説明

セメント組成物およびその製造方法

【課題】産業廃棄物としてのペーパースラッジの有効利用を図るとともに、従来は発生しやすいと言われていた高い水セメント比条件(80%以上)での材料分離を抑制することができ、また、エアーを加える軽量コンクリートや軽量盛土では打設時の自重による気泡の収縮率を改善する効果があるものである。
【解決手段】 軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物としては、セメントと水に、填料を主成分とする生のペーパースラッジを混合してなり、必要に応じて流動化剤を添加する、また、気泡もしくは起泡剤を混合する。製造方法としては、 填料を主成分とする生のペーパースラッジに加水調整し、スラリー状もしくはペースト状になるまで攪拌し、セメントを添加し、混合攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い水セメント比(以下「W/C」という)条件での材料分離の改善、打設時の自重による気泡収縮の改善が可能となる、填料を主成分とする生のペーパースラッジを細骨材として用いた材料不分離性・耐圧縮性に優れた、軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の軽量モルタル、軽量盛土や15N/mm2以下の低強度モルタルとして、セメント・水・場合により砂等の骨材で構成されたモルタル、セメントペースト材料に起泡剤を混合発泡することで作られるエアーモルタルが一般に広く使用されている。
【0003】
一方、ペーパースラッジを焼却・乾燥などにより硬化させ粒状にした材料を軽量混和材料として、セメントと水に混合し、比重の軽いモルタル、セメントペーストを作る技術がある。また、ペーパースラッジを焼却した灰をモルタル、セメントペーストにまぜ、強度増加や耐火・遮音効果などを持たせる技術がある。
【0004】
下記特許文献は、出願人が先に特許出願したもので、軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のモルタル、セメントペースト材ではなく、地山の空洞部や間隙部等の充填材として、また、トンネル、発電所・ダム等における導水路、石垣、土留め壁、橋台等の構造物の裏込め材として使用する空洞充填材で、対象や目的は全く相違するが、セメントを含む組成物にペーパースラッジを添加してなることを特徴とする。
【特許文献1】特開2005−132684号公報
【0005】
この特許文献1では、従来より使用されてきたセメントベントナイトモルタルに、産業廃棄物とされていたPaper Sluge Material(以下「PSM」という)を添加材料として有効利用した材料を、地山の空洞部や間隙部等の充填材として使用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エアーモルタルでは、経済性向上あるいはワーカビリティ改善のため、所定の品質を確保する範囲でW/Cを高めることが有効である。一方でW/Cの上昇にともなってブリージングが増大し、硬化体の強度が低下する。そのため所定の品質を確保する範囲内でしかW/Cを高めることはできない。
【0007】
また、W/Cが高い(80%以上)エアーモルタルの場合、液相の粘性が低いため、気泡が浮き上がり、上方に集まって層を形成する。さらにその下がブリージング水の層、セメント粒子の層、砂の層に分かれて、材料の均一性が失われる。このため、以上の問題を起こさない程度にW/Cを抑え、かつコストを下げるためにエアーを大量に入れることで対応することもある。
【0008】
さらに、軽量コンクリートや軽量盛土では、打設後に気泡の収縮あるいは消散が発生する。これは、打設時のリフト高が高くなるに従い、材料の自重が増大し、材料に混入されている気泡が圧力を受け収縮消散することが原因である。このため、1回の打設高を大きくすると材料自重による気泡収縮が顕著になるので、特に打設面からの深度が大きい部分では比重が大きくなり所定の品質が確保できない。また、打設面からの深度による比重差が生じる、等の問題があり、対策として、軽量コンクリート・軽量盛土の打設リフト高を制限することで対応しており、一般に1mとされている。
【0009】
なお、前記特許文献1は、セメントを含む組成物にペーパースラッジを添加してなることを特徴とするが、填料を主成分とする生のペーパースラッジを使用するものでなく、ペーパースラッジを燃焼させ、これを破砕して生産したもの(PSM)であり、さらに、材料自重による気泡収縮への対策も明示されていない。
【0010】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、従来は発生しやすいと言われていた高いW/C条件(80%以上)での材料分離を抑制し、また、エアーを加える軽量コンクリートや軽量盛土では打設時の自重による気泡の収縮率を改善する効果がある軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するため、セメント組成物としては、第1に、セメントと水に、填料を主成分とする生のペーパースラッジを細骨材として混合してなること、第2に、流動化剤を添加すること、第3に、気泡もしくは起泡剤を混合することを要旨とするものである。
【0012】
軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物の製造方法としては、填料を主成分とする生のペーパースラッジに加水調整し、スラリー状もしくはペースト状になるまで、攪拌し、セメントを添加し、十分に混ざり合うまで、混合攪拌することを要旨とするものである。
【0013】
本発明によれば、填料を主成分とする生のペーパースラッジを用いることで、高いW/C(水セメント比)条件で、材料の分離を有効に抑制することができる。特に、軽量コンクリート・軽量盛土では、従来の材料に比べ、気泡収縮を半分以下に抑制する効果がある。
【0014】
このようにして、本発明は、セメント使用量の抑制によるコスト削減や打設高さの変更に伴う施工能率の向上を可能とする。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように本発明の軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物およびその製造方法は、産業廃棄物としてのペーパースラッジの有効利用を図るとともに、従来は発生しやすいと言われていた高いW/C条件(80%以上)での材料分離を抑制することができ、また、エアーを加える軽量コンクリートや軽量盛土では打設時の自重による気泡の収縮率を改善する効果があるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面について本発明の実施形態の例を詳細に説明する。本発明は軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等に使用するセメント組成物であり、セメントと水と填料を主成分とする生のペーパースラッジ(生PS填料)からなり、必要に応じて流動化材を混合し、さらに起泡剤を発泡させたエアーを混合することで出来るセメント組成物である。セメント組成物とは、モルタルまたはセメントペースト、その他セメントからなる組成物をいう。
【0017】
その材料配合を下記表1に示す。
【0018】
【表1】

水は生のペーパースラッジ自身が填料に対して150〜200%程度有するが、これに加水する形で、300〜2000%の加水調整を行う。セメントはこの水に対する割合である。
【0019】
前記各材料の説明は以下の通りである。
・セメント
土木工事で一般に使用される普通セメント・高炉セメント・早強セメントなどを用いる。
・填料を主成分とする生のペーパースラッジ(生PS填料)
生のペーパースラッジであり、紙を製造する際に発生する汚泥である。ペーパースラッジを焼却・乾燥などにより硬化させ粒状にしたものやペーパースラッジを焼却した灰ではない。生のペーパースラッジの主成分である填料は、主に、紙に含まれる鉱物質であり、例えば白土、滑石、炭酸カルシウムなどの無機物より構成される。
・流動化剤
土粒子の分散性、流動性を高める目的で使用される混和材料である。主なものにリグニンスルホン酸系、オキシカルボン酸系、ポリカルボン酸系、ナフタリン系、メラミン系の界面活性剤がある。
これらの材料が表面に吸着した土粒子はマイナスに帯電し、互いに反発するようになる。その結果、土粒子はフロック(凝集体)から解放され、液相中を円滑に動くことが可能になると考えられている。
本発明においては、これらの中でも、ポリカルボン酸系の界面活性剤が好適である。
・起泡剤
軽量コンクリートや軽量盛土としてモルタルにエアーを混合発泡する際に使用される。主な材料に、界面活性剤系・たん白系の材料がある。本発明も、従来の起泡剤と同じ材料で種類を問わず使用する。
【0020】
次に、本発明のセメント組成物の製造方法について説明する。
(1)填料を主成分とする生のペーパースラッジ(生PS填料)の現状の含水比を測定し加水量を決定する。
(2)生PS填料に加水調整し、スラリー状もしくはペースト状になるまで、ミキサーにより攪拌する。
(3)加水調整を低い水量(生PS填料含水比750%未満)で抑えたい場合は、流動化剤を添加(添加量は、生PS填料の種類により異なる)する。
(4)セメントを添加し、十分に混ざり合うまで、ミキサーで攪拌する。
(5)起泡剤を各種類ごとにメーカーが推奨する希釈倍率で水に薄め、起泡装置により気泡した後、前述までの製造方法で作成した材料と混合する。なお、起泡剤の種類により、原液もしくは粉末を直接前述までの製造方法で作成した材料と混合することも可能である。
【0021】
次に、本発明のセメント組成物の効果を確認する。試験結果について説明する。
【0022】
[室内試験結果]
現在、把握している品質性能について、下記表2に記載する。
【表2】

【0023】
・一軸圧縮試験
各試験パターンの材料を、5cm×10cmのプラスチック製のモールドへ、フレッシュな状態で詰め込み、詰め込み時に混入するエアーを振動により抜き、材令28日となるまで従来のモルタル、セメントペースト材料同様の養生を行う。その後、一軸圧縮試験機により、一軸圧縮強度の測定を行う。
・ブリージング試験
土木学会基準「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)」(JSCE-F 522-1999)に準拠した方法で、グラウト材の材料分離抵抗性(ブリージング率)を測定する。
(用具)
(1) ポリエチレン袋(グラウト材を入れた状態でその径が約50mmとする長さ500mm以上のもの、ポリエチレンの厚さは0.05mm程度、底は角底)
(2) メスシリンダー(容量1000ml)
(試験方法)
(1) ポリエチレン袋の中にグラウト材を約20cmの高さまで充填する。
(2) 水を400ml入れたメスシリンダーの中に、静かにまた空気が混入しないようにグラウト材を充填したポリエチレン袋を挿入する。
(3) メスシリンダー中の水面とグラウト材の面が一致するまでポリエチレン袋を下げ、このときのメスシリンダーの読みから400mlを差し引くことにより、グラウト材の体積Vmlを求める。
(4) ポリエチレン袋の上端を結び、これをつるして静置する。
(5) 測定開始後24時間以上経過したら、(2)、(3)と同じ要領でブリージングによる水の面とグラウト材の面をそれぞれ読み取り、前者から後者を差し引くことによってブリージングによる水量Bmlを求める。
(6) 次の式によってブリージング率を算出する。
ブリージング率(%)=B/V×100
・フロー試験
各試験パターンの材料を、「JISR5210フロー試験」に準じて試験した。
【0024】
試験方法は下記の通りである。
(1)シリンダーをフローテーブルの中央に静置する。
(2)シリンダーに、材料を詰めたのち静かにシリンダーを取り去る。
(3)テーブルを1回/秒の間隔で上下運動させ、動的に流動させる。
(4)材料が広がって1分後に、最大と認められる方向の径と、これに直角方向の径を測定する。
【0025】
・その他(エアー量の計測)
エアー量の計算は、以下の式に基づき行った。
空気量(%)={(エアー混入前比重―エア混入後比重)÷エア混入前比重}×100
【0026】
打設試験で得られた品質性能について、以下に記載する。
直径300mm・高さ5mの筒に本発明の材料を打設し、20日程度養生期間を置いて、0.5mピッチで切断し、体積と重量について測定した。その結果を以下の表3に示す。なお、打設時の材料配合についても以下に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
図1に、打設面からの深度と湿潤密度の関係を示す。なお、深度0.0m〜0.5mについては、データが欠損している。
【0029】
以上の試験結果より、従来の軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペーストと品質性能を特徴別で比較する。
・材料分離(ブリージング)
従来のセメントペーストはW/Cが高いほど、軽量コンクリート・軽量盛土は、W/Cが高いかもしくは骨材粒子が大きいほど、材料分離を生じる。特に、W/Cが100%程度からこの傾向は顕著に現れ、目視においても材料分離の確認ができる。しかし、本発明の材料では材料分離は確認されていない。
・気泡収縮(深度による湿潤密度の変化)
軽量盛土として用いられるエアーモルタルの湿潤密度は、打設面の深度が2m増すと0.10 g/cm3以上、4m増すと0.25 g/cm3以上増加する(配合による若干の相違はある)。一方、本発明のセメント組成物の湿潤密度は、打設面の深度0.75m(区間0.5〜1.0m)で0.86 g/cm3、打設面の深度4.75m(区間4.5〜5.0m)で0.95 g/cm3であり、打設面の深度が4.0m増しても0.09 g/cm3しか増加していない。
【0030】
これらの結果を考察すると、填料を主成分とする生のペーパースラッジ(生PS填料)が材料分離・気泡収縮を抑制していることが明白である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のセメント組成物の打設面からの深度と湿潤密度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水に、填料を主成分とする生のペーパースラッジを混合してなることを特徴とする軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物。
【請求項2】
流動化剤を添加する請求項1記載の軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物。
【請求項3】
気泡もしくは起泡剤を混合する請求項1または請求項2記載の軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物。
【請求項4】
填料を主成分とする生のペーパースラッジに加水調整し、スラリー状もしくはペースト状になるまで攪拌し、セメントを添加し、混合攪拌することを特徴とした軽量コンクリート・軽量盛土・セメントペースト等のセメント組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−50192(P2008−50192A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226693(P2006−226693)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】