説明

セラミック製刃物

【課題】包丁本来の機能、使い勝手を損ねず、セラミック製刃物の刃先の欠けの発生を抑制すること。
【解決手段】柄部と、柄部に取り付けられたセラミック製の刃部とからなり、刃部は、切刃稜辺と、切刃稜辺と互いに背面の関係にある背面稜辺と、刃部の先端部に設けられ切刃稜辺に連続し所定の曲率半径を有する円弧状先端稜辺とを有するセラミック製刃物であり、刃部の少なくとも一側面は、背面稜辺から切刃稜辺へ向かって傾斜した大刃面と、大刃面から切刃稜辺にわたって大刃面よりも大きな角度で傾斜した小刃面とからなり、小刃面は少なくとも切刃稜辺から円弧状先端稜辺を通って稜辺の円弧が終了する位置にかけて形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックスからなる刃体を有する包丁等のセラミック製の刃物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に広く使用されている包丁は、鋼やステンレス等の金属製の物が多い。
【0003】
鋼製の包丁は一般的に製作し易く、安価であるという特徴を持っているものの、使用に伴う刃先の磨耗によって当初の良好な切れ味が低下し、また錆が発生しやすいことから一層切れ味が悪化することが多い。そのために、頻繁な刃研ぎが必要になる。また使用後には水分を拭い去り、錆止めを施しておく必要がある。更に包丁の鉄成分が食物に乗り移り易い事から、金気臭が付着して料理の味を損なうという欠点がある。かかる鋼製包丁の不都合を回避すべく、発錆し難いステンレス鋼で作られた物も安価で多く使用されているが、鋼と比べて硬度が低い為に刃先が鈍り易く、切れ味がすぐに劣化する傾向にある。また、さらに発錆し難く高硬度のモリブデン、タングステンなどを含んだ特殊ステンレス合金鋼で構成した包丁も市販されているが、値段の割には切れ味の持続性が良くない。
【0004】
このように、従来の金属包丁は硬度が低いために、切れ味の劣化が早く、頻繁な研ぎが必要である。また、錆び易く、食物に金気が付くそして酸、アルカリに弱く腐食がしやすいという問題点がある。
【0005】
金属製包丁のこれらの問題点を改善するために、ジルコニアセラミックスに代表されるセラミック製の包丁が実用化されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
これら従来のセラミック製の包丁11は、図4(a)の側面図、(b)の刃部13の部分拡大断面図に示すように、柄部12と、柄部12に取り付けられた刃部13を有しており、この刃部13には切刃稜辺14と、該切刃稜辺14と互いに背面の関係にある幅細の背面稜辺15、並びに、背面稜辺15から切刃稜辺14へかけて連続して傾斜した大刃部16と、先端に所定の曲率半径を有する円弧状先端稜辺17を備えるとともに、上記切刃稜辺14から円弧状先端稜辺17にかけて大刃刃先表面を荒らした粗面部18を有するものである。
【0007】
金属製の刃部を有する刃物の場合には、刃部の先端においてもその切れ味を保持するために先端が尖っている形状となっているものがあるが、セラミック製の包丁の場合には尖った形状であると欠けやクラックが生じやすいため、図4(a)に示すように円弧状に形成されたものが提案されている。
【特許文献1】特開昭58−71095号公報
【特許文献2】特開昭62−275057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、刃部の先端を円弧状に形成することにより、刃先先端部の欠け、クラックの発生を抑制することはできるが、セラミック製の刃物は金属に比較して靭性が低いため、刃部先端に関わらず、刃先部分での欠けの発生が多いことが、依然問題として残されていた。従来のセラミック製の刃物では、切れ味を良くするため、大刃のみを形成することにより刃先先端を鋭角な形状としていた。そのため、切れ味は優れているが、刃先部分での欠けが多く発生する問題を有していた。
【0009】
また、金属製の刃物においても、刃先先端を円弧状に形成されたものがあるが、これは安全面を考慮したものであり、刃先先端部には刃をつけていないため、切っ先を使った飾り切り、隠し包丁といった包丁本来の機能を活用できないものであった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み案出されたもので、その目的は包丁本来の機能、使い勝手を損ねず、セラミック製刃物の刃先の欠けの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記に鑑みて本発明は、柄部と、該柄部に取り付けられたセラミック製の刃部とからなり、該刃部は、切刃稜辺と、該切刃稜辺と互いに背面の関係にある背面稜辺と、刃部の先端部に設けられ前記切刃稜辺に連続し所定の曲率半径を有する円弧状先端稜辺とを有するセラミック製刃物であり、前記刃部の少なくとも一側面は、前記背面稜辺から切刃稜辺へ向かって傾斜した大刃面と、該大刃面から切刃稜辺にわたって前記大刃面よりも大きな角度で傾斜した小刃面とからなり、該小刃面は少なくとも前記切刃稜辺から円弧状先端稜辺を通って該稜辺の円弧が終了する位置にかけて形成されているセラミック製刃物であることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記小刃面は、前記切刃稜辺から3.0mm以下の範囲に設けられているものであることを特徴とする。
【0013】
さらに、前記大刃面は、該大刃面の刃先部表面を切刃稜辺から円弧状先端稜辺にわたって粗面部を備えるものであることを特徴とする。
【0014】
さらに、前記大刃面の角度が0.1〜15°であり、前記小刃面の角度が20〜55°であることを特徴とする。
【0015】
さらに、前記大刃面の角度が1〜5°であり、前記小刃面の角度が30〜45°であることを特徴とする。
【0016】
さらに、前記大刃面および小刃面を、刃部の両側面に形成したものであることを特徴とする。
【0017】
さらに、前記大刃面は、切刃稜辺方向の中央部分での垂直断面において、曲率半径(R)が400〜800mmの曲面で形成されているものであることを特徴とする。
【0018】
さらに、前記刃部がジルコニアセラミック製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセラミック刃物は、切刃稜辺から円弧状先端稜辺の曲率が終了する点にかけ大刃に連続して小刃を形成し、刃先部の角度を大きくすることにより、刃先部での欠けを大幅に抑制することができる。しかも、切れ味を損なわない小刃角を設定しており、包丁本来の機能、使い勝手を損ねず、セラミック製刃物の刃先の欠け発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明のセラミック製刃物の一実施形態である包丁1を示す側面図である。
【0021】
本発明のセラミック製包丁1は、柄部2と、該柄部2に取り付けられたセラミック製の刃部3とからなり、該刃部3に切刃稜辺4と、該切刃稜辺4と互いに背面の関係にある幅細の背面稜辺5、並びに、これら背面稜辺5から切刃稜辺4へかけて連続して傾斜した大刃6と、先端に上記切刃稜辺4に連続し、所定の曲率半径を有する円弧状先端稜辺7を備え、上記切刃稜辺4から円弧状先端稜辺7にかけて大刃6の刃先には、その表面を荒らした粗面部8を有するものである。粗面部8は好ましくは算術平均表面粗さ1〜100μmが好ましく、これにより、対象物を滑らずに切ることができる。
【0022】
また、図2(a)は、本発明のセラミック製包丁の刃部3における刃先部の部分拡大側面図、同図(b)、(c)はその断面図である。
【0023】
ここで、本発明のセラミック製包丁1は、少なくとも上記切刃稜辺4から円弧状先端稜辺7の曲率が終了する点9にかけて上記大刃6に連続して小刃10を形成したことが重要である。
【0024】
従来、この小刃10は円弧状先端稜辺7まで備えたものはなく、この大刃6に連続した小刃10を円弧状先端稜辺7まで設けることで、円弧状先端稜辺7の刃先角度が大きくなり、円弧状先端稜辺7での欠けを大幅に抑制することができる。しかも、切れ味を損なわない小刃10の角度を設定することにより、包丁本来の機能、使い勝手を損なうことがない。また、円弧状先端稜辺7、即ち包丁の刃先の最先端も切刃として使用できるので使い勝手が良く、包丁の先端で食材を切っているときに食材のどこが実際に切れているか実感し易く、飾り切り等の細かい作業を容易に、確実に行うことができる。
【0025】
また、上記大刃6、小刃10は、両側面に設けることが好ましいが、一方の側面にのみ設けてもよい。
【0026】
また、大刃6は平面で形成してもよいが、図2(c)に示すように、刃体の強度を持たすとともに、切断した食材等が刃に張り付くのを防ぐため、R400〜R800mmの曲面で形成するのが好ましい。
【0027】
さらに、小刃10は、少なくとも上記切刃稜辺4から円弧状先端稜辺7の曲率が終了する点9にかけて設ければよいが、曲率が終了する点9を越えて形成されていてもよい。
【0028】
またさらに、上記大刃6の角度は1〜5度に設定することが好ましい。
【0029】
この角度が1度より小さい場合、刃部3の強度が著しく低下し、欠け、折れが頻繁に発生する恐れがある。また、角度が5度より大きい場合には、食材等の切断時の負荷が大きくなり、切れ味が悪化する。
【0030】
また、小刃10の角度は、20〜45度に設定することが好ましい。小刃の角度が20度より小さい場合、刃先の強度が著しく低下し、刃先の欠けが頻繁に発生する恐れがある。一方、角度が45度より大きい場合には、切れ味が著しく悪化する。
【0031】
さらに、小刃10は、刃の両側面に設けることが好ましいが、一方の側面にのみ設けてもよい。
【0032】
また、このような小刃10を有するセラミック製包丁1を作製するためには、まず、1.5〜3モル%のイットリア粉末を含むジルコニア粉末に対しアクリル系、ワックス系もしくはPEG系バインダーを2〜10質量%添加し、平均粒径が10〜150ミクロンの顆粒を作成する。次にこの顆粒を金型で成形圧力700〜2000Kg/cm2にて図3に示すような所定形状に成形し、その後、1300〜1500℃で焼成し、ジルコニア焼結体を得る。その後、公知の方法で、刃付けを行う。円弧状先端部に小刃をつける方法は、従来通り切刃部分に小刃を連続的に形成させながら、先端部に来た際、先端部を中心として回転させるようにして小刃をつけるようにする。
【0033】
成形体の成形方法としては上記以外にも、鋳込む方法や可塑成型法(たとえばインジェクション成形法)、ラバープレス法、ホットプレス法等の周知の成形方法を用いても良い。また得られたジルコニア焼結体を1300〜1500℃で焼結後、圧力1500〜2500Kg/cm2で2〜5h保持するいわゆるHIP法を使用することもできる。
【実施例】
【0034】
次いで、本発明の実施例について説明する。
【0035】
先ず、大刃の角度を0.5〜10度、小刃の角度を25〜50度とし、ジルコニアセラミック製の包丁を上述の製造方法によって作製した。得られた包丁における刃先の耐衝撃性試験を行った。
【0036】
また、比較例として、小刃を形成していない従来品についても同様の試験を行った。
【0037】
図3に耐衝撃性試験方法を示す。長さ1.4mの棒の一方を回転の中心とし、高さ24cmの位置にスムーズな動きができる様にセットする。もう一方の先端に包丁を固定し、包丁を50cmの高さまで持ち上げ、静かに手を離して、自然落下にて衝突させる。衝突部には磁器製の皿を置く。上記のようにセットすることにより、刃体の中央部または先端が磁器性の皿に衝突することになる。上記衝撃テストを繰り返し30回行い、テスト後の刃先の状態を、「○:変化無し(0.3mmより小さな欠け発生)」、「△:0.3〜1.0mmの欠け発生」、「×:1.0mmより大きな欠け発生」で評価した。
【0038】
また、これら包丁における切れ味について、モニターによる評価を実施した。モニターとして十名の主婦に評価をお願いした。その結果を、「○:9人以上が切れ味が良いと判断」、「△:5〜8人が切れ味が良いと判断」「×:切れ味が良いと判断した人が4人以下」で評価した。
【0039】
衝撃性試験、切れ味テストの結果を表1に示す。衝撃性試験結果より、大刃角が1度より小さい場合、あるいは小刃角が30度より小さい場合に耐衝撃性が低下することが確認できる。また、切れ味テスト結果より、大刃角が5度より大きい場合、あるいは小刃角が45度より大きい場合に切れ味が悪化することが確認できる。
【0040】
以上の結果から、大刃角1〜5度、小刃角30〜45度にそれぞれ設定することによって、耐衝撃性、切れ味ともに兼ね備えることができることが分かる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のセラミック製刃物である包丁の一実施形態を示す側面図である。
【図2】(a)は、図1におけるセラミック製包丁の先端部分の部分拡大側面図であり、(b)、(c)は同図(a)の刃部の種々の例を示す断面図である。
【図3】実施例における衝撃試験の概略説明図である。
【図4】(a)は、従来のセラミック製包丁の側面図であり、(b)はその刃部断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1・・セラミック製包丁
2・・柄部
3・・刃部
4・・切刃稜辺
5・・背面稜辺
6・・大刃
7・・円弧状先端稜辺
8・・大刃粗面部
9・・曲率の終点
10・・小刃
11・・セラミック製包丁
12・・柄部
13・・刃部
14・・切刃稜辺
15・・背面稜辺
16・・大刃
17・・円弧状先端稜辺
18・・大刃粗面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄部と、該柄部に取り付けられたセラミック製の刃部とからなり、該刃部は、切刃稜辺と、該切刃稜辺と互いに背面の関係にある背面稜辺と、刃部の先端部に設けられ前記切刃稜辺に連続し所定の曲率半径を有する円弧状先端稜辺とを有するセラミック製刃物であり、前記刃部の少なくとも一側面は、前記背面稜辺から切刃稜辺へ向かって傾斜した大刃面と、該大刃面から切刃稜辺にわたって前記大刃面よりも大きな角度で傾斜した小刃面とからなり、該小刃面は少なくとも前記切刃稜辺から円弧状先端稜辺を通って該稜辺の円弧が終了する位置にかけて形成されていることを特徴とするセラミック製刃物。
【請求項2】
前記小刃面は、前記切刃稜辺から3.0mm以下の範囲に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のセラミック製刃物。
【請求項3】
前記大刃面は、該大刃面の刃先部表面を切刃稜辺から円弧状先端稜辺にわたって粗面部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック製刃物。
【請求項4】
前記大刃面の角度が0.1〜15°であり、前記小刃面の角度が20〜55°であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセラミック製刃物。
【請求項5】
前記大刃面の角度が1〜5°であり、前記小刃面の角度が30〜45°であることを特徴とする請求項4に記載のセラミック製刃物。
【請求項6】
前記大刃面および小刃面を、刃部の両側面に形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセラミック製刃物。
【請求項7】
前記大刃面は、切刃稜辺方向の中央部分での垂直断面において、曲率半径(R)が400〜800mmの曲面で形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のセラミック製刃物。
【請求項8】
前記刃部がジルコニアセラミック製であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のセラミック製刃物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−271959(P2006−271959A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49181(P2006−49181)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】