説明

セメント硬化体の製造方法

【課題】 本発明は、流動性を比較的長く維持でき、且つ比較的短時間で実用強度が得られるセメント硬化体を低コストで製造することができるセメント硬化体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のセメント硬化体の製造方法は、ポルトランドセメントとポリカルボン酸系混和剤とを混合した混合物に水を添加して混練し、水の添加後30分〜120分間の間に硫酸リチウムを添加することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等の舗装コンクリート、特に、供用中の道路の補修に用いられるコンクリートやモルタルには、早期に交通を再開する必要性から、打設後短期間に強度が十分に得られることが求められる。
施工後短時間でセメント硬化物の強度を得るためには、従来から、超早強ポルトランドセメントや、超速硬セメントなどを用いたセメント組成物が用いられている。
【0003】
超速硬セメントを用いたセメント組成物は、比較的短時間で実用強度が得られるが、短時間で硬化することから、流動性の確保が難しく、工場などで生コンクリートを製造して工事現場まで運搬することができない。そのため、現場に生コンクリートを製造するための混練設備を設置する必要が生じてコストがかかる上に、製造できる生コンクリートの量が制限されるため大規模工事には適していない。
【0004】
超早強ポルトランドセメントは、超速硬セメントよりも流動性は維持できるものの、所定の実用強度を得るためには施工後24時間の養生が必要である。そのため、施工時間の短縮には限度があり、施工コストの低減にも限度がある。
【0005】
前記のような超速硬性セメントや、超早強ポルトランドセメントを用いることなく、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントに、硬化促進剤を添加して短時間で実用強度を得られるセメント組成物を得ることが考えられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、硫酸リチウムを添加することでセメントの水和を促進し、セメント硬化体の硬化を促進することが記載されている。
【0007】
また、流動性と短期間での実用強度とを確保するために、前記硫酸リチウムとポリカルボン酸などを含む減水剤を併用することが、特許文献2および3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−87867号公報
【特許文献2】特開2004−2080号公報
【特許文献3】特開2007−297242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような硬化促進剤および減水剤を添加しても、十分な流動性と短時間での実用強度とを得ることは困難であった。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、流動性を比較的長く維持でき、且つ比較的短時間で実用強度が得られるセメント硬化体を低コストで製造することができるセメント硬化体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るセメント硬化体の製造方法は、ポルトランドセメントとポリカルボン酸系混和剤とを混合した混合物に水を添加して混練し、水の添加後30分〜120分間の間に硫酸リチウムを添加することを特徴としている。
【0012】
本発明のセメント硬化体の製造方法によれば、ポルトランドセメントと前記ポリカルボン酸系混和剤とを混合した混合物に、水を添加して混練した混練物に、水の添加後30分〜120分間の間に硫酸リチウムを添加することによって、混練後の流動性を比較的長く維持しつつ、施工後には比較的短時間で実用強度を有するセメント硬化体を得ることができる。
よって、工場等で生コンクリート等のセメント系組成物を製造し施工現場まで運搬することができると同時に、比較的短時間で実用強度が得られるため、作業時間の短縮ができ、比較的低コストでセメント硬化体を製造することができる。
尚、本発明でいう、水の添加後とは、前記混合物に水を入れ終えた時間をいう。
すなわち、混合物に水を入れ終えた時間を0時間として、ここから30分から120分間の間に前記硫酸リチウムを添加する。
【0013】
本発明においては、前記ポリカルボン酸系混和剤を、前記ポルトランドセメントに対して固形分換算で0.01〜1.5質量%含有されるように混合することが好ましい。
【0014】
前記のような量のポリカルボン酸系混和剤を混合することで、より流動性と硬化速度とのバランスをとることができる。
尚、本発明において、前記ポリカルボン酸系混和剤の含有量は固形分に換算した量である。
【0015】
本発明においては、前記硫酸リチウムを、前記ポルトランドセメントに対して1.0〜5.0質量%含有されるように添加することが好ましい。
【0016】
尚、本発明において、前記硫酸リチウムの含有量は、硫酸リチウム濃度としての含有量である。
前記のような量の硫酸リチウムを添加することで、より流動性と硬化速度とのバランスをとることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、施工時には比較的長時間流動性を維持することができ、且つ比較的短時間で強度が得られるセメント硬化体を低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のセメント硬化体の製造方法は、ポルトランドセメントとポリカルボン酸系混和剤とを混合した混合物に水を添加して混練し、水の添加後30分〜120分間の間に前記硫酸リチウムを添加するセメント硬化体の製造方法である。
【0019】
前記ポルトランドセメントとしては、JISに規定されている普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント等が挙げられる。
特に、早強ポルトランドセメントを用いることが施工性、強度発現性および経済性の観点から好ましい
【0020】
前記ポリカルボン酸系混和剤としては、従来公知の種々のものを用いることができる。
例えば、炭素原子数が2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリキシアルキレン鎖を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体、あるいは、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の特定の不飽和アルコールにエチレンオキシド等を付加したアルケニルエーテル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体などが挙げられる。
【0021】
ポリカルボン酸系混和剤の市販品としては、BASFポゾリス社のレオビルドSP8LS、同SP8N、同SP8S、同SP8SV、同SP8SE、同SP8SBS、同SP8SBM、同SP8SBL、同SP8SBLL、同SP8HV、同SP8HE、花王社のマイティ3000S、同3000H、同3000V、グレースケミカルズ社のダーレックススーパー100PHX、同100PHW、同100PEC、竹本油脂社のチューポールHP−8、同HP−11、同SSP−104、日本シーカ社のシーカメント1100NT、同2300、及びフローリック社のフローリックSF500S、同SF500H等が挙げられる。
【0022】
前記ポリカルボン酸系混和剤は、前記セメントに対して、固形成分に換算して0.01〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%、さらに好ましくは0.3〜1.0質量%含有されるように混合されることが好ましい。
かかる含有量の範囲内であれば、流動性の保持と、短時間での強度発現性を付与できるためである。
【0023】
前記硫酸リチウムは、硬化促進剤として用いられる公知のものを適宜使用することができる。硫酸リチウムは粉末状あるいは水溶液の状態で添加することが好ましい。
硫酸リチウムは、前記セメントに対して1.0〜5.0質量%、好ましくは1.5〜3.0質量%添加されることが好ましい。
かかる含有量の範囲内であれば、短時間での強度発現性を付与できるためである。
【0024】
本実施形態のセメント硬化体は、さらに骨材を含んでいても良い。
骨材としては、公知の細骨材もしくは粗骨材のうちのいずれか一方、または、両方とも含まれていても良い。
前記粗骨材としては、例えば、砕石、川砂利、天然軽量粗骨材(パーライト、ヒル石等)、副産軽量粗骨材、人工軽量粗骨材、再生骨材等が挙げられる。
前記細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂、天然軽量細骨材(パーライト、ヒル石等)等の天然細骨材や砕砂、人工軽量細骨材、高炉スラグ細骨材等の人工細骨材、副産軽量細骨材等が挙げられる。
【0025】
前記骨材については、例えば、モルタル硬化体を施工する場合には細骨材を、セメント100質量部に対して0.5〜5.0質量部、好ましくは1.0〜3.0質量部程度配合することが流動性確保および材料分離抑制の観点から好ましい。
例えば、コンクリート硬化体を施工する場合には、セメント100質量部に対して細骨材を1.0〜3.0質量部、好ましくは1.2〜2.0質量部程度配合し、粗骨材を1.5〜4.0質量部、好ましくは2.0〜3.0質量部程度配合することが流動性確保および材料分離抑制の観点から好ましい。
【0026】
本実施形態のセメント硬化体には、さらに凝結遅延剤、流動化剤などの公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0027】
本実施形態のセメント硬化体の製造方法においては、まず、前記ポルトランドセメントとポリカルボン酸系混和剤と、必要に応じて前記骨材とをミキサーなどの公知の混合装置を用いて混合して混合物を得る。
【0028】
さらに、前記混合物に水を添加する。
添加する水の量は、例えば、セメント硬化体をコンクリートとして用いる場合には、W/C(水/セメント比率)=25〜40質量%、セメント硬化体をモルタルとして用いる場合には、W/C(水/セメント比率)=25〜40質量%となるような量であることが好ましい。
【0029】
前記混合物に水の全量を添加し終えたら直ちに混練を開始する。
混練は、公知の混練装置、例えば、二軸強制ミキサーND55型、太平洋機工社製を用いて温度20℃で行なうことができる。
【0030】
前記混合物に水を入れ終えた時間を0時間として、この水の添加後30分から120分間の間に、前記硫酸リチウムを添加する。
【0031】
前記硫酸リチウムを添加してからさらに0.5〜1.5分間混練することで、セメントペーストとしての混練物を得ることができる。
【0032】
前記セメントペーストは、施工までの間、すなわち混練終了から施工までの間は流動性を維持できるため、通常のセメントペーストと同様に、セメント工場で混練してからアジテート車などを用いて施工現場まで運搬することが可能である。
【0033】
現場まで運搬されたセメントペーストは道路など目的の施工場所に施工されてセメント硬化体が得られる。
かかるセメント硬化体は、施工後に比較的短時間で所定の実用強度を発現するため、道路の舗装工事、補修工事などに用いた場合には、交通を止める時間が短時間ですみ、かかる用途に適している。
また、施工時間が短く且つ現場における混練設備も不要であるため、短時間で実用強度が得られるセメント硬化体の施工作業を、低コストで行なえる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0035】
<使用材料>
各実施例および比較例として使用するセメント組成物(コンクリート用)の材料を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
前記材料のうち、セメント、細骨材、粗骨材が表2に示す質量比率になるように混合する。
水は、セメントに対する質量比で表3に示す各割合(W/C%)になるように調整する。
尚、ポリカルボン酸系混和剤AおよびB、メラミンスルホン酸系混和剤は固形成分に換算した場合のセメントに対する質量%が表3に示す各量になるように調整する。
【0038】
【表2】

【0039】
<製造方法>
前記各材料を用いてセメント硬化体を製造する方法について説明する。
まず、セメント及び骨材を、混合装置(二軸強制ミキサーND55型、太平洋機工社製)に入れ、20℃、0.5分間混合する。
次に、前記混合物を混練装置(二軸強制ミキサーND55型、太平洋機工社製)に入れて、分量の水およびポリカルボン酸系混和剤A、B又はメラミンスルホン酸系混和剤を注入し混練する。
水を注水後、ただちに混練するが、水を注水終了時を0時間とし、表3に示す硫酸リチウム添加時間までそれぞれ混練した後に、硫酸リチウムをセメントに表3に示す各量を添加する。
尚、比較例1については注水終了と同時に硫酸リチウムを添加する。
その後、さらに1.5分間混練して、各実施例および比較例のセメントペーストを得る。
【0040】
<スランプ試験>
各実施例および比較例のセメントペーストの、混練終了直後、混練終了30分経過後、および60分経過後のスランプ試験をJIS A 1101に準拠して行なった結果を表3に示す。
【0041】
<曲げ強度試験>
各実施例および比較例のセメントペーストを、JIS A 1132に準拠して作製した供試体(セメント硬化体)を温度20℃、湿度60%の条件で12時間放置した後の曲げ強度試験をJIS A 1106に準拠して行なった結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示すように、各実施例では、混練終了から60分経過後でも、スランプ試験結果がいずれも5.5cm以上あり、流動性が高いことが明らかである。また、各実施例では12時間経過後の曲げ強度が3.5N/mm2以上であった。
【0044】
以上のように、各実施例のセメント組成物からなるセメントペーストは混練後60分経過後にも高い流動性を維持しており、且つ各実施例のセメント硬化体は12時間で高い曲げ強度が発現していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントとポリカルボン酸系混和剤とを混合した混合物に水を添加して混練し、水の添加後30分〜120分間の間に硫酸リチウムを添加することを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸系混和剤を、前記ポルトランドセメントに対して固形分換算で0.01〜1.5質量%含有されるように混合する請求項1に記載のセメント硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸リチウムを、前記ポルトランドセメントに対して1.0〜5.0質量%含有されるように添加する請求項1または請求項2に記載のセメント硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2013−67535(P2013−67535A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207612(P2011−207612)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】