説明

セメント成形体の養生装置および養生方法。

【課題】 セメント成形体の蒸気養生において、セメント成形体の表面から内部まで、均一かつ良好に養生を行い、品質性能の優れたセメント成形体を経済的に製造する。
【解決手段】 セメント成形体Bの養生処理に用いる養生装置であって、その上面にセメント成形体Bが載せられ、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられる載置台20と、セメント成形体Bの外形に対応する内形状で下面が開口する箱状をなし、載置台20の上面に配置されたときに、載置台20との間にセメント成形体Bが収容される密閉空間を構成し、上方に配置される別の載置台20の下面との間には隙間が空く覆い蓋10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント成形体の養生装置および養生方法に関し、詳しくは、建築物の外装仕上げ材に利用されるセメント系建材などを製造する際に、セメント材料から成形されたセメント成形体を蒸気養生させる作業に使用される養生装置と、このような養生装置を用いる養生方法とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁に対する外装仕上げ材料として、各種のセメント板が使用されている。矩形板などの所定形状をなすセメント板を並べて外壁面を構成することで、耐久性などに優れた外壁面が能率的に施工できる。
外装仕上げに用いるセメント板の製造は、セメントに骨材などを配合し、水を加えて練り込んでスラリー状にしたものを、成形型に充填したり、押出成形機で押し出したりして、所定の形状に成形する。成形されたセメント成形体は、そのまま一定の時間放置しておいても、セメントが水和硬化することで、硬質のセメント板が得られる。これは自然養生と呼ばれる。セメント成形体を、加熱状態で維持することで、水和硬化を促進させる加熱養生も採用される。セメント成形体を加熱蒸気雰囲気におく蒸気養生も知られている。蒸気養生は、作業能率が高く、品質性能の安定したセメント板が経済的に生産できる。
【0003】
特許文献1には、セメント系無機質板(セメント成形体に相当)の養生方法として、下面が開口する箱形トレイを順次上下方向に積み重ね、上下の箱形トレイの間に構成される密閉空間にセメント系無機質板を収容した状態で蒸気養生を行う技術が示されている。箱形トレイの上面壁や側面壁に加熱蒸気が流通する配管構造を設けておくことで、密閉空間に収容された各セメント成形板が効率的かつ均等に加熱養生されるようになっている。
【特許文献1】特開2000−185982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の箱形トレイを用いるセメント成形体の養生技術は、箱形トレイの製造コストが高くつくとともに、加熱養生の効率性や均等性も満足できないものであった。
箱形トレイの壁面に沿って、蒸気が流通する配管を隙間なく取り付けたり、壁面材に狭い間隔で貫通路を穴明け加工したりするのは、非常に手間がかかる加工作業であり、箱形トレイの製造コストが増大する。
しかも、配管材料の管壁や貫通路を仕切る壁部分では、かえって箱形トレイの壁厚みが増えるので伝熱性は悪くなってしまう。狭い配管や貫通路を通過する蒸気は大きな流通抵抗を受ける。そのため、伝熱効率はそれほど良くならず、養生効率の向上は図り難い。
【0005】
本発明の課題は、セメント成形体の蒸気養生において、セメント成形体の表面から内部まで、均一かつ良好に養生を行い、品質性能の優れたセメント成形体を経済的に得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるセメント成形体の養生装置は、セメント成形体の養生処理に用いる養生装置であって、その上面に前記セメント成形体が載せられ、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられる載置台と、前記セメント成形体の外形に対応する内形状で下面が開口する箱状をなし、前記載置台の上面に配置されたときに、載置台との間にセメント成形体が収容される密閉空間を構成し、上方に配置される別の載置台の下面との間には隙間が空く覆い蓋とを備える。
〔セメント成形体〕
基本的には、通常の建築用途、その他の各種用途で採用されているセメント成形体に適用できる。このようなセメント成形体として、繊維強化セメント、気泡セメント、軽量セメント、木質繊維セメントなどが含まれる。
【0007】
セメント成形体は、セメントを含むスラリーを成形したあと、養生処理を行って、セメント成分の硬化を促進させる。
セメント成形体の材料となるセメントは、上記のような水和硬化による硬化体が形成できる硬化材料であればよく、一般的なポルトランドセメントその他のセメント材料が使用できる。セメント以外の硬化材料として、石膏や漆喰、樹脂などをセメントと併用することもできる。
セメント成形体の材料には、セメントの他に、骨材や強化繊維、発泡剤、着色剤、減水剤、消泡剤、油性物質などが、必要に応じて配合される。
【0008】
セメント成形体は、十分な量の水を加えた状態で成形される。成形方法として、注型成形や押出成形、遠心成形など、通常のセメント成形体の成形技術が適用できる。
セメント成形体の形状は、例えば、一般的な建材の場合は、矩形板状をなすものが多い。矩形以外にも、多角形や円形、その他の直線および曲線からなる平板状のものがある。基本的には平板状をなし、表面に凹凸を設けたり、厚みの違うところを設けたり、穴を設けたりすることができる。平板以外に、波板や円筒面状のもの、より複雑な曲面状のものもある。例えば、瓦のように複雑な三次元形状を有するものもある。
セメント成形体の寸法は、使用目的や要求性能によって異なる。例えば、建材として使用される矩形板状のセメント成形体の場合、通常、長さ60〜360cm、幅30〜90cm、厚み1.2〜5.0cmに設定される。
【0009】
セメント成形体の具体例として、特公平1−30778号公報に記載されたプラスチックコンクリートが挙げられる。このプラスチックコンクリートは、セメントに水を加えたセメントスラリーに界面活性剤やビニル単量体を混合撹拌してW/O型エマルジョンとした材料を成形し、ビニル単量体を重合させセメントを硬化させることで得られる。蒸気養生によって効率的に硬化させることができる。
〔養生処理〕
前記したセメントスラリーから成形された段階のセメント成形体は、比較的に大量の水分を含み、柔らかくて変形や傷付きを生じ易い状態である。
【0010】
セメント成形体に含まれるセメントなどの水和硬化材料は、常温で放置しておくだけでも水和硬化作用によって硬化し、セメント成形体の硬化物が得られる。
品質性能の高いセメント成形体の硬化物を能率的に得るために、養生処理が行われる。
基本的には、通常のセメント成形体の製造で採用されている養生技術が適用できる。特に、養生処理を加熱状態で行う加熱養生が採用される。
加熱養生の養生温度や養生時間、養生環境は、基本的には通常の加熱養生技術と共通している。加熱蒸気を供給して養生を行う蒸気養生が好ましい方法である。
本発明では、加熱養生を行う際に、セメント成形体を保持しておくのに、養生装置を使用する。養生装置は、載置台と覆い蓋とを備えている。
【0011】
〔載置台〕
セメント成形体が載せられ、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられる。
基本的には、通常の養生技術で、セメント成形体を載せておく板や台と共通する材料や構造が採用できる。但し、覆い蓋を被せたときに内部に実質的に密閉された空間が構成できる形状構造を有している。
載置台の材料には、セメント成形体を支持できる剛性や耐変形性を有する材料が使用できる。養生の温度や雰囲気に耐えることも要求される。熱伝導率の高い材料は、セメント成形体への熱伝達が良好に行える。具体的な材料として、鋼板などの金属材料が使用できる。
【0012】
載置台の構造として、最も単純には、セメント成形体よりも面積が大きな平板が使用できる。平板に、セメント成形体や覆い蓋の位置決めを行う仕切りやガイドを備えておくこともできる。覆い蓋で密閉されない個所に、通気用の穴や肉盗みを設けておくこともできる。補強用のリブを設けておくこともできる。セメント成形体が曲面や段差のある複雑な立体物の場合、セメント成形体の下部形状に合わせた曲面や段差を設けておくこともできる。
載置台の寸法は、セメント成形体の外形や重量などに合わせて設定できる。一つの載置台に、複数個のセメント成形体を載せる場合は、その分だけ大きなものが必要になる。載置台の厚みは、例えば、材質が鋼材の場合、50〜80mmの範囲に設定することができる。
【0013】
載置台には、積み重ね構造を構成するための部材や機構を備えておくことができる。
<積み重ね構造>
載置台を、覆い蓋やセメント成形体を載せた状態で、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられるようにしておく。
載置台の外周など、セメント成形体を載せるのに邪魔にならない個所に、上方に配置される別の載置台の上に載せる脚や、別の載置台を支持する支柱を設けておくことができる。脚や支柱は、一般的な棒状あるいは柱状のもののほか、板状をなすものでもよい。筒状や箱状をなすものも使用できる。これらの脚や支柱は、載置台の上面あるいは下面に取付固定されてあってもよいし、ねじ込みなどで着脱自在に取り付けられるものであってもよいし、単に積み重ねておくだけであってもよい。
【0014】
予め、支柱や枠材で構成された棚段に、載置台を差し込んだり、ボルトで締め付け固定したりすることで、載置台が間隔をあけて上下に配置されるようになっていてもよい。
養生処理室の内壁に、間隔をあけて載置台を支持するための段溝や支持腕が設置されていてもよい。
積み重ね構造は、養生処理におけるセメント成形体の加熱あるいは伝熱を阻害しないような構造が好ましい。載置台には、養生用の加熱蒸気などが流通しやすい通気孔や通気路を設けておくことができる。
積み重ね構造として、載置台の上に載せた覆い蓋と上方の載置台との間に、ある程度の隙間があくようにしておく。この覆い蓋と上方の載置台との隙間が、加熱蒸気などが流通する空間になり、覆い蓋を介して、その内部空間に収容されたセメント成形体の加熱が良好に行われる。また、上方の載置台を介して、その上方の密閉空間に収容されたセメント成形体の加熱も良好に行われることになる。
【0015】
覆い蓋の上面と上方の載置台の下面との間隔が、1.5〜5.0cmになるように設定できる。
<間隔保持枠>
上下に積み重ねる載置台同士の間隔を設定する手段として、間隔保持枠を用いることができる。
具体的には、間隔保持枠として、載置台の互いに対向する一対の外側辺に沿って、棒状あるいは柱状の部材を配置しておくことができる。載置台が矩形の場合、残りの一対の対向する外側辺には、間隔保持枠を設けなくても、載置台同士の安定した積み重ねが可能である。間隔保持枠を設けない側辺間は加熱空気や蒸気がスムーズに流通するので、蒸気等が覆い蓋の外表面に効率的に接触して伝熱を良好に行うことができる。
【0016】
間隔保持枠の材料は、載置台や覆い蓋と同様の材料が使用できる。形鋼材などが使用できる。中空状の形鋼材であれば、間隔保持材を貫通する中空空間が蒸気の流通路となる。
間隔保持枠は、載置台の一辺の外側辺に対して、全長にわたって設けていてもよいし、断続的に設けておくこともできる。一辺の外側辺の両端近くのみに設けておくこともできる。間隔保持枠に、軸方向と直交する方向に貫通する貫通孔を設けて、間隔保持枠と直交する方向にも蒸気が良好に通過できるようにしておくことができる。
間隔保持枠は、載置台の上面または下面の何れかに取付固定しておいてもよいし、載置台の上面に載せるだけでもよい。
【0017】
載置台の上面に配置された間隔保持枠は、中央に配置される覆い蓋の外側面との間に隙間があくようにしておくことで、覆い蓋の外側面に沿って蒸気が良好に流通できるようになる。間隔保持枠と内側面と覆い蓋の外側面との間隔を3.0〜10.0cmに設定できる。
間隔保持枠の高さによって、覆い蓋とその上方に配置される載置台の下面との間隔を調整できる。通常、間隔保持枠の高さと覆い蓋の高さとの差を、1.5〜5.0cmに設定しておくことができる。
〔覆い蓋〕
セメント成形体の外形に対応する内形状で、下面が開口する箱状をなし、載置台の上面に配置される。
【0018】
覆い蓋の材料は、前記した載置台の材料と同様に、熱伝導率が高く、耐熱性に優れた材料が好ましい。載置台に比べると機械的な強度はそれほど要求されない。覆い蓋の内部空間で発生する圧力に耐える材料が望まれる。通常は、鋼板などが使用できる。覆い蓋の外面に補強リブや補強枠を設けることで、覆い蓋を構成する面材料の厚みを薄くし、伝熱性を高めることができる。リブなどの突出構造は、伝熱性を高める機能を果たすこともできる。
覆い蓋の形状は、セメント成形体の外形に合わせて構成される。セメント成形体ヘ上方から被せる操作が容易で、被せた状態では、覆い蓋の内面とセメント成形体との間にわずかな隙間が空くことが望ましい。覆い蓋がセメント成形体の表面に当接すると、その部分が他の部分に比べて表面特性や品質が変わる場合がある。養生工程においてセメント成形体が膨張する場合は、膨張量を考慮して、覆い蓋の内形寸法を設定する。通常、覆い蓋の内形状が、セメント成形体の外形との間に、15〜100mmの隙間を介して対面するように設定できる。
【0019】
但し、セメント成形体の外形に小さな凹凸や溝などが存在しても、このような小さな凹凸や溝の内部形状まで、覆い蓋の内形状を正確に合わせておく必要はない。セメント成形体の全体の概略形状に合わせて、覆い蓋の内形状を設定すればよい。
覆い蓋の下端に構成される開口は、載置台の表面に密接して配置されるようにしておくことができる。載置台の表面が平面であれば、開口も平面状にしておく。載置台と開口が、互いに嵌合可能な構造を有していることができる。開口の周辺に、載置台と係合される凹凸を設けておくこともできる。
覆い蓋は、載置台の上面に配置されたときに、覆い蓋の内部空間を良好な密閉状態にできるようにしておくことが望ましい。必要に応じて、内外の通気を可能にすることもできる。例えば、通気蓋や通気口を設けておくことができる。通気口の解放量を調整することで、内部空間の圧力を適切に調節することもできる。内部圧力が過大になったときに通気可能になる圧力逃がし弁を設けることもできる。
【0020】
覆い蓋は、載置台や間隔保持枠と一体的に作製したり取り付けておいたりすることができる。載置台や間隔保持枠とは別個の部材にしておき、使用時に載置台の上面に配置するようにすることもできる。
載置台の下面に、所定の間隔をあけて覆い蓋を吊下げるようにして取り付けておくことができる。覆い蓋を吊下げる部材は、できるだけ、覆い蓋の上面と上方の載置台の下面との間における蒸気等の流通を阻害しないようにしておくことが望ましい。
〔押圧手段〕
載置台に載せた覆い蓋の開口は、覆い蓋の自重だけでも載置台の表面に押し付けられ、密閉空間を構成することができる。しかし、覆い蓋を下方の載置台に強制的に押し付ける押圧手段を備えておけば、覆い蓋の内部空間と外部空間との通気を確実に規制して、より確実な密閉状態に維持することができる。
【0021】
押圧手段としては、通常の機械装置で採用されている押圧機構や押圧装置、押圧構造が適用できる。バネやリンク、カム、クサビ、ピストンシリンダ機構などが利用できる。
押圧手段は、覆い蓋に設けても良いし、載置台に設けてもよい。例えば、覆い蓋の上面あるいは外側面に設けられる。覆い蓋の上方に配置される載置台の下面に設けることもできる。覆い蓋を被せる下方の載置台に押圧手段を設けることもできる。押圧手段は1個所だけに設けておいてもよいが、通常は、覆い蓋の全体を均等に下方の載置台に押し付けるために、複数個所に設けておく。押圧手段を、覆い蓋の四隅に設けておけば、覆い蓋を平面方向で均等に押圧できる。
【0022】
押圧手段として、上下方向に付勢力を生じるバネ部材が使用できる。このようなバネ部材は、覆い蓋の上部に配置されてあって、伸縮する上端が上方の載置台の下面に当接して載置台からの反力が覆い蓋を下面側の載置台に押圧するようにしておくことができる。載置台の下面に取り付けられたバネ部材の下端が、下方の覆い蓋の上面に当接して押圧力を作用させるようにしておくこともできる。
バネ部材としては、コイルバネや板バネなどが使用できる。
バネ部材が、覆い蓋の上面四隅に配置され上下方向に伸縮するコイルバネと、コイルバネの中央で覆い蓋の上面に取り付けられ、コイルバネの自由高さよりも低い位置に上端が配置された案内軸とを有することができる。案内軸は、コイルバネが曲がるのを防止する。
【0023】
載置台の下面にコイルバネを介して覆い蓋を吊り下げておくこともできる。
〔養生方法〕
上記した構成を備えた養生装置を用いて、セメント成形体の養生処理が行える。
具体的には、以下の工程を組み合わせることができる。
工程(a):載置台にセメント成形体を載せる。
載置台に載せるセメント成形体は、成形直後で硬化がほとんど進行していないセメント成形体であってもよいし、成形後ある程度の時間を経過して、ある程度まで硬化が進行したセメント成形体であってもよい。押出成形機から押出成形されたセメント成形体を一定長さに切断すると同時に載置台に載せることもできる。養生処理室の内部まで、セメント成形体を搬送したあと、養生処理室に配置した載置台に載せてもよいし、養生処理室に搬入する前の段階から、載置台にセメント成形体を載せておき、載置台とともにセメント成形体を搬送したり、養生処理室に持ち込んだりすることもできる。
【0024】
工程(b):覆い蓋をセメント成形体の上方から被せて載置台の上面に当接させ、覆い蓋と載置台との間に構成された密閉空間にセメント成形体を収容する。
覆い蓋をセメント成形体に被せるのは、養生処理室に搬入したあとでもよいし、養生処理室に入る前から、セメント成形体に覆い蓋を被せておくこともできる。覆い蓋を被せておくことで、セメント成形体に他物が衝突してセメント成形体が損傷したり、セメント成形体の表面に汚れや異物が付着したりすることを防止できる。養生前にセメント成形体の表面が乾燥し過ぎるのを防止することもできる。
セメント成形体および覆い蓋を載せた載置台は、順次上方に積み重ねておけば、養生処理室のスペースを有効利用できる。なお、予め、上下方向に間隔をあけて棚段状に配置された載置台を使用すれば、棚段を構成する各載置台の上にセメント成形体および覆い蓋を配置していくだけでもよい。積み重ねた段の最上部では、覆い蓋の上方に載置台が配置され、最上段の載置台にはセメント成形体および覆い蓋は載せない。
【0025】
<押圧手段の配置>
押圧手段を用いる場合、載置台や覆い蓋に予め押圧手段が取り付けられている場合は、載置台を積み重ね、セメント成形体に覆い蓋を被せることで、押圧手段も所定の状態に配置され、覆い蓋をその下方の載置台に押圧する作用が発現する。
また、載置台、セメント成形体および覆い蓋を積み重ねたあと、押圧手段となる押圧部材を、覆い蓋の上面と載置台の下面との間などに設置することもできる。
<密閉空間>
押圧手段で覆い蓋を載置台に押し付けることで、覆い蓋の開口が載置台に強く当接し、覆い蓋の内部空間が外部空間と、より確実に遮断される。内部空間の水分が過度に逃げ出すことがなくなる。外部の空気が覆い蓋の内部に入り込んで、セメント成形体の表面特性を損なうこともなくなる。
【0026】
なお、覆い蓋の内部空間は、本発明の目的を達成できる程度の気密状態であればよい。わずかな空気や水蒸気の流通があっても、セメント成形体の表面と内部との養生作用の差を過度に大きくしなければ構わない。また、覆い蓋の内部空間で圧力が過度に上昇した場合には、圧力を逃がせる程度に押圧しておくことができる。
覆い蓋の内部空間を気密状態にするのは、養生処理を開始する直前でよい。養生処理室に搬入する前に、セメント成形体を覆い蓋の内部空間に収容して押圧手段を作動させ気密状態にしておいてもよい。
工程(d):覆い蓋および載置台を介してセメント成形体を加熱する。
【0027】
この加熱以後の処理は、通常の養生処理と同様に行える。処理条件や要求性能によっても異なる。加熱雰囲気は、通常の空気雰囲気で良い。加熱蒸気を導入して養生処理室内を加熱することもできる。通常、加熱温度30〜90℃、加熱時間18〜48時間に設定される。
<その他の工程>
上記各工程の前あるいは後には、通常のセメント成形体の製造技術と同様の処理工程を行うことができる。
例えば、養生処理を終えたセメント成形体は、押圧手段による押圧を解除し、覆い蓋を外して載置台から取り出せば、出荷や保管の作業工程に送ることができる。セメント成形体の表面に、塗装やコーティングを施すことができる。セメント成形体に建築物への施工に必要な金具や部材を取り付けたり、金具や部材を取り付けるための穴や溝を加工したりすることもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかるセメント成形体の養生装置および養生方法では、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられる載置台の上面に覆い蓋を被せることで構成された密閉空間にセメント成形体を収容して養生を行うので、セメント成形体の表面だけが過度に乾燥したり、セメント成形体の表面側と中心側とで養生処理の進行に大きな差がついたりして、セメント成形体の品質性能が低下することがなくなる。
しかも、覆い蓋とその上方に配置される載置台との間に隙間をあけるようにしているので、養生処理において供給される加熱蒸気などが、セメント成形体を収容した密閉空間の外壁である覆い蓋および載置台の外表面と隣接する空間を効率的に流通することができる。そのため、セメント成形体を、周囲全体から効率的かつ均等に加熱して、迅速かつ均等な養生処理を実施することができ、品質性能の優れたセメント成形体が得られる。
【0029】
載置台や覆い蓋は、比較的に簡単な構造で製造も容易であるから、養生処理にかかるコストを増大させることなく、しかも、従来の養生方法から、使用設備や作業手順を大きく変えることなく、品質性能に優れたセメント成形体を、能率的に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1に示す実施形態は、建築用の外装建材となるセメント成形体の製造を対象にしている。
〔セメント成形体の製造〕
セメント成形体として、建築物の外装壁面を仕上げ施工する際に、外壁に並べて貼り付けられる矩形厚板状のセメント成形板Bを製造する。
セメント成形板Bは、セメントに繊維材料や骨材などの添加材料を配合し、さらに水を加えてスラリー状に調製された成形材料を、押出成形機を用いて押出成形し、一定の長さ毎に切断したものである。このようにして成形されたセメント成形板Bは、加熱養生することによって、セメントの水和硬化が進行し、十分な機械的強度や硬度を有するセメント成形板Bになる。
【0031】
セメント成形板Bの加熱養生は、加熱炉あるいは加熱処理室に、成形直後で含水状態のセメント成形板Bを収容して、一定時間保持することで、加熱状態を維持し、硬化を促進させる。通常は、処理室に加熱蒸気を供給する蒸気養生を行う。
〔養生装置〕
図1は、養生処理室の内部におけるセメント成形板Bの保持状態を示す。
矩形の鋼板からなる載置台20と、載置台20の対向する一対の外側辺に沿って配置された角枠状の形鋼材からなる間隔保持枠22とが、交互に積み重ねられている。紙面を貫通する方向の外側辺には間隔保持枠22は設けられておらず、空気などが自由に流通できる。
【0032】
間隔保持枠22によって構成された上下の載置台20同士の隙間にセメント成形板Bが配置されている。セメント成形板Bは、載置台20の上面に載せられている。
セメント成形板Bの上方に覆い蓋10が被せられている。覆い蓋10は、鋼板を組み立て溶接して製造された直方体箱状をなし、その開口12を下向きにしている。セメント成形板Bの外形と覆い蓋10の内形は、ほぼ相似形をなす。セメント成形板Bと覆い蓋10との間には、わずかに隙間があいている状態である。覆い蓋10の下端開口は、載置台20の上面に当接しているので、覆い蓋10の内部空間は密閉されている。
覆い蓋20の上面四隅には、上下方向に伸縮するコイルバネ14が取り付けられている。コイルバネ14の上端は、上方に配置された載置台20の下面に当接している。但し、コイルバネ14の上端は、載置台20の下面に固定されてはいない。
【0033】
図2に示すように、覆い蓋20の上面には、L形鋼からなる補強バー16が溶接固定されている。補強バー16は、覆い蓋20の上面を横断し間隔をあけて平行に複数本が並べて配置されている。補強バー16によって、覆い蓋20の剛性あるいは耐変形性を高めることができる。覆い蓋20の取り扱い時に、捩れたり偏って変形したりすることなく、所定の直方体箱形状を維持することができる。覆い蓋20の内部圧力が高くなっても、覆い蓋20の上面が膨れて変形することが抑えられる。蒸気流通による覆い蓋20からセメント成形板Bへの伝熱性を向上させる伝熱フィンとしても機能する。
図3に詳しく示すように、コイルバネ14の中央で、覆い蓋10の上面には案内軸15が設けられている。案内軸15は、コイルバネ14が上下方向にスムーズに伸縮して、傾いたり曲がったりすることを防止する。
【0034】
図3(a)に示すように、コイルバネ14が自由に伸びた状態から、図3(b)に示すように、上端を載置台20で押し付けられた状態へと変化することで、コイルバネ14の付勢力が、覆い蓋10を下方の載置台20に押し付け、覆い蓋10の開口12が載置台20の上面に密着する。覆い蓋10の内部空間の密封性が向上する。覆い蓋10の内部気体の圧力が高くなったりしても、開口12と載置台20との隙間から内部の気体が逃げ出すことが確実に抑えられる。
なお、図3(b)に示すように、コイルバネ14の上端が載置台20で押し縮められた状態でも、案内軸15の上端が載置台20に当接しないように、案内軸15の高さが設定されている。
【0035】
〔養生工程〕
<準備作業>
前記した押出成形機から押し出され切断されたセメント成形板Bは、載置台20の上に載せられる。押出機から押出成形すると同時に、載置台20の上に送り出してもよい。
載置台20の両側辺に間隔保持枠22を載せる。予め、間隔保持枠22が配置された載置台20に、セメント成形板Bを載せることもできる。
載置台20上のセメント成形板Bに、覆い蓋10を被せる。覆い蓋10の上面にはコイルバネ14が取り付けられている。
【0036】
間隔保持枠22の上に、新たな載置台20を載せる。図3(b)に示すように、載置台20の下面がコイルバネ14を押し縮める。コイルバネ14の付勢力が、覆い蓋10を下方の載置台20に押し付ける。覆い蓋10の開口12が、載置台20の表面に圧接される。これによって、覆い蓋10の内部空間は、外部空間に対して確実に密閉された状態になる。
図1に示すように、載置台20、間隔保持枠22、セメント成形板Bおよび覆い蓋10を、複数段に積み重ねる。最上段には、載置台20が配置される。
<養生処理>
図1に示す積み重ね構造の全体を、養生処理室に送り込む。養生処理室では、内部雰囲気を直接にヒーターなどで加熱したり、外部から加熱蒸気を供給したりすることで、内部を加熱する。養生処理室内の高温雰囲気は、載置台20、間隔保持枠22および覆い蓋10を介して、覆い蓋10の内部空間を加熱する。角枠状の間隔保持枠22は、内部を加熱蒸気などが通過することで、効率的に加熱され、間隔保持枠22に隣接する覆い蓋10からセメント成形板Bへも効率的に熱が伝達される。覆い蓋10と両側の間隔保持枠22との間、覆い蓋10の上面と上方の載置台20との間の広い空間を加熱蒸気が自由に通過することができるので、セメント成形板Bの全周面が、覆い蓋10および載置台20の壁を介して加熱蒸気により効率的に加熱されることになる。
【0037】
覆い蓋10の内部空間で、セメント成形板Bが加熱されると、セメント成形板B内の水分が蒸発しようとする。しかし、覆い蓋10の内部空間は密閉されているので、覆い蓋10とセメント成形板Bとの間のわずかな空間に水蒸気が溜まり、内部空間の蒸気圧が高くなると、それ以上は、セメント成形板Bからの水分の蒸発は起こり難くなる。セメント成形板Bの表面は、高湿度状態の水蒸気で覆われることになるので、セメント成形板Bの表面が過度に乾燥したり、表面における水和硬化が阻害されたり、表面と内部との硬化状態が大きく違ってしまったりすることがない。
覆い蓋10の内部圧力が高まると、覆い蓋10が持ち上げられたり、覆い蓋10の開口12と載置台20との隙間から内部の水蒸気が逃げようとしたりする。しかし、コイルバネ14の付勢力で、覆い蓋10は強力に載置台20に押しつけられているので、覆い蓋10の内部から過度に蒸気が逃げ出すことはない。なお、覆い蓋10の内部空間における水蒸気圧を調整するために、一部の水蒸気を逃がすこともできる。
【0038】
このような状態で、所定時間にわたって保持されたセメント成形板Bは、表面から内部までが良好に硬化し、機械的強度や形状精度が優れ、品質の安定したセメント成形板Bとなる。
養生工程が終了したあとは、載置台20、覆い蓋10、間隔保持枠22を順次取り去り、硬化後のセメント成形板Bを取り出して、出荷や保管作業に送ったり、次の処理工程に送ったりする。
〔別の実施形態〕
図4に示す実施形態は、基本的な構成は前記実施形態と共通しているが、一部の構造が異なる。前記実施形態と異なる構造部分を主にして説明する。
【0039】
間隔保持枠22が、載置台20の下面に、溶接などの固定手段で取り付けられている。
間隔保持枠22よりも内側で、載置台20の下面には、コイルバネ14を介して覆い蓋10が吊り下げられている。コイルバネ14が自然に伸びている状態では、覆い蓋10の下面が間隔保持枠22の下面よりも下に配置されている。
先に配置された載置台20の上面に、セメント成形板Bを載せる。載置台20の上面には全く構造物がないので、セメント成形板Bを載置台20に載せる作業が行い易い。
次に、新たな載置台20を配置する。載置台20の下面に吊下げられた覆い蓋10が、セメント成形板Bに被せられる。覆い蓋10の下面が下方の載置台20の上面に当接したあとは、コイルバネ14を圧縮させるようにして、載置台20と一体になった間隔保持枠22を、下方の載置台20の上面に載せる。
【0040】
覆い蓋10は、圧縮されたコイルバネ14の付勢力によって、下方の載置台20に強く押し付けられ、内部空間を良好な密閉状態にする。
この実施形態では、載置台20、間隔保持枠22、覆い蓋10およびコイルバネ14という、一つの装置単位を構成する全ての部材が一体化されているので、個々の部材を準備したり取り付けたり取り外したりする手間がかからない。載置台20を含む部材をまとめて、先に配置された載置台20の上に載せるという作業だけで、セメント成形板Bの密閉空間への収容作業や覆い蓋10の押圧作業などが完了するので、作業能率が向上する。
【実施例】
【0041】
具体的なセメント成形体の養生作業を行い、その結果を評価した。
〔セメント成形体の製造〕
常法にしたがって、セメント成形体を製造した。セメント成形体の材料には、ポルトランドセメント、水、油性成分、補強繊維、骨材などが含まれる。セメント成形体の材料を、押出成形して、940mm(幅)×37,000mm(長さ)×30mm(厚さ)の矩形板状をなすセメント成形体を得た。このセメント成形体を養生硬化させて、セメント硬化板製品を製造する。
図1に示す基本構造の養生装置を用いた。養生条件は、相対湿度98%の環境で、30℃から90℃まで17時間をかけて昇温させ、その後、90℃で17時間維持することで、湿熱養生を行った。
【0042】
養生処理のあと、115℃で7時間かけて乾燥させ、セメント硬化板製品を得た。
比較例として、覆い蓋を被せず露出した状態で、同様の養生処理および乾燥処理を経て、セメント硬化板製品を得た。
比較例で得られたセメント硬化板は、表面硬化状態が良くなく、表面エフロの発生が目立った。これに対し、実施例で得られたセメント硬化板は、表面硬化状態は良好であり、表面エフロの発生もなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば、建築物の外装建材となるセメント成形体の製造に適用され、品質性能の優れたセメント成形体を能率的かつ経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態を表し、セメント成形体の養生工程を示す断面図
【図2】覆い蓋を取り外した状態の一部断面側面図
【図3】押圧手段の動作を示す要部拡大図
【図4】別の実施形態を表す断面図
【符号の説明】
【0045】
10 覆い蓋
12 開口
14 コイルバネ(押圧手段)
15 案内軸
16 補強バー
20 載置台
22 間隔保持枠
B セメント成形板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント成形体の養生処理に用いる養生装置であって、
その上面に前記セメント成形体が載せられ、上下方向に間隔をあけて順次積み重ねられる載置台と、
前記セメント成形体の外形に対応する内形状で下面が開口する箱状をなし、前記載置台の上面に配置されたときに、載置台との間にセメント成形体が収容される密閉空間を構成し、上方に配置される別の載置台の下面との間には隙間が空く覆い蓋と
を備えるセメント成形体の養生装置。
【請求項2】
前記覆い蓋を、その下方に配置された前記載置台に押し付ける押圧手段をさらに備える
請求項1に記載のセメント成形体の養生装置。
【請求項3】
前記載置台の互いに対向する一対の外側辺に沿って、載置台の上面に配置される前記覆い蓋の外側面との間に隙間があくよう配置され、上下に積み重ねられる載置台同士の間隔を決める間隔保持枠をさらに備える
請求項1または2に記載のセメント成形体の養生装置。
【請求項4】
前記載置台の上面に配置された覆い蓋と、覆い蓋の上方に配置された別の載置台の下面との隙間、および、覆い蓋の外側面と前記間隔保持枠の内側面との隙間が、1.5〜10cmである
請求項3に記載のセメント成形体の養生装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の養生装置を用いるセメント成形体の養生方法であって、
前記載置台の上面に前記セメント成形体を載せる工程(a)と、
前記覆い蓋を前記セメント成形体の上方から被せて前記載置台の上面に当接させ、覆い蓋と載置台との間に構成された密閉空間にセメント成形体を収容する工程(b)と、
前記密閉空間を囲む前記覆い蓋および前記載置台を介して前記セメント成形体を蒸気養生する工程(d)と
を含むセメント成形体の養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−62102(P2006−62102A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244209(P2004−244209)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】