説明

セメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法

【課題】セメント製造設備から排出されるダイオキシン類、PCBなどの有機塩素化合物の排出量を低減可能なセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法を提供する。
【解決手段】焼成時に発生した排ガス中に、燃料を兼ねた吸着粉を供給することで、排ガス中に含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、この吸着後の吸着粉をバグフィルタB2により捕集してロータリーキルン18を用いた焼成時の燃焼バーナ17の燃料として使用する。これにより、セメント製造設備10から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をより以上に低減できるとともに、焼成燃料の節約も図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法、詳しくはセメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着し、燃料として分解することで熱処理し、その排出量を低減可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン(PCDDs)は、ポリ・クロロ・ジベンゾ・パラ・ダイオキシン(Poly chloro dibenzo−p−dioxin)の略称で、有機塩素化合物の一種である。このダイオキシンに類似したものに、ポリ・クロロ・ジベンゾフラン(PCDFs:Poly chloro dibenzo−furan)が知られている。
特に、PCDDsの四塩化物(T4CDDs)であるテトラ・クロロ・ジベンゾ・パラ・ダイオキシン(Tetra chloro dibenzo−p−dioxin)に属して、2,3,7,8の位置に塩素を持った2,3,7,8−T4CDDは猛毒である。
2,3,7,8−テトラクロロ体は、トリクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸製造時の副産物として得られ、そしてジベンゾ−P−ジオキシンの塩素化により得られる。融点は306〜307℃である。
【0003】
また、人体に有害とされる別の有機塩素化合物として、例えばPCB(ポリ塩化ビフェニル)が知られている。PCBは、化学的安定性、絶縁性、不燃性、粘着性に優れており、発電所、鉄道、ビルなどの電気設備に搭載されるトランス、コンデンサの絶縁油として利用されてきた。しかしながら、ダイオキシンと同等の毒性を有するコプラナーPCBを含んでいる。そのため、1974年に法律でPCBの製造、流通および新規の使用が禁止されるに至った。
【0004】
PCBの処理方法としては、例えば、PCBを高温で熱処理する焼却処理方法、PCBを脱塩素化処理する脱塩素化分解法、超臨界水を使用してPCBを二酸化炭素と水とに分解する超臨界水酸化分解法などが開発されている。このうちの焼却処理方法では、PCBの熱処理ガスを冷却する際、ダイオキシン類が合成されてしまうことが懸念されている。
【0005】
そこで、これらを解消する従来技術として、例えば特許文献1および特許文献2が知られている。
特許文献1は、セメント製造設備の排ガスを集塵機に供給し、有機塩素化合物を含む集塵ダストを捕集し、この捕集された集塵ダストの少なくとも一部を、セメント製造設備の800℃以上の高温部に投入する方法を示している。ダイオキシン類は800℃前後で熱分解されるため、この方法により、ダイオキシン類を効率的に分解して無害化することができる。
また、集塵機から排出され、煙道より大気開放される脱塵ガス中にも、気化した有機塩素化合物が若干量含まれている。この対策として、特許文献1では、脱塵ガス中のダイオキシン濃度を低下させる方法が記載されている。これは、セメント製造設備のうち、温度が30〜400℃の地点(低温部)から排ガスを引き出し、これを集塵機に供給するという方法である。すなわち、低温部から導出された排ガスは、セメント製造設備の高温部からの排ガスに比べて、有機塩素化合物が濃縮(低温濃縮)されている。その結果、このように有機塩素化合物が高濃度になった集塵ダストを集塵処理により除去すれば、脱塵ガス中のダイオキシン類の濃度は低下するというものである。
【0006】
特許文献2は、外部からセメント工場に運び込まれたPCB含有物を、ロータリーキルン内に投入し、これをセメントクリンカを焼成するときの熱(1000℃以上)により加熱してPCBを熱分解し、この熱分解時に発生した排ガスをロータリーキルン外に導出した後、20℃/秒以上の冷却速度で急冷する方法を示している。排ガスを20℃/秒以上で冷却することにより、ダイオキシン類の合成量が増加する温度領域を短時間で通過する。その結果、ダイオキシン類の発生を防ぎながら、PCBを分解することができる。
【特許文献1】特開2004−244308号公報
【特許文献2】特開2002−147722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1によれば、排ガスを集塵機に通して捕集された集塵ダストの少なくとも一部を、通常運転時に800℃以上となるセメント製造設備の高温部に投入し、集塵ダストに吸着されたダイオキシン類を熱分解していた。その際、煙道から大気開放される脱塵ガス(集塵機通過ガス)中の有機塩素化合物の対策として、セメント製造設備のうち、温度が30〜400℃の地点(低温部)から排ガスを引き出し、これを集塵機に供給するという方法が採用されていた。しかしながら、この対策では、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類を十分に低減させることができなかった。
【0008】
一方、特許文献2は、セメント製造設備の系外(外部)から搬入されたPCB含有物を、ロータリーキルン内で1000℃以上に加熱して熱分解させるものであった。しかしながら、この方法では、セメント製造設備内で発生したPCBを除去することができなかった。
【0009】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、燃料を兼ねた例えば石炭微粉末、活性炭微粉末およびコークス微粉末(オイルコークス微粉末を含む)など、有機塩素化合物の吸着機能を有する吸着粉を、焼成時に発生した排ガス中に供給することで、排ガス中に含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、その後、この有機塩素化合物を含む吸着粉を集塵機により捕集して、捕集された吸着粉を焼成時の燃料に使用するようにすれば、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をより以上に低減させることができるとともに、焼成用の燃料の節約を図ることができることを知見し、この発明を完成させた。
しかも、集塵機として有機塩素化合物分解触媒付きの濾布を有するバグフィルタを採用するとともに、排ガスが、電気集塵機を通過した脱塵ガスとすれば、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量を、さらに低減させることができることを知見し、この発明を完成させた。
【0010】
この発明は、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量を低減させることができ、しかも燃料の節約を図ることができるセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法およびそのセメント製造設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、セメント原料からセメントクリンカを焼成する際に発生した排ガス中に吸着粉を供給することで、該焼成時に発生した排ガス中の有機塩素化合物を、前記吸着粉に吸着させる有機物吸着工程と、前記有機塩素化合物を含む吸着粉を集塵機により捕集する集塵工程と、該捕集された吸着粉を、前記セメントクリンカの焼成時の燃料に使用することで、前記吸着粉に吸着された有機塩素化合物を分解する分解工程とを備えたことを特徴とするセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、セメントクリンカの焼成時に発生した有機塩素化合物を含む排ガス中に吸着粉を供給する。これにより、排ガス中に含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物が吸着粉に吸着される(有機物吸着工程)。
その後、有機塩素化合物を含む吸着粉は、排ガスとともに集塵機に吸引され、ここで集塵ダストとして捕集される(集塵工程)。
捕集された吸着粉は、セメントクリンカの焼成工程に送られ、ここでセメントクリンカの焼成用の燃料として燃焼し、吸着粉に吸着された有機塩素化合物を熱分解して無害化する(分解工程)。これにより、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をより以上に低減させることができる。しかも、焼成用の燃料の節約を図ることができる。
【0013】
吸着粉とは、排ガス中のダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着可能な粉体であれば限定されない。ただし、有機塩素化合物の吸着性が高い多孔質の粉体が好ましい。例えば石炭微粉末、活性炭微粉末、コークス微粉末(オイルコークス微粉末を含む)などを採用することができる。
吸着粉は、BET比表面積が大きいほどよい。0.1m/g未満では、現実的な吸着性能は得られない。
【0014】
吸着粉の排ガス中への供給量は、排ガス1m当たり多いほどよい。200g/m以上になると、集塵機への負担が極端に増加する。BET比表面積が大きい吸着粉を使用することが、集塵機の負担を小さくすることができる。
【0015】
前記排ガス中に吸着粉を接触させる方法は限定されない。例えば、集塵機に排ガスを供給するダクトの途中に、吸着粉の投入口が連結された吸着粉投入機を採用することができる。吸着粉投入機としては、スクリューフィーダなどを採用することができる。
集塵機としては、例えば電気集塵機、バグフィルタなどを採用することができる。
【0016】
セメント製造設備としては、例えばロータリーキルンを焼成装置としたものを採用することができる。また、プレヒータ、仮焼炉およびロータリーキルンなどを有するものを採用してもよい。
セメントの焼成温度、例えばロータリーキルン内の温度は、通常、有機塩素化合物の熱分解温度の700℃を上回る1100〜1450℃である。よって、有機塩素化合物は、セメントクリンカを焼成するときに熱分解されて無害化する。
ロータリーキルンの回転速度は、例えば1〜3rpmである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記集塵機は、有機塩素化合物分解触媒付きの濾布を有したバグフィルタで、前記排ガスは、電気集塵機を通過した脱塵ガスであることを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、焼成時に発生した有機塩素化合物を含む排ガスを電気集塵機に吸引する。電気集塵機を通過した脱塵ガス中にも若干の有機塩素化合物が残っている。そこで、大気開放のために煙道を通過中の脱塵ガスに、吸着粉を接触させる。これにより、脱塵ガス中に含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物が吸着粉に吸着される。
その後、有機塩素化合物を含む吸着粉は、脱塵ガスとともにバグフィルタに捕集される。このとき、バグフィルタの濾布は有機塩素化合物分解触媒を含む。そのため、濾布に付着した吸着粉の有機塩素化合物は、この有機塩素化合物分解触媒と接触し、化学分解されて無害化される。
【0019】
次に、バグフィルタにより捕集された吸着粉は、セメントクリンカの焼成工程に送られ、セメントクリンカの焼成用の燃料の一部として使用される。このとき、仮に有機塩素化合物分解触媒との接触により吸着粉に吸着された有機塩素化合物の一部が未分解状態で残っていたとしても、このように吸着粉が焼成燃料の一部として使用されるので、その未分解の有機塩素化合物は、焼成時に熱分解されて無害化する。その結果、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をさらに低減させることができる。
【0020】
有機塩素化合物分解触媒付きの濾布としては、例えばジャパンゴアテックス株式会社製のリメディア(商品名)などを採用することができる。この場合、有機塩素化合物分解触媒が最も有効に作用する温度は、210〜230℃である。
【0021】
請求項3に記載の発明は、前記セメントクリンカの焼成は、ロータリーキルンを用いて行われ、前記吸着粉は、前記ロータリーキルンの燃焼バーナの燃料として使用されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、有機塩素化合物を含む吸着粉を、セメントクリンカの焼成用の燃料の一部として燃焼バーナに供給することで、クリンカ焼成時の焼成熱により、有機塩素化合物を熱分解する。これにより、燃料の節約を図ることができるとともに、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をさらに低減させることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、前記吸着粉は、石炭微粉末、活性炭微粉末、コークス微粉末の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち、何れか1項であるセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法である。
【0024】
吸着粉としては、石炭微粉末でもよいし、活性炭微粉末でもよいし、コークス微粉末でもよい。また、これらの2つ以上の組み合わせでもよい。
石炭微粉末のBET比表面積が大きいほどよい。0.1m/g未満では、現実的な吸着性能は得られない。
活性炭微粉末のBET比表面積が大きいほどよい。0.1m/g未満では、現実的な吸着性能は得られない。
コークス微粉末のBET比表面積が大きいほどよい。0.1m/g未満では、現実的な吸着性能は得られない。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載された発明によれば、焼成時に発生した排ガス中に、燃料を兼ねた吸着粉を供給することで、排ガス中に含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、この吸着後の吸着粉を集塵機により捕集して焼成時の燃料として使用する。これにより、吸着粉に吸着された有機塩素化合物が熱分解され、セメント製造設備から排出される有機塩素化合物の排出量をより以上に低減させることができる。しかも、焼成用の燃料の節約を図ることができる。
【0026】
特に、請求項2に記載された発明によれば、集塵機として有機塩素化合物分解触媒付きの濾布を用いるバグフィルタを採用するとともに、排ガスとして電気集塵機を通過した脱塵ガスとすれば、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量を、さらに低減させることができる。
【0027】
また、請求項3に記載の発明によれば、有機塩素化合物を含む吸着粉を、セメントクリンカの焼成用の燃料の一部として燃焼バーナに供給することで、クリンカ焼成時の焼成熱により、有機塩素化合物を熱分解する。これにより、燃料の節約を図ることができるとともに、セメント製造設備から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をさらに低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1において、10はこの発明の実施例1に係るセメント製造設備からの排ガス中の有機塩素化合物低減方法が適用されたセメント焼成設備である。このセメント焼成設備10は、セメント原料を粉砕する原料工程部と、粉砕されたセメント原料を焼成する焼成工程部とを備えている。
【0030】
原料工程部は、セメント原料としての石灰石、粘土、珪石および鉄原料を個別に貯蔵する原料貯蔵庫11と、例えば粘土などの含水量が多い一部のセメント原料を加熱して乾燥する原料ドライヤ12と、セメント原料を粉砕する原料ミル13と、原料ドライヤ12および原料ミル13から排出された有機塩素化合物を含むダストを捕集する電気集塵機B1と、原料ミル13により粉砕されたセメント原料をいったん貯蔵する貯蔵サイロ14とを備えている。
【0031】
原料貯蔵庫11に貯蔵されたセメント原料は、原料輸送設備118を通して原料ミル13の回転ドラム内に投入される。ただし、含水量が多い一部のセメント原料は、含水原料供給設備131を経て原料ドライヤ12に投入される。この一部のセメント原料は、ここで加熱乾燥された後、乾燥原料排出設備132を通して、原料ミル13に投入される。原料ドライヤ12および原料ミル13には、後述するプレヒータ16の上部から高温の排ガスが、排ガスダクト21を通してそれぞれ供給されている。そのため、原料ドライヤ12の内部温度は約300℃、原料ミル13の内部温度は約200℃となっている。排ガスダクト21の上流部には、ファンF1が設けられている。原料ミル13の回転ドラム内には、多数の金属ボールが収納されている。回転ドラムを回転させながらセメント原料を連続的に投入することで、セメント原料がおよそ90μm以下に粉砕される。粉砕後のセメント原料は、粉砕原料輸送設備121を通して貯蔵サイロ14に投入される。
【0032】
原料ドライヤ12および原料ミル13には、各内部からの排ガスを煙突130を介して大気開放する煙道129のうち、二股となった上流側部の各端部が連結されている。煙道129の下流側部の途中には、吸着粉を捕集する電気集塵機(集塵機)B1が設けられている。電気集塵機B1により捕集された有機塩素化合物を含む集塵ダストは、ダスト排送管123を介して、粉砕原料輸送設備121の途中に挿入される。そのため、有機塩素化合物を含む集塵ダストは、最終的に貯蔵サイロ14に貯蔵される。
また、煙道129のうち、電気集塵機B1と煙突130との間の部分には、濾布160を有したバグフィルタ(集塵機)B2が設けられている。バグフィルタB2の詳細については、後述する。煙道129のうち、電気集塵機B1とバグフィルタB2との間の部分には、焼成時に発生した排ガス(プレヒータ16の上部からの排ガス)中の有機塩素化合物を吸着させる吸着粉の投入口150が設けられている。
【0033】
吸着粉には、セメント原料からセメントクリンカを焼成する燃料を兼ねる粒径20〜70μmの石炭微粉末が採用されている。石炭微粉末に代えて、10〜100μmの活性炭微粉末を採用してもよい。吸着粉の投入口150からの投入量は、排ガス1m当たり100gである。また、煙道129のうち、二股となった上流側部の原料ミル13側には、ファンF2が設けられている。さらに、煙道129のうち、バグフィルタB2と煙突130との間には、ファンF3が設けられている。また、吸着粉輸送設備30は、バグフィルタB2から排出された無害化された吸着粉を、燃焼バーナ17に供給するように設置されている。バグフィルタB2と後述する燃焼バーナ17の燃料投入口とは、濾布160により捕集され、有機塩素化合物分解触媒による分解反応により無害化された有機塩素化合物を含む吸着粉を、燃焼バーナ17に供給する吸着粉配送管30により挿通されている。
【0034】
次に、図2を参照してバグフィルタB2の濾布160を詳細に説明する。
図2に示すように、バグフィルタB2は、有機塩素化合物分解触媒付きの袋状の濾布160を有している。濾布160は、PTFE(延伸ポリテトラフロロエチレン)繊維からなるフェルトである。濾布160の表側には、有機塩素化合物分解触媒が含浸された所定厚さのメンブレンフィルタ161が積層されている。バグフィルタB2は、処理風量が1120mN/h、濾過面積が24m、濾過速度が1.15m/分(max)、内部温度が220℃となっている。
有機塩素化合物分解触媒としては、有機塩素化合物を分解可能なチタン−バナジウム系等が採用されている。濾布160に吸着粉が付着されると、吸着粉に含まれた有機塩素化合物が有機塩素化合物分解触媒と接触し、その有機塩素化合物分解触媒の分解作用により有機塩素化合物が分解されて無害化する。
【0035】
焼成工程部は、貯蔵サイロ14からのセメント原料を、高温(850℃)に加熱する5段式のサイクロン15を備えたプレヒータ16と、窯尻部にプレヒータ16の最下段部が連結され、窯前部に燃焼バーナ17を有した乾式のロータリーキルン18と、ロータリーキルン18の窯前から排出されたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ19と、得られたセメントクリンカを、いったん貯蔵する図示しないクリンカサイロと、クリンカサイロから排出されたダストを捕集する同じく図示しない第2の集塵機とを備えている。
【0036】
プレヒータ16は、原料粉輸送設備165を介して、貯蔵サイロ14から投入された粉砕原料がロータリーキルン18内で焼成され易いように、上下5段のサイクロン15を上側より順次通過しながら、下降するほど徐々に所定温度(900℃)まで予熱する。
ロータリーキルン18には、100t/hでセメントクリンカを生産するものが採用されている。ロータリーキルン18は、耐火物が内張りされたキルンシェルを有し、その内部で、重油や微粉石炭を燃料とした燃焼バーナ17からの炎の熱により、セメント原料からセメントクリンカが焼成される。
【0037】
次に、実施例1のセメント製造設備10の内部(系内)で行われる排ガス中の有機塩素化合物低減方法を説明する。
図1に示すように、原料貯蔵庫11内の各セメント原料は、原料輸送設備118を通して原料ミル13に投入される。ただし、含水量が多い一部のセメント原料だけは、含水原料供給設備131を経て原料ドライヤ12に投入される。この一部のセメント原料は、原料ドライヤ12内で加熱乾燥され、その後、乾燥原料排出設備132を経て原料ミル13に投入される。原料ミル13では、多数の金属ボールにより、原料ドライヤ12からの乾燥原料とともにセメント原料が、およそ粒度90μm以下に粉砕される。粉砕されたセメント原料は、粉砕原料輸送設備121を通って貯蔵サイロ14に投入される。
原料ドライヤ12および原料ミル13には、プレヒータ16の上部から高温の排ガスが、排ガスダクト21を通してそれぞれ供給されている。そのため、原料ドライヤ12の内部温度は約300℃、原料ミル13の内部温度は約100〜200℃となっている。
【0038】
近年のセメント製造設備10では、セメント原料の一部(例えば粘土)として、ダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物、その他、有機物および塩素などを含む廃棄物(都市ごみおよび焼却灰など)が混入されている。その際、前述したように原料ドライヤ12および原料ミル13の各内部が300℃前後に加熱されているため、これらの内部で有機塩素化合物(主にダイオキシン類)が気化してしまう。排ガスに含まれるダストは、電気集塵機(集塵機)B1により捕集され、集塵ダストはダスト排送管123、粉砕原料輸送設備121を順に通過し、貯蔵サイロ14に供給される。
【0039】
貯蔵サイロ14に貯蔵されたセメント原料は、次に焼成工程部に供給される。すなわち、粉砕されたセメント原料は、原料粉輸送設備165を介して、プレヒータ16の上部に供給される。そして、粉砕原料は各サイクロン15を順に下りながら最終的に800℃まで予熱される。得られた予熱原料(セメント原料)は、ロータリーキルン18の窯尻部に投入される。
ここで、予熱原料はキルンシェル内で回転しながら、燃焼バーナ17を使用した1100〜1450℃のバーナ加熱により、セメントクリンカに焼成される。得られたセメントクリンカは、窯前の端からクリンカクーラ19に落下し、ここで冷却される。
【0040】
一方、前記集塵機B1を通過した脱塵ガスには、煙道129に設けられた吸着粉の投入口150から、石炭微粉末からなる吸着粉が、排ガス(脱塵ガス)1m当たり100gで投入される。これにより、脱塵ガス中に若干含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物が吸着粉に吸着される。
その後、有機塩素化合物を含む吸着粉は、脱塵ガスとともに内部温度220℃のバグフィルタB2に、処理風量が1120mN/hで吸引される。バグフィルタB2に吸引された吸着粉は、濾布160の表側に積層された有機塩素化合物分解触媒付きのメンブレンフィルタ161に付着した状態で濾過される(図2)。このとき、吸着粉の濾過速度は1.15m/分(max)である。バグフィルタB2を通過したクリーンな脱塵ガスは、煙道129の下流部から煙突130を通って大気開放される。
【0041】
メンブレンフィルタ161に付着した吸着粉の有機塩素化合物(ダイオキシンなど)は、チタン−バナジウム系の有機塩素化合物分解触媒に接触することで、この触媒の分解作用により化学分解されて無害化する。その後、バグフィルタB2により捕集された吸着粉は、吸着粉配送管30を通して燃焼バーナ17の燃料投入口に送られ、ここでセメントクリンカの焼成用の燃料の一部として使用される。このとき、仮に有機塩素化合物分解触媒との接触により吸着粉に吸着された有機塩素化合物の一部が未分解状態で残っていたとしても、吸着粉が焼成燃料の一部として使用されることで、未分解の有機塩素化合物は、焼成時に熱分解されて無害化する。その結果、セメント製造設備10から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量をさらに低減させることができる。
【0042】
このように、ここでは電気集塵機B1を通過した脱塵ガス中に、燃料を兼ねた吸着粉を所定量で供給することにより、脱塵ガス中に若干含まれるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、その後、この吸着粉をバグフィルタB2により捕集し、焼成時の燃料として使用する。これにより、吸着粉に吸着された有機塩素化合物は熱分解され、無害化する。その結果、セメント製造設備10から排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量を、従来法に比べてより以上に低減させることができる。
また、有機塩素化合物を含む吸着粉を、セメントクリンカの焼成用の燃料の一部として燃焼バーナ17に供給するので、クリンカ焼成時の焼成熱により、有機塩素化合物を熱分解することができる。しかも、焼成燃料の節約も図ることができる。
【0043】
次に、図3を参照して、この発明の実施例2に係るセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法を説明する。
図3に示すように、実施例2のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法が適用されたセメント製造設備10Aは、バグフィルタB2を省略し、吸着粉の投入口150を煙道129のうち、電気集塵機B1の直前に形成した点を特徴としている。
これにより、原料ドライヤ12および原料ミル13からの各排ガスは、煙道129を通って電気集塵機B1に吸引される直前に投入口150から吸着粉が混入され、排ガス中の有機塩素化合物が吸着粉に吸着される。
その後、有機塩素化合物を含む吸着粉は電気集塵機B1により捕集される。そして、電気集塵機B1から排出された集塵ダストは、ダスト排送管123、粉砕原料輸送設備121を順に通過し、貯蔵サイロ14に供給される。
【0044】
このように、焼成時に発生した排ガス中に吸着粉を供給することで、排ガス中に含まれた有機塩素化合物を吸着粉に吸着させ、この吸着粉を電気集塵機B1により捕集して焼成時の燃料とするので、セメント製造設備10Aから排出されるダイオキシン類およびPCBなどの有機塩素化合物の排出量を、従来法に比べて低減させることができる。しかも、焼成用の燃料の節約を図ることができる。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるので説明を省略する。
【0045】
ここで、図4のグラフを参照して、この発明の実施例1に係るセメント製造設備10を用いて、バグフィルタB2の入り口ガス温度と、PCBsの低減率との関係を調査した結果を報告する。
図4から明らかなように、バグフィルタB2の入り口ガス温度が210〜230℃のとき、PCBsの低減率が、他の温度のときに比べて高いことがわかった。なお、有機塩素化合物分解触媒の種類によっては、PCBsの低減率が高まる温度が、上記温度とは異なる場合がある。
【0046】
また、これとは別に、実施例1の有機塩素化合物分解触媒付きの濾布を有するバグフィルタと、電気集塵機とを使用した場合におけるバグフィルタの排ガス中のPCB量/電気集塵機の排ガス中のPCB量の値(試験例1)と、有機塩素化合物分解触媒を含まない既成の濾布を使用したバグフィルタと、電気集塵機とを使用した場合におけるバグフィルタの排ガス中のPCB量/電気集塵機の排ガス中のPCB量の値(比較例1)とを対比した結果を報告する。
すなわち、試験例1では、バグフィルタの排ガス中のPCB量/電気集塵機の排ガス中のPCB量は0.05であった。また、比較例1では0.12であった。これにより、有機塩素化合物分解触媒付きのバグフィルタを有した試験例1の方が、それを有さない比較例1に比べて、PCB量が低減することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施例1に係るセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法が適用されたセメント焼成設備の概略構成図である。
【図2】この発明の実施例1に係るセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法が適用されたセメント焼成設備のバグフィルタの濾布の要部拡大断面図である。
【図3】この発明の実施例2に係るセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法が適用されたセメント焼成設備の要部概略構成図である。
【図4】この発明の実施例1に係るバグフィルタの入り口ガス温度とPCBsの低減率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10、10A セメント製造設備、
17 燃焼バーナ、
18 ロータリーキルン、
B1 電気集塵機(集塵機)、
B2 バグフィルタ(集塵機)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料からセメントクリンカを焼成する際に発生した排ガス中に吸着粉を供給することで、該焼成時に発生した排ガス中の有機塩素化合物を、前記吸着粉に吸着させる有機物吸着工程と、
前記有機塩素化合物を含む吸着粉を集塵機により捕集する集塵工程と、
該捕集された吸着粉を、前記セメントクリンカの焼成時の燃料に使用することで、前記吸着粉に吸着された有機塩素化合物を分解する分解工程とを備えたことを特徴とするセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項2】
前記集塵機は、有機塩素化合物分解触媒付きの濾布を有したバグフィルタで、
前記排ガスは、電気集塵機を通過した脱塵ガスであることを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項3】
前記セメントクリンカの焼成は、ロータリーキルンを用いて行われ、
前記吸着粉は、前記ロータリーキルンの燃焼バーナの燃料として使用されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。
【請求項4】
前記吸着粉は、石炭微粉末、活性炭微粉末、コークス微粉末の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち、何れか1項であるセメント製造設備の排ガス中の有機塩素化合物低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−45648(P2007−45648A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230079(P2005−230079)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】