説明

セメント組成物の凝固および/または硬化を促進するための促進剤組成物

少なくとも1種のα−アミノ酸を含む、セメント組成物を含有する材料の凝固および/または硬化を促進させるための促進剤組成物である。また、かかる促進剤組成物を含むセメント組成物の塗布方法および得られる硬化したセメント層を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の凝固および/または硬化を促進するための促進剤組成物、促進剤組成物を含むセメント組成物の塗布方法および硬化したセメント層に関する。
【0002】
特に基材にスプレーした場合、コンクリートなどのセメント組成物は、非常に迅速に凝固しなければならない。かかる使用のために、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属水酸化物を含む、強力な促進剤を使用してきた。しかしながら、これらの促進剤は、強アルカリ性であることから、それらは、非常に不快な取扱および作業条件をもたらす。したがって、アルミニウム化合物含有の低アルカリおよびアルカリフリーの促進剤が提案されてきた。加えて、様々な他の化合物、例えば酸が、かかる促進剤に添加されてきた。
【0003】
作業条件の他に、セメント組成物用の促進剤は、トンネル内で直面するより過酷な条件でしばしば使用され、高い周囲温度で長期間にわたり保存されることから、許容できる安定性も示すべきである。かかる条件は、促進剤のゲル化あるいはその中に溶解したまたは分散させた材料の沈殿をもたらし得る。このため、セメント組成物の凝固および硬化を改善させることだけでなく、また、妥当な品質保持期限を示すことが、実用的な促進剤にとって重大である。
本発明の目的は、セメント組成物用に改善された促進剤組成物を提供することである。
【0004】
驚くべきことに、α−アミノ酸が、特に高温で(≧30℃)、水硬性バインダ(hydraulic binder)用、すなわちセメント材料用の凝固および/または硬化促進剤の保存安定性、および/またはそれらの性能を改善することが見出された。したがって、本発明は、少なくとも1種のα−アミノ酸を含むセメント組成物の凝固および/または硬化を促進するための促進剤組成物を提供する。
【0005】
本発明の促進剤組成物中に、α−アミノ酸が、促進剤組成物の約0.1〜50重量%、好ましくは約0.2〜15重量%、最も好ましくは約0.5〜10重量%の用量で存在してもよい。セメント材料用にこれらの範囲内のα−アミノ酸を促進剤組成物に含ませることにより、促進剤組成物の保存安定性の長期化および/またはそれを添加したセメント材料の凝固および/または硬化の改善を確実にする。
【0006】
α−アミノ酸は、好ましくはアラニン、シスチン、システイン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、プロリン、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファンおよびチロシンから選択される、ならびに/あるいは好ましくは上記化合物のDまたはLD立体配置、より好ましくはDアラニン、LDアラニンおよびβ−アラニンから選択される合成アミノ酸である。さらに、塩基性および酸性アミノ酸、例えば上記グルタミン酸塩を、それらの塩の形態で使用してもよい。これらの化合物は、簡単に入手でき、さらに、促進剤の品質保持期限ならびに/あるいは促進剤を添加したセメント組成物の凝固および/または硬化特性を促進させる。
【0007】
さらに、促進剤組成物は、上に示したように、アルカリフリーの促進剤であってもよく、好ましくは少なくとも1つのアルミニウム化合物、例えばアルミニウム塩および/または水酸化アルミニウムを含む。したがって、本発明の促進剤組成物は、保存安定性を長期化させるのみならず、および/または促進剤組成物含有のセメント混合物の凝固および/または硬化を改善するのみならず、セメント組成物の加工中の許容できる作業条件をもたらす。
【0008】
任意に、硫酸塩などの1種または2種以上の他の塩、および/または1種または2種以上の酸を、本発明の促進剤組成物中に含んでもよい。好ましい硫酸塩は、硫酸アルミニウムおよび/または硫酸マグネシウムである。好適な無機酸は、フッ酸、リン酸、亜リン酸および/またはピロリン酸から選択される。ギ酸、クエン酸、乳酸および/またはアスコルビン酸などの有機酸もまた、存在してもよい。さらに、1種または2種以上のアミン類、例えばアルカノールアミン類を、任意に含んでもよい。
【0009】
本発明はまた、α−アミノ酸およびアルミニウム塩を含有するセメント組成物の凝固および硬化を促進させるための促進剤組成物にかかる。
本発明に好適なアルミニウム塩は、好ましくは硫酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムを含む。本発明における使用のための硫酸アルミニウムを、当該技術分野において既知のかかる材料いずれも選択してもよい。好ましい材料は、硫酸アルミニウム水和物(hydrated aluminium sulphate)であり、多くの商用銘柄がある。さらに、非晶質水酸化アルミニウム(amorphous aluminium hydroxide)などのいかなる市販の水酸化アルミニウムをも使用してもよい。
すべてのかかる水酸化アルミニウムが満足のいく結果を出すにもかかわらず、より最近の製造日のものほど、より良い結果となることが当てはまる。少ない割合の炭酸アルミニウム(5重量%まで)を含有する水酸化アルミニウムは、溶解が容易であり、したがって好ましい材料である。
【0010】
本発明の促進剤組成物を形成するために混合した成分の重量パーセントの割合は、例えば、以下のとおりであり、100重量%の残りは水である。
【表1】

促進剤組成物はまた、アミン類、好ましくはジアルカノールアミンを含有することができる。
【0011】
使用の際、特にスプレーノズルに搬送された流動性セメント組成物を注入したとき、促進剤組成物の用量は、セメント組成物に含まれたセメント化合物の重量を基に、典型的には3〜12重量%である。
【0012】
したがって、本発明は、セメント組成物を基材に、好ましくはスプレーノズルを介してスプレーすることにより塗布する方法であって、1回分の流動性セメント組成物を混合するステップ、および、上に示した促進剤組成物を、好ましくはスプレーノズルで促進剤組成物をセメント組成物に注入することにより添加するステップを含む、前記方法を包含する。この手段により、セメント組成物の凝固および/または硬化は、確実に促進し、一方、特にスプレーすることによるセメント組成物の塗布の場合、時期を誤った(untimely)硬化を避ける。
【0013】
さらに、本発明にしたがって、上に示した促進剤を使用して、好ましくはスプレーノズルを介してスプレーすることにより、基材に塗布された、硬化したセメント層を提供する。
【0014】
本発明は、セメント組成物の調製のための上に示した促進剤組成物の使用を、さらに、セメント組成物の塗布方法における上に示した促進剤組成物の使用を対象とする。これにより、セメント組成物の凝固の高速化および/または初期および/または最終強度の増加、ならびに/あるいは促進剤の安定性の改善を確実にする。さらに、コンクリートなどのセメント組成物の凝固は、促進剤組成物のいくつかの場合、先行技術に比べてより遅くてもよく、セメント層の硬化により、より安定した構造が発達するため、これは、得られる硬化したセメント層の強度にとって有益である。
本発明は、全ての部およびパーセンテージを重量で表現する以下の非限定の例を参照に説明する。
【0015】

いくつかの本発明の促進剤およびいくつかの参照促進剤を各々モルタルミックスAまたはBに添加し、欧州規格(European Standard)196−1に従って、以下の構成を取る:
【表2】

【0016】
例1および2
2種の本発明の促進剤および1種の参照促進剤を、以下の組成物を有するよう調製した:
【表3】

【0017】
例1および参照1の保存安定性を評価するために、30および40℃での保存の数月後に、沈殿物の発生を観察した。結果は、以下のとおりである:
【表4】

【0018】
上記表からはっきり分かるように、グリシンを含む本発明の促進剤組成物は、30および40℃の高温で3.5月後、顕著な沈殿物を示す。それに対し、参照促進剤の顕著な沈殿物は、保存温度30℃で3月後および40℃で2月後、既に明確であった。このため、グリシン含有の促進剤は、参照促進剤と比較して保存安定性を明らかに改善させ、本発明の促進剤が、保存中、特に高温で優れた安定性を有することを実証した。
【0019】
本発明の促進剤組成物の性能を検討するために、各々モルタルAおよび上記促進剤のうちの1つを、セメントの6重量%の量で含む、3種のモルタル混合物をEN196−1に従って調製した。得られるモルタルの凝固時間を、EN196−3のビカット(Vicat)試験手順により測定した。加えて、EN196−1に従った圧縮強度試験を行った。結果を、以下の表に示す:
【表5】

【0020】
本発明の促進剤を含む両方のモルタル混合物は、参照1のモルタルと比較して、強度が改善することを示す。したがって、アミノ酸をアルミニウム化合物および酸を含む促進剤に混合することにより、セメント組成物の硬化が促進する。加えて、例1のモルタルは、よりゆっくりとした凝固が明らかになるのに対し、例2の促進剤は、参照に似た凝固作用をもたらす。
しかしながら、例1のゆっくりした凝固は、6時間後、1日後および7日後、優れた強度をもたらす。
【0021】
例3
保存安定性および強度成長について、アスパラギン酸を含む本発明の促進剤を、亜リン酸含有の参照促進剤と比較した。例3および参照3の促進剤組成物は、以下のとおりであった:
【表6】

【0022】
促進剤の保存安定性を、例1および2の手順に従って測定した。結果は、以下のとおりである:
【表7】

【0023】
上記表から明確なように、本発明の促進剤は、参照3の促進剤と比較して、保存中に安定性の改善を示す。
【0024】
上記モルタルAならびに例3および参照3の促進剤それぞれからなる混合物の強度成長を、例1および2の手順に対応して評価した。例3または参照3の促進剤をセメントの6重量%の量で含むモルタルAの機械的性質は、以下のとおりであった:
【表8】

【0025】
例3の凝固および強度成長の結果は、参照3の結果と似ている。このため、アスパラギン酸による亜リン酸の置換は、モルタルAの機械的性質にわずかな影響を及ぼすのみのようである。
【0026】
例4
本発明の促進剤および参照促進剤を調製し、それぞれモルタルBと混合し、各促進剤の量は、セメントの6重量%であった。促進剤の組成を、以下の表に示す:
【表9】

【0027】
得られるモルタル混合物の凝固および強度成長を、例1および2の手順を使用して検討した。結果は、以下のとおりである:
【表10】

【0028】
例4の結果、ならびに例1の結果は、促進剤組成物へのアミノ酸の添加は、参照モルタルと比較して、凝固がよりゆっくりであり、最終強度が改善されているモルタルを提供することを示す。
【0029】
例5
硫酸アルミニウムおよびジエタノールアミンを含むアルカリフリーの促進剤を、グリシンをさらに含有する促進剤組成物と比較した。2種類の促進剤の組成を、以下の表に示す:
【表11】

【0030】
両方の促進剤の性能を検討するために、これらをモルタルBとセメントの6重量%の量で混合した。強度成長を、上記に例1および2について説明したように試験し、以下の結果を示した:
【表12】

【0031】
上記表から明確であるように、アルカリフリーの促進剤にグリシンを添加することにより、凝固の高速化ならびに初期(6時間)および最終(7日)強度の改善がもたらされる。
【0032】
例6
保存安定性を評価するために、本発明の促進剤および先行技術を代表する対応する参照促進剤を調製し、上記に例1および2について説明したように、保存中に観察した。
【表13】

【0033】
【表14】

【0034】
本発明のグリシンを含む促進剤には、グリシンを含まない促進剤と比較して、保存中、安定性の改善がみられることが、上記表により明らかに実証される。
【0035】
上記試験結果は、α−アミノ酸を含む例1〜6の促進剤は、それらの保存安定性および/または最終凝固ならびに/あるいはそれらを添加したセメント材料の初期および/または最終強度に関して、優れていることを示す。特に例1において、促進剤の保存安定性およびセメント材料の最終強度の両方は、対応する参照と比較して改善されている。例1および4により、α−アミノ酸含有の促進剤は、それを添加したセメント材料にゆっくりとした凝固を提供するであろうことを実証し、これは、得られる硬化したセメント材料の強度に有益であろう。
【0036】
したがって、本発明の促進剤組成物は、セメント組成物の凝固の改善および/または機械的性質の改善を提供することにより、ならびに/あるいは特に高温で優れた保存安定性を有することにより、優れた性能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のα−アミノ酸を含む、セメント組成物の凝固および/または硬化を促進するための促進剤組成物。
【請求項2】
α−アミノ酸が、促進剤組成物の0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜15重量%、最も好ましくは0.5〜10重量%の用量で存在する、請求項1に記載の促進剤組成物。
【請求項3】
α−アミノ酸が、好ましくはアラニン、シスチン、システイン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファンおよびチロシンから選択される天然アミノ酸、および/または、
好ましくは天然アミノ酸のDまたはLD立体配置、より好ましくはDアラニン、LDアラニンおよびβ−アラニンから選択される合成アミノ酸である、請求項1または2に記載の促進剤組成物。
【請求項4】
促進剤組成物が、アルカリフリーの促進剤であり、好ましくは少なくとも1つのアルミニウム塩を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の促進剤組成物。
【請求項5】
酸、好ましくはギ酸、フッ酸、リン酸、亜リン酸およびピロリン酸の少なくとも1つ、および/または、硫酸塩、好ましくは硫酸アルミニウムおよび硫酸マグネシウムの少なくとも1つを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の促進剤組成物。
【請求項6】
1種または2種以上のα−アミノ酸ならびに硫酸アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムを含有する、セメント組成物の凝固および/または硬化を促進するための促進剤組成物。
【請求項7】
セメント組成物を基材に、好ましくはスプレーノズルを介してスプレーすることにより塗布する方法であって、1回分の流動性セメント組成物を混合するステップ、および、請求項1〜6のいずれかに記載の促進剤組成物を、好ましくはスプレーノズルでセメント組成物に促進剤組成物を注入することにより添加するステップを含む、前記方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により基材に塗布した硬化したセメント層。

【公表番号】特表2007−505024(P2007−505024A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525672(P2006−525672)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009255
【国際公開番号】WO2005/026072
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】