説明

セラミックタイル張り床面の迅速防滑施工法および塗料

【課題】防滑性能の付与されていないセラミックタイル床面に防滑性能を短い施工時間で付与する工法およびそれに使用する塗料を提供する。
【解決手段】アルコキシシリール基を含有するアクリルシリコーン樹脂を塗膜形成樹脂とする常乾型クリヤー塗料にアクリル樹脂マイクロビーズを分散させた塗料組成物を準備し、この塗料組成物をセラミックタイル張り床面へ塗装し、自然乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅、オフィスビルディング、公共施設等の建物のセラミックタイル張り床面の迅速防滑施工法およびその施工に使用する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビルディング、病院、公共施設等の日常的に多数の人々が出入りする建物の出入口、通路などをセラミックタイルで舗装する場合は、建物の建設当初から防滑性を有するタイルを使用して施工するのが通常である。しかし種々の事情で防滑性のないタイルで舗装し、後になって防滑の必要を生ずるケースも数多く存在する。その場合防滑性能を有するタイルに張り替えることは、費用がかさむばかりでなく、長い工事期間通行を制限しなければならない。これに代る簡便な方法は、防滑テープを貼ることであるが美観を損ね、見苦しくなる。
【0003】
最近、美観を損わない防滑塗膜の形成方法が注目されている。この方法は、タイル面に常乾型クリヤー塗料を下塗りし、乾燥前砂やガラスビーズのような防滑骨材を散布した後乾燥し、さらにその上から同じ常乾型のクリヤー塗料を上塗りし、乾燥させる工程からなる。しかし工事が完了し、通行可能となるまでには最短でも48時間を要する。そこでタイルの美観を損うことなく、もっと迅速に、例えば2〜3時間の短時間で防滑機能を有する塗膜を形成することができる迅速工法およびそのための塗料の提供が望まれる。また、形成された防滑塗膜は、初期値は勿論、湿潤乾燥を繰り返した後もタイルへの密着性にすぐれ、耐候性および耐摩耗性にすぐれていることも求められる。
【発明の開示】
【0004】
上記要望を満たすため、本発明は、防滑処理の施されていないセラミックタイル張り床面に、架橋硬化したアルコキシシリール基含有アクリルシリコーン樹脂塗膜のマトリックス中に分散したアクリル樹脂マイクロビーズを含んでいる防滑塗膜を形成することよりなるタイル床面の防滑施工方法を提供する。
【0005】
この防滑性塗膜は、タイル床面に本発明の防滑塗料を塗装し、乾燥させることによって形成される。塗料は、アクリル樹脂マイクロビーズを分散させた、塗膜形成樹脂としてアルコキシシリール基含有アクリルシリコーン樹脂を含んでいる常乾型クリヤー塗料である。
【0006】
好ましくは、アクリル樹脂のマイクロビーズは平均粒子径80〜150μmを有する。また、前記アクリル樹脂マイクロビーズは、前記クリヤー塗料中の樹脂固形分の5〜15重量%であることが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、塗膜形成樹脂がアルコキシシリール基を含んでいるアクリルシリコーン樹脂である常乾性クリヤー塗料を使用する。このような塗膜形成樹脂は、アクリル系モノマーと、必要に応じ他のエチレン性不飽和モノマーと、そしてアルコキシシリール基を有するビニルまたはアクリルモノマーの共重合によって得られる。この共重合体末端のアルコキシシリール基が、ジブチルスズジラウレートのようなスズ系触媒の存在下大気中の水分によりシラノール基へ加水分解され、末端シラノール基同士の脱水縮合によるシロキサン結合で架橋高分子化する。これが末端アルコキシシリール基を含むアクリルシリコーン樹脂を塗膜形成樹脂として含む塗料の硬化メカニズムである。このタイプのアクリルシリコーン樹脂は良く知られており、例えば特開昭54−36393、同57−36109、同58−157810等に開示されている。また、このタイプの樹脂は、「ゼムラック」の商標名で鐘淵化学工業(株)より市販されている。
【0008】
本発明においては、ゼムラックYC3918と硬化触媒としてゼムラックBT120Sを好適に使用することができる。勿論これに匹敵する他社からのアルコキシシリール基含有アクリルシリコーン樹脂を使用しても良い。
【0009】
本発明においては、塗膜の防滑性、すなわち静摩擦係数を高めるためアクリル樹脂のマイクロビーズを使用する。マイクロスフェアとも呼ばれるアクリル樹脂の微粒子は、塗料の分野ではハイソリッド化、構造粘性(チキソトロピー)の付与、艶消しなどの目的で使用されており、使用目的に適した平均粒子径のものが市販されている。アクリル樹脂のマイクロビーズは、通常アクリルモノマーを含むモノマー混合物の乳化重合法によって粒子状共重合体を製造し、固液分離して得られる。塗料に含まれる有機溶剤によって溶解または膨潤しないため、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアクリレートまたはメタクリレートのような多官能モノマーを共重合し、三次元架橋して用いるのが通常である。
【0010】
本発明の防滑塗膜の防滑性能は、アクリル樹脂マイクロビーズの直径と、塗膜中のその分布密度による。粒径は平均で80〜150μmが適当であることがわかった。分布密度は、塗料のアクリルシリコーン樹脂固形分に対するアクリル樹脂マイクロビーズの重量比として表すことができ、5〜15重量%が好適であることがわかった。施工方法は、あらかじめ清浄化したタイル床面に本発明の塗料を平坦部の乾燥膜厚30μm程度に塗装し、歩行可能となるまで乾燥させればよい。塗装はローラーを用いるのが便利である。歩行可能になるまでの乾燥時間は、20〜25℃において約2時間である。
【0011】
以下に発明完成に至るまでに行った実験を含め、実施例を記載する。これらにおいて、部および%は特記しない限り重量基準による。
【実施例】
【0012】
実験1:
試験方法
まず、磁器タイル面への有効な密着性能を有する合成樹脂種を選択するために、表1に記す各種塗料(クリヤー)を用いてその性能を評価した。素材については床面にて一般的に広く使用されている磁器質床タイル100mm角(KY株式会社製:セルボセット100 SB/S)を用いた。まず素材表面を清浄な状態にし、その上より表1にて規定した各種塗料(クリヤー)を高速ディゾルバー700rpmにて均一な状態まで攪拌した後、乾燥膜厚が約30μmになるようにローラーにて均質に塗布。23℃室温にて14日の乾燥養生ののち試験体とした。
試験項目としては前述の判断をするに必要な表2に記す内容を実施した。
【0013】
試験結果
試験の結果については表2に表す。結果より付着性能に優れる塗料(クリヤー)としては(1)2液型エポキシ塗料、(2)アルコキシシリール基含有アクリルシリコーン塗料の2種が選択された。
【0014】
実験2:
試験方法
本発明の用途においては、タイル素材の美観を損わないため、塗膜が高い光耐久性を有することが求められる。その点について評価判断することを目的として、実験1にて選択された表3に示す2種のクリヤー塗料を外部用アクリルウレタン(ハイアート3000ホワイト:イサム塗料製)が既に塗装済みの試験用鋼板(70X150mm)に塗料を高速ディゾルバー700rpmにて均一な状態まで攪拌した後、その乾燥膜厚が約30μとなるようにローラーにて均一に塗布。23℃室温にて14日の乾燥養生ののち試験体とした。
試験手法としてはキセノンウェザーメーター(JISK5600)を用い、試験時間を最長2000時間とした。
【0015】
試験結果
試験の結果については表4に表す。結果より選択されたクリヤー塗料のうち、アクリルシリコーン樹脂クリヤーが有効であるとの結論を得た。
【0016】
実験3:
試験方法
現場での塗装工事を考慮すると、工事開始から実際に歩行できるまでの期間をできるだけ短くする必要がある。その点について評価判断することを目的として、アクリルシリコーン樹脂クリヤーを用いて単位面積当たりにかかる塗装時間および乾燥時間を測定した。素材については床面にて一般的に広く使用されている磁器質床タイル100mm角(KY株式会社製:セルボセット100 SB/S)を用いた。そのタイルを 900mm×900mmサイズのコンクリートパネルに張付ける。素材表面を清浄な状態にし、その上よりアクリルシリコーン樹脂クリヤーを高速ディゾルバー700rpmにて均一な状態まで攪拌した後、乾燥膜厚が約30μmとなるようにローラーにて均質に塗布したものを試験体とした。また下塗り/防滑材散布/上塗りの3工程での磁器タイルへの防滑性付与工法を比較例とする。
試験手法としては23℃室温にて塗装時間と乾燥時間の測定を行い、実際に歩行が可能となるまでの期間を評価した。
【0017】
試験結果
試験の結果については表5に表す。結果よりアクリルシリコーン樹脂クリヤーが23℃において工事開始から歩行可能となるまでの期間が約3時間であるとの結論を得た。
【0018】
実験4:
試験方法
防滑機能を付与するために使用するマイクロビーズについては、防滑性能、防滑機能の維持、磁器タイル外観への影響などを配慮する必要がある。試験として添加するマイクロビーズの種類、平均粒径、添加量比を表7のとおりに設定した。100mm×300mmのスレート板に磁器質床タイル100mm角(KY株式会社製:セルボセット100 SB/S)3枚を張付けたものにアクリルシリコーン樹脂クリヤーに各マイクロビーズを混合し高速ディゾルバー700rpmにて均一な状態まで攪拌したものをローラーにて塗布。23℃室温にて3日の乾燥養生の後試験体とした。
試験手法としては目視による塗料との混合性およびタイル外観への影響の確認、床用簡易型静摩擦係数測定器による静摩擦係数の測定、湿潤磨耗試験装置による耐久性評価とした。
【0019】
試験結果
試験の結果については表8に表す。結果より特にアクリル系マイクロビーズ、粒子径0.08から0.15mm、配合量比5から15%の範囲において、他の組み合わせの試験体と比して特異的に優れているとの結果となった。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックタイル張り床面に、架橋硬化したアルコキシシリール基含有アクリルシリコーン樹脂塗膜マトリックス中に分散したアクリル樹脂マイクロビーズを含んでいる防滑塗膜を形成することを特徴とするタイル床面の防滑施工方法。
【請求項2】
前記アクリル樹脂マイクロビーズの平均粒子径は、80〜150μmの範囲である請求項1の防滑施工方法。
【請求項3】
前記アクリルシリコーン樹脂マトリックスに対する前記アクリル樹脂マイクロビーズの重量比は、5〜15%である請求項2の防滑施工方法。
【請求項4】
セラミックタイル張り床面へ防滑性能を付与するための塗料組成物であって、塗膜形成樹脂としてアルコキシシリール基を含有するアクリルシリコーン樹脂を含む常乾型クリヤー塗料に、アクリル樹脂マイクロビーズを分散させてなる塗料組成物。
【請求項5】
前記アクリル樹脂マイクロビーズの平均粒子径は、80〜150μmの範囲である請求項4の塗料組成物。
【請求項6】
前記クリヤー塗料の樹脂固形分に対する前記アクリル樹脂マイクロビーズの重量比は5〜15%である請求項5の塗料組成物。

【公開番号】特開2010−100767(P2010−100767A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275018(P2008−275018)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(591242405)イサム塗料株式会社 (6)
【Fターム(参考)】