説明

セメント混和材およびセメント組成物

【課題】収縮低減剤の添加量を抑えても、ポップアウトの発生が無く、良好な膨張ひずみが得られるセメント混和材およびセメント組成物を提供する。
【解決手段】(1)遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏を含有してなり、45μm篩残分が40質量%以上で90μm篩残分が30質量%以下である膨張材を含有するセメント混和材、(2)さらに、収縮低減剤を含有してなる(1)のセメント混和材、(3)膨張材が80〜95質量部、収縮低減剤が5〜20質量部である(2)のセメント混和材、(4)収縮低減剤が、アルキレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体とポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを含有する(2)または(3)のセメント混和材、(5)セメントと(1)〜(4)のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野において使用されるコンクリート用膨張材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少ない添加量で優れた膨張特性を有するコンクリート膨張材が提案されている(特許文献1参照)。また、これら膨張材に収縮低減剤を添加し、膨張材と収縮低減剤を組み合わせて膨張性能と収縮低減性能を両立したセメント混和材が提案されている(特許文献2、3参照)。
さらに、膨張材の粒度を調整することによって、ポップアウトを防止し、膨張率を確保する技術が開示されている(特許文献4、5参照)。しかしながら、これら文献では、200〜300μm、90μm、あるいは、5〜20μm、150μmなどにおける粒度調整であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4244261号公報
【特許文献2】特開2000−264694号公報
【特許文献3】特開2003−12352号公報
【特許文献4】特開2007−131484号公報
【特許文献5】特開2008−201592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の膨張材を特定の粒度で調整することにより、従来よりもさらにポップアウトを防止でき、膨張ひずみを大きくすることが可能であることを知見したものである。
また、膨張材を収縮低減剤でスラリー化した材料は性能面で優れるものの、収縮低減剤はコストが高いため、できるだけ収縮低減剤の配合割合を抑えた材料が求められていた。しかしながら、収縮低減剤の添加量を抑えると膨張材が凝集してポップアウト現象が起きたり、膨張ひずみの増加効果が小さくなるなどの課題があった。
本発明は、特定の膨張材を使用することで、収縮低減剤を配合しないか従来よりも収縮低減剤の添加量を抑えても、上記課題を解決することを知見したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(1)遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏を含有してなり、45μm篩残分が40質量%以上で90μm篩残分が30質量%以下である膨張材を含有するセメント混和材、(2)さらに、収縮低減剤を含有してなる(1)のセメント混和材、(3)膨張材が80〜95質量部、収縮低減剤が5〜20質量部である(2)のセメント混和材、(4)収縮低減剤が、アルキレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体とポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを含有する(2)または(3)のセメント混和材、(5)セメントと(1)〜(4)のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメント混和材は、収縮低減剤を配合しないか従来よりも収縮低減剤の配合割合を抑えても膨張材の凝集を抑制でき、ポップアウトが無く、従来と同等以上の膨張ひずみを満足するセメント混和材を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
なお、本発明で使用する部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
また、本発明で云うコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、セメントコンクリートを総称するものである。
【0008】
本発明で使用する膨張材は、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、およびCaSO原料を適宜混合して熱処理して得られる遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏を含有するクリンカを所定の粒度に粉砕して得られるものである。
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云う水硬性化合物とは、3CaO・3Al・CaSOで表されるアウイン、3CaO・SiO(CSと略記)や2CaO・SiO(CSと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(CAFと略記)や6CaO・2Al・Fe(CFと略記)、6CaO・Al・Fe(CAFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe(CFと略記)等のカルシウムフェライトなどであり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。
本発明で云う無水石膏とは、CaSOと表記されるものである。
【0009】
CaO原料としては石灰石や消石灰が挙げられ、Al原料としてはボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられ、Fe原料としては銅カラミや市販の酸化鉄が、SiO原料としては珪石等が、CaSO原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏が挙げられる。これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0010】
本発明で使用する膨張材に使用するクリンカの熱処理方法は特に限定されるものではないが、電気炉やキルンなどを用いて1100〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1100℃未満では膨張性能が充分でなく、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合がある。
【0011】
本発明で使用する膨張材に使用するクリンカに含まれる各鉱物の割合は、以下の範囲であることが好ましい。遊離石灰の含有量は、クリンカ100部中、30〜70部が好ましく、40〜60部がより好ましい。水硬性化合物の含有量は、クリンカ100部中、10〜40部が好ましく、20〜30部がより好ましい。無水石膏の含有量は、クリンカ100部中、10〜40部が好ましく20〜30部がより好ましい。前記範囲外では、膨張量が小さくなったり、逆に極端に大きくなって圧縮強度が低下したりする場合がある。
【0012】
鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。
【0013】
本発明で使用する膨張材の粉末度は特に重要であり、45μm篩残分が40%以上かつ90μm篩残分が30%以下であることが好ましく、45μm篩残分が80%以上かつ90μm篩残分が20%未満であることがより好ましい。前記範囲では膨張量が小さくなったり、ポップアウトが生じ易くなったりする場合がある。
粉末度の調整方法は特に限定されるものではなく、気流分級法、ふるい分級方式などが適用可能である。
【0014】
本発明で使用する収縮低減剤の種類は、特に限定されるものではなく、アルキレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物などが使用可能で、特に、アルキレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体とポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを併用することが、膨張性能の観点から好ましい。
【0015】
本発明で膨張材に収縮低減剤を併用する場合、膨張材と収縮低減剤の合計100部中、収縮低減剤の割合は20部以下であり、3〜20部が好ましく、5〜15部がより好ましい。20部を越えると膨張ひずみが小さくなる場合がある。
【0016】
本発明のセメント混和材の使用量は、コンクリートの配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、3〜10部が好ましく、5〜8部がより好ましい。3部未満では充分な膨張性能が得られない場合があり、10部を超えて使用すると過膨張となりコンクリートに膨張クラックを生じる場合がある。
【0017】
本発明のセメント組成物で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカを混合した各種混合セメント、ならびに石灰石粉末を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0018】
本発明では、砂、砂利、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、高分子エマルジョン、および凝結調整剤、ならびにセメント急硬材、ベントナイト等の粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、ケイ酸カルシウムなどが挙げられ、有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質が挙げられる。
【0019】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
「実験例1」
遊離石灰50部、アウイン10部、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)5部、カルシウムシリケート(2CaO・SiO)5部、無水石膏30部となるように、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、CaSO原料を調合し、1350℃で熱処理して膨張材クリンカを合成した。この膨張材クリンカをボールミルを用いて粉砕し、ふるいを用いて表1に示すような粒度に調製した。ふるいはJIS Z 8801−1に規定されている金属製網ふるいの目開きが300μm、90μm、45μmのものを用いた。
表1に示すように、膨張材からなるセメント混和材と、膨張材85部と収縮低減剤15部からなるセメント混和材を調製した。
セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材を7部使用し、水/セメント組成物比=50%、セメント組成物/砂比=1/3のモルタルを20℃の室内で調製して、長さ変化率(膨張ひずみ)の測定を行った。また、ポップアウト試験を行った。なお、市販の膨張材についても同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0021】
(使用材料)
CaO原料:石灰石
Al原料:ボーキサイト
Fe原料:酸化鉄
SiO原料:珪石
CaSO原料:二水石膏
砂:JIS標準砂
水:水道水
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
収縮低減剤A:アルキレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体50部と、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル50部の混合物
収縮低減剤B:アルキレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体
ここで、アルキレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体の平均的な構造式は、HO−(C11.3/C3.7)−Hで表せる。また、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルの平均的な構造式は、CO−(CO)−(CO)−Hで表せる。
収縮低減剤C:ポリグリコールエーテル化合物
市販の膨張材(1):エトリンガイト−石灰複合系膨張材
市販の膨張材(2):石灰系膨張材
【0022】
(試験方法)
鉱物組成:化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
長さ変化率:JIS A 6202 付属書1 膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に準じ材齢7日までの膨張ひずみを測定した。
ポップアウト試験:練り混ぜたモルタルを20×20×5cmの平板状に成型して表面を平滑にし、20℃60%室内で6ヶ月間養生した後、モルタル表面を観察してポップアウトの有無を確認した。
【0023】
【表1】

【0024】
「実験例2」
膨張材の粒度を45μm篩い残分が100%、90μm篩い残分が30%に、収縮低減剤をAに固定し、膨張材と収縮低減剤の配合比率を表2に示すように変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
「実験例3」
セメント混和材の添加量を表3に示すように変化させたこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のセメント混和材およびセメント組成物により、高価な収縮低減剤の配合割合を抑えても、ポップアウトの発生が無く、良好な膨張ひずみが得られるため、土木、建築分野で幅広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏を含有してなり、45μm篩残分が40質量%以上で90μm篩残分が30質量%以下である膨張材を含有するセメント混和材。
【請求項2】
さらに、収縮低減剤を含有してなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
膨張材が80〜95質量部、収縮低減剤が5〜20質量部である請求項2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
収縮低減剤が、アルキレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体とポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを含有することを特徴とする請求項2または3に記載のセメント混和材。
【請求項5】
セメントと請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。

【公開番号】特開2012−229132(P2012−229132A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96726(P2011−96726)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】