説明

セメント混和材及びセメント組成物

【課題】建築、土木分野の種々のコンクリート構造物において、優れたひび割れ低減効果を発揮し、しかも、使用した繊維の飛散防止が図れ、さらに、収縮低減剤による空気量の増加現象を起こさない等の効果を奏するセメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【解決手段】収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント混和材であり、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計100部中、収縮低減剤20〜80部、溶融紡糸した玄武岩繊維20〜80部であることが好ましい。セメントと前記セメント混和材とを含有するセメント組成物であり、セメントと収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント組成物である。また、前記セメント混和材を使用して作製したコンクリートであり、前記セメント組成物を使用して作製したコンクリートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるセメント混和材及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の高耐久化技術の確立が望まれている。それを達成する上で重要な技術のひとつとして、収縮低減剤が注目されている。これは、収縮低減剤の使用により、ひび割れを低減し、コンクリート構造物の高寿命化に一定の役割を果たすためである。収縮低減剤としては、古くより数多くの提案がなされている(特許文献1〜6)。
【特許文献1】特開昭56−037259号公報
【特許文献2】特公昭59−003430号公報
【特許文献3】特開昭59−021557号公報
【特許文献4】特開昭59−152253号公報
【特許文献5】特開昭59−184753号公報
【特許文献6】特開昭60−016846号公報
【0003】
しかしながら、収縮低減剤を用いると、コンクリートの空気量が極度に大きくなるという現象が生じるため、消泡剤によって空気量を制御する操作が不可欠となっている。コンクリートの空気量を制御することは、高度な技術が必要であり、また、人手間がかかる。このため、収縮低減剤を用いても空気量を増加させない技術の開発が強く求められている。
【0004】
一方、コンクリートの共通の課題として、ひび割れが挙げられる。コンクリートのひび割れは様々な要因に起因するため、ひび割れを制御するために、様々な方法が提案されている。中でも、繊維を配合してひび割れを制御する試みが数多く提案されている。
短繊維の種類には、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等の有機繊維や、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維が一般的に知られている。有機繊維はドライモルタルに混合する場合分散性が悪く、たくさん添加するとファイバーボール等ができ均一な混合ができない場合があり、鋼繊維は繊維径を50μ以下にすることが難しく、炭素繊維は非常に高価な材料であり、ガラス繊維は耐アルカリや耐酸性に劣るといった課題がある。
例えば、ロックウールは、安山岩、玄武岩、スラグ等を原料にキューポラや電気炉で1500〜1600℃の高温で溶かし、炉から流し、遠心力や圧縮空気、高圧蒸気で吹き飛ばし繊維状とした人造鉱物繊維の一種である。この繊維は、安価ではあるが、形態が綿状や粒状のものであるため、コンクリートへの分散が悪く、充分なひび割れ抵抗性が得られないといった課題があった。
また、石炭灰を数千度の高温で溶融紡糸して繊維化したフライアッシュファイバーで強化したセメント複合材料が知られている(特許文献7、8)。これらの繊維を使用する際には、飛散防止が課題として挙げられる。
さらに、玄武岩を1500〜1600℃で溶融紡糸し繊維化する製造方法が知られている(特許文献9)。
【特許文献7】特開平06−340461号公報
【特許文献8】特開平06−340462号公報
【特許文献9】特表平09−500080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建築構造物のような薄いコンクリート構造物や土木分野で用いられるマッシブなコンクリートにおいても、優れたひび割れ低減効果を発揮し、繊維の飛散防止が図れ、さらに、収縮低減剤の課題であった空気量の増加現象を起こさないセメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント混和材、(2)収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計100部中、収縮低減剤20〜80部、溶融紡糸した玄武岩繊維20〜80部である(1)のセメント混和材、(3)セメントと(1)又は(2)のセメント混和材とを含有するセメント組成物、(4)セメントと収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント組成物、(5)(1)又は(2)のセメント混和材を使用して作製したコンクリート、(6)(3)又は(4)のセメント組成物を使用して作製したコンクリート、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント混和材及びセメント組成物は、建築、土木分野の種々のコンクリート構造物において、優れたひび割れ低減効果を発揮し、しかも、使用した繊維の飛散防止が図れ、さらに、収縮低減剤による空気量の増加現象を起こさない等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下,本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
また、本発明で云うコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、セメントコンクリートを総称するものである。
【0009】
本発明で使用する収縮低減剤とは、特に限定されるものではなく、如何なるものでも使用可能である。その種類としては、主成分で大別すると、低級アルコールアルキレンオキシド付加物系、アルコール系、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系、ポリエーテル系、低分子量アルキレンオキシド共重合体系等が挙げられる。
収縮低減剤は、数多く市販されており、その代表例としては、例えば、電気化学工業社製、商品名「エスケーガード」、エフ・ピー・ケー社製、商品名「ヒビガード」、竹本油脂社製、商品名「ヒビダン」、太平洋セメント社製、商品名「テトラガード」、日本油脂社製、商品名「シュドックス」等が挙げられる。
収縮低減剤には、液状のもの、粉末状のものが存在する。本発明ではいずれも利用可能であるが、ファイバーの飛散防止を図る上では、液状のものを選択することが、その効果が大きいために好ましい。玄武岩繊維を液状の収縮低減剤に混ぜ合わせることにより、ファイバーの充分な飛散防止が可能となるが、粉末の収縮低減剤と混ぜ合わせても一定のファイバーの飛散防止効果を得ることができる。
【0010】
本発明で使用する溶融紡糸した玄武岩繊維とは、天然の玄武岩を原料とし、高温で溶融紡糸した非晶質の人造鉱物繊維である。その特徴として、有機繊維に比べ耐熱性に優れ、ガラス繊維やロックウールに比べ耐薬品性に優れる。また、密度が2.8g/cm程度であることから、通常のドライモルタルと同程度であり、均一混合性に優れるという特徴がある。
【0011】
溶融紡糸した玄武岩繊維の繊維径は、2〜50μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。2μmより小さいと、安定的に製造することが困難であり、50μmを超えると初期ひび割れ低減効果が低下する場合がある。
【0012】
溶融紡糸した玄武岩繊維の繊維長は、2〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。2mmより小さいと初期ひび割れ低減効果が小さく、15mmを超えるとドライモルタルに混合したときの分散性が悪くなる場合がある。
【0013】
溶融紡糸した玄武岩繊維は、繊維が単独にほぐれた単繊維状態(繊維径としては0.1mm以上となる)ではなく、サイジング剤等で繊維径50μm以下の単繊維を束状にした収束状態のものを使用することが好ましい。適度に接着力のある収束状にすることで、ドライモルタルと混合したときに簡単にほぐれて均一な混合が可能となる。
【0014】
本発明では、性能に影響を与えない範囲内で、各種の有機繊維、炭素繊維、鋼繊維等の溶融紡糸した玄武岩繊維以外の繊維と併用して使用することも可能である。
【0015】
本発明におけるセメント混和材やセメント組成物中の収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維との配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計100部中、収縮低減剤20〜80部が好ましく、30〜70部がより好ましい。溶融紡糸した玄武岩繊維は、20〜80部が好ましく、30〜70部がより好ましい。収縮低減剤が20部未満であったり、溶融紡糸した玄武岩繊維が80部を超えると、建築構造物のような部材厚の薄い構造物におけるひび割れ抵抗性が十分でない場合があり、逆に、収縮低減剤が80部を超えたり、溶融紡糸した玄武岩繊維が20部未満であったりすると、土木構造物のようなマッシブなコンクリートを造成した際のひび割れ抵抗性が十分でない場合がある。
【0016】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではないが、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、さらに、石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が併用可能である。
【0017】
本発明の収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント混和材の使用量は、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、1〜10部が好ましく、3〜7部がより好ましい。
【0018】
本発明では、本発明のセメント混和材やセメントの他に、石灰石微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、メタカオリン、珪藻土、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、急硬材、膨張材、デキストリン等の水和熱抑制剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、ポリマー、ベントナイト等の粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0019】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予め一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0020】
混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサ等の使用が可能である。
【実施例1】
【0021】
セメントに、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維を表1に示す割合で配合してセメント組成物を調製した。セメント組成物100部中、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計が7部となるように使用した。単位セメント組成物量315kg/m、単位水量180kg/m、S/a41%、スランプ18±2.5cmのコンクリートを調製した。コンクリートの空気量を測定するとともに、建築構造物としてのスラブや、土木構造物としてのマッシブな壁を造成した際のひび割れ発生状況を確認した。また、ファイバーの飛散状況を観察した。結果を表1に併記する。
なお、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維を使用しないプレーンコンクリートの空気量が4.5(体積)%となるようにAE剤を使用し、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維を用いた際にも同様のAE剤を添加して実験した。
【0022】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
収縮低減剤A:電気化学工業社製、商品名「エスケーガード」
収縮低減剤B:フローリック社製、商品名「ヒビガード」
収縮低減剤C:太平洋セメント社製、商品名「テトラガード」
収縮低減剤D:竹本油脂社製、商品名「ヒビダン」
溶融紡糸した玄武岩繊維:繊維径10μm、繊維長6mm、収束タイプ、カナエ社製、商品名「バサルトファイバー」
水:水道水
細骨材:新潟県姫川産、最大粒径5mm、比重2.62
粗骨材:新潟県姫川産、最大粒径25mm、比重2.64
【0023】
<測定方法>
ひび割れ発生状況の確認:建築構造物として、縦5m×横5m×厚さ10cmでスラブコンクリートを打設し、6ヵ月後にひび割れの発生状況を観察した。また、マスコンクリート(土木構造物)として、高さ2m×長さ10m×厚さ60cmの壁を造成し、1ヵ月後にひび割れの発生状況を観察した。ひび割れが複数発生した場合は×、ひび割れが1本発生した場合は△、ひび割れが認められない場合は○。
ファイバー飛散状況の観察:セメントと収縮低減剤とファイバーを混合してセメント組成物を調製するとき、ファイバーが空気中に舞うようであれば飛散ありとし、そうでない場合を飛散なしとした。
空気量:JIS A 1128に準拠
【0024】
【表1】

【0025】
表1から、本発明に依れば、コンクリートのひび割れの発生は無く、繊維の飛散もないことが分かる。
【実施例2】
【0026】
収縮低減剤Bを使用し、繊維の種類と配合割合を表2に示すように変化したこと以外は実施例1と同様に行った。
なお、比較のために、溶融紡糸した玄武岩繊維の代わりにビニロン繊維を用いて同様に行った。結果を表2に併記する。
<使用材料>
ビニロン繊維:繊維径14μm、繊維長6mm、収束タイプ、クラレ社製、商品名「RECS 7」
【0027】
【表2】

【0028】
表2から、本発明に依れば、コンクリートのひび割れの発生は無く、繊維の飛散もないことが分かる。
【実施例3】
【0029】
収縮低減剤B60部と溶融紡糸した玄武岩繊維40部の配合割合とし、セメント組成物100部中、収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計の使用量を表3に示すように変化したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0030】
【表3】

【0031】
表3から、本発明に依れば、コンクリートのひび割れの発生は無く、繊維の飛散もないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のセメント混和材及びセメント組成物は、建築、土木分野の種々のコンクリート構造物において、優れたひび割れ低減効果を発揮し、しかも、使用した繊維の飛散防止が図れ、さらに、収縮低減剤による空気量の増加現象を起こさない等の効果を奏するので、土木、建築用途に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント混和材。
【請求項2】
収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維の合計100部中、収縮低減剤20〜80部、溶融紡糸した玄武岩繊維20〜80部である請求項1記載のセメント混和材。
【請求項3】
セメントと請求項1又は2記載のセメント混和材とを含有するセメント組成物。
【請求項4】
セメントと収縮低減剤と溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有するセメント組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載のセメント混和材を使用して作製したコンクリート。
【請求項6】
請求項3又は4記載のセメント組成物を使用して作製したコンクリート。

【公開番号】特開2008−105908(P2008−105908A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291209(P2006−291209)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】