説明

セラミックス組成物、セラミックス焼結体及び電子部品

【課題】低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が低く、共振周波数の温度係数τfの絶対値がゼロに近いセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス組成物、該組成物から得られるセラミックス焼結体、及び該焼結体を用いた電子部品を提供する。
【解決手段】BaO 10〜70質量部、SiO 20〜80質量部、Al 0.1〜30質量部からなり、固相反応法により合成されたBaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、SrTiO粉末を2.2〜17.4質量部、Zn成分を酸化物換算で2.3〜8.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.9〜3.5質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3.5質量部、Bi成分を酸化物換算で0〜23.3質量部、B成分を酸化物換算で0.5〜3.3質量部含有するセラミックス組成物。該組成物を用いて、セラミックス焼結体及び電子部品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が低いセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス組成物、該組成物から得られるセラミックス焼結体、及び該焼結体を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報の大容量化、情報通信の高速化に伴い、高周波信号を損失なく伝送することが求められている。このため、これらの機器に搭載される回路基板等の電子部品は、高周波領域での誘電損失が低いことが求められている。高周波信号を損失なく伝損する上で、銅や銀などの低抵抗金属を使用して導体層を形成することが要求されており、これらの電子部品に用いられるセラミックス組成物においては、低抵抗金属との同時焼成を可能にすべく、低温で焼結が可能であることが必要とされている。
【0003】
このようなセラミックス組成物に用いられる材料の一つとして、BaO−SiO−Al系セラミックスがある。例えば、特許文献1には、バリウム成分をBaOに換算して10−64重量%、珪素成分をSiOに換算して20−80重量%、アルミニウム成分をAlに換算して0.1−20重量%、ホウ素成分をBに換算して0.3−1.0重量%、亜鉛成分をZnOに換算して0.5−20重量%、およびビスマス成分をBiに換算して0.1重量%以上、20重量%以下含有している低温焼成磁器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3838541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、BaO−SiO−Al系セラミックスは、共振周波数の温度係数τfの絶対値が大きいために、静電容量の温度係数が大きくなり、使用環境によっては、所望の誘電特性が得られず、特にアンテナやフィルタに用いる場合には設計の許容範囲を狭めてしまう問題があった。
【0006】
よって、本発明の目的は、低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が低く、共振周波数の温度係数τfの絶対値がゼロに近いセラミックス焼結体を得ることが可能なセラミックス組成物、該組成物から得られるセラミックス焼結体、及び該焼結体を用いた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のセラミックス組成物は、BaO 10〜70質量部、SiO 20〜80質量部、Al 0.1〜30質量部からなり、固相反応法により合成されたBaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、SrTiO粉末を2.2〜17.4質量部、Zn成分を酸化物換算で2.3〜8.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.9〜3.5質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3.5質量部、Bi成分を酸化物換算で0〜23.3質量部、B成分を酸化物換算で0.5〜3.3質量部含有することを特徴とする。
【0008】
本発明のセラミックス組成物は、前記BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、Ag成分を酸化物換算で0.6〜3.5質量部含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明のセラミックス焼結体は、上記セラミックス組成物を焼成して得られたものである。
【0010】
本発明のセラミックス焼結体は、BaO−SiO−Al系セラミックス結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO結晶が単独で存在していることが好ましい。この態様において、前記SrTiO結晶の平均粒径が0.5〜3μmであることが好ましい。
【0011】
本発明のセラミックス焼結体は、共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10−6/℃以下であり、Q×f値が1000GHz以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の電子部品は、上記セラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の電子部品は、前記導体層が、Ag、Cu、もしくはそれらの少なくとも一方を含む合金で形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の電子部品は、基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセラミックス組成物は、BaO 10〜70質量部、SiO 20〜80質量部、Al 0.1〜30質量部からなり、固相反応法により合成されたBaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、SrTiO粉末を2.2〜17.4質量部含有させたことで、得られるセラミックス焼結体の誘電率ε及びQ×f値を大きくしつつ、共振周波数の温度係数τfを制御して、ほぼゼロに近づけることができる。また、Zn成分、Cu成分、Ag成分、Bi成分及びB成分を、それぞれ所定量含有させたことにより、低温焼結が可能となり、1000℃以下での低温で焼結が可能となる。
【0016】
また、本発明のセラミックス焼結体は、低温焼結が可能であることから、Cu、Ag等の低抵抗金属と同時焼結することができ、これらの低抵抗金属を導体層として備えた電子部品のセラミックス層などに用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[セラミックス組成物]
本発明のセラミックス組成物は、固相反応法により合成されたBaO−SiO−Al系セラミックス粉末を主成分として含有する。
【0018】
このBaO−SiO−Al系セラミックス粉末は、Ba、Si、Alの酸化物、炭酸塩等のガラスでない材料からなるセラミックス粉末を混合し、融点以下で加熱し、固相反応法により焼結し、所定粒度に粉砕して製造される。
【0019】
上記セラミックス粉末は、Ba、Si、Alをそれらの酸化物、すなわちBaO、SiO、Alに換算した配合割合が、BaO 10〜70質量部、SiO 20〜80質量部、Al 0.1〜30質量部となるように調整する。BaO、SiO、Alを上記範囲に調整することで、誘電率εが小さく、Q×f値が高いセラミックス焼結体を得ることができる。
【0020】
本発明において、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末の平均粒径は、0.8〜2μmが好ましい。平均粒径が0.8μm未満であると、比表面積(BET値)が大きくなり、セラミックス組成物をグリーンシート化した際に、密度が小さくなり易い。このため、焼成前後でシートの収縮量が大きくなり易く、導体材料と同時焼成してセラミックス層上に導体層を形成しようとした場合、導体層がセラミックス層から剥離し易くなる。また、平均粒径が2μmを超えると、セラミックス組成物をグリーンシート化する際に、グリーンシートの厚みを薄くし難くなる。なお、本発明において、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0021】
本発明のセラミックス組成物は、SrTiO粉末を含有する。SrTiO粉末を含有することで、得られるセラミックス焼結体の共振周波数の温度係数τfの絶対値をゼロに近づけることができる。SrTiO粉末は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し2.2〜17.4質量部含有する。SrTiO粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数τfをゼロに近づけることができる。SrTiO粉末の含有量が2.2質量部未満であると、得られるセラミックス焼結体の共振周波数の温度係数τfが大きくなる。17.4質量部を超えると、得られるセラミックス焼結体の共振周波数の温度係数τfが大きくなる。
【0022】
本発明のセラミックス組成物において、SrTiO粉末は、得られるセラミックス焼結体の焼結性、高強度化、共振周波数の温度係数τfを制御するという観点から、平均粒径が0.5〜2μmの粉状物を用いることが好ましい。特に、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末との分散性が良好であるという理由から、0.8〜1.5μmの粉状物を用いることがより好ましい。なお、本発明において、SrTiO粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0023】
本発明のセラミックス組成物は、Zn成分を含有する。Zn成分としては、Znの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Zn成分を含有することで、焼結時中に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。更には耐水性を向上させることができる。Zn成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し酸化物(ZnO)換算で2.3〜8.1質量部含有する。Zn成分の含有量が酸化物換算で2.3質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、1000℃以下で焼結しない。8.1質量部を超えると、焼結時に融着が起こり、得られるセラミックス焼結体の形状が安定しにくくなると共に、絶縁性が損なわれ易くなる。また、セラミックス焼結体のQ×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0024】
本発明のセラミックス組成物は、Cu成分を含有する。Cu成分としては、Cuの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Cu成分を含有することで、焼結時に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。Cu成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し酸化物(CuO)換算で0.9〜3.5質量部含有する。Cu成分が酸化物換算で0.9質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、1000℃以下で焼結しない。また、3.5質量部を超えると、得られるセラミックス焼結体のQ×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0025】
本発明のセラミックス組成物は、Ag成分を任意成分として含有できる。Ag成分としては、Agの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Ag成分を含有することで、導体金属としてAgやAg合金を用い、セラミックス組成物と導体金属とを同時焼成した際に、導体金属がセラミックス組成物の液相に溶出することを防止できる。Ag成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、酸化物(AgO)換算で0〜3.5質量部含有でき、好ましくは0.6〜3.5質量部含有する。Ag成分が酸化物換算で0.6質量部未満であると、セラミックス組成物と導体金属と同時焼成した際に、導体金属のセラミックス組成物の液相への溶出を防止できないことがある。また、3.5質量部を超えると、素体内にAgが析出して、素体の絶縁性が損なわれ易くなる。
【0026】
本発明のセラミックス組成物は、Bi成分を任意成分として含有できる。Bi成分としては、Biの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。Bi成分を含有することで、より低誘電率を達成できる。Bi成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、酸化物(Bi)換算で0〜23.3質量部含有できる。Bi成分が酸化物換算で23.3質量部を超えると、得られるセラミックス焼結体のQ×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0027】
本発明のセラミックス組成物は、B成分を含有する。B成分としては、Bの酸化物、炭酸塩等が挙げられる。B成分を含有することで、焼結時に液相を形成し、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。B成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、酸化物(B)換算で0.5〜3.3質量部含有する。B成分が酸化物換算で0.5質量部未満であると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、1000℃以下で焼結しない。また、3.3質量部を超えると、得られるセラミックス焼結体のQ×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0028】
本発明のセラミックス組成物は、更に、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、P成分等を任意で含有させることができる。
【0029】
Na成分、K成分を含有させることで、焼結性を大きく損なわずに、耐水性や耐酸性を向上できる。Na成分、K成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し酸化物(NaO、KO)換算で、合計量で0〜2質量部含有できる。
【0030】
また、Ca成分、Mg成分、Ba成分を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。Ca成分、Mg成分、Ba成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し酸化物(CaO、MgO、BaO)換算で、合計量で0〜5質量部含有できる。
【0031】
また、P成分を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。P成分は、BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し酸化物(P)換算で、0〜2質量部含有できる。
【0032】
[セラミックス焼結体]
本発明のセラミックス焼結体は、上記のような組成となるように配合されたセラミックス組成物を、ZrOボールなどを用いて、水などの湿式下で混合し、必要に応じて結合剤、可塑剤、溶剤等を添加し、所定形状に成形して、焼成することによって得られる。
【0033】
上記結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が用いられ、可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が用いられ、溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0034】
成形は、各種の公知の成形方法、例えばプレス法、ドクターブレード法、射出成形法、テープ成形等により任意の形状に成形する。これらの方法の中で、ドクターブレード法、及びテープ成形が積層体形成のために特に好ましい。
【0035】
焼成は、大気中または酸素雰囲気中または窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気において、850〜1000℃で0.5〜3時間焼成することが好ましい。
【0036】
このようにして得られる本発明のセラミックス焼結体は、BaO−SiO−Al系結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO結晶が単独で存在している。SrTiO結晶の平均粒径は、0.5〜3μmが好ましい。0.5μm未満であると、共振周波数の温度係数τfが−30×10−6/℃以下になり易い。3μmを超えると仮焼後の湿式混合時の分散が悪くなり、結果として、焼結体におけるSrTiOの偏在が顕著になり易い。SrTiO結晶の確認は、顕微鏡観察で確認できる。なお、本発明において、SrTiO結晶の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味する。
【0037】
また、本発明のセラミックス焼結体は、誘電率ε及びQ×f値が高く、共振周波数の温度係数τfがゼロに近いものである。Q×f値が高いほど、誘電損失が小さくなるので、本発明のセラミックス焼結体は、誘電損失が小さい。更には耐水性、耐薬品性、機械強度にも優れる。
【0038】
本発明のセラミックス焼結体は、誘電率εが、10以下であることが好ましい。また、Q×f値が、1000GHz以上であることが好ましい。また、共振周波数の温度係数τfの絶対値が、30×10−6/℃以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のセラミックス焼結体は、誘電率εを10以下、共振周波数の温度係数τfの絶対値を30×10−6/℃以下、Q×f値を1000GHz以上にできるので、例えば、回路基板、フィルタ、アンテナの高周波部品用の電子部品に好適に使用することができる。
【0040】
[電子部品]
次に、本発明の電子部品について説明する。
【0041】
本発明の電子部品は、上記セラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有する。
【0042】
導体層を構成する材料としては、低抵抗材料が好ましく、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金がより好ましい。Ag合金としては、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金等が挙げられる。Cu合金としては、Cu−Ca合金、Cu−Mg−Ca合金、Cu−Ni−Fe合金等が挙げられる。
【0043】
本発明の電子部品としては、例えば単層基板、積層基板、コンデンサ、フィルタ等が挙げられる。
【0044】
以下、本発明の電子部品を積層基板として使用する場合の製造例について説明する。
【0045】
本発明のセラミックス組成物に、結合剤、溶剤、可塑剤などを加えてスラリー状に調整し、ドクターブレード法等の方法で薄膜状に成形してグリーンシートを製造する。
【0046】
次いで、得られたグリーンシート上に、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金等の導体金属を含む導体ペーストを、スクリーン印刷法等により印刷し、所定パターンの未焼成内部導体層を形成する。
【0047】
次いで、未焼成内部導体層が形成された各グリーンシートを複数重ね合せ、圧着して未焼成積層体を製造する。
【0048】
次いで、未焼成積層体を脱バインダー処理し、所定形状に切断して、未焼成内部導体層を未焼成積層体の端部に露出させる。そして、未焼成積層体の端面に、導体金属を含む導体ペーストをスクリーン印刷法等の方法により印刷して、未焼成下地金属を形成する。
【0049】
次いで、未焼成下地金属が形成された未焼成積層体を、酸素雰囲気中又は非酸化性雰囲気において、870℃〜1000℃で0.5〜3時間焼成し、未焼成積層体と未焼成下地金属とを同時焼成する。
【0050】
そして、未焼成下地金属を焼成して得られた下地金属の表面を、電解メッキ等の湿式メッキ処理を施してメッキ層を形成して外部電極を形成する。こうすることで、セラミックス層の層間及びセラミックス層の外側に導体層が形成された積層基板が得られる。
【0051】
本発明の電子部品は、セラミックス層の誘電率εが10以下、Q×f値が1000GHz以上、−25〜85℃の範囲における共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10−6/℃以下であり、高周波領域の誘電特性に優れている。また、セラミックス層は、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金などの低抵抗金属との同時焼成が可能な温度で焼結ができるので、導体金属として、これらの低抵抗金属を用いることができる。
【実施例】
【0052】
BaO、SiO及びAlを表1に示す割合で秤量し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を大気中910℃で2時間仮焼した。仮焼きした粉体に、表1に示す酸化物の割合となるように、SrTiO粉末、ZnO粉末、CuO粉末、AgO粉末、Bi粉末、B粉末をそれぞれ秤量して添加し、15時間湿式混合後、150℃で乾燥した。この乾燥物にPVA系バインダーを適量添加し、造粒、プレス成型後、大気中500℃に加熱して脱バインダー処理し、成型体を得た。この成型体を、大気中930℃で2時間焼成して、試料No.1〜36の焼結体を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
各焼結体を顕微鏡観察したところ、試料No.2〜36においては、BaO−SiO−Al系結晶粒の粒内、粒界及び三重点のいずれかに、SrTiO結晶が存在していた。
【0055】
また、各焼結体の焼結性、吸水率、誘電率ε、Q×f値、温度係数τfを評価した。結果を表2に記す。
【0056】
なお、焼結性は、930℃で焼結したものを○、焼結しなかったものを×として評価した。また、吸水性は、水中アルキメデス法に基づき測定した。また、誘電率ε、Q×f値、温度係数τfは、JIS R1627に準拠し、3GHz〜5GHzの共振周波数における値を測定した。また、共振周波数における温度係数τfは、3GHz〜5GHzの共振周波数の−25〜85℃間における温度変化率を測定した。
【0057】
【表2】

【0058】
試料No.1〜4の結果より、主成分100質量部に対し、SrTiO粉末の含有量が2.2〜17.4質量部である試料No.2,3は、いずれも930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、SrTiO粉末の含有量が本発明の範囲から外れる、試料No.1,4は、いずれも温度係数τfの絶対値が大きいものであった。
【0059】
また、試料No.5〜8の結果より、Zn成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で2.3〜8.1質量部である、試料No.6,7は、930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、Zn成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で2.3質量部未満である試料No.5は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、Zn成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で8.1質量部を超える試料No.8は、焼結時に融着が生じた。
【0060】
また、試料No.9〜12の結果より、Cu成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0.9〜3.5質量部である、試料No.10,11は、930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、Cu成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0.9質量部未満である試料No.9は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、Cu成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で3.5質量部を超える試料No.12は、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。
【0061】
また、試料No.13〜16の結果より、Ag成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0〜3.5質量部である、試料No.13〜15は、930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、Ag成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で3.5質量部を超える試料No.16は、焼結体にAgの析出が見られた。
【0062】
また、試料No.17〜20の結果より、Bi成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0〜23.3質量部である、試料No.17〜19は、930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、Bi成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で23.3質量部を超える試料No.20は、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。
【0063】
また、試料No.17,18,21〜24の結果より、B成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0.5〜3.3質量部である、試料No.17,18,22,23は、930℃で焼結し、電気特性に優れるものであった。これに対し、B成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で0.5質量部未満である試料No.21は、焼結性が劣り、930℃で焼結しなかった。また、B成分の含有量が、主成分100質量部に対し、酸化物換算で3.3質量部を超える試料No.24は、Q×f値が小さく、誘電損失が大きかった。
【0064】
また、試料No.25〜36の結果より、主成分のBaO、SiO、Alの組成比が、本願発明で規定する範囲からはずれる試料No.25,28,29,32,33,36はQ×f値が小さく、誘電損失が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaO 10〜70質量部、SiO 20〜80質量部、Al 0.1〜30質量部からなり、固相反応法により合成されたBaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、SrTiO粉末を2.2〜17.4質量部、Zn成分を酸化物換算で2.3〜8.1質量部、Cu成分を酸化物換算で0.9〜3.5質量部、Ag成分を酸化物換算で0〜3.5質量部、Bi成分を酸化物換算で0〜23.3質量部、B成分を酸化物換算で0.5〜3.3質量部含有することを特徴とするセラミックス組成物。
【請求項2】
前記BaO−SiO−Al系セラミックス粉末100質量部に対し、Ag成分を酸化物換算で0.6〜3.5質量部含有する、請求項1に記載のセラミックス組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミックス組成物を焼成して得られたセラミックス焼結体。
【請求項4】
BaO−SiO−Al系セラミックス結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO結晶が単独で存在している、請求項3に記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記SrTiO結晶の平均粒径が0.5〜3μmである、請求項4に記載のセラミックス焼結体。
【請求項6】
共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10−6/℃以下であり、Q×f値が1000GHz以上である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のセラミックス組成物を焼成して得られるセラミックス層と、該セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られる導体層とを有することを特徴とする電子部品。
【請求項8】
前記導体層が、Ag、Cu、もしくはそれらの少なくとも一方を含む合金で形成されている請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
前記電子部品が基板である、請求項7又は8に記載の電子部品。

【公開番号】特開2012−240890(P2012−240890A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113258(P2011−113258)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】