説明

セラミックス繊維の製造方法およびその方法により得られるセラミックス繊維

【課題】耐熱性、耐酸化性および機械的強度に優れたセラミックス繊維を製造する方法およびその方法により得られるセラミックス繊維を提供することを課題とする。
【解決手段】溶融性シリコーン樹脂を溶融紡糸して得られた繊維を、常温よりも高く該樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱しながら、不融化剤からの蒸気により不融化した後、焼成してセラミックス繊維を得ることにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス繊維の製造方法に関する。より詳細には、シリコーン樹脂を溶融紡糸して得られた繊維を、不融化処理および焼成することによりセラミックス繊維を製造する方法に関する。また、その方法により得られるセラミックス繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維などのセラミックス繊維は、金属にはない高い耐熱性、耐酸化性および機械的強度を有することから、断熱材、フィルター材、複合材料の強化用材料などに用いられている。中でも、炭化ケイ素繊維(以下、「SiC系繊維」という)は、約1500℃の高温における耐熱性および耐酸化性に優れていることから、特に注目されている。
【0003】
しかしながら、SiC系繊維は、その原料として高価なポリカルボシランが用いられている。また、SiC系繊維の製造においては、約300℃の高温での原料の溶融紡糸を行い、さらに必要に応じて高エネルギー輻射線の曝露による不融化処理や水素に富む雰囲気中での焼成を行うので、高価な設備などを必要とする。そのため、SiC系繊維の製造コストは高くなる傾向にある。
【0004】
一方、オキシ炭化ケイ素繊維(以下、「SiOC系繊維」という)は、原料として安価なシリコーン樹脂を用いて製造することができる。また、その製造工程においても、高価な設備などを特に必要としないので、SiOC系繊維は低コストで製造できるものとして、近年注目されている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、原料のシリコーン樹脂として、式RSiO1.5(式中、Rは、メチル基、プロピル基またはフェニル基である)を有するポリシルセスキオキサンを用いて、これを溶融紡糸して得られた繊維を紫外線によって不融化した後、焼成して、SiOC繊維を得たことが記載されている。
【0006】
特許文献1には、溶融性シリコーン樹脂を溶融紡糸して繊維を得て、これを無機酸で処理して不融化することにより、構成元素の組成がSiCaHbOc(式中、0.5≦a≦7.0、0.5≦b≦8.0、1.0≦c≦3.0)で表されるシリコーン繊維が得られることが記載されている。
【0007】
また、本発明者らも、シリコーン樹脂であるポリメチルシルセスキオキサンを原料として用いて、これを溶融紡糸して得られた繊維を、常温で塩化物蒸気により不融化した後、焼成して、SiOC繊維を得ることに成功している(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−81920号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hurwitz, F. I.ら, Ceram. Eng. Sci. Proc., vol. 8, 732-743 (1987)
【非特許文献2】Narisawa, M.ら, J. Appl. Polym. Sci., vol. 114, 2600-2607 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、SiOC系繊維は、SiC系繊維に比べて低コストで製造できるが、耐熱性、耐酸化性および機械的強度は、いずれも満足できるものではなかった。例えば、常温でのSiOC系繊維の引張強度は、SiC系繊維の約1/10程度である。
また、炭素含有量の多いSiOC系繊維(化学組成におけるCとSiとの比がC/Si>1)では、1000℃以上の高温条件下での酸化が著しいという欠点を有する。
【0011】
上記のような事情に鑑みて、本発明者らは、鋭意研究の結果、溶融性シリコーン樹脂を溶融紡糸して得られた繊維を、不融化剤の存在下、不活性ガスの流通下に、常温よりも高く前記樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱しながら、不融化剤からの蒸気で不融化した後、焼成することにより、良好な耐熱性、耐酸化性および機械的強度を有するセラミックス繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、耐熱性、耐酸化性および機械的強度に優れたSiOC系のセラミックス繊維を製造する方法を提供することを目的とする。また、該方法により得られるSiOC系のセラミックス繊維を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、
(1)化学組成が、式(I):
SiOxCyHz (I)
(式中、x、yおよびzは、それぞれ1≦x≦2、1≦y≦2および3≦z≦6を満たす数である)
で表される溶融性シリコーン樹脂を、溶融紡糸して繊維を得る工程、
(2)得られた繊維を、不融化剤の存在下、不活性ガスの流通下に、常温よりも高く前記樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱して、不融化剤からの蒸気により不融化する工程、および
(3)不融化した繊維を、不活性雰囲気中で焼成する工程
を含む、セラミックス繊維の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られ、化学組成が、式(II):
SiOxCy (II)
(式中、xおよびyは、それぞれ1≦x≦2および0.2≦y≦1を満たす数である)
で表されるセラミックス繊維が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセラミックス繊維の製造方法によれば、耐熱性、耐酸化性および機械的強度に優れたSiOC系のセラミックス繊維を低コストで製造することができる。このセラミックス繊維は、良好な耐熱性、耐酸化性および機械的強度を有するので、断熱材、フィルター材、複合材料の強化用材料などとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のセラミックス繊維の製造方法において、バッチ方式で繊維を不融化する場合に用いられる不融化装置の概略図である。
【図2】本発明のセラミックス繊維の製造方法において、連続的に繊維を不融化する場合に用いられる不融化装置の概略図である。
【図3】実施例1で得られた本発明のセラミックス繊維の電子顕微鏡写真である。
【図4】耐熱性試験後の本発明(実施例1)のセラミックス繊維の電子顕微鏡写真である。
【図5】高温曝露試験後の本発明(実施例1)のセラミックス繊維の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセラミックス繊維は、以下の方法により製造することができる。
第1工程では、化学組成が、式(I):
SiOxCyHz (I)
(式中、x、yおよびzは、それぞれ1≦x≦2、1≦y≦2および3≦z≦6を満たす数である)
で表される溶融性シリコーン樹脂を、溶融紡糸して繊維を得る。
【0018】
上記の「化学組成」は、化合物または混合物の構成成分の名称およびそれらの量的割合を意味し、Siについては吸光光度法、Cについては燃焼赤外吸収法、Hについては不活性ガス融解法により得られる値であり、Oについてはサンプル重量からC、HおよびSiの重量を差し引いて算出される値である。
【0019】
本発明で用いられる溶融性シリコーン樹脂は、軟化点を有するシリコーン樹脂、すなわち、室温では固体であるが、軟化点以上の温度では軟化または溶融するシリコーン樹脂である。
本発明において、溶融性シリコーン樹脂の軟化点は、JIS K 2207に規定の試験法に準拠して測定したときに、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。
【0020】
本発明において、原料として、用いられる溶融性シリコーン樹脂は、三官能性シロキサン単位を必須のシロキサン単位として含み、化学組成が上記の式(I)で表される、三次元構造を有するポリシロキサンである。
ポリシロキサンは、公知物質であり、その製造方法は特に限定されず、例えばジアルキルジクロロシランを加水分解してジアルキルシラノールとし、これを脱水縮合反応させることによって製造できる。
【0021】
ポリシロキサンとしては、例えば、式(CH3)2SiOまたは(CH3)(OH)SiOをシロキサン単位として含むものが挙げられ、その平均分子量は特に限定されないが、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定して得られる重量平均分子量が5000〜300,000、好ましくは8000〜200,000である。
このようなポリシロキサンとしては、例えばSR350(General Electric Silicone products Div.社)などの市販されているものを用いることができる。あるいは、信越化学工業株式会社から市販されているゴムコンパウンドKE-931-UまたはKE-520-Uからの成型体を用いてもよい。
【0022】
また、本発明の原料としてのポリシロキサンは、式RSiO1.5(式中、Rはメチル基またはエチル基を示す)をシロキサン単位として含むポリシルセスキオキサンであってもよい。
このポリシルセスキオキサンは公知物質であり、その製造方法は特に限定されず、例えば特開昭53−88099号公報に記載の方法により製造できる。ポリシルセスキオキサンの平均分子量は特に限定されないが、例えばGPCにより測定して得られ重量平均分子量が5000〜300,000、好ましくは8000〜200,000である。
このようなポリシルセスキオキサンとしては、例えば、YR3370(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)、Wacker-Belsil(商標)PMS MK(Wacker Chemie AG社)、Gransil PSQ(Grant Industries社)などの市販されているものを好適に用いることができる。
【0023】
第1工程の溶融紡糸法は、それ自体公知の方法であり、具体的には、溶融性シリコーン樹脂を、底部に紡糸口金を有する容器に投入し、加熱により溶融した後、該紡糸口金から吐出させたシリコーン樹脂を巻き取ることにより行われる。
より具体的には、例えばペレット状にした溶融性シリコーン樹脂を、押出機型紡糸機のスクリューにより搬送しながら加熱して溶融した後、計量ポンプによって流量を調節して紡糸口金から吐出させ、巻取装置により回収してシリコーン樹脂繊維を得る。
なお、上記の装置において、紡糸口金付近の温度を調節できる保温筒、冷却送風装置などを適宜設けてもよい。
【0024】
紡糸口金の形状は特に限定されず、その口径は、0.1〜2.0 mmの範囲であれば、繊維径を小さくできるので好ましい。
溶融温度は、原料の溶融性シリコーン樹脂の軟化点にもよるが、通常60〜200℃、好ましくは100〜150℃の範囲である。
巻き取り速度は、所望の繊維径が得られ、かつ糸切れが起こらない速度であれば特に限定されないが、通常120〜1200 m/分の範囲で適宜設定される。
【0025】
上記の第1工程で得られる繊維の直径は、通常10〜30μmであり、好ましくは10〜20μmである。
【0026】
第2工程では、上記の第1工程で得られる繊維を、不融化剤の存在下、不活性ガスの流通下に、常温よりも高く前記樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱して、不融化剤からの蒸気により不融化する。
【0027】
上記の「不融化」とは、第1工程で得られる繊維を、繊維の形態を保持しながら架橋処理することを意味する。この処理により、繊維を構成するシリコーン樹脂が高分子化されるので、続く第3工程(焼成工程)において、繊維が溶融したり、相互に付着したりするのを防止できる。
【0028】
上記の不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが好適に用いられる。不活性ガスの流通速度は、特に限定されないが、通常10〜500 ml/分の範囲で適宜設定される。
【0029】
上記の不融化剤は、常温において0.01〜0.35 atmの飽和蒸気圧を有するルイス酸から適宜選択される。そのような不融化剤としては、例えば、金属または非金属の塩化物、具体的にはSiCl4、CH3SiCl3、TiCl4、BCl3などが挙げられる。これらの中でも、不融化処理後の繊維表面の平滑性および不融化反応の進行速度の点から、SiCl4が特に好ましい。
【0030】
第2工程においてシリコーン樹脂繊維をバッチ方式で不融化する場合に用いられる装置の一例を、図1に基づいて説明する。
ここで、「バッチ方式で不融化する」とは、第1工程で得られる繊維を適当な長さの束にして、これを該装置内で一括して不融化処理することを意味する。
不融化装置は、その内部にシリコーン樹脂繊維束を下流側に、不融化剤を上流側に配置できる空間を有する管と、該管内の繊維束が配置された部分を加熱するための加熱装置とを有する。この不融化装置では、不融化剤からの蒸気を効率的に繊維束と接触させるために、不活性ガスを流通させる通気管を、管の両端に接続してある。
【0031】
不融化装置を構成する管の材質としては、耐熱性および耐薬品性を有するものが好ましい。また、上記の加熱装置としては、管内の繊維束を、常温よりも高く溶融性シリコーン樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱できるものであればよく、例えば、管の外周に装着されたラバーヒーターなどが挙げられる。なお、不融化剤の存在する側の温度を常温に保つために、該側に冷却装置(図示略)を設けて、熱伝導による温度上昇するのを防いでもよい。
【0032】
上記の不融化装置では、管内のシリコーン樹脂繊維を、不融化剤とは独立して加熱できるので、繊維と不融化剤との間で所定の温度差(繊維の温度>不融化剤の温度)を維持することができる。
【0033】
上記の不融化装置を用いる第2工程の具体的な操作の一例を、以下に説明する。
まず、管内の下流側に、シリコーン樹脂繊維の束を配置し、上流側に不融化剤であるSiCl4の入った容器を配置する。次いで、装置内の雰囲気を不活性ガスで置換する。なお、繊維と不融化剤との間隔は特に限定されないが、繊維と不融化剤との間に所定の間隔をあけて、両者間の温度差を維持できるようにするのが好ましい。
【0034】
そして、装置内に常温、例えば15〜35℃の不活性ガスを不融化剤側から繊維束側へ流通させながら、加熱装置により繊維束側を、常温よりも高く溶融性シリコーン樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱する。
加熱の際の昇温速度は、特に限定されないが、通常0.05〜1.0℃/分である。また、加熱温度の保持時間は、通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。
不融化剤が配置された側の温度は、不融化処理工程の間、常温を維持するのが好ましい。
【0035】
第2工程では、シリコーン樹脂繊維を連続的に不融化してもよい。
例えば、図2に示すような繊維の送出部と巻取部とが設けられた不融化装置を用いて、第1工程で得られる繊維を不融化装置内へ連続的に送り出し、不融化された繊維を巻き取ることによって、繊維の不融化処理を連続的に行うことができる。この場合の加熱温度などの処理条件は、バッチ方式の場合と同様である。
【0036】
第2工程では、上記のように加熱された繊維に、不融化剤の蒸気が常温の飽和蒸気圧で作用することにより、焼成後のセラミックス繊維の機械的強度が向上することが見出されている。この機械的強度が向上されるメカニズムの詳細は明らかではないが、上記の不融化処理により、シリコーン樹脂の繊維の表面のみならず、内部までが不融化されることによるものと考えられる。
【0037】
第3工程では、上記の第2工程で得られる不融化された繊維を不活性雰囲気中で焼成することによりSiCO系のセラミックス繊維が得られる。
【0038】
上記の不活性雰囲気としては、第2工程と同様にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが好適に用いられるが、不活性雰囲気に代えて、真空下で焼成してもよい。
【0039】
焼成温度は、通常1000〜1400℃である。焼成の際の昇温速度は、特に限定されないが、好ましくは1〜10℃/分である。また、焼成温度の保持時間は、特に限定されないが、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜4時間である。
なお、第3工程で用いられる焼成炉は、焼成時の雰囲気を制御できるものであればよく、特に限定されない。
【0040】
第3工程の焼成は、上記の第2工程と同様に、バッチ方式で行ってもよいし、連続的に行ってもよい。
【0041】
本発明の製造方法では、繊維に張力をかけた状態で不融化および焼成することにより、セラミックス繊維の機械的強度をさらに向上できる。特に、比較的低温、例えば40〜80℃で不融化処理を行う場合、繊維に張力をかけると機械的強度がする。
また、焼成工程では、繊維に張力をかけると繊維の収縮を防止できる。
したがって、本発明の製造方法の第2工程および第3工程では、繊維に張力をかけた状態で、不融化処理および焼成を行うのが好ましい。
【0042】
繊維に張力をかける手段としては、バッチ方式で不融化処理および焼成を行う場合は、例えば繊維の束を黒鉛板の上に並べ、その両端をカーボンテープで固定することにより、繊維の収縮を利用して張力をかけることができる。また、固定された繊維束の上に黒鉛製の重しを置くことにより、より強い張力をかけることができる。
連続的に不融化処理および焼成を行う場合は、例えば繊維の送出部に張力制御装置を設けることにより、張力をかけることができる。
繊維にかける張力の強さは、糸切れを起こさない範囲で適宜設定できるが、好ましくは5〜100 MPa、より好ましくは10〜30 MPaである。
【0043】
本発明の製造方法によって得られるセラミックス繊維は、通常、8〜20μmの範囲の平均直径を有する。
【0044】
本発明のセラミックス繊維の製造方法によって得られる繊維は、
化学組成が、式(II):
SiOxCy (II)
(式中、xおよびyは、それぞれ1≦x≦2および0.2≦y≦1を満たす数である)
で表される。
なお、繊維の構成元素として水素が微量含まれている場合も、本発明のセラミックス繊維に含まれるが、その場合は化学組成におけるHとSiとの比がH/Si<0.1であるのが好ましい。
【0045】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
(1)溶融性シリコーン樹脂の溶融紡糸
溶融性シリコーン樹脂として、YR3370(化学組成:SiO1.78C1.22H3.67、軟化点:約109℃、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を用いた。
YR3370(20 g)を、底部に紡糸口金(口径0.5 mm)を有するガラス製紡糸管に入れ、該管を紡糸装置に装着した。次いで、該管をアルゴンガス雰囲気下で130〜180℃に加熱して、YR3370を溶融した。溶融したYR3370をアルゴンガス圧によって紡糸口金から液滴状に押し出し、該液滴を紡糸装置のドラムにより600 m/分の速度で巻き取って、シリコーン樹脂繊維(平均直径約15μm)を得た。
【0047】
(2)不融化処理
不融化処理のために用いるガラス管(全長500 mm、直径70 mm)の中に、得られた繊維の束(長さ約120 mm、重量約100 mg)と、不融化剤であるSiCl4(10 ml)の入ったガラスシャーレ(直径30 mm、高さ10 mm)とを約300 mmの間隔をあけて配置した。次いで、このガラス管内の雰囲気を窒素ガスで置換した。なお、ガラス管の繊維束側の外周にラバーヒーター(長さ240 mm;株式会社三商製)を取り付け、ガラス管内の繊維を、不融化剤が配置された側とは独立して加熱できるようにした。
【0048】
ガラス管内に、室温(26℃)のアルゴンガスを不融化剤が配置された側から繊維束が配置された側へ50 ml/分で流通させながら、ラバーヒーターにより繊維束を室温から100℃まで1時間で加熱した。この温度で2時間維持した後、室温に戻して、SiCl4蒸気(0.31 atm)による不融化処理を行った。ガラス管内の不融化剤が配置された側の温度は、不融化処理工程の間、室温を維持した。
【0049】
(3)焼成
不融化された繊維を焼成炉に入れて、アルゴンガス雰囲気下200℃/時間の昇温速度で室温から1000℃まで加熱した。この焼成温度を1時間維持して、Si-O-C系セラミックス繊維(平均直径約14.3μm)を得た。得られたセラミックス繊維は、相互に付着しないで繊維の形態を保っており、縮れも認められなかった。得られたセラミックス繊維の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0050】
実施例2
実施例1(1)と同様にして、YR3370のシリコーン樹脂繊維を得た。得られた繊維の束を黒鉛板の上に並べ、その両端をカーボンテープで固定し、さらに繊維上に黒鉛製の重し(10 g)を2個置いて、繊維に張力をかけた。
上記のように張力をかけたこと以外は実施例1と同じ条件で、繊維の不融化処理および焼成を行って、セラミックス繊維(平均直径12.5μm)を得た。得られたセラミックス繊維は、相互に付着しないで繊維の形態を保っており、縮れも認められなかった。
【0051】
実施例3
実施例1(1)と同様にして、YR3370のシリコーン樹脂繊維を得た。得られた繊維の束を実施例2と同様に黒鉛板上に固定し、重しを置いた。そして、この繊維の束と、不融化剤(SiCl4)の入ったシャーレとを、約300 mmの間隔をあけてガラス管内に配置した。
このガラス管内に、室温(26℃)のアルゴンガスを不融化剤が配置された側から繊維束が配置された側へ50 ml/分で流通させながら、ラバーヒーターにより繊維束を室温から60℃まで1時間で加熱した。この温度で8時間維持した後、室温に戻して、SiCl4蒸気による不融化処理を行った。ガラス管内の不融化剤が配置された側の温度は、不融化処理工程の間、室温を維持した。
不融化した繊維束に張力をかけたこと以外は実施例1と同じ条件で焼成を行って、セラミックス繊維(平均直径10.1μm)を得た。得られたセラミックス繊維は、相互に付着しないで繊維の形態を保っており、縮れも認められなかった。
【0052】
比較例1
実施例1(1)と同様にして、YR3370のシリコーン樹脂繊維を得た。得られた繊維の束と、不融化剤(SiCl4)の入ったシャーレとを約300 mmの間隔をあけてガラス管内に配置した。このガラス管内に、室温(26℃)のアルゴンガスを不融化剤が配置された側から繊維束が配置された側へ50 ml/分で流通させながら、繊維および不融化剤を室温で1時間保持した。不融化処理工程の間、繊維には張力をかけず、また加熱もしなかった。
この繊維を実施例1(3)と同じ条件で焼成して、セラミックス繊維(平均直径約14.5μm)を得た。
なお、この比較例1の製造工程は、非特許文献2に記載の方法と同様のものである。
上記のようにして得られたセラミックス繊維は、相互に付着しないで繊維の形態を保っていたが、縮みが著しかった。
【0053】
実施例1〜3および比較例1で得られた各セラミックス繊維の耐熱性、耐酸化性および機械的強度を検討した。
試験例1:耐熱性および耐酸化性
実施例1〜3および比較例で得られた各セラミックス繊維を、ガスバーナの炎(ラディエーションサーモメータによる測定温度として、約1400〜1461℃)に30秒間曝露した後、それらの形態を目視および電子顕微鏡により観察した。実施例1で得られた本発明のセラミックス繊維の試験後の電子顕微鏡写真を図4に示す。
いずれの繊維も、燃焼および繊維同士の付着は認められず、繊維としての形態を保っていた。また、図4からも明らかなように、実施例1で得られたセラミックス繊維の表面には、亀裂などの損傷は認められなかった。
【0054】
また、実施例1で得られたセラミックス繊維を用いて、酸素含有雰囲気下での長時間高温曝露試験も行った。この試験では、セラミックス繊維を、空気流通下に10℃/分の昇温速度で室温から1333℃まで加熱し、この温度で3時間維持した。試験後のセラミックス繊維の電子顕微鏡写真を図5に示す。
図5から明らかなように、実施例1で得られたセラミックス繊維の表面には、若干の亀裂が生じているものの、繊維同士の付着は認められなかった。
以上の試験結果から、本発明のセラミックス繊維は、優れた耐熱性および耐酸化性を有することが示された。
【0055】
試験例2:機械的強度
セラミックス繊維の機械的強度として、引張強度を測定した。測定法は、次のとおりである。まず、1本の繊維を台紙に張り付けて、末端をクリップで固定した。そして、引張試験機TENSILON UTM-II(株式会社オリエンテック製)およびロードセルORIENTEC TLU-0.1L-F2(0.1 kgf、株式会社オリエンテック製)を用いて、ゲージ長10 mm、クロスヘッドスピード2.0 mm/分で、繊維の引張強度を測定した。
各繊維の引張強度(繊維10本当たりの平均値)を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示されるように、比較例1で得られたセラミックス繊維に比べ、実施例1〜3で得られた繊維は、いずれも高い引張強度を有することがわかる。中でも、実施例3で得られたセラミックス繊維は、織物成型に十分な引張強度を有していた。
上記の試験結果から、本発明のセラミックス繊維は、優れた機械的強度を有することが示された。
【0058】
なお、実施例1〜3で得られたセラミックス繊維の化学組成は、分析の結果、いずれもSiO1.5C0.63であった。また、焼成温度を1400℃にした以外は実施例1〜3と同様にして得られたセラミックス繊維についても分析したところ、化学組成はいずれもSiO1.5C0.68であった。
【符号の説明】
【0059】
1:管
2:加熱装置
3:シリコーン樹脂の繊維
4:不融化剤
5:栓
6:通気管
7:送出部
8:巻取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)化学組成が、式(I):
SiOxCyHz (I)
(式中、x、yおよびzは、それぞれ1≦x≦2、1≦y≦2および3≦z≦6を満たす数である)
で表される溶融性シリコーン樹脂を、溶融紡糸して繊維を得る工程、
(2)得られた繊維を、不融化剤の存在下、不活性ガスの流通下に、常温よりも高く前記樹脂の軟化点よりも低い温度で加熱して、不融化剤からの蒸気により不融化する工程、および
(3)不融化した繊維を、不活性雰囲気中で焼成する工程
を含む、セラミックス繊維の製造方法。
【請求項2】
前記の不融化工程および焼成工程が、繊維に張力をかけた状態で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記の不融化剤が、SiCl4、CH3SiCl3、TiCl4およびBCl3から選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られ、化学組成が、式(II):
SiOxCy (II)
(式中、xおよびyは、それぞれ1≦x≦2および0.2≦y≦1を満たす数である)
で表される、セラミックス繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162929(P2011−162929A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30242(P2010−30242)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年9月15日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要 2009年秋季(第145回)大会」、 2009年9月16日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第22回秋季シンポジウム 講演予稿集」および 2009年11月5日 社団法人高分子学会発行の「第28回 無機高分子研究討論会 講演要旨集」 において発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】