説明

セラミックシートの製造方法

【課題】本発明は、焼成工程の自動化にも対応でき、且つシート間の凝着を抑制するための微粉末の散布を均一化できるセラミックシートの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明方法により製造されたセラミックシート、および当該セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明に係るセラミックシートの製造方法は、スペーサーシートとセラミックグリーンシートの表面に接合抑制粉体を散布する工程;スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に積み重ねて積層体とする工程;および、積層体を焼成する工程;を含み、接合抑制粉体の散布工程において、スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上で接合抑制粉体が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることにより、シートごとに一定量の接合抑制粉体を散布することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックシートを製造するための方法、当該方法により製造されたセラミックシート、および当該セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックシート等のセラミック成形体は、タイル、レンガ、壁材などの建材や断熱材、棚板やセッター等の焼成用治具の他、近年では固体酸化物形燃料電池の電解質膜やセパレータとしても利用されている。特に、固体酸化物形燃料電池は発電効率が高く長期安定性にも優れることから、家庭用や業務用のクリーンな電力源として期待されている。よって、セラミックシートの需要はますます高まっている。
【0003】
セラミックシートは、セラミック粒子やバインダーなどを含むセラミックグリーンシートを焼成し、有機成分を蒸散させることにより製造される。かかる焼成の際には、特許文献1に記載の技術のように、セラミックグリーンシート間に多孔質のスペーサーシートを挟む。かかるスペーサーシートは、セラミックグリーンシートからのガスの放散を均一にしたり、セラミックシート同士の接合を抑制するといった効果を有する。
【0004】
しかし、通常、セラミックグリーンシートと多孔質シートでは焼成時における収縮度合いが異なるために、両シート間の摩擦係数が大きいと焼成により表面欠陥が生じることがある。また、セラミックグリーンシートとスペーサーシートが焼成により接合することもある。
【0005】
そこで、セラミックグリーンシートとスペーサーシートとの間にコーンスターチなどの微粉末を散布することにより両シート間の接合を抑制し、また、摩擦係数を低減することが行われている。
【0006】
上記のような微粉末の散布やシートの積層は、従来、人の手により行われていた。しかし、人的作業では近年の需要に対応できなくなってきている。また、微粉末の散布は、人が微粉末をシートにかけた後に刷毛で均一化していた。しかしそれでは、微粉末を完全に均一化することはできない。微粉末分布の不均一は、セラミックシートの表面性状にそのまま反映されることもあるので問題となる。
【特許文献1】特開平8−151275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、セラミックシートの焼成工程の準備は、人的作業で行われているのが実情であった。しかしそれでは、固体酸化物形燃料電池の実用化に向けた量産化や、より均一な表面性状という要求に応えることはできない。
【0008】
そこで本発明が解決すべき課題は、焼成工程の自動化にも対応でき、且つシート間の接合を抑制するための微粉末の散布を均一化できるセラミックシートの製造方法を提供することにある。また、本発明は、本発明方法により製造されたセラミックシート、および当該セラミックシートを電解質膜とする固体酸化物形燃料電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ベルトコンベアーなどを用いてスペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上から接合抑制粉体を一定量ずつ散布することによって、焼成工程前の準備の自動化が可能となって量産化が現実化され、また、接合抑制粉体の散布量も一定となり高品質のセラミックシートが得られることを見出して本発明を完成した。
【0010】
本発明に係るセラミックシートの製造方法は、スペーサーシートとセラミックグリーンシートの表面に接合抑制粉体を散布する工程;スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に積み重ねて積層体とする工程;および、積層体を焼成する工程;を含み、接合抑制粉体の散布工程において、スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上で接合抑制粉体が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることにより、シートごとに一定量の接合抑制粉体を散布することを特徴とする。
【0011】
上記ホッパー内へは、接合抑制粉体と共に直径2mm以上、20mm以下の球体を投入することが好ましい。かかる球体によって、ホッパーの目詰まりをより一層低減することができる。
【0012】
上記製造方法においては、接合抑制粉体の平均粒子径を0.3μm以上、100μm以下とし、且つホッパーの排出口に設置されたフィルターを100メッシュ以上、400メッシュ以下のものとすることが好ましい。接合抑制粉体の平均粒子径が0.3μm未満であると、シート間の接合抑制作用が十分に発揮されないおそれがあり得る。一方、同平均粒子径が100μmを超えるとグリーンシートの脱バインダー中に該接合抑制粉体の局所的発熱が大きくなり、セラミックシートの表面に欠陥が発生したり平坦性が低下する可能性があり得る。また、ホッパーの排出口フィルターを100メッシュ以上、400メッシュ以下のものとすれば、目詰まりの発生を低減しつつ、接合抑制粉体を適量ずつ散布することができる。
【0013】
接合抑制粉体としては、有機球状微粒子がより好適である。不定形粒子よりも、シート間の摩擦係数をより一層低減できるからである。
【0014】
シート上に散布されなかった接合抑制粉体は、製造コストの低減のために、回収して再利用することが好ましい。
【0015】
本発明のセラミックシートは、上記本発明方法で製造されることを特徴とする。また、本発明の固体酸化物形燃料電池は、上記セラミックシートを電解質膜とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、これまで人的作業で行われていた焼成工程の準備作業、具体的には、セラミックグリーンシートとスペーサーシート上への接合抑制粉体の散布や、両シートの積み重ねの自動化が可能となる。その結果、セラミックシートの量産化が期待できる。また、接合抑制粉体をシート上へ均一に散布できるので、表面性状がより均一で平坦性に優れたセラミックシートを製造することができる。従って、本発明は、固体酸化物形燃料電池の電解質膜などとして利用できる高品質なセラミックシートの大量生産を可能にするものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るセラミックシートの製造方法は、スペーサーシートとセラミックグリーンシートの表面に接合抑制粉体を散布する工程;スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に積み重ねて積層体とする工程;および、積層体を焼成する工程;を含み、接合抑制粉体の散布工程において、スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上で接合抑制粉体が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることにより、シートごとに一定量の接合抑制粉体を散布することを特徴とする。以下、実際の実施の順番に従って、本発明方法を説明する。
【0018】
(1) 原料スラリーまたは原料混練物の調製
先ず、セラミック粒子、溶媒、バインダー、可塑剤等を混合し、原料スラリーまたは原料混練物を調製する。
【0019】
原料とするセラミック粒子は常法により製造してもよいし、或いは市販のものを使用してもよい。また、セラミック粒子としては、粒子径が揃っているものが好適である。
【0020】
本発明で用いるセラミック粒子の材料は、通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化クロム等の金属酸化物;コージェライト、βスポンジューメン、チタン酸アルミニウム、ムライト、スピネル等の複合酸化物;炭化ケイ素等の金属炭化物;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の金属窒化物;酸化ニッケル、酸化鉄等の遷移金属酸化物;ランタンマンガネート、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等のペロブスカイト構造酸化物を挙げることができ、これらから1種を選択するか、2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
特に、本発明のセラミックシートを燃料電池の電解質膜として利用する場合には、セラミック粒子の材料として、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテリビウム等で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリア等でドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0022】
さらに、本発明のセラミックシートを燃料電池の電解質膜として利用する場合には、セラミック粒子の材料として、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、4〜15モル%の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアへ、アルミナ、シリカ、チタニア、セリアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明のセラミックシートを燃料電池のセパレータとして利用する場合には、導電性のセラミック材料が好適である。例えば、ランタンクロマイトや、ランタンクロマイトのランタンまたはクロムの一部が、ストロンチウム、カルシウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、チタンなどで置換されたランタンクロマイトペロブスカイト構造酸化物を使用することができる。
【0024】
原料であるセラミック粒子としては、平均粒子径が0.1μm以上、0.5μm以下と微細なものを用いることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、粒度分布から求められるメジアン径、即ち50体積%(D50)をいうものとする。また、セラミック粒子としては、粒子径分布の小さいものが好適である。具体的には、90体積%径(D90)が1μm以下であるものが好ましい。より好ましくは、平均粒子径が0.2μm以上、0.3μm以下であり、90体積%径が0.7μm以下である。これら平均粒子径と90体積%径は、堀場製作所製のLA−920などのレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、0.2重量%メタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒として測定した粒度分布から求めることができる。
【0025】
原料スラリーまたは原料混練物に用いられるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。これらの中でも、セラミックグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の収縮率のバラツキ抑制等の観点から、熱可塑性で、且つ数平均分子量が20,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。
【0026】
セラミック粒子とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部が好ましく、より好ましくは後者10〜20質量部の範囲である。バインダーの使用量が不足する場合は、セラミックグリーンシートの成形性が低下し、また、強度や柔軟性が不十分となる。逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、脱脂・焼結時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって収縮率のバラツキも大きくなり、寸法バラツキの小さなシートが得られ難くなり、また、バインダーが残留カーボンとして残留し易くなる。
【0027】
使用される溶媒としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら溶媒の使用量は、セラミックグリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1〜50Pa・s、より好ましくは2〜20Pa・sの範囲となる様に調整するのがよい。
【0028】
原料スラリーまたは原料混練物の調製に当たっては、セラミック原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等からなる分散剤;セラミックグリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル系からなる可塑剤など;さらには界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0029】
なお、前記ポリエステル系可塑剤は、下記式1
R−(A−G)n−A−R 式1
(式中、Aは二塩基酸残基、Rは末端停止剤残基を示し、Gがグリコール酸残基を示し、nは重合度を示す)
で表わされるものである。ここで、二塩基酸としてはフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等を挙げることができ、末端停止剤残基としては、メタノール、プロパノール、ブタノール等の低級1価アルコールを挙げることが出来る。重合度は10〜200が好適であり、より好ましくは20〜100である。また、分子量は600〜3000のものが好適に使用される。
【0030】
原料スラリーまたは原料混練物は、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミル等により粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0031】
(2) セラミックグリーンシートの製造
次に、得られた原料スラリーまたは原料混練物を成形する。成形方法は特に制限されず、ドクターブレード法や押出成形法などの常法を用いて、適切な厚さのシートとする。その後、乾燥することによりセラミックグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、例えば室温〜150℃の一定温度で乾燥してもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
【0032】
得られたセラミックグリーンシートは、任意の方法で適当な大きさに打抜き若しくは切断加工してもよい。このグリーンシートの形状としては、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。また、シート厚も特に制限されるものではないが、例えば50〜1000μm程度とすることがきる。
【0033】
なお、セラミックグリーンシートの表面粗さは、使用するセラミック粉末や原料スラリー等の粒度分布に依存するが、ドクターブレード法によるテープキャスティングの場合、比較的容易に調整することができる。例えば、粗化したPETフィルム上にキャスティング等したり、キャスティング後に表面を粗くした粗化用シートをグリーンシートに押圧すればよい。押出成形法によりセラミックグリーンシートを得た場合でも同様である。
【0034】
なお、セラミックグリーンシートの表面粗さとしては、一般的には、Raで0.01〜6μmの範囲が好適である。
【0035】
(3) スペーサーシートの製造
本発明では、上記セラミックグリーンシートの他に、別途スペーサーシートを用意する。当該スペーサーシートは多孔質のものであるので、焼成時に当該シートでセラミックグリーンシートを挟むことによって、セラミックグリーンシートから分解ガスが均一かつスムーズに放散される。
【0036】
当該スペーサーシートは、上記セラミックグリーンシートと同様に、グリーンシートを成形した上で焼成することにより製造すればよい。但し、当該スペーサーシートは目的物であるセラミックシートと同一ではないので、製造条件を調整する必要がある。例えば、スペーサーシートの原料であるセラミック粒子としては、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、ムライト粒子、マグネシアスピネル粒子、セリア粒子およびこれら2種以上の混合粒子が好適である。
【0037】
当該スペーサーシートの表面の摩擦係数としては、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。焼成の際にはセラミックグリーンシートは収縮するが、スペーサーシートの摩擦係数が小さければ、グリーンシートが収縮するときのシート間の滑りは円滑であり、グリーンシート表面における不均一な引張力や圧縮力の発生を抑制できる。一方、当該摩擦係数が1.5を超えると、焼成時においてセラミックグリーンシートとスペーサーシートとの間で局部的な歪みが生じてその近辺で引張力や圧縮力が発生するおそれがある。これら引張力等は、セラミックシートにピンホールやディンプル、うねりなどの表面欠陥を生じる原因となり得るばかりでなく、極端な場合はクラックの原因となり得る。なお、上記摩擦係数は、底面積15cm2、重さ75gの重しにJIS L3201に規定されるR36Wのフェルトを張り付け、多孔質スペーサーシートの上を100mm/分の速度で10cmの距離を移動させたときの最大応力を、重しの重さで除することにより求めることができる。
【0038】
また、スペーサーシートは、焼成時にセラミックグリーンシートから発生する分解ガスの放散を円滑にし、局部的なガス抜け不良に起因するピンホールやディンプルを抑制するという作用効果も有する。そのためには、スペーサーシートの通気性を0.0005m/s・kPa以上とすることが好ましく、より好ましくは0.001m/s・kPa以上、さらに好ましくは0.005m/s・kPa以上とすることが望ましい。かかる通気性が0.0005m/s・kPa未満であると、焼結時におけるガス抜けが不良もしくは不均一となり、セラミックシートにピンホールやディンプルが生じることがあり得る。なお、かかる通気性を満たす限りスペーサーシートの気孔径は特に制限されないが、気孔径が大きいほど通気性は良好となるので、平均の気孔径を0.5μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることがより好ましい。
【0039】
さらに、上述したスペーサーシートの作用効果をより確実に発揮せしめるためには、そのウネリ高さおよび最大ディンプル高さを50μm以下とすることが好ましく、より好ましくは20μm以下とする。スペーサーシート表面に高いウネリやディンプルが存在すると、セラミックグリーンシートの焼成時において、それらの突出部分に滑り方向の応力が集中して円滑な滑りの障害となり得る。よって、それらを小さく抑えることによって、円滑な滑りをより確実に確保することが可能になる。なお、これらウネリやディンプル高さの測定方法は特に制限されないが、例えば、レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元形状解析することにより求めることができる。
【0040】
スペーサーシートとしては、ハンドリング性が良好な範囲で薄く且つ軽いものを使用することが好ましい。スペーサーシートを薄く且つ軽くすれば、焼成時においてセラミックグリーンシートとの間の円滑な滑りをより一層確実にできる。具体的には、スペーサーシートの厚さとしては1mm未満が好ましく、0.8mm未満がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。また、重さとしては、0.15g/cm2以下が好ましく、0.1g/cm2以下がより好ましい。但し、過剰に薄いと強度が不足してハンドリング性が悪化する場合があり得るので、好ましくは0.1mm以上にする。
【0041】
(4) 接合抑制粉体の散布工程
本発明では、スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上で接合抑制粉体が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることにより、シートごとに一定量の接合抑制粉体を散布する。
【0042】
スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させる手段は特に制限されないが、例えばベルトコンベアやローラーコンベアを挙げることができる。スペーサーシートとセラミックグリーンシートは、当該移動手段へ交互に供給すればよい。かかる供給は人的作業で行ってもよいが、自動化すればさらに効率は向上する。
【0043】
シートの移動速度は、2〜10m/分程度にすればよい。当該移動速度が遅過ぎると効率が向上しないし、早過ぎるとシート上に接合抑制粉体を十分に散布できないおそれがある。また、スペーサーシートとセラミックグリーンシートとの間隔は、10〜100cm程度、より好ましくは40〜70cm程度とすることができる。
【0044】
本発明では、図1に示すように、シートの移動手段の上にホッパーを設け、該ホッパーの上にはホッパー内の粉体量がほぼ一定になるように供給するための粉体溜めが設けられている。該粉体溜めから配管で当該ホッパーに接合抑制粉体が一定になるように投入しつつ、該ホッパーを一定の振動数で振動させ、排出口から接合抑制粉体を一定の割合でシート上へ散布する。上記粉体溜めからホッパーへの粉体供給速度を、シートへのより均一な散布するために0.1〜1g/分、好ましくは0.2〜0.8g/分に調整することが有効である。なお、ホッパー排出口からシートへ散布は、連続的に行ってもよいしシート状にのみ散布できるように間歇的に行ってもよい。
【0045】
接合抑制粉体は、焼成時におけるスペーサーシートとセラミックグリーンシートとの接合を抑制するほか、シート間の摩擦を低減して表面欠陥の発生を低減したり、また、分解ガスの放散促進にも役立つ。
【0046】
ここで用いられる粉体としては、平均粒子径が0.3μm以上、100μm以下の範囲のものが好ましい。0.3μm未満の粉末では余りに微細であるため接合抑制作用や分解ガスの放散促進作用が有効に発揮されず、また、特に無機質粉末の場合は焼結時に粉末自体がセラミックシートやスペーサーシートの表面に融着することがある。一方、100μmを超える粗粒物では、焼成時においてグリーンシート中の有機成分が蒸散する際における粉体の局所的な発熱が大きくなるおそれがある。こうした利害得失を考慮して、より好ましい粉体の平均粒子径は1μm以上、50μm以下、さらに好ましくは2μm以上、40μm以下である。粉体として特に好ましいのは、粗粒子の少ないものであり、90体積%の粒子が200μm以下、さらに好ましくは100μm以下のものである。
【0047】
接合抑制粉体としては、有機質および無機質のいずれであっても構わないが、中でも特に好ましいのは有機質粉体であり、特に解重合性の高分子樹脂が好ましい。無機質粉体は、焼成後もスペーサーシート等の表面に残存するばかりでなく、その種類によってはシート表面に融着する可能性がある。しかし有機質粉体であれば、焼成により焼失してしまうので後処理による除去作業などが不要である。但し、有機質粉体と共に少量の無機質粉体を併用し、焼結の末期まで少量の粉体を残存させることも有効である。無機質粉体を使用する場合でも、好ましくは有機質粉体の使用量を50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上とすることが望ましい。
【0048】
有機質粉体としては、上記の様に焼成条件下で焼失するものであればその種類は問わず、例えば、コーンスターチ、甘藷でんぷん、馬鈴薯でんぷんなどの天然有機質粉体や、アクリル樹脂粉体、メラミンシアヌレートなどの有機樹脂粉体等を使用できる。より好ましくは、有機球状微粒子を用いる。有機球状微粒子は、シート間における摩擦係数の低減作用に極めて優れ、また、ホッパーの排出口により詰まり難いからである。これら有機質粉体は、単独で使用してもよく或いは必要により2種以上を適宜併用することが可能である。
【0049】
無機質粉体の種類も特に限定されないが、好ましいのは天然もしくは合成の各種酸化物や非酸化物である。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ムライトや、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、カーボンなどを使用できる。これらも単独で使用し得る他、必要により2種以上を併用できるが、好ましくは使用するスペーサーシートの素材に応じて、これらに対して反応性の低い無機質粉体を選択使用する。
【0050】
接合抑制粉体を挿入するホッパーの排出口フィルターとしては、100メッシュ以上、400メッシュ以下のものが好適である。100メッシュ未満では粉体の放出を制御できなくなるおそれがある一方で、400メッシュを超えると目詰まりする可能性が高くなるおそれがあり得る。
【0051】
好適な排出口の形状は長方形や楕円形であり、その大きさとしては、シート移動方向の幅で5〜50mmが好ましく、10〜30mmがより好ましい。シート移動方向の直交方向の大きさは、同方向におけるシートの長さよりも5〜30mm長くすることが好ましく、通常は100〜250mm程度である。
【0052】
当該ホッパー内には、接合抑制粉体と共に直径2mm以上、20mm以下の球体を投入することが好ましい。かかる球体によって、ホッパーの目詰まりをより一層低減することができる。当該球体としては、直径3mm以上、10mm以下のものがより好適である。また、挿入する球体は、全て同一であってもよいし、或いは材質や直径の異なる2種以上の組合せであってもよい。
【0053】
ホッパーへの球体の投入量は、球体材料の密度、排出口の寸法、ホッパーの形状などによって適宜調節すればよいが、一般的には100g〜1kg、より好ましくは200〜500g程度である。
【0054】
球体の材質としては、ジルコニア、アルミナ、窒化珪素、タングステンカーバイド、ステンレス鋼、クローム鋼、ポリアミドなどを挙げることができる。また、金属を芯とし、樹脂に被覆された球体も用いることができる。
【0055】
本発明では、接合抑制粉体が挿入されたホッパーを一定の振動数で振動させることによって、接合抑制粉体を一定の割合ずつ排出口から散布する。ホッパーの振動は、上下方向、水平方向、上下方向と水平方向の組合せのいずれであってもよい。当該振動数は適宜調節すればよいが、50Hz以上、500Hz以下程度にすることができる。より好ましくは80Hz以上、200Hz以下程度とする。
【0056】
ホッパーの排出口には自動開閉装置を設け、センサーなどと組合せ、シートが排出口の真下に存在するときのみ接合抑制粉体を散布するように制御することも可能である。しかし、接合抑制粉体をシート上にのみ散布することは難しく、また、装置の簡素化のために散布を継続的に行うこともある。よって、シートの移動手段上にも接合抑制粉体が付着する。かかる粉体は、電気集塵機などで回収して再利用することもできる。再利用する場合には、200メッシュ程度で篩下することが好ましい。
【0057】
接合抑制粉体は、セラミックグリーンシートおよびスペーサーシートの表面全体に散布することが好ましい。その好ましい散布量は、シート面積100cm2当たり1mg以上、より好ましくは1.5mg以上、5mg以下、より好ましくは4mg以下である。散布量が少な過ぎると、その接合抑制作用などが十分に発揮されないおそれがある一方で、散布量が多過ぎると、かえって表面欠陥や平坦性欠陥の原因となるおそれがある。
【0058】
接合抑制粉体のシートへの散布量は、シートの移動速度、接合抑制粉体の粒子径やホッパー排出口のフィルター径、ホッパーの振動数などにより調節することができる。
【0059】
(5) シート積重工程
接合抑制粉体を散布されたセラミックグリーンシートとスペーサーシートは、交互に積み重ねて積層体とする。通常は最下段にスペーサーシートを置き、その上にセラミックグリーンシートとスペーサーシートを交互に積み重ね、最上段にはスペーサーシートを載せる。最下段のスペーサーシートはセラミックグリーンシートと棚板との接合を防ぎ、最上段のスペーサーシートは重しとなりセラミックグリーンシートの反りやうねりの発生を低減する。
【0060】
シートの積み重ねは、シートの移動手段を利用して行うことができる。しかし、従来、かかる作業は人の手により行われていたが、効率が悪い上に、シートを積み重ねる際に接合抑制粉体が移動して散布状態が不均一になったり、シート間にずれが生じてセラミックグリーンシートがスペーサーシートからはみ出して、焼成により得られるセラミックシートに欠陥が生じていた。そこで図1のような運搬装置を用い、積み重ねをスムーズに行うことも可能である。
【0061】
図1において、接合抑制粉体5が散布されたセラミックグリーンシート2またはスペーサーシート3は、シート移動装置1の左端から、調整されたシート運搬装置7へ移動する。このシート運搬装置7にセラミックグリーンシート2またはスペーサーシート3が完全に移動すると、シートはシート運搬装置7上を移動しつつ、シート運搬装置7自身も積層体移送装置9側に移動する。シート運搬装置7のベルト位置の高さは、シート移動装置1のベルト位置の高さと同じ高さとなるよう調整しておく。
【0062】
さらにシート運搬装置7は、積層体移送装置9の上の可動式積層体ストッパー8の位置までシートを移動させる。この際、シート運搬装置7のベルト位置の高さは、積層体移送装置9のベルト位置の高さと同じであってもよいし、積層体移送装置9のベルト位置の高さより5〜50mm程度高くてもよい。また、可動式積層体ストッパー8によって、セラミックグリーンシート2またはスペーサーシート3の一端がそろい、セラミックグリーンシート2がスペーサーシート3からはみ出すことはない。
【0063】
シートが所定枚数まで積み重ねられると、可動式積層体ストッパー8は積層体移送装置9の搬送ベルトの下まで自動的に下がり、積層体10は積層体移送装置9上を移動する。その後、可動式積層体ストッパー8は積層体移送装置9の搬送ベルトの上まで上がり、再びシートの積重作業が始まる。
【0064】
シートを積層体移送装置9へ運搬したシート運搬装置7は、シート移動装置1側へ移動し、再びシートが運ばれるまで待つ。以上の工程において、シート運搬装置7にはシートが1枚ずつ載るように、シートの間隔や移動速度などを調節する。
【0065】
各シートの積み重ね枚数としては、セラミックグリーンシートで4〜13枚程度、スペーサーシートで5〜15枚程度とすることが好ましい。焼成炉にはできるだけ多くのシートを挿入した方が効率はよい。しかし積重枚数が多過ぎると表面欠陥の発生するおそれがある。
【0066】
(6) 焼成工程
上記積層体中のセラミックグリーンシートは、焼成することによりセラミックシートとする。この際、図2のように、積層体をアルミナ等の棚板11に載置し、この棚板11を支柱12を介して積み重ねて焼成炉に入れることによって、効率的に焼成を進めることができる。
【0067】
具体的な焼成の条件は特に制限されず、常法によればよい。例えば、セラミックグリーンシートからバインダーや可塑剤等の有機成分を除去するために150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、1000〜1600℃、好ましくは1200〜1500℃で2〜10時間保持焼成することによりセラミック粒子を焼結し、セラミックシートを得る。
【0068】
(7) 固体酸化物形燃料電池の製造
本発明に係るセラミックシートは、固体酸化物形燃料電池の電解質膜として利用することができる。かかる固体酸化物形燃料電池の製造は、従来公知の方法に従えばよい。例えば、電解質膜の一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極をスクリーン印刷等で形成し燃料電池セルとする。ここで、燃料極、空気極の形成の順序は特に制限されないが、必要な焼成温度が低い電極を先に電解質上に製膜後焼成し、あるいは燃料極、空気極を同時に焼成してもよい。また、電解質と空気極との固相反応による高抵抗成分が生成するのを防止するために、電解質と空気極との間にバリア層としての中間層を形成してもよい。この場合は、中間層を形成した面または形成すべき面とは逆の面上に燃料極を形成し、中間層の上に空気極を形成する。ここで、中間層と燃料極の形成の順序は特に制限されず、また、電解質膜の各面にそれぞれ中間層ペーストと燃料極ペーストを塗布乾燥した後に焼結することによって、中間層と燃料極を同時に形成してもよい。燃料極および空気極の材料、さらには中間層材料、また、これらを形成するためのペーストの塗布方法や乾燥条件、焼成条件などは、従来公知の方法に準じて実施できる。
【0069】
燃料極および空気極が形成された本発明に係る電解質膜、或いは燃料極および空気極と中間層が形成された本発明に係る電解質膜は、電解質と電極または中間層との接触面積が大きいことから耐久性と発電性能に極めて優れる。よって本発明方法によれば品質の高いセラミックシートを効率的に製造できることから、本発明は燃料電池の実用化に寄与し得るものである。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
実施例1
(1) ジルコニアグリーンシートの製造
セラミック粒子である8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学社製、商品名「HSY−8」、平均粒子径:0.4μm、比表面積:8.5m2/g)99.5質量部とアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名「AL−160SG」)0.5質量部、溶媒であるトルエン/イソプロパノール混合液(トルエン/イソプロパノール質量比=3/2)50質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部との混合物を、ボールミルを用いて粉砕しつつ混合した。当該混合物へ、バインダーとしてメタクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50%)を固形分換算で15質量部と、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を添加し、さらにボールミルにより混合してスラリーとした。得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度:40℃で減圧(約4〜21kPa)下に濃縮脱泡し、25℃での粘度を3Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。
【0072】
この塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法により両面剥離処理PETフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥機(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)中を0.2m/分の速度で通過させて乾燥した。さらに乾燥機出口外に設置したスリッターで幅95cmのグリーンシートを連続的に走向方向に切断して、幅150mm、長さ200m、厚さ320μmの長尺ジルコニアグリーンシートを得た。この長尺グリーンシートをさらに150mm間隔で切断して、150mm角のジルコニアグリーンシートを得た。
【0073】
得られた150mm角ジルコニアグリーンシートについて、100℃で24時間放置した際の放置前後の重量減少を測定したところ、乾燥減量は0.8質量%であった。また、万能材料試験機(インストロンジャパン社製、型番「4301」)を用いて、温度25℃、ヘッドスピード100mm/分の条件でジルコニアグリーンシート試料10点(資料寸法:幅10mm×長さ50mm)の引張物性試験を行ったところ、破断時の強度の平均値は40kgf/cm2、破断時までの伸び率の平均値は130%であった。
【0074】
(2) スペーサーシートの製造
平均粒子径が55μmの低ソーダアルミナ粉末(昭和電工社製、商品名「AL−13」)100質量部に対し、上記実施例1(1)で用いたバインダー12質量部、可塑剤であるジブチルフタレート2質量部、分散媒であるトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒30質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤1質量部との混合物を、ボールミルで粉砕しつつ混合してスラリーとした。さらに、上記実施例1(1)と同様にしてこのスラリーを濃縮脱泡して粘度を8Pa・sに調整し、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工して、幅155mmの長尺グリーンシートを得た。さらに上記実施例1(1)と同様に当該グリーンシートを150mm角に切断した。
【0075】
得られたグリーンシートを、表面を研磨したアルミナ板上に10枚重ねて載せ、その上に厚さ1.5mmのアルミナ板(三井金属工業社製「Y−1」、気孔率:約26%、重さ:約0.5g/cm2)を載せた。この状態で大気雰囲気下に500℃で脱脂した後、1550℃で2時間焼成することにより、多孔質スペーサーシートを得た。当該スペーサーシートは140mm角で、厚さは0.3mm、最大摩擦係数は0.97、通気性は0.003m/s・kPaであった。
【0076】
また、当該スペーサーシート20枚について、レーザー光学式三次元形状測定装置(UBM社製、マイクロフォーカスエキスパート、型式「UBM−14」」)を用いて表面にレーザー光を照射し、その三次元形状解析を行なうことによってウネリ高さおよびディンプル高さを調べたところ、最大ウネリ高さは15μm、最大ディンプル高さは30μmであった。また同じシートから10mm×50mmの試験片を作製して3点曲げ強度を測定したところ、50MPaであった。
【0077】
(3) ジルコニアシートの作製
図1に示すように、幅250mmのウレタンゴム製ベルトを備えたシート移動装置(ベルトコンベア)の上部に、小型振動機(神鋼電機社製、型式「V−4C」)付ホッパーを設置した。当該ホッパーは30mm×200mmの排出口を有し、当該排出口には150メッシュのフィルターが設けられていた。当該ホッパーへ、直径10mmのジルコニアボール(東レ社製)270gを投入した。さらに、アクリル樹脂製の球状微粒子(日本触媒社製、粒子径:3μm、製品名「エポスター(登録商標)MA」)を投入した。ベルトコンベア上へ、上記(2)で作製したスペーサーシートと(1)で作製したジルコニアグリーンシートを50cm間隔で交互に供給し、6m/分の速度で移動させた。また、小型振動機付ホッパーを振動数120Hzで振動させ、シート上にアクリル樹脂製球状微粒子を散布した。平均の散布量は、シート100cm2当たり2.5mgであった。またベルト上に散布されたアクリル樹脂製球状微粒子は、電気集塵機により回収し、再利用した。
【0078】
可動式積層体ストッパーの位置で、最下段と最上段はスペーサーシートになるようにして、11枚のスペーサーシートと10枚のジルコニアグリーンシートを交互に自動的に積み重ねた。所定のスペーサーシート−ジルコニアグリーンシート積層体が得られると、自動的にストッパーが倒れ、当該積層体が自動的に運搬され、次の積層体が得られるようにした。
【0079】
上記のようにして得られた積層体180組を、図2のように、厚さ10mmの200mm角アルミナ製棚板に載せ、当該棚板を支柱を介して積み重ね、焼成炉へ挿入し、1450℃で3時間焼成した。
【0080】
得られた1800枚のジルコニアシートは、120mm角で厚さは300μmであった。このジルコニアシートを目視にて観察したところ、ヒビや割れは皆無で表面の荒れもなかった。また、上記実施例1(2)と同様にレーザー光学式三次元形状測定装置を用いて測定したところ、反りやウネリの最大高さは30μm以下であり、極めて平滑性の高いジルコニアシートであることが分かった。
【0081】
比較例1
上記実施例1(3)において、ジルコニアグリーンシートおよびスペーサーシートへのアクリル樹脂製球状微粒子の散布とシートの積み重ねを、経験10年の熟練工が行った以外は実施例1と同様にして、ジルコニアシートを得た。具体的には、シート100cm2当たり約2.5mgになるようにアクリル樹脂製球状微粒子を散布した上で、刷毛により粒子分布を均一化した。
【0082】
得られた1800枚のジルコニアシートを目視にて観察したところ、約40枚にヒビまたは割れが発生し、約200枚に表面の荒れが観察された。また、約100枚に肉眼で観察できるような反りやうねりが生じていた。この反りやうねりが発生しているジルコニアシート20枚を、実施例1と同様にレーザー光学式三次元形状測定装置を用いて観察したところ、反りやうねりの最大高さは50μm以上であった。
【0083】
以上のとおり、人的作業により得られたジルコニアシートは平滑性に劣ることが分かった。その理由としては、人的作業ではシート上におけるアクリル樹脂製球状微粒子の分布が不均一にならざるを得ないために、焼成工程におけるジルコニアグリーンシートからの分解ガスの放散や、ジルコニアグリーンシートの収縮が不均一であったことが考えられる。また、実施例1の自動化方法に比べて、焼結工程までの準備に時間がかかった。
【0084】
実施例2
上記実施例1において、アクリル樹脂製球状微粒子の代わりにコーンスターチを用いた以外は同様にして、ジルコニアシートを得た。なお、使用したコーンスターチを0.2重量%メタリン酸ナトリウム水溶液に分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、製品名「SALD−1100」)を用いて平均粒子径を測定したところ、30μmであった。
【0085】
得られた1800枚のジルコニアシートを目視にて観察したところ、数枚にヒビまたは割れが発生し、10枚に肉眼で観察できるような反りやうねりが生じていた。この反りやうねりが発生しているジルコニアシート10枚を、実施例1と同様にレーザー光学式三次元形状測定装置を用いて観察したところ、反りやうねりの最大高さは40μm以上であった。しかし、その他のジルコニシートは、表面性状に優れるものであった。
【0086】
以上のとおり、接合抑制粉体としてアクリル樹脂製球状微粒子を用いた場合に比べれば多少劣るものの、コーンスターチを用いた場合であっても、得られたジルコニアシートは十分に平滑性に優れたものであった。
【0087】
比較例2
上記比較例1において、アクリル樹脂製球状微粒子の代わりに上記実施例2のコーンスターチを用いた以外は同様にして、ジルコニアシートを得た。得られた1800枚のジルコニアシートを目視にて観察したところ、80枚にヒビまたは割れが発生し、100枚に肉眼で観察できるような反りやうねりが生じていた。この反りやうねりが発生しているジルコニアシート20枚を、実施例1と同様にレーザー光学式三次元形状測定装置を用いて観察したところ、反りやうねりの最大高さは60μm以上であり、平坦性に劣ることが分かった。
【0088】
実施例3 ホッパーに挿入する金属球の検討
経験的に、ホッパー内に球体を挿入しない場合には、長時間の作業により排出口フィルターが目詰まりを起こしたり、目詰まりに至らなくても散布される接合抑制粉体の量が大きく変化するという現象が起こる場合があった。そこで、球体について検討した。
【0089】
上記実施例1において、ジルコニアボールの直径を5mm、10mmまたは20mmにして、シート上におけるコーンスターチの散布量の経時的変化を測定した。比較のために、球体を挿入しないで同様に実験を行った。コーンスターチの散布量は、運転開始直後と、実験開始から30分後、60分後、120分後に測定した。結果を、シート面積100cm2当たりのコーンスターチ散布量(mg)として表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
上記結果のとおり、ジルコニアボールを用いない場合には、運転開始から約60分経過後にフィルターが目詰まりを起こし、コーンスターチの散布量は1/3に低下した。直径20mmのジルコニアボールを用いた場合には、120分経過後に多少のフィルター目詰まりは認められるが、それまでの散布量は安定していた。直径が5mmおよび10mmのジルコニアボールを用いた場合には、120分経過後までフィルターの目詰まりは認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明方法を実施するためのシステムを表す模式図である。
【図2】焼成炉内におけるセラミックグリーンシート−スペーサーシート積層体、棚板および支柱の配置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
1:シート移動装置(ベルトコンベア)、 2:セラミックグリーンシート、 3:スペーサーシート、 4:ホッパー、 5:接合抑制粉体、 6:電気集塵機、 7:シート運搬装置、 8:可動式積層体ストッパー、 9:積層体移送装置、 10:セラミックグリーンシートとスペーサーシートからなる積層体、11:棚板、 12:支柱、 13:接合抑制粉体溜め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックシートを製造するための方法であって、
スペーサーシートとセラミックグリーンシートの表面に接合抑制粉体を散布する工程;
スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に積み重ねて積層体とする工程;および
積層体を焼成する工程;を含み、
接合抑制粉体の散布工程において、スペーサーシートとセラミックグリーンシートを交互に一定速度で移動させつつ、その上で接合抑制粉体が投入されたホッパーを一定の振動数で振動させることにより、シートごとに一定量の接合抑制粉体を散布することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
ホッパー内へ、接合抑制粉体と共に、直径2mm以上、20mm以下の球体を投入する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
接合抑制粉体の平均粒子径を0.3μm以上、100μm以下とし、且つホッパーの排出口に設置されたフィルターを100メッシュ以上、400メッシュ以下のものとする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
接合抑制粉体として有機球状微粒子を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
シート上に散布されなかった接合抑制粉体を回収して再利用する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造されることを特徴とするセラミックシート。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミックシートを電解質膜とすることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−215102(P2009−215102A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59926(P2008−59926)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】