説明

セグメント及びトンネル構築方法

【課題】セグメント組立後の二次覆工を省略でき、コストダウン及び高速施工に有利なセグメント及びそれを用いたトンネル構築方法を提供する。
【解決手段】掘削したトンネル孔の内周に沿ってエレクタ1により組み付けられてトンネルを構築するためのセグメント3であって、セグメント本体3xの内周面3aをエレクタ1に装着したバキュームパッド22に吸着すべく凹凸なく且つ平滑に形成し、そのセグメント本体3xの切羽側端面23に、エレクタ1に装着した切羽側ズレ防止凸部25が挿入される切羽側ズレ防止凹部24を形成し、セグメント本体3xの坑口側端面50に、エレクタ1に装着した坑口側ズレ防止凸部51bが挿入される坑口側ズレ防止凹部59を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削したトンネル孔の内周に沿ってエレクタにより組み付けられてトンネルを構成するためのセグメント、及びそのセグメントを上記トンネル孔に沿って上記エレクタにより組み付けてトンネルを構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シールド掘進機等のトンネル掘削機によって掘削したトンネル孔には、トンネルを構築すべく、セグメントがトンネル孔の内周に沿ってエレクタによりリング状に組み付けられる。
【0003】
近年、トンネルの高速施工を行うために、セグメント組立の自動化・省力化が要望されている。セグメント組立の自動化・省力化は、セグメントの保持にバキュームパッド(バキューム機構)を利用し、セグメント同士の連結にワンタッチ継手を利用することなどにより達成される。
【0004】
そこで、バキュームパッドによってセグメント本体の内周面を吸着すべくそのセグメント本体の内周面を平滑に形成し、セグメント本体の中央にその内外周面を貫通して、セグメントの保持を補助するセーフティピンが嵌入される保持孔を形成したセグメントが提案されている(特許文献1等参照)。
【0005】
このセグメントによれば、バキュームパッドによってセグメントの内周面を吸着すると共にセーフティピンをセグメントの保持孔に嵌入することでセグメントを保持するので、セグメントの内周面にセグメント把持用の把持金物を取り付け、セグメント組立後にその把持金物を取り外すという一般的なセグメントでは必要な把持金物の着脱が不要となり、セグメント組立の自動化・省力化が可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開平9−189200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記セグメントでは、当該セグメントを用いて構築したトンネルにはセグメントの保持孔による貫通孔が形成される。そのため、セグメント組立後(一次覆工後)、その貫通孔(上記保持孔)をトンネル内周面側から塞ぐ止水処理等(二次覆工)を行う必要があり、この二次覆工を行うことにより、コストアップを招き、また高速施工が妨げられる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、セグメント組立後の二次覆工を省略することを可能とし、コストダウン及び高速施工に有利なセグメント及びそのセグメントを用いたトンネル構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に係る発明は、掘削したトンネル孔の内周に沿ってエレクタにより組み付けられてトンネルを構築するためのセグメントであって、セグメント本体の内周面を上記エレクタに装着したバキュームパッドに吸着すべく凹凸なく且つ平滑に形成し、そのセグメント本体の切羽側端面に、上記エレクタに装着した切羽側ズレ防止凸部が挿入される切羽側ズレ防止凹部を形成し、上記セグメント本体の坑口側端面に、上記エレクタに装着した坑口側ズレ防止凸部が挿入される坑口側ズレ防止凹部を形成したものである。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、上記セグメントをトンネル孔の内周に沿ってエレクタにより組み付けてトンネルを構築する方法であって、上記エレクタの切羽側ズレ防止凸部を上記セグメント本体の切羽側ズレ防止凹部に挿入し、上記エレクタの坑口側ズレ防止凸部を上記セグメント本体の坑口側ズレ防止凹部に挿入した状態で、上記エレクタのバキュームバッドによって上記セグメント本体の内周面を吸着して保持し、保持した上記セグメント本体を上記エレクタによって上記トンネルの周方向、径方向及び軸方向に移動させ、そのセグメント本体を上記トンネル孔内の所定位置に組み付けるようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、上記セグメント本体に、トンネル軸方向に隣接するセグメント同士を連結するため、その坑口側端面に坑口側継手凸部を設けると共に切羽側端面に切羽側継手凹部を設け、その切羽側継手凹部を上記切羽側ズレ防止凹部と兼用し、上記切羽側継手凹部に上記エレクタの切羽側ズレ防止凸部を挿入するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セグメント組立後の二次覆工を省略することを可能とし、コストダウン及び高速施工に有利なセグメント及びそのセグメントを用いたトンネル構築方法を提供できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るセグメントの斜視図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るセグメント3は、充実断面をもつ平板状のセグメント本体3xを主要構成要素とする。つまり、本実施形態に係るセグメント3は平板形セグメントである。本実施形態では、セグメント本体3xは、鉄筋コンクリート製のものであり、内周面3aが後述するバキュームパッド22によって健全に吸着できるように凹凸なく且つ平滑に形成されている。
【0016】
セグメント本体3xの切羽側端面23には、後述するエレクタ1に装着した切羽側ズレ防止凸部25が挿入される切羽側ズレ防止凹部24が形成され、セグメント本体3xの坑口側端面50には、エレクタ1に装着した坑口側ズレ防止凸部51bが挿入される坑口側ズレ防止凹部59が形成されている。切羽側ズレ防止凹部24と坑口側ズレ防止凹部59とは、夫々、セグメント本体3xの切羽側端面23と坑口側端面50とに、トンネル周方向に間隔を隔てて2個ずつ設けられている。
【0017】
図3、図4に示すように、エレクタ1に備えられた切羽側ズレ防止凸部25は円錐台形状(円錐の頂部を切除した形状)に形成され、それに合わせてセグメント3の切羽側ズレ防止凹部24が円錐台穴状に形成されている。また、エレクタ1の坑口側ズレ防止凸部51bも円錐台形状に形成され、それに合わせてセグメント3の坑口側ズレ防止凹部59が円錐台穴状に形成されている。詳しくは、図1に示すように、セグメント本体3xの切羽側端面23にアンカー部材23aが、坑口側端面50にアンカー部材50aが夫々埋め込まれており、アンカー部材23aに上記切羽側ズレ防止凹部24が、アンカー部材50aに上記坑口側ズレ防止凹部59が夫々凹設されている。
【0018】
また、トンネル軸方向に隣接するセグメント3同士を連結するため、図1に示すように、セグメント本体3xの坑口側端面50に継手凸部(継手ピン)44が設けられ、セグメント本体3xの切羽側端面23には、上記継手ピン44と対を成す継手凹部(継手穴)45が形成されている。詳しくは、セグメント本体3xの坑口側端面50にネジ穴を有するアンカー部材50bが埋め込まれており、アンカー部材50bのネジ穴に上記継手ピン44がネジ部にて螺合されている。また、セグメント本体3xの切羽側端面23にアンカー部材23bが埋め込まれており、アンカー部材23bの切羽側端面に上記継手穴45が凹設されている。
【0019】
更に、トンネル周方向に隣接するセグメント3同士を連結するため、セグメント本体3xの一方のピース間端面46にコーン状に形成された雄コーン部47が設けられ、セグメント本体3xの他方のピース間端面48には、上記雄コーン部47と対を成すコーン穴を有する雌コーン部49が設けられている。詳しくは、セグメント本体3xの上記一方のピース間端面46に、上記雄コーン部47及びそのアンカー部47aから構成される雄金物47bの、アンカー部47aが埋め込まれている。また、セグメント本体3xの上記他方のピース間端面48には、軸方向に沿って溝71が形成されており、その溝71に、上記雌コーン部49及びそのアンカー部49aから構成される雌金物49bの、アンカー部49aが埋め込まれている。
【0020】
図6に示すように、かかるセグメント3は、一方のピース間端面46が既設のセグメント3の他方のピース間端面48にトンネル軸方向にズレた状態で当接された後、軸方向に移動され、これにより、雄コーン部47が周方向に隣接する既設のセグメント3の雌コーン部49に挿入されると共に、継手ピン44が軸方向に隣接する既設のセグメント3の継手穴45に挿入され、組み付けが達成される。
【0021】
次に、本実施形態に係るセグメント3を組み立てるためのエレクタ(セグメント組立装置)1について図2から図5により説明する。
【0022】
図2(a)はエレクタ1の側断面図を示し、図2(b)は図2(a)のb−b線断面図を示す。
【0023】
エレクタ1は、シールド掘進機の外殻を成す円筒状のシールドフレーム2の内部にて、セグメント3をリング状に組み立てるものであり、シールドフレーム2の軸心を中心としてトンネル周方向に回転する旋回フレーム4と、旋回フレーム4にトンネル径方向に移動可能に設けられた吊りビーム5と、吊りビーム5にトンネル軸方向に移動可能に設けられた移動台6とを備え、移動台6は、セグメント3を保持、解放するセグメント保持部7を有している。
【0024】
旋回フレーム4は、円環状に形成され、シールドフレーム2の内周面に設けられたリングガーダー8に軸支された支持ローラ9に、回転可能に支持されている。旋回フレーム4は、軸方向の前部に駆動ギヤ10を有し、その駆動ギヤ10に図示しないモータのピニオンが噛合されて回転駆動される。リングガーダー8には、リング状に組み立てられたセグメント3(既設セグメント3)に反力を取ってシールドフレーム2を前進させるシールドジャッキ11が設けられている。
【0025】
旋回フレーム4の軸方向の後部には、180度間隔で配設された一対の支持フレーム12が、夫々軸方向後方に延出されて設けられている。支持フレーム12には、吊りビーム5がトンネル径方向に移動可能に装着されている。吊りビーム5は、各支持フレーム12にシールドフレーム2の直径方向と平行に装着された円筒状のガイド筒に挿通されるガイド柱13と、これらガイド柱13の端部同士を連結する連結部14とからU字状に形成されており、連結部14と支持フレーム12との間に介設されたジャッキ15によってトンネル径方向に移動される。
【0026】
吊りビーム5の連結部14には、移動台6がトンネル軸方向に移動可能に装着されている。移動台6は、連結部14にトンネル幅方向に間隔を隔ててトンネル軸方向に延出された一対のガイド柱16にそって移動可能な台本体18を有し、台本体18とガイド柱16との間に介設されたジャッキ(図示せず)によってトンネル軸方向に移動される。
【0027】
図3は図2(a)の部分拡大図、図4は図3の切羽側ズレ防止凸部25及び坑口側ズレ防止凸部51bを夫々移動させた図、図5は図3のV−V線断面図である。
【0028】
図3に示すように、移動台6は、上記ガイド柱16に沿って移動可能な台本体18と、台本体18に姿勢調節部19を介して装着されたセグメント保持部20とから主に構成されている。
【0029】
セグメント保持部20は、セグメント3を保持、解放するものであり、台本体18に姿勢調節部19を介して装着された保持部本体21と、保持部本体21の下面(トンネル径方向外側面)に装着されたバキュームパッド22と、保持部本体21に設けられセグメント3の切羽側端面23に形成された切羽側ズレ防止凹部(切羽側ズレ防止穴)24に係合する切羽側ズレ防止凸部(切羽側ズレ防止ピン)25と、保持部本体21に設けられセグメント3の坑口側端面50に形成された坑口側ズレ防止凹部(坑口側ズレ防止穴)59に係合する坑口側ズレ防止凸部(坑口側ズレ防止ピン)51bとを有する。
【0030】
バキュームパッド22は、ゴム等の可撓性材料からリング状(高さの低い筒状)に形成されており、その上端が保持部本体21の下面に接着等によって固定され、下端がセグメント3の上面(内周面)に当接される。バキュームパッド22の下端がセグメント3の上面に当接された状態で、バキュームパッド22の内方の空気は、保持部本体21の下面に形成された排気口からバキュームポンプによって排気されるようになっている。この排気により、バキュームパッド22の内方が負圧となり、セグメント3が吸着される。
【0031】
図3〜図5に示すように、保持部本体21の上面(内周面)の切羽側端部には、切羽側ズレ防止凸部25をトンネル軸方向に移動させる第1ジャッキ30が、トンネル幅方向に間隔を隔てて2個設けられている。第1ジャッキ30は、保持部本体21の上面に固定ブラケット26で固定されたシリンダ30aと、シリンダ30aから切羽側に延びるロッド30bとを有する。ロッド30bの先端には略ボックス状の中間ブラケット27がボルトナット等で固定され、中間ブラケット27の下面には別の中間ブラケット28が溶接等で固定され、この中間ブラケット28に、ゴムや樹脂等の可撓性を有するクッション部29が設けられると共に、クッション部29を貫通して上記切羽側ズレ防止凸部25が設けられている。
【0032】
切羽側ズレ防止凸部25は、図3に示すように第1ジャッキ30を収縮させると、バキュームパッド22で吸着されるセグメント3の切羽側ズレ防止凹部24に係合する位置(係合位置)に移動し、図4に示すように第1ジャッキを30を伸長させると、上記セグメント3の切羽側ズレ防止凹部24から切羽側に離間する位置(離間位置)に移動する。切羽側ズレ防止凸部25は、本実施形態では円錐台状(円錐の頂部を切除した形状)に形成され、それに合わせて切羽側ズレ防止凹部24が円錐台穴状に形成されているが、これに限らず、例えば凸部25を円柱状とし凹部24を円孔としてもよく、凸部25を角柱状とし凹部24を角孔としてもよい。
【0033】
図3〜図5に示すように、保持部本体21の上面(内周面)の坑口側端部には、坑口側ズレ防止凸部51bをトンネル径方向の内外に回動させる第2ジャッキ52が、トンネル幅方向に間隔を隔てて2個設けられている。第2ジャッキ52は、保持部本体21の上面に設けられた固定ブラケット53にピン54廻りに回動可能に装着されたシリンダ52aと、シリンダ52aから坑口側に延びるロッド52bとを有する。ロッド52bの先端は、回動ブラケット55に、ピン56で連結されている。
【0034】
回動ブラケット55は、保持部本体21の上面に設けたベースブラケット57に、ピン58廻りに回動可能に装着されており、回動ブラケット55の端部には、上記坑口側ズレ防止凸部51bが設けられている。詳しくは、回動ブラケット55の端部には、ゴムや樹脂等の可撓性を有するパッド51aが設けられていると共に、このパッド51aを貫通して上記坑口側ズレ防止凸部51bが設けられている。坑口側ズレ防止凸部51bは、円錐台状、円柱状、角柱状等に形成され、セグメント3の坑口側端面50に設けた坑口側ズレ防止凹部59(円錐台孔、円孔、角孔等)に係脱される。
【0035】
図3に示すように、第2ジャッキ52を伸長させると、回動ブラケット55がピン58を中心として時計回りに回動し、坑口側ズレ防止凸部51bが、トンネル径方向外方に回動移動して、バキュームパッド22で吸着されるセグメント3の坑口側ズレ防止凹部59と係合する位置(係合位置)に移動する。このとき、パッド51aは、セグメント3の坑口側端面50に当接する。図4に示すように、第2ジャッキ52を収縮させると、回動ブラケット55がピン58を中心に反時計回りに回動し、坑口側ズレ防止凸部51bが、トンネル径方向内方に回動移動して、セグメント3の坑口側端面50からトンネル径方向内方に待避する位置(待避位置)に移動する。
【0036】
バキュームパッド22、切羽側ズレ防止凸部25及び坑口側ズレ防止凸部51bによって保持されたセグメント3は、図3、図5に示す姿勢調節部19によって保持姿勢が調節されるようになっている。
【0037】
姿勢調節部19は、台本体18と保持部本体21との間に介設され保持部本体21を台本体18に対して全方向傾動可能に吊り下げる吊下ロッド31と、台本体18と保持部本体21との間にトンネル幅方向、軸方向に間隔を隔てて配置された4本の姿勢制御ジャッキ32とを有する。姿勢制御ジャッキ32は、一端が台本体18に連結され、他端が保持部本体21に設けた当て金具60に球面座61を介して当接されている。よって、各姿勢制御ジャッキ32の伸縮量を制御することで、保持部本体21を台本体18に対して任意の方向に傾斜させることができ、バキュームパッド22等によって保持されたセグメント3の姿勢を、台本体18に対して変更できる。
【0038】
上述のバキュームパッド22、凸部25、51bは、内周面が平面状(平滑)の部分を有するセグメント3(所謂平板形セグメント尚、以下、内周平面セグメントともいう)を保持するものであるが、トンネルのカーブ掘進時等においては、内周平面セグメントを用いるのではなく内周面に凹凸を有するセグメント(所謂鋼製セグメント、ダグタイルセグメント等、以下、内周凹凸セグメントともいう)を用いてトンネルを構築する必要が生じるケースが有る。内周凹凸セグメント3は、バキュームパッド22によって吸着できないため、別のセグメント保持部によって保持する必要がある。
【0039】
そこで、上記セグメント組立装置は、内周凹凸セグメント3を保持するため、以下に述べる構成を有している。
【0040】
図2(a)、図2(b)に示すように、支持フレーム12には、別の吊りビーム33がトンネル径方向に移動可能に装着されている。この吊りビーム33は、支持フレーム12にシールドフレーム2の直径方向と平行に装着された円筒状のガイド筒に挿通された一対のガイド柱35と、これらガイド柱35の端部同士を連結する連結部36とからU字状に形成されており、連結部36と支持フレーム12との間に介設されたジャッキ37によってトンネル径方向に移動される。
【0041】
吊りビーム33の連結部36には、移動台38がトンネル軸方向に移動可能に装着されており、移動台38は、ジャッキ39によってトンネル軸方向に移動される。移動台38には、内周凹凸セグメント3を把持するためのセグメント把持部40が設けられている。セグメント把持部40は、内周凹凸セグメント3の内周面に形成された補強リブをトンネル軸方向から挟んでボルト等によって連結する連結部41と、連結部41のトンネル幅方向の両脇に配設され連結部41に連結されたセグメント3の内周面を押圧することでそのセグメント3をしっかりと保持するためのサポートジャッキ42とを有する。
【0042】
次に、上記エレクタ1による内周平面セグメント3を用いたトンネル構築方法について述べる。
【0043】
図2(a)、図2(b)に示すように、本実施形態に係るエレクタ1に、内周平面セグメント3を保持する際には、内周平面セグメント3をトンネル底部に仮置きし、旋回フレーム4をトンネル周方向に回転させ、吊りビーム5をトンネル径方向に移動させ、移動台6をトンネル軸方向に移動させることで、移動台6に装備したバキュームパッド22を、トンネル底部に仮置きしたセグメント3の内周面に対向させる。
【0044】
バキュームパッド22をセグメント3に対向させた状態にて、図4に示すように、第1ジャッキ30を伸長して切羽側ズレ防止凸部25を離間位置とし、第2ジャッキ52を収縮させて坑口側ズレ防止凸部51bを待避位置としておき、凸部25、51bがセグメント3の端面23、50に引っ掛からないようにしておく。そして、吊りビーム5をトンネル径方向外方に移動させてバキュームパッド22をセグメント3の内周面に当接させ(軽く触れさせ)る。
【0045】
その後、図3に示すように、切羽側ズレ防止凸部25を内周平面セグメント3の切羽側ズレ防止凹部24に係合させ、クッション部29をセグメント3の切羽側端面23に押し付ける。また、坑口側ズレ防止凸部51bをセグメント3の坑口側ズレ防止凹部59に係合させ、パッド51aをセグメント3の坑口側端面50に押し付ける。これにより、セグメント3に対する保持部本体21の保持位置が定められる。なお、凸部25、51bの移動は、どちらが先であってもよく、同時でもよい。
【0046】
ここで、切羽側ズレ防止凸部25を切羽側ズレ防止凹部24に係合させ、坑口側ズレ防止凸部51bを坑口側ズレ防止凹部59に係合させる際、凸部25、51bが円錐台状に形成され、凹部24、59が円錐台穴状に形成されているので、凸部25と凹部24、凸部51bと凹部59の位置がズレていても正規の位置に案内される。このとき、内周平面セグメント3は、トンネル底部に仮置きされていて動くことはないので、保持部本体21が、内周平面セグメント3に対して相対的に移動し、上記ズレを吸収することになる。
【0047】
内周平面セグメント3に対する保持部本体21の移動(三次元的な相対移動)を許容するためには、姿勢調節部19の姿勢制御ジャッキ32の油圧をフリーとして保持部本体21を台本体18に対して傾動自在とし、同様に各油圧ジャッキの油圧をフリーとすることで、台本体18を吊りビーム5に対してトンネル軸方向に移動自在とし、吊りビーム5を旋回フレーム4に対してトンネル径方向に移動自在とし、旋回フレーム4をトンネル周方向に回転自在としておく。これにより、保持部本体21はセグメント3に対して自由に移動することが許容され、保持部本体21のセグメント3に対する位置ズレを吸収できる。
【0048】
こうして、切羽側ズレ防止凸部25を切羽側ズレ防止凹部24に係合し、クッション部29を切羽側端面23に押し付け、坑口側ズレ防止凸部51bを坑口側ズレ防止凹部59に係合し、パッド51aを坑口側端面50に当接したならば、バキュームパッド22の内方の空気をバキュームポンプによって排気し、バキュームパッド22に内周平面セグメント3を吸着保持する。
【0049】
保持後、吊りビーム5をトンネル径方向に移動させ、旋回フレーム4をトンネル周方向に回転させ、移動台6の台本体18をトンネル軸方向に移動させることで、保持された内周平面セグメント3を所望の組付位置の近傍に移動させて粗位置決めする。その後、図4に示すように、坑口側ズレ防止凸部51bをトンネル径方向内方に回動移動させて待避位置とし、姿勢調節部19等によりセグメント3の姿勢及び位置を微調節しつつ、図6に示すように、保持した内周平面セグメント3を既設セグメント3に組み付ける。
【0050】
内周平面セグメント3は、最初に保持されてから上記粗位置決めまでは、バキュームパッド22による吸引に加えて切羽側ズレ防止凸部25と坑口側ズレ防止凸部51bとで軸方向の前後から挟んで保持されているため、粗位置決めを素早く行うべく或る程度の速さでトンネル周方向、径方向、軸方向に移動されて所定の慣性力が生じたとしても、バキュームパッド22に対するズレが抑制され、バキュームパッド22からの落下が防止される。
【0051】
その後、粗位置決めの位置の内周平面セグメント3を移動させて既設セグメント3に組み付けるときには、坑口側ズレ防止凸部51bがトンネル径方向内方に回動移動されて待避位置(坑口側から見て内周平面セグメント3の坑口側端面50と重ならない位置)に移動されるので、坑口側ズレ防止凸部51bが組み付けの邪魔になることはない。
【0052】
また、内周平面セグメント3は、粗位置決めの位置からごく僅かの距離を移動することで既設セグメント3に当接されるので、ゆっくりと微調節しつつ移動させてもそれ程時間がかからない上、問題となるような大きな慣性力が生じることはなく、且つ、既設セグメント3に当接したときに大きな衝撃が発生することもない。よって、粗位置決めの位置から既設セグメント3に当接されるまでの間は、バキュームパッド22及び切羽側ズレ防止凸部25のみの保持であっても、セグメント3がバキュームパッド22からズレたり落下することはない。
【0053】
かかる内周平面セグメント3は、図6に示すように、一方のピース間端面46が既設セグメント3のピース間端面48に軸方向にズレた状態で当接された後、軸方向に移動され、これにより、雄コーン部47が既設セグメント3の雌コーン部49に係合され、継手ピン44が既設セグメント3の継手穴45に係合され、組み付けが達成される。
【0054】
このように、バキュームパッド22及び切羽側ズレ防止凸部25により保持した内周平面セグメント3をトンネル軸方向後方(坑口側)に移動させて既設セグメント3に押し付けて組み付ける際、保持したセグメント3は既設セグメント3からトンネル軸方向前方(切羽側)の反力を受けることになるが、この反力は切羽側ズレ防止凸部25によって支持される。よって、セグメント3をバキュームパッド22に対してズラすことなく所定の適切な力で坑口側の既設セグメント3に押し付けることができる。
【0055】
ところで、内周平面セグメント3をバキュームパッド22で吸着保持した状態のときに、例えば停電や故障等によってバキュームポンプの作動が停止すると、バキュームパッド22の吸着力が低下する。すなわち、バキュームパッド22とバキュームポンプとの間の排気経路又はバキュームポンプ内部にはバキュームパッド22の吸着力を保持するための逆止弁が設けられているものの、セグメント3を保持している間は通常作動されているべきバキュームポンプが停電等によって停止すると、逆止弁やバキュームパッド22の縁部から少しずつ負圧が抜けるので、バキュームパッド22の吸着力が低下する。
【0056】
このように停電、故障等によりバキュームポンプの作動が停止してバキュームパッド22の吸着力が低下しても、本実施形態では、バキュームパッド22で保持したセグメント3を粗位置決めの位置に移動させるまでは切羽側ズレ防止凸部25及び坑口側ズレ防止凸部51bによってセグメント3の保持を補助し、粗位置決めの位置から既設セグメント3に当接させるまでは切羽側ズレ防止凸部25によってセグメント3の保持を補助しているので、内周平面セグメント3がバキュームパッド22からズレたり脱落することが抑制される。
【0057】
詳しくは、停電等によってバキュームポンプの作動が停止した状態で、トンネル底部にてバキュームパッド22で吸着されたセグメント3が旋回フレーム4の回転によりトンネル周方向に90度旋回移動された状態となると、セグメント3とバキュームパッド22との間の吸着面に剪断力が作用するため、セグメント3のバキュームパッド22に対するズレ、バキュームパッド22からの脱落が最も生じ易い。
【0058】
本実施形態では、バキュームパッド22で吸着されたセグメント3は、切羽側ズレ防止凸部25が切羽側ズレ防止凹部24に係合され坑口側ズレ防止凸部51bが坑口側ズレ防止凹部59に係合されていて軸方向の前後から挟持されているので、例え90度旋回移動された位置であっても、上記ズレ及び脱落が防止される。また、凸部25及び凹部24の組、凸部51b及び凹部59の組が、セグメント3の周方向に間隔を隔てて2個ずつ設けられているので(図1、図5参照)、セグメント3が図5の紙面垂直軸廻りに回転することが防止され安定して挟持される。
【0059】
セグメント3のトンネル底部からの周方向旋回角度が90度未満のときには、セグメント3とバキュームパッド22との間の吸着面に生じる剪断力は90度旋回された場合と比べて小さくなるので、90度のときと比べるとセグメント3はズレ難く脱落し難い。また、セグメント3のトンネル底部からの周方向旋回角度が90度を超えると、セグメント3の自重の一部がバキュームパッド22の上に載せられた状態となる(180度旋回移動されたときにはセグメント3の全自重がバキュームパッド22に載せられた状態となる)ので、90度のときと比べるとセグメント3はズレ難く脱落し難い。
【0060】
このように本実施形態では、バキュームパッド22により吸着された内周平面セグメント3を切羽側ズレ防止凸部25と坑口側ズレ防止凸部51bとで軸方向から挟むことで、バキュームパッド22によるセグメント3の吸着保持を補助しているので、セグメント3の内周面にセーフティピン(特許文献1参照)を差し込むための保持孔を形成する必要はない。
【0061】
よって、セグメント3を組み付けた後(一次覆工後)、保持孔を塞ぐ防水施工(二次覆工)が不要となり、コストダウンを図ることができる。また、バキュームパッド22の形状を保持孔を避けた形状とする必要はない。よって、バキュームパッド22の吸着面積が保持孔によって制限されることはなく、バキュームパッド22の吸着力向上が保持孔によって制限されることはない。また、バキュームパッド22の形状を保持孔を避けて複雑な形状とする必要もなく、コストダウンに繋がる。
【0062】
また、内周平面セグメント3は、図6に示すように、切羽側端面23に切羽側ズレ防止凹部24を有し、坑口側端面50に坑口側ズレ防止凹部59を有しているので、地上における搬送トラックからヤードへの移送、ヤードから立坑底部への移送、立坑底部からセグメント台車への移送の際に、各凹部24、59にピンを挿入する等してセグメント3を軸方向から挟持することで、安定して移送することができる。特に、各凹部24、59を、図6に示すように2箇所ずつ設けることで、4点吊りとなるので、安定性が増す。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0064】
図7に変形実施形態を示す。この図7に示す変形実施形態は、切羽側ズレ防止凸部25及び凹部24の組、坑口側ズレ防止凸部51b及び凹部59の組を、夫々1組ずつ設けた点のみが、前実施形態(図5参照)と異なる。なお、凸部25及び凹部24の組、凸部51b及び凹部59の組の数は、1:1、2:1、1:2等様々な組み合わせが考えられ、一端面(23又は50)当たり3組以上としてもよい。
【0065】
また、エレクタ1の凸部25は、図6に示すセグメント3の切羽側端面23に形成された凹部24に挿入されるのものに限られず、セグメント3の切羽側端面23に形成された継手穴45に、差し込まれるものでもよい。すなわち、継手穴45と切羽側ズレ防止凹部24とを共用してもよい。
【0066】
また、バキュームパッド22によって吸着保持されるセグメント3は、内周面の全てが凹凸なく平坦状となっていてもよいが、内周面の一部(バキュームパッド22が当接される部分)のみが凹凸なく平坦状となっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態に係るセグメントの斜視図である。
【図2】図1のセグメントを組み立てるエレクタの説明図であり、(a)はエレクタの側断面図、(b)は図2(a)のb−b線断面図である。
【図3】図2(a)の部分拡大図である。
【図4】図3の切羽側ズレ防止凸部及び坑口側ズレ防止凸部を、夫々、離間位置及び待避位置とした図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】図1のセグメントの組み立ての様子を示す説明図である。
【図7】本発明の変形実施形態を示す説明図(図5に対応する図)である。
【符号の説明】
【0068】
1 エレクタ
3 セグメント
3x セグメント本体
3a 内周面
22 バキュームパッド
23 セグメントの切羽側端面
24 切羽側ズレ防止凹部
25 切羽側ズレ防止凸部
44 坑口側継手凸部
45 切羽側継手凹部
50 セグメントの坑口側端面
51b 坑口側ズレ防止凸部
59 坑口側ズレ防止凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削したトンネル孔の内周に沿ってエレクタにより組み付けられてトンネルを構築するためのセグメントであって、
セグメント本体の内周面を上記エレクタに装着したバキュームパッドに吸着すべく凹凸なく且つ平滑に形成し、
そのセグメント本体の切羽側端面に、上記エレクタに装着した切羽側ズレ防止凸部が挿入される切羽側ズレ防止凹部を形成し、
上記セグメント本体の坑口側端面に、上記エレクタに装着した坑口側ズレ防止凸部が挿入される坑口側ズレ防止凹部を形成した
ことを特徴とするセグメント。
【請求項2】
請求項1に記載のセグメントをトンネル孔の内周に沿ってエレクタにより組み付けてトンネルを構築する方法であって、
上記エレクタの切羽側ズレ防止凸部を上記セグメント本体の切羽側ズレ防止凹部に挿入し、上記エレクタの坑口側ズレ防止凸部を上記セグメント本体の坑口側ズレ防止凹部に挿入した状態で、上記エレクタのバキュームバッドによって上記セグメント本体の内周面を吸着して保持し、
保持した上記セグメント本体を上記エレクタによって上記トンネルの周方向、径方向及び軸方向に移動させ、そのセグメント本体を上記トンネル孔内の所定位置に組み付けるようにしたことを特徴とするトンネル構築方法。
【請求項3】
上記セグメント本体に、トンネル軸方向に隣接するセグメント同士を連結するため、その坑口側端面に坑口側継手凸部を設けると共に切羽側端面に切羽側継手凹部を設け、
その切羽側継手凹部を上記切羽側ズレ防止凹部と兼用し、上記切羽側継手凹部に上記エレクタの切羽側ズレ防止凸部を挿入するようにした
請求項2に記載のトンネル構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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