説明

セパレータおよびその製造方法

【課題】1枚のセパレータ内に親水性部分と疎水性部分とを備えた、固体高分子膜型燃料電池用のセパレータとその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 あらかじめ設定した領域の範囲にマスキングを行ったセパレータ板24を、表面改質処理装置としての火炎処理装置2におけるプロパンガスのバーナー21による火炎22のヘッド部Aを通過するコンベア23上に載せてセパレータ板24に火炎処理を複数回施し、各火炎処理毎のマスキング範囲により各領域への表面改質処理条件を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜型燃料電池に用いるセパレータに関する。より具体的には、1枚のセパレータ内に親水性部分と疎水性部分の両方を備えた、高分子膜型燃料電池に用いるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点がある。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e [1]
[1]式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、[1]式で生じたプロトンは、水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0004】
固体高分子電解質膜内でのプロトン通過性を良好にするため、セパレータのガス流路を通して加湿された水素ガスが供給されるが、運転時間の経過とともに、排出側に水分がたまり、ついには凝集し、流路を塞ぐ。これを改善するには、ガス流路の排出側に近い領域を撥水性にすると良い。
【0005】
また、酸素を酸化剤とした場合、カソードでは[2]式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → H
[2]
カソードで生成した水は、セパレータの酸素ガス流路を通り、酸素の流れに乗って排出される。酸素ガス流路の排出側は、運転時間の経過とともに過湿度状態になり、ついには水が流路内で凝集し、酸素ガスの通りを阻害する。これを防ぐにはセパレータの酸素ガス流路そのものを撥水性にすることで改善できる。
【0006】
このように、セパレータの水素及び酸素ガス流路において、ガス供給側に近い領域は親水性に、排出側に近い領域は疎水性にすることは燃料電池から取り出せる電流の安定化を図るのに有効である。
【0007】
このために、燃料電池用セパレータの基板の凹部表面に水管理層を形成し、この水管理層に、エネルギーを照射して、水管理層の水に対する濡れ性を撥水性から親水性に変化させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、固体高分子型燃料電池のセパレータを構成する材料として導電性材料を採用した上で、親水性若しくは疎水性を制御する面に対して粗面化を行い、粗面化により生成した凹凸部の凹部内に親水性若しくは疎水性を調整する水濡れ性調整部材を選択的に充填することで、所望の親水性若しくは疎水性と導電性とが両立可能になることが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、燃料電池セパレータ用の樹脂成形板の表面のうち、改質が必要な部分に三酸化硫黄ガスを接触させ、その部分を親水性に表面改質する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−207728号公報
【特許文献2】特開2006−294294号公報
【特許文献3】特開2008−179712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2及び3に開示されている燃料電池用セパレータの表面改質法は、いずれも、特別な材料を使用したり、多くの工程を要するものであるため、実質的なコストアップの要因を抱えており、燃料電池の普及に向けてコストや生産性の改善が急務となっているセパレータに適用するには問題がある。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、1枚のセパレータ内に親水性部分と疎水性部分とを備えた、固体高分子膜型燃料電池用のセパレータとその簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
【0012】
(1)片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータにおいて、ガス流路の表面の、水素又は酸素ガスの供給側に近い領域が親水性であり、水素又は酸素ガスの排出側に近い領域が疎水性であることを特徴とするセパレータ。
【0013】
(2)セパレータは、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合したコンパウンドからなり、そのコンパウンドにおける(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする(1)に記載のセパレータ。
【0014】
(3)疎水性のバインダ樹脂は、ポリプロピレン又はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする(2)に記載のセパレータ。
【0015】
(4)導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合して粉末状又は粒状のコンパウンドとする工程と、そのコンパウンドを、片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータの金型に供給する工程と、その金型を加熱加圧プレス成型してバインダ樹脂を溶融させ、コンパウンドを金型に充填する工程と、その金型を冷却して金型に充填されたコンパウンドを固化してセパレータとする工程と、セパレータを金型から取り出す工程と、金型から取り出したセパレータに、ガス流路の表面の、水素又は酸素ガスの供給側に近い領域が親水性となり、水素又は酸素ガスの排出側に近い領域が疎水性となるような表面改質処理を施す工程と、を順に含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【0016】
(5)コンパウンドにおける(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする(4)に記載のセパレータの製造方法。
【0017】
(6)疎水性のバインダ樹脂は、ポリプロピレン又はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする(5)又は(6)に記載のセパレータの製造方法。
【0018】
(7)表面改質処理は、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれか1つまたは複数の組合せによって行うことを特徴とする(4)〜(6)のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【0019】
(8)ガス流路の表面に複数回行う表面改質処理において、ガス流路の表面に水素又は酸素ガスの供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設け、その複数の領域のそれぞれに対する表面改質処理回数を、表面改質処理毎の、疎水領域から中間領域へわたる領域へのマスキング範囲によって設定することを特徴とする(7)に記載のセパレータの製造方法。
【0020】
(9)ガス流路の表面に水素又は酸素ガスの供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設け、親水領域に対しては開口割合が大きく、疎水領域に対しては開口割合が小さくなるようなマスキングを施して表面改質処理を行うことを特徴とする(7)に記載のセパレータの製造方法。
【0021】
(10)ガス流路の表面に水素又は酸素の供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設けたセパレータを、ガス流路側を上にして水平のコンベアに水平に載せ、セパレータが表面改質処理の処理部を通過するように配置して、親水領域が表面改質処理の処理部を通過する時はコンベアの移動速度を遅く、疎水領域が表面改質処理の処理部を通過する時はコンベアの移動速度を速くしてコンベアを移動させることを特徴とする(7)に記載のセパレータの製造方法。
【0022】
(11)ガス流路の表面に水素又は酸素の供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設けたセパレータを、ガス流路側を上にして水平のコンベアに傾斜した状態で載せ、火炎処理又はコロナ放電処理のヘッド部の中心部を疎水領域が通過し、ヘッド部の先端部を親水領域が通過するようにセパレータの傾斜と火炎処理又はコロナ放電処理のヘッド部を配置してコンベアを移動させることを特徴とする(7)に記載のセパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、1枚のセパレータ内に親水性部分と疎水性部分とを備えた、固体高分子膜型燃料電池用のセパレータとその簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るセパレータを用いた固体高分子膜型燃料電池の単セルの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施例1、2に係る火炎処理装置の模式的断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係るセパレート板の上面図である。
【図4】本発明の実施例2に係るセパレート板の上面図である。
【図5】本発明の実施例3に係る火炎処理装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の第実施形態に係るセパレータを用いた固体高分子膜型燃料電池の単セルの模式的断面図を示したものである。
【0027】
本発明のセパレータを使用する燃料電池は、図1に示したように、固体高分子電解質膜11の一面側にアノード電極14aを有し、他面側にカソード電極14bを有する膜電極接合体(MEA)15を、一対のセパレータ16a、16bで挟持した単セル1を備える構造を有する。アノード電極14aに接する第1のセパレータ16aの、アノード電極14a側の面に、セパレータ16aの1方の側面(図の下側)からMEA15へ燃料ガスの水素ガスを供給し、さらにMEA15を通過した水素ガスをセパレータ16aの対向する側面(図の上側)から排出するための水素ガス流路が17aが備えられている。
【0028】
カソード電極14bに接する第2のセパレータ16bの、カソード電極14b側の面に、セパレータ16bの1方の側面からからMEA15へ酸化剤ガスの酸素ガスを供給し、さらにMEA15を通過した酸素ガスをセパレータ16bの対向する側面から排出するための酸素ガス流路17bが備えられている。一般に、第1のセパレータ16aの水素ガスの供給、排出の方向と、第2のセパレータ16bの酸素ガスの供給、排出の方向とは直交するように配置される。
【0029】
アノード電極14aは触媒層12aとガス拡散層13aとからなり、カソード電極14bは触媒層12bとガス拡散層13bとからなる。
【0030】
ガス拡散層13a、13bは水素又は酸素の触媒層12a又は12bへの供給、触媒層12aでの化学反応により生じた電子の集電、固体高分子電解質膜11の保湿および生成水の排出、といった多くの役割を担う多機能部材である。ガス透過性や導電性のほか、耐酸性や機械的強度など多様な要求を満たす必要があり、一般にカーボンペーパーやカーボンクロスが使われる。
【0031】
アノード電極14aでは水素ガスの反応によりプロトンと電子が生じる。電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード電極14bに到達する。プロトンは、水和した状態で、水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜内をアノード電極14a側からカソード側14b側に、電気浸透により通過する。
【0032】
カソード電極14bでは、プロトンと電子と酸素が反応し水が生成する。この水は、セパレータ16bの酸素ガス流路17bを通り、酸素ガスの流れに乗って排出される。
【0033】
固体高分子電解質膜11としては、ナフィオン等のパーフルオロスルホン酸や炭化水素系の材料が使われるが、そのイオン導電性を向上させるために水素ガスを加湿するのが一般的であり、また燃料電池を利用した発電システムのカソード側には必ず水が生成する。運転開始直後は水の生成量は少ないため、ほとんど影響はないが、セパレータの流路形状によっては数十分後くらいから、ガス流路に水がたまり、結果的にガスが充分拡散できず、発生電位の低下を来たす。また、寒冷地等にあっては、溜まった水が凍結し、流路をふさいでしまい、ガスの圧力を高めても、溜まった水を除去できない状況となる。
【0034】
一方、アノード極14aでは、水素ガスが白金等の触媒層12aと接触することでプロトンを生じ、このプロトンは周りにいくつかの水分子を抱えて、固体高分子電解質膜11中を通過して行くため、アノード極14a側が徐々に乾燥状態となってしまう。これを防止するため、水素ガスを加湿するのが一般的である。この場合も、加湿過剰になった場合は、アノード極14aの排出側に近い部分で水の凝集が発生し、燃料としての水素ガスが行き渡らなくなってしまう。
【0035】
このように、アノード極14a側における燃料ガスの水素ガスの加湿や、カソード極14b側における生成水の増加により、セパレータ16aの水素ガスのガス流路17aや、セパレータ16bの酸素ガス(空気など)のガス流路17bにおいて、特に排出側に近い部分で水が凝集する可能性が高い。
【0036】
本発明の実施形態においては、高分子膜型燃料電池に用いるセパレータ16a、16bにおいて、ガス供給側に近い領域と排出側に近い領域とで親水性(疎水性)に差異を設ける。つまり、セパレータ16a、16bの少なくとも、ガス供給側よりガス排出側に近い領域を疎水性にする。すなわち、セパレータ16a、16bの少なくとも、ガス供給側を、ガス排出側よりも親水性にする。
【0037】
本実施形態においては、水の濡れ性を表わす接触角が50°を超え80°未満である場合を親水性、80°を超え110°未満である場合を疎水性と呼ぶ。
【0038】
セパレータ材料としては、一般に、黒鉛系、金属系及びコンポジット系のうちのいずれかが用いられる。
【0039】
黒鉛系セパレータには、黒鉛材を数mm〜10mm程度の薄板に切り出し、切削加工で反応ガスの流路を形成する方法と、膨張黒鉛をプレス成形することで反応ガスの流路を形成する方法がある。切削法は従来用いられてきたが、黒鉛材のガス不透過性が低いため熱硬化性樹脂を含浸させる必要がある。また切削加工するため生産コストが高い。
【0040】
金属系セパレータでは、金属板を金型でプレスして反応ガスの流路を形成する。欧州で研究が盛んに行われているが、そのままでは耐食性が不十分なので表面に金などをメッキする必要があり、コーティング材の検討が必要である。
【0041】
コンポジット系セパレータでは、導電性を持たせるため樹脂に黒鉛粉末を添加した材料を成形し、薄板状とするとともに反応ガスの流路を形成する。材料の熱流動性が低いため加熱、加圧して成形することが多い。
【0042】
以下、本発明の実施形態における、導電性カーボンとバインダ樹脂からなるコンポジット系セパレータの製造方法について述べる。
【0043】
導電性カーボンとしては、人造黒鉛、天然黒鉛等の粉末を用いることができる。
【0044】
バインダ樹脂としては、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等それ自体が疎水性であるものが望ましい。それ自体が親水性や吸水性である素材、例えば、ナイロンやポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールなどは疎水性を現出させにくいことから好ましくない。
【0045】
セパレータとしての導電性や機械的性質の観点から、(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1の範囲であることが好ましい。混合
材料は必要に応じて混練や粉砕を行い、粉末状又は粒状のコンパウンドが得られる。
【0046】
このコンパウンドを所定量セパレータ金型に供給し、金型を加熱加圧プレス成型することにより、コンパウンド中のバインダ樹脂を溶融し、金型のセパレータ形状に充填する。
【0047】
バインダ樹脂にポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂を用いた場合は、金型をその樹脂のガラス転移温度より低い温度まで冷却して樹脂を固化させ、セパレータを金型より取り出す。
【0048】
金型から取り出したセパレータに以下に述べる表面改質処理を行い、セパレータ表面に所定の濡れ性、すなわち親水性及び疎水性を付与する。
【0049】
表面改質処理としては、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれかを適用することができる。
【0050】
(火炎処理)
火炎処理すなわちフレーム処理は、プロパンガスなどの可燃性ガスに酸素を吹き込みながらたとえばフィルム等の被処理表面上で燃焼させ、酸化反応を起こして極性を持つ塩基を生成させる表面処理である。火炎先端部は、火炎中心部より温度が高いので、セパレータ表面の所定の改質の領域に応じて、火炎形状をあらかじめ設定する。
【0051】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、たとえばフィルム等の被処理表面でガスを電離させて生じた粒子の電荷を利用して、極性を持つ塩基を生成させる表面処理である。
【0052】
(紫外線+オゾン処理)
紫外線+オゾン処理、すなわちUVオゾン表面処理には、改質と洗浄の効果がある。どちらの反応が起こるかは素材に依存し、ガラスやセラミックには洗浄作用だけが働き、プラスチックや金属には改質と洗浄の両方が働く。照射するUV光のエネルギーが有機化合物の分子結合エネルギーより高い時、分子結合が切れる確率が高くなる。240nm以下の波長のUVは酸素を分解するので、172nmと185nmのUV線は酸素からオゾンを生成する。254nmのUV線はミリ秒の速さでオゾンを分解して、高いエネルギーの活性酸素を生成する。C−H結合が切れるとH原子は軽いので直ぐに引抜かれる。活性酸素はその有機化合物と反応して、COやCO(OH)等の酸素に富んだ官能基を表面に形成する。照射によりC−H結合に基づくピークが減少して、カルボニル基に起因するピークが新たに発現し、カルボキシル基に基づくピークが増大する。富酸素ラジカルには極性があり、表面エネルギーを増加させ親水性を高め、親水性に依存する接着力を強くする。
【0053】
(コロナ放電処理)
コロナ放電処理は、たとえばフィルム等の被処理表面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ、かつ粗面化する。
【0054】
このような4種類の表面改質処理法のうちのいずれか又は複数の組合せを用いて、次の方法により、1枚のセパレータに於いて、親水性領域と疎水性領域を併せ持たせることができる。
【0055】
(A)セパレータガス流路をマスキングして必要な領域のみ表面改質を行なう。例えば、親水性にしたい領域、中間的な領域、疎水性領域に対して、親水性にしたい領域は2回処理、中間的な部位は1回処理、疎水性領域は処理なし、となるようにマスキングの範囲を変えて親水性から疎水性までを1枚のセパレータに現出させることができる。
【0056】
(B)セパレータのガス流路上に、開口割合の異なる領域を有するマスキングを施し、表面改質を行なうことで、親水性から疎水性までを1枚のセパレータ上に現出させることができる。マスキング材料としては、用いる表面改質法にも依るが耐熱性や耐オゾン性、耐紫外線性などに優れた金属やプラスチックスを適宜選択して用いることができる。
【0057】
(C)コンベア上にセパレータのガス流路面を上にして載せ、それを火炎処理やコロナ処理などのヘッド部に通過させて処理を行なう方法の場合は、親水性が必要な領域ではゆっくりと製品を通過させ、また、逆に必要ない領域では、コンベアスピードを速くして、処理効果が及ばないようにすることで、1枚のセパレータ上に、親水性領域と疎水性領域とを併せ持たせることができる。
【0058】
(D)上記(C)と同様のコンベア上にセパレータのガス流路面を上にして載せ、それを火炎処理やコロナ処理などのヘッド部に通過させて処理を行なう方法に於いて、コンベア上にセパレータを、疎水性が必要な領域をヘッド部の中心部に近く(上に、高い位置に)、反対に、親水性が必要な領域はヘッド部の先端部に近く(下に、低い位置に)斜めに設置し、ヘッドを通過させることで、1枚のセパレータに於いて、例えば、ガス供給側に近い領域を親水性に、また、排出側に近い領域を疎水性に、徐々に変化させることができる。
【実施例】
【0059】
以下に、ポリプロピレン製、及び、ポリフェニレンサルファイド製のセパレータ板について、プロパンガスを燃焼して得られる火炎を用いた火炎処理において、処理条件や、マスキング条件等を変えて行った実施例1〜4を示す。
【0060】
(実施例1)
平均粒径約60μmの黒鉛と熱可塑性樹脂であるポリプロピレンとを質量比で5:1で混合、混練し、大きさ約1mmの粒子状コンパウンドを作製した。次いで、これを、所定量、金型に入れ、280℃5分間加熱・加圧後、室温まで冷却して、燃料電池用セパレータ板を作製した。このセパレータ板に、図2に示した模式的断面図の火炎処理装置2にて火炎処理を施し、セパレータ板の表面改質処理を行った。セパレータ板24を、5m/secの速度で移動する水平のコンベア23上に水平に載せ、図2のプロパンガスのバーナー21による火炎22のヘッド部Aを矢印の方向に計3回通過させて火炎処理を施した。その際、部分的に火炎22が当たらないようにセパレータ板24にマスキングを行った。図3は、実施例1に係るセパレート板24の上面図を示したものである。図3に示したように、セパレータ板24の上側表面を先端から後端にコンベア23の進行方向に第1領域から第4領域の4つの領域に分け、1回目の火炎処理では第1〜3領域の範囲をマスキングし、2回目の火炎処理では第1〜2領域の範囲をマスキングし、3回目の火炎処理では、第1領域の範囲をマスキングして表面改質処理を行った。この結果、各領域が受けた表面改質処理は、第1領域はなし、第2領域は1回、第3領域は2回、第4領域は3回となった。処理後の各領域のセパレータ板24の水の接触角を表1に示した。
【0061】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同様の黒鉛と、粉状の熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイドとを3:1の質量比で混合、混練し、大きさ約1mmの粒子状コンパウンドを作製した。次いでこれを、所定量金型に入れ、320℃10分間加熱・加圧後、室温まで冷却して、燃料電池用セパレータ板を作製した。この板を実施例1で用いたものと同様の、図2に示した模式的断面図の火炎処理装置2にて火炎処理を施し、セパレータ板の表面改質処理を行った。セパレータ板24を、水平のコンベア23上に水平に載せ、図2のプロパンガスのバーナー21による火炎22のヘッド部Aを矢印の方向に計3回通過させて火炎処理を施した。図4は、実施例2に係るセパレート板24の上面図を示したものである。図4に示したように、セパレータ板24の上側表面を先端から後端にコンベア23の進行方向に第1領域から第4領域の4つの領域に分け、1回目の火炎処理では第1、3、4領域の範囲をマスキングし、2回目の火炎処理では第1、2、4領域の範囲をマスキングし、3回目の火炎処理では、第1、2、3領域の範囲をマスキングして表面改質処理を行った。火炎22のヘッド部Aをコンベア23が通過する速度を、1回目の火炎処理では10m/sec、2回目の火炎処理では5m/sec、3回目の火炎処理では2m/secとした。この結果、第1領域は未処理であり、第2領域は10m/sec、第3領域は5m/sec、第4領域は2m/secで処理を受けた。処理後のセパレータ板24の水の接触角を表1に示した。
【0062】
(実施例3)
実施例1で用いたポリプロピレン製燃料電池用セパレータ板、及び実施例2で用いたポリフェニレンサルファイド製燃料電池用セパレータ板を用いて、実施例1、2で用いたのと同様の図3に示した模式的断面図の火炎処理装置3にて火炎処理を施し、セパレータ板24の表面改質処理を行った。ポリプロピレン製セパレータ板はコンベア23を5m/sec、ポフェニレンサルファイド製セパレータ板はコンベア23を10m/secで矢印の方向に移動させて火炎22のヘッド部Aを通過させ、表面改質処理を行なった。その際、火炎22のヘッド部Aの先端部22bから中心部22aまでセパレータ板24を傾けて(高さを変えるように)、処理を行なった。処理後のセパレータ板24の水の接触角を表1に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示した結果から、図2、3に示したような処理装置を用いてセパレータ板の表面改質を行うことにより、1枚のセパレータ上に水の接触角、すなわち濡れ性の異なる領域を任意に現出させることができることが明らかとなった。
【0065】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0066】
1 単セル
2 火炎処理装置
3 火炎処理装置
11 固体高分子電解質膜
12a、12b 触媒層
13a、13b ガス拡散層
14a アノード電極
14b カソード電極
15 膜電極接合体
16a、16b セパレータ
17a、17b ガス流路
21 バーナー
22 火炎
22a 火炎中心部
22b 火炎先端部
23 コンベア
24 セパレータ板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータにおいて、
前記ガス流路の表面の、前記水素又は酸素ガスの供給側に近い領域が親水性であり、前記水素又は酸素ガスの排出側に近い領域が疎水性であることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記セパレータは、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合したコンパウンドからなり、
当該コンパウンドにおける(前記導電性カーボン/前記バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記疎水性のバインダ樹脂は、ポリプロピレン又はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合して粉末状又は粒状のコンパウンドとする工程と、
当該コンパウンドを、片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータの金型に供給する工程と、
当該金型を加熱加圧プレス成型して前記バインダ樹脂を溶融させ、前記コンパウンドを前記金型に充填する工程と、
前記金型を冷却して前記金型に充填された前記コンパウンドを固化してセパレータとする工程と、
前記セパレータを前記金型から取り出す工程と、
前記金型から取り出した前記セパレータに、前記ガス流路の表面の、水素又は酸素ガスの供給側に近い領域が親水性となり、前記水素又は酸素ガスの排出側に近い領域が疎水性となるような表面改質処理を施す工程と、
を順に含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項5】
前記コンパウンドにおける(前記導電性カーボン/前記バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする請求項4に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
前記疎水性のバインダ樹脂は、ポリプロピレン又はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする請求項5又は6に記載のセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記表面改質処理は、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれか1つまたは複数の組合せによって行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記ガス流路の表面に複数回行う前記表面改質処理において、前記ガス流路の表面に前記水素又は酸素ガスの供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設け、前記複数の領域のそれぞれに対する前記表面改質処理回数を、前記表面改質処理毎の、前記疎水領域から前記中間領域へわたる領域へのマスキング範囲によって設定することを特徴とする請求項7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記ガス流路の表面に前記水素又は酸素ガスの供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設け、前記親水領域に対しては開口割合が大きく、前記疎水領域に対しては開口割合が小さくなるようなマスキングを施して前記表面改質処理を行うことを特徴とする請求項7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記ガス流路の表面に前記水素又は酸素の供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設けた前記セパレータを、前記ガス流路側を上にして水平のコンベアに水平に載せ、前記セパレータが前記表面改質処理の処理部を通過するように配置して、前記親水領域が前記表面改質処理の処理部を通過する時は前記コンベアの移動速度を遅く、前記疎水領域が前記表面改質処理の処理部を通過する時は前記コンベアの移動速度を速くして前記コンベアを移動させることを特徴とする請求項7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記ガス流路の表面に前記水素又は酸素の供給側から排出側にわたって親水領域から中間領域を経て疎水領域に到る複数の領域を設けた前記セパレータを、前記ガス流路側を上にして水平のコンベアに傾斜した状態で載せ、前記火炎処理又は前記コロナ放電処理のヘッド部の中心部を前記疎水領域が通過し、前記ヘッド部の先端部を前記親水領域が通過するように前記セパレータの傾斜と前記火炎処理又は前記コロナ放電処理の前記ヘッド部を配置して前記コンベアを移動させることを特徴とする請求項7に記載のセパレータの製造方法。













【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−150964(P2012−150964A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8237(P2011−8237)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】