説明

セラミックス接合体及びその製造方法

【課題】高い接合強度を有するとともに、高温・腐食環境下等の極限環境下における強度低下の原因となるような金属が残留しておらず、かつ、低い処理温度で安価に製造できるセラミックス接合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数のセラミックス焼結体2が接合されてなるセラミックス接合体1である。各セラミックス焼結体2の接合面に、少なくともケイ素を含み、セラミックス焼結体2とは異なる組成及び組織構造を有するセラミックス被膜3が形成されており、セラミックス被膜3が形成された接合面同士が、セラミックス中間層4を介して接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスはほぼ全体が共有結合又はイオン結合で形成されており、高温・腐食環境下等の極限環境下でも安定した性質を保ち続けるが、セラミックスの大型部材の作製は非常に難しい。セラミックスの大型部材を作製する方法として、セラミックスの小型部材同士を接合して作製する手法が提案されており、セラミックスの接合技術開発の需要が高まっている。
【0003】
既存のセラミックスの接合技術として、これまでにメタライズ法等の遷移金属を接合剤としてセラミックスを接合する方法(非特許文献1,2参照)、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition,PVD)等の高度な処理を施す方法(特許文献1,2参照)、ソルダーの利用による方法(非特許文献3,4参照)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、これら既存のセラミックスの接合技術の内、メタライズ法を利用した接合技術は、数百度という比較的低い温度で接合処理が完了するという利点を有するものの、接合後のセラミックス(セラミックス接合体)に遷移金属が残留するため、高温・腐食環境下等の極限環境下で使用されるセラミックス接合体を得るための接合技術には適していない。また、接合剤として使用する遷移金属の種類によっては、セラミックス接合体を破棄する際の環境負荷が大きくなったり、破棄に要するコストが高くなる。
【0005】
また、物理蒸着法を利用した接合技術では、遷移金属が不要であるものの、装置の巨大化や複雑化、それに伴うコストの上昇といった問題が有る。
【0006】
更に、ソルダーの利用による接合技術では、ソルダーの高融点という特性により、約1500℃という高い処理温度を必要とするため、加熱に要するコストが高くなる。なお、低融点のソルダーも存在するが、それらは鉛等の有害な元素を含んでいることが多く、環境上の観点から使用に適さない。
【0007】
また、他のセラミックスの接合技術として、プレセラミックポリマー(セラミックス前駆体ポリマー)を接合領域内に塗布し、それをレーザー光線等で加熱してセラミックスに変換(転化)させることによりセラミックス部材を接合する方法も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この技術では、ポリマーがセラミックスに転化する際に体積が縮小するために接合部分に空孔が生じやすく、また、接合面の表面状態などの接合強度を左右する因子が多いため、得られる接合体の強度が不安定であり、かつ耐熱性に問題がある場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−176189号公報
【特許文献2】特開昭59−57976号公報
【特許文献3】特表2010−534183号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.T.Klomp and Th.P.J.Botden,Am.Ceram.Soc.Bull.,49,204−211(1970)
【非特許文献2】江畑儀弘 他,大工試季報 30,9(1979)
【非特許文献3】江畑儀弘 他,窯業誌 90,714(1982)
【非特許文献4】江畑儀弘 他,工業材料 31,101(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い接合強度を有するとともに、高温・腐食環境下等の極限環境下における強度低下の原因となるような金属が残留しておらず、かつ、低い処理温度で安価に製造できるセラミックス接合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のセラミックス接合体及びセラミックス接合体の製造方法が提供される。
【0012】
[1] 複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体であって、前記各セラミックス焼結体の接合面に、少なくともケイ素を含み、前記セラミックス焼結体とは異なる組成及び組織構造を有するセラミックス被膜が形成されており、前記セラミックス被膜が形成された接合面同士が、セラミックス中間層を介して接合されているセラミックス接合体。
【0013】
[2] 前記セラミックス焼結体の接合面に形成された前記セラミックス被膜の少なくとも最表面部分が、炭化ケイ素又は酸化ケイ素である[1]に記載のセラミックス接合体。
【0014】
[3] 前記複数のセラミックス焼結体が、前記セラミックス被膜が形成された接合面同士を、金属箔を介して重ね合わせて焼成することにより接合されており、前記セラミックス中間層が、前記セラミックス被膜の一部と前記金属箔との化学反応により形成された、前記セラミックス被膜の構成元素を含むものである[1]又は[2]に記載のセラミックス接合体。
【0015】
[4] 前記セラミックス中間層における前記セラミックス被膜の構成元素の存在する割合が、前記セラミックス中間層の厚さ方向の中心部から前記セラミックス焼結体へ向かうにつれて傾斜的に減少している[3]に記載のセラミックス接合体。
【0016】
[5] 前記セラミックス中間層の厚さが、1〜45μmである[1]〜[4]の何れかに記載のセラミックス接合体。
【0017】
[6] 複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体の製造方法であって、前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、ケイ素を含む有機ケイ素系ポリマーであるセラミックス前駆体ポリマーを塗布する工程A、前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に塗布された前記セラミックス前駆体ポリマーを、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下で不融化する工程B、不融化した前記セラミックス前駆体ポリマーを焼成することにより、前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、セラミックス被膜を形成する工程C、前記複数のセラミックス焼結体のセラミックス被膜が形成された接合面同士を対向させ、前記セラミックス被膜に対して化学反応を起こすような金属箔を介して重ね合わせる工程D、及び、前記金属箔を介して重ね合わされた前記複数のセラミックス焼結体を焼成して、前記セラミックス被膜と前記金属箔とを化学反応させることにより、前記複数のセラミックス焼結体を接合する工程E、を含むセラミックス接合体の製造方法。
【0018】
[7] 前記工程Cにおける焼成が、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下における800℃以上での焼成である[6]に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【0019】
[8] 前記工程Cにおける焼成が、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下における800℃以上での焼成と、それに続いて行われる酸化雰囲気下における1400℃以上での再焼成とからなる[6]に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【0020】
[9] 前記工程Eにおける焼成によって生じた前記化学反応で、前記金属箔と前記セラミックス被膜の一部とから、前記セラミックス被膜とは異なった組成を持つセラミックス中間層が形成されることにより、前記複数のセラミックス焼結体が接合される[6]〜[8]の何れかに記載のセラミックス接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のセラミックス接合体の製造方法によれば、被接合材であるセラミックス焼結体の接合面に、セラミックス前駆体ポリマーを塗布し、所定の熱処理を施すことによって、接合面の改質(セラミックス被膜の形成)を行い、その改質部分(セラミックス被膜)と、接合面間に介在させた金属箔とを化学反応させることにより、高い接合強度を有するセラミックス焼結体が得られる。また、金属箔を構成していた金属元素は、前記化学反応により、改質部分(セラミックス被膜)の構成元素と化合物を形成するなどして、単体の状態ではほとんど残留しないため、この製造方法により得られたセラミックス接合体は、高温・腐食環境下等の極限環境下においても大きな強度低下は生じない。更に、本発明のセラミックス接合体の製造方法は、物理蒸着法(PVD)のように、大型あるいは複雑な装置を要するものではなく、また、ソルダーを用いた接合方法に比して低い処理温度で接合することができるので、セラミックス接合体を安価に製造することができる。
【0022】
また、本発明のセラミックス接合は、本発明のセラミックス接合体の製造方法によって製造することができるものであり、前記のとおり、高い接合強度を有するとともに、高温・腐食環境下等の極限環境下でも大きな強度低下は生じず、低い処理温度で安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のセラミックス接合体の製造方法において、セラミックス焼結体の少なくとも接合面に、セラミックス前駆体ポリマーを塗布する方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明のセラミックス接合体の製造方法において、セラミックス焼結体と金属箔とを重ね合わせる方法の一例を示す説明図である。
【図3】本発明のセラミックス接合体の一例を示す模式図である。
【図4】実施例及び比較例における4点曲げ強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
まず、本発明のセラミックス接合体の製造方法について説明する。本発明のセラミックス接合体の製造方法は、複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体の製造方法であって、下記工程A〜Eを含むことをその主要な特徴とする。
【0026】
(工程A)
この工程は、被接合材である複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、ケイ素(Si)を含む有機ケイ素系ポリマーであるセラミックス前駆体ポリマーを塗布する工程である。ここで、セラミックス前駆体ポリマーとは、焼成することにより、セラミックスに転化するポリマーである。本工程において使用するセラミックス前駆体ポリマーは、ケイ素を含む有機ケイ素系ポリマーであり、例えば、ポリカルボシラン(PCS)、ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)、ポリフェニルシルセスキオキサン(PPSQ)等が好適に使用できる。セラミックス前駆体ポリマーを塗布する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、図1に示すように、セラミックス前駆体ポリマーをトルエン等の溶媒に溶解させた溶液6に、セラミックス焼結体2の少なくとも接合面2aが浸かるようにディッピングする方法を好適に用いることができる。なお、被接合材であるセラミックス焼結体の材質は特に限定されるものではなく、最終的に製造されるセラミックス接合体の用途や使用環境に応じて、適宜選択される。
【0027】
(工程B)
この工程は、前記工程Aにおいて複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に塗布されたセラミックス前駆体ポリマーを、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下で不融化する工程である。例えば、セラミックス前駆体ポリマーとして、PCSを用いた場合には、大気流通下のような酸化雰囲気下にて200℃程度の温度で十数時間程度熱処理することにより、不融化(酸化不融化)することが好ましい。また、セラミックス前駆体ポリマーとして、PMSQを用いた場合には、アルゴンガス(Ar)流通下のような不活性雰囲気下にて130〜160℃程度の温度で2〜3時間程度熱処理することにより、不融化することが好ましい。
【0028】
(工程C)
この工程は、前記工程Bにおいて不融化したセラミックス前駆体ポリマーを焼成することにより、複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、セラミックス被膜を形成する工程である。本工程における焼成は、使用するセラミックス前駆体ポリマーの種類にもよるが、前記工程Bにおける不融化処理と同様に、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。焼成温度及び焼成時間は、不融化したセラミックス前駆体ポリマーがセラミックスに転化するのに要する温度及び時間とする。例えば、セラミックス前駆体ポリマーとして、PCSを用いた場合は、不融化後、Ar流通下等の不活性雰囲気下にて、800℃以上の温度(例えば1000℃程度)で1時間程度焼成することにより、セラミックス焼結体の少なくとも接合面に、炭化ケイ素(SiC)被膜を形成することができる。また、これを更に、大気流通下のような酸化雰囲気下にて、1400℃以上の温度で再焼成することにより、炭化ケイ素(SiC)被膜を酸化ケイ素(SiO)被膜へと変化させるようにしてもよい。セラミックス被膜の厚さは1〜15μm程度であることが好まく、7〜12μm程度であることがより好ましい。セラミックス被膜の厚さが、1μm未満では、後述する工程Eにおいて、金属箔との反応層であるセラミックス中間層が形成されない場合があり、15μmを超えると、後述する工程Eにおいて、金属箔を全て反応させることが難しく、金属成分が金属単体の状態で残存する場合がある。工程Aから工程Cまでの操作を1回行うだけでは、好適なセラミックス被膜の厚さが得られない場合は、当該操作を複数回繰り返してもよい。
【0029】
なお、ここまでの工程A〜Cは、被接合材である複数のセラミックス焼結体を接合するに先立って、それらの接合面を、セラミックス前駆体ポリマーを用いて改質するための工程である。すなわち、セラミックス焼結体の接合面に、セラミックス前駆体ポリマーを塗布し、所定の熱処理を施して、セラミックス被膜を形成することにより、後述する工程におけるセラミックス焼結体の接合に適した接合面の状態が得られる。セラミックス前駆体ポリマーの多くは、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)等の非金属原子とアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)等の典型元素・半金属元素から構成されており、それらがセラミックスに転化してセラミックス被膜となった後には、高温・腐食環境下等の極限環境下における強度低下の原因となるような金属(金属単体)は、残留しない。また、セラミックス前駆体ポリマーは反応活性な側鎖を有している場合が多く、他のセラミックスと反応を起こしやすいという性質を有しており、この性質を利用することにで、前記のような接合面の改質が可能となる。
【0030】
(工程D)
この工程は、図2に示すように、複数のセラミックス焼結体2のセラミックス被膜3が形成された接合面同士を対向させ、金属箔5を介して重ね合わせる工程である。ここで用いる金属箔は、前記工程Cにより、被接合材であるセラミックス焼結体の接合面に形成されたセラミックス被膜に対して、置換反応、テルミット反応等の化学反応を起こすものである。例えば、セラミックス被膜がSiC被膜やSiO被膜である場合には、それらの被膜に対して直接反応を起こすアルミ箔、マグネシウム箔等を用いるのが好ましい。金属箔の厚さは1〜15μm程度であることが好まく、7〜12μm程度であることがより好ましい。金属箔の厚さが、1μm未満では、後述する工程Eにおいて、セラミックス被膜の一部との反応層であるセラミックス中間層が形成されない場合があり、15μmを超えると、後述する工程Eにおける焼成後に、金属箔の金属成分が金属単体の状態で残存する場合がある。
【0031】
(工程E)
この工程は、前記工程Dにより、金属箔を介して重ね合わされた複数のセラミックス焼結体を焼成して、セラミックス被膜と金属箔とを化学反応させることにより、それら複数のセラミックス焼結体を接合する工程である。この工程における焼成の条件は、セラミックス被膜や金属箔の材質等により、適宜決定される。例えば、セラミックス被膜がSiC被膜やSiO被膜であり、金属箔がアルミ箔である場合には、真空中にて800℃程度の温度で2時間程度焼成することが好ましい。本工程における焼成によって生じた化学反応で、金属箔とセラミックス被膜の一部(金属箔との接触面に近い部分)とから、セラミックス被膜とは異なった組成を持つセラミックス中間層が形成され、そのセラミックス中間層によって複数のセラミックス焼結体が接合される。
【0032】
なお、金属箔を構成していた金属元素は、前記工程Eにて生じた化学反応により、セラミックス被膜の構成元素と化合物を形成するなどして、単体の状態ではほとんど残留しない。このため、本発明のセラミックス接合体の製造方法により得られたセラミックス接合体は、高温・腐食環境下等の極限環境下においても大きな強度低下は生じない。また、本発明のセラミックス接合体の製造方法は、物理蒸着法(PVD)のように、大型あるいは複雑な装置を要するものではなく、また、ソルダーを用いた接合方法に比して低い処理温度で接合することができるので、セラミックス接合体を安価に製造することができる。
【0033】
次に、本発明のセラミックス接合体について説明する。本発明のセラミックス接合体は、前述した本発明のセラミックス接合体の製造方法によって製造されるものであり、当該製造方法により製造されたことを示す特徴を有する。すなわち、本発明のセラミックス接合体は、図3に示すように、複数のセラミックス焼結体2が接合されてなるセラミックス接合体1であり、その特徴的な構成として、各セラミックス焼結体2の接合面に、少なくともケイ素を含み、セラミックス焼結体2とは異なる組成及び組織構造を有するセラミックス被膜3が形成されており、セラミックス被膜3が形成された接合面同士が、セラミックス中間層4を介して接合されている。
【0034】
本発明のセラミックス接合体1において、セラミックス被膜3は、被接合材である複数のセラミックス焼結体2の接合面に、ケイ素を含む有機ケイ素系ポリマーであるセラミックス前駆体ポリマーを塗布し、不融化した後、焼成して形成されたものである。このため、セラミックス被膜3は、少なくともケイ素を含み、当該セラミックス被膜3が形成されるセラミックス焼結体2とは異なる組成及び組織構造を有する。
【0035】
また、本発明のセラミックス接合体1において、セラミックス中間層4は、セラミックス焼結体の接合時において、セラミックス被膜3の一部とセラミックス被膜3間に介在させた金属箔との反応により生じたものである。このため、セラミックス中間層4には、セラミックス被膜3の構成元素が含まれているが、このセラミックス中間層4に含まれるセラミックス被膜3の構成元素は、セラミックス中間層4全体に均一に存在してはおらず、その存在する割合は、セラミックス中間層4の厚さ方向の中心部からセラミックス焼結体2へ向かうにつれて傾斜的に減少している。このようなセラミックス中間層4の状態も、本発明のセラミックス接合体1が、前述した本発明のセラミックス接合体の製造方法によって製造されたことを示す特徴の1つである。
【0036】
本発明のセラミックス接合体1において、セラミックス中間層4の厚さは、1〜45μmであることが好まく、10〜30μmであることがより好ましい。セラミックス中間層の厚さが、1μm未満では、クラックが形成される場合があり、45μmを超えると、セラミックス中間層4の組成にムラが生じ、強度が低下する場合がある。
【0037】
本発明のセラミックス接合体1においては、セラミックス焼結体2の接合面に形成されたセラミックス被膜3の少なくとも最表面部分が、炭化ケイ素(SiC)又は酸化ケイ素(SiO)であることが好ましい。セラミックス焼結体2の接合時にセラミックス被膜3間に介在させる金属箔として、例えばアルミ箔を用いる場合、セラミックス被膜の少なくとも最表面部分がSiCやSiOであると、セラミックス被膜と金属箔との化学反応が生じやすく、高い接合強度が得られやすい。
【0038】
本発明のセラミックス接合体1を構成するセラミックス焼結体2の材質は、特に限定されるものではなく、本発明のセラミックス接合体1の用途や使用環境に応じて、適宜選択することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
純度が99.9%以上のバルクアルミナ体をカットして、20×30×20mmの大きさのアルミナ試料片を2つ作製した。次いで、各アルミナ試料片の30×20mmの面の1つを、ポリカルボシラン(PCS)を0.1mol/l含有するトルエン溶液に浸して当該面に溶液を塗布した後、エアブローで乾燥させた。その後、各アルミナ試料片を、大気流通下にて200℃に加熱した状態で13.5時間静置する酸化不融化処理を行った。この酸化不融化処理後、各アルミナ試料片を、Ar流通下(流通速度:300ml/min)にて1000℃で1時間焼成した。このトルエン溶液の塗布、乾燥、酸化不融化処理、焼成という操作を数回繰り返し、膜厚が約12μmのSiC被膜が形成されたアルミナ試料片(SiC被膜付きアルミナ試料片)を2つ作製した。次に、この2つのSiC被膜付きアルミナ試料片のSiC被膜が形成された面同士を対向させ、それら面の間に、厚さが約24μmのアルミ箔を介在させた状態で重ね合わせた後、真空中にて800℃で2時間焼成することにより、2つのSiC被膜付きアルミナ試料片が接合されたアルミナ接合体を得た。こうして得られたアルミナ接合体の接合部位を観察したところ、接合された2つのSiC被膜付きアルミナ試料片のSiC被膜同士の間に、SiC被膜とは異なる組成を持つ厚さ約40μmのセラミックス中間層が形成されていた。また、得られたアルミナ接合体を構成するアルミナ試料片、SiC被膜及びセラミックス中間層のそれぞれについて、組織構造を解析したところ、アルミナ試料片はα−アルミナであり、SiC被膜はアモルファス(非晶質)であり、セラミックス中間層はAlとSiOとSiCのマトリクス構造を有するものであった。更に、得られたアルミナ接合体について、4点曲げ強度を複数回測定したところ、図4に示すように、平均値が127.3MPa、最大値が250.7MPaであった。なお、4点曲げ強度の測定は、JIS R1601に準拠して行った。
【0041】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した2つのSiC被膜付きアルミナ試料片のSiC被膜が形成された面を対向させて重ね合わせた後、真空中にて800℃で2時間焼成することにより、2つのSiC被膜付きアルミナ試料片が接合されたアルミナ接合体を得た。こうして得られたアルミナ接合体について、実施例1と同様に4点曲げ強度を複数回測定したところ、図4に示すように、平均値が109.2MPa、最大値が152.0MPaであった。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製した2つのSiC被膜付きアルミナ試料片を、更に大気雰囲気下にて1400℃で1時間焼成(再焼成)することにより、SiC被膜がSiO被膜へと変化した2つのSiO被膜付きアルミナ試料片を得た。次に、この2つのSiO被膜付きアルミナ試料片のSiO被膜が形成された面同士を対向させ、それら面の間に、厚さが約24μmのアルミ箔を介在させた状態で重ね合わせた後、真空中にて800℃で2時間焼成することにより、2つSiO被膜付きアルミナ試料片が接合されたアルミナ接合体を得た。こうして得られたアルミナ接合体の接合部位を観察したところ、接合された2つのSiO被膜付きアルミナ試料片のSiO被膜同士の間に、SiO被膜とは異なる組成を持つ厚さ約25μmのセラミックス中間層が形成されていた。また、得られたアルミナ接合体を構成するアルミナ試料片、SiO被膜及びセラミックス中間層のそれぞれについて、組織構造を解析したところ、アルミナ試料片はα−アルミナであり、SiO被膜の結晶構造はトリディマイトであり、セラミックス中間層はAlとSiOのマトリクス構造を有するものであった。更に、得られたアルミナ接合体について、実施例1と同様に4点曲げ強度を複数回測定したところ、図4に示すように、平均値が176.5MPa、最大値が236.9MPaであった。
【0043】
(比較例2)
純度が99.9%以上のバルクアルミナ体をカットして、20×30×20mmの大きさのアルミナ試料片を2つ作製した。次いで、各アルミナ試料片の30×20mmの面の1つを、ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)を0.1mol/l含有するトルエン溶液に浸して当該面に溶液を塗布した後、エアブローで乾燥させた。その後、各アルミナ試料片を、大気流通下にて140℃に加熱した状態で3時間静置する酸化不融化処理を行った。この酸化不融化処理後、各アルミナ試料片を、大気流通下(流通速度:100ml/min)にて800℃で2時間焼成した。このトルエン溶液の塗布、乾燥、酸化不融化処理、焼成という操作を数回繰り返し、膜厚が約12μmのSiO被膜が表面に形成されたアルミナ試料片(SiO被膜付きアルミナ試料片)を2つ作製した。次に、この2つのSiO被膜付きアルミナ試料片のSiO被膜が形成された面同士を対向させて重ね合わせた後、真空中にて800℃で2時間焼成することにより、2つのSiO被膜付きアルミナ試料片が接合されたアルミナ接合体を得た。こうして得られたアルミナ接合体について、実施例1と同様に4点曲げ強度を複数回測定したところ、図4に示すように、平均値が39.76MPa、最大値が100MPaであった。
【0044】
(考察)
図4に示すとおり、2つのSiC被膜付きアルミナ試料片のSiC被膜が形成された面同士の間にアルミ箔を介在させて焼成することにより接合された実施例1のアルミナ接合体は、2つのSiC被膜付きアルミナ試料片のSiC被膜が形成された面同士の間に何も介在させずに焼成することにより接合された比較例1に対し、高い接合強度を発揮した。同様に、2つのSiO被膜付きアルミナ試料片のSiO被膜が形成された面同士の間にアルミ箔を介在させて焼成することにより接合された実施例2のアルミナ接合体は、2つのSiO被膜付きアルミナ試料片のSiO被膜が形成された面同士の間に何も介在させずに焼成することにより接合された比較例2に対し、大幅に高い接合強度を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、大型であったり、複雑形状であったりすることから、一体品として製造することが困難なセラミックス部材、特に高温・腐食環境下等の極限環境下で用いられるセラミックス部材及びそれを製造する方法として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1:セラミックス接合体
2:セラミックス焼結体
2a:接合面
3:セラミックス被膜
4:セラミックス中間層
5:金属箔
6:溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体であって、前記各セラミックス焼結体の接合面に、少なくともケイ素を含み、前記セラミックス焼結体とは異なる組成及び組織構造を有するセラミックス被膜が形成されており、前記セラミックス被膜が形成された接合面同士が、セラミックス中間層を介して接合されているセラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス焼結体の接合面に形成された前記セラミックス被膜の少なくとも最表面部分が、炭化ケイ素又は酸化ケイ素である請求項1に記載のセラミックス接合体。
【請求項3】
前記複数のセラミックス焼結体が、前記セラミックス被膜が形成された接合面同士を、金属箔を介して重ね合わせて焼成することにより接合されており、前記セラミックス中間層が、前記セラミックス被膜の一部と前記金属箔との化学反応により形成された、前記セラミックス被膜の構成元素を含むものである請求項1又は2に記載のセラミックス接合体。
【請求項4】
前記セラミックス中間層における前記セラミックス被膜の構成元素の存在する割合が、前記セラミックス中間層の厚さ方向の中心部から前記セラミックス焼結体へ向かうにつれて傾斜的に減少している請求項3に記載のセラミックス接合体。
【請求項5】
前記セラミックス中間層の厚さが、1〜45μmである請求項1〜4の何れか一項に記載のセラミックス接合体。
【請求項6】
複数のセラミックス焼結体が接合されてなるセラミックス接合体の製造方法であって、
前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、ケイ素を含む有機ケイ素系ポリマーであるセラミックス前駆体ポリマーを塗布する工程A、
前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に塗布された前記セラミックス前駆体ポリマーを、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下で不融化する工程B、
不融化した前記セラミックス前駆体ポリマーを焼成することにより、前記複数のセラミックス焼結体の少なくとも接合面に、セラミックス被膜を形成する工程C、
前記複数のセラミックス焼結体のセラミックス被膜が形成された接合面同士を対向させ、前記セラミックス被膜に対して化学反応を起こすような金属箔を介して重ね合わせる工程D、及び、
前記金属箔を介して重ね合わされた前記複数のセラミックス焼結体を焼成して、前記セラミックス被膜と前記金属箔とを化学反応させることにより、前記複数のセラミックス焼結体を接合する工程E、
を含むセラミックス接合体の製造方法。
【請求項7】
前記工程Cにおける焼成が、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下における800℃以上での焼成である請求項6に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【請求項8】
前記工程Cにおける焼成が、不活性雰囲気下又は酸化雰囲気下における800℃以上での焼成と、それに続いて行われる酸化雰囲気下における1400℃以上での再焼成とからなる請求項6に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【請求項9】
前記工程Eにおける焼成によって生じた前記化学反応で、前記金属箔と前記セラミックス被膜の一部とから、前記セラミックス被膜とは異なった組成を持つセラミックス中間層が形成されることにより、前記複数のセラミックス焼結体が接合される請求項6〜8の何れか一項に記載のセラミックス接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224512(P2012−224512A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93881(P2011−93881)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー技術開発プログラム/革新的部材産業創出プログラム/革新的省エネセラミックス製造技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】