説明

セルアレイソータ、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法

【課題】スポットごとに細胞を選別して回収することを容易に実現できるようにする。
【解決手段】セルアレイソータは、基板11と、基板11の上に形成された複数の細胞接着領域25と、複数の細胞接着領域25のそれぞれと対応して設けられた発熱素子17とを備えている。細胞接着領域25の表面には、温度に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する温度応答性高分子27が固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の接着及び遊離を行うセルアレイソータ、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を培養したり、細胞に対して薬剤の影響等を評価したりする細胞工学の分野が著しい発展を遂げている。細胞に対して種々のアッセイを行うためには、まず組織又は病巣等の細胞同士をばらばらにして浮遊させ、種々の細胞が含まれる浮遊液から目的とする細胞を単離し、単離した細胞を必要に応じて培養した後、薬剤の影響等を評価する必要がある。
【0003】
細胞を用いて種々のアッセイを行うために、細胞が接着されるスポット状の細胞接着領域を基板の上に適当な間隔で配列したセルアレイが用いられている。セルアレイの細胞接着領域に細胞を接着して培養することにより、基板上において薬物の毒性や安全性評価等を行うことが研究されている。従来は細胞集団として細胞の機能を診断することしかできなかった。しかし、セルアレイを用いて細胞を個別に固定化することにより、一定の同一機能をもつ細胞が収集できる。このため、DNA、発現タンパク質及び細胞膜構造等の機能評価を精密に行うことが可能となる。
【0004】
一方、細胞は遊離状態では培養することができず、接着領域に接着した状態で培養する必要がある。このため、培養が終了した後、細胞を回収するためには、接着領域に接着された細胞を遊離させる必要がある。細胞を遊離させる最も単純な方法は、トリプシンを用いて細胞の一部を分解することである。しかし、トリプシンを用いた細胞の回収は、細胞にダメージを与える。細胞にダメージを与えることなく、細胞を回収する方法として細胞接着領域を温度応答性高分子等を用いて形成することにより、細胞接着領域における接着性を制御し、細胞を遊離する方法が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−103653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の細胞を回収する方法では、セルアレイ全体から細胞を回収することができるが、個々の細胞ごとに回収することは困難であるという問題がある。光応答性のポリマーを用い、スポットごとに光照射を行うことにより、スポットごとに細胞の回収を行う方法も検討されている。しかし、微細なスポットを選択して正確に光照射を行うことは容易ではない。また、レーザ光を用いた光ピンセット等を用いる方法も考えられるが、操作が煩雑であり、大量の細胞を扱うことは困難である。
【0007】
本発明は、前記の問題を解決し、スポットごとに細胞を選別して回収することを容易に実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的に、本発明に係るセルアレイソータは、基板と、基板の上に形成され、温度に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する温度応答性高分子が表面に固定された複数の細胞接着領域と、複数の細胞接着領域のそれぞれと対応して設けられた発熱素子とを備えている。
【0009】
本発明のセルアレイソータは、複数の細胞接着領域のそれぞれと対応して設けられた発熱素子を備えている。このため、温度応答性高分子を固定した細胞接着領域ごとに温度を制御することができ、温度応答性高分子を細胞接着性の状態としたり、細胞非接着性の状態としたりすることが自由にできる。従って、細胞接着領域ごとに細胞の接着と遊離とを自由に制御することが可能となり、細胞を選別して回収することが容易にできる。
【0010】
本発明のセルアレイソータにおいて、発熱素子は、発熱抵抗体とすればよい。この場合において、発熱抵抗体に電圧を印加する配線をさらに備えていてもよい。また、発熱素子は、誘導発熱体であっても、光吸収発熱体であってもよい。
【0011】
本発明のセルアレイソータにおいて、温度応答性高分子は、相転移温度よりも高い温度では疎水性となり、相転移温度よりも低い温度では親水性となる構成とすればよい。
【0012】
本発明のセルアレイソータにおいて、細胞接着領域は、基板の上に選択的に形成され、金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞接着スポットを有し、温度応答性高分子は、細胞接着スポットの表面に固定されていてもよい。
【0013】
本発明のセルアレイソータは、細胞接着領域を囲む細胞非接着領域をさらに備え、細胞非接着領域は、細胞非接着材料に覆われていてもよい。
【0014】
本発明のセルアレイソータは、基板の上に形成され、複数の凹部を有する絶縁層をさらに備え、細胞接着領域は、凹部に形成されている構成としてもよい。
【0015】
本発明のセルアレイソータは、細胞接着領域を囲む細胞非接着領域をさらに備え、細胞非接着領域は、複数の開口部を有し、金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞非接着領域形成膜と、細胞非接着領域形成膜の上に固定された細胞非接着材料とを有し、細胞接着領域は、開口部に形成されていてもよい
本発明に係るセルアレイソータの製造方法は、基板に複数の発熱素子を形成する工程(a)と、基板の発熱素子と対応する位置に細胞接着領域をそれぞれ形成する工程(b)とを備え、工程(b)では、温度に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する温度応答性高分子を発熱素子と対応する位置に固定する。
【0016】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、工程(b)は、基板の上に金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞接着スポットを形成する工程(b1)と、細胞接着スポットの表面に温度応答性高分子を固定する工程(b2)とを含んでいてもよい。
【0017】
この場合において、工程(b2)は、細胞接着スポットの表面に重合開始剤を導入する工程と、細胞接着スポットに導入された重合開始剤を用いて温度応答性高分子を重合する工程とを含んでいてもよい。また、工程(b2)は、細胞接着スポットの表面に反応性の官能基を有するリンカー分子を導入する工程と、反応性の官能基と温度応答性高分子中の官能基とを反応させる工程とを含んでいてもよい。
【0018】
本発明のセルアレイソータの製造方法は、細胞接着領域を除く領域に細胞非接着性材料を固定することにより細胞非接着領域を形成する工程(c)をさらに備えていてもよい。
【0019】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、工程(c)は、発熱素子と対応する領域に開口部を有する金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞非接着領域形成膜を形成する工程(c1)と、細胞非接着領域形成膜の表面に細胞非接着材料を固定する工程(c2)とを含み、工程(b)では、開口部に細胞接着領域を形成してもよい。
【0020】
本発明のセルアレイソータは、工程(a)よりも後に、基板の上に、発熱素子と対応する位置に凹部を有する酸化シリコンを含む絶縁層を形成する工程(c)をさらに備え、工程(b)では、凹部に細胞接着領域を形成してもよい。
【0021】
本発明に係る細胞ソート方法は、本発明に係るセルアレイソータを用い、複数の発熱素子を発熱させた状態で、細胞接着スポットに細胞を接着して細胞培養を行う工程と、細胞接着スポットに固定された細胞の特性を評価して回収する細胞を特定する工程と、特定した細胞が接着された細胞接着スポットに対応する発熱素子の発熱を停止し、特定の細胞を回収する工程とを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明の細胞ソート方法は、特定した細胞が接着された細胞接着スポットに対応する発熱素子の発熱を停止し、特定の細胞を回収する。このため、特定の細胞の回収を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るセルアレイソータ、その製造方法及び細胞ソート方法によれば、スポットごとに細胞を選別して回収することを容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るセルアレイソータを示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)のIb−Ib線に沿った断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法を工程順に示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法を工程順に示す平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの変形例を示す断面図である。
【図8】(a)及び(b)は細胞接着スポットへの細胞の接着及び遊離をそれぞれ示す位相顕微鏡写真である。
【図9】温度応答性高分子を固定した場合と温度応答性高分子を固定していない場合とにおける、温度変化による細胞の遊離率を示すグラフである。
【図10】細胞接着スポットの径が15μmで間隔が75μmの場合におけるセルアレイソータへの細胞の接着を示す位相顕微鏡写真である。
【図11】細胞接着スポットの径が30μmで間隔が50μmの場合におけるセルアレイソータへの細胞の接着を示す位相顕微鏡写真である。
【図12】細胞接着スポットの径が50μmで間隔が150μmの場合におけるセルアレイソータへの細胞の接着を示す位相顕微鏡写真である。
【図13】(a)及び(b)は、細胞接着スポットの径が50μmで間隔が150μmの場合における細胞の接着及び遊離をそれぞれ示す位相顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るセルアレイソータであり、(a)は平面構成を示し、(b)は(a)のIb−Ib線における断面構成を示している。本実施形態のセルアレイソータは、ガラスからなる基板11の上に形成された複数の発熱素子17と、発熱素子17と対応する位置にそれぞれ形成された細胞接着領域25とを備えている。
【0026】
本実施形態において、発熱素子17は、基板11はニッケル−クロム合金等からなる発熱抵抗体である。基板11の上には、発熱素子17に電圧を供給する第1の配線13及び第2の配線21が形成されている。発熱素子17と第1の配線13及び第2の配線21とはそれぞれプラグ16及びプラグ20によって接続されている。本実施形態においては、第1の配線13は発熱素子17よりも下側に形成された絶縁膜15に埋め込まれている。第2の配線21は発熱素子17よりも上側に形成された絶縁膜23に埋め込まれている。また、発熱素子17は、絶縁膜15と絶縁膜23との間に形成された絶縁膜19に埋め込まれている。
【0027】
図1においては、基板11と細胞接着領域25との間に3層の絶縁膜が形成されている例を示したが、発熱素子17と発熱素子17に電圧を供給する配線が形成できれば、どのような層構造になっていてもよい。例えば、発熱素子17と配線とが同一の層に形成されていたり、配線が複数の層に亘って形成されていたりしてもよい。
【0028】
細胞接着領域25は、金膜からなる細胞接着スポット26と、細胞接着スポット26の表面に固定された温度応答性高分子27とを含む。
【0029】
温度応答性高分子とは、特定の相転移温度において急激な相転移が生じ、疎水性の状態と親水性の状態とを可逆的にスイッチできるポリマーである。通常の細胞は、疎水性の状態において接着されやすく、親水性の状態において接着されにくい。このため、相転移温度を境に、温度応答性高分子を細胞接着性の状態としたり、細胞非接着性の状態としたりすることができる。
【0030】
温度応答性高分子には、高温において疎水性となり相分離し、低温において溶解するものと、低温において疎水性となり相分離し、高温において溶解するものとがある。高温において相分離する場合には、一般に下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature, LCST)以上の温度に加熱すると白濁し、それ以下の温度に冷却すると再び溶解して透明に戻るという可逆的な相分離挙動を示す。逆に低温において相分離する場合には、上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature, UCST)以下の温度になると相分離し、上限臨界温度以上の温度に加熱すると再び溶解するという可逆的な相分離挙動を示す。下限臨界溶液温度を示す温度応答性高分子の例としては、ポリ(N−置換アクリルアミド)、ポリ(N−置換メタクリルアミド)、ポリエーテル類及びメチルセルロース等がある。上限離間溶液温度を示す温度応答性高分子の例としては、双極性高分子であるスルホベタインポリマー等がある。目的に応じてどちらのタイプの温度応答性高分子を用いてもよい。
【0031】
より具体的には、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)に代表される、ポリ(N−アルキル(メタ)アクリルアミド)(但し、アルキル基はエチル、n-プロピル、イソプロピル、3−エトキシプロピル、イソブチル、シクロヘキシルアクリルアミド、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、アセチル、trans−(2−エトキシ−1,3−ジオキサン−5−イル、ピレニル等である。)とすればよい。
【0032】
また、ポリ(メタクリロイルD,L−アラニンアルキルエステル(但し、アルキル基はメチル、エチル、プロピル等である。)、(Nα−アセチル−Nε−メタクリルアミド−D,L−リジンメチルエステル)、ポリ(Nε−アセチル−Nα−メタクリルアミド−D,L−リジンメチルエステル、及びポリ(N−(メタ)アクリロイル−D,L−プロリン)(但し、エステルアルキル基はエチル、メチル、プロピル等である。)等のアミノ酸誘導体ポリマーとしてもよい。この場合、光学異性体のL−体及びD−体の一方であっても、D−体及びL−体の混合物であってもよい。さらにD−体とL体との繰り返し単位が形成されていてもよい。
【0033】
ポリ(ビニルカプロラクタム)、ポリビニルエーテル類、アルキルセルロース類(アルキル基はエチル、メチル、プロピル等)、ポリ(N−アルキルフマルアミド)、ポリ(エチルエチレンフォスフェート)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(γ−グルタメート)、ポリ(スチレンスルホン酸塩)、ポリ(ビニルイソブチルアミド)、ポリ(ビニルカプロラクタム)、及びポリ(スルホベタイン)からなるポリマーの繰り返し単位を有する多元ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であってもよい。
【0034】
また、先に述べた種々のポリマーがN,N-メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤によりゲル化していたり、相互貫入型ポリマーネットワークとなっていてもよい。これらのポリマーのいずれかが、コア−シェル型ポリマー構造の少なくとも一方に含まれている構造であってもよい。これらのポリマーがシリカ若しくはマイカ等の無機担体表面又はポリフォスファゼンの表面にグラフト重合した構造であってもよい。これらのポリマーとヒドロキシエチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルセルロース等のポリマー担体又は無機担体との混合物で合ってもよい。
【0035】
さらに、以下のような成分を共重合体成分として含んでいてもよい。アクリル酸、(メタ)アクリル3−(トリアルコキシシリル)プロピル、N−ビニルピロリドン、(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸アルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヘチルヘキシル等)、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンスチレン、フマル酸アルキルエステル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等)、N−(メタ)アクリロイルスクシンイミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸塩、メタクリル酸3−スルホプロピル塩、5−メタクリロイルオキシウンデンカン酸塩、11−メタクリロイルオキシウンデカン酸塩、ウンデセン酸、金属ポルフィリン錯体、O−(メタ)アクリロイル−D,L−セリン、O−(メタ)アクリロイル−D,L−トレオニン、N−D,L−アミノ酸(メタ)クリルアミド、D,L−アミノ酸(メタ)アクリル酸エステル(但し、アミノ酸はグリシン、アラニン等である。)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリフェロセン−ブロック−ポリシロキサン、ポリフェニレンビニレン−ブロック−ポリスチレン、ポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド、ポリスチレン−ブロック−ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド−ブロック−ポリ((メタ)アクリル酸2−テトラヒドロピラニル)、ポリエチレンオキシド−ブロック−ポリプロピレンオキシド−ブロック−ポリエチレンオキシド、ポリ(L−ラクチド−starブロック−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、デキストラン−グラフト−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−N,N−ジメチルアクリルアミド)、及びポリエチルグリシジルエーテル−ブロック−ポリエチレングリコール等。
【0036】
また、温度応答性高分子を固定しやすくするために、末端にアミノ基又はカルボキシル基等が導入されるような、開始剤を用いたり、共重合成分を添加したりしてもよい。
【0037】
温度応答性高分子は、細胞培養の際に細胞接着性のタンパク質及びペプチド等を補助物質として細胞を接着させる足場を形成でき、温度変化によって接着した細胞が表面から遊離する性質を有していればよい。細胞の温度応答性高分子からの遊離は、温度変化によるポリマー鎖の媒体への溶解性の変化、ポリマー表面の親水性と疎水性との間の変化又はポリマー表面のイオン状態の変化等により引き起こされる。細胞が温度応答性高分子から遊離する際に、タンパク質及びペプチド等の細胞接着の補助物質が共に遊離してもよく、補助物質の遊離が生じなかったり、別のタイミングで生じてもよい。
【0038】
温度応答性高分子は、相転移温度において、培養細胞の接着あるいは増殖時には細胞が接着できる足場となる状態と、細胞が遊離する状態とがシャープに変化することが好ましい。相転移温度は、目的培養細胞に応じて、細胞の接着及び増殖が効果的にできる温度域にあることが好ましい。目的細胞が一般的な細胞の場合には、相転移温度は20℃〜40℃付近となる。また、疎水性の変化により細胞の接着性を変化させる場合には、細胞が接着しやすい状態で接触角を50°〜80°程度とし、細胞が遊離しやすい状態で接触角がそれ以下となるようにすればよい。
【0039】
本実施形態のセルアレイソータは、温度応答性高分子27が固定された細胞接着領域25のそれぞれに対応して発熱素子17が形成されている。発熱素子17は、それぞれ独立した第1の配線13及び第2の配線21が接続されており、発熱及び発熱の停止を独立して行うことができる。このため、細胞接着領域25ごとに、温度を制御することができ、細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とを自由に設定することができる。このため、例えば次の様な操作をすることにより特定の細胞だけを回収することが可能となる。
【0040】
例えば、温度応答性高分子27の相転移温度が37℃程度の場合、まず発熱素子17を発熱させ細胞接着領域25の温度を37℃として、温度応答性高分子27を細胞接着性の状態とする。これにより、細胞は細胞接着領域25の表面に接着され、培養及び評価を行うことができる。培養及び評価を行い回収する細胞を特定した後、特定した細胞が接着された細胞接着領域25に対応する発熱素子17を発熱停止状態とする。これにより、対応する細胞接着領域25の温度は、温度応答性高分子27の相転移温度よりも低い25℃程度となり、温度応答性高分子27は細胞非接着状態となる。従って、この細胞接着領域25に接着された特定の細胞だけを選択的に遊離させて回収することができる。
【0041】
細胞接着領域25のサイズ及び配置は適宜設定すればよいが、径dを30μm〜50μm程度とし、中心間の間隔pが50μm〜150μm程度のマトリックス状に配置すれば、細胞の評価に適している。このようなサイズと間隔であれば、25mm×75mmのガラス基板の上に30万個程度のスポットが形成できる。
【0042】
以下に、本実施形態のセルアレイソータの製造方法について図面を参照して説明する。図2及び図3は、本実施形態に係るセルアレイソータの製造方法を工程順に示している。まず、図2(a)に示すように、ガラスからなる基板11の上に銅(Cu)膜を形成した後、選択的に除去することにより第1の配線13を形成する。
【0043】
次に、図2(b)に示すように、基板11の上にSiO2等からなる絶縁膜15を形成する。続いて、発熱素子17と第1の配線13とを接続するプラグ16を形成する。
【0044】
次に、図2(c)に示すように、絶縁膜15の上に、Ni−Cr合金からなる発熱素子17を形成する。発熱素子17の一端がプラグ16と接続されるようにする。
【0045】
次に、図3(a)に示すように、発熱素子17を覆うようにSiO2等からなる絶縁膜19を形成する。続いて、発熱素子17とプラグ16と接続されていない側の端部と接続されたプラグ20を形成する。続いて、絶縁膜19の上にCu等からなる第2の配線21を形成する。第2の配線21はプラグ20と接続されるように形成する。
【0046】
次に、図3(b)に示すように、第2の配線21を覆うようにSiO2等からなる絶縁膜23を形成する。
【0047】
次に、図3(c)に示すように、絶縁膜23の上における発熱素子17と対応する位置に、金等からなる細胞接着スポット26を形成する。細胞接着スポット26の形成は、一般的な半導体装置の製造方法を応用すればよい。例えば、フォトリソグラフィー、電子線蒸着及びリフトオフ法とを用いれば選択的に金等からなる細胞接着スポット26を形成できる。また、細胞接着スポット26が炭素質膜からなる場合には化学気相蒸着法(CVD法)等とドライエッチング等を用いて形成することも可能である。
【0048】
次に、細胞接着スポット26の表面に温度応答性高分子(図示せず)を固定する。温度応答性高分子の固定は、種々の方法を用いることができるが、例えば、温度応答性高分子の末端にチオール(SH)基を導入し、チオール基が導入された温度応答性高分子と金膜とを反応させればよい。チオール基の導入はポリマー鎖末端がカルボキシル基であれば、メルカプトアミンと反応させればよい。このとき、カルボキシル基やアミノ基を活性化するカルボジイミド系縮合剤を使用して末端の反応性を高めてもよい。末端基の反応性を高めポリマー鎖中に含まれる水酸基、アミド基及びエステル基等と反応しない試薬であれば、活性化剤はカルボジイミド系に限るものではない。チオール基と金膜との反応は、金膜を酸化処理剤等により洗浄して活性化した後、直ちに行うことが好ましい。また、反応の際に超音波等を印加してもよい。
【0049】
金膜に、チオール基及びアミノ基等と反応する官能基を有する2官能性のリンカーを固定した後、温度応答性高分子のアミノ基とリンカーとを反応させてもよい。リンカー分子には、ジチオビススクシニミジルウンデカノエート(DSU)等を用いればよい。また、リンカー分子は、2官能性に限らず3官能性以上のリンカーを用いてもよい。
【0050】
また、次のような方法を用いてもよい。細胞接着領域25の表面を酸化処理剤等で洗浄したのち、細胞接着領域25の表面とアルキルチオール又はチオコレステロール等のチオール化合物と反応させて細胞接着領域25の表面に有機薄膜を形成する。有機薄膜と細胞接着領域25とを反応させる際には、エタノール等の溶剤に溶解させたチオール化合物を溶解させた溶液として反応させればよい。反応終了後、未反応のチオール化合物を溶剤により除去し、真空乾燥する。
【0051】
次に、形成した有機薄膜に酸素又はアルゴン等のプラズマを照射して、有機薄膜の表面にフリーラジカルを発生させる。発生させたフリーラジカルは酸素を含むガス中に暴露することにより過酸化物に転化する。続いて、温度応答性を発現するモノマーをポストグラフト重合して温度応答性高分子27を形成する。フリーラジカルは、紫外光、γ線等の高エネルギー粒子線又は酸化処理剤等を利用して発生させてもよい。また、フリーラジカルを酸素含むガス中において発生させることにより、フリーラジカルから過酸化物への転化を同時に行ってもよい。有機薄膜を形成するチオール化合物は、低温プラズマの照射によってフリーラジカルを生成しやすいチオール化合物を用いることが好ましい。
【0052】
また、以下のようにして細胞接着スポットの表面に温度応答性高分子を固定してもよい。まず、金膜と、ω−ヒドロキシアミノアルカンチオール、ω−ヒドロキシアミノアルキルアミノ−1,3,5−トリアジン2,4−ジチオール又はα−リポ酸等のリンカー分子とを反応させる。次に、4,4'−アゾビス(4−イソシアノ吉草酸クロリド)等の重合開始剤のアミノ基、水酸基又はカルボキシル基をリン化分子と縮合反応させ、重合開始剤を金膜の表面に導入する。この後、金膜の表面に温度応答視を発現するモノマーをグラフト重合する。グラフト重合には、例えば光照射下の熱重合を用いればよい。
【0053】
最初に金膜と反応させるリンカー分子は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基若しくは水酸基又はジスルフィド結合等を有し金膜の表面に導入でき、且つ重合開始剤と縮合反応させることができる分子であればよい。ペプチド又はタンパク質等の分子も利用可能である。
【0054】
重合開始剤には、過酸化水素、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、2,2'−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−イル]プロパン等を用いることができる。2−ブロモプロピオニルブロミド等を開始剤として用いれば、原子移動ラジカル重合(ATRP)法によるグラフト重合も可能である。
【0055】
また、金膜と反応する2−ブロモ−2−メチルプロパン酸11−メルカプトウンデシル又はジチオビス(2−ブロモ−2−メチルプロパン酸ウンデシル)等を用いればリンカー分子を用いなくても金膜の表面に重合開始剤を導入できる。この場合、ATRP法により温度応答性高分子の重合を行えばよい。
【0056】
ポリマーの重合は、熱、光、付加開裂移動型(RAFT)重合又は原子移動ラジカル重合(ATRP)法等のどのようなものであってもよい。さらに、導入する開始剤を適宜選択することによりアニオン重合又はカチオン重合を用いてもよい。
【0057】
本実施形態のセルアレイソータは、細胞接着スポット26を金膜とした。しかし、チオール基と反応する材料からなる膜であればよい。例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)又はパラジウム(Pd)等の貴金属からなる膜を用いることができる。また、チタン(Ti)、ジルコン(Zr)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、エルビウム(Eu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)又は鉄(Fe)等の遷移金属からなる膜を用いてもよい。遷移金属の酸化物又は窒化物等を用いることも可能である。さらにポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、フラーレンC60、ポリN−ビニルカルバゾール、ポリテトラフロオロエチレン等の有機膜であってもよい。
【0058】
この他、炭素質膜を用いることも可能である。炭素質膜とは、sp2炭素−炭素結合及びsp3炭素−炭素結合を有するダイヤモンド様(DLC)膜等の膜である。炭素質膜は、スパッタ法及びCVD法等の既知の方法により形成すればよい。また、炭素質膜にシリコン又はフッ素等を添加してもかまわない。
【0059】
炭素質膜の表面に温度応答性高分子を固定する場合には、炭素質膜にプラズマを照射してカルボキシル基又はアミノ基等の官能基を導入した後、導入した官能基と温度応答性高分子の末端官能基とを反応させればよい。この場合、ヒドロキシスクシンイミド等を用いてどちらか一方の官能基をさらに修飾して活性化したり、2官能性のリンカー分子を介して接続したりしてもよい。
【0060】
また、炭素質膜にプラズマを照射してラジカルを発生させ、発生したラジカルを重合開始点としてモノマーをグラフト重合することにより温度応答性高分子を固定してもよい。
【0061】
各発熱素子17に独立して電圧を印加するために第1の配線13及び第2の配線21がどちらも独立して形成されている構成とした。しかし、各発熱素子17に独立して電圧を印加できればよく、第1の配線13及び第2の配線21の一方は、共通配線としてもよい。また、マトリックス状の配線として行と列とを選択できるようにしてもよい。第1の配線13と第2の配線21とを異なる配線層に形成したが、同一の配線層に形成してもよい。
【0062】
また、図4に示すように、絶縁膜23の上に細胞接着スポット26を直接形成するのではなく、絶縁膜23に凹部23aを形成し、凹部23aに細胞接着スポット26を形成してもよい。
【0063】
さらに、細胞接着スポットを形成せず、絶縁膜23に温度応答性高分子を直接固定してもよい。例えば、まず(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン又は2−フェニル−2−[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ)オキシ]オクチルトリエトキシシランにより絶縁膜23の表面を選択的に修飾する。次に、原子移動ラジカル重合(ATRP)法等によりポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等を重合して、温度応答性高分子を固定すればよい。
【0064】
温度応答性高分子を重合して固定するのではなく、あらかじめ形成した温度応答性高分子をシランカップリング剤を用いて固定してもよい。基板11がガラス又はSiO2からなる場合には、同様にして基板11の表面に温度応答性高分子を直接導入することにより、基板11の表面に直接細胞接着領域を形成することも可能である。この場合、発熱素子は基板の裏面に形成すればよい。
【0065】
本実施形態は、絶縁膜23の細胞接着領域25が形成されていない領域に、何ら処理を行わない例を示した。しかし、図5に示すように絶縁膜23の細胞接着領域25が形成されていない領域に細胞非接着材料29を固定し、細胞接着領域25を囲む細胞非接着領域28を形成してもよい。細胞非接着領域28を形成することにより、細胞接着領域25以外の領域への非特異的な細胞の接着を低減することができる。
【0066】
細胞非接着材料29は、細胞の非特異的な接着が少ない材料であればどのような材料であってもよい。例えば、ポリ(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)及びポリエチレングリコール等を用いればよい。
【0067】
細胞非接着材料29を絶縁膜23の表面に固定する方法もどのような方法を用いてもよい。例えば、絶縁膜がSiO2等の場合には、シランカップリング剤を用いて固定すればよい。また、細胞非接着材料29であるポリマーをアルコキシルシラン等により修飾し、修飾したポリマーを固定すればよい。さらに、ポリマーを固定するのではなく、絶縁膜の表面にω−アミノアルキルトリアルコキシシラン等を反応させ、4,4'−アゾビス(4−イソシアノ吉草酸クロリド)等の重合開始剤を固定した後、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−エトキシアクリレート、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール又は(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールアルキルエステル等の細胞非接着性材料となるモノマーをグラフト重合してもよい。
【0068】
例えば、SiO2膜の表面をω−アミノプロピルテトラアルコキシシランにより処理して、SiO2膜の表面にアミノ基を導入する。この後、導入したアミノ基を用いて2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とを共重合させる。このようにして、SiO2膜の表面に、ポリ(2−(メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン(PMPC)を導入してもよい。
【0069】
細胞接着領域25を細胞接着スポットを用いずに絶縁膜23の表面に直接形成した場合には、図6に示すように絶縁膜23に細胞非接着材料29を直接固定するのではなく、細胞非接着領域形成膜30を介して細胞非接着材料29を固定してもよい。細胞非接着領域形成膜30は、絶縁膜23における発熱素子17と対応する位置に、絶縁膜23を露出する開口部を有する。細胞非接着領域形成膜30は、絶縁膜23とは異なる材料とすればよく、例えば細胞接着スポットと同じ材料により形成すればよい。このようにすれば、細胞接着スポットに温度応答性高分子を固定する場合と同様にして、細胞非接着材料29を細胞非接着領域形成膜30に固定することができる。
【0070】
また、細胞非接着領域形成膜が金膜等の場合には、まず、膜表面をジチオビス(ウンデカン酸スクシイミジル)で処理した後、末端にアミノ基を有する開始剤を固定化する。続いて、ポリ(2−(メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン(PMPC)を重合してもよい。また、金膜の表面においてPMPCを重合するのではなく、連鎖移動重合法により、末端にアミノ基を導入したPMPCをあらかじめ調製し、調製したPMPCを表面処理した金膜と反応させてもよい。また、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とを共重合した後、共重合体をω−アミノプロピルテトラアルコキシチオールにより処理した金膜の表面に固定してもよい。
【0071】
基板11はガラス基板に代えてシリコン基板等としてもよい。但し、あまり熱伝導率が高くない基板の方が好ましい。また、導電性のシリコン基板を用いた場合には、基板を各発熱素子17に共通の接地配線として使用してもよい。
【0072】
第1の配線及び第2の配線は銅に限らずアルミニウム(Al)等としてもよい。また、絶縁膜もSiO2に限らない。
【0073】
本実施形態においては、発熱素子17を発熱抵抗体としたが、複数の細胞接着領域25を独立して温度制御できればどのようなものであってもよい。例えば、発熱抵抗体に代えて、誘導電流が流れることにより発熱する誘導発熱体としてもよい。この場合には配線を形成する必要はなく、図7に示すように、基板11上に誘導発熱体17Bを形成し、誘導電流を発熱体に流すための誘導コイル32を配置した発熱制御部31をセルアレイソータとは別に設ければよい。
【0074】
また、光を吸収して発熱する光吸収発熱体を発熱素子として用いてもよい。光吸収発熱体は例えば、銅クロロフィリン錯体等を用いることができる。光吸収発熱体を用いた場合には、光照射により細胞接着領域を加熱すればよい。
【0075】
図8は温度応答性高分子を固定した金膜への細胞の接着性であり、(a)は細胞背着スポットを37℃とした場合を示し、(b)は細胞接着スポットを25℃とした場合を示している。細胞には、He−La細胞を用い、播種量は1×105細胞/mlとした。温度応答性高分子には、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)とメタクリル酸メチル(MMA)との共重合体(P(HPMA−Co−MMA))を用いた。HPMAとMMAとの共重合比は0.7:0.3程度であり、数平均分子量は27000程度とした。この場合の、相転移温度は約37℃であった。
【0076】
細胞接着スポットは金膜とし、細胞接着スポットの径dは30μmとし、細胞接着スポットの間隔pは50μmとした。温度応答性高分子を固定した細胞接着スポットの水に対する接触角は、37℃では66°程度であり、26℃では59°程度であった。
【0077】
図8(a)及び(b)に示すように37℃の場合に接着していた細胞が、25℃とした場合にはほとんど遊離した。
【0078】
図9は温度応答性高分子を固定した金膜及び温度応答性高分子を固定していない金膜からの細胞の遊離を示している。培養後に温度を37℃から25℃に下げた場合に遊離した細胞の比率と、その後トリプシン処理により遊離した細胞の比率とを示している。温度応答性高分子を固定した金膜の場合には、温度を37℃から25℃に下げることにより91.5%の細胞が遊離した。しかし、温度応答性高分子を固定していない金膜の場合には、温度を変化させても21%の細胞しか遊離しなかった。
【0079】
細胞の接着には、細胞接着スポットの径及び間隔が大きく影響する。図10〜図12は細胞世着スポットの径及び間隔が異なるセルアレイソータへの細胞接着の状態を示している。図10は、径dが15μmで間隔pが75μmの場合であり、図11(b)は径dが30μmで間隔pが50μmの場合であり、図12(c)は径dが50μmで間隔pが150μmの場合である。細胞接着スポットに固定した温度応答性高分子は、相転移温度が約37℃のP(HPMA−Co−MMA)であり、培養の際の温度は37℃とした。
【0080】
図10に示すように、径dが15μmで間隔pが75μmの場合には、他の条件の場合よりも細胞接着スポットへの細胞の接着量が少なかった。径dが50μmで間隔pが150μの場合には、1つの細胞接着スポットに複数の細胞が接着されている場合が認められた。径dが30μmで間隔pが50μmの場合には細胞接着スポットに複数の細胞が接着されている状態はほとんど認められなかった。このように、細胞接着スポットの径d及び間隔pにより細胞の接着状態等が異なるため、培養及び評価に応じて細胞接着スポットの径d及び間隔pを適宜変更すればよい。
【0081】
図13に示すように、径dが50μmで間隔pが150μmの場合にも、(a)に示す発熱素子を発熱状態から(b)に示す発熱停止状態とすると、細胞接着スポットから細胞を遊離させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るセルアレイソータ、その製造方法及び細胞ソート方法は、スポットごとに細胞を選別して回収することを容易に実現でき、細胞を用いた種々のアッセイに用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
11 基板
13 第1の配線
15 絶縁膜
16 プラグ
17 発熱素子
17B 発熱素子
19 絶縁膜
20 プラグ
21 第2の配線
23 絶縁膜
25 細胞接着領域
26 細胞接着スポット
27 温度応答性高分子
28 細胞非接着領域
29 細胞非接着材料
30 細胞非接着領域形成膜
31 発熱制御部
32 誘導コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成され、温度に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する温度応答性高分子が表面に固定された複数の細胞接着領域と、
前記複数の細胞接着領域のそれぞれと対応して設けられた発熱素子とを備えていることを特徴とするセルアレイソータ。
【請求項2】
前記発熱素子は、発熱抵抗体であることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項3】
前記発熱抵抗体に電圧を印加する配線をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項4】
前記発熱素子は、誘導発熱体であることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項5】
前記発熱素子は、光吸収発熱体であることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項6】
前記温度応答性高分子は、相転移温度よりも高い温度では疎水性となり、相転移温度よりも低い温度では親水性となることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項7】
前記細胞接着領域は、前記基板の上に選択的に形成され、金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞接着スポットを有し、
前記温度応答性高分子は、前記細胞接着スポットの表面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項8】
前記細胞接着領域を囲む細胞非接着領域をさらに備え、
前記細胞非接着領域は、細胞非接着材料に覆われていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項9】
前記基板の上に形成され、複数の凹部を有する絶縁層をさらに備え、
前記細胞接着領域は、前記凹部に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項10】
前記細胞接着領域を囲む細胞非接着領域をさらに備え、
前記細胞非接着領域は、複数の開口部を有し、金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞非接着領域形成膜と、前記細胞非接着領域形成膜の上に固定された細胞非接着材料とを有し、
前記細胞接着領域は、前記開口部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項11】
基板に複数の発熱素子を形成する工程(a)と、
前記基板の前記発熱素子と対応する位置に細胞接着領域をそれぞれ形成する工程(b)とを備え、
前記工程(b)では、温度に応答して細胞接着性の状態と細胞非接着性の状態とが変化する温度応答性高分子を前記発熱素子と対応する位置に固定することを特徴とするセルアレイソータの製造方法。
【請求項12】
前記工程(b)は、
前記基板の上に金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞接着スポットを形成する工程(b1)と、
前記細胞接着スポットの表面に前記温度応答性高分子を固定する工程(b2)とを含むことを特徴とする請求項11に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項13】
前記工程(b2)は、前記細胞接着スポットの表面に重合開始剤を導入する工程と、前記細胞接着スポットに導入された前記重合開始剤を用いて前記温度応答性高分子を重合する工程とを含むことを特徴とする請求項12に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項14】
前記工程(b2)は、前記細胞接着スポットの表面に反応性の官能基を有するリンカー分子を導入する工程と、前記反応性の官能基と前記温度応答性高分子中の官能基とを反応させる工程とを含むことを特徴とする請求項12に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項15】
前記細胞接着領域を除く領域に細胞非接着性材料を固定することにより細胞非接着領域を形成する工程(c)をさらに備えていることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項16】
前記工程(c)は、
前記発熱素子と対応する領域に開口部を有する金属膜、炭素質膜又は有機膜からなる細胞非接着領域形成膜を形成する工程(c1)と、
前記細胞非接着領域形成膜の表面に細胞非接着材料を固定する工程(c2)とを含み、
前記工程(b)では、前記開口部に前記細胞接着領域を形成することを特徴とする請求項15に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項17】
前記工程(a)よりも後に、前記基板の上に、前記発熱素子と対応する位置に凹部を有する酸化シリコンを含む絶縁層を形成する工程(d)をさらに備え、
前記工程(b)では、前記凹部に前記細胞接着領域を形成することを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のセルアレイソータを用い、
前記複数の発熱素子を発熱させた状態で、前記細胞接着スポットに細胞を接着して細胞培養を行う工程と、
前記細胞接着スポットに接着された細胞の特性を評価し、回収する細胞を特定する工程と、
特定した細胞が接着された細胞接着スポットに対応する発熱素子の発熱を停止し、前記特定した細胞を回収する工程とを備えていることを特徴とする細胞ソート方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−101626(P2011−101626A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258245(P2009−258245)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】