説明

セメント系組成物

【課題】2種類の水溶性低分子化合物を組合わせて成る増粘性混和剤を用いて製造されるセメント系組成物の特性を更に向上させる。
【解決手段】セメントを含む結合材と、水と、骨材とに、増粘性混和剤と化学混和剤とを添加し混練して製造されるセメント系組成物において、上記増粘性混和剤を、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する粉末混和剤とし、かつ、上記粉末混和剤中の上記第1及び第2の粉体の配合量を、それぞれ、単位水量に対して0.15〜1.7重量%とするとともに、上記化学混和剤をカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉末とし、これを、結合材に対して0.5〜5.0重量%配合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性に優れるとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド工法の直打ちコンクリートライニング材などに使用されるコンクリート組成物として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とから成る増粘性混和剤を用いた、早強性に優れるとともに、耐水性にも優れたコンクリート組成物が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、上記増粘性混和剤は、トンネル覆工コンクリートの補修を目的として使用されるモルタル組成物にも用いられており、これにより、流動性、自己充填性、材料分離抵抗性に優れるとともに、セルフレベリング性、水中不分離性に優れたモルタル組成物を得ることができる(例えば、特許文献3参照)。
上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とがある一定の割合でセメント中に混入されると、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物とが電気的に配列して擬似ポリマーを形成する。これにより、上記増粘性混和剤は増粘剤として機能して適度な粘性を確保することができるだけでなく、粘性がある程度高くなっても流動性を損なうことがないので、流動性や材料分離抵抗性に優れるとともに、水中不分離性にも優れたセメント組成物を得ることができる。
なお、上記第1の水溶性低分子化合物と第2の水溶性低分子化合物との配合の割合としては、1:1とした場合に最も優れた特性が得られる。
【特許文献1】特開2005−281088号公報
【特許文献2】特開2005−281089号公報
【特許文献3】特開2006−176397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とを同時に添加すると、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とが不均質な状態で擬似ポリマーを形成してしまうので、擬似ポリマーを均質な状態で形成させて所望の特性を得るためには長時間の混練が必要となる。
そこで、上記早強性耐水コンクリート組成物を製造する際には、はじめに、セメント、水、細骨材に第2の水溶性低分子化合物を添加して混練して混練物を作製した後、上記混練物に第1の水溶性低分子化合物を添加して再度混練し、最後に粗骨材を加えて混練するようにしていたが、製造に時間がかかるだけでなく、上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物とは結合し易いので、再混練においてもセメントと十分に混合されない状態でポリマーを形成してしまい、そのため、増粘剤の機能を十分に発揮できないといった問題点があった。
このような問題は、上記早強性耐水コンクリート組成物や高流動モルタル組成物の製造に限らず、他のコンクリート組成物やモルタル組成物などの、上記増粘性混和剤を配合したセメント系組成物を製造する場合にも問題となっている。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、2種類の水溶性低分子化合物を組合わせて成る増粘性混和剤を用いて製造されるセメント系組成物の特性を更に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、セメントを含む結合材と、水と、骨材と、増粘性混和剤と化学混和剤とを混練して成るセメント系組成物であって、上記増粘性混和剤が、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する粉体混和剤であり、上記化学混和剤がカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体であって、上記粉体混和剤中の上記第1及び第2の粉体の配合量が、それぞれ、単位水量に対して0.15〜1.7重量%であり、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量が、結合材に対して0.5〜5.0重量%であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記骨材を細骨材のみとしたセメント組成物(モルタル組成物)であって、水結合材比が30〜70%、単位水量が350〜450kg/m3、上記第1及び第2の粉体の配合量が、それぞれ、単位水量に対して0.15〜0.5重量%、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量が、結合材に対して0.1〜0.3重量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セメント系組成物を作製する際にセメントを含む結合材と水と細骨材とに添加する増粘性混和剤とセメント系混和剤とを、それぞれ、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する粉体混和剤、及び、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体とするとともに、上記粉体混和剤中の上記第1及び第2の粉体の配合量を、それぞれ、単位水量に対して0.15〜1.7重量%とし、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量を、結合材に対して0.5〜5.0重量%としたので、優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。
また、上記セメント組成物をモルタルとする場合には、水結合材比を30〜70%、単位水量を350〜450kg/m3、上記第1及び第2の粉体の配合を、それぞれ、単位水量に対して0.15〜0.5重量%、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量を、結合材に対して0.1〜0.3重量%とすれば、流動性、材料分離抵抗性、及び、水中不分離性に優れたモルタル組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態係るセメント系組成物について説明する。
本発明の最良の形態に係るセメント系組成物は、セメント、水、細骨材に、セメント混和剤を配合するとともに、増粘性混和剤として、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物と、アニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物とを含有する混和剤を用いたモルタル組成物である。
本例では、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物をそれぞれ乾燥させて粉体の形態とし、これをセメント及び細骨材に混合するとともに、これらに、セメント混和剤であるカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉体と膨張材の粉体と消泡剤の粉体とを添加してプレミックしたセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体に加水し混練してモルタル組成物を作製する。上記セメント、第1及び第2の水溶性低分子化合物の粉体(以下、増粘性混和剤粉体という)、及び、膨張材が上記細骨材同士を結合する結合材となる。
【0008】
上記セメントとしては、石灰石・粘土・酸化鉄などを原料とした普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントなどの混合セメントを用いることができる。
このとき、水と上記結合材との比である水結合材比(W/B)を30〜70%とすることが好ましい。水結合材比が30%未満であると結合材の量が多すぎるため粘性が増加し、必要な流動性が確保できない。また、70%を超えると結合材の量が過小となって、必要強度が得られないだけでなく、ブリーディングにより耐久性状の品質も低下するので、水結合材比としては30〜70%とすることが好ましい。
また、単位水量としては、350〜450kg/m3とすることが好ましい。単位水量が350kg/m3を下回る場合には流動性の低下が認められ、450kg/m3を超えるような場合には、材料分離の可能性が高くなるとともに、収縮等の耐久性状が低下するため、単位水量は350〜450kg/m3とすることが好ましい。
なお、上記モルタル組成物に用いられる細骨材としては、一般に用いられている粗粒率が2.7前後である細骨材を用いることができるが、粗粒率が2.05〜2.50である粗目と細目の中間粒度の細骨材を用いてもよい。
【0009】
本発明に用いられる第1の水溶性低分子化合物としては、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、特に、アルキルアンモニウム塩を主成分とする添加剤が好ましい。また、第2の水溶性低分子化合物としては、芳香環を有するスルフォン酸塩が好ましく、特に、アルキルアリルスルフォン酸塩を主成分とする添加剤が好ましい。
上記第1の水溶性低分子化合物と上記第2の水溶性低分子化合物との添加量は、単位水量に対して、それぞれ0.15〜0.5重量%の割合で配合することが好ましい。
上記配合量は、従来の混練を2度の分けて行う場合の第1及び第2の水溶性低分子化合物の配合比よりも低い範囲にある。これは、本例では、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物をそれぞれ乾燥させて粉体の形態とし、これをセメント及び細骨材にプレミックスした後に加水・混練することによるものである。すなわち、プレミックスにより、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物の粉体がセメントの周りに均一に分布するので、加水・混練時には、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物が結合したポリマーが近くにあるセメントと結合するので、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物を増粘剤として十分に機能させることができる。
また、本例では、上記セメント混和剤として、上記増粘性混和剤との相溶性に優れたカルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤を配合している。
上記カルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤の配合量としては、上記結合材に対して、0.1〜0.3重量%とすることが好ましい。
また、膨張材としては石灰複合系膨張材、消泡剤としてはシリコン系の消泡剤を用いることが好ましい。
【0010】
このように、本実施の形態では、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物をそれぞれ乾燥させて粉体の形態とし、これをセメント及び細骨材に混合するとともに、これらに、セメント混和剤であるカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉体と膨張材の粉体と消泡剤の粉体とを添加してプレミックしたセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体に加水し混練してモルタル組成物を作製するようにしたので、増粘剤増粘剤の機能を十分に発揮できるだけでなく、混練が1回で済むので、製造効率を大幅に向上させることができる。
このとき、上記第1及び第2の水溶性低分子化合物を、それぞれ、単位水量に対して0.15〜0.5重量%となるように配合するとともに、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体を、結合材に対して0.1〜0.3重量%配合することが肝要で、これにより、優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたモルタル組成物を得ることができる。
【0011】
なお、上記実施の形態では、増粘性混和剤が配合されたモルタル組成物について説明したが、これに限るものではなく、上記第1及び第2の粉体とセメントと細骨材と膨張材粉体とカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体とをプレミックスしたセメント系混合物粉体を準備し、このセメント系混合物粉体と粗骨材と水とを混合して混練すれば、流動性とフレッシュコンクリート経時保持性とに優れるとともに、水中不分離性、材料分離抵抗性にも優れたコンクリート組成物を得ることができる。
【実施例】
【0012】
セメントと、細骨材と、第1及び第2の水溶性低分子化合物の粉体から成る増粘性混和剤と、カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤の粉体と、膨張材の粉体と、消泡剤の粉体とをプレミックスしたセメント系混合物粉体に加水して混練し、モルタル組成物を作製し、水中不分離性、流動性、及び、材料不分離特性について調べた。
このときに使用した材料の詳細は以下の通りである。
セメント ;普通ポルトランドセメント:密度 3.16g/cm3
細骨材 ;珪砂:4号,5号,6号:密度 2.58g/cm3
膨張材 ;エントリガイト・石灰複合系膨張材(商品名;デンカパワーCSA)
:密度 3.10g/cm3
水 ;水道水:密度 1.00g/cm3
増粘性混和剤 ;アルキルアリルスルフォン酸塩基系及びアルキルアンモニウム系混合特殊分散剤(商品名;ビスコトップ200P)
セメント混和剤;カルボキシル基含有ポリエーテル系減水剤(商品名;マイティ21P)
消泡剤 ;シリコン系消泡剤(商品名;FSアンチフォームDC2-4248S)
図1は、上記モルタル組成物の、上記第1の粉体と上記第2の粉体とを混合した増粘性混和剤(Vt)の単位水量に対する添加量(W×%)と水中気中強度比(%)との関係を調べた結果を示すグラフである。
上記水中気中強度比は、水中で作製した試験体の圧縮強度と気中で作製した試験体の圧縮強度との比で、材齢はいずれも7日である。この比が100%に近いほど水中で打設した際の水の巻き込みが小さく、水中不分離性に優れている。
一般に、水中気中強度比が70%以上のものが水中不分離性に優れた材料であるとされている。図1のグラフより、単位水量に対する上記増粘性混和剤(Vt)の適切な割合の下限は0.15重量%であることが分かる。また、上記増粘性混和剤(Vt)の単位水量に対して割合が0.5重量%を超えると、水中気中強度比の大きさはあまり変化しないので、セメント系組成物がモルタルである場合には、上記増粘性混和剤(Vt)の割合の上限を0.5重量%とすることが好ましい。
また、単位水量に対する増粘性混和剤(Vt)を0.15〜0.5重量%としたモルタル組成部を作製し、その流動性について、フロー試験の5分フローにより評価したところ、いずれも、200〜300mmの範囲にあり、流動性についても満足していることが分かった。
また、上記モルタル組成物は、ブリーディングも0であり、材料不分離特性についても満足していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、増粘性混和剤の増粘効果を十分に発揮させることができるので、優れた流動性、材料分離抵抗性を有するとともに水中不分離性にも優れたセメント系組成物を得ることができる。また、本願発明のセメント系混合物粉体はプレミックス材であることから、混練が1回で済むので、製造効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】増粘性混和剤の使用量と水中気中強度比との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む結合材と、水と、骨材と、増粘性混和剤と化学混和剤とを混練して成るセメント系組成物であって、上記増粘性混和剤が、カチオン性界面活性剤から選ばれる第1の水溶性低分子化合物から成る第1の粉体とアニオン性芳香族化合物から選ばれる第2の水溶性低分子化合物から成る第2の粉体とを含有する粉体混和剤であり、上記化学混和剤がカルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体であって、上記粉体混和剤中の上記第1及び第2の粉体の配合量が、それぞれ、単位水量に対して0.15〜1.7重量%であり、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量が、結合材に対して0.5〜5.0重量%であることを特徴とするセメント系組成物。
【請求項2】
上記骨材は細骨材であり、かつ、当該セメント系組成物の水結合材比が30〜70%、単位水量が350〜450kg/m3、上記第1及び第2の粉体の配合量が、それぞれ、単位水量に対して0.15〜0.5重量%、上記カルボキシル基系ポリエーテル系減水剤粉体の配合量が、結合材に対して0.1〜0.3重量%であることを特徴とする請求項1に記載のセメント系組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−230914(P2008−230914A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73295(P2007−73295)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】