説明

セラミック触媒体

【課題】高温下での使用においても、セラミック担体に担持された触媒の剥離を充分に抑制することができ、優れた耐久性・信頼性を有するセラミック触媒体を提供すること。
【解決手段】セラミック触媒体1は、ハニカム状のセル壁12に囲まれた多数のセル13を有するセラミック担体11に触媒を担持させてなる。セラミック触媒体1の熱膨張係数C1とセラミック担体11の熱膨張係数C2との差をΔCTE(×10-6/℃)、セラミック担体11の内部温度をT(K)、セラミック担体11に存在する2μm以下の微細孔量をD(cc/g)、セラミック担体11の表面における開口部の割合を示す表面開口率をS(%)とした場合に、下記式(1)で表される触媒の剥離率Hが35%以下である。
H=217.254+(−0.167)×T+0.345×D+28.731×ΔCTE−3.343×S ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関の排気ガス浄化用触媒体として用いられるセラミック触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の内燃機関の排気ガスを浄化するための排気ガス浄化用触媒としては、セル壁をハニカム状に配して多数のセルを設けてなるセラミック担体に触媒を担持させたセラミック触媒体が知られている。
このセラミック触媒体は、排気ガスの通路である排気管内に設置して用いられる。そして、高温の排気ガスをセラミック担体に流通させることにより、担持した触媒を活性化させ、排気ガスの浄化を行う。
【0003】
しかしながら、上記セラミック触媒体には、次のような問題がある。すなわち、近年の自動車の排気ガス規制の強化に伴い、排気ガス浄化用触媒として使用されるセラミック触媒体の触媒をより早く活性化させることを目的として、セラミック触媒体の搭載位置を従来よりもエンジンに近い位置に変更することが検討されている。これは、触媒に接触する排気ガス温度を従来よりも上昇させることにより、早期触媒活性化を狙ったものである。
【0004】
この排気ガス温度の上昇は、触媒活性化を促進する反面、セラミック担体からの触媒の剥離を生じ易くしてしまうという問題がある。また、触媒の剥離が発生した場合には、セラミック触媒体の耐久性に大きな影響を与える。そのため、特に高温時において、触媒の剥離を充分に抑制し、触媒の有する排気ガス浄化性能を維持することができるセラミック触媒体が要求されていた。
【0005】
例えば、特許文献1では、ハニカム構造体の気孔率、細孔分布、熱膨張係数等を調整することによって触媒の担持性を向上させるコージェライトハニカム構造触媒担体が開示されている。
また、特許文献2では、セラミックハニカム基体の熱膨張係数、触媒担持前後の熱膨張係数の増加等を調整することによって触媒の耐剥離性を向上させるセラミックハニカム触媒が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、コージェライトハニカム構造体の表面に触媒の拡散を防止する拡散防止層を設け、この拡散防止層の厚さをコージェライトハニカム構造体の平均細孔径以下とすることによって、拡散防止層上に形成されるγ―アルミナ等のコート層との密着性を向上させるコージェライトハニカム構造体が開示されている。
また、特許文献4では、高比表面積材料を担持した後の40〜800℃間の熱膨張係数を1.0×10-6/℃以下とすることによって、高比表面積材料担持後の熱衝撃性を向上させるコージェライトハニカム構造体が開示されている。
また、特許文献5では、高気孔率の担体を作製した後、コーティング等の後処理により緻密化し、低気孔率の担体を作製することによって、アルカリ金属などの侵入を抑制し、強度を向上させる触媒体が開示されている。
【0007】
また、特許文献6では、ハニカム構造体セル壁表面の気孔を表面に対して垂直方向から見た場合の最小径が高比表面積材料の平均粒径の1倍以上3倍未満である気孔の面積率を1〜12%とし、セル壁表面に存在する気孔を表面に対して垂直方向から見た場合の最小径が高比表面積材料の平均粒径の10倍以上の気孔の面積率を10%以下とすることによって、熱衝撃性劣化を抑制したセラミックハニカム体が開示されている。
また、特許文献7では、直径0.5〜5μmの細孔の細孔容量を全細孔容量の30%以下とすることによって、高比表面積材料の付着性を向上させるコージェライトハニカム構造体が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記の文献では、未だ触媒の剥離を充分に抑制しているとはいえなかった。そのため、セラミック担体に担持された触媒の耐剥離性を充分に確保することができ、耐久性・信頼性に優れたセラミック触媒体の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭64−4249号公報
【特許文献2】特開平9−262484号公報
【特許文献3】特開2002−59009号公報
【特許文献4】特開平6−165939号公報
【特許文献5】特開2003−205246号公報
【特許文献6】特開2000−296340号公報
【特許文献7】特開2002−191985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、高温下での使用においても、セラミック担体に担持された触媒の剥離を充分に抑制することができ、優れた耐久性・信頼性を有するセラミック触媒体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コーディエライトよりなり、ハニカム状のセル壁に囲まれた多数のセルを有するセラミック担体に触媒を担持させてなるセラミック触媒体について、
該セラミック触媒体の熱膨張係数C1と上記セラミック担体の熱膨張係数C2との差(C1−C2)をΔCTE(×10-6/℃)、
上記セラミック担体の内部温度をT(K)、
上記セラミック担体に存在する2μm以下の微細孔量をD(cc/g)、
上記セラミック担体の表面における開口部の割合を示す表面開口率をS(%)とした場合に、下記の式(1)で表される上記触媒の剥離率Hが35%以下であることを特徴とするセラミック触媒体にある(請求項1)。
H=217.254+(−0.167)×T+0.345×D+28.731×ΔCTE−3.343×S ・・・(1)
【0012】
本発明のセラミック触媒体は、上記のごとく、セラミック担体に触媒を担持させたものであり、該セラミック担体は、コーディエライトよりなり、ハニカム状のセル壁に囲まれた多数のセルを有する、いわゆるコーディエライトセラミック製のハニカム構造体である。そして、上記セラミック触媒体は、上記のように定めた熱膨張係数差ΔCTE、内部温度T、微細孔量D、及び表面開口率Sを用いて上記の式(1)により表される上記触媒の剥離率Hが35%以下である。
【0013】
すなわち、上記の式(1)を用いることにより、上記セラミック担体の使用環境(内部温度T)に合わせて、上記セラミック触媒体と上記セラミック担体との関係(熱膨張係数差ΔCTE)、上記セラミック担体の特性(微細孔量D、表面開口率S)を調整して、上記触媒の剥離率Hが35%以下となるように制御することができる。そして、上記セラミック触媒体における上記触媒の剥離を充分に抑制することができる。つまり、上記触媒の耐剥離性を充分に確保することができる。
【0014】
これにより、上記セラミック触媒体は、自動車等の内燃機関の排気ガス浄化用触媒体として高温下の厳しい環境で使用した場合でも、上記触媒の剥離を充分に抑制することができると共に、上記触媒の触媒作用によって排気ガスを安定的に浄化することができる。それ故、上記セラミック触媒体は、耐久性・信頼性に優れたものとなる。
【0015】
このように、本発明によれば、高温下での使用においても、セラミック担体に担持された触媒の剥離を充分に抑制することができ、優れた耐久性・信頼性を有するセラミック触媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明においては、上記熱膨張係数C1は、上記セラミック担体に上記触媒を担持させた状態での上記セラミック触媒体の熱膨張係数である。
また、上記熱膨張係数C2は、上記触媒を担持させていない状態での上記セラミック担体の熱膨張係数である。
【0017】
また、上記熱膨張係数差ΔCTEは、上記セラミック担体に上記触媒を担持させたことによる熱膨張係数の増加幅である。なお、上記熱膨張係数差ΔCTEは、上記セラミック担体に担持させる上記触媒の担持量、粒径等を変えることによって制御することができる。
【0018】
また、上記微細孔量Dは、上記セラミック担体に存在する細孔のうち、平均細孔径が2μm以下の微細孔の量である。なお、上記微細孔量Dは、上記セラミック担体の原料となるタルクや水酸化アルミニウム等の粒径を変えたり、上記セラミック担体を製造する際の焼成速度、焼成温度、焼成時間等を変えたりすることによって制御することができる。
【0019】
また、上記表面開口率Sは、上記セラミック担体の表面積に対して、上記開口部が存在する面積の割合である。なお、上記表面開口率Sは、上記セラミック担体の原料粒径、製造時の焼成温度等によって制御することができる。
【0020】
また、上記内部温度Tとは、上記セラミック担体(上記セラミック触媒)の使用環境における温度である。例えば、自動車等の内燃機関の排気ガス浄化用触媒体として用いた場合には、上記セラミック触媒体を排気管内に設置し、排気ガスを上記セラミック担体に流通させた際の該セラミック担体内部における最も高い温度とすればよい。
【0021】
また、上記触媒の剥離率Hが35%を超える場合には、排気ガスの浄化に必要な上記触媒の担持量を充分に確保することができないおそれがある。そのため、上記セラミック触媒体の排気ガス浄化性能が低下するおそれがある。
【0022】
また、上記セラミック触媒体の熱膨張係数C1は、3×10-6/℃以下であることが好ましい(請求項3)。
上記熱膨張係数C1が3×10-6/℃を超える場合には、上記セラミック担体に生じる熱応力によって該セラミック担体に亀裂、破損等が発生するおそれがある。したがって、上記熱膨張係数C1は、1.5×10-6/℃以下であることがより好ましい。
【0023】
また、上記セラミック担体の熱膨張係数C2は、1×10-6/℃以下であることが好ましい(請求項3)。
上記熱膨張係数C2が1×10-6/℃を超える場合には、上記セラミック担体に生じる熱応力によって該セラミック担体に亀裂、破損等が発生するおそれがある。したがって、上記熱膨張係数C2は、0.8×10-6/℃以下であることがより好ましい。
【0024】
上記セラミック触媒体と上記セラミック担体との熱膨張係数差ΔCTEは、2×10-6/℃以下であることが好ましい(請求項4)。
上記熱膨張係数差ΔCTEが2×10-6/℃を超える場合には、上記セラミック触媒体と上記セラミック担体との間に生じる熱応力によって、上記触媒の剥離が増大するおそれがある。これにより、上記セラミック触媒体の排気ガス浄化性能が低下するおそれがある。
【0025】
また、上記セラミック担体の表面開口率Sは、3〜30%であることが好ましい(請求項5)。
上記表面開口率Sが3%未満の場合には、上記セラミック担体への上記触媒の担持量が不充分となったり、上記セラミック担体に対する上記触媒の付着性が低下したりするおそれがある。一方、30%を超える場合には、上記セラミック担体自体の強度が低下するおそれがある。
【0026】
また、上記セラミック触媒体は、上記セラミック担体の断面における任意の領域に対して、該セラミック担体の内部に浸入した上記触媒が占める領域の割合を示す触媒浸入量が25%以下であることが好ましい(請求項6)。
上記触媒浸入量が25%を超える場合には、上記熱膨張係数差ΔCTEが大きくなり、上記セラミック触媒体と上記セラミック担体との間に生じる熱応力によって、上記触媒の剥離が増大するおそれがある。
【0027】
したがって、上記セラミック触媒体は、上記セラミック担体の断面における任意の領域に対して、該セラミック担体の内部に浸入した上記触媒が占める領域の割合を示す触媒浸入量が15%以下であることがより好ましい(請求項7)。
この場合には、上記熱膨張係数差ΔCTEの増大を抑制し、上記セラミック担体における亀裂、破損等の発生を抑制することができる。
【0028】
また、上記触媒は、Pt、Rh、又はPdから選ばれる1種以上の元素を含んでいることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記セラミック触媒体は、上記触媒の触媒作用によって排気ガスを効果的に浄化することができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本例では、本発明のセラミック触媒体における触媒の耐剥離性を定量的に評価すべく、セラミック触媒体を様々な条件で作製し、触媒の剥離率を測定した。
なお、本例のセラミック触媒体は、自動車エンジンの排気ガス浄化用触媒体として適用されるものである。
【0030】
まず、本例のセラミック触媒体の基本構成について説明する。
セラミック触媒体1は、図1に示すごとく、触媒を担持させる円柱形状のセラミック担体11を有している。セラミック担体11は、コーディエライトを主成分として構成されており、格子状に配設されたセル壁12とセル壁12によって区画されている多数のセル13とによって構成されたハニカム構造体である。また、セラミック担体11は、その外周を円筒形状の外周壁14により覆われている。
【0031】
また、セラミック担体11において、セル壁12の壁面には、触媒(図示略)が担持されている。本例の触媒としては、Pt、Rhを用いている。また、助触媒としては、CeO2、ZrO2を用いている。
なお、本例のセラミック担体11の寸法は、外径が103mm、長さが105mmである。また、外周壁14の厚みは0.4mmである。
【0032】
次に、セラミック触媒体1の製造方法について説明する。
セラミック担体11を製造するに当たっては、少なくとも、セラミック原料を押出成形してハニカム成形体を成形する押出成形工程と、上記ハニカム成形体を所望長さに切断する切断工程と、上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、上記ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体(セラミック担体11)を得る焼成工程とを含む。
そして、上記押出成形工程では、セル壁12の形状に対応する形状のスリット溝を有する押出成形用金型(図示略)を用いて押出成形する。
【0033】
まず、押出成形工程では、ハニカム成形体を構成するセラミック原料を準備する。本例のセラミック原料の原料粉末としては、カオリン、溶融シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、タルク、カーボン粒子等を含有し、化学組成が重量比にて最終的にSiO2:45〜55%、Al23:33〜42%、MgO:12〜18%よりなるコーディエライトを主成分とする組成となるように調整したものを用いた。この原料粉末に水、バインダ等を所定量添加し、混錬することでセラミック原料を得る。
【0034】
そして、準備した上記セラミック原料を押出成形用金型を用いて押出成形し、ハニカム成形体を成形する。その後、成形したハニカム成形体を所望の長さに切断する切断工程と、マイクロ波乾燥機により乾燥させる乾燥工程と、最高温度1400℃で焼成する焼成工程とを施す。
これにより、図1のセラミック担体11を得る。
【0035】
次に、セラミック担体11に触媒を担持させる。
具体的には、助触媒としてのCeO2/ZrO2化合物を水中で撹拌しながら、触媒としてのPt、Rhを含有する硝酸薬液を添加した後、水分を蒸発させる。これにより、CeO2/ZrO2化合物の表面にPt、Rhを担持させた担持粉末を得る。次いで、この担持粉末を250℃で1時間焼成し、上記担持粉末中の硝酸塩を除去する。次いで、上記担持粉末にアルミナ、バインダ等を加えてスラリー状とし、ボールミルで処理することによって粒径のそろった担持スラリーを得る。次いで、この担持スラリーにセラミック担体11を一定時間浸漬した後、引き上げる。これにより、セラミック担体11は、セル壁12の壁面に上記担持スラリーが付着した状態となる。その後、120℃で20分間乾燥させ、500℃で2時間焼成する。
以上により、セラミック担体11に触媒を担持させてなるセラミック触媒体1を得る。
【0036】
次に、様々な条件において作製したセラミック触媒体1を準備し、触媒の剥離率を測定した。本例では、セラミック触媒体1について、大きく分けて2種類の試験体群A1、A2を準備した。
試験体群A1としては、表面開口率Sが5%であり、熱膨張係数差ΔCTE及び微細孔率Dpの値を様々に変えた複数の試験体を準備した。また、試験体群A2としては、表面開口率Sが10%であり、熱膨張係数差ΔCTE及び微細孔率Dpの値を様々に変えた複数の試験体を準備した。
【0037】
ここで、熱膨張係数差ΔCTE(×10-6/℃)とは、セラミック触媒体1の熱膨張係数C1とセラミック担体11の熱膨張係数C2との差(C1−C2)である。熱膨張係数差ΔCTEは、セラミック担体11に担持させる触媒Pt、Rhの担持量、粒径等を変えることによって調整することができる。
また、熱膨張係数C1、C2は、一般的な熱膨張係数(CTE)測定装置を用いて測定することができる。本例の熱膨張係数C2は、0.7×10-6/℃である。
【0038】
また、微細孔率Dp(%)とは、セラミック担体11に存在する全細孔量Da(cc/g)に対する2μm以下の微細孔量D(cc/g)の割合である。つまり、Dp=100×D/Daである。
全細孔量d及び微細孔量Dは、セラミック担体11の原料となるタルクや水酸化アルミニウム等の粒径を変えたり、セラミック担体11作製時の焼成速度、焼成温度、焼成時間等を変えたりすることによって調整することができる。また、全細孔量d及び微細孔量Dは、水銀圧入式ポロシメータを用いて測定することができる。
【0039】
また、表面開口率S(%)とは、セラミック担体11の表面積に対して、開口部が存在する面積の割合である。
表面開口率Sは、セラミック担体11に含まれる原料の粒径や作製時の焼成温度等によって制御することができる。また、表面開口率Sは、SEM、レーザー顕微鏡等を用いて表面の細孔を観察することにより求めることができる。
【0040】
次に、触媒の剥離率の測定方法について説明する。
まず、上記試験体群A1、A2の各試験体から18×18×18mmの角材を切り出し、これを試験片とする。試験片は、セラミック担体11を上記担持スラリーに浸漬した端面の反対側の端面から切り出す。また、切り出した試験片について、担持されている触媒量(これをm1とする)を予め求めておく。
【0041】
次いで、試験片の質量(これをM1とする)を測定する。次いで、試験片を40℃/分で昇温させ、1000℃又は1100℃(この温度をtとする)で5時間保持する。次いで、超音波洗浄機を用いて、200Wで10分間超音波をかけて触媒を剥離させる。その後、試験片の質量(これをM2とする)を測定する。そして、予め求めておいた触媒量m1を用いて、触媒の剥離率H’(%)をH’=100×(M1−M2)/m1の式から求める。
【0042】
次に、触媒の剥離率の測定結果を図2〜図5に示す。
図2、図3は、試験体群A1の各試験体について、それぞれ温度tを1000℃、1100℃として測定を行った結果である。また、図4、図5は、試験体群A2の各試験体について、それぞれ温度tを1000℃、1100℃として測定を行った結果である。同図は、縦軸に熱膨張係数差ΔCTE(×10-6/℃)、横軸に微細孔率Dp(%)をとったものである。
【0043】
そして、各試験体の耐剥離性の評価は、セラミック触媒体1が排気ガス浄化性能を充分に確保することができ、実使用上問題のない触媒の剥離率H’を35%以下とし、これを基準にして次のように評価し、図中にプロットした。
剥離率H’>35%:不合格(×)
剥離率H’≦35%:合格(○)
【0044】
次に、図2〜図5において、本発明品の範囲を示す。
本発明品のセラミック触媒体1は、下記の式(1)で表される剥離率Hが35%以下のものである。
H=217.254+(−0.167)×T+0.345×D+28.731×ΔCTE−3.343×S ・・・(1)
H:剥離率(%)
ΔCTE:熱膨張係数差(×10-6/℃)
T:温度(K)
D:2μm以下の微細孔量(cc/g)
S:表面開口率(%)
【0045】
まず、上記の式(1)に固定値を代入し、熱膨張係数ΔCTEと微細孔率Dpとの関係式を求める。
すなわち、固定値である表面開口率S(5%又は10%)と温度t(1000℃又は1100℃)との値を式(1)に代入する。このとき、温度t(℃)を温度T(K)に変換する。そして、剥離率Hには、本発明品の基準となる35%を代入し、熱膨張係数ΔCTEと微細孔量Dとの関係式を求める。そしてさらに、微細孔量D(cc/g)を微細孔率Dp(%)に変換し(Dp=100×D/Da、Da=0.1〜0.3cc/g)、熱膨張係数差ΔCTEと微細孔率Dpとの関係式を求める。この関係式を基準線X1として図中に示す。この基準線X1よりも下の領域、すなわち剥離率Hが35%以下の領域が本発明品となる。
【0046】
図2〜図5から知られるように、本発明品は、いずれも合格品であり、触媒の耐剥離性に優れ、実使用可能なレベルに達していた。一方、本発明品以外は、不合格品であり、触媒の耐剥離性が充分に確保されているとはいえない結果となった。
【0047】
このことから、式(1)の剥離率Hは、実際に測定した触媒の剥離率H’の結果を反映しているといえる。それ故、式(1)を用いて、各条件(熱膨張係数差ΔCTE、温度T、微細孔量D、表面開口率S)を調整することにより、触媒の剥離率を制御することができる。そして、触媒の耐剥離性を充分に確保することができる。
【0048】
(実施例2)
本例は、実施例1のセラミック触媒体1について、他の条件を一定にした状態で、熱膨張係数差ΔCTEのみを制御した場合の例である。
本例では、セラミック担体11に対する触媒の浸入量を調整することによって、熱膨張係数差ΔCTEを制御する。すなわち、セラミック担体11に担持させる触媒をセラミック担体11内部に浸入させる度合いによって、熱膨張係数差ΔCTEを制御する。触媒の浸入量は、担持スラリーに含まれる原料の粒径、例えばアルミナ、CeO2等の粒径を変えることにより調整することができる。
【0049】
ここで、触媒の浸入量の測定方法について説明する。
まず、図6に示すごとく、セラミック担体11における任意断面についてEPMA(X線マイクロアナライザ)を用いて元素マッピング分析を行い、触媒成分の分布を調べる。次いで、図7に示すごとく、EPMAにて調査した領域と同じ領域についてSEM(走査電子顕微鏡)を用いて観察し、セラミック担体11の領域を確認する。
【0050】
次いで、図6のEPMA測定結果について、図7のSEM測定結果と照らし合わせながら、セラミック担体11の領域Zのみを抽出する。同図に示すごとく、この領域Zを二値化し、触媒部分aとセラミック担体部分b(触媒が担持されていない細孔を含む)とに色分けをする。そして、浸入量Y(%)=100×(触媒部分aの面積)/(領域Zの面積)の式により、触媒の浸入量を求める。
【0051】
次に、実際にセラミック担体11に触媒を担持させてセラミック触媒体1を作製し、熱膨張係数差ΔCTEと浸入量Yとの関係を求めた。本例において用いたセラミック担体11は、2μm以下の微細孔量Dが0.05cc/g、表面開口率Sが10%である。その他は、実施例1と同様である。
また、触媒の担持量は、270g/Lとした。なお、触媒の担持量とは、セラミック担体11の容積に対する触媒の担持量である。
【0052】
また、本例では、セラミック触媒体1を自動車エンジンの排気ガス浄化用触媒として1050℃の環境下で実際に使用した場合における、セラミック担体11内部の温度差ΔTと熱膨張係数差ΔCTEとの関係についても求めた。なお、ここでの温度差ΔTとは、1050℃の環境下においてセラミック担体11にクラックが発生する基準(クラッククライテリア)における、セラミック担体11内部の最も温度の高い部分と最も温度の低い部分との温度差である。
以下に結果を示す。
【0053】
図8は、セラミック触媒体1における熱膨張係数差ΔCTEと浸入量Yとの関係を示したものである。同図は、縦軸に熱膨張係数差ΔCTE(×10-6/℃)、横軸に浸入量Y(%)をとったものである。
また、図9は、1050℃の環境下でのセラミック触媒体1における温度差ΔTと熱膨張係数差ΔCTEとの関係を示したものである。同図は、縦軸に温度差ΔT(℃)、横軸に熱膨張係数差ΔCTE(×10-6/℃)をとったものである。なお、同図には、実使用においてセラミック担体11に生じる温度差ΔT:100℃を基準線X2として示す。
【0054】
図8、図9から知られるように、1050℃の環境下での使用を考えた場合、浸入量Yを25%以下とすることにより、熱膨張係数差ΔCTE:1.7×10-6/℃以下となり、温度差ΔT:100℃以上となるため、温度差ΔTが基準線X2を超える。そのため、1050℃の環境下においても、セラミック触媒体1の耐久性・耐熱衝撃性を充分に確保することができ、実使用上問題なく適用することができる。
【0055】
また、浸入量Yを15%以下とすれば、熱膨張係数差ΔCTE:1.5×10-6/℃以下となり、温度差ΔT:200℃以上となるため、セラミック触媒体1の耐久性・耐熱衝撃性をさらに向上させることができる。
また、この場合には、1100℃の環境下であっても、温度差ΔT:150℃となるため、1100℃の環境下においても充分に使用することができる。
【0056】
(実施例3)
本発明の実施例にかかるセラミック触媒体を決定する式(1)を導き出す実験について説明する。
まず、同一条件で作製したセラミック担体を2つ用意する。一方には触媒を担持させ、熱膨張係数C1を求め、さらに温度Tの条件で剥離率H’を求める。そして、もう一方から微細孔量D、熱膨張係数C2、表面開口率Sを求める。そして、求めた熱膨張係数C1、C2から熱膨張係数差ΔCTEを算出する。なお、各測定方法は、上述のとおりである。これにより、剥離率H’、温度T、微細孔量D、熱膨張係数差ΔCTE、及び表面開口率Sを求める。
この結果を表1に示す。
【0057】
次に、表1に示した値を基に、剥離率H’を目的変数、その他の項目を説明変数とし、重回帰分析によって各項目間の関係式を算出する。これにより、寄与率R=0.93で剥離率Hを求める下記の式(1)が得られた。なお、寄与率Rとは、実際の剥離率H’の値に対して回帰式(式(1))から求められる剥離率Hの値がどれほど当てはまっているかということを示しており、寄与率Rが1に近いほど両者の値の誤差が小さいといえる。
H=217.254+(−0.167)×T+0.345×D+28.731×ΔCTE−3.343×S ・・・(1)
【0058】
【表1】

【0059】
なお、図10には、表1に示した剥離率H’(実測値)と上記の式(1)から求めた剥離率H(計算値)との関係を表した。多少の誤差は見られるものの、実測値と計算値とがほぼ一致していることがわかる。これにより、上記の式(1)の信頼性を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1における、セラミック触媒体を示す説明図。
【図2】実施例1における、熱膨張係数差と微細孔率との関係を示す説明図。
【図3】実施例1における、熱膨張係数差と微細孔率との関係を示す説明図。
【図4】実施例1における、熱膨張係数差と微細孔率との関係を示す説明図。
【図5】実施例1における、熱膨張係数差と微細孔率との関係を示す説明図。
【図6】実施例2における、EPMA測定結果を示す説明図。
【図7】実施例2における、SEM測定結果を示す説明図。
【図8】実施例2における、熱膨張係数差と浸入量との関係を示す説明図。
【図9】実施例2における、温度差と熱膨張係数との関係を示す説明図。
【図10】実施例3における、剥離率の実測値と計算値との関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0061】
1 セラミック触媒体
11 セラミック担体
12 セル壁
13 セル
14 外周壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーディエライトよりなり、ハニカム状のセル壁に囲まれた多数のセルを有するセラミック担体に触媒を担持させてなるセラミック触媒体について、
該セラミック触媒体の熱膨張係数C1と上記セラミック担体の熱膨張係数C2との差(C1−C2)をΔCTE(×10-6/℃)、
上記セラミック担体の内部温度をT(K)、
上記セラミック担体に存在する2μm以下の微細孔量をD(cc/g)、
上記セラミック担体の表面における開口部の割合を示す表面開口率をS(%)とした場合に、下記の式(1)で表される上記触媒の剥離率Hが35%以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
H=217.254+(−0.167)×T+0.345×D+28.731×ΔCTE−3.343×S ・・・(1)
【請求項2】
請求項1において、上記セラミック触媒体の熱膨張係数C1は、3×10-6/℃以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記セラミック担体の熱膨張係数C2は、1×10-6/℃以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記セラミック触媒体と上記セラミック担体との熱膨張係数の差ΔCTEは、2×10-6/℃以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記セラミック担体の表面開口率Sは、3〜30%であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記セラミック触媒体は、上記セラミック担体の断面における任意の領域に対して、該セラミック担体の内部に浸入した上記触媒が占める領域の割合を示す触媒浸入量が25%以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記セラミック触媒体は、上記セラミック担体の断面における任意の領域に対して、該セラミック担体の内部に浸入した上記触媒が占める領域の割合を示す触媒浸入量が15%以下であることを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記触媒は、Pt、Rh、又はPdから選ばれる1種以上であることを特徴とするセラミック触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−62216(P2008−62216A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245698(P2006−245698)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】