説明

セラミックヒータ及びグロープラグ

【課題】カルシウム成分等に対する耐食性に優れたセラミックヒータ及びグロープラグを提供すること。
【解決手段】軸線方向に延在する一対のストレート部41A、41B及びストレート部41A、41Bよりも細く形成されてこれらを連結する方向転換部42を有し、基体30に埋設された抵抗体40を備えたセラミックヒータ3であって、直流電源に接続して通電発熱させたときに最高発熱部の切断面に現れる抵抗体40の正極側断面の断面積Aが負極側断面の断面積Bよりも小さいセラミックヒータ3、並びに、主体金具4と、その軸孔11に挿設された中軸6と、正極側断面よりも高電位側のストレート部41Aが中軸6に接続され、負極側断面よりも低電位側のストレート部41Bが主体金具4に接続されるように軸孔11に挿設されたセラミックヒータ3とを備えたグロープラグ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックヒータ及びグロープラグに関し、さらに詳しくは、カルシウム成分等に対する耐食性に優れたセラミックヒータ及びグロープラグに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン及び各種センサー等には、その始動を補助し、又は、早期に活性化させるために、グロープラグ、センサー用加熱ヒータ及びファンヒータ用加熱ヒータ等が用いられる。例えば、グロープラグはディーゼルエンジンにおける燃料の着火源として使用される。このようなグロープラグ用ヒータ、センサー用加熱ヒータ及びファンヒータ用加熱ヒータ等は絶縁性のセラミック基体内に例えば導電性セラミック等で形成された抵抗発熱体を埋設した構造を有するものが知られている。特に近年では、高温性能が要求されており、Mo又はWの珪化物、窒化物、炭化物を主成分とする抵抗発熱体を高温での耐食性に優れた窒化ケイ素セラミックからなるヒータ部材に埋設したセラミックヒータが提案されている。
【0003】
ところで、ディーゼルエンジンにはエンジンオイルが使用されており、このエンジンオイルが燃焼室内に入り込むと、エンジンオイルに含まれるカルシウム成分、亜鉛成分、イオウ成分、リン成分等の灰分によって、セラミックヒータ、特にその先端部分が腐食されて外径が細くなり、最終的には内部の発熱抵抗体にまで腐食が進行し、断線やセラミックヒータ自体の破損に至ることがあった。
【0004】
また、近年のディーゼルエンジンには、例えば1250℃を超える高温まで発熱可能なグロープラグが要求されている。このような要求を満たすグロープラグとして耐熱衝撃性、耐高温強度及び耐酸化性等に優れる窒化ケイ素質セラミック等で形成されたセラミックヒータを備えたグロープラグがある。ところが、窒化ケイ素及びその表面に存在する酸化珪素は1250℃を超える高温ではカルシウム成分等と特に反応しやすく、セラミックヒータの腐食が急速に進行しやすいという問題がある。
【0005】
そこで、セラミックヒータのカルシウム等に対する耐食性を向上させるべく、様々な検討がなされている。例えば、コーティング層でセラミックヒータを被覆する方法及びコーティング層で被覆されたセラミックヒータが提案されている。具体的には、特許文献1には「セラミックのグロープラグの一部を腐食抑制材料でコーティングする方法」、「より詳しくは窒化珪素のグロープラグを酸化タンタルでコーティングする方法」が記載されている。また、特許文献2には「Si質焼結体内に埋設した発熱抵抗体に通電して発熱するようにしたグロープラグにおいて、前記Si質焼結体の表面にAlセラミックコーティング層を被着したことを特徴とする高耐蝕性グロープラグ」が記載されている。このようなコーティング層で被覆されたセラミックヒータはディーゼルエンジンの駆動によって繰り返される加熱・冷却サイクルによってコーティング層が剥離しやすく、実用上の腐食という問題を解決できないことがある。
【0006】
ところで、特許文献3には「棒状のセラミック基体と、該セラミック基体中に埋設された発熱体とを備えたセラミックヒータであって、前記発熱体は、前記セラミック基体の先端側に延びる2本の線状部と、これらの線状部の先端同士をつなぐ折り返し部とを有し、前記セラミック基体の軸方向に垂直で、かつ、前記2本の線状部を含む平面で切ったときの断面において、一方の線状部の周囲の長さが他方の線状部の周囲の長さよりも長く、前記一方の線状部の中心と前記他方の線状部の中心とを結ぶ直線に対して垂直な方向の長さが、一方の線状部の方が他方の線状部よりも長いことを特徴とするセラミックヒータ」が請求項2に、好ましい態様として「前記断面において、前記他方の線状部の断面積が前記一方の線状部の断面積よりも小さい請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックヒータ」が請求項4にそれぞれ記載されている。このセラミックヒータは「優れた急速昇温性を有し、短時間で定常状態に達する」ことを課題として案出されたものであって、この課題は、線状部の一方及び他方のいずれが正極か負極かを問わず単に一方の周囲の長さを他方よりも長くして、他方の線状部を急速に加熱昇温させると共に線状部間で熱交換させて短時間で定常状態に到達させることによって、解決されると記載されている(0011欄等)。したがって、この特許文献3のセラミックヒータはカルシウム成分等に対する十分な耐食性を発揮しえず、発熱温度として高々1000℃を想定されていることからすると(実施例等参照。)、例えば1250℃を超える高温での耐食性はほとんど期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−178183号公報
【特許文献2】特開昭63−297925号公報
【特許文献3】特開2007−265893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、カルシウム成分等に対する耐食性に優れたセラミックヒータ及びグロープラグを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、セラミックヒータは、細く形成されることで電力が供給された時に発熱部の主部をなす方向転換部とこの方向転換部の端部に接続されリードとしての役割を果たす一対のストレート部とで構成された導電性セラミック製の抵抗体が絶縁性セラミックからなる基体の中に埋設されている。したがって、セラミックヒータの使用時にこの抵抗体をバッテリ等の直流電源に接続すると、ストレート部を介して方向転換部へ電力が供給され、当該方向転換部付近で発熱する。
【0010】
このようなセラミックヒータにおけるカルシウム成分等による腐食をさらに詳細に調査したところ、本発明者らは、この腐食は最高発熱部のうち高電位側である正極側と低電位側である負極側とで度合いが異なることがあることを見出した。その理由として、カルシウム成分等の腐食成分はイオン化するとプラス帯電した陽イオンとなるため負極側に集まりやすい性質を持つことにあり、さらに最高発熱部ではその表面温度が例えば1250℃以上もの高温となるため、特に負極側で腐食が顕著に進行してしまうことにあると推測した。このように、セラミックヒータを長寿命化すべく耐食性を向上させるには最高発熱部の、特に負極側における耐食性を向上させることが効果的であることを本発明者らは見出した。
【0011】
これらの知見等に基づいて、本発明者らは、前記課題を解決するために最高発熱部の切断面において正極側断面を負極側断面よりも小さくすることによって、負極側の抵抗値を下げて負極側における発熱量を低減し、その一方で正極側の抵抗値を上げて正極側における発熱量を向上させることができ、その結果、腐食の進行が著しい最高発熱部の負極側の腐食を抑制できることを見出して、この発明を完成させた。
【0012】
すなわち、この発明は、絶縁性セラミックで形成され、軸線方向に延在する基体と、前記軸線方向に延在する一対のストレート部及び一対の前記ストレート部の端部同士を連結し、当該ストレート部よりも細く形成された方向転換部を有し、前記基体に埋設された抵抗体とを備えてなるセラミックヒータであって、前記セラミックヒータに直流電源を接続して通電発熱させたときにその表面温度が最高温度となる最高発熱部を前記基体の軸線に垂直な平面で切断した切断面に現れる前記抵抗体の一対の断面である正極側断面と負極側断面とにおいて前記正極側断面の断面積Aが前記負極側断面の断面積Bよりも小さいことを特徴とする。
【0013】
また、この発明は、筒状の主体金具と、前記主体金具の軸孔に挿設され、外部直流電源に電気的に接続される中軸と、一対のストレート部のうち前記正極側断面よりも高電位側に配置されたストレート部が前記中軸に電気的に接続され、前記負極側断面よりも低電位側に配置されたストレート部が前記主体金具に電気的に接続されるように前記軸孔に挿設されたこの発明に係るセラミックヒータとを備えて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
セラミックヒータにおいては、前述の如く、カルシウム成分等による腐食は高温になるほど反応しやすく、急速に腐食が進行するという問題がある。この対策としてセラミックヒータとしての発熱温度を下げれば長寿命化は望めるものの高温用途には適さないものとなってしまう。そこで、セラミックヒータ、特に高温用途に適するセラミックヒータは、一般的には、発熱部の主部となる方向転換部すなわち折り返し部が左右対称形となるように抵抗体を構成するところ、この発明では方向転換部近傍の最高発熱部において負極側断面に対して正極側断面の方が小さい断面積を有するように抵抗体を構成している。すなわち、この発明に係るセラミックヒータは最高発熱部を基体の軸線に垂直な平面で切断した切断面に現れる抵抗体の一対の断面において正極側断面の断面積Aが負極側断面の断面積Bよりも小さいことを特徴としている。このようにして最高発熱部における負極側と正極側との発熱の分担率を変更し、具体的には、負極側での発熱量を少なく正極側での発熱量を多くなるようにセラミックヒータを改良することによって、正極側及び負極側で均等に発熱させていた従来のセラミックヒータに比して、進行が著しい負極側の腐食が抑制され、セラミックヒータとしての耐食性が改善される。
【0015】
したがって、この発明によれば、カルシウム成分等に対する耐食性に優れたセラミックヒータを提供できる。また、この発明に係るグロープラグはこの発明に係るセラミックヒータを備えているから、この発明によればカルシウム成分等に対する耐食性に優れたグロープラグを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明に係るグロープラグの一例であるグロープラグを示す概略断面図である。
【図2】図2は、この発明に係るセラミックヒータの一例であるセラミックヒータを示す概略断面図である。
【図3】図3は、図2に示されるセラミックヒータの先端領域近傍の表面温度分布を放射温度計又はサーモグラフィで計測して得られる側面投影画像を示す模式図である。
【図4】図4は、図2におけるセラミックヒータの最高発熱部を軸線に垂直な平面で切断したときの切断端面を示す概略端面図である。
【図5】図5は、この発明に係るセラミックヒータの変形例であるセラミックヒータの最高発熱部を軸線に垂直な平面で切断したときの切断端面を示す概略端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係るセラミックヒータは、前述の如く、方向転換部と一対のストレート部とを有する導電性セラミック製の抵抗体が絶縁性セラミック製の基体に埋設され、その最高発熱部が最も先端の位置よりもやや後端側の位置にある。そして、この発明に係るセラミックヒータは、最高発熱部の切断面において正極側断面が負極側断面よりも小さい抵抗体を有しているから、腐食成分が集まりやすい負極側の表面温度が低くなると共に正極側の表面温度が高くなって、負極側は高い耐食性を発揮する。
【0018】
この発明に係るセラミックヒータ、及び、このセラミックヒータをグロープラグ用ヒータとして用いたこの発明に係るグロープラグを、図面を参照して、説明する。この発明に係るグロープラグの一例であるグロープラグ1は、図1に示されるように、筒状の主体金具4と、主体金具4の軸孔11に挿設され、図示しないバッテリ等の外部直流電源に接続された中軸6と、主体金具4及び中軸6に電気的に直接的に又は間接的に接続され、軸孔11に挿設されたセラミックヒータ3とを備えている。より具体的には、グロープラグ1は、主体金具4と中軸6とセラミックヒータ3と絶縁部材8AとOリング8Bと外筒5とピン端子9とが組み合わされて構成されている。このグロープラグ1において、主体金具4の外筒5が接合された側すなわち図1の下側を先端、その反対側を後端と称する。ただし、図1では、図面の明りょう性のため、セラミックヒータ3、リング部材7、絶縁部材8A及びOリング8Bは断面図ではない。
【0019】
グロープラグ1の全体構成を簡単に説明する。このグロープラグ1において主体金具4の軸孔11には後端にその一端が突出するように棒状の中軸6が挿設すなわち配置され、この中軸6の先端側には、この発明に係るセラミックヒータの一例であるセラミックヒータ3の先端が突出するように保持された外筒5が主体金具4の先端部に接合されることでセラミックヒータ3が配置されている。そして、中軸6の先端とセラミックヒータ3とがリング部材7で接続されている。また、主体金具4の後端側にはゴム製のOリング8B及び樹脂製等の環状の絶縁部材8Aが中軸6の後端と工具係合部13との間隙に配置され、絶縁部材8Aの後端に中軸6を周方向から固定するようにピン端子9が装着されている。なお、グロープラグ1において、理想的には全ての部材の軸線が同一の軸線となるように配置されている。
【0020】
主体金具4はS45C相当の鉄系素材で軸孔11を有する筒状に形成されている。主体金具4の外周面の中央よりも後端側にディーゼルエンジンのシリンダヘッドの取付孔(図示しない)に螺合する雄ねじ12と、雄ねじ12よりもさらに後端側に形成され、トルクレンチ等の工具に係合する工具係合部13とが形成されている。軸孔11の後端には後端側に向かって徐々に拡径するテーパ孔11A及びテーパ孔11Aのさらに後端側に隣接して大径孔11Bが形成されている。
【0021】
中軸6は各種金属で棒状に形成され、ピン端子9を介して図示しない外部直流電源に接続される。中軸6の先端部にはセラミックヒータ3と導通するためのリング部材7と嵌合する中軸嵌合部21が形成され、中軸嵌合部21の後端側には中軸先端大径部22が形成されている。この中軸嵌合部21と中軸先端大径部22との間には位置決め端面23が形成され、その位置決め端面23にリング部材7の後端面が当接して中軸6とリング部材7とが接合されている。また、中軸先端大径部22の後端側には中軸先端大径部22より径小の応力緩和部24を有し、中軸6に応力がかかった時にこの応力緩和部24が屈曲することによりセラミックヒータ3及び/又は中軸6が損傷、折損してしまうことを防ぐ構造になっている。この中軸6は、中軸6に外挿されたOリング8Bをテーパ孔11Aに配置すると共に、軸20に外挿された円筒形状の絶縁部材8Aを大径孔11Bに配置することによって、主体金具4の軸孔11に絶縁部材8Aで主体金具4と絶縁状態となるように、固定されている。
【0022】
リング部材7は、ステンレス等で形成された金属製筒体であって、一方の開口端が中軸嵌合部21を内挿し、他方の開口端がセラミックヒータ3を内挿するように、配置されている。このリング部材7はセラミックヒータ3と中軸6とを電気的に間接的に接続している。
【0023】
外筒5は例えばステンレス製の筒状体に形成され、セラミックヒータ3が圧入保持される軸孔14を有している。また、外筒5の後端には主体金具4に嵌合する径小部15が形成され、径小部15の先端側には径方向に突出するフランジ16が径小部15との間に後端向き端面17を介して形成されており、その先端側に先端に向かって径小となるテーパ18が形成されている。このテーパ18は図示しないディーゼルエンジンに取り付けられた際に燃焼室との気密を確保するシール部としての役割を担う。
【0024】
グロープラグ1の後端部には図示しない外部直流電源から電力を供給するコードが接続される端子部が形成されている。この端子部は主体金具4の後端面からさらに後端側に突出させた中軸6を内包するようにピン端子9が円周加締めされ、このピン端子9によって構成されている。
【0025】
このグロープラグ1におけるセラミックヒータ3は、図1〜図4に示されるように、絶縁性セラミックで形成された軸線C方向に延在する棒状の基体30と、この基体30に埋設され、導電性セラミックで形成された抵抗体40とを備えてなる。
【0026】
抵抗体40は、基体30の軸線C方向に実質的に沿って延在する一対のストレート部41A及び41Bと、一対のストレート部41A及び41Bそれぞれの端部同士を連結する方向転換部42とを有し、両脚が伸びた略U字型の棒状体又は柱状体を成している。一対のストレート部41A及び41Bは、基体30の軸線Cを挟んでその両側に軸線Cに沿って略並行に配置されている。一対のストレート部41A及び41Bそれぞれは、端部が基体30の後端面33に露出し、後述する電極取出部45A及び45Bを除いて軸線Cを挟んで対向する表面同士の間隔が自身の軸線J方向にほぼ一定で軸線Jに垂直な平面で切断したときの断面積が軸線J方向にほぼ一定の基部43A及び43Bと、基部43A及び43Bそれぞれから先端に向かって一体的に連接され、軸線Cを挟んで対向する表面同士の間隔が先端に向かって漸増し、軸線Cに垂直な平面で切断したときのそれぞれの断面積が先端に向かって徐々に漸減する縮径部44A及び44Bとを有している。基部43A及び43B並びに縮径部44A及び44Bそれぞれは基本的に互いに同じ形状及び同じ寸法で形成されているが、セラミックヒータ3に要求される温度等に応じて適宜に、例えば後述する最高発熱部46A及び46Bと同様の形状等に設定することができる。一対のストレート部41A及び41Bすなわち基部43A及び43Bそれぞれには、一方のストレート部41Aの後端側に電極取出部(正極取出部ともいう。)45Aが形成され、他方のストレート部41Bの中央よりもやや後端側であって正極取出部45Aよりも先端側に電極取出部(負極取出部ともいう。)45Bが形成されている。正極取出部45A及び負極取出部45Bはそれぞれ基体30の外周面に露出している。
【0027】
方向転換部42は一対のストレート部41A及び41Bすなわち縮径部44A及び44Bそれぞれの端部に一体的に連設されて端部同士を連結している。この方向転換部42は、図2によく示されるように、抵抗体40の最先端に配置され、その一部が軸線Cに対して略垂直に交差するように、折り返し形状、例えば、略円弧状、略U字状又はつづら折り状等に形成されている。方向転換部42は、一対のストレート部41A及び41Bよりも細く形成され、具体的には、その延在方向の断面積が一対の縮径部44A及び44Bの先端側の端部における断面積と同一か又はそれよりも小さくなるように形成されている。このセラミックヒータ3においては、抵抗体40に外部直流電源が接続されて電力が供給されると一対の縮径部44A及び44B並びに方向転換部42が通電発熱して高温となり、最も高温に達する最高発熱部46A及び46Bは一対の縮径部44A及び44Bそれぞれと方向転換部42との境界付近に存在する。換言すると、一対の縮径部44A及び44B並びに方向転換部42の延在方向に直交する断面積が小さくなる領域で発熱し、このセラミックヒータ3においては、一対の縮径部44A及び44Bそれぞれと方向転換部42との境界付近に断面積が最も小さくなる最高発熱部46A及び46Bが存在する。方向転換部42の寸法は適宜に設定できる。
【0028】
基体30は、一対のストレート部41A及び41Bの全部並びに方向転換部42の一部を埋設する基体本体31と、基体本体31の先端部から軸線C方向に延在し、少なくとも方向転換部42の一部を埋設する基体先端部32とを有している。
【0029】
基体本体31は、軸線C方向に延在すると共に先端に向かって外径が僅かに減少する例えば錐台形の棒状体とされ、一対の基部43A及び43B並びに一対の縮径部44A及び44B、場合によっては方向転換部42の一部を内蔵することができる形状及び大きさになっている。このセラミックヒータ3において、基体本体31の軸線C方向に直交する断面形状は、略円形に形成されているが、要求される性能により、例えば、楕円形及び多角形等の適宜の形状に調整できる。
【0030】
基体先端部32は、基体本体31に一体的に形成され、少なくとも方向転換部42の一部を埋設している。この基体先端部32は、基体本体31の先端部から軸線C方向に凸状に突出する曲面、例えば、軸線C方向の先端側に凸状に突出する、半球状、半楕円体状、錐状、テーパ状、R状、錐台状等に形状され、好ましくは半球状又は半楕円体状に形成されている。基体先端部32がこのように形状されていると、たとえ基体先端部32にエンジンオイル及びその灰分が付着してもこれらが流動及び除去され易く、さらに、一部が腐食されても、この腐食された部分は一旦平面状となった後に、深さ方向に腐食が進行するから、結果的に、基体先端部32のカルシウム成分等に対する耐食性をさらに向上させることができる。
【0031】
基体30は、セラミックヒータ3に外部直流電源を接続して通電発熱させたときに、その表面温度が最高温度となる最高発熱部34A及び34Bを基体本体31の先端側に有している。換言すると、このセラミックヒータ3において、抵抗体40は、セラミックヒータ3の最高発熱部34A及び34Bが基体本体31の先端側に位置するように形成されて基体30に埋設されている。セラミックヒータ3の最高発熱部34A及び34Bは抵抗体40の最高発熱部46A及び46Bに対応する外表面である。
【0032】
このグロープラグ1において、セラミックヒータ3は、一方のストレート部41Aの後端側に形成された正極取出部45Aがリング部材7の内周面に接触し、他方のストレート部41Bの中央よりもやや後端側であって正極取出部45Aよりも先端側に形成された負極取出部45Bが外筒5の内周面に接触するように、リング部材7及び外筒5に内挿されている。すなわち、グロープラグ1において、セラミックヒータ3の抵抗体40は、一方のストレート部41Aが中軸6にリング部材7を介して間接的に電気的に接続され、他方のストレート部41Bが主体金具4に外筒5を介して間接的に電気的に接続されており、グロープラグ1に外部直流電源を接続したときに一方のストレート部41A及び一方のストレート部41A側の方向転換部42が抵抗体40に印加される電圧の高電位側である正極側となり、他方のストレート部41B及び他方のストレート部41B側の方向転換部42が抵抗体40に印加される電圧の低電圧側である負極側となるように、軸孔11に配置されている。このように配置されたセラミックヒータ3は、正極取出部45Aから一方のストレート部41Aを介して方向転換部42、他方のストレート部41B、負極取出部45Bへと電流が流れ、抵抗体40のうち一方のストレート部41A及び一方のストレート部41A側の方向転換部42が正極として機能し、抵抗体40のうち他方のストレート部41B及び他方のストレート部41B側の方向転換部42が負極として機能する。
【0033】
そして、セラミックヒータ3は、外部直流電源が接続されて通電発熱したときにその表面温度が最高温度となる最高発熱部34A及び34Bを基体30の軸線Cに垂直な平面Pで切断した切断面に現れる抵抗体40の一対の断面47A及び47Bにおいて高電位側に位置する正極側断面47Aの断面積Aが低電位側に位置する負極側断面47Bの断面積Bよりも小さくなっている。換言すると、抵抗体40の最高発熱部46A及び46Bうち高電位側に位置する正極部分の断面積Aが低電位側に位置する負極部分の断面積Bよりも小さくなるように、抵抗体40が形成されている。さらにいうと、このセラミックヒータ3は、グロープラグ1用のセラミックヒータ3であってグロープラグ1の正極に電気的に接続される一方のストレート部41Aに最も近接する最高発熱部46Aの断面積Aがグロープラグ1の負極に電気的に接続される他方のストレート部41Bに最も近接する最高発熱部46Bの断面積Bよりも小さくなっている。
【0034】
ここで、最高発熱部46A及び46Bは抵抗体40のうち延在方向に垂直な断面積が最小となる部分であり、一対の縮径部44A及び44Bそれぞれと方向転換部42との境界付近に、より具体的にはこの境界よりも先端側に存在する。セラミックヒータ3の最高発熱部34A及び34Bの位置を特定する方法としては以下の方法が挙げられる。セラミックヒータ3に外部直流電源を接続して飽和温度まで通電発熱させた後、セラミックヒータ3の側面方向、すなわち棒状体のセラミックヒータ3の軸線Cに直交する方向例えば抵抗体40の正極側から放射温度計又はサーモグラフィでセラミックヒータ3の温度分布を計測すると、例えば図3に示される表面温度分布表示された側面投影画像が得られる。得られた側面投影画像において最も高温に達した部分Hの中心位置を基体30の最高発熱部34A及び34Bとする。なお、セラミックヒータ3を通電発熱させたときの飽和温度としては例えば1350℃が挙げられる。
【0035】
セラミックヒータ3は、このようにして特定された最高発熱部34A及び34Bを基体30の軸線Cに垂直な平面Pで切断すると、図4に示されるように、その切断面に抵抗体40の一対の断面47A及び47Bが現れる。そして、この一対の断面47A及び47Bにおいて高電位側に位置する最高発熱部34Aの正極側断面47Aの断面積Aが低電位側に位置する最高発熱部34Bの負極側断面47Bの断面積Bよりも小さくなっている。このように最高発熱部34A及び34Bにおいて断面積Aが断面積Bよりも小さくなっていると、通常、カルシウム成分等の灰分による腐食が進行しやすい負極においても、特にその最高発熱部34Bの表面温度が正極特にその最高発熱部34Aの表面温度よりも低くなってカルシウム成分等の灰分による腐食を防止できる。その理由の1つとして、この発明の発明者らは、最高発熱部34A及び34Bにおいて大きな断面積Bを有する負極側断面47Bの最高発熱部34Bの方が小さな断面積Aを有する正極側断面47Aの最高発熱部34Aよりも表面温度が低くなるから、セラミックヒータ3の外周面にエンジンオイル等が付着して発生する電界によって負極側断面47Bの最高発熱部34Bを有する基体30の外周面にカルシウム成分等の灰分が付着しても、負極側断面47Bの最高発熱部34Bにおける基体30の腐食反応が進行しにくくなると推測している。
【0036】
この発明において、カルシウム成分等の灰分による腐食を防止するには最高発熱部34A及び34Bにおいて断面積Aが断面積Bよりも小さくなっていればよいが、カルシウム成分等に対する耐食性をより一層向上させることができる点で、断面積Aの断面積Bに対する面積割合(A/B)が0.45〜0.96の範囲内にあるのが好ましく、0.50〜0.95の範囲内にあるのが特に好ましい。
【0037】
このセラミックヒータ3における抵抗体40の延在方向に垂直な断面形状は、適宜の形状、例えば、円形、楕円形、半円形、半楕円形、扇形、多角形及び扁平状等に設定されるが、抵抗体40、特に縮径部44A及び44B並びに方向転換部42等の発熱部の断面形状は基体30の表面に集中する電界が緩和されてカルシウム成分等の灰分が付着しにくくなる点で、円形、楕円形、半円形、半楕円形及び扇形等が好ましい。電界集中をより一層緩和できる点で、例えば図5(b)及び図5(C)に示されるように、切断面において、抵抗体40の最高発熱部46A及び46Bにおける少なくとも負極側断面47Bが正極側断面47Aの中心Pと負極側断面47Bの中心Pとを結ぶ直線に沿う断面長さよりもこの直線に対して垂直な方向に沿う断面長さが長い形状であるのがさらに好ましく、前記直線に対して垂直な方向に最長長さを有する形状、例えば、前記直線に垂直に交差する長軸を有する縦長の楕円形(縦楕円形とも称する。)であるのがより一層好ましく、前記切断面において、正極側断面47A及び負極側断面47Bのいずれもが縦楕円形であるのが特に好ましい。
【0038】
この基体30は絶縁性セラミックで形成されている。このセラミックヒータ3は前述の如くカルシウム成分等に対する耐食性が改善されているから、例えば、基体30の外周面にケイ素が滲出してカルシウム成分等で腐食されやすいケイ素含有絶縁性セラミックで形成することもでき、また、カルシウム成分等による腐食が顕著に発生しやすい例えば1250℃以上の高温に対する耐熱性に優れた耐熱性絶縁性セラミックで形成することもできる。このようなケイ素含有絶縁性セラミック又は耐熱性絶縁性セラミックとして、ケイ素を含む助剤を含有するセラミック、例えばアルミナ質セラミック、又は、ケイ素を含有するセラミック、例えば窒化ケイ素質セラミック等が挙げられる。
【0039】
窒化ケイ素質セラミックの組織は、窒化ケイ素(Si)を主成分とする主相粒子が後述の焼結助剤成分等に由来した粒界相により結合されたものである。なお、主相はSi又はNの一部がAl又はOで置換されたもの、さらには相中にLi、Ca、Mg、Y等の金属原子が固溶したものであってもよい。例えば次の一般式にて表されるサイアロンを例示することができる。なお「主成分」とはセラミック中の最も質量の高い成分をいう。
(1)β−サイアロン:Si6−ZAl8−Z (zは0超4.2以下)
(2)α−サイアロン:M(Si,Al)12(O,N)16 (xは0超2以下)
ここで、MはLi,Mg,Ca,Y,R(RはLa,Ceを除く希土類元素)である。
【0040】
また、窒化ケイ素質セラミックにはIUPAC1990年勧告に基づく周期表における第3族、第4族、第5族、第13族(例えばAl)及び第14族(例えばSi)の各族の元素群及びMgから選ばれる少なくとも1種を焼結体全体における含有率にて酸化物換算で1〜15質量%含有させることができる。これら成分は主に酸化物の形で添加され、焼結体中においては主に酸化物又はシリケート等の複合酸化物の形態にて含有される。
【0041】
窒化ケイ素以外の焼結助剤成分(例えば、希土類元素を含む化合物、酸化アルミニウム等)が1質量%未満では緻密な焼結体が得にくくなり、15質量%を超えると強度や靭性又は耐熱性の不足を招くことがある。焼結助剤成分の含有量は望ましくは5〜13質量%とするのがよい。焼結助剤成分として希土類成分を使用する場合、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを含む化合物(例えば酸化物)等を用いることができる。これらのうちでもTb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybを含む化合物は、粒界相の結晶化を促進し、高温強度を向上させる効果があるので好適に使用できる。
【0042】
抵抗体40は導電性セラミックで形成されている。この導電性セラミックは導電発熱できる導電性セラミック材料を含有していればよく、例えば、導電性セラミック材料単独、導電性セラミック材料と絶縁性セラミックとの混合物等が挙げられる。導電性セラミック材料としては、例えば、炭化タングステン(WC)、二珪化モリブデン(MoSi)及び二珪化タングステン(WSi)等が挙げられる。前記混合物としては、例えば、導電性セラミック材料としての炭化タングステン(WC)、二珪化モリブデン(MoSi)又は二珪化タングステン(WSi)と窒化ケイ素質セラミックとの混合物等が挙げられる。このような混合物で抵抗体40を形成すると基体30との線膨張係数差が縮小して耐熱衝撃性を高めることができる。
【0043】
抵抗体40は一種類の導電性セラミックで形成されてもよく、また、方向転換部42並びにストレート部41A及び41Bがそれぞれ電気抵抗率の異なる導電性セラミックで形成されてもよい。導電性セラミックの電気抵抗率を互いに異なるものとする方法は、特に限定されず、例えば、(1)同種の導電性セラミック材料を含有する混合物におけるその含有量を互いに異ならせる方法、(2)電気抵抗率の異なる異種の導電性セラミック材料を用いる方法、(3)前記(1)と前記(2)とを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0044】
前記(1)の方法において、例えば、方向転換部42を形成する第一導電性セラミックは導電性セラミック材料の含有率を10〜30体積%、残部を絶縁性セラミックとするのがよい。導電性セラミック材料の含有率が30体積%を超えると導電率が高くなりすぎて十分な発熱量が期待できなくなり、10体積%未満になると逆に導電率が低くなりすぎ、同様に発熱量が十分に確保できなくなることがある。ストレート部41A及び41Bを形成する第二導電性セラミックは導電性セラミック材料の含有率を15〜35体積%、残部を絶縁性セラミックとするのがよい。導電性セラミック材料の含有率が35体積%を超えると、焼成による緻密化が困難となり、強度不足を招きやすくなるほか、基体30との熱膨張係数差が大きくなり、焼結時のクラックが生じやすくなる。一方、15体積%未満では一対のストレート部41A及び41Bでの発熱が大きくなりすぎて発熱効率が悪化することがある。
【0045】
セラミックヒータ3の寸法の一例を挙げると、セラミックヒータ3の全長(軸線C方向長さ)は40〜60mm、セラミックヒータ3(基体本体31)の直径は2〜4mm、セラミックヒータ3の表面から抵抗体40までの距離は100〜900μm、一対のストレート部41A及び41Bの軸線JJ間隔は0.5〜2mmである。
【0046】
グロープラグ1は以下のようにして製造される。まず、セラミックヒータ3を例えば以下のようにして作製する。絶縁性セラミックとなる基体形成用混合粉末及び導電性セラミックとなる抵抗体形成用混合粉末をそれぞれ調製し、抵抗体形成用混合粉末で未焼成抵抗体を成形し、基体形成用混合粉末を圧粉した半割型に未焼成抵抗体を載置して、基体形成用混合粉末を載せて成形し、得られた成形体を所望により脱脂仮焼した後、焼結して、作製される。
【0047】
具体的には、絶縁性セラミック、導電性セラミック材料及び焼結助剤等を所定の量比で混合し、基体形成用混合粉末及び抵抗体形成用混合粉末をそれぞれ調整する。所望により、このようにして調製された抵抗体形成用混合粉末に適量のバインダ等を配合して混合した後、造粒する。抵抗体形成用混合粉末の造粒物を用いて、射出成形、スクリーン印刷、シート成形及び押出し成形等により、所望形状の未焼成抵抗体を成形する。基体形成用混合粉末を圧粉した半割型の所定位置に未焼成抵抗体を載置した後、基体形成用混合粉末をのせてプレス成形して、成形体とする。次いで、この成形体を所望により脱脂仮焼すると基体の粉末成形体に抵抗体となる未焼成抵抗体が埋設された成形体が得られる。この成形体を焼成炉に収容して焼成する。焼成方法として、ホットプレス法、ガス圧焼成法、HIP(熱間静水圧プレス)法等が挙げられる。例えば、ホットプレス法では、黒鉛製等の加圧用ダイスに収納し、これを焼成炉に収容し、所定の温度で所要時間、ホットプレス焼成する。加圧力は例えば20〜30MPa程度とすることができる。焼成温度及び焼成時間は特に限定されないが、焼成温度は1700〜1850℃、特に1700〜1800℃、焼成時間は30〜180分、特に60〜120分とすることができる。焼成環境は窒素雰囲気下等の非酸化性雰囲気下で行うことができる。このような半割型を使用する方法は、例えば、特開2007−240080号公報等に記載の方法を参考にして、実施することができる。このようにして得られた焼結体を例えば平面研削盤等で所望の寸法に研削して焼結体の先端部を研磨加工、テーパ加工、R面加工等し、セラミックヒータ3を作製できる。
【0048】
このようにして作製したセラミックヒータ3に基体30の少なくとも基体先端部32が突出するように外筒5とリング部材7とを圧入した後、このリング部材7に中軸6の中軸嵌合部21を圧入して嵌合させる。次いで、これらを主体金具4の先端側から挿入して主体金具4と外筒5とを溶接し、中軸6に外挿されたOリング8B及び絶縁部材8Aを軸孔11に圧入して中軸6を主体金具4に固定し、中軸6の後端にピン端子9を装着する。このようにしてグロープラグ1を製造できる。
【0049】
従来のセラミックヒータ及びグロープラグは絶縁性セラミックで形成された基体にエンジンオイルが付着すると、これに含まれるカルシウム成分等により、基体における抵抗体の負極側の発熱部が埋設された領域が腐食され易かった。しかし、セラミックヒータ3及びこのセラミックヒータ3を備えたグロープラグ1は、最高発熱部34A及び34Bを基体30の軸線Cに垂直な平面で切断した切断面に現れる抵抗体40の一対の断面である正極側断面47Aと負極側断面47Bとにおいて正極側断面47Aの断面積Aが負極側断面47Bの断面積Bよりも小さいから、前述の如く、基体30における抵抗体40の負極側の発熱部が埋設された領域、特に最高発熱部47Bが選択的に腐食されるのを防止することができ、その結果、カルシウム成分等に対する耐食性に優れたセラミックヒータ3を提供することができる。
【0050】
特に、抵抗体40における最高発熱部46A及び46Bの断面積Aの断面積Bに対する面積割合(A/B)が0.50〜0.95の範囲内にあると、セラミックヒータ3及びグロープラグ1はカルシウム成分等に対するより一層高い耐食性を発揮する。さらに、抵抗体40の最高発熱部46A及び46Bにおける負極側断面47Bが切断面において正極側断面47Aの中心Pと負極側断面47Bの中心Pとを結ぶ直線に対して垂直な方向に最長長さを有していると、セラミックヒータ3及びグロープラグ1はカルシウム成分等に対する高い耐食性を発揮する。
【0051】
この発明に係るセラミックヒータ及びこの発明に係るグロープラグは前記した一例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、このセラミックヒータ3は、抵抗体40の最高発熱部46A及び46Bにおける一対の断面である正極側断面47Aと負極側断面47Bとが前記関係を満たしているが、この発明において、セラミックヒータは抵抗体の少なくとも最高発熱部における一対の断面が前記関係を満たしていればよく、例えば、抵抗体の最高発熱部の近傍、方向転換部の一部、縮径部の一部又は抵抗体の全体における断面が前記関係を満たしていてもよい。また、セラミックヒータ3は基体本体31の先端側に最高発熱部34A及び34Bを有しているが、この発明において、セラミックヒータは基体先端部32に最高発熱部を有していてもよい。
【0052】
この発明に係るセラミックヒータは、例えば、グロープラグ用ヒータ、自動車等の排気センサーとしてのセンサー用加熱ヒータ、ファンヒータ用加熱ヒータ等として好適に用いられる。これらの中でも、この発明に係るセラミックヒータ及びこの発明に係るグロープラグはカルシウム成分等に対する高い耐食性を発揮するから、カルシウム成分等を含む環境下で使用される用途、例えば、カルシウム成分等を含有するエンジンオイルが存在するディーゼルエンジン等に特に好適に使用される。また、この発明に係るセラミックヒータ及びこの発明に係るグロープラグは、カルシウム成分等に対する高い耐食性を発揮するから、特に使用環境が1250℃以上になる用途、さらには使用環境が1300℃以上になる用途、例えば、ディーゼルエンジン等に好適に使用されることができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1〜8並びに比較例1及び2)
平均粒径0.7μmのWC、平均粒径1.0μmの窒化ケイ素及び焼結助剤としてのErをボールミル中で40時間湿式混合して抵抗体形成用混合粉末を得た(この混合粉末中のWCの含有率は27体積%(63質量%))。この抵抗体形成用混合粉末をスプレードライ法により乾燥させ、造粒粉末を作製した後、バインダを40〜60体積%の割合となるように添加して混練ニーダ中で10時間混合した。その後、得られた混合物をペレタイザで約3mmの大きさに造粒した。射出成形機にこの造粒物を入れて射出成形して各種の未焼成抵抗体を得た。これらの未焼成抵抗体は、直流電源を接続して通電発熱させたときに最高発熱部となる抵抗体の断面形状及び断面積が焼成後のセラミックヒータにおいて第1表に示される断面形状及び断面積となるように、成形されている。
【0054】
一方、平均粒径0.6μmの窒化ケイ素、焼結助剤としてのEr、並びに、熱膨張調整剤としてのCrSi、WSi及びSiCをボールミル中で湿式混合し、バインダを加えた後、スプレードライ法により乾燥させ、基体を形成するための基体形成用混合粉末を得た。
【0055】
次いで、基体形成用混合粉末を圧粉した半割型の所定位置に未焼成抵抗体それぞれを載置した後、これに基体成形用混合粉末をのせてこれらをプレス成形して、セラミックヒータとなる成形体それぞれを得た。得られた成形体それぞれを800℃の窒素雰囲気中で1時間の脱脂仮焼を行い、次いで、ホットプレス法により、0.1MPaの窒素雰囲気下で、焼成温度1780℃、加圧力30MPaで90分間かけて焼結し、各焼結体を得た。得られた焼結体それぞれを直径3.3mmの略円筒状に研磨すると共に、基体の先端部を研磨加工して、実施例1〜8並びに比較例1及び2のセラミックヒータを作製した。
【0056】
このようにして作製した実施例1〜8並びに比較例1及び2のセラミックヒータそれぞれに、その基体の少なくとも基体先端部が突出するように外筒とリング部材とを圧入した後、このリング部材に中軸の中軸嵌合部を圧入して嵌合させた。次いで、これらを主体金具の先端側から挿入して主体金具と外筒とを溶接し、中軸に外挿されたOリング及び絶縁部材を軸孔に圧入して中軸を主体金具に固定した。中軸の後端にピン端子を装着して実施例1〜8並びに比較例1及び2のグロープラグをそれぞれ複数検体製造した。
【0057】
(最高発熱部の特定)
このようにして製造したグロープラグ及びセラミックヒータそれぞれの最高発熱部の存在位置を放射温度計で前記方法に従って特定し、セラミックヒータの基体の軸線に垂直な平面で切断した。この切断面に現れた抵抗体の一対の断面における正極側断面47Aの断面形状及び断面積A並びに負極側断面47Bの断面形状及び断面積Bをそれぞれ確認及び測定したところ、第1表に示す抵抗体における断面形状及び断面積と一致していた。実施例1〜6の切断面は図5(a)に示される断面形状に概略近似しており、実施例7の切断面は図5(b)に示される断面形状であり、実施例8の切断面は図5(c)に示される断面形状であり、比較例2の切断面は図5(d)に示される断面形状であった。
【0058】
(耐食性試験)
実施例1〜8並びに比較例1及び2のグロープラグを用いて以下の方法で腐食試験としてのオイル滴下試験を行った。セラミックヒータに埋設された抵抗体の軸線J及び軸線Cを含む平面に対して垂直方向から、グロープラグの先端領域にエンジンオイル(商品名「Esso Universalオイル SEA 0W−30」、エクソンモービル社製、カルシウム成分の含有量約2730ppm)0.01mL/滴をプランジャーポンプで滴下して、セラミックヒータの表面温度が1350℃に達するように印加電圧を制御してグロープラグに1分間通電した後、通電を停止して1分間冷却する操作を1サイクルとして300サイクル連続して行い、300サイクル毎に抵抗を測定した。この操作を抵抗体が断線するまで行い、耐食性試験の判定は、抵抗体が断線するまでのサイクル数が2000未満であった場合を「×」、2000以上4000未満であった場合を「○」、4000以上であった場合を「◎」とした。この耐食性試験は過酷試験であるので、その判定が「×」でも通常のディーゼルエンジン用のグロープラグとして実用上の問題はほとんどないが、この判定が「○」以上であれば1250℃等の高温に到達するディーゼルエンジン用のグロープラグとして好適に用いることができる。これらの結果を第1表に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
第1表に示された結果から明らかなように、正極側断面47Aの断面積Aが負極側断面47Bの断面積Bよりも小さい実施例1〜8のグロープラグ1はいずれもオイル滴下試験による断線サイクル数が2000サイクルを超えており、オイル中に含まれるカルシウム成分等に対する耐食性に優れていた。また、断面積Aの断面積Bに対する面積割合(A/B)が0.50〜0.95の範囲にある実施例2〜5、7及び8のグロープラグ1はいずれも断線サイクル数が4000サイクルを超えカルシウム成分等に対する耐食性により一層優れており、さらに、負極側断面47Bが縦楕円形である実施例7及び8は円形である実施例4よりも断線サイクル数が多くカルシウム成分等に対する耐食性に優れていた。一方、断面積Aが断面積Bよりも大きい比較例1及び断面積Aが断面積Bと同じ比較例2はいずれも断線サイクル数が2000サイクル未満であり、過酷条件であるオイル滴下試験におけるカルシウム成分等に対する耐食性は十分ではなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 グロープラグ
3 セラミックヒータ
4 主体金具
6 中軸
11 軸孔
30 基体
34A、34B 最高発熱部
40 抵抗体
41A、41B ストレート部
42 方向転換部
47A 正極側断面
47B 負極側断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性セラミックで形成され、軸線方向に延在する基体と、前記軸線方向に延在する一対のストレート部及び一対の前記ストレート部の端部同士を連結し、当該ストレート部よりも細く形成された方向転換部を有し、前記基体に埋設された抵抗体とを備えてなるセラミックヒータであって、
前記セラミックヒータに外部直流電源を接続して通電発熱させたときにその表面温度が最高温度となる最高発熱部を前記基体の軸線に垂直な平面で切断した切断面に現れる前記抵抗体の一対の断面である正極側断面と負極側断面とにおいて、前記正極側断面の断面積Aが前記負極側断面の断面積Bよりも小さいことを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】
前記断面積Aの前記断面積Bに対する面積割合(A/B)は、0.50〜0.95の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のセラミックヒータ。
【請求項3】
前記負極側断面は、前記切断面において前記正極側断面の中心と前記負極側断面の中心とを結ぶ直線に対して垂直な方向に最長長さを有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックヒータ。
【請求項4】
筒状の主体金具と、
前記主体金具の軸孔に挿設され、外部直流電源に電気的に接続された中軸と、
一対のストレート部のうち前記正極側断面よりも高電位側に配置されたストレート部が前記中軸に電気的に接続され、前記負極側断面よりも低電位側に配置されたストレート部が前記主体金具に電気的に接続されるように前記軸孔に挿設された、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミックヒータとを備えて成ることを特徴とするグロープラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−160272(P2012−160272A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17498(P2011−17498)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】