説明

セメントスラリー組成物

【課題】高温下での分離抵抗性、亀裂等への逸失防止性が改善されたセメントスラリー組成物を提供する。
【解決手段】水硬性セメント材料と、第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有し、前記化合物(A)と前記化合物(B)とが、(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ、又は(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせであり、前記化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上である、セメントスラリー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑井用等として好適なセメントスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井、地熱井の掘削には、地層とケーシングパイプとの環状空隙部をセメント材料で固めるために、いわゆる坑井用セメントスラリー組成物が用いられている。一般には、地上からケーシングパイプ内を通して、ケーシングパイプと地層との環状空隙部分にセメントスラリーをポンプで送入し、この環状空隙部分を坑底から順にセメントスラリーで充填し、硬化したセメントスラリーによりケーシングパイプを坑井内に固定することにより、坑井内の内壁を保護するものである。
【0003】
従来、坑井のセメンチングに使用する坑井用セメントスラリー組成物には、各種添加剤を添加したものを使用して、セメンチングを行っている。これらの添加剤としては、セメント速硬剤、セメント遅硬剤、分散剤、セメント脱水減少剤、低比重添加材、高比重添加材、セメント膨張材、セメント強度安定材、珪石粉等が挙げられ、坑井条件と目的に応じてこれら添加剤が組み合わせて用いられる。
【0004】
坑井のセメンチングにおいては、材料分離や坑井内の亀裂に逸失するなどして、セメンチング部分に欠陥を生じやすい。従来、クルミ殻、綿実、粘土鉱物、高分子化合物などを添加して対処している。特許文献1には、微粉ポルトランドセメントと所定の微粉シリカ質混合材とを構成成分とする地熱井セメントスラリーが開示されている。また、特許文献2には、硼素化合物やリグニンスルフォン酸誘導体のような遅硬剤を添加した所定のセメントスラリーを用いた逸水防止工法が開示されている。また、特許文献3には、セメント、β−1,3−グルカン、分散剤、消泡剤を含有する所定の坑井用セメントスラリー組成物が開示されている。一方、特許文献4には、所定の化合物(A)、(B)を併用したスラリーレオロジー改質剤を含有する、水中に希散しないスラリーが開示されている。
【特許文献1】特開平10−36825号公報
【特許文献2】特開平6−42281号公報
【特許文献3】特開平9−13034号公報
【特許文献4】特開2003−313537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、掘削孔は常温よりも更に高温となり、こうした条件で用いられる坑井用のセメントスラリー組成物においては、分離抵抗性、亀裂等への逸失防止性について、更なる改善が望まれている。
【0006】
本発明の課題は、高温でも分離抵抗性、流動性に優れ、また、亀裂等への逸失防止性にも優れたセメントスラリー組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水硬性セメント材料と、第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有するセメントスラリー組成物であって、
前記化合物(A)と前記化合物(B)とが、(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ、又は(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせであり、
前記化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上である、
セメントスラリー組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、坑井の掘削において、地層とケーシングパイプとの環状空隙部をセメント材料で固めるためのセメントスラリー組成物として、上記本発明のセメントスラリー組成物を用いる、坑井用セメンチング工法に関する。
【0009】
また、本発明は、第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有するセメントスラリー用レオロジー改質剤であって、
前記化合物(A)と前記化合物(B)とが、(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ、又は(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせであり、
前記化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上である、
セメントスラリー用レオロジー改質剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下での流動性に優れ、分離低減効果、亀裂等への逸失防止効果の高い、セメントスラリー組成物が提供され、坑井用セメントスラリー組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のセメントスラリー組成物は、良好な流動性を有することでポンプ圧送がしやすく、その上、特有の弾性を有することで亀裂等への逸失しにくいという特異的な挙動を示す。こうした特性は、坑井用セメントスラリー組成物において有利な効果をもたらす。本発明のセメントスラリー組成物は、スラリーの水相中にいわゆる低分子化合物の高次構造体である紐状ミセルを形成し、更にこの紐状ミセルが会合体を形成し、スラリー全体の粘性が増大すると考えられる。また、この紐状ミセルのレオロジー特性は高い粘弾性を有していることが挙げられ、スラリー中における水相で紐状ミセル会合体同士が絡み合い3次元の網目状会合体を形成していると考えられる。この特徴により、本発明のスラリー中の粉体粒子はこの粘弾性の高い紐状ミセルによる網目状の会合体に覆われているため、使用部位に水が存在する場合でも希釈されずに投入、充填できる。また、スラリー中で分子会合により網目状会合体を形成するため、スラリーに高い粘性を付与することができる。一般の水溶性高分子は共有結合で繋がっているため、撹拌等のせん断力を受けて結合が切れることがあると再結合しないのに対して、網目状会合体は分子間力による分子会合で大きな構造体を形成しているため、せん断力を受けて会合体が切断されても容易に再結合、再融合し、もとの形状の会合体を再構築すると考えられる。本発明では、化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上であることで、高温下での分離抵抗性がより良好となる。これらの特徴により、セメントスラリー組成物の充填、注入およびポンプ圧送時には会合体が壊れて粘性が顕著に低下するため、上述の作業を容易にすると共に、これら作業が終了し応力が解かれると再び会合体が形成されるので適度な粘性を取り戻し、高温下でも材料分離抵抗性をスラリーに付与することができ、また、亀裂等への逸失を十分に抑制できる。
【0012】
本発明において用いるセメント材料は、ポルトランド系セメント、混合セメント、高温度用セメント、或はシリカ及び石こう等を混合した水硬性セメントであり、従来、坑井用セメントスラリー等に用いられているセメントであれば、どんなセメントでも用いることができる。水硬性セメントとは、一般にカルシウム、アルミニウム、鉄、マグネシウム、及び/又は硫黄等の化合物からなり、水と反応して固形化するセメントである。水硬性セメントに属するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、高温度用セメント、地熱井セメント、油井セメント、速硬性又は超速硬性セメント、アルミナセメント、高炉セメント更にはフライアッシュ又はポゾラン灰を含有するポルトランドセメント等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明のセメントスラリー組成物に用いられる第1の水溶性低分子化合物(分子量1000以下)(以下、化合物(A)という)と、化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(分子量1000以下)(以下、化合物(B)という)は、下記(I)又は(II)の所定の組み合わせからなるものであり、組成物中で紐状ミセル等の会合体構造を形成し、その構造形成により効果を発現するものである。
(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ
(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ
【0014】
化合物(A)のカチオン性界面活性剤としては4級塩型が好ましく、構造中に10から26個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を、少なくとも1つ有しているものが好ましい。例えば、アルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ピリジニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)イミダゾリニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、タロートリメチルアンモニウムクロライド、タロートリメチルアンモニウムブロマイド、タロートリメチルアンモニウムメトサルフェート、タロージメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、水素化タロートリメチルアンモニウムクロライド、水素化タロートリメチルアンモニウムブロマイド、水素化タロートリメチルアンモニウムメトサルフェート、水素化タロージメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、水素化タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベヘニルエチルジメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルエチルジメチルアンモニウムブロマイド、ベヘニルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。水溶性と増粘効果の観点から、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド等が好ましい。
【0015】
ただし、本発明においては、化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合(以下、C18率ということもある)が45重量%以上である。この範囲は、高温、例えば40℃以上のスラリー温度でも高い粘性を維持できることから必要である。化合物(A)のC18率は、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。従って、上記カチオン性界面活性剤において例示した化合物のうち、炭素数18未満の炭化水素基を有する化合物を用いる場合は、上記のC18率を満たすような量に制限される。
【0016】
化合物(B)のうち、アニオン性芳香族化合物から選ばれるものとして、芳香環を有するカルボン酸及びその塩、ホスホン酸及びその塩、スルホン酸及びその塩が挙げられ、具体的には、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、p−フェノールスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸等であり、これらは塩を形成していていも良く、これらを2種以上併用してもよい。ただし、重合体である場合は、重量平均分子量(例えば、ゲルーパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキシド換算)500未満であることが好ましい。
【0017】
(I)の組み合わせの場合、化合物(A)がアルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩(ただし、C18率が45重量%以上のもの)であり、化合物(B)が芳香環を有するスルホン酸塩である組み合わせが好ましく、スラリー組成物の水相中の有効分濃度が5重量%以下でも効果を発現する。更に、硬化遅延を起こさない観点から、化合物(B)としてはトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸又はこれらの塩が好ましく、p−トルエンスルホン酸又はその塩がより好ましい。
【0018】
また、化合物(B)のうち、臭化化合物から選ばれるものとして、無機塩が好ましく、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化水素等が挙げられる。
【0019】
本発明のセメントスラリー組成物を製造する際には、化合物(A)と化合物(B)は、別々に構成材料に添加しても良く、一液や粉末化するなどして一剤化して添加しても良い。
【0020】
本発明のセメントスラリー組成物は、スラリーの水相中で、化合物(A)を0.1〜3重量%、更に0.3〜1.5重量%、より更に0.6〜1.2重量%含有することが好ましい。また、化合物(B)をスラリーの水相中で、0.1〜2.5重量%、更に0.2〜1.3重量%、より更に0.4〜1重量%含有することが好ましい。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0021】
本発明においては、化合物(A)と化合物(B)のモル比(有効分モル比)は、目的とするセメントスラリー組成物の粘度等を考慮して決めればよいが、得られる粘度と会合体の形状の観点から、化合物(A)/化合物(B)=1/20〜20/1、好ましくは1/20〜4/1、より好ましくは1/3〜2/1、更に好ましくは1/1〜2/3が適している。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0022】
本発明のセメントスラリー組成物は、60℃における粘度が500〜10000mPa・s、更に1000〜10000mPa・s、より更に2500〜10000mPa・sであることが好ましい。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0023】
本発明においては、本発明に係る化合物(A)、化合物(B)の他に、更に既存の水溶性高分子を用いることができる。他の既存の水溶性高分子としては、例えばセルロース誘導体、ポリアクリル系ポリマー、エチレンオキシド重合体、ポリビニールアルコール、ガム系多糖類、微生物発酵多糖類、キサンタンガム、カチオン性ポリマー等が挙げられる。
【0024】
本発明のセメントスラリー組成物は、スラリーの比重、硬化体の強度の観点から、水セメント比(W/C)が40〜130重量%であることが好適である。更に50〜100重量%、より更に60〜80重量%が好適である。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0025】
本発明のセメントスラリー組成物は、分散剤、遅延剤、消泡剤を含有することができる。分散剤、遅延剤、消泡剤は、それぞれ、坑井用セメントスラリー組成物に用いられるものを選定することができる。
【0026】
分散剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸系ポリマー等のアニオン性高分子が挙げられ、中でもポリカルボン酸系ポリマーが好適である。分散剤は、水硬性セメント材料に対して、0.05〜2重量%、更に0.2〜1重量%の割合で用いられることが好ましい。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0027】
遅延剤としては、オキシカルボン酸やその塩、単糖や多糖などの糖類が挙げられ、中でも糖類が好適である。遅延剤は、水硬性セメント材料に対して、0.005〜1重量%、更に0.02〜0.3重量%の割合で用いられることが好ましい。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0028】
消泡剤としては、アルコールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコール、脂肪酸石鹸、シリコン系化合物、等が挙げられ、中でもシリコン系化合物が好適である。消泡剤は、水硬性セメント材料に対して、0.0001〜0.1重量%、更に0.001〜0.05重量%の割合で用いられることが好ましい。これらの範囲は、坑井用セメントスラリー組成物においてより好適である。
【0029】
本発明のセメントスラリー組成物には、用途、組成などを考慮してその他の添加剤や添加材料を用いることができる。その他の添加剤や添加材料として例えばセメント速硬剤、低比重添加材、高比重添加材、セメント脱水減少剤、発泡剤、ひび割れ低減剤、気泡剤、AE剤、セメント膨張材、セメント強度安定材、珪石粉、シリカフューム、フライアッシュ、石灰石粉、砕砂等の細骨材、砕石等の粗骨材、中空バルーンなどから選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。坑井用セメントスラリー組成物の場合は、坑井の状況(坑井内の条件等)に応じて所望の坑井用セメントスラリーの特性を得るために添加することが好ましい。
【0030】
本発明のセメントスラリー用レオロジー改質剤において、化合物(A)、化合物(B)の好ましい態様は前記の通りである。本発明のセメントスラリー用レオロジー改質剤では、化合物(A)及び化合物(B)は、それぞれ別々、又は混合した状態で、水溶液又は粉末のどちらで使用してもよい。また、前記所定のC18率を満たす化合物(A)を含有する剤〔以下、(a)剤という〕と、化合物(B)を含有する剤〔以下、(b)剤という〕とを含んで構成されるレオロジー改質剤キットとすることができる。(a)剤中の化合物(A)の含有量は、作業性の観点から、5〜100重量%が好ましい。粉末の場合は、更に70〜100重量%、より更に90〜100重量%が好ましい。水溶液の場合は、更に10〜50重量%、より更に20〜40重量%が好ましい。また、(b)剤中の化合物(B)の含有量は、5〜100重量%が好ましい。粉末の場合は、更に70〜100重量%、より更に90〜100重量%が好ましい。水溶液の場合は、更に10〜50重量%、より更に20〜40重量%が好ましい。
【実施例】
【0031】
〔1〕坑井用セメントスラリー組成物の調製
水、セメント、薬剤〔化合物(A)、化合物(B)及び分散剤から選ばれる成分〕を含有する坑井用セメントスラリー組成物を次のようにして調製した。ポリプロピレン製の500mL容量の容器にセメント400gを入れ、表1の薬剤のうち化合物(A)以外を溶解させた水240gを加えて30秒練り混ぜた。次いで化合物(A)を加え、60秒練り混ぜて坑井用セメントスラリー組成物を調製した。セメントは宇部三菱セメント(株)製地熱井セメントを、水は水道水を用いた。
【0032】
この組成物では、水セメント比は60重量%となる。なお、材料は予め加温しておき、練り混ぜた際に、表2に示す所定の温度になるように調整した。また、化合物(A)、(B)は、表1に示すものを表2の組み合わせ及び添加量で使用した。
【0033】
〔2〕評価
(2−1)粘度
リオン製ビスコテスターVT−04E、ローターNo.1、または300mPa・s未満はローターNo.3を用いて、調製直後の組成物の粘度を測定した。
【0034】
(2−2)遊離水量
組成物600gを500mLカップに採り、表2に示す所定の温度で1時間静置後、上澄みをスポイトで採取して遊離水量を測定した。
【0035】
(2−3)流動性
上記遊離水量の測定で1時間静置後、容器を約45°傾けて、表2に示す所定の温度における組成物の流動性を目視により観察し、下記の3段階で評価した。
A:流動する
B:殆ど流動しない
C:全く流動しない
【0036】
(2−4)圧縮強度
直径5cm×高さ10cmの円柱型枠に組成物を注入し、表2に示す所定の温度に24時間維持したものを圧縮試験機で測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
分散剤1、2は以下のものである。
・分散剤1:花王(株)製、マイテイ3000S
・分散剤2:花王(株)製、マイテイ150
【0039】
【表2】

【0040】
表2中、添加量は、化合物(A)、(B)については、スラリーの水相中での有効分の添加量(重量%)であり、分散剤については、製品の見掛け(有姿)でのスラリーの水相中での添加量(重量%)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメント材料と、第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有するセメントスラリー組成物であって、
前記化合物(A)と前記化合物(B)とが、(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ、又は(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせであり、
前記化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上である、
セメントスラリー組成物。
【請求項2】
坑井用である請求項1記載のセメントスラリー組成物。
【請求項3】
坑井の掘削において、地層とケーシングパイプとの環状空隙部をセメント材料で固めるためのセメントスラリー組成物として、請求項1又は2記載のセメントスラリー組成物を用いる、坑井用セメンチング工法。
【請求項4】
第1の水溶性低分子化合物(A)と、該化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(B)とを含有するセメントスラリー用レオロジー改質剤であって、
前記化合物(A)と前記化合物(B)とが、(I)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)とアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせ、又は(II)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)と臭化化合物から選ばれる化合物(B)との組み合わせであり、
前記化合物(A)中、炭素数18以上の炭化水素基を有する化合物の割合が45重量%以上である、
セメントスラリー用レオロジー改質剤。

【公開番号】特開2009−161373(P2009−161373A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340231(P2007−340231)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】