説明

セラミック組成物、金属セラミック合成構造、構造部材及び構造物

【課題】金属部材と接して合成構造を形成するセラミック部材に用いられ、劣化が進みにくく、耐久性の高い合成構造を形成できるセラミック組成物と、それを用いた金属セラミック合成構造を提供すること。
【解決手段】ケイ酸カルシウム36wt%、リン酸二水素カリウム34wt%、酸化マグネシウム30wt%のセラミック組成物を、100重量部のドライミックスに対して36重量部の割合で混合し、セラミック組成物及びドライミックスに対して、20%の水分比となる水を添加し、混練して、スラリーを形成する。スラリーを、鋼板10上に配置した型枠内に充填し、硬化させて、鋼板10に接するセラミック部材11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば道路や橋梁、或いはビルディング等の構造物に用いられるセラミック組成物と、それを用いた金属セラミック合成構造、構造部材及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物としての道路の床版に、鋼とコンクリートとで形成された鋼コンクリート合成構造が用いられている。この種の鋼コンクリート合成構造としては、鋼製の底鋼板の表面にスタッドジベルを固定すると共に、配力筋を設け、これらスタッドジベル及び配力筋を埋設するように底鋼板上にコンクリートを打設して形成した鋼コンクリート合成床版が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
他の鋼コンクリート合成床版としては、帯鋼を波型に折り曲げ加工してなるトラス型ジベルを底鋼板に固定して底鋼板とコンクリートとの一体化を図ったものがある。また、穴あき鋼板リブを底鋼板に固定して底鋼板とコンクリートとの一体化を図ったものがある。また、鉄筋をトラス状に組んでなるプレファブトラス鉄筋を底鋼板に固定して底鋼板とコンクリートとの一体化を図ると共に、プレファブトラス鉄筋を、コンクリートの打設時には型枠補強材として機能させ、供用時には輪荷重に対するせん断補強筋として機能させるものがある。いずれの鋼コンクリート合成床版も、底鋼板に、コンクリートとの一体化を行なうための一体化部材を固定している。
【0004】
このような鋼コンクリート合成構造は、高い強度及びじん性を有する鋼と、高い圧縮強度を有するコンクリートとを一体化することにより、断面が小さく軽量でありながら、高い力学的特性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−162417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の鋼コンクリート合成構造は、コンクリートに、硬化に伴う収縮が生じやすく、また、鋼とコンクリートとの間の付着力が比較的低い。したがって、コンクリートにひび割れが生じやすく、また、鋼とコンクリートの間に隙間が生じやすく、ひび割れや隙間に浸透した雨水により、コンクリートの劣化や鋼の錆びを招来するという問題がある。
【0007】
さらに、従来の鋼コンクリート合成構造としての鋼コンクリート床版において、コンクリートにひび割れが生じた場合、コンクリートは耐磨耗性が比較的低いので、床版上を走行する車両の荷重が繰り返し作用することにより、互いに接するひび割れ面が磨耗してコンクリートの磨耗粉が発生する。この磨耗粉が、水分の存在下で研磨剤として作用して、コンクリートのひび割れの寸法や範囲が拡大するという問題がある。
【0008】
さらに、コンクリートは透水性を有するので、浸透水によってコンクリートの劣化が生じやすく、また、鋼の錆を招きやすいという問題がある。
【0009】
鋼コンクリート合成床版において、コンクリートに起因する劣化や損傷は、床版上の舗装面の劣化や、床版の振動の発生の原因となるため、床版上を走行する車両の安全性や快適性に悪影響を及ぼす一因となる。したがって、走行車両の安全性や快適性を確保するために、比較的高頻度の検査と補修を行う必要がある。このように、鋼コンクリート合成構造は、コンクリートに起因する耐久性の問題があり、そのため、保守管理に手間と費用がかかるという問題がある。
【0010】
また、上記従来の鋼コンクリート合成床版は、鋼とコンクリートとを一体化するために一体化部材が必要であるので、構造の複雑化を招き、これにより、重量の増加や、施工の手間とコストの増加を招くという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、鋼板等の金属部材と接して合成構造を形成するセラミック部材に用いられ、劣化が進みにくく、耐久性が高くて保守管理の手間と費用を軽減でき、また、簡単な部品構成で合成構造を形成できるセラミック組成物と、それを用いた金属セラミック合成構造、構造部材及び構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のセラミック組成物は、金属部材と接して合成構造を形成するセラミック部材に用いられるセラミック組成物であって、リン酸塩系セラミックを主成分とすることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、リン酸塩系セラミックを主成分とするセラミック組成物は、硬化に伴う収縮が殆ど生じない。また、金属に対して高い付着力を発揮することができる。したがって、このセラミック組成物で形成したセラミック部材は、金属部材と接して合成構造を形成した場合、ひび割れが殆ど発生せず、また、金属部材との間に隙間が生じない。したがって、セラミック部材と金属部材との間に浸透した雨水によって金属部材に錆びが生じることを防止できる。
【0014】
また、上記セラミック組成物は、耐磨耗性がコンクリートよりも高いので、上記セラミック組成物で形成したセラミック部材に万一ひび割れが生じても、ひび割れ面が磨耗してセラミックの磨耗粉が生じることが殆ど無い。したがって、上記セラミック組成物を用いたセラミック部材は、金属部材と接して合成構造を形成した場合、鋼コンクリート合成構造におけるようにコンクリートに生じたひび割れの寸法や範囲が拡大する問題が無く、劣化を効果的に防止することができる。
【0015】
また、上記セラミック組成物は、透水性が殆ど無いので、上記セラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材は、コンクリートのように、浸透した雨水によって劣化する不都合や、浸透した水が金属部材に達して金属部材に錆が生じる不都合や、浸透した水の凍結により破壊が生じる問題が無い。また、セラミック組成物は、金属部材に密着して水密作用を発揮することができるので、セラミック部材と接する金属部材の劣化をも防止することができる。さらに、セラミック組成物は略中性であるので、セラミック部材は、表面に雨水が接しても劣化が殆ど生じない。
【0016】
さらに、上記セラミック組成物は、金属に対する付着力が高いので、上記セラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材は、金属部材に接して合成構造を形成した場合、鋼コンクリート合成床版のように金属部材とコンクリートとを一体化するための一体化部材を少なくでき、或いは、削除できる。したがって、上記セラミック組成物を用いることにより、少ない部材により簡易な構成で、セラミック部材と金属部材との合成構造を形成することができる。その結果、セラミック部材と金属部材との合成構造を軽量にでき、また、上記合成構造を少ない手間で形成することができる。
【0017】
また、上記セラミック組成物は、コンクリートの約2倍又はそれ以上の圧縮強度を発揮できる。したがって、上記セラミック組成物を用いたセラミック部材と金属部材とで形成される合成構造は、コンクリートと鋼板とで形成された合成構造と比較して、補修を殆ど行うことなく、高い力学的特性を安定して発揮することができる。さらに、上記セラミック組成物は、コンクリートよりもヤング率が低いので、圧縮強度が高いことと相俟って、コンクリートよりもひび割れが生じ難い。したがって、上記セラミック組成物を用いたセラミック部材と金属部材とで合成構造を形成することにより、鋼コンクリート合成構造よりも高い耐荷重を有し、しかも、高い耐ひび割れ性能を奏することができる。
【0018】
一実施形態のセラミック組成物は、酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含む。
【0019】
上記実施形態によれば、上記酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含むセラミック組成物は、水と混合して高い流動性を発揮し、金属との付着性が高い上に、高い硬化速度を有し、しかも、高い圧縮強度を有する。したがって、セラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材を、金属部材に良好な施工性で付着させて合成構造を形成することができる。
【0020】
また、上記セラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材は、金属部材の表面に水や塩が存在しても、金属部材に高い付着力で密着できる。したがって、例えば、雨水や、河川水や、海水が存在する環境下でも、上記セラミック部材を金属部材に強固に付着させて、高い力学特性の合成構造を安定して形成することができる。
【0021】
一実施形態のセラミック組成物は、20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含む。
【0022】
上記実施形態によれば、上記セラミック組成物は、添加する水の量と環境温度に応じて、硬化速度を5分〜15分にでき、圧縮強度を、5000〜8000psi(pound/inch2)にでき、また、2200°Fの温度に耐えることができる。
【0023】
一実施形態のセラミック組成物は、30wt%以下のカオリナイトが添加されている。
【0024】
上記実施形態によれば、力学特性を低下させることなく、添加物としてカオリナイトを用いることができる。
【0025】
一実施形態のセラミック組成物は、40wt%の酸化マグネシウムと、26wt%のリン酸二水素カリウムと、12wt%の二酸化珪素と、10wt%のカオリナイトと、7wt%の酸化アルミニウムと、3wt%の酸化鉄IIIと、1.9wt%の酸化カルシウムと、0.1wt%のポリエステル繊維を含む。
【0026】
上記実施形態によれば、上記セラミック組成物を用いることにより、硬化速度が速く、コンクリートよりも高い圧縮強度を有し、金属部材に対する密着性と付着力の高いセラミック部材を形成できる。
【0027】
本発明の金属セラミック合成構造は、上記セラミック組成物を用いたセラミック部材と、金属部材とが接して形成されたことを特徴としている。
【0028】
上記実施形態によれば、上記セラミック組成物は、硬化に伴う収縮が殆ど生じない。また、金属に対して高い付着力を発揮することができる。したがって、上記セラミック組成物で形成したセラミック部材と金属部材とが接して形成された合成構造は、セラミック部材のひび割れが殆ど発生せず、また、セラミック部材と金属部材との間に隙間が生じない。したがって、セラミック部材と金属部材との間に浸透した雨水によって金属部材に錆びが生じることを防止できる。
【0029】
また、上記セラミック組成物は、耐磨耗性がコンクリートよりも高いので、上記セラミック組成物で形成したセラミック部材に万一ひび割れが生じても、ひび割れ面が磨耗してセラミックの磨耗粉が生じることが殆ど無い。したがって、上記金属セラミック合成構造は、鋼コンクリート合成構造におけるようにコンクリートに生じたひび割れの寸法や範囲が拡大する問題が無く、劣化を効果的に防止することができる。
【0030】
また、上記セラミック組成物は、透水性が殆ど無いので、上記金属セラミック合成構造は、鋼コンクリート合成構造のように、浸透した雨水によってコンクリートが劣化する不都合や、コンクリートを浸透した水が鋼に達して鋼に錆が生じる不都合や、浸透した水の凍結によりコンクリートが破壊する問題が無い。また、セラミック組成物は、金属に密着して水密作用を発揮することができるので、セラミック部材と接する金属部材の劣化を防止することができる。さらに、セラミック組成物は略中性であるので、セラミック部材は、表面に雨水が接しても劣化が殆ど生じない。
【0031】
さらに、上記セラミック組成物は、金属に対する付着力が高いので、上記金属セラミック合成構造は、鋼コンクリート合成床版のように鋼とコンクリートとを一体化するための一体化部材を少なくでき、或いは、削除できる。したがって、上記金属セラミック合成構造は、少ない部材により簡易な構成で形成することができる。その結果、軽量であり、また、少ない手間で形成できる金属セラミック合成構造が得られる。
【0032】
また、セラミック組成物は、コンクリートの約2倍又はそれ以上の圧縮強度を発揮できる。したがって、上記金属セラミック合成構造は、鋼コンクリート合成構造と比較して、補修を殆ど行うことなく、高い力学的特性を安定して発揮することができる。さらに、上記セラミック組成物は、コンクリートよりもヤング率が低いので、圧縮強度が高いことに相俟って、コンクリートよりもひび割れが生じ難い。したがって、上記金属セラミック合成構造は、鋼コンクリート合成構造よりも高い耐荷重を有し、しかも、高い耐ひび割れ性能を奏することができる。
【0033】
一実施形態の構造部材は、上記金属セラミック合成構造を有する。
【0034】
上記実施形態によれば、長期に亘って高い力学特性を安定して発揮する構造部材が得られる。ここで、構造部材として、例えば、梁、柱、床版、セグメント、壁、シェル部材、パイプ構造を形成することができる。
【0035】
一実施形態の構造物は、上記構造部材を有する。
【0036】
上記実施形態によれば、長期に亘って高い力学特性を発揮する構造部材により、強度と耐久性の高い構造物が得られる。ここで、構造物として、橋梁の上部工、下部工、基礎工及び付属工、トンネル、ダム、擁壁、ケーソン、沿岸構造物並びに土留め等の仮設構造物を含む土木構造物や、ビルディング等の建築構造物を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態の金属セラミック合成構造を示す側面図である。
【図2】実施形態の構造部材を示す断面図である。
【図3】他の実施形態の構造部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
(第1実施形態)
本発明の実施形態としての金属セラミック合成構造は、セラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材と、金属部材としての鋼製部材とが接して形成される。本発明の実施形態のセラミック組成物は、リン酸塩系セラミックを主成分とするものである。リン酸塩系セラミックとしては、酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含むものを用いることができる。
【0040】
上記セラミック組成物を、好ましくは、混合物と混合してドライミックスを形成し、このドライミックスに水を混合し、混練してセラミック部材のスラリーを形成する。このセラミック部材を、鋼製部材に接するように塗布、充填又は吹き付けによって配置して、硬化させる。こうして、鋼製部材と、鋼製部材に接するセラミック部材とで、金属セラミック合成構造としての鋼セラミック合成構造を作製することができる。
【0041】
セラミック組成物は、20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含むものを用いるのが好ましい。このセラミック組成物に、混合物を混合して50重量部のドライミックスを形成し、このドライミックスに対して、15〜23wt%の水分比となる水を混合するのが好ましい。混合物は、公知の細骨材を用いることができる。これにより、セラミック部材の流れやすさを、ASTM
C1437に基づく試験による40〜140%のフロー度とし、金属セラミック合成構造を形成する際の施工性を高めることができる。鋼製部材に塗布又は充填されたスラリー状のセラミック部材は、硬化により、5000〜11000psiの3日強度を発揮することができる。
【0042】
本発明のセラミック組成物は、酸化マグネシウムとリン酸二水素カリウムが、水の混合により、下記の化学式(1)の反応でリン酸カリウムマグネシウム6水和物を形成し、セラミック部材の主要な特性を発揮する緻密かつ高強度の固体を形成する。
MgO+KHPO+5HO→MgKPO・6HO・・・(1)
【0043】
なお、セラミック組成物には、全重量に対して、0.1から30wt%の添加物を添加することができる。添加物としては、例えば、フィラー、骨材、顔料、着色剤、繊維、シリカヒューム微粉末、カオリナイト、繋ぎ用ポリマ、乳化剤、凝集防止剤を用いることができる。また、セラミック組成物に添加する骨材としては、細骨材のほか、粗骨材を用いることもできる。
【0044】
(実施例1)
ケイ酸カルシウム36wt%、リン酸二水素カリウム34wt%、酸化マグネシウム30wt%のセラミック組成物を、32重量部の細骨材に対して18重量部の割合で混合してドライミックスを形成した。セラミック組成物として、株式会社イーグル・ヴィジョン製のEagle8シリーズを用いた。なお、米国グランクリート社のグランクリートシリーズを用いることもできる。更に、ドライミックスに対して、20wt%の水を添加し、混練して、スラリー状のセラミック部材を形成した。このセラミック部材は、3日強度で8000psiの圧縮強度と、105%のフロー度が得られた。なお、水分比を35%とすると、フロー度が150%以上となったが、圧縮強度が約1200psiに低下する一方、水分比を17%とすると、圧縮強度が約10000psiに増大したが、フロー度が約17%に低下した。いずれにしても、圧縮強度については、コンクリートが典型的には7日強度が2500〜3500psiであるところ、実施例のセラミック部材によれば、水分比を17〜23wt%とすることで、大幅に圧縮強度を改善できた。
【0045】
実施例のセラミック組成物を用いて形成したセラミック部材について、水分比が20%の場合と25%の場合との間で、施工後の圧縮強度の経時変化を測定する実験を行った。実験結果によれば、水分比が20%の場合、セラミック部材の圧縮強度は、水の添加から1時間で鋭く増大して4238psiに達し、その後緩やかに増大し、14日目に8197psiに達した。28日目では、圧縮強度は6515psiに低下した。一方、水分比が25%の場合、セラミック部材の圧縮強度は、水の添加から1時間後では、水分比が20%の場合よりも低い2683psiに急増し、その後、緩やかに増大し、14日目で5628psiに達した。水分比が20%のセラミック部材とは異なり、14日強度から低下することなく、28日目で6100psiの圧縮強度が得られた。
【0046】
(実施例2)
酸化マグネシウム40wt%、リン酸二水素カリウム26wt%、二酸化珪素12wt%、焼成カオリン10wt%、酸化アルミニウム7wt%、酸化鉄III3wt%、酸化カルシウム1.9wt%、ポリエステル繊維0.1wt%で構成されたセラミック組成物に対し、15wt%の水を添加し、混練して、スラリー状のセラミック部材を形成した。このセラミック部材は、3日強度で72.96N/mmの圧縮強度が得られた。
【0047】
(第2実施形態)
図1は、本発明の金属セラミック合成構造としての鋼セラミック合成構造を示す側面図である。
【0048】
図1に示すように、鋼セラミック合成構造1は、金属部材としての鋼板10と、この鋼板10に接して形成されたセラミック部材11とで形成されている。
【0049】
鋼板10は、SS400又はSM400の鋼板である。なお、他の材質で鋼板10を形成してもよい。
【0050】
セラミック部材11は、実施例のセラミック組成物を用いて形成したスラリー状のセラミック部材を、鋼板10上に配置した型枠内に充填し、硬化させて鋼板10と一体に成型したものである。なお、スラリー状のセラミック部材は、吹き付けによって鋼板10上に配置することもできる。スラリー状のセラミック部材11は、型枠内への充填直後から硬化を開始し、スラリーの形成から30分には3500psiを越える硬度に達する。なお、セラミック部材11は、28日強度が6500psiに達する。
【0051】
図1の鋼セラミック合成構造1は、平面視において矩形の梁の形状を有している。鋼セラミック合成構造1を、鋼板10の下側面の両端で自由支持を行い、セラミック部材11の上側面の中央に集中荷重を作用させて変位と応力を測定した。また、セラミック部材11と同じ寸法のコンクリート部材を鋼板に接して形成した鋼コンクリート合成構造を準備し、この鋼コンクリート合成構造にセラミック合成構造1と同じ条件で荷重を作用させて比較実験を行なった。その結果、鋼セラミック合成構造1は、鋼コンクリート合成構造よりも大きな荷重に耐えることが明らかとなった。すなわち、鋼セラミック合成構造1は、鋼コンクリート合成構造においてひび割れが生じる荷重を受けても、セラミック部材11にひび割れが生じなくて、鋼コンクリート合成構造よりも変形能力が大きいことが確認された。これにより、鋼セラミック合成構造1は、鋼コンクリート合成構造よりも耐荷重が大きいことが確認された。さらに、鋼セラミック合成構造1は、鋼コンクリート合成構造において鋼板とコンクリート部材との間に剥離が生じる荷重を受けても、鋼板10とセラミック部材11との間に剥離が生じなかった。これにより、鋼セラミック合成構造1は、鋼板10に対するセラミック部材11の付着力が、コンクリート合成構造の鋼板に対するコンクリート部材の付着力よりも大きいことが確認された。このことから、鋼セラミック合成構造1は、鋼板10とセラミック部材11とを一体化するために、スタッドジベル等の一体化部材を鋼コンクリート合成構造よりも少なくでき、又は、削除できることが明らかとなった。
【0052】
本実施形態において、鋼板を用いて鋼セラミック合成構造を形成したが、鋼板に限られず、I形鋼やH形鋼等の形鋼を用いて鋼セラミック合成構造を形成してもよい。また、例えばCFT構造のように、鋼管の内側にセラミック部材を配置して鋼セラミック合成構造を形成してもよく、また、例えばSRC構造のように、形鋼の外側にセラミック部材を配置して鋼セラミック合成構造を形成してもよい。さらに、鋼板10を用いて鋼セラミック合成構造を形成したが、アルミニウムやステンレス製の金属部材とセラミック部材とで金属セラミック合成構造を形成してもよい。また、金属部材は、鋳鋼や鋳鉄を用いて形成されてもよい。
【0053】
(第3実施形態)
図2は、本発明の金属セラミック合成構造を用いて形成した構造部材を示す図である。
【0054】
この構造部材は、道路橋に用いられる鋼セラミック合成床版2であり、鋼製の底鋼板20、配力筋22及び主筋23と、セラミック部材21とが接して形成されている。セラミック部材21の上には、アスファルト舗装24が設けられている。底鋼板20の下面には、I桁25が一体に形成されている。
【0055】
鋼セラミック合成床版2は、底鋼板20に、配力筋22及び主筋23を取り付けた後、底鋼板20を型枠として、底鋼板20の内側にスラリー状のセラミック部材21を充填して作製される。
【0056】
この鋼セラミック合成床版2は、上記セラミック組成物で形成されたセラミック部材21が、硬化に伴う収縮が殆ど生じないので、セラミック部材21にひび割れが殆ど発生しない。また、セラミック部材21が、底鋼板20に対して高い付着力を発揮するので、セラミック部材21と底鋼板20等の鋼製部材との間に隙間が生じることを効果的に防止できる。その結果、セラミック部材21と底鋼板20等の鋼製部材との間に雨水が侵入し、鋼製部材に錆びが生じることを防止できる。
【0057】
また、上記セラミック組成物は、耐磨耗性がコンクリートよりも高いので、上記セラミック部材21に万一ひび割れが生じても、ひび割れ面が磨耗してセラミックの磨耗粉が生じることが殆ど無い。したがって、この鋼セラミック合成床版2は、鋼コンクリート合成床版におけるようにコンクリートに生じたひび割れの寸法や範囲が拡大する問題が無く、劣化を効果的に防止することができる。
【0058】
また、セラミック部材21は透水性が殆ど無いので、鋼コンクリート合成床版のように浸透した雨水によってコンクリートが劣化する不都合や、コンクリートを浸透した水が鋼に達して鋼に錆が生じる不都合や、浸透した水の凍結によりコンクリートが破壊する問題が無い。また、セラミック部材21は、底鋼板20等の鋼製部材に密着して水密作用を発揮することができるので、底鋼板20等の劣化を防止することができる。さらに、セラミック組成物は略中性であるので、セラミック部材21は、表面に雨水が接しても劣化が殆ど生じない。
【0059】
また、上記セラミック部材21は底鋼板20に対する付着力が高いので、この鋼セラミック合成床版2は、鋼コンクリート合成床版のように鋼とコンクリートとを一体化するためのスタッドジベル等の一体化部材を少なくでき、或いは、削除できる。したがって、この鋼セラミック合成床版2は、少ない部材によって簡易な構成にすることができ、その結果、軽量化を行なうことができ、また、少ない手間で作製することができる。
【0060】
さらに、上記セラミック部材21はコンクリートよりも圧縮強度が高い一方、ヤング率が低いので、コンクリートよりもひび割れが生じ難い。したがって、この鋼セラミック合成床版2は、鋼コンクリート合成床版よりも高い耐荷重を有し、しかも、高い耐ひび割れ性能を発揮できる。
【0061】
さらに、セラミック部材21は、底鋼板20等の鋼製部材の表面に水や塩が存在しても、高い付着力で鋼製部材に密着できる。したがって、例えば、雨水や、河川水や、海水が存在する環境下でも、セラミック部材21を底鋼板20等の鋼製部材に強固に付着させることができ、安定した力学特性の合成構造を形成することができる。
【0062】
なお、本実施形態の鋼セラミック合成床版2は、底鋼板20の下面にI桁25を一体形成したが、底鋼板の下面に箱桁を一体形成して鋼セラミック合成床版を構成してもよい。
【0063】
(第4実施形態)
図3は、本発明の金属セラミック合成構造を用いて形成した構造部材を示す図である。
【0064】
この構造部材は、道路橋に用いられる鋼床版3である。本実施形態の鋼床版3は、鋼製のデッキプレート30の上側面にセラミック部材31が接して形成されている一方、デッキプレート30の下側面に、デッキプレート30と一体に形成されたI桁32と、Uトラフ33とが設けられている。セラミック部材31は、デッキプレート30上に、約40mmの比較的薄い均一の厚みに形成されている。このセラミック部材31の上に、約40mmのアスファルト舗装34が設けられている。なお、アスファルト舗装34を削除し、セラミック部材31の厚みを約80mmとして、セラミック部材31を舗装材に利用してもよい。
【0065】
従来の鋼床版は、一般に、鋼製のデッキプレートの上に、アスファルト又はコンクリートによる舗装が直接設けられるか、あるいは、コンクリート基層とアスファルト舗装とが設けられている。このような従来の鋼床版は、アスファルト舗装の透水性によるデッキプレートの腐食の問題がある。また、車両荷重を繰り返し受けることにより、コンクリート舗装やコンクリート基層にひび割れが生じる問題がある。また、鋼床版全体の剛性の不足により、デッキプレートに亀裂等の損傷が生じる問題がある。これらの問題を解決するため、鋼床版にゴムラテックスモルタルやSFRC(鋼繊維補強コンクリート)を適用することが行われているが、施工の特殊性や、収縮によるひび割れの発生等の問題がある。上記従来の鋼床版やゴムラテックス等を適用した鋼床版の問題を、本実施形態の鋼床版3によって解決することができる。
【0066】
本実施形態の鋼床版3は、鋼製のデッキプレート30の下側面に、I桁32と、Uトラフ33を取り付けた後、デッキプレート30の上側面にスラリー状のセラミック部材31を塗布して作製される。セラミック部材31は、圧送されたスラリー状のセラミック部材を、圧送ホースの吐出口からデッキプレート30の上側面に流下させた後、コテ仕上げ等で表面を均して作製することができる。あるいは、圧送されたスラリー状のセラミック部材を、スプレーガンを用いてデッキプレート30の上側面に吹き付けてもよい。この場合、表面仕上げが不要になるので、施工の手間を削減することができる。セラミック部材31を形成した後、このセラミック部材31上にアスファルト舗装34を敷設する。スラリー状のセラミック部材は急速に硬化するので、コンクリートで必要な程度に長い養生期間をおくことなく、セラミック部材31上にアスファルト舗装34を敷設することができる。
【0067】
本実施形態の鋼床版3は、コンクリートよりも強度の高いセラミック部材31によってデッキプレート30を補強することができる。その結果、アスファルト舗装のみを設けた従来の鋼床版や、コンクリート基層とアスファルト舗装を設けた従来の鋼床版と比較して、デッキプレート30とセラミック部材31との合成効果により、デッキプレート30の損傷を効果的に防止することができる。さらに、セラミック部材31は、鋼に対する付着力が高いので、デッキプレート30に強固に付着することができ、これにより、車両の繰り返し荷重が作用しても、長期にわたってセラミック部材31とデッキプレート30の剥離を防止することができる。また、セラミック部材31は、比較的薄く形成されているにもかかわらず、セラミック組成物で形成されて高い強度と耐久性を有する。したがって、直接又は間接に車両の繰り返し荷重が作用しても、長期にわたってセラミック部材31のひび割れの発生を防止でき、ひいては、アスファルト舗装34のひび割れやポットホールの発生を防止することができる。また、セラミック部材31がデッキプレート30に高い付着力と水密性を発揮して密着するので、デッキプレート30の腐食を効果的に防止できる。したがって、鋼床版3は、セラミック部材31の厚みを比較的小さくして軽量化を行いながら、高強度と高耐久性を実現することができる。
【0068】
なお、本実施形態の鋼床版3は、デッキプレート30の下側面にI桁32を一体形成したが、デッキプレートの下側面に箱桁を一体形成して鋼床版を構成してもよい。
【0069】
上記第3実施形態及び第4実施形態において、鋼セラミック合成構造は、鋼製部材と、鋼製部材に接するセラミック部材とを有して形成されたが、他の材質の部材を含んでもよい。例えば、鋼製部材に接するセラミック部材のうち、鋼製部材に接しない部分にコンクリートが接していてもよい。本発明のセラミック組成物を用いて形成されたセラミック部材は、コンクリートで形成された部材に対しても高い付着力を発揮するので、コンクリートを一部に含んだ鋼セラミック合成構造についても、強度を高めると共に耐久性を高めることができる。
【0070】
また、上記3実施形態及び第4実施形態において、金属セラミック合成構造として、鋼製部材とセラミック部材を用いた鋼セラミック合成構造を例示したが、鋼製部材以外のアルミニウムやステンレス製の金属部材とセラミック部材とで金属セラミック合成構造を形成してもよい。また、金属部材は、鋳鋼や鋳鉄を用いて形成されてもよい。
【0071】
以上、第3実施形態及び第4実施形態において、金属セラミック合成構造を鋼セラミック合成床版や鋼床版に適用した例を説明したが、金属セラミック合成構造は、他の種々の部材に適用できる。例えば、橋梁やビルディングに用いられる梁、桁及び柱や、基礎構造物に用いられる杭や、トンネルに用いられるセグメントや、止水壁に用いられるセグメント等、土木構造物及び建築構造物を構成する種々の部材に適用できる。
【0072】
上記各実施形態において、セラミック部材として、ケイ酸カルシウム36wt%、リン酸二水素カリウムwt34%、酸化マグネシウム30wt%のセラミック組成物を、32重量部の細骨材に対して18重量部の割合で混合してドライミックスを形成し、このドライミックスに対して、20%の水分比となる水を添加したものを用いたが、セラミック組成物の組成比は他のものであってもよく、また、水分比は他のものであってもよい。すなわち、セラミック組成物は、酸化マグネシウムが20〜35wt%、リン酸二水素カリウムが25〜45wt%の範囲の割合で形成することができる。また、17〜35重量部の上記セラミック組成物に、混合物を混合して50重量部のドライミックスを形成し、このドライミックスに対して、15〜23wt%の水分比の水を混合することができる。また、ドライミックスは、必ずしも混合物を混合しなくてもよく、上記セラミック組成物のみをドライミックスとしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 鋼セラミック合成構造
10 鋼板
11 セラミック部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と接して合成構造を形成するセラミック部材に用いられるセラミック組成物であって、リン酸塩系セラミックを主成分とすることを特徴とするセラミック組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック組成物において、
酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック組成物において、
20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミック組成物において、
30wt%以下のカオリナイトが添加されていることを特徴とするセラミック組成物。
【請求項5】
請求項3に記載のセラミック組成物において、
40wt%の酸化マグネシウムと、26wt%のリン酸二水素カリウムと、12wt%の二酸化珪素と、10wt%のカオリナイトと、7wt%の酸化アルミニウムと、3wt%の酸化鉄IIIと、1.9wt%の酸化カルシウムと、0.1wt%のポリエステル繊維を含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つのセラミック組成物を用いたセラミック部材と、金属部材とが接して形成されたことを特徴とする金属セラミック合成構造。
【請求項7】
請求項6に記載の金属セラミック合成構造を有する構造部材。
【請求項8】
請求項7に記載の構造部材を有する構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−208879(P2010−208879A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55771(P2009−55771)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(505413255)阪神高速道路株式会社 (46)
【出願人】(508061549)阪神高速技術株式会社 (20)
【出願人】(507311876)株式会社イーグル・ヴィジョン (4)
【Fターム(参考)】