説明

セメント混和剤及びセメント組成物

【課題】本発明のセメント混和剤は、スランプ保持性を高めながら流動性が保持されるようにするとともに、セメント組成物等を取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることができ、セメント組成物等の状態を良好にするだけでなく、硬化したセメント組成物の圧縮強度、特に早期強度をより高めることができる。
【解決手段】本発明は、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを含んでなるセメント混和剤であって、該ポリカルボン酸系共重合体(A)は、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)由来の構成単位(i)及び不飽和モノカルボン酸系単量体(II)由来の構成単位(ii)を有し、該ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、ポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物であるセメント混和剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤及びセメント組成物に関する。より詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に好適に用いることができるセメント混和剤、及び、このようなセメント混和剤を用いてなるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対して減水剤等として広く用いられており、セメント組成物から土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。このようなセメント混和剤は、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を有することになる。中でもポリカルボン酸系共重合体を含むものは、従来のナフタレン系等の減水剤に比べて高い減水性能を発揮するため、高性能AE減水剤として多くの実績がある。
【0003】
このようなセメント混和剤においては、セメント組成物に対する減水性能に加えて、セメント組成物を取り扱う現場において作業しやすくなるように、その粘性を良好にすることができるものが求められている。すなわち減水剤として用いられるセメント混和剤は、セメント組成物の粘性を低下させることによる減水性能を発揮することになるが、このような性能を発揮するとともに、それを取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることができるものが土木・建築構造物等の製造現場において求められている。同時に、作業の効率化及び省力化を図るうえで、セメント硬化物の圧縮強度、特に早期強度(例えば1日後の圧縮強度)を高めることもまた、強く要望されている。セメント混和剤がこれらの性能を発揮すると、土木・建築構造物等の構築における作業効率等が改善されることとなる。
【0004】
従来のセメント混和剤としては、例えば、オキシプロピレン基及び/又はオキシブチレン基とオキシエチレン基とのランダム重合鎖を導入した、水溶性共縮合体または水溶性重合体を必須成分として含有する無機粉体用分散剤が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリアルキレンポリアミンにアルキレンオキサイドを付加したポリオキシアルキレン系化合物が優れたセメント分散効果やセメント分散補助効果等を奏し、これにポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤を配合したセメント組成物が優れた減水効果を奏することが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
またオキシエチレン基と炭素数3〜4のオキシアルキレン基とを特定割合ずつ有するポリエーテル鎖から構成されるポリエーテル系化合物、及び、ポリカルボン酸系化合物を含むセメント用添加剤が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。更に、窒素原子を有する化合物にオキシラン類を付加して得られるオキシラン誘導体とポリカルボン酸系化合物とを含むセメント用添加剤に関し、比較例としてポリエチレンイミンとオキシランとを用いて得たオキシラン誘導体(e)(及び(g))と、ポリオキシエチレンメチルエーテルメタクリレートとメタクリル酸とを用いて得たポリカルボン酸系化合物(イ)とを混合して得られるセメント添加剤(6)(及び(8))が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0006】
しかしながら、これらにおいては、製造現場においてセメント組成物等の流動性の保持性を更に充分に向上させたり、セメント組成物等の状態がより一層作業しやすい状態となるようにするとともに、セメント硬化物の圧縮強度、特に早期強度を更に充分に向上させることにより、土木・建築構造物等の構築現場における作業効率等を更に改善するための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平9−248438号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2000−109357号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2005−231948号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2005−231949号公報(第2頁)
【特許文献5】特開2006−103985号公報(第2、13〜16頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、スランプ保持性を高めながら流動性が保持されるようにするとともに、セメント組成物等を取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることができ、セメント組成物等の状態を良好にするだけでなく、硬化したセメント組成物の圧縮強度、特に早期強度をより高めることができるセメント混和剤、及び、このようなセメント混和剤を用いたセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、土木・建築構造物等の構築現場において求められているセメント混和剤に関し、流動性が保持されて作業性に優れたセメント組成物等を形成することができるものについて種々検討したところ、特定の構成単位を有するポリカルボン酸系共重合体がセメント組成物等に対して優れた減水性能を発揮することができることにまず着目した。そして、このようなポリカルボン酸系共重合体とともに、特定のポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を用いると、セメント組成物等の粘性を改善するとともに、硬化物の圧縮強度、特に硬化初期(例えば1〜7日後)の圧縮強度に優れたものとすることができることを見いだし、また、ポリカルボン酸系共重合体とともにポリアルキレンイミンを用いても同様の作用効果を発揮できることを見いだした。ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、オキシエチレン基を特定割合含むオキシアルキレン基の総平均付加モル数が100モル以下であるものを用いることにより、これらの作用効果を発現させることが可能となる。そして、このようなセメント混和剤を含むセメント組成物を用いると、土木・建築構造物等の構築現場における作業効率が格段に向上されることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを含んでなるセメント混和剤であって、上記ポリカルボン酸系共重合体(A)は、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)由来の構成単位(i)及び不飽和モノカルボン酸系単量体(II)由来の構成単位(ii)を有し、上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)は、下記一般式(1);
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。Tは、同一若しくは異なって、炭素数1〜5のアルキレン基又は炭素数6〜9のアリール基を表す。mは、0又は1である。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜500である。)で表され、上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、ポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物であり、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物は、オキシアルキレン基の平均付加モル数がポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基1モルに対して100モル以下であるものであって、上記オキシアルキレン基100モル%中、オキシエチレン基が80モル%以上であるセメント混和剤である。
【0012】
本発明はまた、上記セメント混和剤、セメント及び水を含むセメント組成物でもある。
以下に、本発明を詳述する。
【0013】
本発明のセメント混和剤は、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを含むものであり、該ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、ポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物である。本発明において、ポリカルボン酸系共重合体(A)及びポリアルキレンイミン系化合物(B)は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
なお、2種以上のポリカルボン酸系共重合体(A)とは、例えば、平均分子量、アルキレンオキシド平均付加モル数等の特性が異なるポリカルボン酸系共重合体(A)が2種以上である形態を意味し、2種以上のポリアルキレンイミン系化合物(B)とは、例えば、ポリアルキレンイミンとポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物とを用いる形態や、また、例えば、平均分子量等が異なるポリアルキレンイミンが2種以上である形態、例えば、アルキレンオキシド平均付加モル数やアルキレンオキシド中のエチレンオキシドの含有割合等が異なるポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が2種以上である形態を意味する。
【0014】
上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)において、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、オキシアルキレン基の平均付加モル数がポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基1モルに対して100モル以下のものであることが適当である。すなわち、ポリアルキレンイミンに、該ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基1モルに対してアルキレンオキサイドを平均で100モル以下付加重合してなるものであることが適当である。これにより、硬化物の圧縮強度、特に早期の圧縮強度を充分に向上させることが可能となる。オキシアルキレン基の総平均付加モル数の上限値としては、好ましくは80モルであり、より好ましくは50モルである。また、下限値としては、1モルであることが好適であり、より好ましくは2モルである。
【0015】
上記平均付加モル数とは、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が有するオキシアルキレン基により形成される基1モル中において付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値、又は、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を形成することになるポリアルキレンイミンが有する活性水素原子をもつ窒素原子1モルに対して付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。なお、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を2種以上使用する場合は、そのうちの少なくとも1種がオキシアルキレン基の付加モル数が100モル以下のものであればよく、オキシアルキレン基の付加モル数が100モルを超えるものを1種又は2種以上併用してもよいが、この場合のオキシアルキレン基の平均付加モル数としては、例えば、オキシアルキレン基の付加モル数が200モルのポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物とオキシアルキレン基の付加モル数が50モルのポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物とを50/50質量%で用いた場合のオキシアルキレン基の平均付加モル数は125モルとなり、同様に20/80質量%で用いた場合のオキシアルキレン基の平均付加モル数は80モルとなる。
【0016】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物においてはまた、オキシアルキレン基100モル%中、オキシエチレン基が80モル%以上であることが適当である。すなわち、ポリアルキレンイミンに付加重合するアルキレンオキサイド100モル%中、エチレンオキサイドが80モル%以上であることが適当であり、これにより、硬化物の圧縮強度を充分に向上させることが可能となり、上述したオキシアルキレン基の総平均付加モル数を100モル以下とすることとの相乗効果によって、セメント組成物等の粘性を改善するとともに、硬化物の圧縮強度を充分に向上させるという本発明の作用効果を充分に発揮させることが可能となる。オキシアルキレン基100モル%中に含まれるオキシエチレン基としては、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは97モル%、特に好ましくは100モル%、すなわち、オキシアルキレン基が全てオキシエチレン基で構成されることである。なお、オキシアルキレン基の繰り返し単位は同一であっても又は異なっていてもよく、オキシアルキレン基が2種以上の混合物の形態である場合には、ブロック状付加、ランダム状付加、交互状付加等のいずれの付加形態でもよい。
【0017】
ここで、通常のセメント混和剤を用いる場合には、空気量をコントロールすることによって充分な強度を発揮させるために消泡剤を併用することがあるが、本発明では、このようにオキシエチレン基を80モル%以上有するポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物やポリアルキレンイミンを用いることにより、消泡剤を併用しなくても低い空気量に抑えることができ、充分な強度を発現させることができる。なお、更に充分に空気量を低く抑えるべく、消泡剤を併用することも好ましい形態である。
【0018】
上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、本発明のセメント混和剤の固形分100質量%に対して、1質量%以上であることが好ましく、また、49質量%以下であることが好ましい。1質量%未満であると、セメント組成物等の粘性をより充分に改善することができないおそれがあり、49質量%を超えると、セメント組成物等に充分な強度(特に硬化初期の強度)を付与することができず、また、分散性を充分に向上させることができないおそれがあり、更に、経済的に不利となるおそれもある。特に好適な形態としては、上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)が、セメント混和剤の固形分100質量%に対して、1質量%以上、49質量%以下含まれる形態であり、このような形態もまた、本発明の好ましい形態の1つである。下限値としては、より好ましくは5質量%、更に好ましくは10質量%であり、上限値としては、より好ましくは40質量%、更に好ましくは30質量%である。ここで、本発明のセメント混和剤においては、セメント混和剤中のポリカルボン酸系共重合体(A)及びポリアルキレンイミン系化合物(B)の固形分合計を100質量%とし、上記使用量に調整することが好ましい。
【0019】
本発明において、セメント混和剤の固形分測定方法としては、以下の方法が好適である。
(固形分測定方法)
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固定分の質量を除することで固形分を測定する。
【0020】
また上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)のセメント混和剤の固形分に対する固形分割合の測定方法、上記ポリカルボン酸系共重合体(A)のセメント混和剤の固形分に対する固形分割合の測定方法としては、以下の方法が好適である。
1.固形分を20質量%に調整したセメント混和剤水溶液に20質量%のパラトルエンスルホン酸水溶液を加えてpH2.0に調整する。
2.1で調整した混合物を85℃に調温して1時間静置する。
3.混合物が2層に分離していることを確認して、上澄みと沈殿とに分離する。
4.上澄みを濃縮し、液体クロマトグラフィーによりパラトルエンスルホン酸量を定量し、パラトルエンスルホン酸量を差し引き、ポリアルキレンイミン系化合物(B)の質量を得る。得られたポリアルキレンイミン系化合物(B)の質量を1で用いたセメント混和剤の重量で除すことにより、ポリアルキレンイミン系化合物(B)の固形分割合を測定する。
5.3で得られた沈殿に等量の水を加え、85℃に調温して1時間静置する。
6.混合物が2層に分離していることを確認して、上澄みと沈殿とに分離する。
7.上澄みを濃縮し、液体クロマトグラフィーによりパラトルエンスルホン酸量を定量し、パラトルエンスルホン酸量を差し引き、ポリカルボン酸系共重合体(A)の質量を得る。得られたポリカルボン酸系共重合体(A)の質量を1で用いたセメント混和剤の質量で除すことにより、ポリカルボン酸系共重合体(A)の固形分割合を測定する。
【0021】
本発明のセメント混和剤を製造する方法としては、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを含むこととなる限り特に限定されず、例えば、これらをそれぞれ調製し、混合することにより製造することが好適である。重合方法等については、後述するとおりである。
【0022】
以下では、本発明におけるポリアルキレンイミン、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物及びポリカルボン酸系共重合体(A)について更に説明する。
上記ポリアルキレンイミンとしては、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる、これらのアルキレンイミンの単独重合体や共重合体が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等であってもよい。このようなポリアルキレンイミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
【0023】
上記ポリアルキレンイミンとしてはまた、重量平均分子量が100以上であることが好ましく、また、100000以下であることが好ましい。これにより、セメント組成物等の粘性をより充分に改善することが可能となる。下限値としては、より好ましくは300、更に好ましくは600であり、上限値としては、より好ましくは70000、更に好ましくは50000、最も好ましくは10000である。
なお、ポリアルキレンイミン系化合物(B)としてポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を用いる場合、該付加物に使用されるポリアルキレンイミンの重量平均分子量としては、該付加物としての重量平均分子量が後述する好適な範囲になるように適宜設定することが好ましい。
【0024】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、オキシアルキレン基を有するポリアルキレンイミンであればよく、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基やイミノ基の窒素原子にアルキレンオキシドを付加させて得られる化合物が好適である。
ここで、ポリアルキレンイミンとしては上述したとおりであり、このようなポリアルキレンイミンにより、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物のポリアルキレンイミン鎖が形成されることになるが、該ポリアルキレンイミン鎖は、直鎖状の構造、分枝状の構造、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
なお、アルキレンオキシドが付加するアミノ基やイミノ基の窒素原子は、活性水素原子をもつものである。
【0025】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物におけるオキシアルキレン基としては、上述したようにオキシエチレン基を80モル%以上有するものであればよい。なお、同一の上記付加物にオキシアルキレン基が2種以上存在する場合には、オキシアルキレン基が、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態をとってもよいが、ブロック付加してなる形態がより好ましい。
【0026】
上記ポリアルキレンイミンに付加させるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシドを必須とするものであるが、更に、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドの他、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等の1種又は2種以上を併用することもまた、好適である。エチレンオキシドと併用することのできるアルキレンオキシドとしては、これらの中でも、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが好ましい。
【0027】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物はまた、ポリアルキレンイミン鎖を有するものであるが、該ポリアルキレンイミン鎖は、エチレンイミンを主体として形成されるものであることが好ましい。この場合、「主体」とは、ポリアルキレンイミン鎖が2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンのモル数において、大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、大半を占めるものがエチレンイミンであることにより、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の親水性が向上してセメント組成物の粘性を充分に改善するという作用効果が充分に発揮されることから、このような作用効果が充分に発揮される程度にポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンとしてエチレンイミンを用いることをもって、上記にいう「大半を占める」こととなるので、上記「主体」となり得ることとなる。
【0028】
上記ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、上記「大半を占める」ことを全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すと、50〜100モル%であることが好ましい。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0029】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物において、ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、2300以下であることが好ましい。2未満であると、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の機能が充分に発揮されないおそれがあり、2300を超えると、本発明のセメント混和物がより充分な分散性能を発揮できないおそれがあり、また、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物単量体の場合は、その重合性が充分とはならないおそれがある。平均重合数の下限値としては、より好ましくは7以上であり、上限値としては、より好ましくは1600以下、更に好ましくは1200以下、特に好ましくは250以下である。なお、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3である。
【0030】
上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量としては、100以上であることが好適であり、また、100000以下であることが好適である。これにより、セメント組成物等の粘性をより充分に改善することが可能となる。下限値としては、より好ましくは300、更に好ましくは600であり、上限値としては、より好ましくは70000、更に好ましくは50000である。
【0031】
本発明のセメント混和剤において、ポリカルボン酸系共重合体(A)は、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)由来の構成単位(i)及び不飽和モノカルボン酸系単量体(II)由来の構成単位(ii)を有するものであるが、後述する他の単量体(III)由来の構成単位(iii)を更に有していてもよい。なお、これらの構成単位はそれぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
なお、構成単位(i)は、重合反応によって一般式(1)で示される不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当し、構成単位(ii)は、重合反応によって不飽和モノカルボン酸系単量体(II)の重合性二重結合が開いた構造に相当し、構成単位(iii)は、重合反応によってその他の単量体(III)の重合性二重結合が開いた構造に相当する。
【0032】
上記ポリカルボン酸系共重合体(A)において、構成単位(i)及び構成単位(ii)は、それぞれ全構成単位中の1質量%以上を占めることが好適である。上記構成単位(i)の割合が1質量%未満であると、ポリカルボン酸系共重合体(A)中に存在する不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)由来のオキシアルキレン基の割合が充分とはならず、上記構成単位(ii)の割合が1質量%未満であると、ポリカルボン酸系共重合体(A)中に存在する不飽和カルボン酸系単量体(II)由来のカルボキシル基の割合が充分とはならず、いずれの場合も充分な分散性を発揮し得ないおそれがある。
【0033】
上記構成単位(i)の全構成単位100質量%中に占める割合としては、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また、上記構成単位(ii)の全構成単位100質量%中に占める割合としては、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。なお、上記ポリカルボン酸系共重合体(A)における構成単位(i)及び構成単位(ii)の合計比率(質量%)としては、共重合体(A)全体100質量%に対し、50質量%以上であることが好適である。より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0034】
上記ポリカルボン酸系共重合体(A)を構成する各構成単位の比率としては、例えば、構成単位(i)/構成単位(ii)/構成単位(iii)=1〜98/1〜98/0〜70(質量%)の範囲が好適であるが、構成単位(ii)の含有量よりも構成単位(i)の含有量の方が多い方が好ましく、5〜97/2〜94/0〜50(質量%)であることがより好適である。更に好ましくは、10〜90/5〜50/0〜10(質量%)である。なお、構成単位(i)、構成単位(ii)及び構成単位(iii)の合計は100質量%である。
【0035】
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)としては、下記一般式(1);
【0036】
【化2】

【0037】
(式(1)中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。Tは、同一若しくは異なって、炭素数1〜5のアルキレン基又は炭素数6〜9のアリール基を表す。mは、0又は1である。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜500である。)で表されるものであることが適当である。
なお、上記一般式(1)における−(RO)−で表されるオキシアルキレン基が同一の不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)中に2種以上存在する場合には、−(RO)−で表されるオキシアルキレン基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
【0038】
上記一般式(1)において、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表し、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ジメチル−2−プロペニル基等が好ましい。中でも、炭素数3〜4のアリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテニル基が特に好ましい。
【0039】
また上記一般式(1)におけるTは、炭素数1〜5のアルキレン基又は炭素数6〜9のアリール基を表し、例えば、アルキル基、フェニル基、o―トリル基、m―トリル基、p―トリル基等が挙げられる。なお、mは0又は1であるが、mが0である場合は、Tに結合する酸素原子(O)と、ROにおける炭素原子(C)とが直接結合した形態を表す。本発明においては、このようにmが0である場合が特に好適である。
【0040】
上記一般式(1)において、ROで表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜18のアルキレンオキシド付加物であるが、このようなアルキレンオキシド付加物の構造は、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド等のアルキレンオキシドの1種又は2種以上により形成される構造であることが好適である。このようなアルキレンオキシド付加物の中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド付加物であることがより好ましい。更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であるものであり、これにより、ポリカルボン酸系共重合体(A)の親水性がより充分に向上され、分散性能を更に高めることができる。
【0041】
上記ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数であるnは、1〜500の数である。nが500を超えると、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)の重合性を充分なものとすることができないおそれがある。nの好ましい範囲としては、2以上であり、また、−(RO)n−の中で、オキシエチレン基の平均付加モル数としては、2以上であることが好ましい。nが2未満であったり、オキシエチレン基の平均付加モル数が2未満であったりすると、セメント粒子等を分散させるために充分な親水性、立体障害が得られないおそれがあるため、優れた流動性を得ることができないおそれがある。優れた流動性を得るには、nの範囲としては、3以上が好ましく、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上であり、また、280以下が好ましく、より好ましくは250以下、特に好ましくは150以下である。また、オキシエチレン基の平均付加モル数としては、3以上が好ましく、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、また、280以下が好ましく、より好ましくは250以下、更に好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。また、粘性の低いコンクリートを得るためには、nの範囲としては、3以上が好ましく、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上であり、また、100以下が好ましく、より好ましくは50以下、更に好ましくは30以下、特に好ましくは25以下である。
なお、上記平均付加モル数とは、単量体1モル中において付加している当該有機基のモル数の平均値を意味する。
【0042】
上記一般式(1)で表される不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)としては、オキシアルキレン基の平均付加モル数nの異なる2種類以上の単量体を組み合わせて用いることができる。好適な組み合わせとしては、例えば、nの差が10以上(好ましくはnの差が20以上)の2種類の単量体(I)の組み合わせ、又は、各々の平均付加モル数nの差が10以上(好ましくはnの差が20以上)の3種類以上の単量体(I)の組み合わせ等が挙げられる。また、組み合わせるnの範囲としては、平均付加モル数nが40〜500の範囲の単量体(I)と、1〜40の範囲の単量体(I)との組み合わせ(但しnの差は10以上、好ましくは20以上)、平均付加モル数nが20〜500の範囲の単量体(I)と、1〜20の範囲の単量体(n)との組み合わせ(但しnの差は10以上、好ましくは20以上)等が好適である。
【0043】
上記一般式(1)で表される不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)の特に好ましい形態としては、上記一般式(1)中のmが0である場合であり、例えば、以下の化合物等が好適である。これらは1種又は2種以上用いることができる。
ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2−メチル−2−ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1−ジメチル−2−プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル。
【0044】
上記不飽和モノカルボン酸系単量体(II)としては、分子内に不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを1つずつ有する単量体であればよく、好ましい形態としては、下記一般式(2);
【0045】
【化3】

【0046】
(式(2)中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Mは、水素原子、一価金属原子、多価金属原子、アンモニウム基又は有機アンモニウム基を表す。)で表される化合物である。すなわち、上記不飽和モノカルボン酸系単量体(II)が上記一般式(2)で表されるものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0047】
上記一般式(2)において、Mは、水素原子、一価金属原子、多価金属原子、アンモニウム基又は有機アンモニウム基(プロトン化された有機アミン)を表すが、一価金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が好ましく、多価金属原子としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価の金属原子;アルミニウム、鉄等の三価の金属原子等が好適である。また、有機アミン基としては、例えば、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基が好適である。更に、アンモニウム基であってもよい。
【0048】
上記一般式(2)で表される不飽和モノカルボン酸系単量体(II)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等;これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好適である。これらの中でも、セメント分散性能の向上の面から、アクリル酸、メタクリル酸;その一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を用いることが好ましく、不飽和モノカルボン酸系単量体(II)として好適である。
【0049】
本発明におけるポリカルボン酸系共重合体(A)を形成する単量体成分は、更に必要に応じて、上記単量体(I)及び(II)以外のその他の単量体(III)を含んでもよい。その他の単量体(III)としては、以下のものが好適である。
【0050】
スチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、メチルスチレン等のスチレン類;1,3−ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステル類;ヘキセン、ヘプテン、デセン等のα−オレフィン類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;酢酸アリル等のアリルエステル類。
マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等、又は、それらの無水物等の不飽和ジカルボン酸系単量体;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜22個のアルコールとのジエステル;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜22のアミンとのジアミド;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数2〜4のグリコールとのジエステル。
【0051】
ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩。
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;アリルアルコール等のアリル類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の不飽和アミノ化合物類;メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテル又はアリルエーテル類。
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチルエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物類。
【0052】
次に、本発明におけるポリカルボン酸系共重合体(A)の製造方法において、単量体成分の共重合方法を以下に説明する。
上記共重合方法としては、例えば、単量体成分と重合開始剤とを用いて、溶液重合や塊状重合等の通常の重合方法により行うことができる。重合開始剤としては、通常使用されるものを用いることができ、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシドが好適である。また、促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸等の還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物を併用することもできる。これらの重合開始剤や促進剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記共重合方法においては、連鎖移動剤も必要に応じて使用することができる。このような連鎖移動剤としては、通常使用されるものを1種又は2種以上使用できるが、疎水性連鎖移動剤を用いることもできる。
上記共重合方法においてはまた、単量体成分が、オキシアルキレン基を有する単量体、すなわち、例えば不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)の1種又は2種以上を含む場合、疎水性連鎖移動剤を用いることもできる。
上記疎水性連鎖移動剤とは、炭素数3以上の炭化水素基をもつチオール化合物又は25℃の水に対する溶解度が10%以下の化合物が好適であり、上述した連鎖移動剤や、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、オクタン酸2−メルカプトエチルエステル、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、デカントリチオール、ドデシルメルカプタン等のチオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;α−メチルスチレンダイマー、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を含むことが好ましい。
【0054】
上記疎水性連鎖移動剤は、必要に応じて親水性連鎖移動剤1種又は2種と併用してもよい。このような親水性連鎖移動剤としては、通常用いられるものを使用することができ、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;2−アミノプロパン−1−オール等の1級アルコール;イソプロパノール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物及びその塩が好適である。
上記連鎖移動剤の反応容器への添加方法としては、滴下、分割投入等の連続投入方法を適用することができる。また、連鎖移動剤を単独で反応容器へ導入してもよく、単量体成分を構成するオキシアルキレン基を有する単量体、溶媒等とあらかじめ混同しておいてもよい。
【0055】
上記共重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができる。また、共重合の際、必要に応じて使用される溶媒としては、通常用いられるものを使用でき、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、単量体成分及び得られるポリカルボン酸系共重合体の溶解性の点から、水及び炭素数1〜4の低級アルコールからなる群より選択される1種又は2種以上の溶媒を用いることが好ましい。
【0056】
上記共重合方法において、単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法としては、反応容器に単量体成分の全てを仕込み、重合開始剤を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に単量体成分の一部を仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に添加することによって共重合を行う方法;反応容器に重合溶媒を仕込み、単量体と重合開始剤の全量を添加する方法等が好適である。このような方法の中でも、得られる重合体の分子量分布を狭く(シャープに)することができ、セメント組成物等の流動性を高める作用であるセメント分散性を向上することができることから、重合開始剤と単量体を反応容器に逐次滴下する方法で共重合を行うことが好ましい。また、単量体成分の共重合性が向上して得られる重合体の保存安定性がより向上することから、共重合中の反応容器内の水の濃度を50%以下に維持して共重合反応を行うことが好ましい。より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは30%以下である。
【0057】
上記共重合方法において、共重合温度等の共重合条件としては、用いられる共重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、共重合温度としては、通常0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは50℃以上であり、特に好ましくは60℃以上である。また、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは85℃以下である。
【0058】
上記共重合方法により得られる重合体は、そのままでも本発明のセメント混和剤の主成分として用いられるが、必要に応じて、更にアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンを用いることが好ましい。
上記共重合方法では、上記不飽和モノカルボン酸系単量体(II)の中和率を0〜60mol%として単量体成分の共重合を行うことが好ましい。不飽和モノカルボン酸系単量体(II)の中和率は、該単量体(II)の全モル数を100mol%としたときに、塩を形成している該単量体(II)のmol%で表されることになる。単量体(II)の中和率が60mol%を超えると、共重合工程における重合率が上がらず、得られる重合体の分子量が充分とはならなかったり、製造効率を充分に高めることができないおそれがある。より好ましくは50mol%以下、更に好ましくは40mol%以下、より更に好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下、最も好ましくは10mol%以下である。
【0059】
上記不飽和モノカルボン酸系単量体(II)の中和率を0〜60mol%として共重合を行う方法としては、全て酸型である該単量体(II)、すなわち全ての単量体(II)において上記一般式(2)におけるMが水素原子であるものを中和せずに共重合に付することにより行う方法や、単量体(II)をアルカリ性物質を用いてナトリウム塩やアンモニウム塩等の塩の形態に中和するときに中和率を0〜60mol%としたものを共重合に付することにより行う方法が好適である。
【0060】
本発明におけるポリカルボン酸系共重合体(A)は、上述したように単量体成分を共重合してなるが、このような重合体の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算での重量平均分子量(Mw)が、500以上であることが好ましく、また、500000以下であることが好ましい。500未満であると、ポリカルボン酸系共重合体(A)の減水性能が充分なものとはならないおそれがあり、500000を超えると、ポリカルボン酸系共重合体の減水性能、スランプロス防止能を充分に向上することができないおそれがある。Mwの下限値としては、より好ましくは5000、特に好ましくは8000以上であり、上限値としては、より好ましくは300000、特に好ましくは100000である。
なお、本明細書中、重合体の重量平均分子量は、下記GPC測定条件により測定される値である。
【0061】
(GPC分子量測定条件)
使用カラム:東ソー社製TSKguardcolumn SWXL+TSKge1 G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液を用いる。
打込み量:0.5質量%溶離液溶液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、トップピーク分子量(Mp)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470。
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
【0062】
本発明のセメント混和剤は、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを必須成分とするものであるが、該セメント混和剤は水溶液の形態でそのまま使用してもよいし、また、カルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置又はベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したりすることにより粉体化して使用してもよい。なお、本発明のセメント混和剤をセメント組成物に添加する場合には、予め上記必須成分を含む成分を混合した状態で添加してもよいし、各成分を別々に添加してもよい。
【0063】
上記セメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
【0064】
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、該セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含んでなる。このような、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を含むセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0065】
上記セメント組成物において、セメントとしては特に限定されず、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられ、更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
【0066】
上記セメント組成物においては、その1m当りの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比としては、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好ましい。より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65であり、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能である。更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、水/セメント比(質量比)が0.3以下の低−水/セメント比領域にある超高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0067】
なお、超高強度コンクリートとは、セメント組成物の分野で一般的にそのように称されているもの、すなわち従来のコンクリートに比べて水/セメント比を小さくしてもその硬化物が従来と同等又はより高い強度となるようなコンクリートを意味し、例えば、水/セメント比が30質量%以下、更に25質量%以下、より更に20質量%以下、特に18質量%以下、特に14質量%以下、特に12質量%程度であっても通常の使用に支障をきたすことのない作業性を有するコンクリートとなり、その硬化物が60N/mm以上、更に80N/mm以上、より更に100N/mm以上、特に120N/mm以上、特に160N/mm以上、特に200N/mm以上の圧縮強度を示すことになるものである。
【0068】
上記セメント組成物において、本発明のセメント混和剤の配合割合としては、例えば、上記ポリカルボン酸系共重合体(A)と上記ポリアルキレンイミン系化合物(B)との合計量が、セメント質量の総量100質量%に対して、0.01質量%以上となるようにすることが好ましく、また、10質量%以下となるようにすることが好ましい。0.01質量%未満であると、性能的に充分とはならないおそれがあり、10質量%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。下限値としては、より好ましくは0.05質量%、更に好ましくは0.1質量%、上限値としては、より好ましくは8質量%、更に好ましくは5質量%である。
なお、上記質量%は、固形分換算の値である。
【0069】
上記セメント組成物は、ポンプ圧送性にも優れ、施工時の作業性を著しく改善し、高い流動性を有していることから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0070】
本発明のセメント混和剤は、公知のセメント分散剤を含有することが可能であり、2種類以上の公知のセメント分散剤の併用も可能である。なお、公知のセメント分散剤を用いる場合、本発明のセメント混和剤と公知のセメント分散剤との配合質量比は、使用する公知のセメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的には決められないが、それぞれ固形分換算での質量割合(質量%)として、1〜99/99〜1が好ましく、5〜95/95〜5がより好ましく、10〜90/90〜10が更に好ましい。
【0071】
上記併用する公知のセメント分散剤としては、例えば、以下に記載するようなセメント分散剤が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩等;ポリスチレンスルホン酸塩系等の分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤。
【0072】
特公昭59−18338号公報、特開平7−223852号公報に記載の如く、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体;特開平10−236858号公報、特開2001−220417号公報に記載の如く、炭素原子数5のアルケニル基を有する不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体、マレイン酸系単量体又は(メタ)アクリル酸系単量体、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体;特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報の如く、ポリエーテル化合物に不飽和カルボン酸系単量体をグラフト重合した親水性グラフト重合体等の分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する各種ポリカルボン酸系分散剤。
【0073】
本発明において、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する重合体であるポリカルボン酸系分散剤を併用する場合、本発明のセメント混和剤中の共重合体(A)とは異なる重合体を併用することにより、特に高減水率領域においても初期分散性と分散保持性とのバランスが優れたコンクリート混和剤となる。
【0074】
上記セメント混和剤はまた、以下の(1)〜(12)に例示するような他の公知のセメント添加剤(材)を含有することができる。
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化又はヒドロキシアルキル化誘導体の一部又は全部の水酸基の水素原子が、炭素数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基又はそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状の何れでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマー及びその四級化合物等。
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
【0075】
(3)硬化遅延剤:オキシカルボン酸若しくはその塩;糖及び糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質:フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体等。
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等。
【0076】
(5)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルへキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂から得られる脂肪酸由来のアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0077】
(6)オキシアルキレン系以外の消泡剤;燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノエート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール・へキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等のアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤等。
(7)AE剤:樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、タンパク質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0078】
(8)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤等;各種両性界面活性剤等。
(9)防水剤;脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(10)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(11)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル等。
(12)膨張材;エトリンガイト系、石炭系等。
【0079】
その他の公知のセメント添加剤(材)としては、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤等を挙げることができる。これら公知のセメント添加剤(材)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
上記セメント混和剤において、セメント、細骨材、粗骨材及び水以外の成分についての特に好適な実施形態としては、次の(1)〜(7)が挙げられる。
(1)<1>本発明のセメント混和剤、及び、<2>オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、<2>のオキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、<1>のセメント混和剤100重量部に対して0.01〜20重量部の範囲が好ましい。
【0081】
(2)<1>本発明のセメント混和剤、<2>オキシアルキレン系消泡剤、及び、<3>AE剤の3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の消泡剤の配合質量比としては、<1>のセメント混和剤100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましい。一方、<3>のAE剤の配合質量比としては、セメント100重量部に対して0.001〜2重量部が好ましい。
【0082】
(3)<1>本発明のセメント混和剤、<2>炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、(メタ)アクリル酸系単量体及びこれらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体(特公昭59−18338号公報、特開平7−223852号公報等に記載)、及び、<3>オキシアルキレン系消泡剤の3成分を必須とする組み合わせ。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の共重合体との配合比としては、共重合体(A)と<2>の共重合体との質量比で、5/95〜95/5の範囲が好ましく、10/90〜90/10の範囲がより好ましい。(3)のオキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、共重合体(A)と<2>の共重合体との合計量100重量部に対して0.01〜20重量部の範囲が好ましい。
【0083】
(4)<1>本発明のセメント混和剤と<2>分子中にスルホン酸基等有するスルホン酸系分散剤との2成分を必須とする組み合わせ。スルホン酸系分散剤としでは、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等のアミノスルホン酸系の分散剤等が使用可能である。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤との配合比としては、共重合体(A)と<2>の分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤との質量比で、5/95〜95/5が好ましく、10/90〜90/10がより好ましい。
【0084】
(5)<1>本発明のセメント混和剤と<2>材料分離低減剤との2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル酸で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の材料分離低減剤との配合比としては、共重合体(A)と<2>の材料分離低減剤との質量比で、10/90〜99.99/0.01が好ましく、50/50〜99.9/0.1がより好ましい。この組み合わせのセメント混和剤は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
【0085】
(6)<1>本発明のセメント混和剤と<2>遅延剤との2成分を必須とする組み合わせ。遅延剤としては、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類、グルコース等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類、アミノトリ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類等が使用可能であるが、オキシカルボン酸類が特に好適である。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の遅延剤との配合比としては、共重合体(A)と<2>の遅延剤との質量比で、50/50〜99.9/0.1の範囲が好ましく、70/30〜99/1の範囲がより好ましい。
【0086】
(7)<1>本発明のセメント混和剤と<2>促進剤との2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。なお、<1>のセメント混和剤と<2>の促進剤との配合比としては、共重合体(A)と<2>の促進剤との質量比で、10/90〜99.9/0.1の範囲が好ましく、20/80〜99/1の範囲がより好ましい。
【発明の効果】
【0087】
本発明のセメント混和剤は、上述の構成よりなるので、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物のスランプ保持性を高めながら流動性が保持されるようにするとともに、セメント組成物等を取り扱う現場において作業しやすくなるような粘性とすることができ、セメント組成物等の状態を良好にするだけでなく、硬化したセメント組成物の圧縮強度、特に早期強度をより高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0088】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0089】
製造例1<P14−003>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に、市販のポリエチレンイミン(数平均分子量600;エチレンイミン付加数14)614gと水素化ナトリウム4gとを入れ、攪拌しながら、窒素で充分に置換した後、温度を150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド1886g(ポリエチレンイミン活性水素(ポリエチレンイミン活性水素含有アミノ基)1モルに対して平均付加数3モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物を2500g得た。この化合物を<P14−003>とした(プロピレンオキサイドは含有していない)。
【0090】
製造例2<P14−080>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に、市販のポリエチレンイミン(数平均分子量600;エチレンイミン付加数14)61gと水素化ナトリウム0.4gとを入れ、攪拌しながら、窒素で充分に置換した後、温度を150℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド4934g(ポリエチレンイミン活性水素(ポリエチレンイミン活性水素含有アミノ基)1モルに対して平均付加数80モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物を4995g得た。この化合物を<P14−080>とした。
【0091】
比較製造例1<P14−003−006−017>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に、製造例1で得られた<P14−003>312gを入れ、攪拌しながら、窒素で充分に置換した後、温度を130℃まで昇温した。次いで、プロピレンオキサイド601g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数6モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で5時間熟成させた。次いで、温度を150℃まで昇温した後、エチレンオキサイドを1363g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数17モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物を2276g得た。この化合物を<P14−003−006−017>とした。
【0092】
製造例3<P14−003−006−080>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に、製造例1で得られた<P14−003>312gを入れ、攪拌しながら、窒素で充分に置換した後、温度を130℃まで昇温した。次いで、プロピレンオキサイド601g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数6モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で5時間熟成させた。次いで、温度を150℃まで昇温した後、エチレンオキサイドを6414g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数80モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物を7327g得た。この化合物を<P14−003−006−080>とした。
【0093】
比較製造例2<P14−003−006−160>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に、製造例1で得られた<P14−003>312gを入れ、攪拌しながら、窒素で充分に置換した後、温度を130℃まで昇温した。次いで、プロピレンオキサイド601g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数6モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で5時間熟成させた。次いで、温度を150℃まで昇温した後、エチレンオキサイドを12827g(ポリエチレンイミン活性水素1モルに対して平均付加数160モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物を13740g得た。この化合物を<P14−003−006−160>とした。
【0094】
製造例1〜3及び比較製造例1〜2で得たポリアルキレンイミンアルキレンオキシド化合物について、表1に示す。なお、表1中の記載は以下のとおりである。
EIn:エチレンイミン付加数
en1:ポリエチレンイミンの活性水素含有アミノ基1モルに対する平均エチレンオキサイド付加モル数
pn1:ポリエチレンイミンの活性水素含有アミノ基1モルに対する平均プロピレンオキサイド付加モル数
en2:ポリエチレンイミンの活性水素含有アミノ基1モルに対する平均エチレンオキサイド付加モル数
【0095】
【表1】

【0096】
製造例4<不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(A1)の合成>
攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器にイソプレノール409gと水酸化ナトリウム0.6gとを入れ、攪拌しながら、温度を130℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド2091g(平均付加数10モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、イソプレノールアルキレンオキシド化合物2500gを得た。この化合物を<中間体(A)>とした。
更に攪拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に<中間体(A)>575gを入れ、攪拌しながら、温度を130℃まで昇温した。次いで、エチレンオキサイド1925g(平均付加数40モル)をゆっくりと添加しながら反応させ、全て添加してから同温度で30分間熟成させ、イソプレノールアルキレンオキシド化合物2500gを得た。この化合物を<単量体(A1)>とした。
【0097】
製造例5<重合体(イ)>
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅及び還流冷却菅を備えたガラス製反応器に製造例4で得た<単量体(A1)>1516.5g、イオン交換水1046.1gを仕込み、窒素を導入しながら、58℃に昇温した。次いで、30%過酸化水素水4.9gを添加した後、アクリル酸105.2gとイオン交換水26.3gとを混合した溶液131.5gを3時間、並びに、L−アスコルビン酸1.9g、3−メルカプトプロピオン酸4.0g及びイオン交換水292.4gを混合した298.3gを3.5時間かけて滴下した。その後、58℃に保ったままで1時間攪拌し、重合反応を完結させた。冷却後、水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH6.5に調整し、単量体(A1)を91.5質量%含有する<重合体(イ)>の水溶液を得た。
【0098】
製造例6<重合体(ロ)>
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅及び還流冷却菅を備えたガラス製反応器に製造例4で得た<単量体(A1)>1125.9g、イオン交換水1135.7gを仕込み、窒素を導入しながら、58℃に昇温した。次いで、30%過酸化水素水5.0gを添加した後、アクリル酸150.1gとイオン交換水37.4gとを混合した溶液187.5gを3時間、並びに、L−アスコルビン酸2.3g、3−メルカプトプロピオン酸4.4g及びイオン交換水237.0gを混合した243.7gを3.5時間かけて滴下した。その後、58℃に保ったままで1時間攪拌し、重合反応を完結させた。冷却後、水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH6.5に調整し、単量体(A1)を85.0質量%含有する<重合体(ロ)>の水溶液を得た。
【0099】
比較製造例3<比較重合体(ハ)>
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅及び還流冷却菅を備えたガラス製反応器にイオン交換水1698gを仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数25モル)1668g、メタクリル酸332g及びイオン交換水500gを混合し、更に連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸16.7gを均一に混合することにより、単量体混合物水溶液を調整した。この単量体混合物水溶液を4時間、10%過硫酸アンモニウム水溶液230gを5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて80℃に温度を維持し、重合反応を完結させた。その後、重合反応温度以下の温度で水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7に調整し、<比較重合体(ハ)>の水溶液を得た。
【0100】
製造例7<重合体(ニ)>
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅及び還流冷却菅を備えたガラス製反応器に、イオン交換水310.3g、メタリルアルコールに平均50モルのエチレンオキシドを付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル601.2g、アクリル酸1.09gを仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で58℃まで加熱した。反応容器内を58℃に保った状態で、2%過酸化水素水溶液36.7gを添加した。反応容器内を58℃に維持した状態で、アクリル酸57.7gとイオン交換水73.0gからなるアクリル酸水溶液を3時間かけて滴下し、それと同時に、イオン交換水117.3gにL−アスコルビン酸0.95g及び3−メルカプトプロピオン酸1.78gを溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて58℃に温度を維持した後、重合反応を完結させた。その後、重合反応温度以下の温度で水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH6に調整し、<重合体(ニ)>の水溶液を得た。
【0101】
実施例1〜5、比較例1〜8
製造例1〜7及び比較製造例1〜3で得たポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物及びポリカルボン酸系共重合体を、表2〜4に示す配合量及び配合割合(質量%)で混合して、下記のコンクリート試験方法により評価した。結果を表2〜4に示す。
なお、表3〜5に記載の実施例及び比較例では、セメント混和剤に、消泡剤(MA404、ポゾリス物産社製)を、セメント(固形分換算)に対して0.008質量%添加して試験を行った。
【0102】
<コンクリート試験条件>
(1)使用材料
セメント:太平洋セメント社製
粗骨材:青海硬質砕石
細骨材:千葉産 君津山砂
(2)単位量(kg/m
W/C=36.0
s/a=47.2
空気=25.5
水=165.0
セメント=458.3
石=926.9
砂=815.4
(3)使用ミキサー
太平洋機工 TM55(55リットル強制練パン型ミキサー)、練り量30リットル
(4)混練方法、測定方法
粗骨材(全量)と細骨材(半量)とをミキサーに投入し5秒間空練りを行い、次いでセメントと細骨材(半量)を投入し10秒間空練りを行った。その後、セメント混和剤込みの水を投入し90秒間混練を行った後、コンクリートを排出しフロー値、空気量を測定し、圧縮強度試験用試料を作製し24時間後、7日後、28日後、35日後の圧縮強度を測定した。
供試体作製:100mm×200mm プラスチック製供試体 3本
供試体養生条件(24時間まで):温度20℃、湿度60%、恒温恒湿空気養生
供試体養生条件(24時間以降):温度20℃、水中養生
供試体研磨:供試体面 研磨(供試体研磨仕上げ機使用)
圧縮強度測定:自動圧縮強度測定器(前川製作所)
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
表2中、圧縮強度は、空気量3.2%を基準として空気量補正を行った値である。
表2〜5に記載の下記値は、以下のとおりである。
※0を付した値は、比較例1の圧縮強度を基準としたときの強度の向上率である。
※1を付した値は、比較例4の圧縮強度を基準としたときの強度の向上率である。
※2を付した値は、比較例5の圧縮強度を基準としたときの強度の向上率である。
※3を付した値は、比較例7の圧縮強度を基準としたときの強度の向上率である。
※4を付した値は、比較例8の圧縮強度を基準としたときの強度の向上率である。
【0108】
上述した実施例及び比較例から、本発明の数値範囲の臨界的意義については、次のようにいえることがわかった。
例えば表2の結果から、本発明において、ポリアルキレンイミン系化合物(B)としてポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を用いる場合に、オキシアルキレン基の平均付加モル数をポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基1モルに対して100モル以下とし、かつ該オキシアルキレン基100モル%中のオキシエチレン基を80モル%以上とすることによって、これを用いたセメント組成物等の状態や、硬化したセメント組成物の圧縮強度等の点で有利な効果を発揮し、それが顕著であることがわかった。
【0109】
ここで、オキシアルキレン基の平均付加モル数を100モル以下とすることの技術的意義については、実施例1〜3と、その範囲を上回る比較例3とを比較すると明らかである。また、そのオキシアルキレン基100モル%中のオキシエチレン基を80モル%以上とすることの技術的意義については、実施例1〜3と、その範囲を下回る比較例2とを比較すると明らかである。
すなわち、実施例1〜3では、フロー値及び空気量が低く、圧縮強度の向上率が高い結果となっているが、フロー値を低減させることによって、セメント組成物等の流動性や粘性が良好となり、セメント組成物等の状態が良好となり、空気量が低く、しかも圧縮強度が高いことによって、硬化したセメント組成物等の強度が増すとともに、作業の効率化及び省力化を図ることが可能となる。
【0110】
これに対し、オキシアルキレン基の平均付加モル数が活性水素含有アミノ基1モルに対して100モル以下であるものの、オキシエチレン基が全オキシアルキレン基100モル%に対し76.9モル%であるポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を用いた比較例2では、フロー値及び空気量が高く、7日後の圧縮強度の向上率が低い結果となっている。なお、比較例2では、24時間後の強度向上率が同じ共重合体(イ)を使用した実施例1より高いものの、空気量が著しく大きい結果となっている。また、オキシエチレン基が全オキシアルキレン基100モル%に対し96.4モル%であるものの、オキシアルキレン基の平均付加モル数が活性水素含有アミノ基1モルに対して169モルであるポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を用いた比較例3では、フロー値及び空気量が高く、圧縮強度の向上率が著しく低い結果となっており、これらのようなものでは、セメント組成物等の状態や強度の点で昨今の業界の要請に見合うだけの効果が得られない。
【0111】
また比較例1は、ポリアルキレンイミン系化合物(B)を使用しない形態であるが、24時間後及び7日後の圧縮強度の点で実施例1よりも劣っており、作業の効率化及び省力化を図ることが切望される状況下においては充分な効果が得られない。
【0112】
また表3に記載の実施例及び比較例から、本発明において、上記一般式(1)で表される単量体由来の構成単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A)と、ポリアルキレンイミン系化合物(B)とを併用することによって初めて、硬化したセメント組成物の強度(特に硬化初期の圧縮強度)の点で有利な効果を発揮でき、しかもそれが顕著な効果であることが分かった。
【0113】
ポリカルボン酸系共重合体(A)が上記一般式(1)で表される単量体由来の構成単位を有することの技術的意義については、当該構成単位を有する重合体(ロ)及び本願発明のポリアルキレンイミン系化合物(B)を使用した実施例3と、当該構成単位を有さない重合体(ハ)及び該実施例3と同じポリアルキレンイミン系化合物(B)を使用した比較例6とを比較すれば明らかである。
すなわち、比較例6では、実施例3と同じポリアルキレンイミン系化合物を使用しているにも関わらず、24時間後及び7日後の圧縮強度の向上率が実施例3に比較して著しく低くなっていることから、ポリカルボン酸系共重合体(A)が上記一般式(1)で表される単量体由来の構成単位を有することによって、特に硬化初期の圧縮強度に優れたものとなることが示されているといえる。この効果の差は、実施例3及び比較例6とは異なるポリアルキレンイミン系化合物を使用し、かつ上記構成単位を有する重合体(ロ)を使用した実施例2と、比較例6とを比較しても同様に見られるものである。
【0114】
一方で、重合体(ロ)のみを使用した比較例4と、重合体(ロ)及びポリアルキレンイミン系化合物(B)を併用した実施例2及び3とを比較することにより、上記一般式(1)で表される単量体由来の構成単位を有するポリカルボン酸系共重合体(A)を使用した場合であっても、更にポリアルキレンイミン系化合物(B)を併用しなければ、特に硬化初期の圧縮強度に優れたものとなるという格別顕著な効果を発揮できないことが分かる。
【0115】
上記表2及び3と同様に、表4及び5に記載の実施例及び比較例からも、本発明において、ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを併用することにより、硬化したセメント組成物の強度、特に硬化初期の圧縮強度に優れるものとなることが分かった。
【0116】
ここで、表4に記載の実施例4と、表3に記載の実施例2とは、含有成分の配合割合が異なるものの、含有成分のポリカルボン酸系共重合体(A)及びポリアルキレンイミン系化合物(B)としては同じ化合物を使用した例である。但し、重合体(ロ)の使用量や試験環境(試験日等)等が異なり、これらを単純に並べて評価することはできないため、圧縮強度については、それぞれ重合体(ロ)のみを使用した場合を基準としたときの強度の向上率を比較したところ、24時間後及び7日後の当該向上率は、実施例2では「6.1%及び1.0%」となったのに対し、実施例4では「0.6%及び0.4%」となっており、実施例4でも充分な効果が発揮できるものの、実施例2の方が、特に初期強度においてより更に効果が発揮されることが分かる。
【0117】
この実施例2と実施例4との対比結果により、重合体(ロ)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とからなるセメント混和剤においてこれらの配合比が50/50である、すなわち、セメント混和剤の固形分100質量%に対してポリアルキレンイミン系化合物(B)が50質量%である実施例4よりも、当該ポリアルキレンイミン系化合物(B)の配合割合が低い実施例2の方が、本願発明の効果が更に充分に発揮されることが分かる。
したがって、本願発明のセメント混和剤において、ポリアルキレンイミン系化合物(B)が、セメント混和剤の固形分100質量%に対して49質量%以下であることが、特に好適な形態であることが示されているといえる。
【0118】
このように、本発明の構成とすることによって、上述した有利な効果を発揮するのであり、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸系共重合体(A)とポリアルキレンイミン系化合物(B)とを含んでなるセメント混和剤であって、
該ポリカルボン酸系共重合体(A)は、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)由来の構成単位(i)及び不飽和モノカルボン酸系単量体(II)由来の構成単位(ii)を有し、
該不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(I)は、下記一般式(1);
【化1】

(式(1)中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。Tは、同一若しくは異なって、炭素数1〜5のアルキレン基又は炭素数6〜9のアリール基を表す。mは、0又は1である。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜500である。)で表され、
該ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、ポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物であり、
該ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物は、オキシアルキレン基の平均付加モル数がポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基1モルに対して100モル以下であるものであって、
該オキシアルキレン基100モル%中、オキシエチレン基が80モル%以上である
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記不飽和モノカルボン酸系単量体(II)は、下記一般式(2);
【化2】

(式(2)中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Mは、水素原子、一価金属原子、多価金属原子、アンモニウム基又は有機アンモニウム基を表す。)で表されるものである
ことを特徴とする請求項1に記載のセメント混和剤。
【請求項3】
前記ポリアルキレンイミン系化合物(B)は、セメント混和剤の固形分100質量%に対して、1質量%以上、49質量%以下含まれる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント混和剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のセメント混和剤、セメント及び水を含む
ことを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2008−94708(P2008−94708A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235653(P2007−235653)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】