説明

セメント組成物及びその製造方法並びにセメント組成物の強度管理方法

【課題】産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を制御することが可能なセメント組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕する工程を有するセメント組成物の製造方法であって、上記工程において、該セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整するセメント組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びその製造方法並びにセメント組成物の強度管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代より資源循環型社会の構築に対する機運が高まり、セメント産業においても産業廃棄物や産業副産物の使用量のさらなる増大が望まれている。セメントクリンカーの原料として使用される産業廃棄物や産業副産物は、石灰石や石炭灰といった通常のセメント原料と違い、MgO、Cl及びアルカリ等の微量成分を多量に含んでいる。このため、製造したセメント組成物の強度、凝結時間、コンクリートとして使用した際の流動性などが、従来のセメントとは異なった挙動を示す場合があり、そのようなセメント組成物の品質を管理する手法が求められている。
【0003】
このような要請に応じて、例えば下記特許文献1や2では、リートベルト解析法やWPF解析法を用い、クリンカー鉱物の量、結晶多形、格子定数、格子体積などの情報から、セメント組成物の品質を管理する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−259287号公報
【特許文献2】特開2005−214891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2において提案された手法では、全てのセメント特性の挙動変化を管理することは困難である。特に、セメント組成物を硬化させる際、硬化の初期(材齢1〜7日程度)におけるセメント特性の挙動は、微量成分の影響により、予測することが極めて難しい。このため、上述の特許文献1及び2の手法を用いても、硬化の初期における品質管理の信頼性は満足できるものではなく、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を制御することが可能なセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の強度管理方法を提供することを目的とする。また、硬化の初期における経時的な強度の変動が十分に抑制されたセメント組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、産業廃棄物をセメントクリンカーの原料として使用したセメント組成物において、セメント組成物の鉱物組成と強度発現性との関係について詳細に検討した。その結果、エーライト相の結晶格子のa軸とc軸とがなす角度である軸角βを指標とすることにより、産業廃棄物を原料として大量に用いた場合でも、セメント組成物の硬化初期における強度が調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一つの側面において、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕する工程を有するセメント組成物の製造方法であって、上記工程において、該セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整するセメント組成物の製造方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を制御することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することができる。この製造方法は、セメント組成物に含まれるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整するものであるため、硬化の際におけるセメント組成物の強度の変動幅を容易に制御することができる。
【0010】
また、本発明は、別の側面において、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕し、品質管理用セメント組成物を得る準備工程と、品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整してセメントクリンカーを得る調整工程と、調整工程で得られたセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を製造する製造工程と、を有する、セメント組成物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を制御することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することができる。この製造方法は、セメント組成物に含まれるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整するものであるため、硬化の際におけるセメント組成物の強度の変動幅を容易に制御することができる。
【0012】
本発明におけるエーライト相の軸角βの測定値はWPF解析法により測定された値であることが好ましい。WPF解析法で測定することによって、軸角βを容易に且つ精度よく測定することが可能となり、硬化の際におけるセメント組成物の強度の変動幅を一層容易に且つ精度良く制御することが可能となる。
【0013】
本発明では、エーライト相の軸角βが116.02〜116.05°となるように原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整することが好ましい。軸角βを上記範囲とすることによって、硬化の際における強度の経時的な変動が十分に抑制されたセメント組成物を製造することができる。
【0014】
本発明では、セメント組成物が、CSを55〜70質量%、CSを8〜15質量%、CAを7〜10質量%、CAFを7〜9質量%含有するように、上記原料原単位及び上記焼成条件の少なくとも一方を調整することが好ましい。これによって、硬化の初期において、優れた強度を有するセメント組成物を製造することができる。
【0015】
本発明では、セメント組成物がMgOを0.70〜1.30質量%含有するように、上記原料原単位を調整することが好ましい。これによって、硬化の初期において、一層優れた強度を有するセメント組成物を製造することができる。
【0016】
本発明では、セメント組成物がClを0.003〜0.015質量%含有するように、上記原料原単位を調整することが好ましい。これによって、硬化の初期において、一層優れた強度を有するセメント組成物を製造することができる。また、セメント組成物が接触する鉄筋などの部材の腐食を十分に抑制することができる。
【0017】
本発明において、セメントクリンカー1トン当たりの原料原単位は、石灰石が1000〜1400kg、硅石が50〜150kg、石炭灰が0〜200kg、高炉スラグが0〜100kg、建設発生土が0〜100kg、下水汚泥が0〜100kg及び鉄源が20〜80kgであることが好ましい。原料原単位を上記範囲とすることによって、一層優れた強度を有するセメント組成物を製造することができる。
【0018】
本発明は、別の側面において、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合し粉砕して得られるセメント組成物であって、エーライト相を55〜70質量%含有し、エーライト相の軸角βが116.02〜116.05°であるセメント組成物を提供する。
【0019】
このセメント組成物は、主成分として含有するエーライト相の軸角βが116.02〜116.05°であるため、硬化の初期における経時的な強度の変動を十分に抑制することができる。
【0020】
本発明は、さらに別の側面において、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕し、品質管理用セメント組成物を得る準備工程と、品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整してセメントクリンカーを得る調整工程と、調整工程で得られたセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を製造する製造工程と、を有する、セメント組成物の強度管理方法を提供する。
【0021】
上述のセメント組成物の強度管理方法によれば、産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を容易に制御することができる。
【0022】
本発明の強度管理方法における軸角βの測定値はWPF解析法により測定された値であることが好ましい。WPF解析法で測定することによって、軸角βを容易に且つ精度よく測定することが可能となり、硬化の際におけるセメント組成物の強度の変動幅を一層精度良く管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、産業廃棄物や産業副産物をセメント原料として大量に使用した場合であっても、セメント組成物の硬化の際における強度の変動幅を制御することが可能なセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の強度管理方法を提供することができる。また、本発明により、硬化の初期における経時的な強度の変動が十分に抑制されたセメント組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】エーライト相の軸角βと材齢1日のモルタル圧縮強さの関係を示す図である。
【図2】エーライト相の軸角βと材齢3日のモルタル圧縮強さの関係を示す図である。
【図3】エーライト相の軸角βと材齢7日のモルタル圧縮強さの関係を示す図である。
【図4】エーライト相の軸角βと材齢28日のモルタル圧縮強さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0026】
本実施形態のセメント組成物の製造方法は、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した混合原料を焼成してセメントクリンカーを調整する第1準備工程と、セメントクリンカーと石膏とを混合してセメント組成物を得る第2準備工程と、当該セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定結果に基づいて、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整する調整工程と、調整工程で得られたセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を製造する製造工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0027】
第1準備工程では、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を所定の比率で配合して得られる原料を、所定の焼成条件で焼成してセメントクリンカーを調製する。
【0028】
セメントクリンカーの原材料としては、通常のセメント原材料である石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、粘土及び鉄源、並びに、産業廃棄物である建設発生土、下水汚泥及び鉄源等を用いることができる。
【0029】
建設発生土としては、建設工事の施工に伴い副次的に発生する残土や泥土、廃土等が挙げられる。下水汚泥としては、汚泥単味のほか、これに石灰石を加えて乾粉化したものや、焼却残渣等が挙げられる。鉄源としては銅からみ、高炉ダスト等が挙げられる。
【0030】
第1準備工程におけるセメントクリンカーは、上述の原材料を所定の比率で配合して混合原料とし、当該混合原料を所定の焼成条件で焼成することによって得ることができる。このセメントクリンカーの原料原単位としては、例えば、石灰石を1000〜1400kg/T−クリンカー、好ましくは1100〜1300kg/T−クリンカー、硅石を50〜150kg/T−クリンカー、好ましくは80〜120kg/T−クリンカー、石炭灰を0〜200kg/T−クリンカー、好ましくは100〜200kg/T−クリンカー、高炉スラグを0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは0〜50kg/T−クリンカー、鉄源を20〜80kg/T−クリンカー、好ましくは40〜60kg/T−クリンカー、建設発生土を0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは40〜80kg/T−クリンカー及び下水汚泥を0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは30〜70kg/T−クリンカーとすることができる。なお、「原料原単位」とは、セメントクリンカーを1トン製造するにあたり、使用される各原材料の質量をいう。
【0031】
上述の各原材料は、例えばボールミル等で混合することが好ましい。このように混合しして得られる混合原料を、サスペンションプレヒータやロータリーキルン等を用いて焼成する。焼成温度は、例えば1000〜1500℃、焼成帯の滞留時間は、例えば20分間〜2時間とすることができる。
【0032】
第1準備工程において得られるセメントクリンカーは、例えば、主成分として、CS(エーライト)、CS(ビーライト)、CA(アルミネート)及びCAF(フェライト)を含有する。
【0033】
第2準備工程では、第1準備工程で得たセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物(以下、便宜上「品質管理用セメント組成物」という。)を調製する。混合及び粉砕は、ボールミルなどの通常の粉砕機及びセパレータなどの通常の分級機を用いて行うことができる。セメントクリンカーと石膏との混合比率も、通常の比率とすることができる。石膏としては、二水石膏、半水石膏又は無水石膏を使用することができる。
【0034】
調整工程では、まず、第2準備工程で得られた品質管理用セメント組成物のWPF解析法を行って、品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βを測定する。この軸角βは、セメント組成物の硬化の初期における強度と良好な相関関係がある。このため、軸角βを測定することによって、セメント組成物の硬化初期における強度を求めることができる。
【0035】
この「軸角β」とはエーライト相の結晶格子におけるa軸とc軸とがなす角度である。セメント組成物を硬化させるにあたり、材齢初期(1日〜3日)におけるセメント組成物の強度の変動幅を低減する観点から、セメント組成物の軸角βは、好ましくは116.02〜116.05°であり、より好ましくは116.025〜116.045°であり、さらに好ましくは116.030〜116.040°であり、特に好ましくは116.033〜 116.038°である。
【0036】
次に、品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、セメントクリンカーの製造条件を調整する。具体的には、セメントクリンカーの原料原単位(各原材料の配合量)及び焼成条件の一方又は双方を調整する。これによって、セメントクリンカー及びセメント組成物のエーライト相の軸角βを上述の好適な範囲に調整することができる。
【0037】
原料原単位及び焼成条件の調整量は、使用原料に含まれる微量成分、使用するロータリーキルンの特性により異なる。例えば、特定の条件で製造したセメント組成物のWPF解析法を行い、その解析結果から得られるエーライト相の軸角βの値に基づいて、セメントクリンカー原料原単位及び/又は焼成条件を微調整することが簡便である。焼成条件としては、例えば、セメントクリンカーの焼成温度、焼成帯の滞留時間、酸化還元雰囲気、セメントクリンカーの冷却温度、及び冷却速度等が挙げられる。これらの条件の少なくとも一つを変えることによって、焼成条件を調整することができる。
【0038】
製造工程では、調整工程で得たセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を調製する。製造工程は、第2準備工程と同様にして行うことができる。すなわち、混合及び粉砕は、ボールミルなどの通常の粉砕機及びセパレータなどの通常の分級機を用いて行うことができる。セメントクリンカーと石膏との混合比率も、通常の比率とすることができる。石膏としては、二水石膏、半水石膏又は無水石膏を使用することができる。
【0039】
セメント組成物の硬化時における強度を向上する観点から、セメント組成物のCS(エーライト相)含有量は、好ましくは55〜70質量%、より好ましくは60〜65質量%、さらに好ましくは61〜64質量%である。また、CS(ビーライト相)の含有量は8〜15質量%、好ましくは9〜14質量%、さらに好ましくは10〜13質量%である。また、CA(アルミネート相)の含有量は7〜10質量%、好ましくは8〜9質量%である。また、CAF(フェライト相)の含有量は7〜9質量%、好ましくは7.5〜8.5質量%である。セメント組成物の組成は、調整工程において、セメントクリンカーの原料原単位及び/又は焼成条件を変えることによって調整することができる。
【0040】
セメント組成物のMgOの含有量は、好ましくは0.70〜1.30質量%であり、より好ましくは0.80〜1.20質量%であり、さらに好ましくは0.85〜1.10質量%である。セメント組成物のMgOの含有量は、調整工程において、セメントクリンカーの原料原単位を変えることによって調整することができる。
【0041】
セメント組成物のClの含有量は、セメント組成物を硬化させる際に、材齢初期(1日、3日)における強度変動幅を低減する観点及びコンクリート中の鉄筋腐食を抑制する観点から、好ましくは0.003〜0.015質量%であり、より好ましくは0.004〜0.013質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.012質量%である。セメント組成物のClの含有量は、調整工程において、セメントクリンカーの原料原単位を変えることによって調整することができる。
【0042】
製造工程で用いるセメントクリンカーの原料原単位は、例えば、石灰石を1000〜1400kg/T−クリンカー、好ましくは1100〜1300kg/T−クリンカー、硅石を50〜150kg/T−クリンカー、好ましくは80〜120kg/T−クリンカー、石炭灰を0〜200kg/T−クリンカー、好ましくは100〜200kg/T−クリンカー、高炉スラグを0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは0〜50kg/T−クリンカー、鉄源を20〜80kg/T−クリンカー、好ましくは40〜60kg/T−クリンカー、建設発生土を0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは40〜80kg/T−クリンカー及び下水汚泥を0〜100kg/T−クリンカー、好ましくは30〜70kg/T−クリンカーとすることができる。原料原単位を上記範囲とすることによって、セメント組成物の硬化時の強度を十分に高く維持することができる。なお、「原料原単位」とは、セメントクリンカーを1トン製造するにあたり、使用される各原材料の質量をいう。
【0043】
本実施形態のセメント組成物の製造方法によれば、エーライト相の軸角βを調整することによって、硬化初期の強度変動が十分に抑制されたセメント組成物を製造することができる。また、本実施形態のセメント組成物の製造方法は、セメント組成物の硬化の初期における強度を自由に制御することが可能である。したがって、セメント組成物の硬化初期における強度を管理することが可能となる。すなわち、本実施形態のセメント組成物の製造方法は、セメント組成物の強度管理方法としても有用である。
【0044】
本実施形態では、セメントクリンカーを製造する際に一般的に採用されている製造条件を、特に制限することなく採用することができる。例えば、上記条件を満足する単一のセメントクリンカーを用いてセメント組成物を製造してもよいし、互いに組成の異なる二種以上のセメントクリンカーの混合物を用いてセメント組成物を製造することも可能である。また、セメントクリンカー及びセメント組成物の製造設備にも制限はなく、例えば、既存のセメント製造設備によって製造することが可能である。
【0045】
なお、上述の説明では、一旦品質管理用セメント組成物を製造した後、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件を調整して、セメント組成物を製造しているが、本実施形態のセメント組成物の製造方法は、上述の各工程を連続的に行うことが可能である。例えば、既存のセメント製造設備を用いて連続的にセメント組成物を製造しながら、適宜、セメント組成物のサンプリングを行って、エーライト相の軸角βの測定を行い、その測定結果をフィードバックして、セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件を調整し、セメント組成物の製造を連続して行うことができる。この場合、サンプリングしたセメント組成物が、本実施形態における品質管理用セメント組成物となるが、この品質管理用セメント組成物も、所望の性状を満足する限りにおいて、セメント組成物として用いることが可能であることはいうまでもない。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(セメント組成物の製造)
セメントクリンカーの原材料として、天然原料である石灰石、珪石、石炭灰及び鉄源を、産業廃棄物である建設発生土及び下水汚泥を、それぞれ準備した。これらを所定の割合で混合して焼成し、セメントクリンカーを得た。セメントクリンカーを製造するための原材料の調合量(原料原単位)の1例を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上述のセメントクリンカーの原材料の種類及び調合割合を変更して、組成の異なる複数種類のセメントクリンカー(No.1〜10)を得た。得られたセメントクリンカーに、石膏を添加してボールミルで粉砕し、セメント組成物を調製した。
【0051】
(セメント組成物のWPF解析)
セメント組成物のエーライト相(CS)の軸角βと、CS、CS、CA及びCAFの含有量を、粉末X線回折を利用したWPF解析法(下記参考文献1参照)を用いて測定した。測定結果は表3に示す通りであった。粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置RINT−2500((株)リガク製)を用い、管電圧35kV、管電流110mA、測定範囲2θ=10〜60°、ステップ幅0.02°、計数時間2秒間、発散スリット:1°、及び受光スリット:0.15mmの条件で行った。
【0052】
WPF解析法は、粉末X線回折パターン総合解析ソフトであるJADE6.0(Materials Data Inc.製)を使用して行った。なお、WPF解析法に使用した各鉱物相の基本結晶構造は表2に示すとおりである。
【0053】
WPF解析法では、バックグラウンド関数の精密化を行い、CSの格子定数及びピーク強度比、立方晶CAの格子定数並びにCAFの格子定数の精密化を行った。CS及び斜方晶CAの全パラメータは固定とした。なお、各鉱物相の格子定数及びピーク強度比は、表2の参考文献にそれぞれ記載されている。
【0054】
【表2】

【0055】
参考文献1:粉末X線回折の実際−リートベルト法入門、日本分析化学会、X線分析研究懇談会[編]
参考文献2:Mumme,W.Neues Jahrb. Mineral.,Monatsh.,v1995,p145 (1995)
参考文献3:Mumme,W.Hill,R.Bushnell-Wye,G.Segnite,E. Neues Jahrb.Mineral.,Abh.,v169, p35 (1995)
参考文献4:Wong-Ng,W. McMurdie,H. Paretzkin,B. Hubbard,C. Dragoo,A. NBS(USA). ICDDGrand-in-Aid (1987)
参考文献5:Lee.F.,Glasser. J.Appl.Crystallogr.,v12,p407 (1979)
参考文献6:Natl.Bur.Stand.(US) Monogr.25,v16,p28 (1979)
【0056】
各セメント組成物中のCl及びMgOの含有量を、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に基づいて測定した。測定結果は表3に示す通りであった。
【0057】
【表3】

【0058】
(セメント組成物のモルタル圧縮強さ試験)
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に基づいて、各セメント組成物のモルタル圧縮強さ試験を行った。モルタル圧縮強さ試験は、材齢1日、3日、7日及び28日でそれぞれ行った。モルタルの圧縮強さの測定結果は表4に示す通りであった。
【0059】
【表4】

【0060】
各材齢において、軸角βをx、モルタル圧縮強さをyとし、回帰分析によってxとyの関係式と相関係数とを求めた。図1〜4に、各軸角βにおける圧縮強さをプロットするとともに、上記の通り求めた関係式と相関係数を示す。
【0061】
図1及び図2によれば、モルタルの材齢1日及び3日の極初期では、セメント組成物のエーライト相の軸角βとモルタル圧縮強さに、良好な相関関係が認められた。この結果より、モルタルの材齢の極初期において、セメント組成物のエーライト相の軸角βを調整することによって、モルタルの強度を管理できることが確認された。
【0062】
一方、図3によれば、モルタルの材齢7日では、上記極初期における相関関係とは逆の相関関係を示した。このため、材齢1日や材齢3日などの極初期だけでなく、材齢7日におけるモルタルの強さも適度に維持したい場合は、セメント組成物のエーライト相の軸角βを、例えば116.030〜116.040°の間に調整することが好ましい。なお、図4に示すように、モルタルの材齢28日では、セメント組成物のエーライト相の軸角βとモルタルの強さに相関関係は認められなかった。
【0063】
以上より、セメントクリンカーの原材料の種類や配合比、または焼成条件を変えることによって、セメント組成物のエーライト相の軸角βを調整できることが確認された。また、セメント組成物のエーライト相の軸角βを調整することによって、セメント組成物の硬化の初期における強度を制御できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕する工程を有するセメント組成物の製造方法であって、
前記工程において、該セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、前記セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整するセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕し、品質管理用セメント組成物を得る準備工程と、
前記品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、前記セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整してセメントクリンカーを得る調整工程と、
前記調整工程で得られた前記セメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を製造する製造工程と、を有する、セメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記軸角βの測定値はWPF解析法により測定された値である請求項1又は2記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記軸角βが116.02〜116.05°となるように前記原料原単位及び前記焼成条件の少なくとも一方を調整する請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
前記セメント組成物が、CSを55〜70質量%、CSを8〜15質量%、CAを7〜10質量%、CAFを7〜9質量%含有するように、前記原料原単位及び前記焼成条件の少なくとも一方を調整する請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項6】
前記セメント組成物がMgOを0.70〜1.30質量%含有するように、前記原料原単位を調整する請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項7】
前記セメント組成物がClを0.003〜0.015質量%含有するように、前記原料原単位を調整する請求項1〜6のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項8】
前記セメントクリンカー1トン当たりの前記原料原単位は、前記石灰石が1000〜1400kg、前記硅石が50〜150kg、前記石炭灰が0〜200kg、前記高炉スラグが0〜100kg、前記建設発生土が0〜100kg、前記下水汚泥が0〜100kg及び前記鉄源が20〜80kgである請求項1〜7のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項9】
石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合し粉砕して得られるセメント組成物であって、
エーライト相を55〜70質量%含有し、
前記エーライト相の軸角βが116.02〜116.05°であるセメント組成物。
【請求項10】
石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種を配合した原料を焼成して得られるセメントクリンカーと、石膏と、を混合して粉砕し、品質管理用セメント組成物を得る準備工程と、
前記品質管理用セメント組成物におけるエーライト相の軸角βの測定値に基づいて、前記セメントクリンカーの原料原単位及び焼成条件の少なくとも一方を調整してセメントクリンカーを得る調整工程と、
前記調整工程で得られた前記セメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメント組成物を製造する製造工程と、を有する、セメント組成物の強度管理方法。
【請求項11】
前記軸角βの測定値はWPF解析法により測定された値である請求項10記載のセメント組成物の強度管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−173891(P2010−173891A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18315(P2009−18315)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】