説明

セラミックヒータ

【課題】長時間継続又は断続して高温で使用しても、抵抗変化率が小さく、クラックの発生を十分に抑制することが可能なセラミックヒータを提供すること。
【解決手段】本発明は、セラミック基体1と、セラミック基体1内に設けられた発熱抵抗体5とを備え、発熱抵抗体5の発熱部2におけるMg成分の含有量が、高融点金属100molに対してMgO換算で0.1〜7.5molであるセラミックヒータ10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックヒータは、セラミックスからなるセラミック基体と、セラミック基体内に設けられた、発熱抵抗体とを備えるものであり、自動車用酸素センサー(排ガスの濃度検知器)、半田ごて、石油ファンヒーター等の石油気化器用熱源や、温水加熱ヒーター等の産業機器用、電子部品用、一般家庭用の各種加熱用ヒーター等に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の含有量で酸化物を含有するアルミナを基体とする焼結材料を用いた、耐久性に優れるセラミックヒータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−82009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に記載された従来のセラミックヒータは、高温下で長時間継続して使用すると発熱抵抗体が劣化して電気抵抗値が増大することがある。このように発熱抵抗体が劣化する原因としては、高温下での通電によって生じる電気化学的な拡散現象、いわゆるエレクトロマイグレーション(以下、単に「マイグレーション」という)が挙げられる。このマイグレーションが発生すると、発熱抵抗体やセラミック基体の構成成分が拡散して、発熱抵抗体やセラミック基体が局所的に劣化してしまう。
【0006】
例えば、発熱抵抗体の構成成分がマイグレーションによりセラミック基体中に拡散流出すると、その流出部分で発熱抵抗体が消耗して過昇温が発生し、クラックが発生することもある。セラミック基体を作製する際に焼結助剤として添加されるMgOやCaO等の金属酸化物成分は、セラミック基体中ではガラス相の形で存在しており、このガラス相に含まれる金属イオンや酸素イオンもマイグレーションを起こしやすい。例えば、発熱抵抗体の主要成分がW(タングステン)である場合、マイグレーションが発生すると、移動する酸素イオンによってWが酸化され、抵抗値の増大や断線(クラック)発生等の原因となることがある。このように、焼結助剤を多量に添加し過ぎると、容易にマイグレーションが発生してしまう。
【0007】
一方、焼結助剤の添加量を減らし過ぎると、セラミック基体の焼結性が損なわれてしまうこととなる。このため、セラミック基体の作製時において焼結助剤を従来と同様に用いても、発熱抵抗体の腐食を十分に抑制することが可能な技術を確立することが求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、長時間継続又は断続して高温で使用しても、抵抗変化率が小さく、クラックの発生を十分に抑制することが可能なセラミックヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミック基体と、該セラミック基体内に設けられた発熱抵抗体とを備え、発熱抵抗体の発熱部におけるMg成分の含有量が、高融点金属100molに対してMgO換算で0.1〜7.5molであるセラミックヒータを提供する。
【0010】
本発明のセラミックヒータは、特定量のMg成分を含有することによって、マイグレーションの発生を抑制しつつ、高温度下における高融点金属の粒成長を抑制することができる。このため、長時間継続又は断続して高温で使用した場合であっても、抵抗変化率を小さく維持しつつ、クラックの発生も十分に抑制することができる。
【0011】
本発明のセラミックヒータは、セラミック基体におけるMg酸化物のMgO換算の含有量をA(質量%)、発熱部におけるMg成分のMgO換算の含有量をB(質量%)としたときに、B/Aが1.5以上であることが好ましい。これによって、マイグレーションの発生を十分に抑制するとともに、高融点金属の粒成長を十分に抑制することができる。したがって、抵抗変化率を一層低減するとともに、クラックの発生を一層十分に抑制することができる。
【0012】
本発明のセラミックヒータにおけるセラミック基体が主成分としてAlを含有し、セラミック基体におけるMgの酸化物の含有量が、Al100molに対してMgO換算で0.01〜1.5molであることが好ましい。これによって、マイグレーションの発生をより一層十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長時間継続又は断続して高温で使用しても、抵抗変化率が小さく、クラックの発生を十分に抑制することが可能なセラミックヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のセラミックヒータの好適な実施形態である平板状セラミックヒータの分解斜視図である。
【図2】本発明のセラミックヒータの別の実施形態であるロッド状セラミックヒータの概略図である。
【図3】図2に示すセラミックヒータの展開図である。
【図4】図2に示すセラミックヒータをIV−IV線に沿って切断したときの切断面の一部を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、図面において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。また、各部品及び部材の寸法比率は、各図面の比率に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態の平板状セラミックヒータの分解斜視図である。
【0017】
図1に示すセラミックヒータ10は、セラミックスからなるセラミック基体1a及び1bと、セラミック基体1a及び1bの間に、発熱抵抗体5と、を備える。発熱抵抗体5は、発熱部分となる発熱部2と、発熱部2の両端にそれぞれ連結された引き出し部4a及び4bと、を備える。発熱抵抗体5は、引き出し部4a及び4bによって、陽極側端子部3a及び陰極側端子部3bに接続されており、発熱抵抗体5と陽極側端子部3a及び陰極側端子部3bとは、一体的に形成されている。
【0018】
セラミック基体1の好適な組成を説明する。セラミック基体1は、アルミナ(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化カルシウム(CaO)及びMgの酸化物を含有する。セラミック基体1は、高温下においても十分に高い強度を維持する観点から、Alを主成分として含有する。ここでいう「主成分」とは、例えば、セラミック基体1全体に対する含有量が88質量%以上である成分をいう。具体的にいえば、セラミック基体1におけるAlの含有量は、好ましくは88〜96質量%であり、より好ましくは89〜94質量%であり、さらに好ましくは90〜92質量%である。
【0019】
セラミック基体1におけるSiOの含有量は、Al100molに対し、好ましくは4〜20molであり、より好ましくは6〜18molであり、さらに好ましくは8〜15molである。セラミック基体1におけるCaOの含有量は、マイグレーションの発生の抑制と焼結性の維持との両立を図る観点から、Al100molに対し、好ましくは1〜10molであり、より好ましくは2〜8molであり、さらに好ましくは2〜5molである。
【0020】
セラミック基体1におけるMgの酸化物の含有量は、発熱抵抗体中におけるMg酸化物の偏析の抑制しつつ良好な焼結性を維持する観点から、Al100molに対し、MgOに換算して好ましくは0.01〜1.5molであり、より好ましくは0.05〜1.0molであり、さらに好ましくは0.1〜0.3molである。
【0021】
セラミック基体1におけるCaOに対するSiOの質量比は、好ましくは1.5以上3.5未満であり、より好ましくは2.5以上3.45未満であり、さらに好ましくは3.2以上3.4未満である。CaOに対するSiOの重量比が上記範囲にあると、SiO及びCaOからなる液相が生じる温度が高くなり、焼成工程における焼成温度を高くすることができる。このため、焼結助剤の添加量を低減して、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0022】
セラミック基体1は、電荷調整剤としてZrOを含有してもよい。これによって、高温下における強度の向上を図ることができる。セラミック基体1におけるZrOの含有量は、Al100molに対し、好ましくは0.1〜5molであり、より好ましくは0.5〜3molであり、さらに好ましくは1〜2molである。また、セラミック基体1は、上述の成分の他に、高温高強度セラミックス、例えばムライトやスピネル等のアルミナ類似のセラミックスをさらに含有していてもよい。
【0023】
セラミック基体1は、Y(イットリウム),La(ランタン),Ce(セリウム),Pr(プラセオジム),Nd(ネオジム),Pm(プロメチウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ディスプロシウム),Ho(ホルミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム),Yb(イッテルビウム)およびLu(ルテチウム)から選択される少なくとも1種の金属の酸化物を、0を超え0.1質量%未満含有していてもよい。
【0024】
セラミック基体1a及び1bの間に配置される発熱抵抗体5における発熱部2は、高融点金属とMg成分(マグネシウム成分)を含有する。本明細書における高融点金属は、融点が2500℃以上の金属であり、好ましくは、W(タングステン)、Mo(モリブデン)及びRe(レニウム)から選ばれる少なくとも一種の金属を含む。高融点金属の内訳は、例えば、高融点金属100molに対し、W及びMoの合計が70〜80molであり、Reが20〜30molであることが好ましい。
【0025】
発熱部2に含まれるMg成分としては、MgOなどのMg酸化物、Mg酸化物以外のMgを構成元素とするMg化合物、及びMg(金属単体)が挙げられる。発熱部2におけるMg成分の含有量は、高融点金属100molに対し、MgOに換算して、0.1〜7.5molである。発熱部2における高融点金属の粒成長を抑制して発熱部2におけるクラックの発生を十分に抑制する観点から、発熱部2におけるMg成分の含有量は、高融点金属100molに対し、MgOに換算して、好ましくは0.1mol以上であり、より好ましくは0.8mol以上である。一方、マイグレーションの発生と抵抗値の増大を十分に抑制する観点から、発熱部2におけるMg成分の含有量は、高融点金属100molに対し、MgOに換算して、好ましくは3.0mol以下であり、より好ましくは1.5mol以下である。
【0026】
発熱部2は、高融点金属及びMg成分の他に、セラミック成分を含有していてもよい。セラミック成分としては、Alや、ZrOなどが挙げられる。また、高融点金属は、一部が炭化していてもよい。発熱部2における高融点金属の含有量は、セラミックヒータとして適切な抵抗値を有する発熱抵抗体5とする観点から、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0027】
セラミック基体1におけるMg酸化物のMgO換算の含有量をA質量%、発熱部2におけるMg成分のMgO換算の含有量をB質量%としたときに、B/Aの値は、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上である。B/Aの値がこれら範囲にすることによって、高温下で使用しても、発熱部2における高融点金属の粒成長とマイグレーションの発生とを十分に抑制することができる。
【0028】
上記Aは、セラミック基体1の焼結性とマイグレーションの抑制とを高水準で両立する観点から、好ましくは0.01質量%以上で且つ0.5質量%未満であり、より好ましくは0.05〜0.2質量%である。また、上記Bは、良好な耐熱性を維持しつつ粒成長を十分に抑制する観点から、好ましくは0.05〜0.8質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%である。
【0029】
発熱抵抗体5の引き出し部4a,4b、並びに、陽極側端子部3a及び陰極側端子部3bの組成は、発熱部2の組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
図2は、本発明のセラミックヒータの別の実施形態であるロッド状セラミックヒータの概略図である。図3は、図2に示すロッド状セラミックヒータの展開図である。図2及び図3に示すロッド状のセラミックヒータ30は、棒状のセラミック基体であるセラミック軸13と、セラミック軸13に巻き付けられた筒状のセラミック基体11と、セラミック軸13とセラミック基体11の間に配置された発熱抵抗体25と、セラミック基体11の外表面上に設けられた電極部16に接続された金属リード17と、を備える。セラミック軸13は、円柱状のものであっても、中空構造を有する管状のものであってもよい。
【0031】
発熱抵抗体25は、発熱部分となる発熱部14と、発熱部14の両端に接続された引き出し部15とを有する。引き出し部15は、電極部16を介して、発熱抵抗体25に電力を供給する金属リード17に接続されている。金属リード17は、電極部16にロウ付けされて固定されている。
【0032】
図4は、図2におけるIV−IV線断面の一部を模式的に示す断面図である。セラミック基体11の表面には、セラミック基体11側から、メタライズ18及びNiめっき19がこの順で積層されている。Niめっき19上には、ロウ材20によって金属リード17がロウ付けされている。このようにして、メタライズ18、Niめっき19及びロウ材20を有する電極部16が形成されている。電極部16の温度・湿度等による劣化を防止するために、任意で、ロウ材20、金属リード17を覆うようにNiめっき21を形成してもよい。この場合、電極部16は、メタライズ18、Niめっき19、ロウ材20及びNiめっき21を有する。
【0033】
セラミック基体11には、電極部16が設けられたセラミック基体11の外周面から径方向に貫通するスルーホール22が形成されており、スルーホール22には、導体が充填されている。スルーホール22に充填された導体によって、電極部16のメタライズ18と発熱抵抗体25の引き出し部15とが電気的に接続される。
【0034】
セラミックヒータ30におけるセラミック軸13及びセラミック基体11は、上記実施形態のセラミックヒータ10におけるセラミック基体1と同様の組成とすることができる。発熱抵抗体25は、上記実施形態のセラミックヒータ10における発熱抵抗体5と同様の組成とすることができる。
【0035】
次に、本発明のセラミックヒータの製造方法を、セラミックヒータ30を例に挙げて説明する。セラミックヒータ30の製造方法は、焼結助剤の熱処理を行う熱処理工程と、発熱抵抗体用のペーストを調製するペースト調製工程と、成形体を作製する成形工程と、成形体を焼成してセラミックヒータを得る焼成工程と、を有する。以下、各工程の内容を詳細に説明する。
【0036】
熱処理工程においては、セラミック基体11の原料として用いられる助剤を調製する。助剤としては、例えば、焼結助剤、粒成長抑制剤、電荷調整剤が挙げられ、これらのうち少なくとも焼結助剤及び粒成長抑制剤を含むことが好ましい。焼結助剤、粒成長抑制剤の機能を効率よく発揮させる点から、SiO、CaO及びMg酸化物(例えば、MgO)を用いることが好ましい。SiO、CaO及びMg酸化物に代えて、熱処理によってこれらの化合物となる炭酸塩等の各種塩や水酸化物、複合酸化物等を用いてもよい。炭酸塩としては、例えばCaCO及びMgCOが挙げられる。
【0037】
熱処理工程では、上述の助剤を、大気中、700〜1450℃で熱処理する。熱処理の時間は例えば1〜100時間とすることができる。本実施形態では、2種以上の助剤を熱処理することが好ましく、全ての助剤を熱処理することが好ましい。このように助剤に熱処理を施し、それを用いてセラミックヒータを作製すれば、後述する焼成工程において、発熱抵抗体25にMg成分を効率的に拡散させることができる。これによって、セラミック基体11及びセラミック軸13よりも、発熱抵抗体25におけるMg成分の含有率を高くすることができる。なお、各助剤の使用比率は、セラミック基体11が上述の組成となるように調整することが好ましい。
【0038】
助剤としては上述のものの他に、例えば、電荷調整剤としてのZrOや、Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種の金属の酸化物を用いてもよい。
【0039】
ペースト調製工程では、発熱抵抗体5となるペーストを調製する。このペーストは、市販の高融点金属の粉末と、ポリビニルブチラール又はエチルセルロースなどのバインダ成分と、テルピネオールなどの有機溶剤と、Alなどのセラミック成分とを配合して調製する。高融点金属は、Mo,W,Reの少なくとも一つの金属を含むことが好ましい。
【0040】
成形工程においては、基材と熱処理された助剤とを混合した混合物を成形して、セラミック基体11となるシート状の成形体、及びセラミック軸13となる棒状の成形体を作製する。
【0041】
基材としては、Al、高温高強度セラミックス、例えばムライトやスピネル等のアルミナ類似のセラミックス等を用いることができる。これらのうち、Alを含むことが好ましい。基材と助剤とを、セラミック基体11が上述の好適な組成となるような比率で配合し、ポリビニルブチラール又はフタル酸ジブチルなどのバインダ成分と、メチルエチルケトン又はトルエンなどの有機溶剤とともに、ボールミル等を用いて湿式法で混合して混合物を調製する。そして、当該混合物を成形して、シート状の成形体と棒状の成形体を作製する。シート状の成形体の成形方法としては、例えばドクターブレード法が挙げられる。また、棒状の成形体の成形方法としては、例えば、押し出し成形法が挙げられる。
【0042】
次に、シート状の成形体の上に、例えばプリント印刷法を用いて、発熱抵抗体5となるペーストを塗布する。続いて、シート状の成形体の裏面にメタライズ18となる金属層を設け、引き出し部15となるペースト塗布部の末端に導体が接続されるように、導体を充填するスルーホール22を形成する。このスルーホール22に導体ペーストを充填して電極部16と引き出し部15との導通をとることができる。さらにメタライズ18上にNiめっき19を施す。
【0043】
メタライズ18としては、例えばW,Mo,Re等の高融点金属からなる金属層とすることができ、Wからなる金属層とすることが好ましい。このメタライズ18は、例えば、高融点金属を主成分として含有するペーストを、スクリーン印刷法を用いて塗布して形成することができる。
【0044】
焼成工程においては、まず、図3に示すように、シート状の成形体の1辺上に棒状の成形体を配置し、シート状の成形体のペースト塗布面が棒状の成形体に接するようにして、棒状の成形体の周面に沿って、シート状の成形体を巻きつける。この際、発熱抵抗体25となるペーストとシート状の成形体とを接着剤を用いて接着してもよい。シート状の成形体を棒状の成形体に巻きつけた後、これらの成形体を、還元雰囲気下、1450〜1650℃で焼成する。これによって、円筒状のセラミック基体11と、セラミック基体11の中空部に収容されたセラミック軸13と、セラミック基体11及びセラミック軸13の間に配置された発熱抵抗体25と、セラミック基体11の外表面上に設けられ、発熱抵抗体と電気的に接続された電極部16と、を形成することができる。
【0045】
焼成時には、それぞれの成形体が焼結してセラミック基体11及びセラミック軸13が形成されるとともに、これらの間に発熱抵抗体25が形成される。このとき、セラミック基体11及びセラミック軸13の少なくとも一方から、助剤として添加されたMg酸化物に由来するMg成分が発熱抵抗体25中に拡散する。この拡散量を所定範囲とすることによって、発熱抵抗体25の主成分である高融点金属の粒子間にMg成分が分散されて、焼成時及び使用時における高融点金属の粒成長が抑制されるとともに、マイグレーションの発生が抑制されたセラミックヒータを得ることができる。
【0046】
セラミック基体11が形成された後、セラミック基体11上におけるNiめっき19の上に、金属リード17を、ロウ材20を用いてロウ付けし、ロウ材20及び金属リード17を保護するために、Niめっき21を施す。これによって、電極部16が形成される。ロウ材20としては、例えばAg(銀),Au(金),Cu(銅),Ni(ニッケル),Pd(パラジウム)から選ばれる少なくとも1種の金属からなるロウ材を用いることができる。このうち、Au−Cu合金からなるロウ材を用いることが好ましい。
【0047】
このようにして、セラミックヒータ30を製造することができる。なお、セラミックヒータ30の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。例えば、上述の製造方法では、セラミック基体11及び/又はセラミック軸13の成形体に含まれるMg酸化物を発熱抵抗体25に拡散させることによって、所定量のMg成分を含有する発熱抵抗体25を形成したが、これ以外の方法で、発熱抵抗体25にMg成分を含有させてもよい。例えば、ペースト調製工程において、市販の高融点金属の粉末、バインダ成分及びセラミック成分とともに、MgOなどのMg成分を配合して発熱抵抗体用のペーストを調製し、これを焼結して、所定量のMg成分を含有する発熱抵抗体25を形成してもよい。
【0048】
また、セラミックヒータ10も、セラミックヒータ30と同様の工程で製造することができる。セラミックヒータ10を製造する場合、成形工程では、シート状の成形体の上に、圧膜印刷法等により、発熱抵抗体となるペーストをスクリーン印刷した後に、シート状の成形体同士を圧着して積層して積層体を形成する。このような積層体を焼成することによって、セラミックヒータ10を得ることができる。この製造方法においても、所定量のMg成分を含有する発熱抵抗体5は、セラミック基体1となる成形体に予め含まれる熱処理が施されたMg酸化物を、焼成時に発熱抵抗体5に拡散させて形成してもよいし、発熱抵抗体となるペーストに所定量のMg酸化物を配合して焼成し形成してもよい。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0051】
[セラミックヒータの作製]
(実施例1)
SiO,CaCO,MgCO,ZrOの各原料粉末(助剤)を、焼成後のセラミック基体が表1に示す組成となるように秤量した。これらをボールミル内に入れて、湿式で8〜100時間混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを乾燥させて混合粉体とした。次いで、得られた混合粉体を大気中、温度700〜1450℃で、1〜100時間熱処理(仮焼)した。熱処理した粉末を溶媒及び分散媒とともにボールミルに入れ、湿式で8〜100時間混合し、得られたスラリーを乾燥させて、熱処理された助剤を得た。
【0052】
熱処理された助剤と、焼成後の組成が表1に示す質量比となるように秤量したAl(基剤)とを、バインダ成分及び有機溶剤とともに混合して、スラリーを得た。このスラリーをドクターブレード法でシート状の成形体を得た。
【0053】
市販のW粉末、Re粉末、及びMo粉末を、表2に示すモル比となるように秤量した。これらの粉末と、バインダ成分及びAl粉末とを混合して、発熱抵抗体用のペーストを調製した。
【0054】
成形したシート状の成形体の表面に、発熱抵抗体用のペーストをスクリーン印刷して、発熱部と引き出し部の前駆体を成形した。この成形体の裏面には、電極部を形成するためにWを主成分とするペーストをスクリーン印刷して、メタライズとなる前駆体層を形成した。そして、引き出し部となる前駆体の末端が配置された位置に対応するように、シート状の成形体にスルーホールを形成した。そして、このスルーホールに導体ペーストを注入することによって、導体ペーストを介して、引き出し部となる前駆体とメタライズとなる前駆体層とを接続した。
【0055】
次に、シート状の成形体に用いたセラミック混合粉に、バインダ成分及び有機溶剤などを添加してスラリーを調製した後、押し出し成形して、棒状の成形体を作製した。その後、シート状の成形体を所定の大きさに切断し、この切断した成形体に有機溶剤を主成分とする接着剤を塗布した後、棒状の成形体の周面にシート状の成形体の接着剤塗布面が向かうようにして、棒状の成形体にシート状の成形体を巻き付けて一体化した。一体化した成形体を、1450〜1650℃の還元雰囲気炉にて焼成して、内部に発熱抵抗体を有するセラミック基体を得た。その後、Au−Cu合金からなるロウを用いて、真空炉を使用してメタライズの上に金属リードをロウ付けして、図2に示すようなセラミックヒータを得た。これを、実施例1のセラミックヒータとした。
【0056】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
原料粉末の配合量を変えてセラミック基体の組成を表1に示すとおりとしたこと、及び発熱抵抗体用のペーストを表2に示す組成のものに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4及び比較例1〜3のセラミックヒータを製造した。
【0057】
(実施例5)
Al,SiO,CaCO,MgCO,ZrOの各原料粉末(助剤)を、焼成後のセラミック基体が表1に示す組成となるように秤量した。これらの粉末を、バインダ成分及び有機溶剤とともにボールミル内に入れて、湿式で8〜100時間混合し、スラリーを得た。このスラリーをドクターブレード法で成形してシート状の成形体を作製した。
【0058】
市販のW粉末及びMo粉末を、表2に示すモル比となるように秤量した。これらの粉末と、MgO粉末、有機バインダ、及びAl粉末とを混合して、発熱抵抗体用のペーストを調製した。なお、MgO粉末の配合量は、高融点金属100molに対し、1.0molとした。
【0059】
上述の通り調製したシート状の成形体と発熱抵抗体用のペーストを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミックヒータを作製した。これを、実施例5のセラミックヒータとした。
【0060】
(実施例6,7)
Al,SiO,CaCO,MgCO,ZrOの各原料粉末(助剤)を、焼成後のセラミック基体が表1に示す組成となるように秤量した。これらの粉末を、バインダ成分及び有機溶剤とともにボールミル内に入れて、湿式で8〜100時間混合し、スラリーを得た。このスラリーをドクターブレード法で成形してシート状の成形体を作製した。
【0061】
市販のW粉末、Mo粉末及びRe粉末を、表2に示すモル比となるように秤量した。これらの粉末と、MgO粉末、有機バインダ、及びAl粉末とを混合して、発熱抵抗体用のペーストを調製した。ここで、発熱抵抗体用のペーストを調製時におけるMgO粉末の配合量は、焼成後における発熱部のMg成分の含有量が表3の値となるように調整した。上述の通り調製したシート状の成形体と発熱抵抗体用のペーストを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミックヒータを作製した。これらを、実施例6,7のセラミックヒータとした。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
[セラミックヒータの組成分析]
上述の通り作製した各実施例及び各比較例の発熱抵抗体の発熱部及びセラミック基体の組成を、以下の手順で求めた。まず、図2に示すようなセラミックヒータを、発熱部を通るように径方向に切断し、切断面を研磨した。得られた径方向断面(研磨面)において、発熱部及びセラミック基体の組成を分析した。なお、セラミック基体の組成は、セラミックヒータの表面から発熱部までの距離をtとしたときに、該表面からt/2の深さの位置にて測定した。
【0065】
分析は、レーザーアブレーションICP質量分析装置(LA−ICP−MS)を用いて、それぞれ10点で行い、平均値を求めた。結果は、表3に示すとおりであった。レーザーアブレーション装置としては、New Wave Research製のLUV266X(商品名)を用い、ICP−MS分析装置としては、アジレントテクノロジー製のAgilent7500s(商品名)を用いた。両装置はタイゴンチューブで接続し、キャリアガスとしてアルゴンガスを使用した。レーザー条件は、以下の通りとした。
レーザー径:20μm,周波数:10Hz,パワー:40%,レーザー走査方法:ラスタースキャン法,走査速度:10μm/秒,ラスター間隔:20μm
【0066】
ICP質量分析装置の分析条件は、以下の通りとした。なお、分析にあたっては、予め各元素の感度係数を算出しておき、検出元素のカウントを感度係数で補正した後に規格化計算し、各元素濃度を算出した。
パワー:1200W,サンプリング位置:10mm,キャリアガス:1.25l/分,測定質量数:m/z=2〜260(全質量数範囲),各質量数積算時間:0.05秒,0.2秒(定量に用いる質量数のみ)
【0067】
【表3】

【0068】
[セラミックヒータの評価]
(連続通電試験)
発熱部の表面温度が1100℃となるように、各実施例、及び各比較例のセラミックヒータを通電加熱し、連続通電試験を行った。通電加熱前(初期)の室温抵抗(R0)、1000時間通電加熱した後の室温抵抗(R1)、及び抵抗変化率(dR)は表4に示すとおりであった。なお、抵抗変化率は、下記式(1)によって算出した。
dR(%)=(R1−R0)/R0×100 (1)
【0069】
【表4】

【0070】
(断続通電試験)
各実施例及び各比較例のセラミックヒータを、各20個作製し、断続通電試験用の試料とした。試料の発熱部の表面温度が1100℃となるように、通電して加熱し、5分間保持した。その後、通電を遮断し、室温で2分間放置した。通電、加熱、通電遮断、及び室温放置の一連の操作を1サイクルとし、このサイクルを20000回繰り返す断続通電試験を行った。断続通電試験前の室温抵抗の平均値(R0)、5000サイクル後の室温抵抗の平均値(R2)、抵抗変化率(dR)、及び20000サイクル後に断線した試料の個数は、表5に示すとおりであった。なお、抵抗変化率(dR)は、下記式(2)によって算出した。
dR(%)=(R2−R0)/R0×100 (2)
【0071】
【表5】

【0072】
表4に示す結果から、各実施例のセラミックヒータにおける1000時間の通電試験後の抵抗変化率(dR)は5%以下であった。表5に示す結果から、各実施例のセラミックヒータは、5000サイクルの断続通電試験を行っても抵抗変化率は8%以下であり、20000サイクルの断続通電試験を行っても断線が発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、長時間継続又は断続して高温で使用した場合であっても、抵抗変化率が低減されるとともに、断線などのクラックの発生が十分に抑制されたセラミックヒータを提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1,11…セラミック基体、2,14…発熱部、3a…陽極側端子部、3b…陰極側端子部、4a,4b,15…引き出し部、5,25…発熱抵抗体、10,30…セラミックヒータ、13…セラミック軸、16…電極部、17…金属リード、18…メタライズ、20…ロウ材、21…めっき、22…スルーホール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基体と、該セラミック基体内に設けられた発熱抵抗体とを備え、
前記発熱抵抗体の発熱部におけるMg成分の含有量が、高融点金属100molに対してMgO換算で0.1〜7.5molであるセラミックヒータ。
【請求項2】
前記セラミック基体におけるMg酸化物のMgO換算の含有量をA(質量%)、
前記発熱部におけるMg成分のMgO換算の含有量をB(質量%)、としたときに、
B/Aが1.5以上である、請求項1に記載のセラミックヒータ。
【請求項3】
前記セラミック基体が主成分としてAlを含有し、
前記セラミック基体におけるMg酸化物の含有量が、Al100molに対してMgO換算で0.01〜1.5molである、請求項1又は2に記載のセラミックヒータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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