説明

セルロースの糖化プロセスおよびリアクタ

本発明は、酵素が失われることなく行える酵素分解による連続的なセルロースの糖化プロセス、および、このプロセスを実行するバイオリアクタを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学工学分野に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロースバイオマスは、木質植物、農業廃棄物、およびその他類似の形態の生物学的物質に由来する再生可能エネルギー源である。本発明の働きについては、セルロース材料およびリグノセルロース材料は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンを含む複合混合物として特定される。セルロースはβ1−4結合によって互いに連結されたグルコースポリマーであり、リグノセルロースバイオマスのタイプにより、30重量%〜70重量%の割合で存在する。
【0003】
酵素によるセルロースバイオマスの加水分解は、基質の構造と反応条件の両方に影響を受ける複雑な現象である。しかし、そのような複合バイオマスを分解するためには時間とエネルギーが必要であるため、プロセスのコストが増大する。
【0004】
酵素セルラーゼは、セルロースの迅速な加水分解を行うために必要な複数のタンパク質からなる生物学的触媒である。しかし、この触媒は非常に高価であり、再使用の目的で加水分解物の混合物からこの酵素を回収する満足な方法が開発されていないので、現在のところ、この触媒の使用は実用的ではない。
【0005】
また、形成される糖は酵素の触媒作用を阻害する傾向があるため、プロセスの産業的経済性が制限される。糖が回収される際には、酵素の一部も失われる。市販の酵素のコストが高いことによる、このような制限により、経済性の観点から見ると、酵素加水分解プロセスはそれほど魅力的ではない。
【0006】
米国特許第4,220,721号明細書には、特定時間経過後、セルロース−セルラーゼ複合体を分離するSSF発酵(並行糖化発酵)によるセルラーゼの再利用方法と、生成物分離後の新しいSSFプロセスの酵素供給源として、同じものを使用することが記載されている。米国特許第5,348,871号明細書には、セルラーゼ酵素の存在下においてセルロースを加水分解する固定層を有した第1のリアクタと、セロビオースを単量体産物に加水分解するセロビオース加水分解酵素が含まれた第2のリアクタとからなる2つのリアクタによる連続的なセルロース糖化プロセスが開示されている。米国特許第4713334号明細書には、水媒体中でのセルロースの酵素による糖化プロセス、可溶性の糖の分離プロセス、および別の糖化の一群に加水分解されていないセルロース−セルラーゼ複合体を再利用するプロセスが記載されている。米国特許第5,258,293号明細書および同第5,837,506号明細書には、糖化および発酵プロセスのための連続リアクタプロセスが示されており、様々なリアクタの構成が議論されている。セルロースの酵素加水分解は、酵素が反応混合物から活性体で回収され、数回再使用される場合には、さらに経済的なプロセスとなり得る。これは、担体中の固定化セルラーゼにより、セルロース基質を加水分解することによって達成され得る。しかし、酵素と基質との間の効果的な相互作用は、酵素の固定性により大幅に損なわれるため、不溶性基質の加水分解を触媒する固定化酵素の使用が難しい。しかし、いくつかの報告では、不溶性セルロースを加水分解するために、固定化セルラーゼを使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,220,721号明細書
【特許文献2】米国特許第5,348,871号明細書
【特許文献3】米国特許第4,713,334号明細書
【特許文献4】米国特許第5,258,293号明細書
【特許文献5】米国特許第5,837,506号明細書
【発明の概要】
【0008】
端的に言えば、既存の全ての糖化プロセスにおいては以下の欠点が存在する:
a.糖化プロセスにおける2%を超える糖の存在により、酵素活性が阻害される。糖濃度を2%未満に維持するためには、システムから糖溶液を連続的に除去しなければならない。糖の除去プロセスの間にセルラーゼ酵素も失われるため、このプロセスは経済的価値が失われてしまう。
b.連続的な糖化プロセスの間は、新しい基質を添加するために未反応のセルロースおよび、出発材料中に存在する不純物を絶え間なく除去しなければならない。この除去の間には酵素も失われるため、プロセスのコストが増大する。
c.再使用のための、失われた酵素を回収する後続プロセスにより、さらにコストが増大する。
【0009】
以上の理由により、糖化プロセスは高価となる。
【0010】
上記欠点を解決するため、以下の条件を満たす必要がある:
1.酵素は可溶性生成物とともに溶出させてはならない。
2.反応性セルロースと酵素を失うことなく不純物を除去する手段としなければならない。
(発明の目的)
【0011】
本発明の主目的は、酵素の減少を最少限にできるか、または解消することができる糖化プロセスおよび、このプロセスを実行するシステムを開発することである。本発明のさらなる目的は、上記利点を有する連続的プロセスを開発することである。
(発明の詳細な説明)
【0012】
本発明は、それぞれの単量体を生産するための、酵素分解によりバイオマスを加水分解するプロセスを開示する。高分子バイオマスは不溶性固体であり、酵素は水溶性であって、高分子表面上への吸着力を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における、酵素バイオリアクタを示す図である。
【図2】本発明の別の実施形態における、酵素バイオリアクタ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一態様においては、リグノセルロースバイオポリマーを、その構成要素である発酵性単糖へと連続して脱重合するために開発されたプロセス、およびリアクタシステムが開示された本発明により、酵素の減少が大幅に解消される。
【0015】
本発明の一態様においては、酵素が飽和状態に達し、酵素−基質複合体を形成して第1の材料として確定されるまで、基質上に吸着される。酵素を全く持たないバイオマスだけを、本明細書中、以後、第2の材料という。
【0016】
本発明のさらなる態様においては、糖化リアクタは、一部が第1の材料で満たされ、リアクタの残りの容量には随意に第2の材料が充填される。
【0017】
さらに、別の一態様においては、セルラーゼが基質と反応することを可能にするため、水が所定の速度でリアクタを通過する。少量のセルラーゼは2つの理由から上向きに移動し続ける。第1の理由は、水の移動に伴い、ごく少量の酵素が上向きに移動するためであり、第2の理由は、基質中のセルロースの分解後の酵素の一部が、水流とともに上向きに移動し、未反応のセルロースとの反応を開始するためである。進行中の分解プロセスの間に、第1の材料の容量は減少し始めるが、これを補うために、同じ量の第2の材料が、リアクタシステム中の第1の材料の上に添加される。このため、糖溶液を回収する際に酵素が水とともに溶出することを防ぐことができ、プロセス全体において、第2の材料の添加速度は、酵素加水分解の速度よりも速いかまたは等しくなるように維持される。
【0018】
セロビアーゼ酵素へのセルラーゼ酵素の強化、または後段でのセロビオース酵素の取り込みにより、セルロースの加水分解は増大し、加水分解物中の単糖の割合が高くなる。連続的なセルロース加水分解は、30℃〜70℃において80時間〜100時間、好ましくは、40℃〜60℃に維持される。生じた糖のうちの87%(w/w)を超える糖は単量体状態である。
【0019】
本発明のさらなる実施形態においては、リアクタは、高分子バイオマスの脱重合プロセスを実行するように設計される。
【0020】
リアクタについての記載
したがって、本発明は、バイオマスを加水分解する酵素バイオリアクタを提供する。本発明の酵素バイオリアクタは細長チャンバーを備え、垂直方向に配置することが好ましい。細長チャンバーは、第1の領域と第2の領域を有する。細長チャンバーの下位部を第1の領域とし、細長チャンバーの上位部を第2の領域とすることが好ましい。第1の領域は反応チャンバーであり、1以上の酵素で飽和された第1の材料を有している。第1の材料は酵素で飽和されたバイオマス材料である。第2の領域は第2の材料を有している。第2の材料は純粋なバイオマスである。細長チャンバーは、水を供給するために、第1の領域の底または第1の領域付近に1つの注入口を有する。水とともに加水分解された材料を回収するために、細長チャンバーの第2の領域の上部または第2の領域付近には、排出口が設けられている。第2の材料、すなわち純粋なバイオマスを供給するために、細長チャンバーに第2の注入口を設けることができる。第1の領域は反応領域であるので、第1の領域においては所定の温度が維持されなければならない。温度を維持するために、水ジャケットまたは蒸気ジャケットが細長チャンバーに設けられている。
【0021】
本発明の好ましい実施形態においては、新規の酵素バイオリアクタは4つのチャンバーを備える。図1に示されるように、下部チャンバー(1)は反応チャンバーであり、チャンバー内の反応温度を最適条件に制御するよう壁が被覆され、反応チャンバー内を所望の温度に維持するため、プロセス全体を通じて被覆された壁に温水または蒸気が持続的に流される。反応チャンバーの上部には、反応チャンバーを通過するセルロースを止めるのに十分な多孔板(3)が取り付けられている。このチャンバーの底には、所望の流速で緩衝液を供給する注入口(4)が設けられている。チャンバーの片側には、時折、基質を投入するスクリュー型の(5)供給装置が取り付けられている。第2のチャンバー(2)にはバガスが詰められており、チャンバーの上には目の細かい網が取り付けられている。第3のチャンバー(6)には、アルギン酸ナトリウムビーズに固定されたβ−グルコシダーゼ酵素のペレットが充填されており、このカラムの上部はペレットが出ないよう目の細かい網でカバーされている。チャンバーのこの部分には排出設備(7)が設けられている。下部チャンバー1の中で生じたセロビオースを糖化するβ−グルコシダーゼ酵素に必要な温度を維持するために、チャンバー2および3の全体は、外側が被覆されている。
【0022】
反応チャンバー1はセルロース吸着セルロース酵素で充填されており、必要に応じてβ−ガラクトシダーゼ酵素が添加される。反応チャンバーの内部温度は、被覆された壁に温水を循環させることによって30℃〜70℃、好ましくは、40℃〜60℃に保たれ、反応チャンバーの温度は、デジタル温度計で時折チェックされる。供給される微粒子物質(好ましくは、セルロース)は、反応チャンバーの側面に設けられたスクリュー型の供給装置を通じて供給される。pHが3〜6、より好ましくは4〜6に調整された緩衝用水は、上記リアクタの底に設けられた注入口を通じて、プロセスを維持するのに十分な好ましい流速で注入される。上記リアクタの中で、所定の保持時間の経過後、主にセロオリゴ糖(好ましくは、セロビオース、グルコース、および他の非解離糖)が含まれている生成物の流れとともにpHが調整された水が、カラム領域(2)の充填層から固定されたβ−ガラクトシダーゼペレット領域(6)へと通過する。カラム2と3の領域全体は、被覆構造に温水を流すことにより、糖を分解するのに十分な温度が維持される。特定領域での保持時間の経過後、全ての液体は、排出口での糖濃度が酵素を阻害しない一定のレベルに達するまで、リアクタ(1)の第1の部分の底にある注入口を通って再度循環する。吸着された酵素がプロセス全体を通じて上記固体マトリックスとともに残るようにするため、所定の速度でセルロースバイオマスを受けるようにリアクタチャンバーの供給装置が構成されている。
【0023】
吸着された形態で存在するセルロース基質の加水分解が進行するに伴い、遊離した酵素は上に向かって移動するが、セルロースが供給装置から供給されるので、利用できる酵素は進入する基質と反応するので、酵素はプロセスを通じてほとんど吸着されたままとなる。さらに、反応チャンバーの上にある充填されたバガス層は、効率的な糖化のため遊離した酵素を押し動かす。加水分解のプロセス全体は流速と基質の供給速度による反応速度に依存し、酵素が層の中に残るように平衡化される。
【0024】
図2は、本発明の別の実施形態による酵素バイオリアクタを示す。図2は、酵素の吸着および、連続使用のための酵素再利用の研究用リアクタを示す。リアクタは、複数のパラレルポートにより作製されている。ポート間の垂直距離は5cmであり、操作時には、ポートはダミーで覆われる。異なる時間間隔において、ポートの反対側から試料を押し出すことにより、個々のポートからリグノセルロース試料が採取される。操作原理は当業者に明白に理解される。リアクタの底にはリグノセルロース充填層を支えるため、目の細かいステンレス鋼製の網が設けられている。pHが3〜7に調整された水道水は、ポンプの助けによりリアクタの底に設けられた注入口(10)から注入され、リアクタの上位部に設けられた排出口(20)から回収される。注入口と排出口はいずれも、緩衝用水タンク(30)に接続されている。リアクタ全体は外側(50)が被覆されており、プロセス全体においてリアクタの内部温度を30℃〜70℃に維持するため、この中を温水(40)が循環するようになっている。
【0025】
糖化プロセスの働きは、本質的に以下の工程を含む:
1.固体のマトリックスを得るために、カラムリアクタにポリマー物質を詰める。
2.脱重合を開始させるため、ポンプにより固体マトリックス全体に緩衝液を流し、その後、生成物の取り出す設定をする。蠕動ポンプは、流速0.45ml/分となるよう設定される。pHが4.5に調整された約100mlの水道水は、注入口1から循環する容量250mlの緩衝液タンクの中に取り込まれる。
3.緩衝液は排出口を通じて溶出し、注入口を通じて緩衝液タンクからカラムに再循環される。このプロセスは、生成物の濃度が阻害レベルに達するまで継続される。阻害濃度に到達した場合には、デカントされ、新しい緩衝液に交換される。セルロース繊維が高層において脱重合されると、反応チャンバーの上部に設けられた供給装置が新しい基質を添加する。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は本発明の説明のために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0027】
およそ65%のセルロースとほぼ14%のリグニンを有している90グラムのリグノセルロース材料を、およそ450FPUの市販のセルラーゼ酵素と混合し、長さ50cm、直径3cmの寸法のカラムの中のリアクタに充填し、反応チャンバー1に供給する。約180gの湿ったバガスをチャンバー2に慎重に詰めて充填層を作製する。システムを0時間から96時間実行する。pH調整水は、50μL/分の速度で再利用される。糖溶液は排出口6を通じて溶出され、注入口1を通じて緩衝液タンクからカラムに再循環される。このプロセスは、生成物の濃度が阻害レベルに達するまで継続される。阻害濃度に到達した場合には、デカントされ、新しい緩衝液に交換される。層高の減少により、新しい基質が添加される。時折、溶出された試料は、タンパク質の含有を分析される。96時間までタンパク質は検出されなかった。
【実施例2】
【0028】
約80gmのアンモニアと、約85%の水分を含む酸で前処理を施したリグノセルロース試料を、423FPUのセルロースと280CBUのセロビアーゼ酵素を含む市販の酵素調製物とを密接に混合し、全てのタンパク質を基質に吸着させる。酵素−基質複合体の全量を、リアクタの底部に配置する。
【実施例3】
【0029】
前処理を施した約400gmのリグノセルロース基質は、実施例2で説明したように、リアクタに完全に充填するよう酵素−基質調製物の上に充填し、凝縮層リアクタを生成する。図2に参照されるように、溶出した水が酵素を阻害する糖濃度の閾値に到達する時間まで、底の注入口(1)からpH調整水がポンプで注入される。糖化の進行に伴い、新しい基質はリアクタの上から補充された糖化セルロースに連続的に添加され、プロセスを継続する。表1は、糖化がほぼ87%に到達すると、リグニン含有量が増加することを示している。このプロセスにおいては、追加の酵素を添加しなくても96時間まで酵素は活性状態を保ち、糖化率がおよそ88%に到達するまでさらに連続させることができる。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.系に第1の材料と、随意に第2の材料を提供する工程であって、前記第1の材料が、バイオマスを加水分解することができる1以上の酵素で飽和した水不溶性の固体バイオマスであり、第2の材料がバイオマスのみである工程;
b.所定の速度で前記第1の材料と前記第2の材料に水を通すことにより、前記酵素(単数または複数)が前記第1の材料のバイオマスを加水分解することを可能にし、未反応の残渣を残す工程;
c.水とともに前記加水分解された材料を回収する工程;および
d.システムから前記残渣を除去し、そして前記除去量を前記第2の材料で補う工程、
を含み、
前記第2の材料の添加速度が加水分解速度に等しいか、または加水分解速度よりも速い、酵素分解によりバイオマスを加水分解するプロセス。
【請求項2】
前記加水分解が、30℃〜70℃の範囲の温度で行われる、請求項1に記載プロセス。
【請求項3】
前記バイオマスが、セルロースである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記酵素が、セルラーゼである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
酵素分解によりバイオマスを加水分解するバイオリアクタであって、
1以上の酵素で飽和された第1の材料を含む第1の領域と、第2の材料を含む第2の領域を有している細長チャンバーを有し、
該細長チャンバーは、前記第1の領域に水を供給する該第1の領域付近に設けられた第1の注入口と、水とともに加水分解された材料を回収する前記第2の領域付近にある排出口を有している、バイオリアクタ。
【請求項6】
前記細長チャンバーが、前記第1の領域が前記細長チャンバーの下位部を形成し、前記第2の領域が前記細長チャンバーの上位部を形成するように垂直に配置される、請求項5に記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
前記細長チャンバーは、前記細長チャンバーを前記第1の領域と前記第2の領域とに分ける金属製の網を備えている、請求項5または請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記細長チャンバーが、前記第2の材料を供給する第2の注入口を備えている、請求項5から請求項7のいずれかに記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
前記細長チャンバーが、前記細長チャンバーの温度を維持する手段を備えている、請求項5から9のいずれかに記載のバイオリアクタ。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−530237(P2010−530237A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512798(P2010−512798)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001602
【国際公開番号】WO2008/155636
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509308997)ナーガルジュナ エナジー プライベート リミテッド (6)
【Fターム(参考)】