説明

セラミックス焼結体の製造方法

【課題】本発明は、除去すべき余肉の少ない球状または円柱状のセラミックス焼結体を製造可能な製造方法を提供することを、その目的としている。
【解決手段】本発明は、セラミックスグリーンシートを巻回して球状または円柱状の素体を形成する素体形成工程と、素体形成工程で形成された素体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法である。空孔の生成を抑制してセラミックス焼結体の密度を高めるためには、素体形成工程の後に、素体を加圧する加圧工程を含むことが望ましく、さらに加圧工程では、素体の形状を保持しつつ加圧することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ベアリング用ボールを代表的な用途とする球状のセラミックス焼結体の製造方法の一例が、下記特許文献1に開示されている。特許文献1には、「セラミック粉末を球状に予備成形した予備成形体をゴム型内に収容し、該ゴム型を介して内部の予備成形体を加圧することによって該予備成形体を高密度化した球状成形体を得る成形工程と、その球状成形体を焼成する焼成工程とを含み、前記予備成形体を収容するゴム型のゴムの硬さが65以下であることを特徴とするセラミックボールの製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−36216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された、セラミックス粉末を金型プレス成形により成形した予備成形体を冷間静水圧プレス(CIP)成形で高密度化する球状のセラミックス焼結体の製造方法は、現在、耐摩耗性と耐破損性が必要とされるベアリング用ボールの素球としてのセラミックス焼結体の製造方法として広く利用されている。しかしながら、特許文献1のセラミックス焼結体の製造方法のように、金型プレス成形でセラミックス焼結体を形成した場合には、いわゆる「帯」と呼ばれる、その中央部を包囲するように球面から環状に突起する部分が必然的に形成される。この帯は製品とならない余肉であるため、通常、焼結後に研削等で除去加工されているが、焼結後のセラミックスは難加工材であるため除去加工に長時間を費やす必要があり、除去すべき余肉の少ない球状または円柱状のセラミックス焼結体の製造方法の開発が要請されていた。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、除去すべき余肉の少ない球状または円柱状のセラミックス焼結体を製造可能な製造方法を提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する、本発明の態様は、セラミックスグリーンシートを巻回して球状または円柱状の素体を形成する素体形成工程と、素体形成工程で形成された素体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法である。
【0007】
なお、空孔の生成を抑制してセラミックス焼結体の密度を高めるためには、素体形成工程の後に、素体を加圧する加圧工程を含むことが望ましく、さらに加圧工程では、素体の形状を保持しつつ加圧することが好ましい。この加圧工程においては、金型プレスにより素体を加圧することが好ましい。金型プレスに替えて冷間静水圧プレスにより素体を加圧してもよい。
【0008】
さらに、球状のセラミックス焼結体を形成するため素体が球状である場合であって、セラミックスの真球度を高めるためには、素体形成工程において、略三角形状のセラミックスグリーンシートを使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、その課題を解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる製造方法で形成されたセラミックス焼結体を示す図である。
【図2】発明に係わるセラミックス焼結体の製造方法の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、球状のセラミックス焼結体の製造方法に係わる実施態様に基づき、図1および図2を参照しつつ説明する。なお、本発明でいう「球状」および「円柱状」の素体には、完全に球状化・円柱状化した素体のみならず、例えば球状の場合には長軸と短軸を有する断面が略楕円形状の素体、表面に凹凸を有する素体など実質的に外観が球状または円柱状の素体が含まれ得る。また、本発明は、下記説明する実施態様に限定されることなく、その技術的思想において同一の範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0012】
本実施態様の製造方法により製造された球状のセラミックス焼結体の斜視図を図1(a)に、その中心を鉛直に通る図示B平面に沿う断面図を図1(b)に示す。なお、図1(b)において点線は、焼結工程において消失するため焼結体では確認できないセラミックスグリーンシート1の密着面を理解のため示している。図1(a)・(b)に示すように、本態様の製造方法により製造されたセラミックス焼結体10は、その外周面に段部10aを有している。高さがt1である段部10aは、図2を参照して詳述するように、本態様の製造方法が、厚みがt2であるセラミックスグリーンシート(以下、シートという場合がある。)1を球状に巻回してセラミックス焼結体10を製造することに起因して形成される。この段部10aは除去すべき余肉となるが、シート1の厚みt2を適切に選択することによりその量を低減することができる。
【0013】
上記セラミックス焼結体10の製造方法について、その製造工程を示す図2を参照して説明する。まず、シート1を準備する。ここで、シート1の形状はセラミックス焼結体10の形状や求められる精度により適宜設定されるが、真球度の高い焼結体10を形成するためには、図2(a)に示すように3辺1a〜1cを有する略三角形状とすることが好ましく、底辺1aの両端から延びる左辺1bおよび右辺1cの長さが同一である2等辺三角形状とすることがより望ましい。また、シート1は、その厚みt2が50〜500μmであることが望ましい。シート1の厚みt2が50μm未満の場合には、薄いシート1を形成するのにコストがかかるとともにシート1の強度が低く、シート1を巻回して球体を形成する球体形成工程においてシート1が破断しやすくなり歩留まりが低下する。一方で、シート1の厚みt2が500μmを超える場合には、余肉となるセラミックス焼結体10の段部10aが大きくなり、段部10aを除去するコストが増加する。なお、シート1の厚みt2は、100〜300μmであることがより好ましく、150〜200μmであれば好適である。
【0014】
上記シート1は、例えば乾式成形であるプレス成形やCIP、湿式成形である鋳込成形、射出成形などで略三角形状となるよう一葉の形態で形成してもよい。しかしながら、セラミックス原料粉末、水または有機溶剤からなる溶媒および結合材・可塑剤・潤滑剤その他の成形助剤を混合した原料スラリーをテープ成形法(ドクターブレード法)で成形して長尺のシートを製造し、その長尺のシートから裁断または打抜き、その後乾燥させてシート1を形成することが、薄いシート1を低コストで生産するためには望ましい。
【0015】
次いで、シート1を巻回して球状の素体11を形成する素体形成工程を行う。本態様の素体形成工程では、その好ましい一例の断面図である図2(b)に示すように、略半球状の凹部2aを有する形成冶具2を用いてシート1を巻回して素体11を形成する。具体的には、まず、左辺1bと右辺1cの交わるシート1の先端1dを、形成冶具2の凹部2aの表面に接触させ、その後シート1を形成冶具2の方向に送りこむ。すると、形成冶具2の凹部2aの表面の曲率に倣いシート1は丸まっていき、その左辺1bと右辺1cが内方に織り込まれつつ図示A方向にシート1は巻回され、その結果、球状の素体11が形成される。
【0016】
上記のように素体形成工程で形成された素体11は、その後脱脂工程を行い含まれるバインダーを除去した後、焼結工程において焼結してもよい。しかしながら、焼結後のセラミックス焼結体に含まれる空孔の抑制および素体11の密度のバラツキによる焼結時の変形抑制のためには、素体形成工程の後に、素体11を加圧する加圧工程を設け、素体11をより緻密化することが望ましい。なお、加圧工程においては、素体11の形状を保持しつつ素体11を加圧することが好ましい。加圧工程を設ける場合には、脱脂工程は、加圧工程の前後いずれで行ってもよい。この加圧工程の具体例を図2(c)に示す。図2(c)に示す加圧工程は、収納容器3に収納された球体11を冷間静水圧プレス(CIP)で加圧する例である。具体的には、収納容器3は、一面同士が密着するように重ね合わされたときに素体11を収納可能な球状の収納部3cが形成される弾性を有するゴム製の上型3bおよび下型3aとで構成されており、収納部3cに素体11が収納された収納容器3は密封されたゴム製の袋体3dに収められてCIP装置の中に配置され、収納容器3を介して周囲から等方的に圧力Pが加えられ素体11は加圧処理される。なお、上記CIPによる加圧処理に替え、素体11を圧密可能なキャビティーを有する金型でプレスすることによる加圧処理を行ってもよい。
【0017】
上記加圧工程の後に、所定の温度で素体11を焼結することにより図1に示す球状のセラミックス焼結体10が形成される。そして、本発明によれば、適切な厚みt2を有するシート1を使用することにより、歩留まりよく余肉である段部10aの少ないセラミック焼結体10を得ることができる。
【0018】
なお、円柱状のセラミックス焼結体は、準備するシートの形状を短冊状とし、形成冶具の凹部を略半円柱形状とすれば、基本的には上記球状のセラミックス焼結体と同様にして製造することができる。
【符号の説明】
【0019】
1 セラミックスグリーンシート
2 形成冶具
3 収納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスグリーンシートを巻回して球状または円柱状の素体を形成する素体形成工程と、前記素体形成工程で形成された素体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記素体形成工程の後に、素体を加圧する加圧工程を含む請求項1に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧工程において、金型プレスにより素体を加圧する請求項2に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記加圧工程において、冷間静水圧プレスにより素体を加圧する請求項2に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記素体は球状であり、前記素体形成工程において、略三角形状のセラミックスグリーンシートを使用する請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミックス焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28057(P2013−28057A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165255(P2011−165255)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】