの直径よりも大きい開口部を有すること、
(3)前記台座部の左右傾斜側板部の拡がり方向と前記支持部上板の張り出し方向とが互いに直行する向きに形成されていること、
(4)前記係止片の先端が先細形状であること、
がより好ましい解決手段である。
【0016】
また、本発明の第2の解決手段は、
既設スレート葺屋根上に、屋根板保持金具を介して金属製折曲げ屋根材を被覆してなるスレート葺屋根の補修構造において、
前記保持金具が、スレート葺屋根補修用保持金具によって構成され、
前記金属製折曲げ屋根材が、スレート葺屋根の各山部に対応する位置において折曲げ成形された台形山部を有すると共に、その台形山部のうちのスレート葺屋根材を固定するフックボルトの設置部分を高台形山部としてなる折曲げ屋根材によって構成され、
前記金属製折曲げ屋根材端部の高台形山部が、スレート葺屋根材固定用フックボルトに装着されている上記保持金具の、支持部上板上に重ね合わせて載置され、
そして、該金属製折曲げ屋根材は、隣接するものどうしを連結するために、それらの端部どうしを重ね合わせた部分が、屋根下地材に向けて打ち込まれた直打用長ビスを介して固定されていることを特徴とするスレート葺屋根の補修構造に関する。
【0017】
そして、本発明の第3の解決手段は、
既設スレート葺屋根上に、屋根板保持金具を介して金属製折曲げ屋根材を配設して、これを覆うことにより、スレート葺屋根の補修を行う方法において、
フックボルトが取付けられているスレート葺屋根材の波形山部のうちの、その上に被せる金属製折曲げ屋根材端部の高台形山部に当たる位置に、屋根板保持金具を、この金具の台座上板部に設けられた長孔状ボルト挿通孔中にあるフックボルトに取付けると共に、この屋根板保持金具を台座上板部に設けた係止爪を介して該フックボルトのネジ山に食い込ませて固定し、
次いで、上記屋根板保持金具上に、両端部に高台形山部が形成されている金属製折曲げ屋根材を、その高台形山部の部分を互いに重ね合わせた状態にして載置し、
その後、上記金属製折曲げ屋根材の上から、連結すべき該屋根材それぞれの端部の重ね合わせ部分に、直打用長ビスを下層にあるスレート葺屋根材ともども屋根下地材にまで打込むことにより、該金属製折曲げ屋根材をスレート葺屋根上に被覆した状態で固定する、
ことを特徴とするスレート葺屋根の補修工法に関する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように構成される、本発明によれば、老朽化したスレート葺屋根材を取り壊さずに、単に、その上に金属製折曲げ屋根材を葺き上げるだけでスレート葺屋根の補修ができるという効果がある。従って、このような技術の下では、補修工事中であっても工場の操業を続けたり、倉庫や店舗の使用や営業を継続して行うことができる他、風雨を凌ぐための養生や足場の構築も不要で、補修工事を安全かつ短期間に行うことができる。しかも、古いスレート葺屋根を解体する必要がないので、スレート葺屋根材等の廃棄物がほとんど出ることがなく、環境汚染を招くという問題を生じさせることもない。
【0019】
また、本発明によれば、葺上げた金属製折曲げ屋根材端部どうしの連結のための重ね合わせ位置が、保持金具への支持に加えて直打用長ビス止めによる固定を併用することにより堅固に支持される。しかも、該金属製折曲げ屋根材を長ビス等の打込みによる直打工法によって既設のスレート葺屋根および構造材の下地母屋へ直接固定する際に、その重ね合わせ部の、とくに下側屋根材が下へ落ち込むことや、該長ビス等が曲がって施工不良を招くようなことを防止することができる。
【0020】
また、本発明に従って葺上げた金属製折曲げ屋根材からなるカバールーフは、既設のスレート葺屋根材の山部に合わせて台形山部を形成して重畳するように載置され、ビス止め等によって固定されるため、作業者が薄鋼板からなる折曲げ屋根材、とくに前記台形山部の上に乗っても、この山部が凹んだり膨らんだりするようなことがなく、また、下地材等の設置が不要になるため、工期の著しい短縮と、コストダウンを図ることができる。
【0021】
また、本発明の屋根板保持金具は、その台座上板部に設けられたフックボルト挿入孔を長孔状とすると共に、係止爪を横長矩形状とした(ボルト噛合部が直線状となる)ことで、既設のフックボルトの軸芯が大きくズレているような場合でも、該金具を傾けることなく、そのままの状態で、係止爪をフックボルトのネジ山に食い込ませることできるので、施工が容易になると共に、強固に固定することができる。
【0022】
また、本発明の屋根板保持金具は、その台座部上面に、係止爪の左右方向両端部の外側に、固定用フックボルトの直径よりも大きい開口部を前記長孔状ボルト挿通孔に連設する形で設けたことにより、屋根板保持金具を、前記開口部まで左右方向に金槌等で軽く叩くなどして移動させるだけで、簡単に取り外しができるようになり、従来のように電動ドリル等の工具を使う必要がなくなる。
【0023】
また、本発明の屋根板保持金具は、スレート葺屋根材の凸部(山部)を跨ぐように載置される台座部の左右傾斜側板部の拡がり方向と、それの上部に連設された支持部上板とが、従来の固定金具のように同じ方向に張設されるのではなく、互いに直交する方向となるように形成されているため、作業者が屋根板上を歩く等して上方より荷重がかかっても開きにくく、安定支持に効果がある。
【0024】
さらに、本発明の屋根板保持金具は、台座部の左右傾斜側板部下端部に設けた鍔片が、スレート葺屋根材の凸部(山部)上に跨座するように配置されるため、従来の固定金具よりも、サイズを小さくすることが可能であり、さらに強度と安定度とを向上させコストダウンも図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のスレート葺屋根補修構造の一実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明のスレート葺屋根補修構造において用いられる金属製折曲げ屋根材の側面形状を示す線図である。
【図3】本発明のスレート葺屋根補修構造の一実施形態を示す部分断面図である。
【図4】本発明のスレート葺屋根補修構造の一実施形態を示す部分断面図である。
【図5】本発明の屋根板保持金具のフックボルトへの取付け位置を示す概略図である。
【図6】本発明にかかる屋根板保持金具の構造を示す斜視図(a)および平面図(b)である。
【図7】本発明にかかる屋根板保持金具の取付け方法の一実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明のスレート葺屋根補修構造の一実施形態を示すものであって、溝型鋼材などで構成される母屋1上に、スレート葺屋根材3をフックボルト2を介して固定し、そのスレート葺屋根板3上には本発明に係る屋根材保持金具4を介在させて、カバールーフである金属製折曲げ屋根材6を載置して、老朽化したスレート葺屋根3を覆うことにより、該スレート葺屋根3の補修を行った様子を示している。
【0027】
本発明で用いる金属製屋根材6は、図2に示すように、丸波形スレート葺屋根3の各波形山部に対応する位置にそれぞれ、角形に折曲げ成形された台形山部6aが設けられ、その台形山部6aのうちのスレート葺屋根材3固定用のフックボルト2設置部分は嵩高の高台形山部6a’となるようにして屈曲成形したものであり、図示したように、左端部が上重ね端部6b、右端部が下重ね端部6cとして形造られている。
なお、この金属製屋根材6は、金属製薄板、好ましくは溶融亜鉛メッキ鋼板、塗装溶融亜鉛メッキ鋼板、塗装溶融合金メッキ鋼板等を折曲げ成形したものが好適に用いられ、前記台形山部の上面は、平坦面、湾曲面、山形等に成形されることが好ましい
【0028】
角波状に成形された金属製折曲げ屋根材6は、それぞれの高台形部分を含む台形山部は、少なくとも屋根葺き施工後において、スレート葺屋根材3のちょうど波形山部の位置に符合して設けられ、これらの両山部は、ほぼ接するように配設される形状を備えている。従って、施工作業に当たっては、作業者が該金属製折曲げ屋根材6上に乗っても、山部どうしが接ししているため、座屈して凹んだり変形したりするようなことがなく、しかも、この金属製折曲げ屋根材6を既設のスレート葺屋根材3上に、同じ山間隔(同じ働き幅)でそのまま施工して取付けることができる。従って、母屋材などを新たに施工して補強工事を行う必要がなく、スレート葺屋根の捕集作業を簡素化することができる。
【0029】
本発明では、図3の断面図に示すように、2枚の前記金属製折曲げ屋根材6を、一方の上重ね端部6bと、他方の屋根板端部である下重ね端部6cとを重ね合わせることによって互いを連結し、その重ね合わせた位置にスレート葺屋根材3の固定に用いられるフックボルト2の頭部を貫通させた状態で屋根材保持金具4上に載置する。その上で、図3のIII−III位置における断面を示す図4に示すように、該屋根材保持金具4の隣接位置において、左右の金属製折曲げ屋根材6ともども、しかもスレート葺屋根材3をも貫通する態様で、直打用長ビス7を母屋1(屋根下地材)にまで打ち込む(直打工法)ことによって、カバールーフとなる金属製折曲げ屋根材6を、既設スレート葺屋根材3上に被せて固定することで、屋根補修を行う。
【0030】
このように、本発明では、葺上げた金属製折曲げ屋根材6の端部6b、6cの重ね合わせ位置が、スレート葺屋根材3の波形凸部3a上に跨座させた屋根材保持金具4によって下から支持されるため、該金属製折曲げ屋根材6にビス7等を打ち込むときも、その端部6b、6cどうしの重ね合わせ部の、とくに下重ね端部6c(下側屋根材)が凹むようなことや、ビス等が曲がって取り付けられるのを防止することができる。
【0031】
なお、本発明の屋根材保持金具4は、上述したように、金属製折曲げ屋根材6の端部6b、6cの重ね合わせ位置を支持する目的で用いられるものであるため、図5に示すように、スレート葺屋根材3の固定に用いられているフックボルト2のうち、金属製折曲げ屋根材6のつなぎ合わせ部分(嵌合部)に位置するフックボルト2のみ、即ち、折曲げ金属製屋根材6の板幅(780mm)に相当する間隔毎に配置させることになる。
【0032】
次に、本発明に係る屋根材保持金具4について説明する。図6は、本発明の屋根材保持金具4の一実施形態を示すものである。この図に示すように、本発明の屋根材保持金具4は、全形が樋状で断面略台形状を呈し、下部を構成する台座部Aと、この台座部Aの上に連設されて上部を構成することとなる、金属製屋根材5を支持する支持部Bとで構成されており、台座部Aの拡がり方向と、支持部Bの張り出し方向とは互いに直交する向きとなるように形造られている。
即ち、スレート葺屋根材の凸部(山部)を跨ぐように載置される台座部Aの左右傾斜側板部4b、4b’の横拡がり方向と、それの上部に連設される金属製屋根材を保持する支持部Bの支持部上板5a、5a’の張り出し方向とが、従来の固定金具のように同じ方向を向いているのではでなく、互いに直交する方向となるように形成されているため、作業者が屋根板上を歩く等して上方より荷重がかかっても開きにくく、折曲げ屋根材6の支持形態が安定するという効果がある。
【0033】
台座部Aは、前記左右の傾斜側板部4b、4b’を介してスレート葺屋根材3の波形凸部上を跨ぐように配設する部分であって、台座上板部4aとその左右方向の各端部に傾斜側板部4b、4b’とを門形に連設して断面略台形を呈する形状である。そして、この台座部Aの台座上板部4aには、その中央部の一部を左右方向に沿ってそれぞれ斜め上方へ切り起して形成した対向する一対の矩形状の係止爪4c、4c’が設けられている。そして、この係止爪4c、4c’の形成によって開口する部分は同時に、左右方向に延びる長孔状のボルト挿通孔4dを形造っている。
【0034】
一方、前記支持部Bは、台座上板部4aの前後方向となる端縁部を屈曲して上方に立設した一対の支持部側板5b、5b’と、それぞれの支持部側板の上端から外側に張り出すように、つまり前記台座Aの左右傾斜側板部4b、4b’とは直交する向きの前後方向に、それぞれ張り出すように屈曲成形された支持部上板5a、5a’とからなるものである。
【0035】
前記のように構成される屋根材保持金具4は、スレート葺屋根材3の所定位置(金属製折曲げ屋根材5のつなぎ合わせ位置)の波形凸部3aの直上に跨座するように配置され、かつ前記台座上板部4aの係止爪4c、4c’とフックボルト2との噛合状態を介して堅固に固定される。この保持金具4の固定状態を安定させるため、前記台座上板部4aに設けられた係止爪4c、4c’の対向する端縁部相互間には、前記フックボルト2を挿通させるための隙間4gが設けられ、この隙間4g内に貫通するフックボルト2のネジ山の間に、該係止爪4c、4c’の先端部を喰い込ませるようにする。そして、カバールーフとなる金属製折り曲げ屋根材5については、連結のために重なり合う部分が、前記のように、フックボルト2によって締結された状態にある屋根板保持金具4の、支持部上板5a、5a’上に載置されることによって支持される。
【0036】
上記係止爪4c、4c’は、左右方向に横長の矩形状からなるため、対向する端縁どうしが従来の固定金具のようにフックボルトの形状に合わせて円弧状に形成されているものではなく、直線状に形成されているため、フックボルト2のねじ山に噛合して係止できる範囲が広くなっており、両者の係脱が容易である。従って、既設のフックボルト2がスレート葺屋根材3の山芯(凸部3a)部に挿通されずに芯ズレを起こしていたり、傾くなどしていても、屋根材保持金具4を不安定な状態にすることなく、そのままの状態で、係止爪4c、4c’をフックボルト2のネジ山に確実に喰い込ませることができる。なお、このような噛合状態を確実に得るために、前記係止爪4c、4c’は、板厚が厚い場合、係止爪4c、4c’の先端部を、図7に示すように、先細形状にすることが好ましい。
【0037】
加えて、この屋根材保持金具4の台座部Aの台座上板部4aに形成されたボルト挿通孔4dは、左右の傾斜側板方向に長い長孔状に形成されており、それ故に、上述したとおり、既設のフックボルト2が傾いていたり、芯ズレを起こしていたような場合でも、フックボルト2の傾き等に合わせて屋根板保持金具4を単に横位置移動させるだけで、該保持金具4のフックボルト2への常に安定した喰い込み固定が可能になる。
【0038】
なお、本発明の屋根板保持金具4では、台座上板部4aにおいて、係止爪4c、4c‘の左右方向の両側端部と、ボルト挿通孔4dの左右方向の両端部との間には、スレート葺屋根材3の固定用フックボルト2の直径よりも大きい開口部4f、4f’を設けることが好ましい。これを設けることにより、フックボルト2に取り付けた屋根板保持金具4を取り外す際に、該保持金具4を、横方向に金槌等で叩くなどして前記開口部4f、4f’まで移動させることで、簡単に取り外しを行うことができるようになり、従来のように、電動ドリル等の工具を使って係止片4c、4c’をこじ開ける必要がなくなる。
【0039】
また、本発明では、屋根材保持金具4の前記左傾斜側板部4bおよび右傾斜側板部4b‘の下端部には、外向きの下拡がり状に延在させた鍔片4e、4e’を形成することが好ましい。この鍔片4e、4e’は、載置する既設のスレート葺屋根材3の波形凸部3aの傾斜に沿った角度に折曲して形成されることが好ましく、これにより、屋根材保持金具4をスレート葺屋根材3の波形凸部3a上に載置した際に、鍔片4e,4e’が押さえとなり、屋根材保持金具4が、載置する金属製折曲げ屋根材6の荷重等によって大きく動くようなことがなく、スレート葺屋根材3上に安定して着座させることができる。
【0040】
本発明に係る屋根材保持金具4は、その左右傾斜側板部4b、4b’が、スレート葺屋根材3の波形凸部3aを跨ぐように着座した状態で、該凸部3a上に載置するものである。そのため、スレート葺屋根材3の凹部の部分で支えるようにしている従来の固定金具よりもサイズを小さくすることができ、製作が簡単で、製作費や屋根上に運搬する作業費を削減することができると共に、強度を向上させることができる。
【0041】
さらに、本発明に係る屋根材保持金具4は、上述したように、支持部上板5a、5a’の張り出し方向(前後方向)と、左右傾斜側板部4b、4b’の拡がり方向(横方向)とが直交する向きに形成されているため、支持部B上に載置される金属製折り曲げ屋根材6の荷重が分散されて、作業者が屋根板上を歩く等して上方より荷重がかかっても左右傾斜側板部4b、4b’が左右に開いてしまうのを防ぐことができる。
【0042】
次に、既設スレート葺屋根材3上に、新らたに金属製折曲げ屋根材6を覆うように葺き上げて、老朽化したスレート葺屋根3をそのままにして補修する方法について説明する。
【0043】
まず、屋根材保持金具4をスレート葺屋根材3上に被せるよう配置する方法としては、屋根材保持金具4を、この金具4の台座上板部4a中に、既設のスレート葺屋根材3を固定しているフックボルト2を挿入すると共に、台座部上板部4aを切り起こして形成した係止爪4c、4c’の先端部を、このフックボルト2のネジ山の間に喰い込ませることにより固定する。
【0044】
このようにして屋根材保持金具4をフックボルト2を介してスレート葺屋根材3に固定した後、フックボルト2上端の保持金具4の支持部Bの支持部上板5a、5a’より突出した部分は、該支持部上板5a、5a’以下の位置の高さになるように切断することが好ましい。これにより、後述するように、金属製折曲げ屋根板6を保持金具4上に載置させた際に、フックボルト2が、屋根材6にぶつかるようなことがなくなる。
【0045】
次に、図3に示したように、保持金具4の支持部Bの平坦な支持部上板5a、5a’上に、新規の金属製折曲げ屋根板6を、上重ね端部6bと下重ね端部6cとを重ね合わせた状態にして載置し、図3および図4に示すように、保持金具4の近傍にある、金属製折曲げ屋根材6の重ね合わせ部分を、スレート葺屋根材3ともども直打用の長ビス7を介して母屋1(屋根下地材)に達るまで打ち込むことで、該金属製折曲げ屋根材6をスレート葺屋根材3上に被覆した状態にして固定する。
【0046】
なお、この補修工法で用いる前記金属製折曲げ屋根材6は、下層の老朽化したスレート葺屋根材3の丸波パターンと同じ間隔で角形に折曲げ成形した屋根材であり、図1に示すように、スレート葺屋根材の各山部に対応する部分のうちのフックボルト2取付け部分に、上述したように、高台形山部6aを一定の周期で形成したものである。
【0047】
本発明では、このような屋根葺施工作業によって、隣り合う金属製折曲げ屋根材6どうしを幅方向に繋げていくことにより、老朽化したスレート葺屋根3の全面を、カバールーフである新しい金属製折曲げ屋根材6によって覆い、スレート葺屋根材3等の既設屋根設備等を全く解体することなく補修することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るスレート葺屋根の補修構造およびその補修工法、スレート葺屋根補修用屋根材保持金具は、単に老朽化したスレート葺屋根の補修のみならず、新しいスレート葺屋根のカバールーフ施工技術としても好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
1 母屋
2 フックボルト
3 スレート葺屋根材
3a スレート葺屋根材の波形凸部
4 屋根材保持金具
4a、台座上板部
4b 右傾斜側板部
4b’左傾斜側板部
4c、4c’ 係止爪
4d ボルト挿通孔
4e、4e’ 鍔片
4f、4f‘ 開口部
5a、5a’ 支持部上板
5b、5b’ 支持部側板
6 金属製折曲げ屋根材
6a 金属製折曲げ屋根材の台形山部
6a’ 金属製折曲げ屋根材の高台形山部
7 長ビス
A 台座部
B 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のスレート葺屋根上を覆う金属製折曲げ屋根材を支持するための屋根板保持金具であって、
この保持金具は、下部が台座部として構成され、上部が支持部として構成されていて、断面略台形状をなすものであり、
上記台座部は、スレート葺屋根材の波形凸部を跨ぐように配設される部分であって、台座上板部と左右の傾斜側板部とからなり、かつ、その台座上板部には、中央部の前後方向を切り起して形成される一対の対向する矩形状係止爪を有すると共に、この係止爪に挟まれた左右方向には、スレート葺屋根材固定用フックボルトを挿入するための長孔状ボルト挿通孔とを有し、
上記支持部は、台座上板部の前後方向の端縁から上方にそれぞれ立設された一対の支持部側板およびこれらの支持部側板上端からそれぞれ外側に翼状に張設した支持部上板とからなる、
ことを特徴とするスレート葺屋根補修用屋根板保持金具。
【請求項2】
前記台座部は、左右傾斜側板部のそれぞれの下端部に、外向きに延在させた鍔片を有することを特徴とする請求項1に記載のスレート葺屋根補修用屋根板保持金具。
【請求項3】
前記係止爪は、フックボルトのねじ部に噛合してこれを係止する対向する端縁が、長孔状ボルト挿通孔の長手方向に沿って直線的に形成され、かつこの係止爪の左右方向両端部の外側には、それぞれ、フックボルトの直径よりも大きい開口部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のスレート葺屋根補修用屋根板保持金具。
【請求項4】
前記台座部の左右傾斜側板部の拡がり方向と前記支持部上板の張り出し方向とが互いに直行する向きに形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のスレート葺屋根補修用屋根板保持金具。
【請求項5】
前記係止片の先端が、先細形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のスレート葺屋根補修用屋根板保持金具。
【請求項6】
既設スレート葺屋根上に、屋根板保持金具を介して金属製折曲げ屋根材を被覆してなるスレート葺屋根の補修構造において、
前記保持金具が、請求項1〜5のいずれか1項に記載のスレート葺屋根補修用保持金具によって構成され、
前記金属製折曲げ屋根材が、スレート葺屋根の各山部に対応する位置において折曲げ成形された台形山部を有すると共に、その台形山部のうちのスレート葺屋根材を固定するフックボルトの設置部分を高台形山部としてなる折曲げ屋根材によって構成され、
前記金属製折曲げ屋根材端部の高台形山部が、スレート葺屋根材固定用フックボルトに装着されている上記保持金具の、支持部上板上に重ね合わせて載置され、
そして、該金属製折曲げ屋根材は、隣接するものどうしを連結するために、それらの端部どうしを重ね合わせた部分が、屋根下地材に向けて打ち込まれた直打用長ビスを介して固定されていることを特徴とするスレート葺屋根の補修構造。
【請求項7】
既設スレート葺屋根上に、屋根板保持金具を介して金属製折曲げ屋根材を配設して、これを覆うことにより、スレート葺屋根の補修を行う方法において、
フックボルトが取付けられているスレート葺屋根材の波形山部のうちの、その上に被せる金属製折曲げ屋根材端部の高台形山部に当たる位置に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の屋根板保持金具を、この金具の台座上板部に設けられた長孔状ボルト挿通孔中にあるフックボルトに取付けると共に、この屋根板保持金具を台座上板部に設けた係止爪を介して該フックボルトのネジ山に食い込ませて固定し、
次いで、上記屋根板保持金具上に、両端部に高台形山部が形成されている金属製折曲げ屋根材を、その高台形山部の部分を互いに重ね合わせた状態にして載置し、
その後、上記金属製折曲げ屋根材の上から、連結すべき該屋根材それぞれの端部の重ね合わせ部分に、直打用長ビスを下層にあるスレート葺屋根材ともども屋根下地材にまで打込むことにより、該金属製折曲げ屋根材をスレート葺屋根上に被覆した状態で固定する、
ことを特徴とするスレート葺屋根の補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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