説明

セルセパレータ及びそれを用いた細胞分離方法

【課題】血液、リンパ液、唾液、鼻汁等の検体液に対する前処理が不要で、簡単な構造で確実かつ容易に微量の検体液中の細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れ、また分離した細胞の観察を簡便に行うことができ操作性に優れ、また使用した後は簡単に洗浄することができ繰り返して使用でき省資源性に優れるセルセパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のセルセパレータ1は、(a)親水性の流路面3を有し検体液12が滴下される第一基板2と、(b)流路面3と微小間隔をあけて対向する親水性の対向面6と、対向面6の所定部に形成された検体液接触部7と、を有する第二基板5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、リンパ液、唾液、鼻汁等の検体液から細胞を分離するセルセパレータ及びそれを用いた細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば血液の成分分離を行うためには、抗凝血剤の入った試験管に血液を入れて遠心分離を行っていたが、わずかな白血球を分離するために多量の血液を採血する必要があるばかりでなく、遠心分離後の操作が煩雑で作業性に欠けるという問題点があった。
この問題点を解決するために、近年、マイクロ流路を利用して微量な血液から血液の固形成分と液体成分を分離する電気泳動チップ、血液成分測定用チップ等が検討されている。
例えば(特許文献1)には、「血液の血球成分を溶血がない凝集剤等によって凝集させ、流路に設けた減速堤、沈降段差、斜め上方流路、断面積が徐々に小さくなる流路等の構造によって血液の固形成分と液体成分を分離する血球分離構造物」が開示されている。
また、本発明者は、簡単な構造で容易に検体液中の細胞を分離することができ、分離した細胞の観察を簡便に行うことができ、また使用後は簡単に洗浄でき繰り返し使用可能なセルセパレータの提供を目的として発明を完成させ、「入口液溜部と出口液溜部との間に形成され前記入口液溜部に供給された検体液を前記出口液溜部に移液する流路を備え、前記流路の底面部が疎水性を有し、前記流路の少なくとも上面部が親水性を有するセルセパレータ」の特許出願を行った(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−292092号公報
【特許文献2】特願2006−95040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の血球分離構造物は、入口、出口を設けた流路内にて、血液の血球を溶血しない凝集剤等を用いて血液の固形成分と液体成分を分離するものであるが、凝集の速度に比べて流路内を液体が移動する速度の方が大きいという問題があり、流路に設けた減速堤、沈降段差、斜め上方流路、断面積が徐々に小さくなる流路の構造が複雑で量産性に欠けるとともに、洗浄が困難で再使用することができず省資源性に欠けるという課題を有していた。
(2)また、(特許文献1)では、血液の血球成分を溶血がない凝集剤等によって凝集させる前処理が必要で作業性に欠けるという課題を有していた。
(3)(特許文献2)に記載のセルセパレータは、流路の少なくとも上面部が親水性を有することにより、入口液溜部に滴下された検体液が流路の上面部に引っ張られて流路に浸入し、疎水性を有する底面部によって、検体液が流路の底面部に広がることが防止され、検体液の表面張力とそれによって生じる毛細管現象によって、流路を検体液の液体成分が移動する。一方、検体液中の固形成分である細胞(白血球)は、検体液中の成分の粘度差によって流路に取り残され、その粘着性によって底面部に捕捉されて液体成分と分離できるものである。そして、流路内に捕捉された細胞(白血球)を使って、白血球が関与する炎症性疾患の特定、各種病理の特定、免疫機能の定量化等を行うことができる。しかし、検体液提供者の個人差や、同一人であっても体調の変化や薬剤の服用の有無等、また温度や湿度等の変動によって検体液や細胞(白血球)の粘性等が変動するため、底面部に捕捉される細胞(白血球)の数が安定し難く、炎症性疾患の特定、各種病理の特定、免疫機能の定量化等に必要な細胞(白血球)数を確保できない場合があることがわかった。そのため、セルセパレータの分離安定性の向上が要望されていた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、簡単な構造で確実かつ容易に微量の検体液中の細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れ、また分離した細胞の観察を簡便に行うことができ操作性に優れ、また使用した後は簡単に洗浄することができ繰り返して使用でき省資源性に優れるセルセパレータを提供することを目的とする。
また、本発明は、検体液に対する前処理が不要で、微量の検体液から短時間で確実に細胞を分離することができる作業性と分離安定性に優れる細胞分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明のセルセパレータ及びそれを用いた細胞分離方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のセルセパレータは、(a)親水性の流路面を有し検体液が滴下される第一基板と、(b)前記流路面と微小間隔をあけて対向する親水性の対向面と、前記対向面の所定部に形成された検体液接触部と、を有する第二基板と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)第一基板に検体液を滴下し、第一基板の流路面に微小間隔をあけて対向する第二基板の検体液接触部を、滴下された検体液に接触させると、毛細管現象によって検体液が親水性の流路面と対向面との間に吸い込まれる。流路面と対向面は微小間隔をあけて対向しているので、この間隔より小さな検体液の微細な固形成分や液体成分は、毛細管現象によって生じた検体液の流れに乗って流路面と対向面との間を流れていくが、この間隔と同程度の大きさの細胞は流路面と対向面とに挟まれて流され難いため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができる。
(2)1μL以下の微量な検体液であっても、第一基板と第二基板とを対向させた簡単な構造で確実かつ容易に検体液中の細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れ、また簡単な構成のため、使用した後は簡単に洗浄することができ繰り返して使用でき省資源性に優れる。
【0006】
ここで、第一基板や第二基板の外形としては、略方形状、略矩形状、略円形状、多角形状等の種々の形状に形成することができる。
第一基板の流路面や第二基板の対向面としては、Si,Al,TiO,陶器,磁器,ガラス,ダイアモンド等の無機材料、Si、Cu,Ag,Au,Ni,Fe,Cr,Zu,Al,ステンレス,真鍮等の金属、ポリビニルアルコール,親水処理した変性樹脂等の合成樹脂、親水処理した変性樹脂木材、紙等の濡れ性の高い素材で形成されたものが用いられる。なかでも、ガラス,サファイア,SiO,ダイアモンド等の透明な素材を使用した場合、分離した細胞をセルセパレータに乗せたままの状態で、光学顕微鏡を使って容易に観察することができ操作性に優れる。
また、親水処理剤を使って流路面や対向面の親水性を高めることができる。親水処理剤としては、パーヒドロキシポリシラザン,メチルシロキサン,Alゲル,TiOゲル,ZrOゲル等のセラミック薄膜前駆体、ZnSiO,CaSiO等のアルコキシ金属塩前駆体等を用いることができる。なお、メタクリル樹脂,ポリエチレン等の疎水性を示す素材でも、親水処理剤等を用いて親水加工を施すことにより、第一基板や第二基板として用いることができる。
第一基板や第二基板の全部をこれらの素材や親水加工した素材で形成してもよいし、流路面や対向面だけをこれらの素材で形成することもできる。
【0007】
第一基板の流路面や第二基板の対向面に対する検体液の接触角としては、検体液の表面張力にもよるが、50°以下が好ましい。接触角が50°より大きくなると、検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれ難くなる傾向がみられ、検体液の流速が遅くなり細胞を捕捉し難くなるからである。
【0008】
流路面と対向面との間の微小間隔としては、検体液の種類や分離したい細胞の大きさにもよるが、10〜40μmが好適である。検体液が血液の場合、血液中には血漿、2〜3μmの大きさの血小板、約8μmの大きさの赤血球、6〜20μmの大きさの白血球(細胞)が含まれているため、流路面と対向面を10〜15μmの間隔にすることにより、流路面と対向面との間で多数の白血球(細胞)を捕捉し、血漿、赤血球、血小板は通過させることができる。また、生物の細胞の大きさは最大のものでも35μm程度なので、検体液の種類や分離したい細胞の大きさによって、流路面と対向面との間の間隔を適宜設定することにより、種々の細胞を捕捉し検体液から分離することができる。
第一基板の流路面と第二基板の対向面との間に微小厚さ(10〜40μm)のスペーサを介設することにより、両者を微小間隔で対向させることができる。スペーサを介設し第一基板と第二基板の間隔を一定値に固定化した場合には、該間隔で細胞を選択的に分画できる篩機能を発現させることができる。
また、スペーサを用いなくても、検体液の表面張力と第二基板の質量を利用して、第一基板の流路面と第二基板の対向面とを微小間隔で対向させることができる。この場合は、略水平に置いた第一基板に検体液を滴下し、ピンセット等で摘んだ第二基板の検体液接触部を検体液に接触させるとともにピンセット等から第二基板を離すと、検体液の表面張力によって第二基板が第一基板に引き寄せられ、この検体液の表面張力と第二基板の質量によって第一基板の流路面と第二基板の対向面との間が微小間隔に保たれるとともに、毛細管現象によって検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれる。そのため、スペーサを用いない場合の第二基板の質量は、表面張力と第二基板の質量によって決まる微小間隔が、捕捉したい細胞の大きさと略等しくなるかどうかによって決められる。
この場合の第二基板の質量は、検体液の種類や濃度にもよるが、0.15〜0.5g好ましくは0.15〜0.4gが好適である。第二基板の質量が0.15gより軽くなるにつれ、第一基板と第二基板との間隔が広がり細胞が捕捉され難くなる傾向がみられ、0.4gより重くなるにつれ、第一基板と第二基板との間隔が狭くなり捕捉された細胞が分散され易くなり、顕微鏡等の観察が困難になる傾向がみられる。特に0.5gより重くなると、この傾向が著しくなるため好ましくない。
【0009】
検体液接触部としては、第二基板の対向面の縁部に形成するのが望ましい。容易に製造できるからである。また、対向面の略中央部に円形や多角状等の孔を開け、この孔の周縁を検体液接触部にすることもできる。この場合の孔径は、検体液滴下部に滴下された検体液の外径と同程度にするのが好ましい。ピンセット等で摘んだ第二基板の検体液接触部を、滴下された検体液の上に落下させることで、毛細管現象によって検体液を流路面と対向面との間に吸い込ませることができるからである。
【0010】
検体液としては、血液、リンパ液、唾液、鼻汁等の体液を用いることができる。検体液は毛細管現象によって流路面と対向面との間に吸い込まれて細胞が分離されるため、調整液を加えて吸い込まれ易い粘性に調整することができる。調整液としては、検体液又はその成分と反応しないものを選択して用いることができる。例えば、生理食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、培地溶液、各種緩衝液(PBS,カコジル酸,HEPES,酢酸ベロナール等)等を用いることができる。
なお、歯茎が炎症や歯周病等で侵されている場合、毛細血管壁から白血球細胞の遊走が認められる。同様の現象は鼻腔内の炎症時に鼻腔粘膜上でも認められる。そのため、血液から白血球を分離する以外に、唾液、鼻汁等から極微量の遊走白血球を分離することができる。
さらに近年、各種の炎症性疾病の原因が、体内の白血球ならびにマクロファージが本来司る免疫機構(バクテリアや細菌の捕食機能)の中で、その二次的な副作用によって引き起こされていることが数多く解明されている。例えば歯茎が歯周病等で侵されている場合、本来白血球は毛細血管壁から遊離し、歯周病菌を捕食する。しかしその際に放出される活性酸素や化学物質によって副作用的に炎症が併発する。また歯茎から侵入した歯周病菌は血液流によって全身に飛散する。これは体内のマクロファージによって捕食され、死んだマクロファージはさらに他のマクロファージによって捕食される。最終的にこれは泡沫細胞となるが、特に心臓心筋内の毛細血管内で肥大化、閉塞化した場合には、心筋梗塞を引き起こすことが知られている。
このような医学、臨床研究では、本来動物実験によってその因果関係を解明する手法が一般的に行なわれている。しかしこれには多くの日数が必要であり、また組織や細胞が病変に至るまでの経過を直接観察することは不可能である。本セルセパレータでは、あらかじめ体内から取り出した細胞、白血球、マクロファージ等を別途培養した培養液を用いて、分離具内に導入させ、細胞の遊走能、細菌や微粒子を捕食する貪食能、細胞同士が捕食し、泡沫細胞になる経過等を、光学顕微鏡下にて直接観察することも可能である。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のセルセパレータであって、前記第一基板が、前記流路面に近設した検体液滴下部を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)検体液滴下部が流路面に近設しているので、検体液滴下部に検体液を滴下し第二基板の検体液接触部に検体液を接触させると、検体液を毛細管現象によって確実に流路面と第二基板の対向面との間に吸い込ませることができ作業性に優れる。
【0012】
ここで、検体液滴下部は、親水性、疎水性いずれの性質を有していても構わないが、親水性であることが望ましい。検体液滴下部に対する検体液の接触角が小さくなるので、毛細管現象によって、第一基板の流路面と第二基板の対向面との間に検体液が吸い込まれ易くなるからである。
検体液滴下部は、流路面と同一平面上に平面的に形成すればよい。検体液を溜めるように窪み状に形成することもできるが、窪みを満たすだけの量の検体液が必要になり、検体液の採取量が増え検体液提供者に苦痛を与えることにもなるため、できれば平面的に形成するのが好ましい。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のセルセパレータであって、前記第二基板の前記検体液接触部が、滴下された前記検体液に近接可能に形成された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触部が検体液に近接可能に形成されているので、第二基板の検体液接触部を第一基板に滴下された検体液に近接させ、検体液接触部を検体液に接触させると、確実に毛細管現象によって検体液が親水性の流路面と対向面との間に吸い込まれるため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができる。
【0014】
ここで、第二基板の検体液接触部を検体液に近接可能に形成する手段としては、例えば、流路面と対向面との間隔をスペーサで維持し第二基板を第一基板に対して略平行にスライド可能に保持する間隔保持部が用いられる。また、略水平に置いた第一基板に検体液を滴下し、ピンセット等で摘んで第二基板の検体液接触部を検体液に接触させてもよい。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載のセルセパレータであって、前記第一基板又は前記第二基板に配設若しくは形成され前記流路面と前記対向面との間隔を維持し前記第二基板をスライド可能に保持する間隔保持部を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)流路面と対向面との間隔を維持し第二基板をスライド可能に保持する間隔保持部を備えているので、第二基板をスライドさせて検体液接触部を第一基板の検体液滴下部に滴下された検体液に近接させ、微小間隔を維持したまま検体液接触部を検体液に接触させることができるので、確実に毛細管現象によって検体液が親水性の流路面と対向面との間に吸い込まれるため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができる。
(2)間隔保持部で流路面と対向面の間隔を維持することで、細胞を選択的に分離できる篩機能を発現させることができる。
【0016】
ここで、流路面と対向面との間隔を維持し第二基板をスライド可能に保持する間隔保持部としては、流路面と対向面との間に介設され第一基板又は第二基板に配設若しくは形成されたスペーサを備えたものが用いられる。さらに、第一基板の両端に枠状に形成され第二基板の両側をスライド可能に保持する枠状部を備えたものも用いられる。
【0017】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の内いずれか1に記載のセルセパレータであって、前記検体液接触部が先端に向かって幅狭に形成された構成を有している。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触部が先端に向かって幅狭に形成されているので、検体液を検体液接触部の狭い幅に選択的に接触させることができる。検体液接触部に接触した検体液が毛細管現象によって流路面と対向面との間に吸い込まれたときに、白血球等の細胞は幅の狭い検体液接触部近傍に付着する確率が高いので、幅狭に形成された検体液接触部の先端に細胞を捕捉させることができ、分離した細胞を観察する顕微鏡の一視野内に多くの細胞を存在させることができる。特に、検体液接触部の先端の幅が、滴下された検体液の液滴の直径より狭くなるにつれ、流路面への検体液の浸入経路がより制限されるので、細胞は検体液接触部近傍に高密度に捕捉できる。
(2)検体液の流路面への浸入経路が制限されるので、検体液接触部から流路面と対向面との間へ浸入する検体液を整流して、顕微鏡等を使ってセルセパレータを直接観察する場合に、液流に流されずに液流方向と異なる方向に移動する細胞を検知し易くすることができる。
【0018】
ここで、検体液接触部としては、先端に向かって幅狭にできれば種々の形状に形成することができ、例えば、略円弧状、略台形状、略三角形状等に形成することができる。
【0019】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の内いずれか1に記載のセルセパレータであって、前記流路面に液流方向と略平行して形成された1乃至複数本の溝部を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至5の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)流路面に液流方向と略平行して形成された1乃至複数本の溝部を備えているので、検体液として血液を用いた場合、白血球(細胞)以外の赤血球等を溝部に流し、分析対象となる白血球(細胞)を流路面と対向面との間に捕捉することができるので、分離した検体液を顕微鏡で観察する際、赤血球等に妨げられることなく白血球(細胞)を数多く観察することができる。
(2)溝部の長さや数、幅等を適宜設定することにより、捕捉する細胞や検体液の種類に応じて、流路面に浸入し流路面を流れる検体液の速度を変化させることができ、細胞の分離能を調整することができる。
【0020】
ここで、溝部の幅としては10〜100μm、深さとしては5〜50μmが好適である。例えば検体液が血液の場合、溝部の幅が10μmより狭くなるにつれ赤血球が溝部に入り難く、流路面や対向面に白血球と赤血球等とが混在して、分離した検体液を顕微鏡で観察する際、白血球が赤血球等に妨げられ観察し難くなることがあり、溝部の幅が100μmより広くなるにつれ白血球を捕捉する流路面や対向面の実効面積が狭くなり白血球の捕捉量が少なくなるため、いずれも好ましくない。また、溝部の深さが5μmより浅くなるにつれ溝部に赤血球等が詰まり易くなり赤血球が溝部に入り難くなるため、流路面や対向面に白血球と赤血球等とが混在し、分離した検体液を顕微鏡で観察する際、白血球が赤血球等に妨げられ観察し難くなることがあり、溝部の深さが50μmより深くなるにつれ溝部を形成し難くなりセルセパレータの生産性が低下するため、いずれも好ましくない。
また、溝部は1乃至複数本形成することができるが、複数本形成された溝部のピッチとしては100〜500μmが好適である。溝部のピッチが100μmより狭くなるにつれ白血球を捕捉する流路面や対向面の実効面積が狭くなり白血球の捕捉量が少なくなり、500μmより広くなるにつれ、流路面の単位面積に存在する溝部が少なくなるため、赤血球が溝部に入り難く、流路面や対向面に白血球と赤血球等とが混在して、分離した検体液を顕微鏡で観察する際、白血球が赤血球等に妨げられ観察し難くなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
なお、溝部の底部や側壁は親水性、疎水性のいずれでも構わないが、親水性が好ましい。検体液の濡れ性が良いため、血漿等の検体液の液体成分が流れ易く、白血球と赤血球等との分離が行われ易いからである。
【0021】
溝部は、第一基板の流路面にフォトレジストや電子ビーム描画用レジストを塗布した後、選択的に露光若しくは電子ビームを照射した後現像を行うことによって形成することができる。
【0022】
本発明の請求項7に記載の細胞分離方法は、請求項1乃至6の内いずれか1に記載のセルセパレータを用いた細胞分離方法であって、前記第一基板に滴下した検体液を、前記第二基板の前記検体液接触部に接触させる検体液接触工程を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触工程により、第一基板に滴下した検体液に第二基板の検体液接触部を接触させると、毛細管現象によって検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれ、流路面と対向面の間隔より小さな検体液の微細な固形成分や液体成分は、毛細管現象によって生じた検体液の流れに乗って流路面と対向面との間を流れていくが、この間隔と同程度の大きさの細胞は流路面と対向面とに挟まれて流され難いため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができる。
(2)検体液に対する前処理が不要で、微量の検体液から短時間で確実に細胞を分離することができ、作業性と分離安定性に優れる。
【0023】
ここで、検体液接触工程において、検体液を第二基板の検体液接触部に接触させる方法としては、検体液を第一基板に滴下するときに検体液が第二基板の検体液接触部に接触するように滴下する方法、第一基板に検体液を滴下した後、第一基板を傾けたり滴下した検体液に空気等を吹き付けたりして検体液を第二基板の検体液接触部に移動させる方法、第一基板の検体液滴下部表面に疎水性・親水性の勾配を設け、その表面張力差によって検体液を第二基板の検体液接触部まで移動させる方法、第一基板の検体液滴下部表面に電極を配置し、交流を通電させることで検体液に電荷を生じさせ、静電引力を駆動力として検体液接触部に移動させる方法、検体液中に磁性粉末を懸濁させ、外部磁場によって検体液を第二基板の検体液接触部に移動させる方法、第一基板に検体液を滴下した後、第二基板の検体液接触部を滴下した検体液に近接させて検体液に接触させる方法等が用いられる。
【0024】
本発明の請求項8に記載の細胞分離方法は、請求項7に記載の細胞分離方法であって、前記検体液接触工程において、前記検体液滴下部に滴下した検体液に前記検体液接触部を近接させ接触させる構成を有している。
この構成により、請求項7で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触工程において、第一基板に滴下した検体液に検体液接触部を近接させ接触させるので、検体液が極微量の場合でも、検体液を流路面と対向面との間に吸い込ませることができる。極微量の検体液では、検体液が第二基板の検体液接触部に接触するように滴下するのは困難で、また第一基板を傾けたり滴下した検体液に空気等を吹き付けたりしたりする手段では検体液を正確な位置に移動させることは困難だからである。
【0025】
本発明の請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載の細胞分離方法であって、前記検体液接触工程により前記検体液を前記流路面に流入させた後、前記検体液接触部に置換液を接触させ前記流路面に前記置換液を流入させる置換液流入工程を備えた構成を有している。
この構成により、請求項7又は8で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触部に置換液を接触させ流路面に置換液を流入させる置換液流入工程を備えているので、流路面に流入させた置換液で流路面内の検体液の液体成分を置換して、少量の検体液であっても、目的とする細胞とそれ以外の微細な固形成分や液体成分を分離することができる。
【0026】
ここで、置換液としては、検体液又はその成分と反応しないものを選択して用いることができる。例えば、調整液と同様に、生理食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、培地溶液、各種緩衝液(PBS,カコジル酸,HEPES,酢酸ベロナール等)等を用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明のセルセパレータ及びそれを用いた細胞分離方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)微量な検体液であっても、第一基板と第二基板とを対向させた簡単な構造で確実かつ容易に検体液中の細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れ、また簡単な構成のため、使用した後は簡単に洗浄することができ繰り返して使用でき省資源性に優れたセルセパレータを提供できる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)検体液滴下部が流路面に近設しているので、検体液滴下部に検体液を滴下し第二基板の検体液接触部に検体液を接触させると、検体液を毛細管現象によって確実に流路面と第二基板の対向面との間に吸い込ませることができ作業性に優れたセルセパレータを提供できる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)検体液接触部が検体液滴下部に近接可能に形成されているので、第二基板の検体液接触部を第一基板の検体液滴下部に滴下された検体液に近接させ、検体液接触部を検体液に接触させると、確実に毛細管現象によって検体液が親水性の流路面と対向面との間に吸い込まれるため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができ分離安定性に優れたセルセパレータを提供できる。
【0030】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1の効果に加え、
(1)流路面と対向面との間隔を維持し第二基板をスライド可能に保持する間隔保持部を備えているので、第二基板をスライドさせて検体液接触部を第一基板の検体液滴下部に滴下された検体液に近接させ、微小間隔を維持したまま検体液接触部を検体液に接触させることができるので、確実に毛細管現象によって検体液が親水性の流路面と対向面との間に吸い込まれるため、流路面と対向面との間で細胞が捕捉され検体液から細胞を分離することができ分離安定性に優れたセルセパレータを提供できる。
(2)間隔保持部で流路面と対向面の間隔を維持することで、細胞を選択的に分離できる篩機能を発現させることができ選択性に優れたセルセパレータを提供できる。
【0031】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1の効果に加え、
(1)検体液接触部が先端に向かって幅狭に形成されているので、検体液を検体液接触部の狭い幅に選択的に接触させることができる。検体液接触部に接触した検体液が毛細管現象によって流路面と対向面との間に吸い込まれたときに、白血球等の細胞は幅の狭い検体液接触部近傍に付着する確率が高いので、幅狭に形成された検体液接触部の先端に細胞を捕捉させることができ、分離した細胞を観察する顕微鏡の一視野内に多くの細胞を存在させることができるセルセパレータを提供できる。
(2)検体液の流路面への浸入経路が制限されるので、検体液接触部から流路面と対向面との間へ浸入する検体液を整流して、顕微鏡等を使ってセルセパレータを直接観察する場合に、液流に流されずに液流方向と異なる方向に移動する細胞を検知し易くすることができるセルセパレータを提供できる。
【0032】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の内いずれか1の効果に加え、
(1)流路面に液流方向と略平行して形成された1乃至複数本の溝部を備えているので、検体液として血液を用いた場合、白血球(細胞)以外の赤血球等を溝部に流し、分析対象となる白血球(細胞)を流路面と対向面との間に捕捉することができるので、分離した検体液を顕微鏡で観察する際、赤血球等に妨げられることなく白血球(細胞)を数多く観察することができるセルセパレータを提供できる。
(2)溝部の長さや数、幅等を適宜設定することにより、捕捉する細胞や検体液の種類に応じて、流路面に浸入し流路面を流れる検体液の速度を変化させることができ、細胞の分離能を調整することができるセルセパレータを提供できる。
【0033】
請求項7に記載の発明によれば、
(1)検体液に対する前処理が不要で、微量の検体液から短時間で確実に細胞を分離することができ、作業性と分離安定性に優れた細胞分離方法を提供できる。
【0034】
請求項8に記載の発明によれば、請求項7の効果に加え、
(1)検体液接触工程において、検体液滴下部に滴下した検体液に検体液接触部を近接させ接触させるので、検体液が極微量の場合でも、検体液を流路面と対向面との間に吸い込ませることができる安定性に優れた細胞分離方法を提供できる。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、請求項7又は8の効果に加え、
(1)検体液接触部に置換液を接触させ流路面に置換液を流入させる置換液流入工程を備えているので、流路面に流入させた置換液で流路面内の検体液の液体成分を置換して、目的とする細胞とそれ以外の微細な固形成分や液体成分を分離することができる細胞分離方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるセルセパレータの平面図であり、図2は図1のA−A線における断面図であり、図3は図1のB−B線における断面図であり、図4は実施の形態1におけるセルセパレータの変形例の第一基板の平面図である。
図1、図2、図3において、1は本発明の実施の形態1におけるセルセパレータ、2は親水性の透明なガラス等で矩形状に形成されたセルセパレータ1の第一基板、3は第一基板2の表面の親水性の流路面、4は流路面3に近設し血液等の検体液が滴下される検体液滴下部、5は親水性を有する透明なガラス等で五角形状に形成され第一基板2と対向する第二基板、6は流路面3と微小間隔をあけて対向する第二基板5の対向面、7は対向面6の縁部が先端に向かって幅狭に形成された検体液接触部、8は第一基板2の上面の縁部に配設され第一基板2の流路面3と第二基板5の対向面6とを10〜40μmの所定の間隔に保持し第二基板5をスライド可能に保持する間隔保持部、9は流路面3と対向面6との間に介設された間隔保持部8のスペーサ、10は第二基板5の両側と摺動可能に形成され第二基板5をスライド可能に保持する間隔保持部8の枠状部、11は枠状部10の両側の内側面に突設されスライドされた第二基板5の検体液接触部7が検体液滴下部4の位置で停止するように第二基板5の両側部を係止し第二基板5のスライド可能範囲を制限する第二基板係止部である。
なお、本実施の形態においては、流路面3と対向面6は介設されたスペーサ9によって10〜15μmの微小間隔をあけて対向している。また、検体液接触部7の頂角の角度αは60〜170°に形成されている。また、検体液滴下部4は、流路面3と同一平面上に平面的に形成されている。
図4において、5aは変形例の第二基板、7aは第二基板5aの対向面6の縁部が平坦状の先端に向かって幅狭に形成された検体液接触部である。検体液接触部7aの交角αは60〜170°に形成されており、先端幅Lは1〜5mmに形成されている。
【0037】
以上のように構成された本発明の実施の形態1におけるセルセパレータを用いて、図面を参照しながら、以下、細胞分離方法を説明する。
図5(a)は第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図であり、(b)は細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図であり、(c)は細胞分離方法における置換液流入工程を示す要部断面模式図である。
図中、12は血液,リンパ液,唾液,鼻汁等の検体液、13は検体液12に含まれる細胞(白血球)、14は生理食塩水,リンゲル溶液,ブドウ糖溶液,培地溶液,緩衝液等の置換液である。
まず、図5(a)に示すように、第二基板5を第二基板係止部11から後退させた状態にスライドさせた後、第一基板2の検体液滴下部4に血液等の検体液12を滴下する。検体液12は生理食塩水,リンゲル溶液,ブドウ糖溶液,培地溶液,緩衝液等の希釈液で希釈したものを用いることができる。
次に、検体液接触工程において、第二基板5を検体液滴下部4の方向にスライドさせて、検体液接触部7を検体液12に接触させると、図5(b)に示すように、検体液12が親水性の流路面3と対向面6との間に毛細管現象で吸い込まれる。流路面3と対向面6は微小間隔をあけて対向しているので、この間隔より小さな微細な固形成分(赤血球や血小板等)や液体成分(血漿等)は、毛細管現象によって生じた検体液12の流れに乗って流路面3と対向面6との間を流れていくが、この間隔と同程度の大きさであり粘着性を有する細胞(白血球)13は流路面3と対向面6とに挟まれて流され難いため、流路面3と対向面6との間で細胞13が捕捉され検体液12から細胞13を分離することができる。なお、検体液接触部7は先端に向かって幅狭に形成されているので、検体液12を検体液接触部7の狭い幅に選択的に接触させることができる。
次に、置換液流入工程において、図5(c)に示すように、検体液滴下部4に置換液14を滴下して検体液接触部7に置換液14を接触させると、流路面3と対向面6との間に置換液14がゆっくりと流入し検体液12の液体成分は下流側に押し流されるが、置換液14の流速が遅いため細胞13は検体液接触部7に留まるので、目的とする細胞13とそれ以外の微細な固形成分や液体成分を分離することができる。
【0038】
以上のように、本発明の実施の形態1におけるセルセパレータは構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)第一基板2と第二基板5とを対向させた簡単な構造で確実かつ容易に検体液12中の細胞13を分離することができ、作業性と分離安定性に優れ、また簡単な構成のため使用した後は簡単に洗浄することができ、繰り返して使用でき省資源性に優れる。
(2)流路面3と対向面6との間隔を維持し第二基板5をスライド可能に保持する間隔保持部8を備えているので、第二基板5をスライドさせて検体液接触部7を第一基板2の検体液滴下部4に滴下された検体液12に近接させ、微小間隔を維持したまま検体液接触部7を検体液12に接触させることができるので、検体液12が1μL以下の微量であっても確実に毛細管現象によって検体液12を親水性の流路面3と対向面6との間に吸い込ませることができるため、流路面3と対向面6との間で細胞13を捕捉し検体液12から分離することができる。
(3)検体液接触部7が先端に向かって幅狭に形成されているので、検体液12を検体液接触部7の狭い幅に選択的に接触させ、検体液接触部7に接触した検体液12が毛細管現象によって流路面3と対向面6との間に吸い込まれたときに、白血球等の細胞13は幅の狭い検体液接触部7の近傍に付着する確率が高いので、幅狭に形成された検体液接触部7の近傍に多くの細胞13を捕捉させることができる。このため、顕微鏡等を使ってセルセパレータを直接観察する場合に、顕微鏡の一視野内に多くの細胞13を存在させることができる。また、検体液12の流路面3への浸入経路が制限されるので、検体液接触部7から流路面3と対向面6との間へ浸入する検体液12を整流して、液流に流されずに液流方向と異なる方向に移動する細胞13を検知し易くすることができる。
(4)第一基板2の流路面3及び第二基板の対向面6が透明なガラス等で形成されているので、検体液12から分離した細胞13を、セルセパレータ1に乗せたまま光学顕微鏡、位相差顕微鏡あるいは蛍光顕微鏡を用いて観察することができ操作性に優れる。
(5)変形例の検体液接触部7aは先端が平坦状に形成されており所定の幅を有しているので、検体液滴下部4に滴下した検体液12の位置が検体液接触部7aの先端の幅の範囲内でずれたとしても、毛細管現象によって一定の流速で検体液接触部7aから検体液12を流路面3に流入させることができる。流入した検体液12は液流方向に沿って流速が遅くなるため、検体液12の滴下位置がずれたとしても、検体液接触部7aの先端に細胞13を安定して高密度で捕捉させることができる。
【0039】
また、以上のようなセルセパレータを用いた細胞分離方法によれば、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触工程において、検体液滴下部4に滴下した検体液12に検体液接触部7を近接させ接触させるので、検体液12が極微量の場合でも、検体液12を流路面3と対向面6との間に吸い込ませることができる。
(2)検体液接触部7に置換液14を接触させ流路面3に置換液14を流入させる置換液流入工程を備えているので、流路面3に流入させた置換液14で流路面3内の検体液12の液体成分を置換することができ、少量の検体液12であっても、目的とする細胞13とそれ以外の微細な固形成分や液体成分を分離することができる。
【0040】
ここで、本実施の形態においては、スペーサ9が第二基板5の両側に配設された場合について説明したが、片側だけに配設する場合もある。この場合も第一基板2の流路面3と第二基板5の対向面6とを微小間隔に保つことができ同様の作用が得られる。また、流路面3と対向面6の間隔を連続的に変化させることができるので、篩機能を発現させ、大きさの異なる細胞を捕捉することもできる。
また、流路面3に検体液12を導入した後、置換液14を流入させる置換液流入工程を有する場合について説明したが、検体液12が豊富にある場合や、検体液12を生理食塩水,リンゲル溶液,ブドウ糖溶液,培地溶液,緩衝液等の希釈液で希釈した場合には、置換液流入工程は必ずしも必要ではない。なお、第二基板5の対向面6を通過した検体液12や置換液14は、不織布等で吸収して第一基板2から除去することができる。
また置換液は不要な細胞を除去させる目的のみならず、目的に応じて、捕集した細胞の核を染色して顕微鏡画像を明瞭に撮影するための固定化剤(ホルムアルデヒド希釈液)ならびに染色液(ギムザ染色液)、蛍光顕微鏡画像の撮影を可能にするための蛍光試薬類、細胞の貪食能を動画撮影するための各種バクテリア,酵母,無機ならびに有機材料を素材とする微粒子が懸濁された水溶液類、細胞の薬物応答性を画像観察するための各種薬物、毒物液等の各種流体を用いることもできる。
【0041】
(実施の形態2)
図6は本発明の実施の形態2におけるセルセパレータの正面図である。なお、実施の形態1で説明したものと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、21は実施の形態2におけるセルセパレータ、22は第二基板5の対向面6の両側に配設され第一基板2の流路面3と第二基板5の対向面6とを10〜40μmの所定の間隔に保持するスペーサである。スペーサ22を対向面6の両側に接着し、スペーサ22が接着された第二基板5を第一基板2の上面に載置することができる。また、スペーサ22をスペーサ22が接着された第二基板5を、第一基板2の上面に接着することもできる。また、第一基板3にスペーサ22を接着し、そのスペーサ22の上に第二基板5を載置することもできる。なお、第二基板5は検体液接触部7が第一基板2の検体液滴下部4のごく近傍に位置するように配置されている。
また、本実施の形態においては、流路面3と対向面6は介設されたスペーサ22によって10〜15μmの微小間隔をあけて対向している。
【0042】
以上のように構成された本発明の実施の形態2におけるセルセパレータを用いて、図面を参照しながら、以下、細胞分離方法を説明する。
図7(a)は第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図であり、(b)、(c)は細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図である。
まず、図7(a)に示すように、第一基板2の検体液滴下部4に血液等の検体液12を滴下する。検体液12は生理食塩水,リンゲル溶液,ブドウ糖溶液,培地溶液,緩衝液等の希釈液で希釈したものを用いることができる。
次に、検体液接触工程において、滴下された検体液12が第一基板2に広がって第一基板2に対する接触角が小さくなる性質を利用して、図7(b)に示すように、検体液接触部7を検体液12に接触させると、図7(c)に示すように、毛細管現象によって検体液12が親水性の流路面3と対向面6との間に吸い込まれる。これにより、実施の形態1で説明したのと同様に、流路面3と対向面6との間で細胞13が捕捉され検体液12から細胞13を分離することができる。
【0043】
以上のように、本発明の実施の形態2におけるセルセパレータは構成されているので、実施の形態1で説明した作用(1)、(3)、(4)と同様の作用が得られる。
また、以上のようなセルセパレータを用いた細胞分離方法によれば、以下のような作用が得られる。
(1)検体液接触工程において、検体液滴下部4に滴下した検体液12を検体液接触部7に接触させ、毛細管現象によって検体液12を流路面3と対向面6との間に吸い込ませることにより、流路面3と対向面6との間で細胞13を捕捉し検体液12から細胞13を分離することができる。
【0044】
なお、本実施の形態においては、検体液接触工程において、滴下された検体液12が第一基板2に広がって第一基板2に対する接触角が小さくなる性質を利用して、検体液接触部7を検体液12に接触させる場合について説明したが、第一基板2の検体液滴下部4に検体液12を滴下した後、第一基板2を傾けたり滴下した検体液12に空気等を吹き付けたりして検体液12を第二基板5の検体液接触部7に移動させることによっても、検体液接触部7を検体液12に接触させることができ、この場合も同様の作用が得られる。これらの方法以外に、第一基板2の検体液滴下部4の表面に疎水性・親水性の勾配を設け、その表面張力差によって検体液12を第二基板5の検体液接触部7まで移動させる方法、第一基板2の検体液滴下部4の表面に電極を配置し、交流を通電させることで検体液12に電荷を生じさせ静電引力を駆動力として検体液接触部7に移動させる方法、検体液12中に磁性粉末を懸濁させ、外部磁場によって検体液12を第二基板5の検体液接触部7に移動させる方法等も用いることができ、これらの場合も同様の作用が得られる。
【0045】
(実施の形態3)
図8は本発明の実施の形態3におけるセルセパレータの斜視図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、31は本発明の実施の形態1におけるセルセパレータ、32は親水性を有する透明なガラス等のプレパラート類で略方形状に形成された第二基板、33は第一基板2の流路面3と対向する第二基板32の対向面、34は対向面33の縁部が平坦状に形成された検体液接触部である。
【0046】
以上のように構成された本発明の実施の形態3におけるセルセパレータを用いて、図面を参照しながら、以下、細胞分離方法を説明する。
図9(a)は第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図であり、(b)は細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図であり、(c)は細胞分離方法における置換液流入工程を示す要部断面模式図である。
まず、略水平に置いた第一基板2の検体液滴下部4に血液等の検体液12を滴下する。検体液12は生理食塩水,リンゲル溶液,ブドウ糖溶液,培地溶液,緩衝液等の希釈液で希釈したものを用いることができる。次に、第二基板32をピンセット等で摘んで、図9(a)に示すように、横方向から検体液12に第二基板32の検体液接触部34を検体液12に近づける。
次に、検体液接触工程において、図9(b)に示すように、第二基板32の検体液接触部34を検体液12に接触させるとともにピンセット等から第二基板32を離すと、検体液12の表面張力によって第二基板32が第一基板2に引き寄せられ、検体液12の表面張力と第二基板32の質量によって第一基板2の流路面3と第二基板32の対向面33との間が微小間隔に保たれるとともに、毛細管現象によって検体液12が流路面3と対向面33との間に吸い込まれる。これにより、流路面3と対向面33との間で細胞13が捕捉される。
次に、置換液流入工程において、検体液滴下部4に置換液14を滴下して検体液接触部34に置換液14を接触させると、図9(c)に示すように、流路面3と対向面33との間に置換液14が流入し検体液12の液体成分は下流側に押し流されるが粘着性を有する細胞13は捕捉された状態を保つので、目的とする細胞13とそれ以外の微細な固形成分や液体成分を分離することができる。
【0047】
以上のように、本発明の実施の形態3におけるセルセパレータは構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)簡単な構造で確実かつ容易に検体液12中の細胞13を分離することができ、作業性と分離安定性に優れ、また簡単な構成のため使用した後は簡単に洗浄することができ、繰り返して使用でき省資源性に優れる。
(2)検体液12の表面張力と第二基板32の質量を利用して、検体液12の表面張力と第二基板32の質量によって第一基板2と第二基板32とを引き付けあわせ、第一基板2の流路面3と第二基板32の対向面33とを微小間隔に保って細胞13を捕捉するので、分離したい細胞13の大きさ毎にスペーサを用いて第一基板2の流路面3と第二基板32の対向面33の間隔を設定する必要がなく自在性に優れる。なお、第二基板32の質量は、検体液12の表面張力と第二基板32の質量によって決まる微小間隔が、捕捉したい細胞13の大きさと略等しくなるかどうかによって決めることができる。
【0048】
また、以上のようなセルセパレータを用いた細胞分離方法によれば、実施の形態1で説明したのと同様の作用が得られる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、検体液接触部34が第二基板32の対向面33の縁部に形成された場合について説明したが、対向面33の略中央部に円形や多角状等の孔を開け、この孔の周縁を検体液接触部にする場合もある。この場合も、ピンセット等で摘んだ第二基板の検体液接触部を、滴下された検体液の上に落下させることで、毛細管現象によって検体液を流路面と対向面との間に吸い込ませることができ、同様の作用が得られる。
【0050】
(実施の形態4)
図10(a)は本発明の実施の形態4におけるセルセパレータの平面図であり、(b)は図10(a)のC−C線における拡大断面端面図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、41は本発明の実施の形態4におけるセルセパレータ、42は第一基板2の流路面3に検体液12の液流方向と略平行して複数形成された溝部である。溝部42は、第一基板2の流路面3にフォトレジストや電子ビーム描画用レジストを塗布した後、選択的に露光若しくは電子ビームを照射した後現像を行うことによって形成することができる。
本実施の形態においては、溝部42は、幅10〜100μm、深さ5〜50μm、ピッチ100〜500μmに形成されている。
以上のように構成された実施の形態4におけるセルセパレータを用いた細胞分離方法は、実施の形態1で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0051】
以上のように、本発明の実施の形態4におけるセルセパレータは構成されているので、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)流路面3に液流方向と略平行して形成された溝部42を備えているので、検体液12として血液を用いた場合、白血球(細胞)13以外の赤血球等を溝部42に流し、分析対象となる白血球(細胞)13を流路面3と対向面6との間に捕捉することができるので、分離した検体液12を顕微鏡で観察する際、赤血球等に妨げられることなく白血球(細胞)13を数多く観察することができる。
(2)溝部42の幅が10〜100μmに形成されているので、白血球を捕捉する流路面3や対向面6の実効面積が広く多数の白血球を捕捉することができ、また赤血球が溝部42に入り易いため赤血球を下流側に排除できるので、流路面3に捕捉された白血球(細胞)13を顕微鏡で観察する場合、赤血球に妨げられることなく観察することができる。
(3)溝部42の深さが5〜50μmに形成されているので、溝部42に赤血球等が詰まり難いため赤血球等を溝部42に排除することができ、流路面3に捕捉された白血球(細胞)13を顕微鏡で観察する場合、赤血球に妨げられることなく観察することができる。
(4)溝部42のピッチが100〜500μmに形成されているので、白血球を捕捉する流路面3や対向面6の実効面積が広く多数の白血球を捕捉することができ、また流路面3の単位面積に存在する溝部42が多いため、溝部42に赤血球等を効率良く排除することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
幅30mm、長さ50mm、厚さ1mmに形成された板状のガラス製の第一基板と、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm(質量0.364g)に形成された板状のガラス製の第二基板とを用意し、これらを実験例1のセルセパレータとした。また、検体液として、検体液提供者から採取した血液0.8μLを用意した。
セルセパレータの第一基板の長手方向の一端側に形成された検体液滴下部に検体液(血液)0.8μLを滴下した後、ピンセットで第二基板を摘み、横方向から検体液に第二基板の縁部(検体液接触部)を検体液に近づけ、第二基板の検体液接触部を検体液に接触させるとともにピンセットから第二基板を離した。この結果、検体液の表面張力によって第二基板が第一基板に引き寄せられ、検体液の表面張力と第二基板の質量によって第一基板の流路面と第二基板の対向面との間が微小間隔に保たれ、毛細管現象によって検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれた。第二基板の縁部(検体液滴下部)から長さ方向に約4mmまでの領域を約40倍の倍率で動画として記録し、記録した動画を再生して一視野(8.75×10μm)内の白血球(細胞)の個数を数えた。なお、白血球(細胞)としては、(1)液流方向とは異なる方向に動くもの、(2)赤血球と一緒に流されないもの、(3)青みがかった透明な血球、(3)不定形で触手のようなものを出して動くものという4条件の、いずれかの条件に該当したものをカウントした。
次に、生理食塩水(0.1mol/L)からなる置換液0.4μLを検体液滴下部に滴下して、置換液を第二基板の流路面内に流入させたときの同じ地点の一視野(8.75×10μm)内の白血球(細胞)の個数を数えた。
【0053】
(実験例2)
実験例1と同じ検体液提供者から採取した血液0.4μLに生理食塩水(0.1mol/L)からなる希釈液0.4μLを混合したものを検体液とした以外は、実験例1と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例3)
実験例1と同じ検体液提供者から採取した血液0.4μLに生理食塩水(0.1mol/L)からなる希釈液0.8μLを混合したものを検体液とした以外は、実験例1と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例4)
実験例1と同じ検体液提供者から採取した血液0.4μLに生理食塩水(0.1mol/L)からなる希釈液1.2μLを混合したものを検体液とした以外は、実験例1と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
【0054】
(実験例5)
第二基板を、幅19mm、長さ15mm、厚さ0.3mm(質量0.182g)に形成された板状のガラス製にした以外は、実験例2と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例6)
第二基板を、幅19mm、長さ7.5mm、厚さ0.3mm(質量0.083g)に形成された板状のガラス製にした以外は、実験例2と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例7)
第一基板の流路面及び第二基板の対向面を疎水性にするため、流路面及び対向面に各々鉱物オイルを薄く塗布した以外は、実験例2と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
以上の実験例1乃至7の検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数(個/8.75×10μm)を、表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1において、第二基板の大きさは同じだが、検体液の濃度が異なる実験例1〜4の白血球の数を比較して、この検体液提供者の場合は、血液と希釈液を1:1の容積比で混合した検体液の場合(実験例2)、最も多くの白血球を観察することができた。また、検体液を導入した後、置換液を流入させることで、さらに多くの白血球を観察できることが明らかになった。これは、赤血球を下流側に流すことで白血球をよりはっきりと視認できるようになったこと、置換液の流れによって観察地点の上流に存在した白血球を観察地点に移動させることができたことが原因である。
また、検体液の濃度は同じだが、第二基板の大きさ(質量)が異なる実験例2,5,6の白血球の数を比較して、実験例2,5,6の順に観察できる白血球の数が減少することがわかった。これは、実験例2,5,6の順に第二基板が軽量になるため、検体液の表面張力と第二基板の質量によって決定する第一基板の流路面と第二基板の対向面との間隔が、実験例2,5,6の順に広くなるため、捕捉できた白血球の数が少なくなったものと思われる。
また、実験例2と7の結果を比較して、鉱物オイルを塗布した実験例7の場合は、実験例2の場合より観察できる白血球の数が著しく少ないことがわかった。これは、鉱物オイルが塗布された流路面及び対向面には検体液が浸入し難いため、捕捉できた白血球の数が少なくなったものと思われる。
【0057】
(実験例8)
幅30mm、長さ50mm、厚さ1mmに形成された板状のガラス製の第一基板と、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが135°(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製の第二基板とを用意し、これらを対向させ、間隔が10μmになるようにスペーサを介して互いに接着して、実験例8のセルセパレータとした。また、実験例1乃至7の場合とは異なる検体液提供者から採取した血液0.4μLに生理食塩水(0.1mol/L)からなる希釈液0.4μLを混合したものを検体液として用意した。
セルセパレータの第一基板の長手方向の一端側に形成された検体液滴下部に検体液0.8μLを滴下した後、検体液滴下部が上側になるようにセルセパレータを傾けながら振動を与え、第二基板の検体液接触部の先端に検体液を接触させた。これにより、毛細管現象によって検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれた。
その後実験例1と同様にして、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
【0058】
(実験例9)
幅30mm、長さ50mm、厚さ1mmに形成された板状のガラス製の第一基板と、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mmの矩形状に形成された板状のガラス製の第二基板とを用意し、これらを対向させ、10μmの間隔を保ちながらスライドできるように第二基板を保持して、実験例9のセルセパレータとした。また、実験例8の場合と同じ検体液提供者から採取した血液0.4μLに生理食塩水(0.1mol/L)からなる希釈液0.4μLを混合したものを検体液として用意した。
セルセパレータの第一基板の長手方向の一端側に形成された検体液滴下部に検体液0.8μLを滴下した後、第二基板をスライドさせて検体液接触部の先端に検体液を接触させた。これにより、毛細管現象によって検体液が流路面と対向面との間に吸い込まれた。
その後実験例1と同様にして、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
【0059】
(実験例10)
第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが135°(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と10μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例11)
第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが105°(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と10μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例12)
第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが105°(先端幅Lは0mm)の5角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と10μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
【0060】
(実験例13)
第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが135°(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と40μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例14)
上面に親水性のエポキシ系フォトレジストを約50μmの厚さで塗布・乾燥した第一基板を用い、第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが135(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と10μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
(実験例15)
親水性のエポキシ系フォトレジストを約50μmの厚さで上面に塗布し、露光・現像によって幅50μm、深さ20μm、長さ20mm、ピッチ170μmの溝部を20本形成した第一基板を用い、第二基板を、幅19mm、長さ30mm、厚さ0.3mm、検体液接触部の斜辺のなす角度αが135(先端幅Lは1mm)の6角形状に形成された板状のガラス製にして、第一基板と10μmの間隔で対向させてスライド可能に保持したセルセパレータを用いた以外は、実験例9と同様にセルセパレータに検体液を導入して、検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数を数えた。
以上の実験例8乃至15の検体液接触後及び置換液流入後の白血球の個数(個/8.75×10μm)を、表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2において、実験例8と10を比較して、第二基板をスライド可能に保持した実験例10は、第二基板を固定した実験例8よりも、多くの白血球を観察できることがわかった。これは、実験例10の場合は、10μmという微小間隔を維持したまま検体液接触部を検体液に確実に接触させることができたためであると思われる。
また、実験例9と10を比較して、実験例10の方が実験例9よりも多くの白血球が観察されたことがわかる。これは、実験例10の第二基板の検体液接触部は先端に向かって幅狭に形成されているので、検体液を検体液接触部の狭い幅に選択的に接触させることができ、白血球等の細胞は初めに接触した検体液接触部近傍に付着する確率が高いので、検体液接触部の先端近傍に細胞を捕捉させることができたためであると推察される。
また、実験例10〜12から、検体液接触部の斜辺のなす角度αや先端幅Lが変わっても、観察できる白血球の数に大きな影響は現れないことがわかった。ただし、先端幅Lを設けた実験例10,11では、検体液接触部から第一基板と第二基板との間の微小空間に検体液が浸入する際に液流が整流されるので、液流方向と異なる方向に移動する白血球が検知し易いことがわかった。
また、第一基板と第二基板の間隔が40μmの実験例13の場合は、白血球をほとんど観察することができなかった。これは、流路面と対向面との間隔が大きいため、白血球がその間に捕捉されずに流れてしまったものと思われる。
また、実験例14及び15のように第一基板の流路面に親水性のフォトレジストを塗布した場合も、多くの白血球を観察することができた。特に、溝部が形成された実験例15の場合は、溝部に赤血球が除去されるので視認性が著しく向上した。
以上のように本実施例によれば、簡単な構造で確実かつ容易に微量の検体液中の細胞を分離することができ、また分離した細胞の観察を簡便に行うことができ操作性に優れ、さらに検体液に対する前処理が不要で微量の検体液から短時間で確実に細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、血液、リンパ液、唾液、鼻汁等の検体液から細胞を分離するセルセパレータ及びそれを用いた細胞分離方法に関し、簡単な構造で確実かつ容易に微量の検体液中の細胞を分離することができ作業性と分離安定性に優れ、また分離した細胞の観察を簡便に行うことができ操作性に優れ、また使用した後は簡単に洗浄することができ繰り返して使用でき省資源性に優れるセルセパレータを提供することができ、また、検体液に対する前処理が不要で、微量の検体液から短時間で確実に細胞を分離することができる作業性と分離安定性に優れる細胞分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1におけるセルセパレータの平面図
【図2】図1のA−A線における断面図
【図3】図1のB−B線における断面図
【図4】実施の形態1におけるセルセパレータの変形例の第一基板の平面図
【図5】(a)第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図 (b)細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図 (c)細胞分離方法における置換液流入工程を示す要部断面模式図
【図6】実施の形態2におけるセルセパレータの正面図
【図7】(a)第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図 (b)、(c)細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図
【図8】実施の形態3におけるセルセパレータの斜視図
【図9】(a)第一基板の検体液滴下部に検体液を滴下した状態を示す要部断面模式図 (b)細胞分離方法における検体液接触工程を示す要部断面模式図 (c)細胞分離方法における置換液流入工程を示す要部断面模式図
【図10】(a)実施の形態4におけるセルセパレータの平面図 (b)図10(a)のC−C線における拡大断面端面図
【符号の説明】
【0065】
1 セルセパレータ
2 第一基板
3 流路面
4 検体液滴下部
5,5a 第二基板
6 対向面
7,7a 検体液接触部
8 間隔保持部
9 スペーサ
10 枠状部
11 第二基板係止部
12 検体液
13 細胞(白血球)
14 置換液
21 セルセパレータ
22 スペーサ
31 セルセパレータ
32 第二基板
33 対向面
34 検体液接触部
41 セルセパレータ
42 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)親水性の流路面を有し検体液が滴下される第一基板と、(b)前記流路面と微小間隔をあけて対向する親水性の対向面と、前記対向面の所定部に形成された検体液接触部と、を有する第二基板と、を備えていることを特徴とするセルセパレータ。
【請求項2】
前記第一基板が、前記流路面に近設した検体液滴下部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のセルセパレータ。
【請求項3】
前記第二基板の前記検体液接触部が、滴下された前記検体液に近接可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルセパレータ。
【請求項4】
前記第一基板又は前記第二基板に配設若しくは形成され前記流路面と前記対向面との間隔を維持し前記第二基板をスライド可能に保持する間隔保持部を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載のセルセパレータ。
【請求項5】
前記検体液接触部が先端に向かって幅狭に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1に記載のセルセパレータ。
【請求項6】
前記流路面に液流方向と略平行して形成された1乃至複数本の溝部を備えていることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1に記載のセルセパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6の内いずれか1に記載のセルセパレータを用いた細胞分離方法であって、前記第一基板に滴下した検体液を、前記第二基板の前記検体液接触部に接触させる検体液接触工程を備えていることを特徴とする細胞分離方法。
【請求項8】
前記検体液接触工程において、滴下した前記検体液に前記検体液接触部を近接させ接触させることを特徴とする請求項7に記載の細胞分離方法。
【請求項9】
前記検体液接触工程により前記検体液を前記流路面に流入させた後、前記検体液接触部に置換液を接触させ前記流路面に前記置換液を流入させる置換液流入工程を備えていることを特徴とする請求項7又は8に記載の細胞分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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