説明

セラミックヒーター

【課題】長時間継続あるいは断続して高温で使用した場合であっても、抵抗発熱材の劣化を十分に防止することができ、耐久性が高いセラミックヒーターを提供する。
【解決手段】セラミックスからなるセラミック基体1a,1bと、セラミック基体1a,1b内に設けられた、少なくとも抵抗発熱材が埋設された発熱部2と、を備え、セラミックスが88〜96重量%のAl、3〜10重量%のSiO、1〜2重量%のCaO、0.01〜0.5重量%のMgの酸化物を含有し、且つCaOに対する前記SiOの重量比が1.5以上3.5未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックヒーターは、セラミックスからなるセラミック基体と、セラミック基体内に設けられた、抵抗発熱材が埋設された発熱部とを備えるものであり、半田ごて、石油ファンヒーター等の石油気化器用熱源や、温水加熱ヒーター等の産業機器用、電子部品用、一般家庭用の各種加熱用ヒーター等に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の含有量で酸化物を含有するアルミナを基体とする焼結材料を用いた、耐久性に優れるセラミックヒーターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−82009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に記載の従来のセラミックヒーターは、長時間継続して高温で使用すると抵抗発熱材が劣化して電気抵抗値が増大することがあり、耐久性が不十分であることが問題となっている。このような抵抗発熱材の劣化の原因としては、抵抗発熱材あるいはセラミック基体の構成成分が高温下での通電により電気化学的な拡散現象、いわゆるエレクトロマイグレーション(以下、単に「マイグレーション」という)を起こすことが挙げられている。
【0006】
例えば、抵抗発熱材の構成成分がマイグレーションによりセラミック基体中に拡散流出すると、その流出部分で抵抗発熱材が消耗し、過昇温・断線に至ることもある。また、焼結助剤成分として添加されるMgOやCaO等の金属酸化物成分は、セラミック基体中ではガラス相の形で存在するが、これに含有される金属イオンないし酸素イオンもマイグレーションを起こしやすい。例えば抵抗発熱材の主要成分がWである場合には、マイグレーションにより移動する酸素イオンにより酸化され、同様に抵抗値増大や断線等の問題を引き起こすことがある。
【0007】
そこで本発明は、長時間継続あるいは断続して高温で使用した場合であっても、抵抗発熱材の劣化を十分に防止することができ、耐久性が高いセラミックヒーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み本発明は、セラミックスからなるセラミック基体と、セラミック基体内に設けられた、少なくとも抵抗発熱材が埋設された発熱部と、を備えるセラミックヒーターであって、セラミックスが88〜96重量%のAl、3〜10重量%のSiO、1〜2重量%のCaO、0.01〜0.5重量%のMgの酸化物を含有し、且つ前記CaOに対する前記SiOの重量比が1.5以上3.5未満であることを特徴とするセラミックヒーターを提供する。なお、本明細書中、「Mgの酸化物の含有量」とは、MgO換算でのMgの酸化物の含有量をいう。
【0009】
かかるセラミックヒーターによれば、長時間継続あるいは断続して高温で使用した場合であっても、抵抗発熱材の劣化を十分に防止することができ、耐久性が高い。
【0010】
上記Mgの酸化物の含有量は0.2重量%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長時間継続あるいは断続して高温で使用した場合であっても、抵抗発熱材の劣化を十分に防止することができ、耐久性が高いセラミックヒーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のセラミックヒーターの好適な実施形態である平板状セラミックヒーターの概略図である。
【図2】本発明のセラミックヒッターの他の実施形態であるロッド状セラミックヒーターの概略図である。
【図3】図2における巻きつけ前のセラミック基体の状態を示す図である。
【図4】図2におけるz−z断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明のセラミックヒーターの好適な実施形態である平板状セラミックヒーターの分解斜視図である。
【0015】
図1に示すセラミックヒーターは、セラミックスからなるセラミック基体1a及び1bの間に、抵抗発熱材が埋設された発熱部2と、引き出し部4a及び4bを介してそれぞれ発熱部2に接続された陽極側端子部3a及び陰極側端子部3bとからなる発熱体が設けられたものである。
【0016】
図2は、本発明のセラミックヒーターの他の実施形態であるロッド状セラミックヒーターの概略図である。
【0017】
図2に示すセラミックヒーターは、抵抗発熱材が埋設された発熱部14と、発熱部14を内蔵した、セラミックスからなるセラミック基体11とを備える。セラミック基体11は、セラミック軸13に、セラミックシート12が巻きつけられた構成を有する。セラミックシート12上には、発熱部14が設けられており、発熱部14には引き出し部15が接続されている。セラミック基体11には、抵抗発熱材に電力を供給するための電極部16が設けられており、電極部16には金属リード17がロウ付けされている。
【0018】
本実施形態のセラミックヒーターの構造を、図3、4を用いて、より詳細に説明する。
図3は、巻きつけ前のセラミック基体11の状態を示す図である。セラミックシート12上には、発熱部14が設けられており、発熱部14には引き出し部15が接続されている。引き出し部15はさらに、導体を充填したスルーホール22によりセラミックシート12の裏面に形成されたメタライズ18に接続される。そして、発熱部14、引き出し部15を内側にして、セラミック軸13に、セラミックシート12を巻きつけることにより、セラミック基体11が形成される。
【0019】
図4は、図2におけるz−z断面図である。セラミック基体11の表面には、メタライズ18、Niめっき19がこの順で積層されており、このNiめっき19上にロウ材20により金属リード17がロウ付けされ、電極部16が形成されている。なお、電極部16の温度・湿度等による劣化を防止するために、任意で、ロウ材20、金属リード17を覆うようにNiめっき21を形成することもできる。
【0020】
以下、セラミックヒーターの各要素について説明する。
セラミック基体1a,1b、セラミックシート12及びセラミック軸13におけるセラミックスは、Al、SiO、CaO及びMgの酸化物を含有する。
【0021】
上記セラミックスにおけるAlの含有量は、88〜96重量%であり、89〜94重量%であることが好ましく、90〜92重量%であることがより好ましい。
上記セラミックスにおけるSiOの含有量は、3〜10重量%であり、4〜8重量%であることが好ましく、5〜7重量%であることがより好ましい。
上記セラミックスにおけるCaOの含有量は、1〜2重量%であり、1.4〜1.9重量%であることが好ましく、1.6〜1.8重量%であることがより好ましい。
【0022】
上記セラミックスにおけるMgの酸化物の含有量は、0.01〜0.5重量%である。Mgの酸化物の含有量が上記範囲にあると、電極中におけるMgOの偏析を十分に防止でき、この偏析に起因する抵抗値のバラツキを低く抑えることが可能となるため、抵抗発熱材の劣化を十分に防止することができる。さらに、MgOの偏析をより高度に防止できる点から、0.02〜0.20重量%であることが好ましく、0.05〜0.10重量%であることがより好ましい。
【0023】
上記セラミックスにおけるCaOに対するSiOの重量比は、1.5以上3.5未満であり、2.5以上3.45未満であることが好ましく、3.0以上3.4未満であることがより好ましい。CaOに対するSiOの重量比が上記範囲にあると、SiO及びCaOからなる液相が生じる温度を高くすることができ、結果として焼成温度を高くすることができ、焼結助剤及び粒成長抑制剤としてのMgの酸化物の量を上記範囲まで減らしても十分に高い分散性が得られ、従って十分な性能が得られる。
【0024】
上記セラミックスは、高温高強度セラミックス、例えばムライトやスピネル等のアルミナ類似のセラミックス等の基材をさらに含有していてもよい。
【0025】
上記セラミックスは、0.01〜3.0重量%のZrO等の助剤を含有していてもよい。
【0026】
上記セラミックスは、Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種の金属の酸化物を、0を超え0.1重量%未満含有していてもよい。
【0027】
発熱部2,14に埋設された抵抗発熱材、陽極側端子部3a、陰極側端子部3b、引き出し部4a,4b,15、及びメタライズ18としては、例えばW,Mo,Re等といった高融点金属からなるものを用いることができる。
【0028】
ロウ材20としては、例えばAg,Au,Cu,Ni,Pdのうち少なくとも1種からなるロウ材を用いることができる。
【0029】
なお、セラミック軸13は、円柱状のものであっても、中空構造を有する管状のものであってもよい。
【0030】
図1に示す平板状セラミックヒーターは、例えば次の方法により製造することができる。
【0031】
まず、基材及び助剤を、成型用バインダ、有機溶剤を添加して、湿式で混合し、セラミックス組成物を得る。なお、基材とは、Alに対応する原料をいい、助剤とはSiO、CaO及びMgの酸化物に対応する原料等をいう。基材及び助剤としては、セラミックスに含有される酸化物(Al、SiO、CaO及びMgの酸化物)自体を用いても、焼成工程において酸化物となり得るもの、例えばそれぞれの酸化物に対応する炭酸塩等の各種塩や水酸化物、複合酸化物を用いてもよい。
【0032】
基材及び助剤は、焼成前に700〜1450℃で1〜100時間仮焼してもよい。また、基材と助剤は、別々に仮焼した後に混合してもよい。さらに、助剤成分の少なくとも一種を仮焼した後に基剤と助剤と混合してもよい。
【0033】
次に、セラミックス組成物をドクターブレード法等により成型して、セラミック基体1a,1bを作製する。得られたセラミック基体1a上に、圧膜印刷法等により、発熱体をスクリーン印刷した後に、セラミック基体1bを圧着して、積層することにより、図1に示すセラミックヒーターが得られる。
【0034】
図2に示すロッド状セラミックヒーターは、例えば次の方法により製造することができる。
【0035】
上述のセラミックス組成物をドクターブレード法等により成型して、セラミックシート12を作製し、またセラミックス組成物を押し出し成型して、セラミック軸13を作製する。得られたセラミックシート12上に、スクリーン印刷等により、発熱部14を形成し、さらに発熱部14に引き出し部15を接続する。
【0036】
そして、セラミック軸13にセラミックシート12を、発熱部14及び引き出し部15を内側にして巻きつけることにより、セラミック基体11を形成する。セラミック基体11に、導体ペーストを充填したスルーホール22を介してメタライズ18を形成し、さらにNiめっき19を施す。金属リード17をこのNiめっき19上にロウ材20を用いてロウ付けすることにより、電極部16が形成され、図2に示すセラミックヒーターが得られる。なお、ロウ材20及び金属リード17を保護するために、Niめっき21を施してもよい。
【0037】
上記成型用バインダ、有機溶剤としては、例えば、ポリビニルブチラール、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、トルエンの混合溶液を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
SiO,CaCO,MgCO,ZrOの各原料粉末(助剤)を、焼成後の組成が表1に示す重量比となるように秤量して、これらをボールミル内に入れ、湿式で8〜100時間混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを乾燥させて混合粉体とした。次いで、得られた混合粉体を大気中で700〜1450℃で1〜100時間熱処理(仮焼)した。熱処理した粉末を溶媒及び分散媒とともにボールミル内に入れ、湿式で8〜100時間粉砕し、得られたスラリーを乾燥させて、熱処理された助剤を得た。
【0040】
この熱処理された助剤を、焼成後の組成が表1に示す重量比となるように秤量したAl(基剤)と、成型用バインダ、有機溶剤の存在下で混合し、スラリーを得た。このスラリーをドクターブレード法でセラミックシートに成型した。このセラミックシートの表面に、W−Reからなる発熱部とW−Moからなる引き出し部をスクリーン印刷し、裏面には電極部を形成するためにWを主成分とするメタライズをスクリーン印刷した。そして、Wからなる引き出し部の末端には、スルーホールを形成し、ここに導体ペーストを注入することにより電極部との導通をとった。
【0041】
次に、上記セラミックシートと同じ組成で、成型用バインダ、有機溶剤を添加したスラリーを調製した後、押し出し成型により、セラミック軸を作製した。その後、セラミックシートを所定の大きさに切断し、この切断したセラミックシートに有機溶剤を主成分とする接着剤を塗布し、セラミック軸に巻き付け一体化させた。これを、1450〜1650℃の還元雰囲気炉にて焼成することによりセラミック体を得た。その後、Au−Cuからなるロウを用いて、真空炉を使用して電極部に金属リードをロウ付けして実施例1〜3、比較例1〜4のセラミックヒーターを製造した。
【0042】
【表1】

【0043】
[セラミックヒーターの評価]
(連続通電試験)
発熱部の表面温度が1100℃となるように、実施例1〜3、比較例1〜4のセラミックヒーターを通電加熱し、連続通電試験を行った。通電加熱前(初期)の室温抵抗、1000時間通電加熱後の室温抵抗、抵抗変化率、及び3000時間通電加熱後の断線の有無をそれぞれ表2に示す。
(断続通電試験)
発熱部の表面温度が1100℃となるように、実施例1〜3、比較例1〜4のセラミックヒーターを通電加熱し、5分間保持後、通電を遮断し、室温で2分間放置することを1サイクルとして、断続通電試験を行った。5000サイクル後の室温抵抗、抵抗変化率、及び20000サイクル後の断線の有無をそれぞれ表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から明らかであるように、実施例1〜3のセラミックヒーターによれば、1000時間の通電試験を行った場合であっても、抵抗変化率が5%以下に抑えられ、3000時間の通電試験を行った場合であっても断線が起こらない。さらに、実施例1〜3のセラミックヒーターによれば、5000サイクルの断続通電試験を行った場合であっても抵抗変化率が8%以下に抑えられ、20000サイクルの断続通電試験を行った場合であっても断線が起こらない。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b,11…セラミック基体、2,14…発熱部、3a…陽極側端子部、3b…陰極側端子部、4a,4b,15…引き出し部、12…セラミックシート、13…セラミック軸、15…引き出し部、16…電極部、17…金属リード、18…メタライズ、19,21…めっき、20…ロウ材、22…スルーホール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなるセラミック基体と、該セラミック基体内に設けられた、少なくとも抵抗発熱材が埋設された発熱部と、を備えるセラミックヒーターであって、
前記セラミックスが88〜96重量%のAl、3〜10重量%のSiO、1〜2重量%のCaO、0.01〜0.5重量%のMgの酸化物を含有し、且つ前記CaOに対する前記SiOの重量比が1.5以上3.5未満であることを特徴とするセラミックヒーター。
【請求項2】
前記Mgの酸化物の含有量が0.2重量%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックヒーター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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