説明

セグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造

【課題】止水性及び耐熱性に優れたセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造を提供する。
【解決手段】トンネルTの掘削面T1を覆う複数のセグメント1の互いに隣り合うセグメント1の端面1a間の目地部5に設けられるセグメント用目地材2であって、目地部5からの漏水を防止するための止水部6と、この止水部6よりもトンネル内側に設けられ、トンネル火災時の熱から止水部6を保護する耐熱部7とを備えている。また、耐熱部7は、セラミックスを中空の球体に形成した中空セラミックスバルーンをモルタルに混合したものや、フェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合したもの、水膨潤型樹脂をモルタルに混合したもの、溶融スラグの微砕体をモルタルに混合したもの、医療用廃棄物を燃焼させて形成されるガラス固化体の粉砕体をモルタルに混合したものとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシールドマシンで掘削したトンネルの掘削面を覆う複数のセグメントの互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設けられるセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシールド工法等により掘削したトンネル掘削面には、この掘削面の曲率半径と略等しい曲率半径を備えた複数の円弧状のセグメントが周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面を被覆して支持する環状のセグメントリング体が形成される。そして、このような周方向の掘削面を支持するセグメントリング体がトンネル軸方向に連続するように接続されて、掘削面を被覆支持するトンネルの覆工が形成される。また、この種のセグメントには、一般に、鋼製セグメントやコンクリート製セグメント、これら鋼とコンクリートを複合した合成セグメントが用いられ、隣接するセグメント同士が一体に接合されている。また、互いに隣り合うセグメント同士の端面間の目地部には、地山側(掘削面側)から地下水が侵入してトンネル内に漏水が生じないようシール材(セグメント用目地材)が介装される。この種のシール材には、地下水が接触すると膨潤しセグメント同士の端面間の隙間を埋めて漏水を止水する水膨張型ゴム系シール材などの樹脂(高分子)系材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特に道路トンネルや鉄道トンネルなどでは、トンネル火災が発生した際に、火災による熱でセグメントが損傷されないように、トンネルの内側に耐火層(耐火コンクリートや耐火パネル)を備えた耐火セグメントが用いられている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−264466号公報
【特許文献2】特開2004−323330号公報
【特許文献3】特開2001−311395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トンネル掘削面を覆うセグメントは、上記の耐火層を備えて火災に対する耐性を有する一方で、隣り合うセグメントの目地部に配されるゴム系のシール材は、その耐熱温度が例えば120℃程度であり、トンネル火災で発生する熱によって損傷されてしまう。このため、火災を受けたシール材は、所要の止水性能が低下し、かつトンネル掘削面を支持する多数のセグメントの間に介装されている関係上、その交換は困難で、トンネル内への漏水を止水することができず、他の漏水対策を必要とするなど多大な労力を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、止水性及び耐熱性に優れたセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0007】
本発明のセグメント用目地材は、トンネルの掘削面を覆う複数のセグメントの互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設けられるセグメント用目地材であって、前記目地部からの漏水を防止するための止水部と、該止水部よりもトンネル内側に設けられ、トンネル火災時の熱から前記止水部を保護する耐熱部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部が、セラミックスを中空の球体に形成した中空セラミックスバルーンをモルタルに混合して形成されていることが望ましい。
【0009】
さらに、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部が、フェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合して形成されていてもよい。
【0010】
また、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部が、水膨潤型樹脂をモルタルに混合して形成されていてもよい。
【0011】
さらに、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部が、溶融スラグの微砕体をモルタルに混合して形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部が、医療用廃棄物を燃焼させて形成されるガラス固化体の粉砕体をモルタルに混合して形成されていてもよい。
【0013】
さらに、本発明のセグメント用目地材においては、前記耐熱部に、前記中空セラミックバルーンとともに、フェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合した混合体と水膨潤型樹脂と溶融スラグの微砕体と医療用廃棄物を燃焼させて形成されるガラス固化体の粉砕体のうち、1種または2種以上をモルタルに混合して形成されていてもよい。
【0014】
本発明のトンネル構造は、トンネルの掘削面を覆う複数のセグメントと、互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設けられるセグメント用目地材とを備えたトンネル構造において、上記のいずれかに記載のセグメント用目地材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造によれば、セグメント用目地材が、漏水を防止する止水部と、この止水部よりもトンネル内側に設けられ、トンネル火災時の熱から止水部を保護する耐熱部とを備えて構成されていることによって、トンネル火災で発生する熱によって止水部が損傷されることを防止できる。これにより、火災後のセグメント用目地材の止水性能を火災前の状態で維持することができる。
【0016】
このとき、耐熱部を、中空セラミックバルーンをモルタルに混合して形成した場合には、中空セラミックバルーンの空気によって優れた断熱性が付与される。また、耐熱部をフェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合して形成した場合には、例えば電子機器の基板の廃材などの産業廃棄物を原料とすることができ、経済性を向上させることができるとともに、トンネル火災時に火にあぶられたり、加熱した際に、フェノール樹脂が炭化するのみで燃え広がることがないため、自動消炎させることができる。さらに、耐熱部を、例えば吸水性ポリマーなどの水膨潤型樹脂をモルタルに混合して形成した場合には、水を吸収した水膨張型樹脂が火災時に水を放出させることによって低温状態を維持することが可能になる。また、耐熱部を、溶融スラグや医療廃棄物を燃焼させて形成したガラス固化体の粉砕体をモルタルに混合して形成した場合には、溶融スラグやガラス固化体が加熱して形成されたものであるため、優れた耐熱性を付与することができる。これにより、トンネル火災の熱を受けた場合においても、セグメント用目地材の止水部を確実に保護することができ、火災後のセグメント用目地材の止水性能を火災前の状態で維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係るセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造について説明する。本実施形態は、例えばシールド工法などによって構築される道路トンネルの互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設置されるセグメント用目地材及びこれを備えるトンネル構造に関するものである。
【0018】
本実施形態のトンネル構造Aは、複数のセグメント1と、セグメント1に取り付けられたセグメント用目地材(目地材)2を備えて構成されている。各セグメント1は、図1に示すように、シールドマシンによって掘削したトンネルTの掘削面T1の曲率半径と略等しい曲率半径を備える円弧盤状に形成されている。また、セグメント1は、周方向の周長が、設置した状態でトンネルの軸O2と平行するセグメント1の軸O1方向の幅よりも大きく形成されるとともに、径方向の厚さが周方向に沿って一定に形成されている。そして、このように形成された複数のセグメント1は、トンネルTの掘削面T1に沿ってトンネルTの周方向に連続して設けられ、周方向の掘削面T1を被覆しつつ支持する環状のセグメントリング体3を形成している。また、トンネルTの軸O2方向に、セグメントリング体3が連続するように隣接されて、シールドマシンで掘削した掘削面T1が複数のセグメント1で被覆されつつ支持されトンネルTの覆工が形成される。なお、各セグメント1は、図示せぬリング間継手とセグメント間継手によって相互に接合される。また、本実施形態において、セグメント1は、設置した状態でトンネルTの内側を向く面にトンネル火災の熱を断熱するための図示せぬ耐火層を備え、火災時の熱によって損傷されないように構成されている。
【0019】
また、本実施形態のセグメント1には、図1及び図2に示すように、隣り合うセグメント1同士の接合端面(端面)1aに内側に凹む凹部1bが形成されている。この凹部1bは、セグメント1の各端面1aに例えば2条ずつ設けられ、各端面1aの延設方向に沿って一端から他端まで平行に延設されている。また、凹部1bは、隣り合うセグメント1の端面1a同士を接合した状態で、一方のセグメント1の凹部1bと他方のセグメント1の凹部1bが対向配置されるように形成されている。
【0020】
本実施形態の目地材2は、図2に示すように、隣り合うセグメント1の端面1a間の目地部5に設けられ、掘削面T1側から目地部5に侵入した地下水がトンネルT内側に漏水することを防止するための止水部6と、トンネル火災時の熱から止水部6を保護する耐熱部7とから構成されている。
【0021】
止水部6は、地下水が接触すると膨潤し目地部5を埋めて漏水を止水する水膨張型ゴム系シール材などの樹脂(高分子)系材料とされ、セグメント1の各凹部1bにそれぞれ挿入設置されている。また、各止水部6は、凹部1bから隣り合うセグメント1の端面1a側に僅かに突出するようにして設置され、凹部1bに沿って、すなわちセグメント1の各端面1aの延設方向に沿って一端から他端まで延設されている。そして、隣り合うセグメント1同士を接合するとともに、互いに対向する止水部6の露出した外面同士が密着して、対向する一対の止水部6で目地部5を埋めてこの目地部5を遮断している。
【0022】
一方、本実施形態の耐熱部7は、セラミックスを中空の球体に形成した中空セラミックスバルーンをモルタルに混合して形成されている。また、中空セラミックスバルーンは、SiO、Al及びFeを主成分とする粒径500μm以下で形成されており、その比重が1.0以下とされている。このように構成される耐熱部7は、中空セラミックバルーンの空気によって優れた断熱性を有している。そして、本実施形態において、この断熱部7は、セグメント1の内面側、すなわちトンネルTの内面側の目地部5に設けられ、この耐熱部7よりも掘削面T1側、すなわちトンネルTの外側に位置する止水部6をトンネルT内空から遮断している。また、このとき、耐熱部7のトンネルT内側を向く面7aは、セグメント1の内面と面一とされている。
【0023】
ついで、上記の構成からなるセグメント用目地材2及びこれを備えたトンネル構造Aの作用及び効果について説明する。
【0024】
セグメント1同士を接合し互いに対向する一対の止水部6がセグメント1の端面1a間に介装された状態で、一対の止水部6が、隣り合うセグメント1の端面1a間を確実に遮断し、掘削面T1側から目地部5を通じてトンネルTの内側に流通しようとする地下水が止水される。これにより、トンネルT内側に漏水が生じることがない。
【0025】
一方、トンネルT内で火災が発生した場合には、セグメント1や目地材2が加熱されることになるが、本実施形態においては、セグメント1が耐火層を備えて形成されているため、加熱によってセグメント1が損傷されることがない。また、本実施形態の目地材2には、中空セラミックスバルーンが混合されてその断熱性に優れる耐熱部7が、止水部6よりもトンネルT内側に設けられているため、火災時の熱が目地材2に作用した場合においても、止水部6の温度は低温状態で維持される。このため、火災時の加熱によって止水部6が損傷することがなく、火災後の目地材2は、その止水性能が火災前の状態で維持される。
【0026】
したがって、本実施形態のセグメント用目地材2及びトンネル構造Aによれば、セグメント用目地材2に、トンネル火災時の熱から止水部6を保護する耐熱部7が具備され、この耐熱部7が、中空セラミックスバルーンを備えて耐熱性に優れるように形成されているため、トンネル火災で発生する熱によって止水部6が損傷されることを防止できる。これにより、火災後のセグメント用目地材2の止水性能を火災前の状態で維持することができる。また、止水部6と耐熱部7を個別に製造、取り付けできるのでコストを低減することができる。
【0027】
以上、本発明に係るセグメント用目地材2及びこれを備えるトンネル構造Aの実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、セグメント用目地材2の耐熱部7が、中空セラミックスバルーンをモルタルに混合して形成されているものとしたが、耐熱部7は、例えば0.1mm〜2、3mm程度の大きさのフェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合して形成されていてもよく、この場合には、例えば電子機器の基板の廃材などの産業廃棄物を原料とすることも可能で経済性を向上させることができ、また、トンネル火災時に火にあぶられたり、加熱した際に、フェノール樹脂が炭化するのみで燃え広がることがないため、自動消炎させることができる。よって、本実施形態と同様、トンネル火災が発生した場合においても止水部6が損傷することを防止できる。
【0028】
また、耐熱部7は、例えば吸水性ポリマーなどの水膨潤型樹脂をモルタルに混合して形成されていてもよく、この場合には、水を吸収した水膨張型樹脂が火災時に水を放出させて低温状態を維持することが可能になる。これにより、止水部6が火災によって損傷することを防止できる。
【0029】
さらに、耐熱部7は、例えば下水汚泥スラグなどの溶融スラグ、もしくは医療廃棄物を燃焼させて形成したガラス固化体を粉砕した粉砕体をモルタルに混合して形成されていてもよく、この場合には、溶融スラグやガラス固化体が加熱して形成されていることにより、耐熱部7に優れた耐熱性が付与されることになり、トンネル火災の熱を受けた場合においても、止水部6が火災によって損傷することを防止できる。
【0030】
また、耐熱部7は、本実施形態の中空セラミックスバルーンとともに、上記のフェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合した混合体と水膨潤型樹脂と溶融スラグと医療廃棄物を燃焼させて形成したガラス固化体の1種または2種以上をモルタルに混合して形成されていてもよい。さらに、本実施形態では、止水部6と耐熱部7を分離して設けたが、耐熱部7は、止水部6に対してトンネル内側に設けられていればよく、止水部6に当接していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るトンネル構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るトンネル構造に具備されるセグメント用目地材を示す図1のX−X線矢視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 セグメント
1a 端面
1b 凹部
2 セグメント用目地材(目地材)
3 セグメントリング体
5 目地部
6 止水部
7 耐熱部
A トンネル構造
T トンネル
T1 掘削面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削面を覆う複数のセグメントの互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設けられるセグメント用目地材であって、
前記目地部からの漏水を防止するための止水部と、該止水部よりもトンネル内側に設けられ、トンネル火災時の熱から前記止水部を保護する耐熱部とを備えていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項2】
請求項1記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部が、セラミックスを中空の球体に形成した中空セラミックスバルーンをモルタルに混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項3】
請求項1記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部が、フェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項4】
請求項1記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部が、水膨潤型樹脂をモルタルに混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項5】
請求項1記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部が、溶融スラグの微砕体をモルタルに混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項6】
請求項1記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部が、医療用廃棄物を燃焼させて形成されるガラス固化体の粉砕体をモルタルに混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項7】
請求項2記載のセグメント用目地材において、
前記耐熱部に、フェノール樹脂の微砕体をフェノール樹脂に混合した混合体と水膨潤型樹脂と溶融スラグの微砕体と医療用廃棄物を燃焼させて形成されるガラス固化体の粉砕体のうち、1種または2種以上を混合して形成されていることを特徴とするセグメント用目地材。
【請求項8】
トンネルの掘削面を覆う複数のセグメントと、互いに隣り合うセグメントの端面間の目地部に設けられるセグメント用目地材とを備えたトンネル構造において、
請求項1から請求項7のいずれかに記載のセグメント用目地材を備えることを特徴とするトンネル構造。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−285051(P2007−285051A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115444(P2006−115444)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】