説明

セキュリティ要素を有している重要文書および当該重要文書の製造方法

【課題】検査時の印加する電界が弱い場合でも検出可能なセキュリティ要素を備える重要文書を提供する。
【解決手段】
本発明は、マーキング領域(4)にマーキング層(8)が設けられている少なくとも1つのセキュリティ要素(6)を有している重要文書(1)であって、前記層が、エレクトロルミネセント色素(10)を含んで担体へと塗布されている重要文書(1)に関する。そのような一重要文書の色素(10)のエレクトロルミネセンスは、外部から印加される電界の強度が比較的弱くても、励起可能でなければならない。この目的のため、少なくとも100の誘電率を有している電気的に絶縁された複数の電界変位要素(14)が、マーキング領域(4)の表面にわたって分布され、該電界変位要素が、互いに約5μm〜500μmの間隔にあって、該電界変位要素間の隙間において加えられた電界を圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのセキュリティ要素を有している重要文書であって、該セキュリティ要素が、マーキング領域において、エレクトロルミネセント色素を含み、担体へ塗布されているマーキング層からなる重要文書に関する。さらに本発明は、そのような重要文書の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造や複製に対する防護のため、例えば紙幣、身分証明書またはICカードなどの重要文書または機密書類には、例えば紙の形態の重要文書の場合に、とりわけカラー・コピーによる偽造の可能性を確実に排除する目的のいわゆるセキュリティ構造またはセキュリティ要素が備えられている。セキュリティ要素は、この場合には、特には例えばホログラムまたは干渉層要素などの光学的可変要素として設計されることが可能であり、それらは、眺めたときに、視野角に応じて異なる色の印象を与えるが、複写のプロセスにおいて複写物へと転写されることはない。紙の形態の場合、この光学的可変要素としては、いわゆるOVI顔料を塗布してもよく、特に印刷技術による処理が可能になる。しかしながら、このようなセキュリティ要素は、機械による読み取りまたは評価が不可能またはきわめて困難であり、上記それぞれの重要文書のセキュリティ・チェックの自動化は、限られた範囲でのみ可能であり、高度に複雑な技術を必要とする。
【0003】
しかしながら、独国特許出願第19708543号明細書には、特にセキュリティ要素の自動評価にも適した重要文書が開示されている。この目的のため、当該先行発明の重要文書は、マーキング領域において、エレクトロルミネセント色素が付加されたマーキング層を、例えば紙幣の用紙である担体上に塗布したものを、セキュリティ要素として有している。このセキュリティ要素がチェックされ、あるいは認証されるときには、エレクトロルミネセント色素を含んでいるマーキング層が、適切に設計された検査装置によって、非接触な方式で交流電界にさらされる。交流電界が、マーキング層に含まれているエレクトルルミネセント色素を発光点まで励起し、これを適切な受信器に直接的または間接的に記録することができる。このように、この種の重要文書は、特に対応する検査装置と組み合わせた場合は、自動的でかつ非常に信頼性の高い評価を技術的な複雑さを抑えつつ可能にするのに、特に適している。
【0004】
しかしながら、このような重要文書中のエレクトロルミネセント色素を確実に励起するためには、比較的高い電界が必要とされることが明らかになっている。周囲の基材中でのエレクトロルミネセント色素の集積の度合いによっては、励起に必要とされる電界強度が、基材の絶縁破壊電界強度を上回ることさえ考えられ、励起を生じさせることができず、あるいはきわめて困難な条件下でなければ励起を生じさせることができない場合がありうる。このように、セキュリティ要素におけるエレクトロルミネセント色素の使用(自動評価に対応できるがゆえに好ましい)は、限られた範囲でのみ可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、上述の形態の重要文書であって、きわめて多数の使用および環境条件についてセキュリティ要素へのエレクトロルミネセント色素の使用を可能にする重要文書を提供することにある。さらに、そのような重要文書を製造するために特に適した方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る重要書類においては、約50よりも大きい誘電率、好ましくは約200よりも大きい誘電率を有している電気的に絶縁された複数の電界変位要素が、マーキング領域において、上記電界変位要素の相互間の平均距離が、約5μm〜500μm、特に好適な一実施形態では約10μm〜200μmで表面に分布するように配置される。
【0007】
本発明は、エレクトロルミネセント色素のきわめて広い範囲の使用可能性のためには、すなわち特には幅広い範囲の担体材料または周囲材料を使用する多数の組み合わせの可能性のためには、色素であるエレクトロルミネセンスの励起に必要とされる巨視的に印加されるべき電界強度を、きわめて低く保つべきであるという考察にもとづいている。特に、励起に必要とされる電界強度は、空気に接触する材料または基材の平均的な絶縁破壊電界強度を下回るように保たれなければならない。一方で、エレクトロルミネセント色素の励起のために充分に高い電界強度を局所的に、すなわち当該色素の直近においてもたらしつつ、他方では、巨視的に加えられる電界の強度を比較的低く保つため、巨視的に加えられる電界強度が標的に対して集中的に印加される。すなわち、エレクトロルミネセント色素の位置の電界が局所的に増幅される。これを可能にするため、いずれの場合にも周囲から電気的に絶縁されている電界変位要素が、マーキング層の領域に設けられ、この電界変位要素が、適切に高い値に設定されているそれらの誘電率の結果として、また電界変位要素間の領域において特に長手方向についてもたらされる電界の変位ゆえに、印加された電界強度を強める。この局所的な電界の増幅の結果として、たとえ巨視的に加えられる電界強度が比較的小さい場合であっても、エレクトロルミネセンスの励起に必要とされる電界強度は前記要素間の介在領域において局所的に達成され、ここで、電界変位要素は、特に当該要素間領域の横方向の寸法に関して、所望の増幅効果を得るのために適切な寸法に設定される。
【0008】
エレクトロルミネセント色素の局所近傍におけるきわめて好都合な電界強度の増幅効果は、電界変位要素の平均寸法を好都合かつ適切な寸法とすることによって、特にはエレクトロルミネセント色素の典型的な粒子寸法に合わせて調節することによって、達成される。この目的のため、電界変位要素は、好都合には、最大約500μmの横方向寸法を有している。
【0009】
所望の電界変位を確実にするため、電界変位要素は、誘電率が適切に高い値になるように選択された誘電体で形成することができる。しかしながら、当該要素間領域における特に効果的な電界の圧縮は、電界変位要素を導電性材料で形成することによって達成でき、これによって、それらがいずれの場合にも周囲から電気的に絶縁されている電極、いわゆる「浮遊」電極を形成する。
【0010】
意図する方式で、かつ使用される色素に適応させうる方法で電界強度を制御し集中させるため、電界変位要素は、好都合には、印刷技術によって、すなわち、例えば凹版印刷技術またはスクリーン印刷技術などの従来からの印刷プロセスを例えば使用して、担体へと塗布される。マーキング層においてエレクトロルミネセント色素が比較的統計的に分布している場合であっても、他の好都合な実施形態においては、電界変位要素を担体へと横方向に規則的な構造の状態で、好ましくは点の格子またはグリッド、周期的な線構造、またはすき間のある十字格子のような状態で塗布することによって、表面全体にわたってきわめて均一な増幅効果を達成できる。印刷技術によって塗布されるそのような電界変位要素の場合には、それらの横寸法は、好都合には約10μm〜500μmであり、特に好都合な一実施形態においては、約50μm〜200μmである。
【0011】
特に好都合な一実施形態においては、あらゆる場合に設けられる、重要文書のさらなるセキュリティ要素を、意図する局所電界増幅のための電極としても使用することができる。例として、セキュリティ金属片および/またはホログラムを担体に塗布したものをさらなるセキュリティ構造として設けることができ、したがってが、実際のセキュリティ構造としての機能、およびエレクトロルミネセント色素の励起の際の電界増幅のための電極としての機能という2つの機能を果す。この場合に、電界増幅のための電極としての使用のため、エレクトロルミネセント色素を含んでいるマーキング層の近傍において、適切な位置に設けられなければならない。これは、エレクトロルミネセント評価領域がホログラムまたは箔要素の直下に位置する場合、エレクトロルミネセント色素が遮蔽されるのを防ぐために、いかなる場合においても、各導電構造が遮断されなければならないからである。所望の電界増幅は、これらの遮断の点において生じる。これに代えて、あるいはこれに加えて、好都合には、少なくとも一部の電極がマーキング層そのものに一体化されれば、エレクトロルミネセント色素への直接的な空間的近接ゆえに、きわめて良好な電界増幅を得ることができる。ここで、例えばセキュリティ・ファイバーを、高い誘電率を有する電界変位要素として、マーキング層に取り入れることができる。
【0012】
色素の発光特性の調節をきわめて柔軟に変更できる可能性を伴って、このような重要文書を製造するための特に簡潔な1つの可能性を得るために、特に好都合な一実施形態において、エレクトロルミネセント色素の他に電界変位要素の少なくとも一部を、好ましくは導電性色素であって約50を超える誘電率を有する色素の形態で、マーキング層に取り入れることによって達成できる。ここで、特にマーキング層の塗布の際、特に出発材料においてエレクトロルミネセント色素を高誘電率色素と密に混合する場合において、出発物質を適切に選択することによって、セキュリティ要素において実際に機能する粒子、すなわちエレクトロルミネセント色素と、電界増幅のための粒子、すなわち高誘電率の色素の両者を、ただ1回の工程で、したがってきわめて少ない複雑さで塗布することが可能である。
【0013】
特にマーキング層のグラフィック構成、例えば可視的情報の表示などの場合における、必要な製造の複雑さおよび色素発光特性を変更できる可能性に関しては、担体へのマーキング層の塗布の方法としては、印刷プロセス、好ましくはスクリーン印刷、凹版印刷、オフセット印刷またはレターセット印刷の使用が、特に好ましい。マーキング層は、その不可欠な構成要素、すなわち特にエレクトロルミネセント色素および/または導電性色素が、印刷プロセスによる塗布に特に適するように設計されているため、印刷プロセスによる製造に特に適している。この目的のため、導電性色素は、好ましくは、25μm未満の平均色素寸法を有している。さらに、特に好都合な一実施形態において、導電性色素が約3μm〜7μmの色素寸法を有している場合に、特に顕著な電界増幅効果が達成できる。
【0014】
所望の電界増幅効果に関しては、高い誘電率の色素が、さらに、それらの色素粒子の総含有量に関しても適切に選択される。すでに見出されているとおり、これについての適切なパラメータは表面被覆率であり、この表面被覆率でそれぞれの粒子が基板上で互いに隣り合って位置し、これは例えばマーキング層に関して定めることができる。一方で充分に大きな電界増幅効果を得つつ、他方でそれらの間に位置するエレクトロルミネセント粒子の遮蔽を避け、あるいは絶縁破壊(フラッシュオーバー)を避けるため、高誘電率の色素は、50%よりも若干低い表面被覆率、好ましくは40%よりも若干低い表面被覆率で、好都合に塗布される。電極として設けられる導電性色素の場合には、それらの色素が、好ましくは30%よりも若干低い表面被覆率を呈する。
【0015】
さらに驚くべきことであるが、高誘電率の色素が空間的に異方性である形状、好ましくはほぼ針状の形状または血小板状の形状を有している場合に、きわめて大きな電界増幅効果を達成できることが見出されている。
【0016】
マーキング層の上方から見たときの特に目立つエレクトロルミネセンス挙動のため、一方では特に顕著な電界圧縮が、電界増幅色素の充分な含有量によって確保されなければならないが、他方では、そのような色素の含有量が多すぎることによるマーキング層内の電気的短絡の形成を防がなければならない。さらに、全体として強い電界発光(エレクトロルミネセンス)が、エレクトロルミネセント色素の含有量を充分に多くすることによって確保されなければならないが、他方では、エレクトロルミネセント色素の含有量が多すぎる場合には、実際に電界発光レベルまで励起されるものが、それらのうちの比較的少ない割合だけであることが見出されている。これらの事実を考慮し、マーキング層において、エレクトロルミネセント色素の高誘電率色素に対する含有量比が、約6:1〜1:6、好ましくは約2:1〜1:2であると特に好都合であることが明らかになった。
【0017】
特に適切な強調用の材料として、金属の色素、好ましくはFe、Cu、AlまたはAg色素、あるいは導電性ポリマー、好ましくはポリアニリンの色素が、高誘電率色素として好都合に設けられる。具体的には、銀粒子の追加がそれぞれの視覚的構造がコピーされたときの黒化効果をもたらし、したがってそのような粒子が追加のセキュリティ機能を発揮するため、銀(Ag)色素の使用が特に好都合である。これに代え、あるいはこれに追加して、高濃度にドープされた半導体材料の色素、カーボンファイバー、またはチタン酸バリウムも、加えることができる。好ましくは約100〜1000の誘電率を有するチタン酸バリウムが、ここでは、電界変位要素を形成するために特に適している。
【0018】
さらなる好都合な実施形態、または他の好都合な実施形態においては、少なくとも部分的に金属で被覆された基体からなる色素も、高誘電率の色素として設けられる。出発部材として部分的にプラスチック、例えばポリ塩化ビニル(PVC)またはポリカーボネート(PC)からなる、あるいは実際のエレクトロルミネセント色素からなる基体を製造し、この基体を、いわゆるマイクロカプセル化またはコーティング・プロセスによって金属化合物で完全に覆うことができる。ここで電気化学的還元プロセス、層成長またはスパッタリング法も、金属化合物を適用するための代案として提供できる。この場合、基体、特にエレクトロルミネセント色素には、特には、nmからμmの範囲の厚さを有する層が設けられる。これらの出発部材は、例えばボールミルでの粉砕プロセスによって機械的に分割でき、したがって基体内部が露出されて、導電性の境界面を部分的にのみ有する断片が製造される。
【0019】
重要文書の製造のための方法に関しては、マーキング層の担体への塗布が印刷プロセスによって、好ましくはスクリーン印刷、凹版印刷、オフセット印刷、凸版印刷またはレターセット印刷によって行われることで、上記目的が達成される。これにより、セキュリティ要素を備える重要文書を、比較的簡単に製造できるようになり、さらに、例えばマーキング層における所望の任意のグラフィック構成、例えば印刷された画像のための、きわめて高い度合いの柔軟性が可能になる。
【0020】
マーキング層の塗布前または塗布後に電界変位要素が担体上へと好都合に印刷される場合に、電界圧縮の必要条件に対して電極構造を特に好都合に順応させることが可能であり、特に電界変位要素の横方向の構造を、材料特有の必要条件にあわせて調節できる。印刷作業の際に、例えば点の格子またはグリッド、周期的な線構造、またはすき間のある十字格子などの規則的な横方向の構造を、製造することができる。電界変位要素を形成するよう意図された材料の塗布は、例えば適切に選択された導電性印刷インクの印刷によって実行できる。
【0021】
しかしながら、特に簡潔であって、したがって特に好ましい製造プロセスは、マーキング層のエレクトロルミネセント色素が電界増幅のために設けられる電界変位要素と一緒に1回の作業で担体へと塗布される場合に、実現できる。この目的のため、マーキング層の塗布の際、電界変位要素を形成するために、好都合には、約50を上回る誘電率を有する色素、好ましくは導電性の色素を、エレクトロルミネセント色素および必要であるかもしれない溶媒ならびに/または結合剤とともに含んでいる印刷インクが使用される。
【0022】
好都合には、印刷インクが、その組成の点およびその構成物質の点で、印刷工程におけるきわめて良好な使用性を得るために設計される。この目的のため、印刷インクにおける好適な色素の総含有量、すなわちエレクトロルミネセント色素と高誘電率の色素の合計含有量は、30%未満、好ましくは25%未満である。さらに、色素は、好都合には、それらが印刷プロセスにおける使用に特に適するように設計される。この目的のため、エレクトロルミネセント色素および/または導電性色素が、好都合には、25μm未満の平均粒子寸法を有している。
【0023】
印刷インクは、例えば、溶媒および/または結合剤にエレクトロルミネセント色素および導電性強調色素を加え、随意によりさらにインクを追加し、次いで混合することによって製造することができる。製造の際、特に顕著な全体の電界発光、好都合には、所望の最終製品において、すなわち担体へと塗布されたマーキング層において、エレクトロルミネセント色素と電界増幅のために設けられる色素それぞれにおいて、特に好都合な個々の粒子の凝集が生成されるように、特別な注意を払わなければならない。この目的に照らし、約3重量%〜20重量%、好ましくは約5%〜10%のエレクトロルミネセント色素の含有量、および/または約1重量%〜20重量%、好ましくは約3%〜15%の高誘電率色素の含有量を含んでいる印刷インクが好都合に使用される。さらなる好都合な実施形態、または代替となる好都合な実施形態では、印刷インクにおいて、高誘電率色素の含有量に対するエレクトロルミネセント色素の含有量の比は、約6:1〜1:6であり、好ましくは約2:1〜1:2である。
【0024】
本発明によって達成される利点は、特には、マーキング層の領域において、エレクトロルミネセント色素と適切な配置および寸法とされた電界変位要素特には電気的に絶縁された(「浮遊」)電極との、目標とする組み合わせによって、外部から非接触な方法で加えられる電界の目標とする圧縮および集中を、エレクトロルミネセント色素の直近において達成できるという点にある。結果として、外部の電界強度が比較的控え目に、あるいは弱く設定された場合でも、エレクトロルミネセンスの励起に必要とされる電界強度が、エレクトロルミネセント色素の局所近傍において確実に達成される。つまり比較的弱い外部の電界で、ルミネセンスの励起が可能である。結果として、エレクトロルミネセント色素の比較的柔軟な使用が保証される。電界変位要素を実際の印刷インク中の適切に選択された色素としてエレクトロルミネセント色素とともに供給することによって、エレクトロルミネセント色素及び電界増幅用の色素それぞれを担体へ塗布することがただ1回の作業工程で済ませられる。すなわちこのような印刷技術を用いればきわめて簡潔な製造方法を得ることができる。
【0025】
本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
すべての図を通して、同一の部品には同一の参照符号が付されている。
【0027】
図1に示されている重要文書1は、例えば紙幣、身分証明書、ICカード、あるいは偽造や複製に対して保護される他の任意のセキュリティ文書であってよいが、基材として担体2を有しており、担体2は、重要文書1の目的の用途に応じ、紙、プラスチック、ラミネート加工されたプラスチック層、または適切に選択された他の何らかの材料で作ることができる。セキュリティ要素6が、マーキング領域4において担体2に塗布されている。セキュリティ要素6および当該要素によって覆われているマーキング領域4は、目的の用途に合わせて設定された所与の任意の基準に従った寸法および構成とすることができ、特には例えば数値などの印刷された画像を、視覚的に表示するように設けることができる。
【0028】
セキュリティ要素6は、そのセキュリティ機能の自動評価のために特別に構成されている。この目的のため、図2および7の実施形態の例における断面図に示されているとおり、セキュリティ要素6は、マーキング領域4に、担体2に塗布されたマーキング層8を有している。マーキング層8は、この場合には、自動評価のための能力を確保するため、エレクトロルミネセント色素10にを主成分として形成されている。セキュリティ要素6を認証または評価するため、例えば独国特許出願公開第19708543号に開示されているように、電気的放射(electric radiation)がマーキング層8へと、適切に選択された検査装置によって、非接触な方法で照射される。マーキング層8内に形成された電界が、局所的に生成される交流電界によって、色素10にエレクトロルミネセンス現象を引き起こし、生成される応答電磁波を適切なセンサによって検出し、自動化された方法で評価することができる。
【0029】
この場合には、たとえ導入される電磁波の電界強度が比較的小さい場合であっても、認証目的を意図する色素10のエレクトロルミネセンスを確実に励起するように、セキュリティ要素6は、特に設計されている。この目的のため、セキュリティ要素6は、放射された電界を、少なくともエレクトロルミネセント色素10のいくつかの近傍において、特に、好ましくは矢印12によって示されているとおり担体2に対して基本的に横方向を向いている自身の長手方向に、圧縮するように意図されている。このような電界の集中のため、セキュリティ要素6は、電気的に絶縁され(すなわち、互いに電気的に接続されておらず、外部の導体にも電気的に接続されていない)かつ適切な寸法とされている電界変位要素14を備えている。この目的のため、電界変位要素14は、100を上回る大きな誘電率を有しており、この実施形態の例では、電極を形成するように選択された導電材料を備えている。したがって、この実施形態の例では、電極が、いわゆる「浮遊」電極として存在している。この場合において、電界変位要素14は、特に横方向の寸法について、すなわち担体2の表面に平行な方向について眺めたとき、最大約0.1mmの特徴寸法に制限されている。「浮遊」電極として設計された電界変位要素に加えて、外部の要素へと接続されるさらなる電極を、マーキング層8の領域に設けることができる。
【0030】
図2に示した実施形態の例においては、電極は、適切に選択された導電性材料からできており、これが印刷プロセス、好ましくはスクリーン印刷プロセスによって担体2へと塗布されている。この場合に、電極を形成するために用意される出発材料は、特には適切に選択された導電印刷インクとして準備される。図2に示した実施形態の例の重要文書1を製造するときには、電極が印刷されると同時に、エレクトロルミネセント色素10を含んでいるマーキング層8が塗布されるが、代わりに、電極をマーキング層8上に印刷してもよい。
【0031】
図2に示した実施形態の例の電極は、その形状および寸法に関し、色素10の近傍における電界の圧縮および増幅という意図する効果にあわせて、特に構成されている。この目的のため、電極は、十分な電界の集中効果が、色素10が担体2上に統計的に分布している場合であっても達成されるよう、横方向に周期的な構成で担体へと塗布される。
【0032】
電極構造についての実施形態の例が、図3〜6に示されている。
【0033】
図3は、マーキング領域4のセキュリティ要素6の詳細を示す平面図である。図3に示した実施形態の例では、電極が、規則的な点の格子の形態で塗布されている。わかりやすくするため、図3には、エレクトロルミネセント色素10のうちの一部のみが示されている。特に好都合な電界増幅効果のため、図3から見て取れるように、電極は、その横方向の寸法およびそれぞれの互いの間隔の両者の点で、エレクトロルミネセント色素10の平均寸法に合わせて構成されている。この場合には、電極の横方向の寸法について約25μmの寸法が好ましく選択され、電極は、約10μm〜50μmの互いの平均間隔で配置される。電極の横構造についての他の例が、図4〜6に概略的に示されている。図4に示した実施形態の例では、電極が、破線の形態で塗布されている。別の例として、図5に示すような線パターンを設けてもよい。一方、図6に示した実施形態の例では、電極の構造として、すき間のある十字格子が設けられている。
【0034】
一方、図7に示した特に好ましい実施形態においては、エレクトロルミネセント色素10および電界変位要素14の両者の塗布が、ただ1回の工程によってもたらされる。この目的のため、この実施形態における電界変位要素14は、100を上回る誘電率を有している色素16、すなわちこの実施形態の例では導電性色素16として、実際のマーキング層8に一体化されている。電極を形成すべく設けられる導電性色素16は、この場合には、その形状および寸法について、放射される電界について所望の局所的な電界の増幅をもたらすように、特に調節されている。
【0035】
この目的のため、導電性色素16は、空間異方性の形状を有しているが、特には針状の形状をとることができる。それらの粒子寸法または色素寸法に関しては、約3μm〜7μmの平均寸法とされる。この実施形態の例では、エレクトロルミネセント色素と導電性色素16との混合比も、エレクトロルミネセンスの励起を促進すべく、所望の電界増幅に合わせて特に調節される。この目的のため、図7に示した実施形態の例では、エレクトロルミネセント色素10とほぼ同量の導電性色素16が、マーキング層8に含まれている。したがって、マーキング層8において、導電性色素16の含有量に対するエレクトロルミネセント色素10の表面被覆率は、約2:1〜1:2である。さらに、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)などのさらなる添加剤を、マーキング層8に設けてもよい。
【0036】
導電性色素16は、原理的には、例えばポリアニリンなどの導電性ポリマー、PVCまたはPCをベースとする金属被覆のプラスチック、高濃度にドープされた半導体材料、またはカーボンファイバーなど、適切に高い導電性を有する任意の材料で形成することができる。しかしながら、この実施形態の例では、色素16が金属製色素として、具体的にはアルミニウムまたは銅の粒子として設計されている。導電性色素16として光沢性銀粒子が使用されるとき、当該文書を複写しようと試みた場合に、それら粒子がコピー画像の黒化を生じさせ、追加のセキュリティ要素として機能できるため、さらなる効果をもたらすことができる。
【0037】
図7に示した形態の重要文書1を製造する際、マーキング層8は、印刷プロセス、特にはスクリーン印刷、凹版印刷、オフセット印刷、またはレターセット印刷によって、担体2へと塗布される。マーキング層8の塗布のため、エレクトロルミネセント色素10および溶媒ならびに/または結合剤とともに導電性色素16が含まれている印刷インクが使用される。印刷インクを特に使いやすくするため、エレクトロルミネセント色素10および/または導電性色素16は、この場合には、平均の粒子寸法が25μm未満であるように設計される。印刷インクにおいて、導電性色素16の含有量に対するエレクトロルミネセント色素10の含有量の比は約2:1〜1:2であり、図7に示すようなマーキング層8における表面被覆率の所望の分布によって決まる。マーキング層8の製造に使用される印刷インクは、さらに、約5重量%〜10重量%の含有量のエレクトロルミネセント色素10、および約5重量%〜15重量%の含有量の導電性色素16を含んでいる。例えばインクの結合剤中の粒子など、印刷インク中の他の色素も、好ましくは同様に、約3μmを下回る粒子寸法を有している。
【0038】
さらに、セキュリティストリップ(security strip)やホログラムなど、どんな場合に設けられるものであっても、さらなるセキュリティ上の構造を、さらなる電極14として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】重要文書を示す平面図である。
【図2】図1に示す重要文書のマーキング領域の詳細を示す断面図である。
【図3】図2の詳細を示す平面図である。
【図4】電極構造を示す概略図である。
【図5】電極構造を示す概略図である。
【図6】電極構造を示す概略図である。
【図7】図1に示す重要文書のマーキング領域における詳細の実施形態の他の例を、示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 重要文書
2 担体
4 マーキング領域
6 セキュリティ要素
8 マーキング層
10 エレクトロルミネセント色素
12 矢印
14 電界変位要素
16 導電性色素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセキュリティ要素(6)を有し、該セキュリティ要素(6)が、マーキング領域(4)に、エレクトロルミネセント色素(10)を含み担体(2)に塗布されたマーキング層(8)を有している重要文書(1)であって、
前記マーキング領域において、それぞれ周囲から電気的に絶縁され、かつ50を超える誘電率を有している複数の電界変位要素(14)が分布し、前記電界変位要素が、約5μm〜500μmの相互間の平均距離で分布して、その間に前記エレクトロルミネセント色素の介在領域を形成し、巨視的に加えられる電界の強度を前記介在領域において局所的に強める重要文書。
【請求項2】
請求項1において、前記平均間隔が約10μm〜200μmである重要文書(1)。
【請求項3】
請求項1または2において、前記誘電率が200よりも大である重要文書(1)。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、前記電界変位要素(14)が約10μm〜500μmの横方向寸法を有している重要文書(1)。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項において、前記電界変位要素(14)が約50μm〜200μmの横方向寸法を有している重要文書(1)。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、前記電界変位要素(14)が導電性を有する重要文書(1)。
【請求項7】
請求項6において、前記電界変位要素(14)が浮遊電極を形成している重要文書(1)。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項において、前記電界変位要素(14)が印刷技術によって前記担体(2)に添着されている重要文書(1)。
【請求項9】
請求項8において、前記電界変位要素(14)が、横方向に規則的な構造の形態で、好ましくは点の格子またはグリッドの形態、周期的な線構造の形態、またはすき間のある十字格子の形態で、前記担体(2)に添着されている重要文書(1)。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項において、さらなるセキュリティ構造、好ましくは前記担体(2)に設けられた金属製セキュリティ片および/またはホログラムが、前記電界変位要素(14)の少なくとも1つとして設けられている重要文書(1)。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項において、前記電界変位要素(14)の少なくとも一部が、前記マーキング層(8)に一体化されている重要文書(1)。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項において、前記電界変位要素(14)の少なくとも一部が、前記担体(2)に一体化されている重要文書(1)。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項において、前記マーキング層(8)に、前記エレクトロルミネセント色素(10)と、好ましくは導電性色素であって50よりも大きい誘電率を有し、前記電界変位要素を形成する色素とを含有する重要書類(1)。
【請求項14】
請求項13において、前記高誘電率の色素(16)が、50%未満、好ましくは40%未満の表面被覆率で塗布されている重要文書(1)。
【請求項15】
請求項13または14において、前記色素(16)が導電性色素として設計され、30%未満の表面被覆率で塗布されている重要文書(1)。
【請求項16】
請求項13〜15の何れか一項において、前記高誘電率の色素(16)が、空間異方性形状を有しており、好ましくはほぼ針状の形状または小板状の形状を有している重要文書(1)。
【請求項17】
請求項13〜16の何れか一項において、前記高誘電率の色素(16)のエレクトロルミネセント色素(10)に対する表面被覆率の比が、約6:1〜1:6、好ましくは約2:1〜1:2である重要文書(1)。
【請求項18】
請求項13〜17の何れか一項において、前記高誘電率の色素(16)が、金属製色素、好ましくはFe、Cu、AlまたはAg色素を含む重要文書(1)。
【請求項19】
請求項13〜18の何れか一項において、前記高誘電率の色素(16)が、導電性ポリマー色素、好ましくはポリアニリン色素を含む重要文書(1)。
【請求項20】
請求項13〜19の何れか一項において、前記高誘電率の色素(16)が、少なくとも部分的に金属で被覆された基体からなる色素を含む重要文書(1)。
【請求項21】
請求項1〜20の何れか一項に記載の重要文書(1)の製造方法であって、
担体を供給するステップと、
エレクトロルミネセント色素(10)を含んでいるマーキング層(8)を、マーキング領域(4)における前記担体(2)に印刷プロセスによって添着して少なくとも1つのセキュリティ要素を形成するステップとを含み、
前記マーキング領域(4)において、それぞれ周囲から電気的に絶縁され、かつ50を超える誘電率を有している複数の電界変位要素(14)が、約5μm〜500μmの相互間の平均距離で分布して前記エレクトロルミネセント色素の介在領域を形成し、該電界変位要素(14)が、巨視的に加えられる電界の強度を前記介在領域において局所的に強める重要文書(1)の製造方法。
【請求項22】
請求項21において、前記印刷プロセスが、スクリーン印刷、凹版印刷、オフセット印刷またはレターセット印刷の形態のプロセスである重要文書(1)の製造方法。
【請求項23】
請求項21または22において、前記電界変位要素(14)を前記担体(2)上に印刷する重要文書(1)の製造方法。
【請求項24】
請求項21〜23の何れか一項において、誘電率が50よりも大である色素(16)をエレクトロルミネセント色素(10)および溶媒および/または結合剤と共に含んでいる印刷インクを前記マーキング層の添着の際に使用することにより、前記電界変位要素を形成する重要文書(1)の製造方法。
【請求項25】
請求項24において、前記印刷インクにおける総色素含有量が、30%未満、好ましくは25%未満である重要文書(1)の製造方法。
【請求項26】
請求項24または25において、前記印刷インクが含んでいるエレクトロルミネセント色素の含有量が約1重量%〜20重量%、好ましくは約5重量%〜10重量%である重要文書(1)の製造方法。
【請求項27】
請求項24〜26の何れか一項において、前記印刷インクが含んでいる高誘電率色素(16)の含有量が、約1重量%〜20重量%、好ましくは約3重量%〜15重量%である重要文書(1)の製造方法。
【請求項28】
請求項24〜27の何れか一項において、前記印刷インクにおける、高誘電率色素(16)の含有量に対するエレクトロルミネセント色素(10)の含有量の比が、約6:1〜1:6、好ましくは約2:1〜1:2である重要文書(1)の製造方法。
【請求項29】
請求項24〜28の何れか一項において、前記エレクトロルミネセント色素(10)および/または前記高誘電率色素(16)が、50μm未満の平均粒子寸法を有している重要文書(1)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−527103(P2006−527103A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515750(P2006−515750)
【出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003411
【国際公開番号】WO2004/108426
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(599147447)ブンデスドルケライ ゲーエムベーハー (21)
【氏名又は名称原語表記】BUNDESDRUKEREI GMBH
【Fターム(参考)】