説明

セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤

【課題】セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムのRthレターデーション値を上昇させる。
【解決手段】芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤、およびそれを用いた光学補償シートと液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム、特にセルロースアセテートフイルムは、その強靭性と難燃性から各種の写真材料や光学材料に用いられている。セルロースエステルフイルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースエステルフイルムは、液晶表示装置にも用いられている。セルロースエステルフイルムには、他のポリマーフイルムと比較して、光学的等方性が高い(レターデーション値が低い)との特徴がある。従って、光学的等方性が要求される液晶表示装置の素子、例えば偏光素子の保護フイルムやカラーフィルターには、セルロースエステルフイルムを用いることが普通である。
逆に、別の液晶表示装置の素子である光学補償シート(位相差フイルム)は、高いレターデーション値が要求される。従って、光学補償シートとしては、ポリカーボネートフイルムやポリスルホンフイルムのようなレターデーション値が高い合成ポリマーフイルムを用いることが普通である。合成ポリマーフイルムからなる光学補償シートとは別に、透明支持体上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。光学補償シートに要求される高いレターデーション値は、ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層により達成する。これに対して、透明支持体には、高い光学的等方性(低いレターデーション値)が要求されるため、セルロースエステルフイルムが普通に用いられている。
【0003】
従来のディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートは、主にTFT用のTN(Twisted Nematic)モードの液晶セルを光学補償するように設計されている。そのような光
学補償シートを、VA(Vertically Aligned)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モードあるいはHAN(Hybrid Aligned Nematic)モードの液晶セルに用いても対応で
きない(光学補償できない)問題が生じる。
そこで、光学補償シートの支持体も光学的異方性にして、ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層の光学的異方性と協調して、VAモード、OCBモードあるいはHANモードの液晶セルに対応する(光学補償する)ことが考えられる。ポリカーボネートフイルムやポリスルホンフイルムのようなレターデーション値が高い合成ポリマーフイルムは、光学的異方性支持体として用いることができる。しかし、そのような合成ポリマーフイルムは、支持体としての機能(物性や塗布層との親和性)が貧弱である。そのため、支持体としての機能が優れている(ただし、レターデーション値が低い)セルロースエステルフイルムとレターデーション値が高い合成ポリマーフイルムとを貼り合わせた積層体を、光学的異方性支持体として用いることが望ましいとされる。
以上のように光学補償シートのような、光学材料の技術分野では、光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される場合には合成ポリマーフイルムを使用し、光学的等方性(低いレターデーション値)が要求される場合にはセルロースエステルフイルムを使用することが一般的な原則である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−9325号公報
【特許文献2】特開平6−148429号公報
【特許文献3】特開平8−50206号公報
【特許文献4】特開平9−26572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、従来の一般的な原則を覆して、光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される用途に、セルロースエステルフイルムを使用することを検討した。セルロースエステルフイルムは、合成ポリマーフイルムと比較して、支持体としての機能が優れている。光学的異方性が高い(高いレターデーション値を有する)セルロースエステルフイルムが得られれば、光学的異方性が要求される光学補償シートの用途においても、セルロースエステルフイルムを使用することができる。
ただし、従来の技術では、レターデーション値が低いセルロースエステルフイルムが優れたセルロースエステルフイルムであるとされていた。そのため、セルロースエステルフイルムのレターデーション値を低くする手段については詳細に検討されていても、レターデーション値を高くする手段についてはほとんど検討されていていなかった。
そこで、本発明者は、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムのレターデーションを上昇させる機能を有する化合物(レターデーション上昇剤)について、研究および調査を行った。
本発明の目的は、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤を提供することである。
また、本発明の目的は、レターデーション値が高いセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムを用いた光学補償シートを提供することでもある。
さらに、本発明の目的は、支持体としての性質が優れたセルロースエステルフイルムを光学補償シートとして使用した液晶表示装置を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記(1)のセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤、下記(2)〜(5)の光学補償シートおよび下記(6)〜(8)の液晶表示装置により達成された。
(1)芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物からなるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤。
【0007】
(2)セルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.3乃至20重量部含み、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)が70乃至400nmであるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムからなる光学補償シート。
(3)セルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.3乃至20重量部含み、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)が70乃至400nmであるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層が設けられている光学補償シート。
(4)セルロースの低級脂肪酸エステルがセルロースアセテートである(2)または(3)に記載の光学補償シート。
(5)セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムが、40乃至120μmの厚さを有する(2)または(3)に記載の光学補償シート。
【0008】
(6)二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した液晶表示装置であって、光学補償シートがセルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.3乃至20重量部含み、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)が70乃至400nmであるセルロース
の低級脂肪酸エステルフイルムからなることを特徴とする液晶表示装置。
(7)セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの液晶セル側に、ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層が設けられている(6)に記載の液晶表示装置。
(8)液晶セルが、VAモード、OCBモードまたはHANモードの液晶セルである(6)に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明者の研究により、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物は、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムのレターデーションを上昇させる機能を有することが判明した。セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの紫外線吸収剤や可塑剤の例には、上記のような芳香族性化合物が含まれている。しかし、それらの化合物は、紫外線吸収剤や可塑剤としての機能を満足する量(フイルムのレターデーションが顕著に上昇しない範囲の量)で使用されており、フイルムのレターデーションを上昇させる目的で使用することはなかった。
セルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、上記の芳香族性化合物を0.3乃至20重量部添加すると、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)が70乃至400nmであるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムが得られる。このような高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムは、そのまま光学補償シートとして液晶表示装置に用いることができる。また、支持体上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層が設けられている光学補償シートにおいて、高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムを支持体として用いることもできる。
高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムを支持体とし、その上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートは、VA(Vertically Aligned)型、OCB(Optically Compensatory Bend )型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型の液晶表示装置に、特に有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一般的な液晶表示装置の断面模式図である。
【図2】電圧無印加時のVAモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
【図3】電圧印加時のVAモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
【図4】偏光素子をクロスニコルに配置にしたVAモードの液晶セルを、セル基板の法線方向から見て得られる屈折率楕円体の模式図である。
【図5】正の一軸性の液晶セルの屈折率楕円と負の一軸性の光学補償シートの屈折率楕円を示す模式図である。
【図6】VAモードの液晶セルと二枚の光学補償シートとの組み合わせを示す断面模式図である。
【図7】VAモードの液晶セルと一枚の光学補償シートとの組み合わせを示す断面模式図である。
【図8】VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの断面模式図である。
【図9】代表的なVA型液晶表示装置の断面模式図である。
【図10】OCBモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
【図11】HANモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
【図12】OCBモードの液晶セルと二枚の光学補償シートの光学的異方性層との組み合わせを示す断面模式図である。
【図13】HANモードの液晶セルと一枚の光学補償シートの光学的異方性層との組み合わせを示す断面模式図である。
【図14】代表的なOCB型液晶表示装置の断面模式図である。
【図15】代表的なHAN型液晶表示装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[レターデーション上昇剤]
本発明では、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤として使用する。
本明細書において、「セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤」とは、ブリードアウトのような多量添加による問題を生じない範囲の量で使用した場合に、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムのレターデーション(具体的には、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値=Rth550)を、無添加の場合の2倍以上(通常は、2倍乃至10倍)に上昇させる機能を有する化合物を意味する。レターデーションが充分に上昇し、多量添加による問題を生じない範囲の量は、一般に、セルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、0.3乃至20重量部である。レターデーション上昇剤の使用により得られる、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値は、一般に70乃至400nmである。
【0012】
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物は、炭素原子7個分以上のπ結合性の平面を有する。二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければ、二つの芳香族環は、同一平面を形成する。本発明者の研究によれば、セルロースエステルフイルムのレターデーションを上昇させるためには、複数の芳香族環により同一平面を形成することが重要である。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましい。
【0013】
レターデーション上昇剤が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。3以上の芳香族環を有する場合、少なくとも二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければよい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。レターデーション上昇機能の観点では、(a)〜(c)のいずれでもよい。ただし、(b)または(c)の場合は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。
【0014】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0015】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0016】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。ただし、置換基は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。立体障害では、置換基の種類および位置が問題になる。置換基の種類としては、立体的に嵩高い置換基(例えば、3級アルキル基)が立体障害を起こしやすい。置換基の位置としては、芳香族環の結合に隣接する位置(ベンゼン環の場合はオルト位)が置換された場合に、立体障害が生じやすい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0017】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0018】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0019】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
【0020】
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。レターデーション上昇剤の沸点は、260℃以上であることが好ましい。沸点は、市販の測定装置(例えば、TG/DTA100、セイコー電子工業(株)製)を用いて測定できる。
以下に、レターデーション上昇剤の具体例を示す。なお、各具体例において、芳香族環の芳香族性は、○印で示す。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【0038】
【化18】

【0039】
【化19】

【0040】
【化20】

【0041】
【化21】

【0042】
【化22】

【0043】
【化23】

【0044】
【化24】

【0045】
【化25】

【0046】
【化26】

【0047】
【化27】

【0048】
【化28】

【0049】
【化29】

【0050】
【化30】

【0051】
【化31】

【0052】
【化32】

【0053】
【化33】

【0054】
【化34】

【0055】
【化35】

【0056】
【化36】

【0057】
【化37】

【0058】
【化38】

【0059】
【化39】

【0060】
【化40】

【0061】
【化41】

【0062】
【化42】

【0063】
【化43】

【0064】
【化44】

【0065】
【化45】

【0066】
【化46】

【0067】
【化47】

【0068】
【化48】

【0069】
【化49】

【0070】
【化50】

【0071】
【化51】

【0072】
【化52】

【0073】
【化53】

【0074】
【化54】

【0075】
【化55】

【0076】
【化56】

【0077】
【化57】

【0078】
【化58】

【0079】
【化59】

【0080】
【化60】

【0081】
【化61】

【0082】
【化62】

【0083】
【化63】

【0084】
【化64】

【0085】
【化65】

【0086】
【化66】

【0087】
[セルロースの低級脂肪酸エステル]
低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの平均酢化度(アセチル化度)は、55.0%以上62.5%未
満であることが好ましい。フイルムの物性の観点では、平均酢化度は、58.0%以上62.5%未満であることがさらに好ましい。ただし、平均酢化度が55.0%以上58.0%未満(好ましくは57.0%以上58.0%未満)であるセルロースアセテートを用いると、非常に高いレターデーション値のフイルムを製造することができる。
酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。
また、本発明に使用するセルロースエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至1.7であることが好ましく、1.3乃至1.65であることがさらに好ましく、1.4乃至1.6であることが最も好ましい。
【0088】
[フイルムのレターデーション値]
セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。具体的には、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とする面内レターデーションの測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150:日本分光(株)製)を用いて実施できる。
厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内レターデーション値(Re)とは、それぞれ下記式(1)および(2)に従って算出する。
式(1)
厚み方向のレターデーション値(Rth)={(nx+ny)/2−nz}×d
式(2)
面内レターデーション値(Re)=(nx−ny)×d
式中、nxはフイルム平面内のx方向の屈折率であり、nyはフイルム平面内のy方向の屈折率であり、nzはフイルム面に垂直な方向の屈折率であり、そしてdはフイルムの厚み(nm)である。
本発明では、フイルムの波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を、70乃至400nmに調整する。厚み方向のレターデーション値は、100乃至400nmであることが好ましく、150乃至400nmであることがより好ましく、200乃至400nmであることがさらに好ましく、200乃至300nmであることがさらにより好ましく、200乃至250nmであることが最も好ましい。
【0089】
また、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を基準値(=1)とするRthの分布の傾き(a)の絶対値は、0.0012未満であることが好ましい。Rthの分布の傾き(a)は、波長400nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth400)、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)および波長700nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth700)の三点の測定データから、下記式(3)に従って算出する。
式(3)
Rthの分布の傾き(a)=|Rth700−Rth400|/300Rth550
従って、Rth400、Rth550およびRth700は、下記式(11)を満足することが好ましい。
式(11)
|Rth700−Rth400|/300Rth550<0.0012
Rth400、Rth550およびRth700は、下記式(13)を満足することがより好ましい。
式(13)
−0.0012<(Rth700−Rth400)/300Rth550<0.0006
【0090】
さらに、波長550nmにおける面内レターデーション値(Re550)を基準値(=1)とするReの分布の傾き(b)の絶対値は、0.002未満であることが好ましい。Reの分布の傾き(b)は、波長400nmにおける面内レターデーション値(Re400)、波長550nmにおける面内レターデーション値(Re550)および波長700nmにおける面内レターデーション値(Re700)の三点の測定データから、下記式(4)に従って算出する。
式(4)
Reの分布の傾き(b)=|Re700−Re400|/300Re550
従って、Re400、Re550およびRe700は、下記式(12)を満足することが好ましい。
式(12)
|Re700−Re400|/300Re550<0.002
Re400、Re550およびRe700は、下記式(14)を満足することがより好ましい。
式(14)
−0.002<(Rth700−Rth400)/300Rth550<0.001
【0091】
[有機溶媒]
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0092】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%
であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
【0093】
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
特に好ましい有機溶媒は、互いに異なる三種類の溶媒の混合溶媒であって、第1の溶媒が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれ、第2の溶媒が炭素原子数が1乃至5の直鎖状一価アルコールから選ばれ、そして第3の溶媒が沸点が30乃至170℃のアルコールおよび沸点が30乃至170℃の炭化水素から選ばれる。
第1の溶媒のエーテル、ケトン、エステルおよびハロゲン化炭化水素については、前述した通りである。
第2の溶媒は、炭素原子数が1乃至5の直鎖状一価アルコールから選ばれる。アルコールの水酸基は、炭化水素直鎖の末端に結合してもよいし(第一級アルコール)、中間に結合してもよい(第二級アルコール)。第2の溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノールおよび3−ペンタノールから選ばれる。直鎖状一価アルコールの炭素原子数は、1乃至4であることが好ましく、1乃至3であることがさらに好ましく、1または2であることが最も好ましい。エタノールが特に好ましく用いられる。
【0094】
第3の溶媒は、沸点が30乃至170℃のアルコールおよび沸点が30乃至170℃の炭化水素から選ばれる。
アルコールは一価であることが好ましい。アルコールの炭化水素部分は、直鎖であっても、分岐を有していても、環状であってもよい。炭化水素部分は、飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。
アルコールの例には、メタノール(沸点:64.65℃)、エタノール(78.325℃)、1−プロパノール(97.15℃)、2−プロパノール(82.4℃)、1−ブタノール(117.9℃)、2−ブタノール(99.5℃)、t−ブタノール(82.45℃)、1−ペンタノール(137.5℃)、2−メチル−2−ブタノール(101.9℃)およびシクロヘキサノール(161℃)が含まれる。
【0095】
アルコールについては、前記第2の溶媒の定義と重複するが、第2の溶媒として使用するアルコールとは異なる種類のアルコールであれば、第3の溶媒として使用できる。例えば、第2の溶媒として、エタノールを使用する場合は、第2の溶媒の定義に含まれる他のアルコール(メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノールまたは3−ペンタノール)を第3の溶媒として使用してもよい。
炭化水素は、直鎖であっても、分岐を有していても、環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。
炭化水素の例には、シクロヘキサン(沸点:80.7℃)、ヘキサン(69℃)、ベンゼン(80.1℃)、トルエン(110.6℃)およびキシレン(138.4〜144.4℃)が含まれる。
【0096】
三種混合溶媒中には、第1の溶媒が50乃至95重量%含まれることが好ましく、60乃至92重量%含まれることがより好ましく、65乃至90重量%含まれることが更に好ましく、70乃至88重量%含まれることが最も好ましい。第2の溶媒は、1乃至30重量%含まれることが好ましく、2乃至27重量%含まれることがより好ましく、3乃至24重量%含まれることがさらに好ましく、4乃至22重量%含まれることが最も好ましい。第3の溶媒は、1乃至30重量%含まれることが好ましく、2乃至27重量%含まれることがより好ましく、3乃至24重量%含まれることがさらに好ましく、4乃至22重量
%含まれることが最も好ましい。
さらに他の有機溶媒を併用して、四種以上の混合溶媒としてもよい。四種以上の混合溶媒を用いる場合の4番目以降の溶媒も、前述した三種類の溶媒から選択することが好ましい。前述した三種類の溶媒以外の溶媒として、炭素原子数が3乃至12のエーテル類(例、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール)やニトロメタンを併用してもよい。
【0097】
[溶液の調製(一般的な方法)]
本発明では、冷却溶解法を採用せずに、一般的な方法で溶液を調製することができる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースエステルの量は、得られる溶液中に10乃至40重量%含まれるように調整する。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースエステルと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースエステルと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0098】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0099】
[溶液の調製(冷却溶解法)]
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒(ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒)中にも、セルロースエステルを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースエステルを溶解できる溶媒(例えば、ハロゲン化炭化水素)であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースエステルの量は、この混合物中に10乃至40重量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0100】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースエステルと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0101】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースエステルが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0102】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20重量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの平均酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0103】
[フイルムの製造]
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造する。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
流延した後、2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。本発明に従い調製した溶液(ドープ)は、この条件を満足する。
製造するフイルムの厚さは、40乃至120μmであることが好ましく、70乃至100μmであることがさらに好ましい。
【0104】
[フイルムの添加剤]
セルロースエステルフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25重量%であることが好ましく、1乃至20重量%であることがさらに好ましく、3乃至15重量%であることが最も好ましい。
【0105】
セルロースエステルフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1重量%であることが好ましく、0.01乃至0.2重量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01重量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1重量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。紫外線防止剤については、特開平7−11056号公報に記載がある。
なお、平均酢化度が55.0乃至58.0%であるセルロースアセテートは、平均酢化度が58.0%以上であるセルローストリアセテートと比較して、調製した溶液の安定性や製造したフイルムの物性が劣るとの欠点がある。しかし、上記のような劣化防止剤、特にブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を用いることで、この欠点を実質的に解消することが可能である。
【0106】
[一般的な液晶表示装置の構成]
セルロースエステルフイルムは、様々な用途で用いることができる。本発明のセルロースエステルフイルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。本発明のセルロースエステルフイルムには、厚み方向のレターデーション値が高いとの特徴があるため、フイルムそのものを光学補償シートとして用いることができる。
液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置
された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。
一般的な液晶表示装置の構成について、図1を参照しながら説明する。
【0107】
図1は、一般的な液晶表示装置の断面模式図である。
液晶層(7)は、樹脂基板(5a、5b)の間に設ける。樹脂基板(5a、5b)の液晶側には、透明電極層(6a、6b)が設けられる。以上の液晶層、樹脂基板および透明電極(5〜7)が液晶セルを構成する。
液晶セルの上下に、光学補償シート(4a、4b)が接着されている。本発明のセルロースエステルフイルムは、この光学補償シート(4a、4b)として用いることができる。なお、光学補償シート(4a、4b)は、偏光膜(3a、3b)の保護膜(2a、2b)が設けられていない側を保護する機能も有している。
光学補償シート(4a、4b)の上下には、偏光素子(2a、2b、3a、3b)が設けられている。偏光素子は、保護膜(2a、2b)および偏光膜(3a、3b)からなる。
図1に示す液晶表示装置では、さらに片側の偏光素子の上に表面処理膜(1)が設けられている。表面処理膜(1)が設けられるのは、外から人が見る側である。液晶表示装置のバックライトは、反対側(2bの側)に設けられる。
以下、液晶セル、光学補償シートおよび偏光素子について、さらに説明する。
【0108】
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。
液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。
液晶セルの基板は、一般に80乃至500μmの厚さを有する。
【0109】
光学補償シートは、液晶画面の着色を取り除くための複屈折率フイルムである。本発明のセルロースエステルフイルムそのものを、光学補償シートとして用いることができる。また、液晶表示装置の視野角を改良するため、本発明のセルロースエステルフイルムと、それとは(正/負の関係が)逆の複屈折を示すフイルムを重ねて光学補償シートとして用いてもよい。光学補償シートの厚さの範囲は、前述した本発明のフイルムの好ましい厚さと同じである。
【0110】
偏光素子の偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。いずれの偏光膜も、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。
偏光板の保護膜は、25乃至350μmの厚さを有することが好ましく、50乃至200μmの厚さを有することがさらに好ましい。
図1に示す液晶表示装置のように、表面処理膜を設けてもよい。表面処理膜の機能には、ハードコート、防曇処理、防眩処理および反射防止処理が含まれる。
【0111】
前述したように、支持体の上に液晶(特にディスコティック液晶性分子)を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報記載)。本発明のセルロースエステルフイルムは、そのような光学補償シートの支持体としても用いることができる。
【0112】
[ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層]
光学的異方性層は、負の一軸性を有し傾斜配向したディスコティック液晶性分子を含む
層であることが好ましい。ディスコティック液晶性分子の円盤面と支持体面とのなす角は、光学的異方性層の深さ方向において変化している(ハイブリッド配向している)ことが好ましい。ディスコティック液晶性分子の光軸は、円盤面の法線方向に存在する。ディスコティック液晶性分子は、光軸方向の屈折率よりも円盤面方向の屈折率が大きな複屈折性を有する。
光学的異方性層は、後述する配向膜によってディスコティック液晶性分子を配向させ、その配向状態のディスコティック液晶性分子を固定することによって形成することが好ましい。ディスコティック液晶性分子は、重合反応により固定することが好ましい。
なお、光学的異方性層には、レターデーション値が0となる方向が存在しない。言い換えると、光学的異方性層のレターデーションの最小値は、0を越える値である。
【0113】
ディスコティック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶
の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page
2655 (1994))に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開
平8−27284公報に記載がある。
ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有するディスコティック液晶性分子は、下記式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0114】
(I)
D(−L−P)
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Pは重合性基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(I)の円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0115】
【化67】

【0116】
【化68】

【0117】
【化69】

【0118】
【化70】

【0119】
【化71】

【0120】
【化72】

【0121】
【化73】

【0122】
式(I)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ、アルコキシ基、アシルオキシ基)を有していてもよい。
【0123】
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基を意味し、ARはアリーレン基を意味する。
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
【0124】
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−S−AL−
L21:−S−AL−O−
L22:−S−AL−O−CO−
L23:−S−AL−S−AL−
L24:−S−AR−AL−
【0125】
式(I)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0126】
【化74】

【0127】
【化75】

【0128】
【化76】

【0129】
【化77】

【0130】
【化78】

【0131】
【化79】

【0132】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P14、P15、P16)またはエポキシ基(P6)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P14、P15、P16)であることが最も好ましい。
式(I)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、ディスコティックコア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
二種類以上のディスコティック液晶性分子(例えば、二価の連結基に不斉炭素原子を有する分子と有していない分子)を併用してもよい。
【0133】
光学的異方性層は、ディスコティック液晶性分子、下記の重合性開始剤や他の添加剤を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成する。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0134】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
配向させたディスコティック液晶性分子は、配向状態を維持して固定する。固定化は、ディスコティック液晶性分子に導入した重合性基(P)の重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0135】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20重量%であることが好ましく、0.5乃至5重量%であることがさらに好ましい。
ディスコティック液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm乃至50J/cmであることが好ましく、100乃至800mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
光学的異方性層の厚さは、0.1乃至10μmであることが好ましく、0.5乃至5μmであることがさらに好ましく、1乃至5μmであることが最も好ましい。
【0136】
[配向膜]
配向膜は、光学的異方性層のディスコティック液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。ポリビニルアルコールが、好ましいポリマーである。疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。疎水性基は光学的異方性層のディスコティック液晶性分子と親和性があるため、疎水性基をポリビニルアルコールに導入することで、ディスコティック液晶性分子を均一に配向させることができる。疎水性基は、ポリビニルアルコールの主鎖末端または側鎖に結合させる。
疎水性基は、炭素原子数が6以上の脂肪族基(好ましくはアルキル基またはアルケニル基)または芳香族基が好ましい。
【0137】
ポリビニルアルコールの主鎖末端に疎水性基を結合させる場合は、疎水性基と主鎖末端との間に連結基を導入することが好ましい。連結基の例には、−S−、−C(CN)R−、−NR−、−CS−およびそれらの組み合わせが含まれる。上記RおよびRは、それぞれ、水素原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基(好ましくは、炭素原子数が1乃至6のアルキル基)である。
ポリビニルアルコールの側鎖に疎水性基を導入する場合は、ポリビニルアルコールの酢酸ビニル単位のアセチル基(−CO−CH)の一部を、炭素原子数が7以上のアシル基(−CO−R)に置き換えればよい。Rは、炭素原子数が6以上の脂肪族基または芳香族基である。
市販の変性ポリビニルアルコール(例、MP103、MP203、R1130、クラレ
(株)製)を用いてもよい。
配向膜に用いる(変性)ポリビニルアルコールのケン化度は、80%以上であることが好ましい。(変性)ポリビニルアルコールの重合度は、200以上であることが好ましい。
ラビング処理は、配向膜の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。長さおよび太さが均一な繊維を均一に植毛した布を用いることが好ましい。
なお、配向膜を用いてディスコティック液晶性分子を配向させてから、その配向状態のままディスコティック液晶性分子を固定して光学的異方性層を形成し、光学的異方性層のみを支持体上に転写してもよい。配向状態で固定されたディスコティック液晶性分子は、配向膜がなくても配向状態を維持することができる。そのため、光学補償シートでは、配向膜は(ディスコティック液晶性分子を含む光学補償シートの製造において必須ではあるが)必須の要素ではない。
【0138】
[VA型液晶表示装置]
本発明のセルロースエステルフイルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。
VA型液晶表示装置について、図2〜図9を引用して説明する。
図2は、電圧無印加時のVAモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、液晶セルは、上基板(11)と下基板(13)の間に液晶性化合物(12)を封入した構造を有する。VAモードの液晶セルに使用する液晶性化合物(12)は、一般に負の誘電率異方性を有する。VAモードの液晶セルの印加電圧が0の時(電圧無印加時)、図2に示すように、液晶性化合物(12)の分子が垂直に配向している。上下の基板(11、13)の両側に、一対の偏光素子(図示せず)をクロスニコルに配置すると、基板面の法線方向(14)には、レターデーションは生じない。その結果、基板面の法線方向(14)には光が透過できず、黒表示となる。
視線を基板の法線方向(14)から傾いた方向(15)に移すと、レターデーションが生じるために光が透過して、コントラストが低下する。この斜め方向のレターデーションは、光学補償シートの光学的異方性により補償することができる。詳細については、後述(図5を引用して説明)する。
なお、図2では、液晶性化合物(12)は、全てが完全に垂直方向に配向しているが、実際には、一定の方向にわずかに傾斜(プレチルト)させている。これは、電圧印加時(下記図3で説明)に、液晶性化合物を全て一定の方向(プレチルト方向)に傾けるためである。
【0139】
図3は、電圧印加時のVAモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。
上基板(21)と下基板(23)は、それぞれ、電極層(図示せず)を有し、液晶性化合物(22)に電圧を印加することができる。図3に示すように、電圧を印加すると、液晶セル中央部の液晶性化合物の分子は水平配向をとる。その結果、基板面の法線方向(24)にレターデーションが生じ光が透過する。
このように液晶セル中央部の液晶分子は水平配向状態となるが、配向膜近傍の液晶分子は水平配向状態をとらず、プレチルト方向に傾斜配向する。視線を基板面の法線方向(24)から傾けた方向(25)に移すと、レターデーションの角度変化が小さいのに対して、視線を別の方向(26)に移すとレターデーションの角度変化が大きい。従って、液晶性化合物のプレチルト方向(26と同じ方向)を画像の下方向とすると、左右方向の視野角は対称で広く、下方向の視野角も広いが、上方向の視野角が狭い上下非対称な視角特性になる。この視角特性を改善するためには、電圧印加時に水平配向せず傾斜した液晶分子により生じるレターデーションを補償する必要がある。
光学補償シートは、上記のレターデーションを補償し、視覚特性を改善(電圧印加時の
透過率の視覚方向における非対称性を解消)する機能を有する。
【0140】
図4は、偏光素子をクロスニコルに配置したVAモードの液晶セルを、セル基板の法線方向から見て得られる屈折率楕円の模式図である。図4の(a)は、電圧無印加時の屈折率楕円であり、(b)は電圧印加時の屈折率楕円である。
クロスニコル配置では、入射側の偏光素子の透過軸(31a、31b)と出射側の偏光素子の透過軸(32a、32b)とを垂直に配置する。
電圧無印加時では、セル内の液晶分子はセル基板面に対して垂直に配向している。従って、セル基板の法線方向から見て得られる屈折率楕円(33a)は、円形となる。この場合、液晶セルのレターデーションは0となるため光が透過しない。
これに対して、電圧印加時ではセル内の液晶分子はセル基板面に対して実質的に水平に配向している。従って、セル基板の法線方向から見て得られる屈折率楕円(33b)は楕円形となる。この場合、液晶セルのレターデーションは0でない値となるため光が透過する。なお、図4の(b)には、セル内の液晶分子の光軸の液晶セル基板面への正射影(34)も示す。
【0141】
図5は、正の一軸性の液晶セルの屈折率楕円と負の一軸性の光学補償シートの屈折率楕円を示す模式図である。
液晶セル(43)に正の一軸性の光学的異方性が生じた場合は、液晶セル基板に平行な面内の屈折率(44x、44y)と液晶セルの厚み方向の屈折率(44z)により形成される屈折率楕円(44)は、図5に示すようなラグビーボールを立てた形状になる。このような(球状ではない)ラグビーボール状の屈折率楕円を有する液晶セルを、図2で説明したように斜め方向(図2の15)から見ると、レターデーションが生じる。このレターデーションは、負の一軸性の光学補償シート(42)によりキャンセルされ、光漏れを抑えることができる。
負の一軸性を有する光学補償シート(42)では、光学補償シート面内の主屈折率(41x、41y)と光学補償シートの厚み方向の主屈折率(41z)により形成される光学補償シートの屈折率楕円(41)は、図4に示すようなアンパン状になる。そのため、41xと44xの和、41yと44yの和および41zと44zの和が、ほぼ同じ値となる。その結果として、液晶セルに生じたレターデーションがキャンセルされる。
本発明の光学補償シートには、前述した視覚特性の改善機能に加えて、上記の電圧無印加時の斜方入射における光漏れを防ぐ機能もある。
【0142】
図6は、VAモードの液晶セルと二枚の光学補償シートとの組み合わせを示す断面模式図である。
図6に示すように、二枚の光学補償シート(53、54)は、(a)〜(d)の4種類のバリエーションのいずれかで、VAモードの液晶セル(50)と組み合わせることができる。
(a)および(c)のバリエーションでは、光学補償シート(53、54)のディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層(51)の側を、VAモードの液晶セル(50)に張り合せて使用する。(a)のバリエーションでは、光学的異方性層(51)の透明支持体(52)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。(c)のバリエーションでは、光学的異方性層(51)のVAモードの液晶セル(50)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。
(b)および(d)のバリエーションでは、光学補償シート(53、54)の透明支持体(52)の側を、VAモードの液晶セル(50)に張り合せて使用する。(b)のバリエーションでは、光学的異方性層(51)の透明支持体(52)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。(d)のバリエーションでは、光学的異方性層(51)の外側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。
【0143】
図7は、VAモードの液晶セルと一枚の光学補償シートとの組み合わせを示す断面模式図である。
図7に示すように、一枚の光学補償シート(63)は、(e)〜(h)の4種類のバリエーションのいずれかで、VAモードの液晶セル(60)と組み合わせることができる。
(e)および(g)のバリエーションでは、光学補償シート(63)のディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層(61)の側を、VAモードの液晶セル(60)に張り合せて使用する。(e)のバリエーションでは、光学的異方性層(61)の透明支持体(62)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。(g)のバリエーションでは、光学的異方性層(61)のVAモードの液晶セル(60)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。
(f)および(h)のバリエーションでは、光学補償シート(63)の透明支持体(62)の側を、VAモードの液晶セル(60)に張り合せて使用する。(f)のバリエーションでは、光学的異方性層(61)の透明支持体(62)側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。(h)のバリエーションでは、光学的異方性層(61)の外側に配向膜を設けて、ディスコティック液晶性分子を配向させている。
【0144】
図8は、VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの断面模式図である。
図8に示す光学補償シートは、支持体(71)、配向膜(72)、光学的異方性層(73)の順序の層構成を有する。この層構成は、図6の(a)、(b)または図7の(e)、(f)の光学補償シートに対応する。配向膜(72)は、一定の方向(75)にラビングすることで、配向機能が付与されている。
光学的異方性層(73)に含まれるディスコティック液晶性分子(73a、73b、73c)は、平面分子である。ディスコティック液晶性分子(73a、73b、73c)は、分子中にはただ一個の平面、すなわち円盤面(Pa、Pb、Pc)を持つ。円盤面(Pa、Pb、Pc)は、支持体(71)の面に平行な面(71a、71b、71c)から傾斜している。円盤面(Pa、Pb、Pc)と支持体面に平行な面(71a、71b、71c)との間の角度が、傾斜角(θa、θb、θc)である。支持体の法線(74)に沿って、配向膜(72)からの距離が増加するに伴い、傾斜角も増加する(θa<θb<θc)。
傾斜角(θa、θb、θc)は、0乃至60°の範囲で変化していることが好ましい。傾斜角の最小値は、0乃至55°の範囲であることが好ましく、5乃至40°の範囲であることがさらに好ましい。傾斜角の最大値は、5乃至60°の範囲であることが好ましく、20乃至60°の範囲であることがさらに好ましい。傾斜角の最小値と最大値との差は、5乃至55°の範囲であることが好ましく、10乃至40°の範囲であることがさらに好ましい。
図8に示すように傾斜角を変化させると、光学補償シートの視野角拡大機能が著しく向上する。また、傾斜角を変化させた光学補償シートには、表示画像の反転、階調変化あるいは着色の発生を防止する機能もある。
【0145】
図9は、代表的なVA型液晶表示装置の断面模式図である。
図9に示す液晶表示装置は、VAモードの液晶セル(VAC)、液晶セルの両側に設けられた一対の偏光素子(A、B)、液晶セルと偏光素子との間に配置された一対の光学補償シート(OC1、OC2)およびバックライト(BL)からなる。光学補償シート(OC1、OC2)は、一方のみ配置してもよい。
光学補償シート(OC1、OC2)の矢印(R1、R2)は、光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向(図8における矢印75に相当)である。図9に示す液晶表示装置では、光学補償シート(OC1、OC2)の光学的異方性層が液晶セル側に配置されている。光学補償シート(OC1、OC2)の光学的異方性層を偏光素子(A、B)側に配置してもよい。光学的異方性層を偏光素子(A、B)側に配置する場合は、配向膜のラビング方向(R1、R2)は、図9とは逆の向きになる。
液晶セル(VAC)の矢印(RP1、RP2)は、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向である。
偏光素子(A、B)の矢印(PA、PB)は、それぞれ偏光素子の偏光の透過軸である。
【0146】
光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向(R1、R2)と、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP1、RP2)は、それぞれ実質的に平行または逆平行であることが好ましい。偏光素子の偏光の透過軸(PA、PB)は、実質的に直交または平行になるように配置することが好ましい。実質的に直交、平行あるいは逆平行であるとは、角度のずれが、20°未満(好ましくは15°未満、さらに好ましくは10°未満、最も好ましくは5°未満)であることを意味する。
液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP1、RP2)と、偏光素子の偏光の透過軸(PA、PB)との角度は、それぞれ、10乃至80゜であることが好ましく、20乃至70゜であることがさらに好ましく、35乃至55゜であることが最も好ましい。
【0147】
VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。
VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質は、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。それらの光学的性質の詳細を、以下に述べる。
光学的性質としては、(1)光学的異方性層、(2)支持体および(3)光学補償シート全体のそれぞれについて、面内レターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)およびレターデーションの絶対値が最小となる方向とシートの法線との角度(β)が重要である。
面内レターデーションと厚み方向のレターデーションは、前述したセルロースエステルフイルムの定義と同様である。ただし、光学的異方性層および光学補償シート全体では、前述した定義におけるnx、ny、nzは、nx≧ny≧nzを満足する面内主屈折率を意味する。
【0148】
VA型液晶表示装置に光学補償シートを二枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−5nm乃至5nmの範囲内にすることが好ましい。従って、二枚の光学補償シートのそれぞれの面内レターデーション(Re31)の絶対値は、0≦|Re31|≦5とすることが好ましい。
Re31を上記の範囲に調整するため、光学的異方性層の面内レターデーション(Re)の絶対値と支持体の面内レターデーション(Re)の絶対値との差(||Re|−|Re||)を5nm以下として、さらに、光学的異方性層と支持体とが、それぞれの面内の遅相軸が実質的に垂直になるように配置することが好ましい。
VA型液晶表示装置に光学補償シートを一枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−10nm乃至10nmの範囲内にすることが好ましい。従って、一枚の光学補償シートの面内レターデーション(R32)の絶対値は、0≦|Re32|≦10とすることが好ましい。
Re32を上記の範囲に調整するため、光学的異方性層の面内レターデーション(Re)の絶対値と支持体の面内レターデーション(Re)の絶対値との差(||Re|−|Re||)を10nm以下として、さらに、光学的異方性層と支持体とが、それぞれの面内の遅相軸が実質的に垂直になるように配置することが好ましい。
【0149】
VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートについて、(1)光学的異方性層、(2)支持体および(3)光学補償シート全体の光学的性質の好ましい範囲を以下にまとめて示す。なお、ReとRthの単位はnmである。上付の数字1は光学的異方性層の値、上付の数字2は支持体の値、そして上付の数字3は光学補償シートの値をそれぞれ意味する。
Re31およびRe32の意味は、上記の通りである。なお、支持体の厚み方向のレターデーション(Rth)の好ましい範囲は、前述したセルロースエステルフイルムの光学的性質として定義した通りである。また、二以上の支持体を設ける場合、支持体全体の面内レターデーション(Re)は、それぞれの支持体の面内レターデーションの合計値に相当する。
【0150】
─────────────────────────────────────
好ましい範囲 さらに好ましい範囲 最も好ましい範囲
─────────────────────────────────────
0<|Re|≦200 5≦|Re|≦150 10≦|Re|≦100
0≦|Re|≦200 5≦|Re|≦150 10≦|Re|≦100
0≦|Re31|≦4.5 0≦|Re31|≦4 0≦|Re31|≦3.5
0≦|Re32|≦9 0≦|Re32|≦8 0≦|Re32|≦7
─────────────────────────────────────
10≦|Rth|≦400 20≦|Rth|≦300 30≦|Rth|≦200
10≦|Rth|≦600 60≦|Rth|≦500 100≦|Rth|≦400
─────────────────────────────────────
0°<β≦60° 0°<β≦50° 0°<β≦40°
0°≦β≦10° 0°≦β≦5° 0°≦β≦3°
0°<β≦50° 0°<β≦45° 0°<β≦40°
─────────────────────────────────────
【0151】
[OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置]
本発明のセルロースエステルフイルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置について、図10〜図15を引用して説明する。
図10は、OCBモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。図10は、黒表示の状態であって、ノーマリーホワイトモードにおける電圧印加時またはノーマリーブラックモードにおける電圧無印加時に相当する。
図10に示すように、OCBモードの液晶セルは、上基板(11)と下基板(13)の間に液晶性化合物(12)を封入した構造を有する。OCBモードの液晶セルでは、ある光の進む方向(16a)に関して、下基板(13)付近で液晶性化合物(12)の複屈折が小さく、上基板(11)付近での液晶性化合物(12)の複屈折が大きい。この方向(16a)に対して、基板の法線を中心に線対称となる方向(16b)では、下基板(13)付近で液晶性化合物(12)の複屈折が大きく、上基板(11)付近での液晶性化合物(12)の複屈折が小さい。このように、OCBモードの液晶セルでは、レターデーションが基板の法線を中心に対称になるため、光学的な自己補償機能を有している。そのため、OCBモードの液晶セルは、原理的に広い視野角を有している。
【0152】
図11は、HANモードの液晶セル内の液晶性化合物の配向を模式的に示す断面図である。図11は、黒表示の状態であって、ノーマリーホワイトモードにおける電圧印加時またはノーマリーブラックモードにおける電圧無印加時に相当する。
図11に示すように、HANモードの液晶セルも、上基板(21)と下基板(23)の間に液晶性化合物(22)を封入した構造を有する。HANモードは、OCBモードの(透過型)液晶セルの考え方を、反射型液晶セルに応用した液晶セルである。HANモードの液晶セルでは、入射光(27)に関して、上基板(21)付近での液晶性化合物(22)の複屈折が大きく。下基板(23)付近で液晶性化合物(22)の複屈折が小さい。一方、出射光(28)に関しては、下基板(23)付近で液晶性化合物(22)の複屈折が
大きく、上基板(21)付近での液晶性化合物(22)の複屈折が小さい。このように、HANモードの液晶セルでは、入射光と反射光のレターデーションが対称になるため、光学的な自己補償機能を有している。そのため、HANモードの液晶セルも、原理的に広い視野角を有している。
【0153】
OCBモードやHANモードの液晶セルでも、視野角を大きくすると、黒表示部からの光の透過率が著しく増大し、コントラストが低下する。光学補償シートは、斜め方向の光の入射におけるコントラストの低下を防ぎ、視野角特性を改善し、さらに正面のコントラストを改善するために用いる。
液晶セルが黒表示において正の一軸性を有する場合、図5で説明したように、負の一軸性の光学補償シートを用いて光学的に補償する。
【0154】
図12は、OCBモードの液晶セルと二枚の光学補償シートの光学的異方性層との組み合わせを示す断面模式図である。
図12に示すように、二枚の光学補償シートは、光学的異方性層(51、52)がOCBモードの液晶セル(50)を挟むように組み合わせて用いることが好ましい。光学的異方性層(51、52)のディスコティック液晶性分子は、OCBモードの液晶セル(50)の液晶分子の配向状態と対応する(光学補償する)配向状態を有する。
【0155】
図13は、HANモードの液晶セルと一枚の光学補償シートの光学的異方性層との組み合わせを示す断面模式図である。
図13に示すように、一枚の光学補償シートは、光学的異方性層(61)がHANモードの液晶セル(60)の表示面側となるように組み合わせて用いることが好ましい。光学的異方性層(61)のディスコティック液晶性分子は、HANモードの液晶セル(60)の液晶分子の配向状態と対応する(光学補償する)配向状態を有する。
【0156】
図12および図13に示すように、OCBモードおよびHANモードの液晶セルの配向状態に対して、ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層により光学的に補償することができる。しかし、光学的異方性層のみでは、液晶セルのレターデーションの補正および光学的異方性層そのものに発生するレターデーションの補正が不充分である。そこで、前述したように支持体を光学的異方性として、これらのレターデーションを補正する。
光学的異方性層と光学的異方性支持体との組み合わせ、すなわち、光学補償シートの基本的な構成(断面模式図)は、図8で説明したVA型液晶表示装置に用いる光学補償シートと同様である。
【0157】
図14は、代表的なOCB型液晶表示装置の断面模式図である。
図14に示す液晶表示装置は、OCBモードの液晶セル(OCBC)、液晶セルの両側に設けられた一対の偏光素子(A、B)、液晶セルと偏光素子との間に配置された一対の光学補償シート(OC1、OC2)およびバックライト(BL)からなる。光学補償シート(OC1、OC2)は、一方のみ配置してもよい。
光学補償シート(OC1、OC2)の矢印(R1、R2)は、光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向である。図14に示す液晶表示装置では、光学補償シート(OC1、OC2)の光学的異方性層が液晶セル側に配置されている。光学補償シート(OC1、OC2)の光学的異方性層を偏光素子(A、B)側に配置してもよい。光学的異方性層を偏光素子(A、B)側に配置する場合は、配向膜のラビング方向(R1、R2)は、図14とは逆の向きになる。
液晶セル(OCBC)の矢印(RP1、RP2)は、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向である。
偏光素子(A、B)の矢印(PA、PB)は、それぞれ偏光素子の偏光の透過軸である

【0158】
光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向(R1、R2)と、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP1、RP2)は、それぞれ実質的に平行または逆平行であることが好ましい。偏光素子の偏光の透過軸(PA、PB)は、実質的に直交または平行になるように配置することが好ましい。実質的に直交、平行あるいは逆平行であるとは、角度のずれが、20°未満(好ましくは15°未満、さらに好ましくは10°未満、最も好ましくは5°未満)であることを意味する。
液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP1、RP2)と、偏光素子の偏光の透過軸(PA、PB)との角度は、それぞれ、10乃至80゜であることが好ましく、20乃至70゜であることがさらに好ましく、35乃至55゜であることが最も好ましい。
【0159】
図15は、代表的なHAN型液晶表示装置の断面模式図である。
図15に示す液晶表示装置は、HANモードの液晶セル(HANC)、液晶セルの表示面側に設けられた偏光素子(A)、液晶セルと偏光素子との間に配置された光学補償シート(OC)および反射板(RB)からなる。
光学補償シート(OC)の矢印(R)は、光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向である。
液晶セル(HANC)の矢印(RP)は、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向である。
偏光素子(A)の矢印(PA)は、偏光素子の偏光の透過軸である。
光学補償シートに設けた配向膜のラビング方向(R)と、液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP)は、それぞれ実質的に平行または逆平行であることが好ましい。実質的に平行あるいは逆平行であるとは、角度のずれが、20°未満(好ましくは15°未満、さらに好ましくは10°未満、最も好ましくは5°未満)であることを意味する。
液晶セル基板に設けた配向膜のラビング方向(RP)と、偏光素子の偏光の透過軸(PA)との角度は、10乃至80゜であることが好ましく、20乃至70゜であることがさらに好ましく、35乃至55゜であることが最も好ましい。
【0160】
OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。
OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。それらの光学的性質の詳細を、以下に述べる。
光学的性質としては、(1)光学的異方性層、(2)支持体および(3)光学補償シート全体のそれぞれについて、面内レターデーション(Re)および厚み方向のレターデーション(Rth)が重要である。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置では、さらに(4)液晶セルの光学的性質(面内レターデーションおよび厚み方向のレターデーション)との相対的な関係も重要である。
面内レターデーションと厚み方向のレターデーションは、前述したセルロースエステルフイルムの定義と同様である。ただし、光学的異方性層および光学補償シート全体では、前述した定義におけるnx、ny、nzは、nx≧ny≧nzを満足する面内主屈折率を意味する。
【0161】
光学補償シートを二枚使用する態様では、光学補償シートの面内レターデーション(Re)と液晶セルの面内レターデーション(Re)との関係を、下記式を満足するように調節することが好ましい。
Re−20≦|Re|×2≦Re+20
光学補償シートを一枚使用する態様では、光学補償シートの面内レターデーション(R
)と液晶セルの面内レターデーション(Re)との関係を、下記式を満足するように調節することが好ましい。
Re−20≦|Re|≦Re+20
【0162】
(1)光学的異方性層、(2)支持体および(3)光学補償シートの光学的性質の好ましい範囲を以下にまとめて示す。なお、ReとRthの単位はnmである。上付の数字1は光学的異方性層の値、上付の数字2は支持体の値、そして上付の数字3は光学補償シートの値をそれぞれ意味する。なお、支持体の厚み方向のレターデーション(Rth)の好ましい範囲は、前述したセルロースエステルフイルムの光学的性質として定義した通りである。また、二以上の支持体を設ける場合、支持体全体の面内レターデーション(Re)は、それぞれの支持体の面内レターデーションの合計値に相当する。さらに、光学補償シートの面内レターデーション(Re)は、前述した液晶セルの面内レターデーション(Re)との関係で調節する。
【0163】
─────────────────────────────────────
好ましい範囲 さらに好ましい範囲 最も好ましい範囲
─────────────────────────────────────
0<|Re|≦200 5≦|Re|≦150 10≦|Re|≦100
0≦|Re|≦200 5≦|Re|≦150 10≦|Re|≦100
0≦|Re|≦4.5 0≦|Re|≦4 0≦|Re|≦3.5
─────────────────────────────────────
50≦|Rth|≦1000 50≦|Rth|≦800 100≦|Rth|≦50050≦|Rth|≦1000 60≦|Rth|≦500 100≦|Rth|≦400─────────────────────────────────────
【実施例】
【0164】
[実施例1]
室温において、平均酢化度60.9%のセルロースアセテート45重量部、レターデーション上昇剤(5)0.90重量部、メチレンクロリド232.72重量部、メタノール42.57重量部およびn−ブタノール8.50重量部を混合して溶液(ドープ)を調製した。
得られた溶液(ドープ)を、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延して、乾燥した。
製造したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を測定した。結果は第1表に示す。
【0165】
[比較例1]
レターデーション上昇剤(5)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にフイルムを製造して、評価した。結果は第1表に示す。
【0166】
[実施例2〜10]
レターデーション上昇剤(5)に代えて、レターデーション上昇剤(6)、(7)、(31)、(36)、(37)、(38)、(44)、(50)および(81)をそれぞれ同量用いた以外は、実施例1と同様にフイルムを製造して、評価した。結果は第1表に示す。
【0167】
[比較例2〜5]
レターデーション上昇剤(5)に代えて、下記の比較化合物(x1)、(x2)、(x3)および(x4)をそれぞれ同量用いた以外は、実施例1と同様にフイルムを製造して
、評価した。結果は第1表に示す。
【0168】
【化80】

【0169】
【化81】

【0170】
第1表
─────────────────────────────────────
フイルム レターデーション上昇剤 レターデーション値(Rth550
─────────────────────────────────────
比較例1 なし 20nm
実施例1 (5) 181nm
実施例2 (6) 200nm
実施例3 (7) 222nm
実施例4 (31) 99nm
実施例5 (36) 158nm
実施例6 (37) 158nm
実施例7 (38) 166nm
実施例8 (44) 71nm
実施例9 (50) 75nm
実施例10 (81) 80nm
比較例2 (x1) 30nm
比較例3 (x2) 30nm
比較例4 (x3) 30nm
比較例5 (x4) 30nm
─────────────────────────────────────
【0171】
[実施例11]
室温において、平均酢化度60.9%のセルロースアセテート45重量部、レターデーション上昇剤(3)0.90重量部、リン酸トリフェニル(可塑剤)2.75重量部、リン酸ビフェニルジフェニル2.20重量部、メチレンクロリド232.72重量部、メタノール42.57重量部およびn−ブタノール8.50重量部を混合して溶液(ドープ)を調製した。
得られた溶液(ドープ)を、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延して、乾燥した。
製造したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日
本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を測定した。さらに、フイルム表面を観察して、ブリードアウトの有無を評価した。結果は第2表に示す。
【0172】
[比較例6]
レターデーション上昇剤(3)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にフイルムを製造して、評価した。結果は第2表に示す。
【0173】
[実施例12〜14]
レターデーション上昇剤(3)に代えて、レターデーション上昇剤(8)、(31)および(75)をそれぞれ同量用いた以外は、実施例1と同様にフイルムを製造して、評価した。結果は第2表に示す。
【0174】
第2表
─────────────────────────────────────
フイルム レターデーション上昇剤 Rth550 ブリードアウト
─────────────────────────────────────
比較例6 なし 50nm なし
実施例11 (3) 120nm なし
実施例12 (8) 120nm なし
実施例13 (31) 180nm なし
実施例14 (75) 120nm なし
─────────────────────────────────────
【0175】
[実施例15〜18]
レターデーション上昇剤の使用量を0.90重量部から0.20重量部に変更した以外は、実施例11〜14と同様にフイルムを製造して、評価した。結果は第3表に示す。
【0176】
第3表
─────────────────────────────────────
フイルム レターデーション上昇剤 Rth550 ブリードアウト
─────────────────────────────────────
比較例6 なし 50nm なし
実施例15 (3) 240nm なし
実施例16 (8) 240nm わずかにあり
実施例17 (31) 300nm あり
実施例18 (75) 200nm なし
─────────────────────────────────────
【0177】
[実施例19]
(液晶セルの作成)
電極(ITO)付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行なった。得られた二枚のガラス基板を対面する配置で向き合わせ、セルギャップを10μmに設定して、液晶(ZLI1132、メルク社製)を注入し、OCBモードの液晶セルを作成した。
【0178】
(液晶表示装置の作成)
液晶セルを挟むように、実施例11で作成したセルロースアセテートフイルム二枚を光学補償シートとして配置した。その外側に全体を挟むように、偏光素子を配置した。
作成した液晶表示装置に、55Hz矩形波で電圧を印加したところ、着色のない鮮明な
画像が得られた。
【0179】
[実施例20]
(光学補償シートの支持体)
実施例11で作成したセルロースアセテートフイルムを光学補償シートの支持体として用いた。
【0180】
(配向膜の形成)
支持体の上に、下記の組成の塗布液をスライドコーターで25ml/m塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
次に、支持体の遅相軸方向と平行の方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。
【0181】
─────────────────────────────────────
配向膜塗布液組成
─────────────────────────────────────
下記の変性ポリビニルアルコール 10重量部
水 371重量部
メタノール 119重量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5重量部
─────────────────────────────────────
【0182】
【化82】

【0183】
(光学的異方性層の形成)
配向膜上に、下記のディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.04g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)0.06g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、8.43gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#2.5のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。次に、130℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し、ディスコティック液晶性化合物を架橋した。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学補償シート(1)を作製した。
【0184】
【化83】

【0185】
(光学補償シートの評価)
光学的異方性層の厚さは、約1.0μmであった。光学的異方性層のみのレターデーション値をラビング軸に沿って測定したところ、レターデーションが0となる方向は存在しなかった。
光学的異方性層の光学軸の平均傾斜角、すなわちレターデーションが最小となる方向とシートの法線との角度(β)は、28°であった。また、面内レターデーションは15nm(Re=15)、厚み方向のレターデーションは35nm(Rth=35)であった。
光学補償シート(1)を、ミクロトームを用いて、ラビング方向に添って垂直に切断し、極めて薄い垂直断片(サンプル)を得た。サンプルをOsOの雰囲気中に48時間放置して、染色した。染色サンプルを、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、その顕微鏡写真を得た。染色サンプルでは、前記ディスコティック液晶性化合物のアクリロイル基が染色され、写真の像として認められた。
この写真を検討した結果、ディスコティック液晶性化合物の円盤状構造単位は、支持体の表面から傾いていることが認められた。さらに、傾斜角は、支持体表面からの距離が増加するに伴い、連続的に増加していた。
【0186】
(VAモード液晶セルの作成)
ポリビニルアルコール3重量%水溶液に、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド(カップリング剤)を1重量%添加した。これを、ITO電極付きのガラス基板上にスピンコートし、160℃で熱処理した後、ラビング処理を施して、垂直配向膜を形成した。ラビング処理は、2枚のガラス基板において反対方向となるように実施した。セルギャップ(d)が5.5μmとなるように2枚のガラス基板を向かい合わせた。セルギャップに、エステル系とエタン系を主成分とする液晶性化合物(Δn:0.05)を注入し、VAモード液晶セルを作成した。Δnとdとの積は275nmであった。
【0187】
(VA型液晶表示装置の作成)
VAモード液晶セルに、光学補償シート(1)をセルを挟むように2枚、光学補償シートの光学的異方性層と液晶セルのガラス基板とが対面するように配置した。VAモード液晶セルの配向膜のラビング方向と光学補償シートの配向膜のラビング方向は、逆平行になるように配置した。これらの両側に、偏光素子をクロスニコルに配置した。
VAモード液晶セルに対して、55Hz矩形波で電圧を印加した。黒表示2V、白表示6VのNBモードとし、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比とした。上下、左右からのコントラスト比を、計器(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)で測定した。その結果、正面コントラスト比が300、視野角(コントラスト比10が
得られる視野の角度)が上下左右いずれも70度との良好な結果が得られた。
【0188】
[実施例21]
(光学補償シートの支持体)
実施例11で作成したセルロースアセテートフイルムを光学補償シートの支持体として用いた。
【0189】
(配向膜の形成)
支持体の上に、下記の組成の塗布液をスライドコーターで25ml/m塗布した。60℃で2分間乾燥した。
次に、支持体の面内の主屈折率の大きい方向と平行の方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。ラビング条件は、ラビングロール径が150mm、搬送速度が10m/分、ラッピング角度が6゜、ラビングロール回転数が1200rpmであった。
【0190】
─────────────────────────────────────
配向膜塗布液組成
─────────────────────────────────────
実施例20で用いた変性ポリビニルアルコールの10重量%水溶液
24g
水 73g
メタノール 23g
グルタルアルデヒド(架橋剤)の50重量%水溶液 0.2g
─────────────────────────────────────
【0191】
(光学的異方性層の形成)
配向膜上に、実施例20で用いたディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.04g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1.0、イーストマンケミカル社製)0.01g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)0.06g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、3.4gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#6のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、140℃の恒温槽中で3分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。次に、140℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し、ディスコティック液晶性化合物を架橋した。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学補償シート(2)を作製した。
【0192】
(光学補償シートの評価)
光学的異方性層の厚さは、2.0μmであった。光学的異方性層のみのレターデーション値をラビング軸に沿って測定したところ、レターデーションが0となる方向は存在しなかった。レターデーション値をシュミレーションによりフィッティングしたところ、負の一軸性が厚み方向に4゜から68゜まで連続に変化しているハイブリッド配向状態を確認できた。
光学的異方性層の面内レターデーションは43nm(Re=43)、厚み方向のレターデーションは135nm(Rth=135)であった。
光学補償シート(2)を、ミクロトームを用いて、ラビング方向に添って垂直に切断し、極めて薄い垂直断片(サンプル)を得た。サンプルをOsOの雰囲気中に48時間放置して、染色した。染色サンプルを、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、その顕微鏡写真を得た。染色サンプルでは、前記ディスコティック液晶性化合物のアクリロイル基が染色され、写真の像として認められた。
この写真を検討した結果、ディスコティック液晶性化合物の円盤状構造単位は、支持体の表面から傾いていることが認められた。さらに、傾斜角は、支持体表面からの距離が増加するに伴い、連続的に増加していた。
【0193】
(OCBモード液晶セルの作成)
ITO電極付きのガラス基板上にポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行った。ラビング処理は、2枚のガラス基板において反対方向となるように実施した。セルギャップ(d)が8μmとなるように2枚のガラス基板を向かい合わせた。セルギャップに、Δnが0.1396の液晶性化合物(ZLI1132、メルク社製)を注入し、OCBモード液晶セルを作成した。Δnとdとの積は1117nm、面内レターデーションは92nm(Re=92)であった。
【0194】
(OCB型液晶表示装置の作成)
OCBモード液晶セルに、光学補償シート(2)をセルを挟むように2枚、光学補償シートの光学的異方性層と液晶セルのガラス基板とが対面するように配置した。OCBモード液晶セルの配向膜のラビング方向と光学補償シートの配向膜のラビング方向は、逆平行になるように配置した。これらの両側に、偏光素子をクロスニコルに配置した。
OCBモード液晶セルに対して、55Hz矩形波で電圧を印加した。白表示2V、黒表示6VのNWモードとし、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比とした。上下、左右からのコントラスト比を、計器(LCD−5000、大塚電子(株)製)で測定した。その結果、上側の視野角(コントラスト比10が得られる視野の角度)が80度以上、下側の視野角が58度、左右の視野角がいずれも66度との良好な結果が得られた。
【0195】
[実施例22]
(HANモード液晶セルの作成)
ITO電極付きのガラス基板上にポリイミド膜を配向膜として設け、ラビング処理を行った。ITO電極付きのガラス基板をもう一枚用意し、酸化ケイ素を蒸着させて配向膜を形成した。セルギャップ(d)が4μmとなるように2枚のガラス基板を向かい合わせた。セルギャップに、Δnが0.1396の液晶性化合物(ZLI1132、メルク社製)を注入し、HANモード液晶セルを作成した。Δnとdとの積は558nm、面内レターデーションは46nm(Re=46)であった。
【0196】
(HAN型液晶表示装置の作成)
HANモード液晶セルの表示面側に実施例21で作成した光学補償シート(2)を一枚、光学的異方性層がセル側となるように配置した。HANモード液晶セルの配向膜のラビング方向と光学補償シートの配向膜のラビング方向は、逆平行になるように配置した。光学補償シートの上に偏光素子を、偏光素子の透過軸と液晶セルのラビング方向との角度が45゜となるように配置した。偏光素子の上に、拡散板を配置した。HANモード液晶セルの反対側には、鏡(反射板)を配置した。
作成したHAN型液晶表示装置の表示面の法線方向から、20゜傾けた方向に光源を置き、光を照射した。HANモード液晶セルに対しては、55Hz矩形波で電圧を印加した。白表示2V、黒表示6VのNWモードとし、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比とした。上下、左右からのコントラスト比を、計器(bm−7、TOPCON社製)で測定した。その結果、上側の視野角(コントラスト比10が得られる視野の角度)が44度、下側の視野角が26度、左右の視野角がいずれも39度との良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0197】
1 表面処理膜
2a、2b 偏光素子の保護膜
3a、3b 偏光膜
4a、4b 光学補償シート
5a、5b 液晶セルの樹脂基板
6a、6b 透明電極層
7 液晶層
11、21 液晶セルの上基板
12、22 液晶性化合物
13、23 液晶セルの下基板
14、24 基板の法線方向
15、25、26 基板の法線から傾けた方向
16a、16b 光の進む方向
27 入射光
28 出射光
31a、31b 入射側の偏光素子の透過軸
32a、32b 出射側の偏光素子の透過軸
33a 電圧無印加時のVAモードの液晶セルの屈折率楕円
33b 電圧印加時のVAモードの液晶セルの屈折率楕円
34 VAモードの液晶セル内の液晶分子の光軸の液晶セル基板面への正射影
41 負の一軸性の光学補償シートの屈折率楕円体
41x、41y 光学補償シート内の面内の主屈折率
41z 光学補償シートの厚み方向の主屈折率
42 負の一軸性の光学補償シート
43 正の一軸性の液晶セル
44 正の一軸性の液晶セルの屈折率楕円体
44x、44y 液晶セル基板に平行な面内の屈折率
44z 液晶セルの厚み方向の屈折率
50、60 液晶セル
51、61、73 光学的異方性層
52、62、71 支持体
53、54、63、OC1、OC2、OC 光学補償シート
72 配向膜
73a、73b、73c ディスコティック液晶性分子
Pa、Pb、Pc ディスコティック液晶性分子の円盤面
71a、71b、71c 支持体の面に平行な面
θa、θb、θc 傾斜角
74 支持体の法線
75、R1、R2、R 光学補償シートの配向膜のラビング方向
VAC VAモードの液晶セル
OCBC OCBモードの液晶セル
HANC HANモードの液晶セル
A、B 偏光素子
BL バックライト
RP1、RP2、RP 液晶セルの配向膜のラビング方向
PA 偏光素子Aの偏光の透過軸
PB 偏光素子Bの偏光の透過軸
RB 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物からなるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム用レターデーション上昇剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−168584(P2010−168584A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34370(P2010−34370)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【分割の表示】特願2006−107841(P2006−107841)の分割
【原出願日】平成10年9月30日(1998.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】