説明

セラミック電子部品の製造方法

【課題】セラミック電子部品の外部端子電極を形成するため、めっきを施したとき、めっき後に部品本体側に残る水分やめっき残渣は、セラミック電子部品の電気絶縁性や寿命特性といった信頼性を低下させることがある。
【解決手段】部品本体2の外表面上にめっき膜からなる外部端子電極8,9を形成した後、部品本体2を、洗浄液を含む超臨界流体中で洗浄する工程を実施する。超臨界流体は、高拡散性であり、浸透性に優れ、さらに高い溶解性を示すため、超臨界流体に含まれる洗浄液は、ナノレベルの微細な空隙や深部にまで、容易に浸透し得る。したがって、めっき後において部品本体側に残ってしまった水分やめっき残渣を確実に除去することができる。好ましくは、超臨界流体として、CO超臨界流体が用いられ、洗浄液として、アセトンまたはアルコール類のような有機溶剤が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミック電子部品の製造方法に関するもので、特に、セラミックをもって構成される部品本体の外表面上にめっき膜を形成する工程を備える、セラミック電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある技術が、たとえば国際公開第2008/059666号パンフレット(特許文献1)に記載されている。特許文献1には、積層型電子部品の外部電極を、部品本体としての積層体の端面上に直接めっきを施すことによって形成した場合、外部電極となるめっき膜と内部電極との接合が不十分なため、外部より水分などが積層体内に浸入しやすい、という課題を解決するため、外部電極となるめっき膜を積層体の端面上に直接形成した後、酸素分圧5ppm以下および温度600℃以上の条件下で熱処理を行なうことが記載されている。この熱処理によれば、内部電極とめっき膜との境界部分に相互拡散層が形成され、この相互拡散層においては、金属の体積膨張が起こり、絶縁体層と内部電極および外部電極の各々との界面に存在し得る隙間が埋められる。
【0003】
上述した熱処理は、めっき後において部品本体側に残ることがある水分、あるいは水素などのめっき残渣を除去することにも効果がある。めっき後の水分やめっき残渣は、セラミック電子部品の電気絶縁性や寿命特性の劣化を招く。特に、積層構造を有する部品本体を備える積層型セラミック電子部品の場合には、内部電極とセラミック層との界面に形成される隙間を通して水分が浸入しやすく、電気絶縁性や寿命特性の劣化を引き起こしやすい。したがって、めっき後において、水分やめっき残渣を除去することは重要となる。
【0004】
しかし、熱処理に、内部電極とめっき膜との境界部分に相互拡散層を形成するといった本来の役割を担わせながら、さらに、めっき後における水分やめっき残渣の除去といった副次的な役割をも果たさせようとすると、熱処理条件の制御がそれほど簡単ではなくなる。そのため、熱処理の結果、たとえば、めっき膜の成分が内部電極へ過度に拡散し、めっき膜中にボイドができやすくなる、といった不具合がもたらされることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/059666号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、上記のような問題点を解決し得る、すなわち、熱処理に頼ることなく、めっき後の水分やめっき残渣を確実に除去することができる、セラミック電子部品の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、セラミックをもって構成される部品本体を用意する工程と、部品本体の外表面上にめっき膜を形成する工程とを備える、セラミック電子部品の製造方法に向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、めっき膜が形成された部品本体を、洗浄液を含む超臨界流体中で洗浄する工程が実施されることを特徴としている。
【0008】
この発明は、部品本体が、積層された複数のセラミック層とセラミック層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを備えるとともに、内部電極の各一部が露出している、積層構造を有し、めっき膜が、内部電極と電気的に接続されるように部品本体の外表面上に形成される外部端子電極の少なくとも一部をなすものであって、内部電極に直接接するように形成されているとき、特に有利に適用される。
【0009】
好ましくは、超臨界流体として、CO超臨界流体が用いられる。
【0010】
また、好ましくは、洗浄液として、アセトンまたはアルコール類のような有機溶剤が用いられる。
【発明の効果】
【0011】
この発明において用いられる超臨界流体は、高拡散性であり、浸透性に優れ、さらに高い溶解性を示す。そのため、超臨界流体に含まれる洗浄液は、ナノレベルの微細な空隙や深部にまで、容易に浸透し得る。したがって、めっき後において部品本体側に残ってしまった水分やめっき残渣を確実に除去することができる。その結果、電気絶縁性や寿命特性といったセラミック電子部品の信頼性を向上させることができる。
【0012】
特に、超臨界流体の浸透性の高さは、部品本体が、積層された複数のセラミック層とセラミック層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを備えるとともに、内部電極の各一部が露出している、積層構造を有し、めっき膜が、内部電極と電気的に接続されるように部品本体の外表面上に形成される外部端子電極の少なくとも一部をなすものであって、内部電極に直接接するように形成されているとき、より効果を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態による製造方法によって製造された積層型のセラミック電子部品1を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、セラミック電子部品1は、積層構造を有する部品本体2を備えている。部品本体2は、その内部に複数の内部電極3および4を形成している。より詳細には、部品本体2は、積層された複数のセラミック層5と、セラミック層5間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極3および4とを備えている。
【0015】
セラミック電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとき、セラミック層5は、誘電体セラミックから構成される。なお、セラミック電子部品1は、その他、インダクタ、サーミスタ、圧電部品などを構成するものであってもよい。したがって、セラミック電子部品1の機能に応じて、セラミック層5は、誘電体セラミックの他、磁性体セラミック、半導体セラミック、圧電体セラミックなどから構成されてもよい。
【0016】
部品本体2の一方および他方端面6および7には、それぞれ、複数の内部電極3および複数の内部電極4の各端部が露出していて、これら内部電極3の各端部および内部電極4の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部端子電極8および9が形成されている。
【0017】
なお、図示したセラミック電子部品1は、2個の外部端子電極8および9を備える2端子型のものであるが、この発明は多端子型のセラミック電子部品にも適用することができる。
【0018】
外部端子電極8および9の各々は、図示した実施形態では、たとえば、部品本体2における内部電極3および4の露出面、すなわち端面6および7上に形成される第1のめっき膜10と、その上に形成される第2のめっき膜11と、その上に形成される第3のめっき膜12とを備えている。これら第1ないし第3のめっき膜10〜12の各々は、以下のような機能を有している。
【0019】
第1のめっき膜10は、複数の内部電極3または複数の内部電極4を互いに電気的に接続するためのものであり、たとえば銅のような良導電性金属を主成分とすることが好ましい。他方、第2および第3のめっき膜11および12は、セラミック電子部品1の実装性を向上させ、または付与するためのものである。より特定的には、第2のめっき膜11は、外部端子電極8および9にはんだバリア性を付与するためのもので、たとえばニッケルを主成分としている。第3のめっき膜12は、外部端子電極8および9にはんだぬれ性を付与するためのもので、たとえば錫または金を主成分としている。
【0020】
なお、外部端子電極8および9の各々が、上記のように、第1ないし第3のめっき膜10〜12の3層から構成される場合以外に、4層以上から構成されても、単に1層ないし2層から構成されてもよい。
【0021】
次に、セラミック電子部品1の製造方法、特に、外部端子電極8および9の形成方法について説明する。
【0022】
まず、周知の方法により、部品本体2が作製される。次に、外部端子電極8および9が、内部電極3および4と電気的に接続されるように、部品本体2の端面6および7上に形成される。ここで、外部端子電極8および9の形成工程では、第1のめっき膜10の形成工程、第2のめっき膜11の形成工程および第3のめっき膜12の形成工程が順次実施される。
【0023】
上述した第1ないし第3のめっき膜10〜12の形成工程では、無電解めっき法または電解めっき法のようなめっき法が適用される。
【0024】
第1のめっき膜10の形成工程について、より詳細に説明すると、まず、めっき前の部品本体2においては、一方の端面6に露出している複数の内部電極3相互、ならびに他方の端面7に露出している複数の内部電極4相互が、電気的に絶縁された状態になっている。第1のめっき膜10を形成するため、まず、内部電極3および4の各々の露出部分に対し、めっき液中の金属イオンを析出させる。そして、このめっき析出物をさらに成長させ、隣り合う内部電極3の各露出部および隣り合う内部電極4の各露出部のそれぞれにおけるめっき析出物を物理的に接続した状態とする。このようにして、均質で緻密な第1のめっき膜10が内部電極3および4に直接接するように形成される。
【0025】
上述した第1のめっき膜10を、銅を主成分とするめっき膜から構成すると、銅のつきまわり性が良好であるので、めっき処理の能率化を図れ、かつ外部端子電極8および9の固着力を高めることができる。
【0026】
なお、図1に示したように、第1のめっき膜10は、部品本体2の1対の端面6および7上に形成されるとともに、その端縁が部品本体2の端面6および7に隣接する1対の主面13および14上ならびに1対の側面上に位置するように形成されている。このような第1のめっき膜10が能率的に形成されることを可能にするため、部品本体2の主面13および14の各端部に、電気的特性の発現に実質的に寄与しないダミー電極15を露出するように形成し、ダミー電極15上に第1のめっき膜10の形成のための金属イオンが析出するようにして、めっき成長を促進するようにしてもよい。
【0027】
また、上述しためっき工程の前に、端面6および7での内部電極3および4ならびにダミー導体の露出を十分なものとするため、部品本体2の端面6および7に研磨処理を施しておくことも好ましい。
【0028】
第1ないし第3のめっき膜10〜12からなる外部端子電極8および9の形成のためのめっき工程を終えた後、部品本体2に対して、洗浄液を含む超臨界流体を用いた洗浄工程が実施される。ここで、洗浄液としては、アセトンまたはアルコール類のような有機溶剤が用いられ、超臨界流体としては、CO超臨界流体が用いられることが好ましい。
【0029】
洗浄液を含む超臨界流体による洗浄工程では、たとえば、圧力容器中に、洗浄液と部品本体2とを封入し、超臨界流体となるべき液体をポンプで加圧しながら圧力容器内に導入し、昇温、昇圧することにより、洗浄液を超臨界流体中に溶解する。次いで、この状態を所定時間保持することにより、部品本体2が有する微細な空隙に洗浄液を超臨界流体とともに浸透させる。そして、圧力容器から部品本体2を取り出し、乾燥する。
【0030】
上述の洗浄工程において用いられた超臨界流体は、高拡散性であり、浸透性に優れ、さらに高い溶解性を示す。そのため、超臨界流体に溶解した洗浄液は、ナノレベルの微細な空隙や深部にまで、容易に浸透し得る。したがって、部品本体2側に存在するナノレベルの微細な空隙や深部にまで、洗浄液を十分に浸透させることが可能となる。その結果、部品本体2に残っためっき後の水分やめっき残渣を確実に除去することができ、電気絶縁性や寿命特性といったセラミック電子部品1の信頼性を向上させることができる。
【0031】
以上説明した実施形態では、外部端子電極8および9が、すべて、めっき膜10〜12から構成されたが、部品本体2上に直接形成される第1のめっき膜10のみがめっきにより形成され、第2および第3のめっき膜11および12に相当する層が、めっき以外の方法によって形成される場合も、この発明の範囲内の実施形態となる。
【0032】
また、図示した実施形態では、積層型のセラミック電子部品1の部品本体2の内部にある内部電極3および4に電気的に接続される外部端子電極8および9を形成するため、めっき膜を形成する工程が実施されたが、この発明は、単に、積層構造または単層構造の部品本体としてのセラミック素体の外表面上にめっき膜を形成する工程を備える、セラミック電子部品の製造方法に対しても適用されることができる。
【0033】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0034】
[実験例]
(1)部品本体準備
積層セラミックコンデンサ用部品本体を準備した。この部品本体は、長さ0.94mm、幅0.47mmおよび高さ0.47mmであって、セラミック層がチタン酸バリウム系誘電体セラミックからなり、内部電極がニッケルを主成分とし、隣り合う内部電極間のセラミック層の各厚みが1.5μmであり、内部電極の積層数が220であった。
【0035】
(2)Cuめっき
次に、上記部品本体に対して、Cuめっきを実施した。
【0036】
より詳細には、上記部品本体を、水平回転バレル中に投入し、それに加えて、直径1.8mmの導電性メディアを投入した。そして、回転バレルを、pHを8.5に調整した浴温25℃のCuめっき用ストライク浴に浸漬させ、回転数10rpmにて回転させながら、電流密度0.11A/dmにて60分間通電して、内部電極の露出する部品本体の端面に、直接、Cuめっき膜を形成した。なお、上記Cuめっき用ストライク浴は、14g/Lのピロリン酸銅、120g/Lのピロリン酸、および10g/Lの蓚酸カリウムを含むものであった。
【0037】
次いで、上記Cuめっき膜を形成した部品本体の入った回転バレルを、pHを8.8に調整した浴温55℃のCuめっき用ピロリン酸浴(上村工業社製「ピロブライトプロセス」)に浸漬させ、回転数10rpmにて回転させながら、電流密度0.30A/dmにて60分間通電した。
【0038】
このようにして、上記Cuめっき膜の上に、さらにCuめっき膜を形成し、Cuめっき膜の厚みは合計約10μmとなった。
【0039】
(3)Niめっき
次に、上記Cuめっき膜上に、Niめっき膜を形成した。
【0040】
より詳細には、上記部品本体を、水平回転バレル中に投入し、それに加えて、直径1.8mmの導電性メディアを投入した。そして、回転バレルを、pHを4.2に調整した浴温60℃のNiめっき用ワット浴に浸漬させ、回転数10rpmにて回転させながら、電流密度0.20A/dmにて60分間通電した。このようにして、Cuめっき膜上に、厚み約4μmのNiめっき膜を形成した。
【0041】
(4)Snめっき
次に、上記Niめっき膜上に、Snめっき膜を形成した。
【0042】
より詳細には、上記Niめっき膜を形成した部品本体の入った回転バレルを、pHを5.0に調整した浴温33℃のSnめっき浴(ディップソール社製「Sn−235」)に浸漬させ、回転数10rpmにて回転させながら、電流密度0.10A/dmにて60分間通電した。このようにして、Niめっき膜上に、厚み約4μmのSnめっき膜を形成し、試料としての積層セラミックコンデンサを完成させた。
【0043】
(5)超臨界CO洗浄処理
上記のように、Cuめっき膜、Niめっき膜およびSnめっき膜からなる外部端子電極が形成された積層セラミックコンデンサを、洗浄液としての有機溶剤とともに、内容積が50mlの超臨界処理用圧力容器に封入し、超臨界流体中の有機溶剤濃度が5体積%となるように、液体COをポンプで加圧しながら圧力容器内に導入し、温度60℃、圧力15MPaとなるまで昇温、昇圧することにより、超臨界CO中に有機溶剤を溶解した。
【0044】
ここで、有機溶剤として、実施例1ではアセトンを用い、実施例2ではメタノールを用い、実施例3ではエタノールを用いた。また、比較例として、有機溶剤を用いない処理も実施した。
【0045】
上記の状態を3時間保持することにより、積層セラミックコンデンサを、上記超臨界流体中で洗浄した。その後、圧力容器から積層セラミックコンデンサを取り出した。
【0046】
(6)評価
各試料に係る積層セラミックコンデンサに対して、温度150℃および相対湿度95%の環境下で、電圧6.3Vを144時間印加する試験を実施した。
【0047】
この試験後において、積層セラミックコンデンサの抵抗が1MΩとなったものを不良と判定し、試料数72個中での不良率を算出した。
【0048】
その結果、不良率は、実施例1では0%(0/72)、実施例2では0%(0/72)、実施例3では0%(0/72)、比較例では100%(72/72)となった。
【0049】
以上の評価結果から、洗浄液を含む超臨界流体中で洗浄する工程を実施することによって、めっき形成時に部品本体内部、めっき膜中、またはめっき膜と部品本体との界面に浸入する水分および水素などのめっき残渣を除去することができ、よって、信頼性が向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0050】
1 セラミック電子部品
2 部品本体
3,4 内部電極
5 セラミック層
6,7 端面
8,9 外部端子電極
10 第1のめっき膜
11 第2のめっき膜
12 第3のめっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックをもって構成される部品本体を用意する工程と、
前記部品本体の外表面上にめっき膜を形成する工程と、
めっき膜が形成された前記部品本体を、洗浄液を含む超臨界流体中で洗浄する工程と
を備える、セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記部品本体は、積層された複数のセラミック層と前記セラミック層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを備えるとともに、前記内部電極の各一部が露出している、積層構造を有し、
前記めっき膜は、前記内部電極と電気的に接続されるように前記部品本体の外表面上に形成される外部端子電極の少なくとも一部をなすものであって、前記内部電極に直接接するように形成されている、
請求項1に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体として、CO超臨界流体が用いられる、請求項1または2に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液として、有機溶剤が用いられる、請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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