説明

セルフロック機能を有する動力伝達装置およびそれを用いたウインチ等

【課題】 減速比が1またはそれに近い値で、確実なセルフロック機能を得ることができるようにした動力伝達装置およびそれを用いたウインチ等を提供する。
【解決手段】 ケース7に、入力軸8と出力軸9とを、同一軸線上において回転可能に枢支し、出力軸9に設けた偏心軸11に、揺動体18の中心に設けた軸受孔19を枢嵌し、揺動体18の一側面に複数の係合孔22を、またそれに対向するケース7の端部壁の内面に、各係合孔22に嵌合するピン21を設け、入力軸5の内端面に偏心カム28を、またそれに対向する揺動体18の他側面に偏心カム28が枢嵌される軸受孔23を設け、入力軸8と揺動体18との相対回転時の摺動抵抗を、揺動体18と出力軸9の相対回転時の摺動抵抗より大とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸側からの回転力は出力軸側に確実に伝達するが、出力軸側からの回転力が入力軸側に伝達されるのは確実に阻止するようにした、セルフロック機能を有する動力伝達装置およびそれを用いたウインチ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウインチや弁開閉装置、または車椅子の車輪の支持構造等においては、特別にブレーキ装置を設けなければ、出力軸側からの回転力が入力軸に伝達されるのを確実に阻止することはできない。
ウォームギヤや複合ハイポサイクロイド減速機構を用いた減速装置では、減速比を大とすることにより、出力軸側からの回転力が入力軸に伝達されるのを、接触摩擦により、ある程度阻止することができるが、振動等にさらされる状況下においては、その信頼性が低下し、入力軸が出力軸側の回転力により徐々につれ回されることがある。
【0003】
このような出力軸側からの回転力が入力軸に伝達されるのを確実に阻止することができるようにしたものとして、本発明者は、微少歯数差複合ハイポサイクロイド機構を用いたセルフロック機能を有する減速装置をすでに提供している(例えば特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2001−41293号公報
【特許文献2】特開2001−355685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような従来のセルフロック機能を有する減速装置は、減速比を小さくすることは困難であり、例えば減速比が1:1またはそれに近い値で、確実なセルフロック機能を得ることは不可能視されている。
【0005】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、減速比が1:1またはそれに近い値で、確実なセルフロック機能を得ることができるようにした動力伝達装置およびそれを用いたウインチ等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1) ケースに、入力軸と出力軸とを、同一軸線上において回転可能に枢支し、前記出力軸に設けた偏心軸に、揺動体の中心に設けた軸受孔を枢嵌し、前記揺動体の一側面と、それに対向するケースの端部壁の内面とのいずれか一方に、複数のピンを、揺動体の中心軸線または出力軸の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって突設し、かつ他方に、前記ピンの半径より偏心軸の偏心距離だけ大とした半径の係合孔を、出力軸の中心軸線または揺動体の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって穿設し、前記各ピンを対応する係合孔にそれぞれ嵌合することにより、前記偏心軸の偏心運動により、揺動体がケースに対して回転することなく偏心運動するようにし、さらに、入力軸の内端面における前記偏心軸の偏心距離と同一距離だけ偏心した位置に、偏心カムまたは偏心孔を設け、かつそれに対向する揺動体の他側面における前記軸受孔と同心をなす位置に、前記偏心カムが枢嵌される軸受孔または前記偏心孔に枢嵌される円形カムを設け、前記入力軸と揺動体との相対回転時の摺動抵抗を、揺動体と出力軸との相対回転時の摺動抵抗より大とする。
【0007】
(2) 上記(1)項において、3組のピンと係合孔とを、揺動体の中心軸線または出力軸の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって配設する。
【0008】
(3) 上記(1)または(2)項において、偏心カムとその軸受孔、または偏心孔と円形カムの間をメタルタッチとし、かつ偏心軸とその軸受孔の間に、ニードルベアリングを設ける。
【0009】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、入力軸に、出力軸と同期回転するように連係したり、またはその連係を解除したりするクラッチ手段を設ける。
【0010】
(5) 上記(4)項において、クラッチ手段が、入力軸の軸線方向に離れた係合位置と離脱位置とに移動可能として前記入力軸に装着され、係合位置とすることにより、出力軸に噛合し、かつ離脱位置とすることにより、前記出力軸から離脱するようにした操作体を備えるものとする。
【0011】
(6) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、入力軸に、回転ハンドルを所要角度相対回転可能として装着するとともに、前記入力軸に対する回転ハンドルの初期の差動回転により、前記入力軸と出力軸とを同期回転するように互いに連係する係合位置まで、入力軸の軸線方向に押動させられるようにした移動駒を、軸線方向に移動可能として装着し、さらに、前記移動駒を、前記出力軸から離脱する離脱位置に向けて付勢する付勢手段を設ける。
【0012】
(7) 上記(6)項において、入力軸に、移動駒を係合位置に締め付けて固定する締着手段を設ける。
【0013】
(8) ウインチにおいて、上記(1)〜(7)項のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置における出力軸を、ワイヤを巻き取る巻取ドラムに連結し、かつ入力軸を、ドラム回転手段に連結する。
【0014】
(9) 車椅子における車輪支持構造において、上記(1)〜(7)項のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置におけるケースをフレームに固定し、出力軸に車輪を固嵌し、かつ入力軸を、回転ハンドルに連結する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
(1) 請求項1記載の発明によると、入力軸を一方向またはその逆方向に回転させると、揺動体が、それと入力軸との間に設けられた偏心カムと軸受孔または偏心孔と円形カムとの係合により、ケースに対して回転することなく、偏心運動させられ、この揺動体の偏心運動により、出力軸は、それと揺動体との間に設けられた軸受孔と偏心軸との係合により、入力軸と同方向に、ほぼ同一角速度で回転させられる。
このときの入力軸に対する出力軸の減速比は1:1であり、また各摺動部の摩擦が回転抵抗となるだけで、入力軸を軽力で回転させることができる。
しかし、出力軸側から一方向またはその逆方向に回転させようとすると、入力軸と揺動体との間の摩擦抵抗が、揺動体と出力軸との間の摩擦抵抗より大であるので、入力軸が揺動体によりつれ回される以前に、揺動体と出力軸との相対回転により、揺動体とケースとの間におけるいずれかのピンとそれが嵌合されている係合孔との間、または揺動体と入力軸との間に、いわゆるスティック現象である摩擦圧接状態が生じ、出力軸側からの回転がロックされる。
このロック現象は、出力軸のいずれの回転方向にも同様に作用する。
したがって、減速比が1:1またはそれに近い値で、確実なセルフロック機能を得ることができる動力伝達装置を提供することができる。
【0016】
(2) 請求項2記載の発明のように、ピンと係合孔とを3組とすると、最も効果的なセルフロック機能が得られる。
【0017】
(3) 請求項3記載の発明によると、いわゆるスティック現象を確実に生じさせ、出力軸側からの回転を確実にロックさせることができる。
【0018】
(4) 請求項4記載の発明によると、クラッチ手段の切り換えにより、入力軸と出力軸とを同期回転するように連係させて、回転抵抗が少なく、かつセルフロック機能のない状態と、上記連係を断って、確実なセルフロック機能が発揮できる状態とに切り換えることができる。したがって、付加価値が高まり、用途を拡大することができる。
【0019】
(5) 請求項5記載の発明によると、クラッチ手段を簡単な構成とすることができるとともに、クラッチ手段の切り換え操作を容易に行うことができる。
【0020】
(6) 請求項6記載の発明によると、回転ハンドルを回転させる際に、移動駒が係合位置に自動的に移動させられ、それによって入力軸と出力軸とが互いに連係されて、軽力で出力軸を回転させることができ、また、回転ハンドルを操作しないときは、移動駒は、付勢手段の付勢力により、離脱位置に自動的に移動させられ、出力軸はセルフロックされる。したがって、クラッチ手段を切り換え操作することなく、回転ハンドルを自然に操作するだけで、クラッチ手段が自動的に切り換えられるので、操作性がよい。
【0021】
(7) 請求項7記載の発明によると、締着手段を締め付けたり、または緩めたりすることにより、移動駒を係合位置に拘束したり、フリーとしたりすることができ、付加価値が高まり、用途を拡大することができる。
【0022】
(8) 請求項8記載の発明によると、ドラム回転手段を作動させることにより、巻取ドラムを回転させて、ワイヤを巻き取ったり、繰り出したりすることができ、またドラム回転手段を作動させないときは、巻取ドラムがセルフロックされ、ワイヤが、その端末に係止した吊支物の重量等により、不本意に繰り出されたりすることがないようにしたウインチを提供することができる。
したがって、このウインチには、ブレーキ装置を設ける必要がない。
特に、請求項4〜7のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置を適用したウインチにおいては、クラッチ手段や移動駒により、入力軸と出力軸とを連係しておくことにより、セルフロック機能を一時的に不能にして、ワイヤの繰り出しや、巻き取りを容易に行えるようにすることができる。
【0023】
(9) 請求項9記載の発明によると、回転ハンドルを回転させることにより、車輪を駆動して、前進または後退させることができ、また回転ハンドルから手を離したときは、車輪がセルフロックされ、坂道等においても、自重で転がることがないようにした車椅子を提供することができる。
したがって、この車椅子においても、ブレーキ装置を設ける必要がない。
特に、請求項4〜7のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置を適用した車椅子においては、クラッチ手段や移動駒により、入力軸と出力軸とを連係しておくことにより、セルフロック機能を一時的に不能にして、車椅子が慣性によっても走行できるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず、本発明の動力伝達装置をウインチに適用した第1の実施形態を、図1および図2を参照して説明する。
このウインチは、前後方向を向く角管状のドラムカバー(1)と、その左方の側板(2)を、その中央に穿設した大径孔(3)を一部が挿通するようにして、内外から挟んで、外周部を複数のボルト(4)により互いに共締めしてなる当て板(5)とハウジング(6)とからなるケース(7)を備えている。
【0025】
ハウジング(6)内には、入力軸(8)と出力軸(9)とが、左右方向を向く同一軸線上において回転可能に枢支されている。
出力軸(9)は、右端から左端にかけて、小径軸部(10)と偏心軸(11)と大径軸部(12)と小径軸部(13)とが順次連設されたものよりなり、小径軸部(10)は、当て板(5)の中央を貫通して、ドラムカバー(1)内に突出し、その突出部分に、ワイヤ等の索条(図示略)を巻き取る巻取ドラム(14)が嵌合され、かつスプリングピン(15)により固着されている。
【0026】
当て板(5)における小径軸部(10)の貫通部には、ニードルベアリング(16)とOリング(17)とが配設されている。
【0027】
偏心軸(11)には、円筒状の揺動体(18)の中心に設けた軸受孔(19)が、ニードルベアリング(20)を介して外嵌されている。
【0028】
図1および図2に示すように、揺動体(18)の右側面と対向する当て板(5)の左側面には、3個のピン(21)が、小径軸部(10)を中心とする同一円周上に等間隔をもって突設されている。
また、それに対向する揺動体(18)の右側面には、ピン(21)の半径より偏心軸(11)の偏心距離(D)だけ大とした半径の3個の係合孔(22)が、揺動体(18)の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって穿設されており、各ピン(21)を対応する係合孔(22)にそれぞれ嵌合することにより、偏心軸(11)の偏心運動により、揺動体(18)が当て板(5)、すなわちケース(7)に対して回転することなく偏心運動するようになっている。
なお、揺動体(18)の右側面に3個のピン(21)を突設し、かつ当て板(5)の左側面に、各ピン(21)が嵌合する係合孔(22)を設けてもよい。
【0029】
揺動体(18)の左側面における軸受孔(19)と同心をなす位置には、円形の軸受孔(23)が設けられている。
【0030】
入力軸(8)は、ほぼ円筒状をなして、ハウジング(6)の左端部を貫通しており、その貫通部分には、ニードルベアリング(24)とOリング(25)とが配設されている。
入力軸(8)の内部には、出力軸(9)の大径軸部(12)と左端の小径軸部(13)とが嵌合されており、小径軸部(13)と入力軸(8)の内面との間には、ニードルベアリング(26)とOリング(27)とが配設されている。
【0031】
入力軸(8)の右端には、偏心軸(11)の偏心距離(D)と同一距離だけ偏心した位置に、偏心カム(28)が一体的に形成されており、この偏心カム(28)は、上記揺動体(18)の軸受孔(23)に枢嵌されている。
【0032】
なお、入力軸(8)の右端面における偏心軸(11)の偏心距離(D)と同一距離だけ偏心した位置に、偏心孔(図示略)を設け、かつそれに対向する揺動体(18)の左側面における軸受孔(19)と同心をなす位置に、上記偏心孔に枢嵌される円形カム(図示略)を設けてもよい。
【0033】
この例では、入力軸(8)とハウジング(6)との間にOリング(25)を設け、かつ揺動体(18)の軸受孔(23)を平軸受として、その内面と偏心カム(28)との間をメタルタッチとし、さらに偏心軸(11)とその軸受孔(19)との間に、ニードルベアリングを設けることにより、入力軸(8)とケース(7)との相対回転時の摺動抵抗を、入力軸(8)と揺動体(18)との相対回転時の摺動抵抗より大とし、さらに偏心軸(11)とその軸受孔(19)との相対回転時の摺動抵抗をそれらより小としてある。
しかし、Oリング(25)は省略することもできる。
【0034】
(29)は、偏心カム(28)および揺動体(18)のスラストを受けるため、ハウジング(6)内に設けたスラスト板である。
【0035】
ハウジング(6)より左方に突出する入力軸(8)の左端部には、入力軸(8)の軸線と直交する方向に貫通し、かつ軸線方向に長い長孔(30)が設けられ、さらにそれより左側方の外周面には、2条の環状溝(31)(32)が軸線方向に所要の間隔をもって形成されている。
【0036】
この入力軸(8)の左端部には、ドラム回転手段であり、かつ操作体である回転ハンドル(33)における中央のボス部(34)が、軸線方向に摺動自在に嵌合されている。ボス部(34)には、長孔(30)を挿通するスプリングピン(35)が嵌設されており、またボス部(34)の内面には、環状溝(31)(32)に選択的に係合可能なOリング(36)が設けられている。
【0037】
出力軸(9)における小径軸部(13)の左端外周縁には、スプリングピン(35)と係脱しうる多数のV字状の係合溝(37)が円周方向に連続して形成されている。
【0038】
この例では、スプリングピン(35)と係合溝(37)とにより、クラッチ手段(38)が形成され、回転ハンドル(33)がそのクラッチ手段(38)の操作体をなしている。
また、ケース(7)と入力軸(8)と出力軸(9)と揺動体(18)とピン(21)とにより、動力伝達装置(39)の基本的な構造が形成されている。
【0039】
しかして、図1に実線で示すように、回転ハンドル(33)を、Oリング(36)が外側の環状溝(31)に係合し、かつスプリングピン(35)が長孔(30)の左端寄りに位置する離脱位置としているときは、スプリングピン(35)は、出力軸(9)の左端から左方に離間し、入力軸(8)と出力軸(9)とは、互いに相対回転可能であるが、図1に想像線で示すように、回転ハンドル(33)を、Oリング(36)が内側の環状溝(32)に係合し、かつスプリングピン(35)が長孔(30)の右端寄りに位置する係合位置としたときは、スプリングピン(35)は、出力軸(9)の左端のいずれかの係合溝(37)に係合し、入力軸(8)と出力軸(9)とは、互いに一体となって回転するように連結される。
【0040】
したがって、回転ハンドル(33)を係合位置としているときは、入力軸(8)と出力軸(9)とは一体となって回転するので、回転ハンドル(33)を回したときも、巻取ドラム(14)を回したときも、ともに揺動体(18)が回転しない偏心運動をするだけで、一体となって軽力で回転させられる。すなわち、このときはセルフロックは作用しない。
【0041】
回転ハンドル(33)を離脱位置とすると、入力軸(8)と出力軸(9)とは互いに連結状態が解除されて、相対回転が可能となる。
この状態で、回転ハンドル(33)を一方向またはその逆方向に回すと、揺動体(18)は、それと入力軸(8)との間に設けられた偏心カム(28)と軸受孔(23)との係合と、それとケース(7)との間に設けられた係合孔(22)とピン(21)との係合とにより、ケース(7)に対して回転することなく、偏心運動させられ、この揺動体(18)の偏心運動により、出力軸(9)は、それと揺動体(18)との間に設けられた軸受孔(19)と偏心軸(11)との係合により、入力軸(8)と同方向に、ほぼ同一角速度で回転させられる。
このときの入力軸(8)に対する出力軸(9)の減速比は1:1であり、また各摺動部の摩擦が回転抵抗となるだけで、入力軸(8)を軽力で回転させることができる。
【0042】
しかし、出力軸(9)側から一方向またはその逆方向に回転させようとすると、入力軸(8)と揺動体(18)との間の摩擦抵抗が、揺動体(18)と出力軸(9)との間の摩擦抵抗より大であるので、入力軸(8)が揺動体(18)によりつれ回される以前に、偏心軸(11)と揺動体(18)とのわずかな相対回転により、揺動体(18)とケース(7)との間におけるいずれかのピン(21)とそれが嵌合されている係合孔(22)との間、または揺動体(18)と入力軸(8)との間における軸受孔(23)と偏心カム(28)との間に、いわゆるスティック現象である摩擦圧接状態が生じ、出力軸(9)側からの回転がロックされる。
【0043】
このようなスティック現象が生じる理由の一つとして、図2に示すように、偏心軸(11)が軸心(O1)を中心として、矢印のように時計回りに回転させられると、揺動体(18)も矢印で示すように、同方向に偏心運動をしようとするが、偏心カム(28)と軸受孔(23)との摩擦が、偏心軸(11)と軸受孔(23)との摩擦より大であるので、揺動体(18)は、偏心軸(11)に対して、それらの偏心軸心(O2)を中心とした反時計回りにわずかに相対回転しつつ、時計方向にわずかに回動し、そのとき、図2における上方の係合孔(22)の下部がピン(21)の下方に楔入し、揺動体(18)と偏心軸(11)とがロックされることが考えられる。
【0044】
したがって、このウインチによると、ドラム回転手段である回転ハンドル(33)を回転させることにより、巻取ドラム(14)を回転させて、ワイヤを巻き取ったり、繰り出したりすることができ、また回転ハンドル(33)を離脱位置としておくことにより、巻取ドラム(14)がセルフロックされ、ワイヤが、その端末に係止した吊支物の重量等により、不本意に繰り出されたりすることはない。
したがって、このウインチには、ブレーキ装置を設ける必要がない。
【0045】
次に、本発明の動力伝達装置を車椅子の車輪支持構造に適用した第2の実施形態を、図3〜図7を参照して説明する。
図3に示すように、この車椅子は、前面と上面が開放するフレーム(50)の前下部に、左右1対のキャスタ型の前輪(51)(51)と足掛け(52)(52)が、また同じく後下部に、左右1対の後輪(車輪)(53)と回転ハンドル(54)(いずれも一方のみを図示)とがそれぞれ装着され、フレーム(50)の内部に、座(55)と背凭れ(56)が、フレーム(50)の両側部上端に肘掛け(57)(57)がそれぞれ装着され、さらに、背凭れ(56)の上端両側部に、介護者用の左右1対のハンドル(58)(58)が装着されたものよりなっている。
【0046】
図4は、一方の後輪(53)と回転ハンドル(54)との枢支部を拡大して示すもので、この例では、上述の動力伝達装置(39)と同様の原理により作動するようにした動力伝達装置(59)における、上述のケース(7)に相当するケース(60)を、フレーム(50)の後下部の両側部(その一方のもののみを図示)にボルト(61)をもって固着してある。
【0047】
ケース(60)は、ケース本体(62)とそれに螺合する蓋体(63)とからなり、それらの内部に、上述の動力伝達装置(39)における入力軸(8)と出力軸(9)と揺動体(18)とに相当する入力軸(64)と出力軸(65)と揺動体(66)とが配設されている。
【0048】
この動力伝達装置(59)においては、出力軸(65)を筒軸として、入力軸(64)に外嵌し、入力軸(64)とともにケース(60)より図4の右方に延出させた点、揺動体(66)の右側面に3個のピン(67)を突設し、それに対向する蓋体(63)の左側面に、ピン(67)の半径より入力軸(64)の偏心軸(68)の偏心距離(D)だけ大とした半径の3個の係合孔(69)を設けた点、および入力軸(64)の左端部に外嵌して、スプリングピン(70)により固着した偏心カム(71)を、揺動体(66)の左側面に設けた軸受孔(72)に枢嵌した点等において、上述の動力伝達装置(39)における構成と相違しているが、それ以外の構成および作用は動力伝達装置(39)と同一としてある。
【0049】
すなわち、入力軸(64)を回転させることにより、出力軸(65)を同方向に従動回転させることができるが、入力軸(64)が停止している状態で、出力軸(65)を回転させようとしても、出力軸(65)がロックされ、回転不能となる。
【0050】
(73)はOリング、(74)はボールベアリング、(75)はニードルベアリング、(76)はオイルシールである。なお、Oリング(73)は省略してもよい。
【0051】
図4に示すように、出力軸(65)の外周には、後輪(53)のハブ(77)が外嵌され、かつキー(78)をもって回り止めされている。(79)は、後輪(53)のスポークである。
【0052】
出力軸(65)の右端より右方に突出する入力軸(64)の右端近傍には、入力軸(64)の軸線と直交する方向に貫通し、かつ軸線方向に長い長孔(80)が穿設されており、この長孔(80)には、入力軸(64)に摺動自在に外嵌したほぼ円筒形の移動駒(81)を貫通するスプリングピン(82)が挿通している。
スプリングピン(82)およびそれと一体の移動駒(81)は、入力軸(64)(71)に設けた圧縮コイルばね(83)により、常時右方に向けて付勢されている。
【0053】
移動駒(81)の左右の端面には、複数個の山形突起(84)(85)が円周方向に等間隔で設けられており、左方の山形突起(84)は、それに対応するように出力軸(65)の右端外周部に形成したV溝(86)に係合しうるようになっている。
【0054】
出力軸(65)の右端部と、そこから右方に突出する入力軸(64)の右端部とには、回転ハンドル(54)のハブ(87)が、移動駒(81)を内包するようにして、回転自在に外嵌されている。(88)は回転ハンドル(54)のスポークである。
【0055】
ハブ(87)の右端部内面には、移動駒(81)の右端の山形突起(85)に対応するように左端の外周縁にV溝(89)を形成した、円筒形のカム部材(90)が固着(この例では螺着)されている。
【0056】
カム部材(90)内に嵌合された入力軸(64)の右端部内面には、締付ノブ(締着手段)(91)の左端に形成された小径の雄ねじ(92)が螺合されており、図7に示すように、この雄ねじ(92)を締め付けることにより、その先端で、スプリングピン(82)を圧縮コイルばね(83)の付勢力に抗して左方に押動し、移動駒(81)をその山形突起(84)が出力軸(65)のV溝(86)に完全に噛合する係合位置とすることができ、また、図4および図5に示すように、雄ねじ(92)を緩めることにより、移動駒(81)を、圧縮コイルばね(83)の付勢力により、その山形突起(84)が出力軸(65)のV溝(86)から離間した離脱位置に復帰させたりすることができるようになっている。
なお、移動駒(81)を離脱位置としたとき、その山形突起(84)は出力軸(65)のV溝(86)から完全に離脱する必要はなく、図5に示すように、わずかに離間する程度でよい。
【0057】
この例では、移動駒(81)とV溝(86)とにより、クラッチ手段(93)が形成され、締付ノブ(91)とカム部材(90)(およびそれと一体の回転ハンドル(54))とにより、クラッチ手段(92)を係合位置と離脱位置とに移動させる操作体が形成されている。
【0058】
図7に示すように、クラッチ手段(92)を係合位置としたときは、入力軸(64)と出力軸(65)、すなわち回転ハンドル(54)と後輪(53)とは、一体となって軽力で回転できる。
図4および図5に示すように、クラッチ手段(92)が離脱位置となっている状態から、回転ハンドル(54)をいずれかの方向に回転させると、その回転の初期において、図6に示すように、カム部材(90)のV溝(89)の傾斜面と、移動駒(81)の山形突起(85)の傾斜面とのカム作用により、移動駒(81)が左方に押動され、移動駒(81)が係合位置に達すると、入力軸(64)と出力軸(65)、すなわち回転ハンドル(54)と後輪(53)とは、一体となって、上記と同様に軽力で回転できる。
回転ハンドル(54)を上記と逆方向に回転させたときも同様に作用する。
【0059】
図4および図5に示すように、クラッチ手段(92)が離脱位置となっている状態で、例えば坂道で回転ハンドル(54)から手を離したような場合のように、後輪(53)側に回転力が作用したときは、第1の実施形態において説明したのと同様の原理により、出力軸(65)および後輪(53)がセルフロックされるので、車椅子が不意に坂道に沿って走り出すといったおそれを防止することができる。
すなわち、締付ノブ(91)を緩めることにより、後輪(53)にセルフロックによる制動力を付与することができる。したがって、ブレーキ装置を設ける必要がない。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、幾多の変形した態様での実施が可能である。
例えば、上記ウインチおよび車椅子は、いずれも手動式のものとしてあるが、これらをモータで駆動する電動式のものとすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の動力伝達装置は、セルフロックカップリングとして、上述したようなウインチや、車椅子の車輪支持構造だけでなく、セルフロック機能を必要とする、例えば自動車のウインドウレギュレータその他のあらゆる用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の動力伝達装置をウインチに適用した第1の実施形態の中央縦断正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う縦断側面図である。
【図3】本発明の動力伝達装置を車椅子の車輪支持構造に適用した第2の実施形態の外観斜視図である。
【図4】同じく、一方の後輪と回転ハンドルとの枢支部を拡大して示す縦断正面図である。
【図5】同じく、揺動体を外側から見た部分縦断正面図である。
【図6】同じく、回転ハンドルを回転させたときの図5と同様の部分縦断正面図である。
【図7】同じく、締付ノブを締め付けたときの図4の左部と同様の部分縦断正面図である。
【符号の説明】
【0063】
(1)ドラムカバー
(2)側板
(3)大径孔
(4)ボルト
(5)当て板
(6)ハウジング
(7)ケース
(8)入力軸
(9)出力軸
(10)小径軸部
(11)偏心軸
(12)大径軸部
(13)小径軸部
(14)巻取ドラム
(15)スプリングピン
(16)ニードルベアリング
(17)Oリング
(18)揺動体
(19)軸受孔
(20)ニードルベアリング
(21)ピン
(22)係合孔
(23)軸受孔
(24)ニードルベアリング
(25)Oリング
(26)ニードルベアリング
(27)Oリング
(28)偏心カム
(29)スラスト板
(30)長孔
(31)(32)環状溝
(33)回転ハンドル(ドラム回転手段、操作体)
(34)ボス部
(35)スプリングピン
(36)Oリング
(37)係合溝
(38)クラッチ手段
(39)動力伝達装置
(50)フレーム
(51)前輪
(52)足掛け
(53)後輪(車輪)
(54)回転ハンドル
(55)座
(56)背凭れ
(57)肘掛け
(58)ハンドル
(59)動力伝達装置
(60)ケース
(61)ボルト
(62)ケース本体
(63)蓋体
(64)入力軸
(65)出力軸
(66)揺動体
(67)ピン
(68)偏心軸
(69)係合孔
(70)スプリングピン
(71)偏心カム
(72)軸受孔
(73)Oリング
(74)ボールベアリング
(75)ニードルベアリング
(76)オイルシール
(77)ハブ
(78)キー
(79)スポーク
(80)長孔
(81)移動駒
(82)スプリングピン
(83)圧縮コイルばね
(84)(85)山形突起
(86)V溝
(87)ハブ
(88)スポーク
(89)V溝
(90)カム部材(操作体)
(91)締付ノブ(締着手段、操作体)
(92)雄ねじ
(93)クラッチ手段
(O1)軸心
(O2)偏心軸心
(D)偏心距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに、入力軸と出力軸とを、同一軸線上において回転可能に枢支し、前記出力軸に設けた偏心軸に、揺動体の中心に設けた軸受孔を枢嵌し、前記揺動体の一側面と、それに対向するケースの端部壁の内面とのいずれか一方に、複数のピンを、揺動体の中心軸線または出力軸の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって突設し、かつ他方に、前記ピンの半径より偏心軸の偏心距離だけ大とした半径の係合孔を、出力軸の中心軸線または揺動体の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって穿設し、前記各ピンを対応する係合孔にそれぞれ嵌合することにより、前記偏心軸の偏心運動により、揺動体がケースに対して回転することなく偏心運動するようにし、さらに、入力軸の内端面における前記偏心軸の偏心距離と同一距離だけ偏心した位置に、偏心カムまたは偏心孔を設け、かつそれに対向する揺動体の他側面における前記軸受孔と同心をなす位置に、前記偏心カムが枢嵌される軸受孔または前記偏心孔に枢嵌される円形カムを設け、前記入力軸と揺動体との相対回転時の摺動抵抗を、揺動体と出力軸との相対回転時の摺動抵抗より大としたことを特徴とするセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項2】
3組のピンと係合孔とを、揺動体の中心軸線または出力軸の中心軸線を中心とする同一円周上に等間隔をもって配設した請求項1記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項3】
偏心カムとその軸受孔、または偏心孔と円形カムの間をメタルタッチとし、かつ偏心軸とその軸受孔の間に、ニードルベアリングを設けた請求項1または2記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項4】
入力軸に、出力軸と同期回転するように連係したり、またはその連係を解除したりするクラッチ手段を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項5】
クラッチ手段が、入力軸の軸線方向に離れた係合位置と離脱位置とに移動可能として前記入力軸に装着され、係合位置とすることにより、出力軸に噛合し、かつ離脱位置とすることにより、前記出力軸から離脱するようにした操作体を備えている請求項4記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項6】
入力軸に、回転ハンドルを所要角度相対回転可能として装着するとともに、前記入力軸に対する回転ハンドルの初期の差動回転により、前記入力軸と出力軸とを互いに連係する係合位置まで、入力軸の軸線方向に押動させられるようにした移動駒を、軸線方向に移動可能として装着し、さらに、前記移動駒を、前記出力軸から離脱する離脱位置に向けて付勢する付勢手段を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項7】
入力軸に、移動駒を係合位置に締め付けて固定する締着手段を設けた請求項6記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置における出力軸を、ワイヤを巻き取る巻取ドラムに連結し、かつ入力軸を、ドラム回転手段に連結したことを特徴とするウインチ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のセルフロック機能を有する動力伝達装置におけるケースをフレームに固定し、出力軸に車輪を固嵌し、かつ入力軸を、回転ハンドルに連結したことを特徴とする車椅子における車輪支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−70987(P2006−70987A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254788(P2004−254788)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(593169429)
【Fターム(参考)】