説明

セルロースアシレートフィルム、並びにそれを用いた位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】液晶表示装置へ適用した際に湿度変化による黒表示時の色ムラや高温高湿環境経時後における表示部外周で発生する光漏れを抑制でき、更に紫外線吸収効果が高く、ブリードアウトが低減されたセルロースアシレートフィルムを提供すること。
【解決手段】セルロースアシレートと、特定の紫外線吸収剤を含有するセルロースアシレートフィルムであって、前記紫外線吸収剤又は前記紫外線吸収剤が有する特定部位の含有量がセルロースアシレートに対して2.5質量%以上10質量%以下である、セルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セルロースアシレートフィルム、並びにそれを用いた位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフィルムは、その強靭性と難燃性から写真用支持体や各種光学材料に用いられてきた。特に、近年は液晶表示装置用の光学透明フィルムとして多く用いられている。セルロースアシレートフィルムは、光学的に透明性が高く、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができ、液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置用の光学材料として広く採用されている。
更にセルロースアシレートフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素を吸着させた偏光子とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、偏光板の保護フィルムや位相差フィルム(光学補償フィルム)として広く採用されている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして用いる場合、環境変化や長期使用によりフィルム特性が変化せず、更に偏光子や液晶セル内の配向膜、液晶分子の劣化を抑えて良好な液晶表示装置の表示特性を維持できることが求められる。また位相差フィルム(光学補償フィルム)として用いる場合には、斜め方向から見た表示を良化するために適切な位相差を有することが求められ、上記の偏光板保護フィルムとして要求される性能の他に位相差など適切な光学特性の発現性や光学特性変動が生じないことなどが良好な液晶表示装置の表示特性の維持には求められる。これまでに可塑剤、紫外線吸収剤などの観点からこれらの性能劣化を抑える為に様々な技術的な工夫がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール、トリアジン、ベンゾフェノン、又はシアノアクリレート構造を有する化合物を選択し、添加剤としてTPP(トリフェニルホスフェート)とBDP(ビフェニルジフェニルフォスフェート)、更にレターデーション低減剤を添加したものが開示されており、低異方性で、爆光に対する光学安定性が高く、耐光性が良化することが記述されている。
特許文献2にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてフェノール部位に少なくとも1つの2級アルキル基を有するベンゾトリアゾール構造を有する化合物を選択し、添加剤としてTPPを使用したもの開示されており、紫外線吸収性、耐光性に優れ、工程汚染、ロール汚れ、ブリードアウトが低減することが記述されている。
特許文献3にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール構造を有する化合物又はメタクリル酸メチルとベンゾトリアゾール構造を有する化合物の共重合体を選択し、添加剤としてTPPを使用したものが開示されており、透明性、紫外線吸収性、ブリードアウト、耐光性が良化することが記述されている。
特許文献4にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール構造を有する化合物を選択し、添加剤として多価アルコールエステル及び多価アルコールエステルとフタル酸エステルを使用したものが開示されており、透湿度、光漏れ、リワーク性、耐光性、結化度に優れることが記述されている。
特許文献5にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール構造を有する化合物を選択し、可塑剤として糖エステル及び糖エステルとエチレン性不飽和モノマー共重合体を使用したものが開示されており、高温高湿経時でのレターデーション安定性が高いこと、及びこのフィルムを使用した偏光板で高温高湿経時での視野角安定性に優れることが記載されている。
【0005】
特許文献6にはセルロースアシレートフィルムで、紫外線吸収剤としてメタクリル酸メチルとベンゾトリアゾール構造を有する化合物の共重合体を選択し、添加剤としてポリエステルオリゴマーを使用したものが開示されており、このフィルムを用いて作製した偏光板により光漏れが抑えられ、偏光板加工時に気泡が入り込みづらく、張り合わせの位置ズレ故障が低減されることが記述されている。
特許文献7にはセルロースエステルフィルムのドープ内に紫外線吸収剤として紫外線吸収基を有するビニルエステル及びアクリル酸エステルから選ばれる不飽和モノマーよりなる紫外線吸収ポリマーを含有するか、又はドープ内に紫外線吸収基を有するエチレン性不飽和モノマー若しくはエポキシ基含有モノマー含み、製膜中に紫外線を照射して光重合させることでポリマー化させて溶液製膜することが開示されており、ウェブからの析出や揮散が生じにくく、吸水性が小さく、高温多湿環境下でも伸縮性が小さく、保留性に優れ、紫外線吸収剤の劣化が生じにくいこと、またこのフィルムを用いた偏光板は高温多湿の状態でも縁の白抜けが生じにくいことが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282979号公報
【特許文献2】特開2002−350644号公報
【特許文献3】特開2003−113317号公報
【特許文献4】特開2003−232926号公報
【特許文献5】国際公開08/015911号公報
【特許文献6】特開2007−3767号公報
【特許文献7】特開2002−20410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで用いられてきた可塑剤、紫外線吸収剤を含むセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収効果が不十分であったり、環境変化時のフィルム特性変化や長期使用時におけるフィルム変質(光学特性変動、フィルムの変形、相分離)に対する耐性などが十分なかったりするため、液晶表示装置へ適用した際に環境変化による黒表示時の色ムラの発生や長期使用時の表示特性変化が生じており、これらの問題を改善したセルロースアシレートフィルムの開発が望まれている。
【0008】
上記の特許文献1、5に記載のセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収効果が不十分であり、また高温高湿環境経時後における色味変化と表示部外周で発生する光漏れが発生しやすい。また上記の特許文献2、4に記載のセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収効果が不十分であり、また湿度変化による黒表示時の色むらが発生しやすい。上記の特許文献3、6に記載のセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収効果が不十分であり、また高分子紫外線吸収剤とセルロースアシレートの相溶性が低いために高温高湿環境経時後の白化・ブリードアウトの発生が生じやすい。これらのセルロースアシレートフィルムは特に、環境変化が大きく、紫外線照射量が多い屋外で長時間使用されるデジタルサイネージ等のディスプレイへの適応は困難であった。
上記の特許文献7に記載のセルロースアシレートフィルムは、高分子紫外線吸収剤とセルロースアシレートの相溶性が低いために製膜時、及び高温高湿環境経時後で白化・ブリードアウトが生じやすく、実用は困難であった。
【0009】
本発明の目的は、液晶表示装置へ適用した際に湿度変化による黒表示時の色ムラや高温高湿環境経時後における色味変化と表示部外周で発生する光漏れ(周辺ムラ)とを抑制でき、更に紫外線吸収効果が高く、ブリードアウトが低減されたセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム及び偏光板を提供することにある。
本発明の更なる目的は、上記偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
紫外線吸収剤添加量の増加はブリードアウトが生じ易くなり、また黄色味が発生するため、従来のセルロースアシレートフィルムにおける一般的な低分子紫外線吸収剤の添加量はセルロースアシレートに対して2.5質量%未満であった。
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の低分子又は多量体構造の紫外線吸収剤を用いた場合、添加量を増加させても特定の範囲内であれば、屋外用途に対しても十分な紫外線吸収効果と、実用に耐えうる可視光透過率を有し、ブリードアウトの発生を抑えたまま、湿度変化による黒表示時の色ムラ、高温環境経時後の黒表示時の色味変化と周辺ムラが改善できることを見出し、本発明を完成させた。上記課題は以下の構成によって解決されることを見出した。
【0011】
[1]
セルロースアシレートと、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物又はその残基を複数含む多量体の紫外線吸収剤を含有するセルロースアシレートフィルムであって、前記化合物又はその残基の含有量がセルロースアシレートに対して2.5質量%以上10質量%以下である、セルロースアシレートフィルム。
【化1】

(式中、Q11は含窒素芳香族複素環を表し、Q12は芳香族環を表す。)
【化2】

(式中、R221〜R228は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい脂肪族基、置換基を有してもよい芳香族基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R221〜R228は、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有してもよい。R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。)
【化3】

(式中、Q31及びQ32はそれぞれ独立に芳香族環を表す。X31はNR、酸素原子、又は硫黄原子を表す。Rは水素原子又は置換基を表す。)
[2]
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物である、上記[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3]
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(2)又は(3)で表される化合物である、上記[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4]
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(2)で表される化合物である、上記[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5]
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体で該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の残基を複数有する多量体である、上記[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6]
前記紫外線吸収剤として、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物と、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体で該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される残基を複数有する多量体とを、それぞれ1つ以上含むセルロースアシレートフィルムである、上記[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7]
可塑剤として、多価アルコールエステル、ポリエステルオリゴマー、及び糖エステルからなる群から選択される化合物を少なくとも1つ含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[8]
前記可塑剤として、糖エステル及びポリエステルオリゴマーの少なくともいずれか1つを含む、上記[7]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9]
上記[1]〜[8]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
[10]
偏光子と、その両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が上記[8]のセルロースアシレートフィルム又は上記[9]に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
[11]
上記[10]に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液晶表示装置へ適用した際に湿度変化による黒表示時の色ムラや高温高湿環境経時後における色味変化と表示部外周で発生する光漏れを抑制でき、更に紫外線吸収効果が高く、ブリードアウトが低減されたセルロースアシレートフィルム、及びそれを用いた光学補償フィルム及び偏光板を提供することができる。更に、上記セルロースアシレートフィルム、光学補償フィルム又は偏光板を用いた、表示品質の良好な液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0014】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートと、下記の一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物又はその残基を含む紫外線吸収剤を含有し、前記化合物又はその残基の含有量がセルロースアシレートに対して2.5質量%以上10質量%以下となるものである。
【化4】

(式中、Q11は含窒素芳香族複素環を表し、Q12は芳香族環を表す。)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、R221〜R228は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、置換基を有してもよい脂肪族基、置換基を有してもよい芳香族基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R221〜R228は、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有してもよい。R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。)
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、Q31及びQ32はそれぞれ独立に芳香族環を表す。X31はNR、酸素原子、又は硫黄原子を表す。Rは水素原子又は置換基を表す。)
【0019】
一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物又はその残基を含む紫外線吸収剤を、セルロースアシレートに対して上記の特定の範囲の量となるように含有させることで、ブリードアウトの発生を抑えて、かつ液晶表示装置に適用した際に湿度変化による黒表示時の色ムラ、高温環境経時後の黒表示時の色味変化と周辺ムラを良好に改善することができる。
本発明に用いる紫外線吸収剤は、低分子及び多量体構造であり、高分子紫外線吸収剤は含まない。高分子紫外線吸収剤は製膜時及び高温高湿環境経時後でのブリードアウトが生じやすく、更に紫外線吸収効果を有する構造以外の部分構造を有するために紫外線吸収効果が低いために十分な紫外線吸収効果を得るためには大量添加が必要で、更にブリードアウトが悪化するために適さない。
本明細書内で高分子紫外線吸収剤とは、紫外線吸収残基を有する単位構造を、重合体を形成する全繰り返し単位構造のうちの一部又は全部に有する重合体を意味する。
本明細書中における、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の残基とは、該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物が単量体となる多量体の部分構造で、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の特徴を有する部分構造を表す。例えば、上記単量体がA−COOHの場合、A−CO−がその残基として挙げられる。また、上記単量体がA−Hの場合、A−がその残基として挙げられる。(ここで、Aは、A−COOH又はA−Hが全体として一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物となるような部分構造を表す。)
【0020】
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいて、紫外線吸収剤は以下の(a)〜(c)のいずれの用い方をしてもよい。
(a)紫外線吸収剤として、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物を少なくとも1種用いる。
(b)紫外線吸収剤として、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体(即ち、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物が単量体)で、該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される残基を複数有する多量体を少なくとも1種用いる。
(c)紫外線吸収剤として、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の少なくとも1種と、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体(即ち、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物が単量体)で該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される残基を複数有する多量体の少なくとも1種とを併用する。(ここで、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物と、それと併用する多量体の単量体となる一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物は、同一の化合物であっても、異なる化合物であってもよい。)
【0021】
上記(a)の場合、一般式(1)〜(3)で表される化合物のセルロースアシレートフィルム中の含有量は、セルロースアシレートに対して2.5質量%以上10.0質量%以下であり、3.0質量%以上8.0質量%が好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましく、4.0質量%以上5.0質量%以下であることが特に好ましい。
上記(b)の場合、一般式(1)〜(3)で表される化合物の残基のセルロースアシレートフィルム中の含有量が、セルロースアシレートに対して2.5質量%以上10.0質量%以下であり、3.0質量%以上8.0質量%が好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましく、4.0質量%以上5.0質量%以下であることが特に好ましい。
上記(c)の場合、一般式(1)〜(3)で表される化合物のセルロースアシレートフィルム中の含有量と、一般式(1)〜(3)で表される化合物の残基のセルロースアシレートフィルム中の含有量の和が、セルロースアシレートに対して2.5質量%以上10.0質量%以下であり、3.0質量%以上8.0質量%が好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましく、4.0質量%以上5.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
近年、液晶表示装置はデジタルサイネージ等の屋外・商用利用に大きな期待を寄せられている。
デジタルサイネージ用ディスプレイは環境変化が大きく、紫外線照射量が多い屋外で長時間使用されるために、従来のフィルムと比較して紫外線吸収効果が高く、環境安定性の高い偏光板保護フィルム、位相差フィルムが求められている。
紫外線吸収効果の改善のためには紫外線吸収剤の添加量(含有量)を増加させる方法があるが、紫外線吸収剤の添加量を増加させることはセルロースアシレートと紫外線吸収剤との相分離が生じやすくなりブリードアウトやフィルム白化の可能性が高まること、400nm周辺の低波長側可視光の透過率が減少し、黄色味の増加による表示特性の低下が懸念されてきた。
【0023】
しかし、本発明においては、紫外線吸収剤としてセルロースアシレートと相溶性が高い一般式(1)〜(3)の化合物を、セルロースアシレートと相溶性の高い低分子化合物又はその残基を含む多量体として最適な添加量で用いることで相分離の発生を低減し、十分な紫外線吸収効果とブリードアウトやフィルム白化防止との両立が可能である。また黄色味に関しては添加量増加でフィルム単体での400nm周辺の透過率はやや減少したが、この波長では視感度が低く、ディスプレイの表示特性に対する影響は小さい。
また環境安定性については、本発明の紫外線吸収剤を最適な添加量を用いることで改善することができる。環境安定性としては、ディスプレイの湿度変化による黒表示時の色ムラ、高温環境経時後の黒表示時の色味変化と周辺ムラが改善される。
【0024】
本発明における湿度変化による黒表示時の色ムラ改善は、以下の(A)〜(D)の現象が組み合わされることにより生じていると推定している。
ここで、液晶セル側の配置されるフィルムとは、液晶セルとその上下にそれぞれ偏光板が存在する系において、偏光子と液晶セルの間に設置されたものを指し、液晶セル側とは反対側に設置されるフィルムとは、液晶セルとその上下にそれぞれ偏光板が存在する系において、偏光子よりも視認側及びバックライト側へ近い側へと設置されたものを指す。
(A)本発明のフィルムを液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム・位相差フィルムとして用いる場合、疎水的な部分構造を有する紫外線吸収剤の添加量増加でセルロースアシレートフィルムの含水率が低下し、湿度変化時に液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム・位相差フィルム内に存在する水分子の複屈折の影響によるレターデーション変化が低減して色ムラが改善する。
(B)本発明のフィルムを液晶セル側とは反対側に配置される偏光板保護フィルムとして用いる場合、疎水的な部分構造を有する紫外線吸収剤の添加量増加でセルロースアシレートフィルムの透湿度が低下し、液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム・位相差フィルムへ入る水の量が減少することで、湿度変化時に液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム・位相差フィルム内に存在する水分子の複屈折の影響によるレターデーション変化が低減して色ムラが改善する。
(C)疎水的な部分構造を有する紫外線吸収剤の添加量増加でセルロースアシレートフィルムの含水率が低下し、湿度変化による収縮や膨張が低減され、偏光板内に発生する応力によるレターデーション変化が低減して色ムラが改善する。
(D)疎水的な部分構造を有する紫外線吸収剤の添加量増加でセルロースアシレートフィルムの透湿度が減少し、フィルムの面内方向や厚さ方向からセルロースアシレートフィルムを透過して偏光子へと付着する水が減少して偏光子の収縮や膨張が低減され、偏光板内に発生する応力によるレターデーション変化が低減して色ムラが改善する。
【0025】
また、高温環境経時後の黒表示時の色味変化程度については以下の(E)、(F)の現象により変化すると推定している。
(E)本発明のフィルムを液晶セル側に配置される偏光板保護フィルム・位相差フィルムとして用いる場合について説明する。紫外線吸収剤の添加量増加で相対的にセルロースアシレートフィルム内のセルロースアシレート比率が小さくなり、セルロースアシレートに沿って配向する添加剤成分が配向しづらくなるために製膜時の歪が大きくなる。フィルムは湿熱環境下で運動性が向上した状態で歪を解消し安定な状態へと移行しようとするため、フィルム内の分子配向変化によるレターデーション変化が増加して、色味変化が大きくなる。
(F)本発明のフィルムを液晶セル側とは反対側に配置される偏光板保護フィルムとして用いる場合について説明する。紫外線吸収剤の添加量増加で相対的にセルロースアシレートフィルム内のセルロースアシレート比率が小さくなり、セルロースアシレートに沿って配向する添加剤成分が配向しづらくなるために製膜時の歪が大きくなる。フィルムは湿熱環境下で運動性が向上した状態で歪を解消し安定な状態へと移行しようとするため、フィルムの膨張、収縮が大きくなり、偏光板内に発生する応力によるレターデーション変化が増加する。このとき、フィルム周辺部では下記のように周辺ムラが悪化するが、フィルム中心部では部分ごとに異なる変形が生じ、色味ムラが大きくなる。
しかし、本発明に用いる紫外線吸収剤の正又は負の光学発現性は小さいために配向変化時のレターデーション変化への影響は小さく、更に本発明に用いる紫外線吸収剤は一般的な光学発現剤(レターデーション調整剤など)や可塑剤ほどセルロースアシレートとの相溶性が高くなく運動性の向上を促進しないため、添加量増加による色味変化の悪化への影響は、光学発現剤(レターデーション調節剤など)や、可塑剤と比較してその影響は小さい。このため、本発明では、上記特定量の紫外線吸収剤を添加しても高温環境経時の黒表示の色味変化を抑えることができていると推定している。
【0026】
更に、高温環境経時後の黒表示時の周辺ムラ程度については以下の(G)〜(H)現象が組み合わされることにより変化すると推定している。
(G)一般に、紫外線吸収剤の添加量増加で相対的にセルロースアシレートフィルム内のセルロースアシレート比率が小さくなり、セルロースアシレートに沿って配向する添加剤成分が配向しづらくなるために製膜時の歪が大きくなる。フィルムは湿熱環境下で運動性が向上した状態で歪を解消し安定な状態へと移行しようとするため、フィルムの膨張、収縮が大きくなり、偏光板内に発生する応力によるレターデーション変化が増加して、特にフィルム変形の影響が大きな表示部周辺でムラが悪化する。
(H)疎水的な部分構造を有する紫外線吸収剤の添加量増加でセルロースアシレートフィルムの透湿度が減少し、フィルムの面内方向や厚さ方向からセルロースアシレートフィルムを透過して偏光子へと付着する水が減少することで偏光子の収縮が低減され、偏光板内に発生する応力によるレターデーション変化が低減して、特にフィルム変形の影響が大きな表示部周辺でムラが改善する。
本発明の紫外線吸収剤の添加量範囲では、前記(G)の効果が小さく、(H)の効果が大きい範囲を使用している。このため、本発明では、高温環境経時の黒表示の周辺ムラを抑えることができていると推定している。
【0027】
本発明では、特定の紫外線吸収剤の種類、添加量を用いることで、前記のブリードアウト耐性、高い紫外線吸収効果、湿度変化時の黒表示時の色ムラ改善、高温環境経時後の黒表示時の色味変化と周辺ムラの改善の全てにおいて優れ、屋外のデジタルサイネージ用ディスプレイとしての使用にも適したセルロースアシレートフィルムを作製することができる。
【0028】
セルロースアシレートとの相溶性とブリードアウト抑制の観点からは、紫外線吸収剤の用い方としては、以下が好ましい。
上記(a)〜(c)の場合のうち、(a)又は(c)の場合が好ましく、(a)の場合がより好ましい。
上記(a)及び(c)の場合において、一般式(1)〜(3)で表される化合物は低分子化合物であることが好ましく、その分子量は、好ましくは250以上1000以下であり、より好ましくは260以上800以下であり、更に好ましくは270以上800以下であり、特に好ましくは300以上800以下である。この範囲であると、セルロースアシレートの相溶性が良好で、ブリードアウト抑制がされるとともに、紫外線吸収剤が揮散することを抑制することができる。フィルム製造過程での製造装置やフィルム表面の汚染を防ぐ上で、紫外線吸収剤の揮散は少ない方が好ましい。
上記(b)及び(c)の場合において、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体の分子量は、好ましくは分子量250以上3000以下であり、より好ましくは300以上2000以下であり、更に好ましくは400以上1500以下であり、特に好ましくは500以上1000以下である。
【0029】
(紫外線吸収剤)
以下、一般式(1)〜(3)で表される化合物を含め、本発明で用いることのできる紫外線吸収剤について説明する。
【0030】
本発明において紫外線吸収剤は、250nm以上380nm以下に少なくとも1つの吸収極大を有することが好ましく、更に250nm以上360nm以下に少なくとも1つの吸収極大を有することが好ましい。320nm以上355nm以下に少なくとも1つの吸収極大を有することが最も好ましい。この範囲に吸収極大を持つ紫外線吸収剤を用いることは、セルロースアシレートフィルムの複屈折性(レターデーションRe、Rth)の波長分散を調整する上で好ましい。
【0031】
本発明では、紫外線吸収剤としては、一般式(1)〜(3)で表される化合物又はその残基を含む多量体を用いる。
本発明の効果、更には紫外線吸収効果、セルロースアシレートとの相溶性、耐光性、揮散性の観点より、一般式(1)〜(3)で表される化合物又はその残基を含む多量体の中で、好ましくは一般式(2)若しくは(3)で表される化合物又はその残基を含む多量体であり、より好ましくは一般式(2)で表させる化合物又はその残基を含む多量体である。
【0032】
一般式(1)について説明する。
【0033】
【化7】

【0034】
(式中、Q11は含窒素芳香族複素環を表し、Q12は芳香族環を表す。)
【0035】
一般式(1)において、Q11は含窒素芳香族複素環を表し、好ましくは5〜7員の含窒素芳香族複素環であり、より好ましくは5〜6員の含窒素芳香族複素環である。
好ましい含窒素芳香族複素環としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、セレナゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾセレナゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、ナフトチアゾール、ナフトオキサゾール、アザベンズイミダゾール、プリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアザインデン、テトラザインデン等が挙げられ、更に好ましくは、トリアジン及び5員の含窒素芳香族複素環であり、具体的には、1,3,5−トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、チアジアゾール、オキサジアゾールが好ましく、特に好ましくは、1,3,5−トリアジン、及びベンゾトリアゾールである。最も好ましくは1,3,5−トリアジンである。
11で表される含窒素芳香族複素環は、更に置換基を有してもよく、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。また、置換基が複数ある場合にはそれぞれが縮環して更に環を形成してもよい。
【0036】
12は芳香族環を表す。Q12で表される芳香族環は、芳香族炭化水素環でも芳香族複素環でもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。芳香族炭化水素環として、好ましくは炭素数6〜30の単環又は二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環である。更に好ましくはベンゼン環である。
芳香族複素環として好ましくは窒素原子あるいは硫黄原子を含む芳香族複素環である。複素環の具体例としては、例えば、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族複素環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
12で表される芳香族環として、好ましくは芳香族炭化水素環であり、より好ましくはナフタレン環、ベンゼン環であり、特に好ましくはベンゼン環である。Q12は更に置換基を有してもよく、以下の置換基Tが好ましい。
【0037】
以下に置換基Tに関して詳細に説明する。
置換基Tとしては、例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル、シクロヘキシル基など)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基など)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基など)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基など)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基など)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基など)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基など)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基など)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基など)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基など)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基など)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基など)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基など)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基など)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基など)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基など)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基など)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなど)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には、例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基など)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0038】
一般式(1)で表される化合物は、好ましくは下記一般式(1−1)で表される1,3,5−トリアジン環を有する化合物である。
【0039】
【化8】

【0040】
一般式(1−1)中、R101は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;フェニル基、OH、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数5〜12のシクロアルコキシ基、炭素数3〜18のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子、−COOH、−COOR104、−O−CO−R105、−O−CO−O−R106、−CO−NH、−CO−NHR107、−CO−N(R107)(R108)、CN、NH、−NHR107、−N(R107)(R108)、−NH−CO−R105、フェノキシ基、炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェノキシ基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜15のビシクロアルコキシ基、炭素数6〜15のビシクロアルキルアルコキシ基、炭素数6〜15のビシクロアルケニルアルコキシ基、若しくは炭素数6〜15のトリシクロアルコキシ基で置換された、炭素数1〜18のアルキル基;OH、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくは−O−CO−R105で置換された、炭素数5〜12のシクロアルキル基;グリシジル基;−CO−R109;又は−SO−R110を表すか;あるいは、1つ以上の酸素原子で中断され、及び/又は−OH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換された、炭素数3〜50のアルキル基を表すか;あるいは、−A11;−CH−CH(X1111)−CH−O−R112;−CR113113'−(CH−X11−A11;−CH−CH(OA11)−R114;−CH−CH(OH)−CH−X1111
【0041】
【化9】

【0042】
−CR115115'−C(=CH)−R115";−CR113113'−(CH−CO−X11−A11;−CR113113'−(CH−CO−O−CR115115'−C(=CH)−R115"又は−CO−O−CR115115'−C(=CH)−R115"{A11は−CO−CR116=CH−R117を表す}を表す。
【0043】
102は、互いに独立して、炭素数6〜18のアルキル基;炭素数2〜6のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;COOR104;CN;−NH−CO−R105;ハロゲン原子;トリフルオロメチル基;又は−O−R103を表す。
103はR101に対して与えられた定義と同一である。
104は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基を表すか;又は、1つ以上の−O−、−NH−、−NR107−、−S−で中断され、かつOH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換されていてもよい、炭素数3〜50のアルキル基を表す。
【0044】
105は、H;炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜18のアルケニル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルケニル基;又は炭素数6〜15のトリシクロアルキル基を表す。
106は、H;炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。
107及びR108は、互いに独立して、炭素数1〜12のアルキル基;炭素数3〜12のアルコキシアルキル基;炭素数4〜16のジアルキルアミノアルキル基;又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表し;あるいは、R107及びR108は一緒になって、炭素数3〜9のアルキレン基、炭素数3〜9のオキサアルキレン基又は炭素数3〜9のアザアルキレン基を表す。
【0045】
109は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルキルアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルケニル基;又は炭素数6〜15のトリシクロアルキル基を表す。
110は、炭素数1〜12のアルキル基;フェニル基;ナフチル基;又は炭素数7〜14のアルキルフェニル基を表す。
【0046】
111は、互いに独立して、H;炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜6のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;ハロゲン原子;又は炭素数1〜18のアルコキシ基を表す。
【0047】
112は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数3〜8のアルケノキシ基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基で1〜3回置換されたフェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;炭素数6〜15のトリシクロアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルキルアルキル基;炭素数6〜15のビシクロアルケニルアルキル基;−CO−R705を表すか;又はR112は、1つ以上の−O−、−NH−、−NR107−、−S−で中断され、かつOH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換されていてもよい、炭素数3〜50のアルキル基を表す。
【0048】
113及びR113'は、互いに独立して、H;炭素数1〜18のアルキル基;フェニル基を表す。
114は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜12のアルコキシアルキル基;フェニル基;又はフェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基を表す。
115、R115'及びR115"は、互いに独立して、H又はCH3を表す。
116は、H;−CH−COO−R104;炭素数1〜4のアルキル基;又はCNを表す。
117は、H;−COOR104;炭素数1〜17のアルキル基;又はフェニル基を表す。
【0049】
11は、−NH−;−NR107−;−O−;−NH−(CH−NH−;又は−O−(CH−NH−を表す。
mは0〜19の整数を表し;nは1〜8の整数を表し;pは0〜4の整数を表し;qは2〜4の整数を表す。但し、式(1−1)中、R101、R102及びR111の少なくとも1つが2個以上の炭素原子を含む。
【0050】
更に一般式(1−1)の化合物について説明する。
アルキル基としてのR101〜R110、R112〜R114、R116及びR117は、直鎖若しくは分枝鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、1−メチルペンチル基、1,3−ジメチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、1−メチルウンデシル基、ドデシル基、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基である。
【0051】
シクロアルキル基としてのR101、R103〜R109及びR112は、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基である。好ましいのもはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基及びシクロドデシル基である。
【0052】
アルケニル基としてのR106、R109、R111及びR112は、特にアリル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、n−ペンタ−2,4−ジエチル基、3−メチル−ブテ−2−エニル基、n−オクテ−2−エニル基、n−ドデセ−2−エニル基、イソドデセニル基、n−ドデセ−2−エニル基及びn−オクタデセ−4−エニル基が含まれる。
【0053】
置換されたアルキル基及びシクロアルキル基は、それぞれ置換基を1つ以上有するアルキル基及びシクロアルキル基であり、かつ結合している炭素原子において(α−位において)、又は他の炭素原子において、前記置換基をもつことができる。前記置換基がヘテロ原子によって(例えばアルコキシ基)結合する場合、その結合は、好ましくはα−位においてではない。置換されたアルキル基は2つ、特には3つ又はそれ以上の炭素原子を含むのが好ましい。アルキル基及びシクロアルキル基が2つ以上の置換基を有するときは、それらの置換基は、好ましくは異なる炭素原子と結合するのがよい。
【0054】
アルキル基が−O−、−NH−、−NR107−、−S−により中断されるとき、そのアルキル基はこれらの基の1つ以上で中断されていてもよく、それぞれの場合、1つの結合中に1つの基が挿入されており、かつヘテロ−ヘテロ結合、例えばO−O、S−S、NH−NH等は生じず;中断されたアルキル基が更に置換されている場合には、置換基は、ヘテロ原子に対してα位にないのがよい。1つの基の中で2以上の−O−、−NH−、−NR107−、−S−のタイプの中断する基が存在する場合、それらは同一であるのがよい。
【0055】
フェニルアルキル基は、例えばベンジル基、α−メチルベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基及びフェニルヘキシル基を含み;好ましくはベンジル基、α−メチルベンジル基及びα,α−ジメチルベンジル基である。
【0056】
アルキルフェノキシ基は、アルキル基で置換されたフェノキシ基である。この場合、アルキル基としては上記R101〜R110、R112〜R114、R116及びR117のアルキル基として説明したものが挙げられる。
【0057】
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、より好ましいものはフッ素原子又は塩素原子であり、特に塩素原子であることが好ましい。
【0058】
アルコキシ基は、アルキル基をRとしてRO−で表される基であり、アルキル基Rとしては、例えば上記R101〜R110、R112〜R114、R116及びR117のアルキル基として説明したものが挙げられる。アルコキシ基が置換基となる場合にも同じものが挙げられる。
シクロアルコキシ基は、シクロアルキル基をRとしてRO−で表される基であり、シクロアルキル基Rとしては、例えば上記R101、R103〜R109及びR112のシクロアルキル基として説明したものが挙げられる。
アルケニルオキシ基は、アルケニル基をRとしてRO−で表される基であり、アルケニル基Rとしては、例えば上記R106、R109、R111及びR112のアルケニル基として説明したものが挙げられる。
【0059】
アルキレン基は、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等である。ここにアルキル鎖はまた枝分かれでき、例えばイソプロピレン基である。オキサアルキレン基及びアザアルキレン基は、それぞれ上記アルキレン基のアルキレン鎖に酸素原子及び窒素原子を含む基である。
【0060】
シクロアルケニル基は、例えば2−シクロブテニ−2−イル基、2−シクロペンテニ−1−イル基、2,4−シクロペンタジエニ−1−イル基、2−シクロヘキセ−1−イル基、2−シクロヘプテニ−1−イル基、又は2−シクロオクテニ−1−イル基である。
【0061】
ビシクロアルキル基は、例えばボルニル基、ノルボルニル基、[2.2.2]ビシクロオクチル基である。ボルニル基及びノルボルニル基、特にボルニル基及びノルボルニ−2−イル基が 好ましい。
【0062】
ビシクロアルコキシ基は、例えばボルニルオキシ基又はノルボルニ−2−イルオキシ基である。
【0063】
ビシクロアルキルアルキル基及びビシクロアルキルアルコキシ基は、それぞれビシクロアルキル基で置換されたアルキル基及びアルコキシ基で、具体例はノルボルナン−2−メチル基及びノルボルニル−2−メトキシ基である。
【0064】
ビシクロアルケニル基は、例えば、ノルボルネニル基、ノルボルナジエニル基である。好ましいものは、ノルボルネニル基、特にノルボルネ−5−エン基である。
【0065】
ビシクロアルケニルアルコキシ基は、ビシクロアルケニル基で置換されたアルコキシ基で、炭素原子の総数が6〜15であるものであり;ある実例はノルボルネ−5−エン−2−メトキシ基である。
【0066】
トリシクロアルキル基は、例えば、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基である。好ましいものは1−アダマンチル基で示される。
【0067】
トリシクロアルコキシ基は、例えば、アダマンチルオキシ基である。炭素数3〜12のヘテロアリール基は、好ましくは、ピリジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、フラニル基、チオフェニル又はキノリニル基である。
【0068】
アルコキシアルキル基及びジアルキルアミノアルキル基のアルキル基及びアルコキシ基は、上記R101〜R110、R112〜R114、R116及びR117のアルキル基として説明したものが挙げられる。
【0069】
式(1−1)で表される化合物は、更に好ましくは、式中、R101が、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;炭素数3〜12のアルケニル基;フェニル基;フェニル基、OH、炭素数1〜18のアルコキシ基、炭素数5〜12のシクロアルコキシ基、炭素数3〜18のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子、−COOH、−COOR104、−O−CO−R105、−O−CO−O−R106、−CO−NH2、−CO−NHR107、−CO−N(R107)(R108)、CN、NH、NHR107、−N(R107)(R108)、−NH−CO−R105、フェノキシ基、炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェノキシ基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルコキシ基、ボルニルオキシ基、ノルボルニ−2−イルオキシ基、ノルボルニル−2−メトキシ基、ノルボルネ−5−エン−2−メトキシ基、アダマンチルオキシ基で置換された、炭素数1〜18のアルキル基;OH、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基及び/又は−O−CO−R105で置換された炭素数5〜12のシクロアルキル基;グリシジル基;−CO−R109又は−SO−R110を表すか;あるいは、R101は1以上の酸素原子で中断された及び/又はOH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換された炭素数3〜50のアルキル基を表すか;あるいは、R101は−A11;−CH−CH(X1111)−CH−O−R112;−CR113113'−(CH−X11−A11;−CH−CH(OA)−R114;−CH−CH(OH)−CH−X1111
【0070】
【化10】

【0071】
−CR115115'−C(=CH)−R115";−CR113113'−(CH−CO−X11−A11;−CR113113'−(CH−CO−O−CR115115'−C(=CH)−R115"又は−CO−O−CR115115'−C(=CH)−R115"(式中、A11は−CO−CR116=CH−R117を表す)のいずれかを表す。 R102は、炭素数6〜18のアルキル基;炭素数2〜6のアルケニル基;フェニル基;−O−R103又は−NH−CO−R105を表す。
103は、互いに独立して、R101に対して与えられた定義と同一である。
【0072】
104は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基を表すか;あるいはR104は、1つ以上の−O−、−NH−、−NR107−、−S−で中断され、かつOH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換されていてもよい、炭素数3〜50のアルキル基を表す。
【0073】
105は、H;炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜18のアルケニル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;ノルボルニ−2−イル基;ノルボルネ−5−エニ−2−イル基;アダマンチル基を表す。
106は、H;炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。
【0074】
107及びR108は、互いに独立して炭素数1〜12のアルキル基;炭素数3〜12のアルコキシアルキル基;炭素数4〜16のジアルキルアミノアルキル基を表すか;又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表し;あるいはR107及びR108は、一緒になって、炭素数3〜9のアルキレン基;炭素数3〜9のオキサアルキレン基又は炭素数3〜9のアザアルキレン基を表す。
109は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;炭素数7〜11のフェニルアルキル基;ノルボルニ−2−イル基;ノルボルネ−5−エニ−2−イル基;アダマンチル基を表す。
【0075】
110は、炭素数1〜12のアルキル基;フェニル基;ナフチル基;又は炭素数7〜14のアルキルフェニル基を表す。
111は、互いに独立して、H;炭素数1〜18のアルキル基;又は炭素数7〜11のフェニルアルキル基を表す。
【0076】
112は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜18のアルケニル基;フェニル基;炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数3〜8のアルケノキシ基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基で1〜3回置換されたフェニル基を表すか;又は炭素数7〜11のフェニルアルキル基;炭素数5〜12のシクロアルキル基;1−アダマンチル基;2−アダマンチル基;ノルボルニル基;ノルボルナン−2−メチル−;−CO−R105を表し;又はR112は、1つ以上の−O−、−NH−、−NR107−、−S−で中断され、かつOH、フェノキシ基若しくは炭素数7〜18のアルキルフェノキシ基で置換されていてもよい、炭素数3〜50のアルキル基を表す。
【0077】
113及びR113'は、互いに独立して、H;炭素数1〜18のアルキル基;フェニル基を表す。
114は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数3〜12のアルコキシアルキル基;フェニル基;フェニル−炭素数1〜4のアルキル基を表す。
115、R115'及びR115"は、互いに独立して、H又はCHを表す。
116は、H;−CH2−COO−R104;炭素数1〜4のアルキル基;又はCNを表す。
117は、H;−COOR104;炭素数1〜17のアルキル基;又はフェニル基を表す。
【0078】
11は−NH−;−NR117−;−O−;−NH−(CH−NH−;又は−O−(CH−NH−を表す。
mは0〜19の整数を表し;nは1〜8の整数を表し;pは0〜4の整数を表し;qは2〜4の整数を表す。
【0079】
一般式(1)及び(1−1)で表される化合物は、慣用の方法により、例えば欧州特許第434608号明細書、又はH.Brunetti及びC.E.Luthi,"Helv.Chim.Acta",55巻、p.1566(1972年)などの刊行物に示される方法に従って、又はそれと同様に、相当するフェノールへのハロトリアジンのフリーデル−クラフツ付加によって、公知の化合物と同様に得ることができる。
【0080】
次に、一般式(1)又は一般式(1−1)で表される化合物の好ましい例を下記に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0081】
【表1】

【0082】
【化11】

【0083】
一般式(2)について説明する。
【0084】
【化12】

【0085】
(式中、R221〜R228は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい脂肪族基、置換基を有してもよい芳香族基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R221〜R228は、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有してもよい。R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。)
【0086】
一般式(2)中、R221〜R228は各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい脂肪族基、置換基を有していてもよい芳香族基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子である。
前記脂肪族基としては、(好ましくは炭素数1〜12のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル、シクロヘキシル基など)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜12であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基など)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜12であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基など)等が挙げられる。
前記芳香族基としては、アリール基(好ましくは6〜20であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)が挙げられる。
前記複素環基としては、例えば、ピリジル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基などが挙げられる、
前記脂肪族基、芳香族基及び複素環基が有することができる置換基としては、前述の置換基Tとして挙げたものが挙げられる。また、隣接するR221〜R224又はR225〜R228が互いに連結して5〜7員の環を形成していてもよい。
【0087】
221〜R224としては、水素原子、炭素数1〜12を有する基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基(好ましくは炭素数4〜12)がより好ましい。
225及びR228としては、水素原子、炭素数1〜12を有する基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が最も好ましい。
226としては、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子、塩素原子がより好ましい。
227としては、水素原子、ハロゲン原子、下記で述べる部分構造を有する基であることが好ましく、水素原子、塩素原子、下記で述べる部分構造を有する基であることがより好ましい。
【0088】
221〜R228は、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有してもよい。
及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基など)、又はアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基など)を表す。
上記部分構造は、R221〜R228は、R227又はR228が有していることが好ましく、R227が有していることがより好ましい。
上記の部分構造のうち、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−Oー、−NRSO−、−S−、及び−SO−の結合手の一方が、一般式(2)ベンゾトリアゾール環又はベンゼン環に直接結合している場合、他方の結合手に結合する基は、水素原子又は述の置換基Tとして挙げたものが挙げられる。
【0089】
一般式(2)で表される化合物が単量体として、該一般式(2)で表される化合物の残基を複数有する多量体の作製に用いられる場合、R221〜R228の内に少なくとも1つは、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、NR’−、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有することが好ましい。
上記部分構造としては、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’が好ましく、−COO−、−NR’がより好ましい。
【0090】
以下に、一般式(2)で表される化合物の好ましい例を下記に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0091】
【化13】

【0092】
【化14】

【0093】
【化15】

【0094】
【化16】

【0095】
【化17】

【0096】
その他、特開2002−350644号公報の[0020]〜[0024]及び特開2009−114430号公報の[0082]〜[0095]に記載の紫外線吸収剤も一般式(2)で表される化合物の具体例として使用することができる。
【0097】
一般式(2)で表される化合物は公知の文献を参照して合成することができる。例えば、米国特許第3,072,585号、同3,159,646号、同3,399,173号、同3,761,272号、同4,028,331号、同5,683,861号、ヨーロッパ特許第86,300,416号、特開昭63−227575号、同63−185969号、Polymer Bulletin.V.20(2)、169−176及びChemical Abstracts V.109、No.191389などを参照して合成することができる。
【0098】
一般式(2)で表される化合物として、市販品ではチヌビン99−2、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン320、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン329、チヌビン343、チヌビン900、チヌビン928、チヌビンP、チヌビンPS等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社の製品であり、好ましく使用できる。
【0099】
一般式(3)について説明する
【0100】
【化18】

【0101】
(式中、Q31及びQ32はそれぞれ独立に芳香族環を表す。X31はNR、酸素原子、又は硫黄原子を表す。Rは水素原子又は置換基を表す。)
【0102】
上記一般式(3)中、Q31及びQ32はそれぞれ独立に芳香族環を表す。Q31及びQ32で表される芳香族環は、芳香族炭化水素環でも芳香族複素環でもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。
【0103】
31及びQ32で表される芳香族炭化水素環として、好ましくは炭素数6〜30の単環又は二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環など)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
【0104】
31及びQ32で表される芳香族複素環として、好ましくは酸素原子、窒素原子又は硫黄原子のどれかを少なくとも1つ含む芳香族複素環である。芳香族複素環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族複素環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
【0105】
31及びQ32で表される芳香族環として、好ましくは芳香族炭化水素環であり、より好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素環であり、更に好ましくは置換又は無置換のベンゼン環である。
【0106】
31及びQ32は更に置換基を有してもよく、置換基としては前記の置換基Tが好ましいが、置換基にカルボン酸やスルホン酸、4級アンモニウム塩を含むことはない。また、可能な場合には置換基同士が連結して環構造を形成してもよい。
【0107】
31はNR(Rは、水素原子又は置換基を表し、置換基としては前記の置換基Tが適用できる)、酸素原子又は硫黄原子を表す。X31として好ましくは、NR(Rとして好ましくはアシル基、スルホニル基であり、これらの置換基は更に置換してもよい)又は酸素原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0108】
一般式(3)の化合物として、好ましくは下記一般式(3−1)で表される化合物である。
【0109】
【化19】

【0110】
式中、R311、R312、R313、R314、R315、R316、R317、R318及びR319は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、置換基としては前記の置換基Tが適用できる。またこれらの置換基は、更に別の置換基によって置換されてもよく、置換基同士が縮環して環構造を形成してもよい。
【0111】
311、R313、R314、R315、R316、R318及びR319として、好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0112】
312として、好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、ヒドロキシ基であり、更に好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、特に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基である。
【0113】
317として、好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、ヒドロキシ基であり、更に好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくはメチル基)であり、特に好ましくはメチル基、水素原子である。
【0114】
一般式(3)及び(3−1)で表される化合物は、特開平11−12219号公報記載の公知の方法により合成できる。
【0115】
以下に一般式(3)又は(3−1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0116】
【化20】

【0117】
【化21】

【0118】
【化22】

【0119】
本発明で用いられる紫外線吸収剤は、25℃において液状であることが好ましい。液状とは25℃において、「化学大辞典」(共立出版)(1963年)等に定義されているように、一定の形を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものを示す。上記性質を有するものであれば、融点は限定されないが、融点30℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。25℃において液状の紫外線吸収剤は、上記で挙げた具体例の中では、UV−216、UV−217等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
本発明においては、紫外線吸収剤は、一般式(1)〜(3)で表される化合物をそれぞれ1種以上組み合わせてもよい。
【0121】
(多量体)
本発明では、多量体の紫外線吸収剤も使用することができる。
多量体は、一般式(1)〜(3)で表される化合物の残基を多量体の構造単位として複数有する多量体であることが好ましい。
多量体としては、下記一般式(4)で表される化合物が好ましい。
【0122】
【化23】

【0123】
一般式(4)中、U、U、U及びUは、それぞれ前記一般式(1)〜(3)で表される化合物の残基であり、a、b、c及びdはそれぞれ0以上の整数であり、a+b+c+dは2以上である。Zは(a+b+c+d)価の連結基を表す。
【0124】
a、b、c及びdは、それぞれ0又は1であることが好ましく、a+b+c+dは2以上であり、2〜8であることが好ましく、より好ましくは3〜6、更に好ましくは3〜4である。Zは(a+b+c+d)価の連結基を表す。Zの価数は2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4が更に好ましく、2又は3が最も好ましい。Zは環状構造を形成しないことがより好ましい。
なお、U、U、U及びUにおける、一般式(1)〜(3)で表される化合物の残基としては、それぞれの化合物から水素原子を除いたものが挙げられ、結合位置としては、当該水素原子の位置が挙げられる。また、一般式(1)〜(3)で表される化合物が重合性置換基を有している場合、連結基の重合性置換基と反応して−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NRR’、−SONR、−NRSO−、−S−、−SO−で結合することも出来る。ここで、R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基など)、又はアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基など)を表す。また一般式(1)〜(3)で表される化合物がこれらの部分構造を有している場合、該部分構造で結合することもできる。
【0125】
多量体の紫外線吸収剤としては、一般式(1)〜(3)で表される化合物より誘導される多量体が好ましく用いられるが、より好ましくは一般式(2)又は一般式(3)で表される化合物から誘導される多量体、更に好ましくは一般式(2)に記載の化合物より誘導される多量体である。
【0126】
本発明に使用する多量体構造の紫外線吸収剤としては、他に国際公開2007/0725651号の[0032]〜[0043]に記載の化合物等も用いることができる。
【0127】
一般式(1)〜(3)で表される化合物、一般式(1)〜(3)で表される化合物より誘導される多量体と合わせて、その他の紫外線吸収剤を使用することもできる。その他の紫外線吸収剤としては、例えば、特開2006−282979に記載の紫外線吸収剤を使用することができる。
【0128】
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する過程において、紫外線吸収剤を添加する時期は特に制限されず、セルロースアシレート溶液(ドープ)調製工程中の何れであってもよく、ドープ調製工程の最後に行ってもよい。
【0129】
(可塑剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、可塑剤を含有していてもよい。セルロースアシレートとの相溶性が良い可塑剤は、ブリードアウトが生じ難く、低ヘイズであり、更に含水率及び透湿度を低減させるので、高品質で高耐久性を有するフィルムを得るのに有効である。
【0130】
本発明のセルロースアシレートフィルムの用いることのできる可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステルオリゴマー系可塑剤、糖エステル系可塑剤、エチレン性不飽和モノマー共重合体系可塑剤などが挙げられる。
好ましくはリン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系化合物、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステルオリゴマー系可塑剤、糖エステル系可塑剤、エチレン性不飽和モノマー共重合体系可塑剤であり、より好ましくは多価アルコール系可塑剤、ポリエステルオリゴマー系可塑剤、糖エステル系可塑剤であり、更に好ましくはポリエステルオリゴマー系可塑剤、糖エステル系可塑剤であり、特に好ましくはポリエステルオリゴマー系可塑剤である。
特にポリエステルオリゴマー系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤と糖エステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が高く、ブリードアウト低減、低ヘイズ及び低透湿度の効果が高く、また温湿度変化や経時による可塑剤の分解及びフィルムの変質や変形が生じ難いため、好ましい。同様な観点で、更には、ポリエステルオリゴマー系可塑剤及び糖エステル系可塑剤が好ましく、特にポリエステルオリゴマー系可塑剤が好ましい。
【0131】
本発明において、可塑剤は1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0132】
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいて、可塑剤の含有量は、セルロースアシレートに対して0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましく、7〜15質量%であることが特に好ましい。
【0133】
(リン酸エステル系可塑剤)
リン酸エステル系可塑剤としては特に限定されないが、トリフェニルホスフェート((TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどが挙げられる。
【0134】
(フタル酸エステル系可塑剤)
フタル酸エステル系可塑剤としては特に限定されないが、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、メチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレートなどが挙げられる。
【0135】
(グリコレート系可塑剤)
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0136】
(多価アルコールエステル系可塑剤)
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0137】
本発明に好ましく用いることのできる多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0138】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量がこの範囲であると、低揮散で、透湿性、セルロースエステルとの相溶性も良好であって好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化されていてもよいし、一部がOH基のままのこっていてもよい。
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0139】
【化24】

【0140】
【化25】

【0141】
【化26】

【0142】
【化27】

【0143】
(ポリエステルオリゴマー系可塑剤)
本発明におけるポリエステルオリゴマーは、ジオールとジカルボン酸とから、例えば、混合して得られる重縮合体である。
ポリエステルオリゴマーの数平均分子量は800〜5000であることが好ましく、850〜3000がより好ましく、900〜2000が更に好ましく、900〜1250が特に好ましい。ポリエステルオリゴマーの数平均分子量は800以上であれば揮発性が低くなり、セルロースアシレートフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2500以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
ポリエステルオリゴマーの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。
例えば、カラム(東ソー(株)製 TSKgel Super HZM-H、TSKgel Super HZ4000及びTSKgel Super HZ2000)の温度を40℃として、溶離液としてTHFを用い、流速を0.35ml/minとし、検出をRI、注入量を10μl、試料濃度を1g/lとし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行うことができる。
【0144】
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらジカルボン酸は、ポリエステルオリゴマー中には、ジオール残基とのエステル結合するジカルボン酸残基として含まれる。
【0145】
(芳香族ジカルボン酸残基)
芳香族ジカルボン酸残基は、ジオールと芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合体に含まれる。
芳香族ジカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
本発明に用いるポリエステルオリゴマーを構成する全ジカルボン酸残基中の芳香族ジカルボン酸残基比率は特に限定されないが、40mol%〜100mol%であることが好ましく、45mol%〜70mol%であることがより好ましく、50mol%〜70mol%であることが更に好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。また、芳香族ジカルボン酸比率が低くなるとセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0146】
本発明に用いる芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。
ポリエステルオリゴマーには混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
芳香族ジカルボン酸は、平均炭素数が8.0〜12.0であることが好ましく、8.0〜10.0であることがより好ましく、8.0であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。また、光学用途として光学補償フィルムに用いるに適した異方性を十分に発現し得るセルロースアシレートフィルムとすることができるため好ましい。
具体的には、芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸、テレフタル酸の少なくとも1種を含み、更に好ましくはテレフタル酸を含む。
すなわち、ポリエステルオリゴマーの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温でのポリエステルオリゴマーを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
ポリエステルオリゴマーを構成する全ジカルボン酸残基中のテレフタル酸残基の含有量は特に限定されないが、40mol%〜95mol%であることが好ましく、40mol%〜70mol%であることがより好ましく、45mol%〜60mol%であることが更に好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。また、95mol%以下であればセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0147】
(脂肪族ジカルボン酸残基)
脂肪族ジカルボン酸残基は、ジオールと脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合体に含まれる。
本明細書中では、脂肪族ジカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合体には混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数は特に限定されないが、4.0〜6.0であることが好ましく、4.0〜5.0であることがより好ましく、4.0〜4.8であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。
具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、ポリエステルオリゴマーの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。
コハク酸とアジピン酸の2種の脂肪族ジカルボン酸を用いることにより、ジオール残基の平均炭素数を少なくすることができ、セルロースアシレートとの相溶性の点で好ましい。
また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が4.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
【0148】
(ジオール)
ジオール残基は、ジオールとジカルボン酸とから得られたポリエステルオリゴマーに含まれる。
本明細書中では、ジオール残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリオゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジオールHO−R−OHより形成されるジカルボン酸残基は−O−R−Oーである。
ポリエステルオリゴマーを形成するジオールとしては芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、特に限定はされないが、脂肪族ジオールが好ましい。
ポリエステルオリゴマーのジオールは特に限定はされないが、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.0以上2.8以下であり、更に好ましくは平均炭素数が2.0以上2.5以下の脂肪族ジオール残基である。脂肪族ジオール残基の平均炭素数が3.0より大きいとセルロースアシレートとの相溶性が低く、ブリードアウトが生じやすくなり、また、化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートェブの乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生する。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0149】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。
ポリエステルオリゴマーには混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
ジオール残基はエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
脂肪族ジオール残基のうち、エチレングリコール残基が20mol%〜100mol%であることが好ましく、50mol%〜100mol%であることがより好ましい。
【0150】
(封止)
本発明のポリエステルオリゴマーの両末端は封止、未封止を問わないが、より好ましくは封止しているものである。
ポリエステルオリゴマーの両末端が未封止の場合、重縮合体はポリエステルポリオールであることが好ましい。
ポリエステルオリゴマーの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合体の両末端はモノカルボン酸残基となっている。
本明細書中では、モノカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばモノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。
モノカルボン酸封止は芳香族モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸のどちらを用いても良い。
モノカルボン酸封止の種類は特に限定はされないが、好ましくは脂肪族モノカルボン酸残基であり、炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸残基であることが更に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
ポリエステルオリオゴマーの両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合体の加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
本発明のポリエステルオリゴマーの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
両末端を封止した場合は常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0151】
本発明に係るポリエステルオリゴマーの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係るポリエステルオリゴマーについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0152】
本発明のポリエステルオリゴマーが含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、又はジオールエステルのセルロースアシレートフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0153】
ポリエステルオリゴマーの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。ポリエステルオリゴマーがポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が55以上220以下であることが好ましく、100以上140以下であることが更に好ましい。
【0154】
(糖エステル系可塑剤)
糖エステル系可塑剤で好ましいものとしては、フラノース構造又はピラノース構造を1個以上12個以下有する化合物中の水酸基の少なくとも1つをエステル化したエステル化合物が挙げられる。
【0155】
フラノース構造又はピラノース構造を1個以上12個以下有する化合物中の水酸基の少なくとも1つをエステル化したエステル化合物としては、
フラノース構造又はピラノース構造を1個有する化合物(化合物(A))中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化したエステル化化合物
フラノース構造又はピラノース構造の少なくとも1種を2個以上12個以下結合した化合物(化合物(B))中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化したエステル化化合物
が挙げられる。
以下、化合物(A)のエステル化化合物、及び化合物(B)のエステル化化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
また、前記エステル化化合物が単糖類(α−グルコース、β−フルクトース)の安息香酸エステル、若しくは下記一般式(5)で表される単糖類の−OR512、−OR515、−OR522、−OR525の任意の2つ以上が脱水縮合して生成したm+n=2〜12の多糖類の安息香酸エステルであることが好ましい。
【0156】
【化28】

【0157】
前記一般式中の安息香酸は更に置換基を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。
好ましい化合物(A)及び化合物(B)の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(A)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、或いはアラビノースが挙げられる。
化合物(B)の例としては、ラクトース、スクロース、ニストース、1F-フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース或いはケストース挙げられる。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
これらの化合物(A)及び化合物(B)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有する化合物が好ましい。例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F-フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。また、化合物(B)において、フラノース構造若しくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上3個以下結合した化合物であることも、好ましい態様の1つである。
【0158】
本発明における化合物(A)及び化合物(B)中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
【0159】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ-イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m-アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0160】
上記化合物(A)及び化合物(B)をエステル化したエステル化化合物の中では、エステル化によりアセチル基が導入されたアセチル化化合物が好ましい。
これらアセチル化化合物の製造方法としては、例えば、特開平8−245678号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0161】
上記化合物(A)及び化合物(B)のエステル化化合物に加えて、オリゴ糖のエステル化化合物を、フラノース構造若しくはピラノース構造の少なくとも1種を3〜12個結合した化合物として適用できる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
オリゴ糖も上記化合物(A)及び化合物(B)と同様な方法でアセチル化できる。
下記に、このようなオリゴ糖のエステル化化合物例を示す。なお、下記化合物例では、片方の末端6員環はヘミアセタール構造を有することより、反応後のアセチル基が上下のどちらに位置していてもよいことを表している。また、本発明は下記化合物例に限定されるわけではない。
【0162】
【化29】

【0163】
本発明においては、前記フラノース構造又はピラノース構造を1個以上12個以下有する化合物中の水酸基の少なくとも1つをエステル化したエステル化合物は、他の可塑剤を併用してもよい。
【0164】
(エチレン性不飽和モノマー共重合体系可塑剤)
エチレン性不飽和モノマー共重合体を構成するエチレン性不飽和モノマーは、特に限定はされないが、下記のものが好ましく用いられる。
例えば、メタクリル酸及びそのエステル誘導体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アクリル酸及びそのエステル誘導体(アクリル酸メチル、アクリル酸エチルアクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールエトキシレート、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和化合物等を挙げることが出来る。これらは1種単独で、又は2種以上混合して、前記分子内に後述する一般式(6)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーと共重合させることができる。
これらエチレン性不飽和モノマーの内、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)が好ましく、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0165】
また、エチレン性不飽和モノマー共重合体としては、一般式(6)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーも用いることができる。
【0166】
【化30】

【0167】
(式中、R61、R62及びR63は、それぞれ独立して、置換機を有してもよい脂肪族基、置換基を有してもよい芳香族基、又は置換基を有してもよい複素換基を表すが、R61、R62及びR63のいずれか2つに互いに結合してそれらが結合している窒素原子、或いは窒素原子及び炭素原子と一緒になって5〜7員環を形成する。)
【0168】
一般式(6)の式中、R61、R62及びR63は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい脂肪族基、置換基を有していてもよい芳香族基、及び置換基を有していてもよい複素環基を表し、かつR61、R62及びR63の何れか二つが互いに結合してそれらが結合している窒素原子、或いは窒素原子及び炭素原子と一緒になって、5〜7員の環状構造を形成する。R61、R62及びR63で表される脂肪族基、芳香族基、及び複素環基としては、特に制限はないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2-ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2-ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸の塩、ヒドロキシル基、メルカプト基、ニトロ基等の各基が挙げられる。これらの各基は置換基を有していても良く、該置換基としては上記に説明したR61、R62及びR63で表される基と同様の基が挙げられる。
【0169】
本発明においては、R61、R62及びR63の何れか二つが互いに結合してそれらが結合している窒素原子、或いは窒素原子及び炭素原子と一緒になって、5〜7員の環状構造を形成するが、その場合の環としては、環中に更に窒素原子、硫黄原子又は酸素原子を有していても良く、飽和又は不飽和の単環、多環又は縮合環式のものが挙げられる。具体例としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピロール環、モルホリン環、チアモルホリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピロリドン環、ピペリドン等の複素環が挙げられ、これらの環は更に、前記R61、R62及びR63で表される基が有しても良い置換基によって更に置換されていてもよい。
【0170】
本発明において、分子内に前記一般式(6)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーは分子内にエチレン性不飽和結合を有するが、前記R61、R62及びR63で表される基の少なくとも一つがエチレン性不飽和結合を有する基としてアルケニル基を表すか、或いは前記R61、R62及びR63で表される基の少なくとも一つが部分構造としてエチレン性不飽和結合を有することを意味する。エチレン性不飽和結合の具体例としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、シアン化ビニル基、2−シアノアクリルオキシ基、1,2−エポキシ基、ビニルベンジル基、ビニルエーテル基などが挙げられるが、好ましくは、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基である。
【0171】
前記分子内に前記一般式(6)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーは1種或いは2種以上組み合わせて用いることができ、好ましくはN−ビニルピロリドン、N−アクリロイルモルホリン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム又はこれらの混合物であり、より好ましくはN−ビニルピロリドン、N−アクリロイルモルホリン又はこれらの混合物であり、特に好ましくはN−アクリロイルモルホリンである。
【0172】
本発明に用いられるエチレン性不飽和モノマーは、市販品として入手又は公知の文献を参照して合成することができる。
【0173】
本発明に用いられるエチレン性不飽和モノマーの数平均分子量は特に限定されないが、800〜30000が好ましく、より好ましくは900〜10000であり、更に好ましくは1000〜5000であり、特に好ましくは1000〜3000である。
数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。
例えば、カラム(東ソー(株)製 TSKgel Super HZM-H、TSKgel Super HZ4000及びTSKgel Super HZ2000)の温度を40℃として、溶離液としてTHFを用い、流速を0.35ml/minとし、検出をRI、注入量を10μl、試料濃度を1g/lとし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行うことができる。
【0174】
本発明におけるエチレン性不飽和モノマー共重合体を重合する方法は特に問わないが、従来公知の方法を広く採用することが出来、例えばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などが挙げられる。ラジカル重合法の開始剤としては、例えば、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソブチル酸ジエステル誘導体、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどが挙げられる。重合溶媒は特に問わないが、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、水溶媒等が挙げられる。溶媒の選択により、均一系で重合する溶液重合、生成したポリマーが沈澱する沈澱重合、ミセル状態で重合する乳化重合、懸濁状態で重合する懸濁重合、或いは場合によっては塊状重合を行うこともできる。
上記共重合体の数平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することが出来る。そのような分子量調節方法としては、例えば四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。重合温度は通常室温から130℃、好ましくは50〜110℃で行われる。
【0175】
(レターデーション調節剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記の紫外線吸収剤及び可塑剤の他に、更にレターデーション調節剤を含有してもよい。
レターデーション調節剤は特に限定されないが、少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物が好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300〜1200であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性、特にReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、更にフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば上記の2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0176】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0177】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の含有量はセルロースアシレートに対して0.1%以上30%以下が好ましく、0.5%以上20%以下がより好ましく、1%以上10%以下が更に好ましく、3%以上7%以下が特に好ましい。
【0178】
他のレターデーション調節剤として、例えば、特開2006−282979号公報の[0044]〜[0122]に記載の化合物を用いることができる。
【0179】
次に、光学補償フィルム、偏光板などに使用することができる、本発明のセルロースアシレートフィルムについて詳しく説明する。
【0180】
(セルロースアシレート原料綿)
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0181】
(セルロースアシレート置換度)
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明において、セルロースアシレートにおけるセルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0182】
セルロースアシレートフィルムのアシル基置換度が2.10〜2.95であることが好ましく、2.40〜2.95であることがより好ましく、2.50〜2.95であることが更に好ましい。
アシル置換度が2.10以上であれば湿度安定性、偏光板耐久性の点で十分であり、アシル置換度が2.95以下であれば有機溶媒への溶解性、重縮合体との相溶性に優れたセルロースアシレートフィルムとすることができ好ましい。
【0183】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。このようなアシル基が置換したセルロースアシレートとしては、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれ更に置換された基を有していてもよい。好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。更に好ましい基はアセチル、プロピオニルであり、最も好ましい基はアセチルである。
【0184】
上記のセルロースの水酸基に置換するアシル置換基のうちで、実質的にアセチル基/プロピオニル基/ブタノイル基の少なくとも2種類からなる場合においては、その全置換度が2.10〜2.95であることが好ましく、より好ましいアシル置換度は2.40〜2.95であり、更に好ましくは2.50〜2.95である。
上記のセルロースアシレートのアシル置換基が、アセチル基のみからなる場合においては、その全置換度が2.10〜2.95であることが好ましい。更には置換度が2.40〜2.95であることが好ましく、2.70〜2.95であることがより好ましく、2.80〜2.95であることが特に好ましい。
【0185】
(セルロースアシレートの重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700が好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0186】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることが更に好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
また、セルロースアシレートの数平均分子量Mnは、4×10〜30×10であることが好ましく、6×10〜10×10であることがより好ましい。
【0187】
更にセルロースアシレートの低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。
なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
【0188】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は、2質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースアシレートである。一般に、セルロースアシレートは水を含有しており、含水率2.5〜5質量%程度が知られている。本発明でセルロースアシレートの好ましい含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。これらのセルロースアシレートは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0189】
本発明においてセルロースアシレートは、置換基、置換度、重合度、分子量分布など前記した範囲であれば、単一又は異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いることができる。
【0190】
(添加剤)
セルロースアシレートフィルムには、前記紫外線吸収剤、可塑剤、レターデーション調節剤以外の添加剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン、赤外吸収剤など)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、効果の発現及びフィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)の抑制の観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることが更に好ましい。
特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0191】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースエステルフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lが更に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0192】
(セルロースアシレートフィルムの製膜方法)
本発明のセルロースアシレートフィルムの製膜方法としては、溶液製膜と溶融製膜を用いることができるが、好ましくは溶液製膜を用いることである。以下に溶液製膜の方法を記載する。
【0193】
(セルロースアシレート溶液の有機溶媒)
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することが好ましく、この方法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムは製造される。本発明において主溶媒として、好ましく用いられる有機溶媒は、炭素数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル及び、炭素数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0194】
以上、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては、塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としてもよいし、発明協会公開技報2001−1745(12頁〜16頁)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としてもよく、特に限定されるものではない。また本発明にはセルロースアシレートは、主溶媒以外にセルロースアシレートの貧溶媒を用いてもよい。貧溶媒は主溶媒に対して5〜50質量%用いてよく、5〜30質量%がより好ましい。貧溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0195】
その他、セルロースアシレート溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許に開示されており、本発明の好ましい態様である。それらは、例えば、特開2000−95876号公報、特開平12−95877号公報、特開平10−324774号公報、特開平8−152514号公報、特開平10−330538号公報、特開平9−95538号公報、特開平9−95557号公報、特開平10−235664号公報、特開平12−63534号公報、特開平11−21379号公報、特開平10−182853号公報、特開平10−278056号公報、特開平10−279702号公報、特開平10−323853号公報、特開平10−237186号公報、特開平11−60807号公報、特開平11−152342号公報、特開平11−292988号公報、特開平11−60752号公報、特開平11−60752号公報などに記載されている。これらの特許によると、本発明におけるセルロースアシレートに好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、本発明においても好ましい態様である。
【0196】
(セルロースアシレートフィルムの製造工程)
(溶解工程)
本発明においてセルロースアシレート溶液(ドープ溶液)の調製に際して、その溶解方法は特に限定されず、室温溶解でもよく、また冷却溶解法又は高温溶解方法でもよく、更にはこれらの組み合わせで実施されてもよい。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、更には溶解工程に伴う溶液濃縮、濾過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
また異なる2つ以上の溶液を各々別の容器で調製し、その後に各溶液を混合させてドープを調製しても良い。各溶液ははじめに調製したドープにインライン添加することもできる。
【0197】
(ドープ溶液の透明度)
本発明におけるセルロースアシレート溶液である、ドープ溶液(以下、単にドープということがある)の透明度としては、85%以上であることが望ましい。より好ましくは88%以上であり、更に好ましくは90%以上であることが望ましい。本発明においては、セルロースアシレートドープ溶液に、各種の添加剤が十分に溶解していることを確認する。具体的なドープの透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計"UV−3150"{(株)島津製作所製}を用いて550nmの吸光度を測定した。溶媒のみを予めブランクとして測定しておき、ブランクの吸光度とドープの吸光度との比から、ドープの透明度を算出した。
【0198】
(流延、剥離、乾燥)
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフィルムを製造する。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成することができる。流延前のドープは、固形分量が5乃至40%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が30℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましく、特には−10℃〜20℃の金属支持体温度であることが好ましい。更に特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平07−032391号、特開平03−193316号、特開平05−086212号、特開昭62−037113号、特開平02−276607号、特開昭55−014201号、特開平02−111511号、及び特開平02−208650号の各公報に記載の方法を本発明では用いることができる。
【0199】
セルロースエステルフィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(ドラム又はバンド)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
ドープ膜が流延された金属支持体上の温度、金属支持体上に流延されたドープ膜に当てる乾燥風の温度及び風量を調節することによっても、セルロースエステルフィルムのRe値及びRth値を調整することができる。特にRth値は金属支持体上における乾燥条件の影響を大きく受ける。金属支持体の温度を高くする、又はドープ膜に当てる乾燥風の温度を高くする、乾燥風の風量を大きくする、つまりドープ膜に与える熱量を大きくすることによりRth値は低くなり、逆に熱量を小さくすることによりRthは高くなる。特に流延直後から剥ぎ取るまでの間の前半部の乾燥がRth値に対して大きく影響を与える。
【0200】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンド又はドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0201】
得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、更に100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0202】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを用いてフィルム化することができる。
2種類以上のドープを用いる方法として、同時積層共流延又は逐次積層共流延を行うこともできる。更に両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。
同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、外層のドープの固形分濃度が、内層のドープの固形分濃度と比較して同等以下であることが好ましく、1質量%以上低濃度であることがより好ましく、3質量%以上低濃度であることが更に好ましい。また、外界と接するドープのアルコールの組成比が、内部のドープのアルコールの組成比と比較して同等以上であることが好ましい。外層のドープのアルコール添加量は、内層に対して1.0〜6.0倍であることが好ましく、1.0〜4.0倍であることが更に好ましく、1.0〜3.0倍であることが特に好ましい。
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0203】
流延するセルロースエステル溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースエステル溶液を用いてもよい。複数のセルロースエステル層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースエステル溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。更に本発明のセルロースエステル溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0204】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースエステル溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースエステル溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースエステル溶液を複数の流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースエステル溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0205】
本発明のセルロースアシレートフィルムの、流延製膜工程上の任意の点における残留溶媒含有率(残留溶媒量)は下記式で定義される。
式:(Wt−W0)×100/W0
t:実測ドープ膜の測定質量。
0:乾燥終了後、更に110℃、3時間乾燥したときのフィルム質量。
剥離点における残留溶媒含有率は5〜90%の範囲であることが好ましく、また該残留溶媒のうち貧溶媒の含有率が10〜95%の範囲であることが好ましい。
【0206】
剥離後に、得られるフィルムの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥する。
【0207】
(延伸)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸処理としては限定されないが、製膜工程の途中においてテンターで搬送しながら行うこと、又は巻き取り後のフィルムを再びテンターで搬送しながら行うことが好ましい。積極的に幅方向(搬送方向に対して垂直な方向)に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施することができる。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む-20℃〜+100℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0208】
本発明においてフィルムの延伸を行う場合は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。
製膜工程の途中で延伸を行う場合には残留溶媒量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶媒量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜70%で好ましく延伸することができる。
製膜して巻き取った原反の延伸を行う場合には、残留溶媒量が0〜5%の状態で好ましく延伸することができる。
製膜工程の途中で延伸処理されたフィルムを巻き取った後で更に延伸処理する場合には、製膜工程の途中での延伸は残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶媒量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜70%で延伸することが好ましく、製膜して巻き取った原反の延伸は、残留溶媒量が0〜5%の状態で延伸することが好ましい。
【0209】
幅方向に1〜100%延伸を行うことが好ましく、より好ましくは1〜50%延伸で、更に好ましくは5%〜40%延伸、特に好ましくは10〜40%である。
【0210】
また本発明のセルロースアシレートフィルムは、二軸延伸を行ってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンド若しくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸されるか、又は長手方法に延伸した後、幅方向に延伸される。
延伸での残留歪を緩和させ、寸度変化を低減させるため、また面内の遅相軸の幅方向に対するバラツキを小さくするために、横延伸後に緩和工程を設けることが好ましい。緩和工程では緩和前のフィルムの幅に対して緩和後のフィルムの幅を100〜70%の範囲(緩和率0〜30%)に調節することが好ましい。緩和工程における温度はフィルムの見かけ上のガラス転移温度Tg−50〜Tg+50℃であることが好ましい。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短い。
ここで、延伸工程におけるフィルムの見かけ上のTgは、残留溶剤を含んだフィルムをアルミパンに封入し、示差走査熱量計(DSC)で25℃から200℃まで20℃/分で昇温し、吸熱曲線をもとめることによりTgを求めた。
【0211】
(後乾燥)
テンターで延伸をせずに乾燥のみを行った場合や、製膜工程の途中で延伸処理を行った場合、フィルムの乾燥は搬送したまま行うことができる。テンターゾーンの後に、フィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了する。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせは、その目的により変わる。
乾燥温度は100℃〜200℃であることが好ましく、より好ましくは100℃〜150℃であり、更に好ましくは110℃〜140℃であり、特に好ましくは130℃〜140℃ある。乾燥時間は特に制限はないが、好ましくは10分から40分である。
最適な後乾燥温度を選択することにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸法変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化を小さくすることができる。
【0212】
(加熱処理)
製膜したフィルムはその後、更に加熱処理される工程を経て製造されても良い。加熱処理する工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸法変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化が小さくなるので好ましい。加熱時の温度は特に制限はないが、100℃〜200℃が好ましい。
【0213】
(加熱水蒸気処理)
また、製膜したフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されても良い。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸度変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となる。
【0214】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0215】
(巻き取り)
後乾燥後のフィルムを巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0216】
本発明のセルロースアシレートフィルムの主な用途としての、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25〜30頁に詳細に記載されており、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0217】
(セルロースアシレートフィルム物性)
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0218】
本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板の保護フィルムとして用いることができ、特に、様々な液晶モードに対応した光学補償フィルムとしても好ましく用いることができる。本発明の位相差フィルム(光学補償フィルム)は本発明のセルロースアシレートフィルムを含む。
本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして用いる場合、590nmで測定したReは−20〜20nmのものが好ましく、−10〜10nmのものがより好ましく、−5〜5nmのものが更に好ましい。Rthは0〜100nmのものが好ましく、20〜70nmのものがより好ましく、30〜50nmのものが更に好ましい。
【0219】
セルロースアシレートフィルムを位相差フィルムとして用いる場合のより好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
IPSモード用としては590nmで測定したReは−20〜20nmのものが好ましく、−10〜10nmのものがより好ましく、−5〜5nmのものが更に好ましい。Rthはー30〜30nmのものが好ましく、−20〜20nmのものがより好ましく、−10〜10nmのものが更に好ましい。
VAモード用としては590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものが更に好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものが更に好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、20〜90nmのものがより好ましく、50〜80nmのものが更に好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものが更に好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースアシレートフィルム上に光学異方性層を塗布して光学補償フィルムとして使用できる。
【0220】
(フィルムの遅相軸方位)
本発明において、フィルムの遅相軸方位とは、フィルム面内で屈折率が最大となる方向と流延方向の成す角度を表す。フィルムの遅相軸方位は複屈折位相差測定装置(AD−200型、エトー(株)製)で測定することができる。VA用位相差フィルムの遅相軸方位は幅手方向で、流延方向に対して90°から±1°以内であることが好ましく、更に好ましくは90°±0.5°以内、より好ましくは90°±0.2°以内、特に好ましくは90°±0.1°である。
【0221】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムの全ヘイズは、できるだけ低いことが好ましいが、製造条件や測定精度を考慮すると、実質的に0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることが更に好ましい。内部ヘイズも同様に低いことが好ましいが、実質的に0.01〜0.5%であることが好ましく、0.01〜0.2%であることがより好ましく、0.01〜0.1%であることが更に好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。フィルムのヘイズはコントラストと関係し、ヘイズを減少させることでコントラストを増加させることができる。
【0222】
ヘイズの測定は、40mm×80mmの資料を用いて、以下の測定により全ヘイズ(H)、内部ヘイズ(Hi)、表面ヘイズ(Hs)を測定することができる。
1)フィルムの全ヘイズ(H)は、JIS K−7136に従って、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業(株))を用いて測定される。
2)フィルムの表面及び裏面に流動パラフィンを数滴添加し、厚さ1mmのガラス板(ミクロスライドガラス品番S 9111、MATAUNAMI製)を2枚用いて裏表より挟んで、完全に2枚のガラス板と得られたフィルムを光学的に密着し、表面ヘイズを除去した状態でヘイズを測定し、別途測定したガラス板2枚の間に流動パラフィンのみを挟んで測定したヘイズを引いた値をフィルムの内部ヘイズ(Hi)として算出する。
3)上記1)で測定した全ヘイズ(H)から上記2)で算出した内部ヘイズ(Hi)を引いた値をフィルムの表面ヘイズ(Hs)として算出する。
【0223】
(分光特性、分光透過率)
セルロースアシレートフィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定することができる。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めることができる。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表し、吸収端は、透過率0.4%の波長で表すことができる。 本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記方法により測定した波長380nmにおける分光透過率が4.0%未満が好ましく、2.5%未満がより好ましく、1.0%未満が更に好ましい。
【0224】
(ガラス転移温度)
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、更に140℃以上が好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0225】
(フィルムの平衡含水率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの平衡含水率は、偏光板の保護フィルムとして用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける平衡含水率が、0〜4%であることが好ましい。0.1〜3.5%であることがより好ましく、1〜3%であることが特に好ましい。平衡含水率が4%以下であれば、光学補償フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0226】
(フィルムの透湿度)
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定される。
透湿度は、セルロースアシレートフィルムの膜厚が厚ければ小さくなり、膜厚が薄ければ大きくなる。そこで膜厚の異なるサンプルでは、基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、下記数式に従って行うことができる。
数式:80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚(μm)/80(μm)。
【0227】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁「蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)」に記載の方法を適用することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、400〜2000g/m・24hであることが好ましい。400〜1800g/m・24hであることがより好ましく、400〜1600g/m・24hであることが特に好ましい。透湿度が2000g/m・24h以下であれば、フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えるなどの不都合が生じることがなく、好ましい。
【0228】
(フィルムの寸度変化)
本発明のセルロースアシレートフィルムの寸度安定性は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸度変化率、及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率が、いずれも0.5%以下であることが好ましい。
より好ましくは0.3%以下であり、更に好ましくは0.15%以下である。
【0229】
(フィルムの弾性率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの弾性率は、200〜500kgf/mmであることが好ましく、より好ましくは240〜470kgf/mmであり、更に好ましくは270〜440kgf/mmである。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、23℃、70RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0230】
(光弾性係数)
本発明のセルロースアシレートフィルムの光弾性係数は、50×10−13cm/dyne以下であることが好ましい。30×10−13cm/dyne以下であることがより好ましく、20×10−13cm/dyne以下であることが更に好ましい。具体的な測定方法としては、セルロースアシレートフィルム試料12mm×120mmの長軸方向に対して引張応力をかけ、その際のレターデーションをエリプソメーター"M150"{日本分光(株)製}で測定し、応力に対するレターデーションの変化量から光弾性係数を算出した
【0231】
(フィルムの化合物保留性)
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、フィルムに添加されたレターデーション調節剤、紫外線吸収剤などの各種化合物の保留性が要求される。
【0232】
(フィルム加熱処理後の化合物揮散量)
本発明のセルロースアシレートフィルムに添加された、レターデーション調節剤、紫外線吸収剤などの化合物は、80℃、240時間処理したフィルムからのそれらの揮散量が30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは25質量%以下であり、20質量%以下であることが更に好ましい。なお、フィルムからの化合物の揮散量は、80℃、240時間処理したフィルム及び未処理のフィルムをそれぞれ溶媒に浸漬し、浸漬後の溶媒を液体高速クロマトグラフィーにて分析して、化合物のピーク面積をフィルム中に残存した化合物量として、下記数式により算出した。
数式:揮散量(%)={(未処理品中の残存化合物量)−(処理品中の残存化合物量)}/(未処理品中の残存化合物量)×100。
【0233】
(フィルム高温高湿処理後の化合物保留性)
本発明のセルロースアシレートフィルムに添加された、レターデーション調節剤、紫外線吸収剤などの化合物のフィルム高温高湿処理後の保留性、具体的には、本発明のセルロースアシレートフィルムを、80℃、90%RHの条件下に48時間静置したときのフィルムの質量変化が、0〜5質量%であることが好ましい。より好ましくは0〜3質量%であり、更に好ましくは0〜2%である。
【0234】
(保留性の評価方法)
セルロースアシレートフィルム試料を10cm×10cmのサイズに断裁し、23℃、55%RHの雰囲気下で24時間放置後の質量を測定して、次いで80±5℃、90±10%RHの条件下で48時間放置した。処理後の試料の表面を軽く拭き、23℃、55%RHで1日放置後の質量を測定して、下記式に従って高温高湿処理後の化合物の保留性を計算した。
式:高温高湿処理後の化合物保留性(質量%)={(放置前の質量−放置後の質量)/放置前の質量}×100
【0235】
(フィルムの吸湿膨張係数)
本発明のセルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は、30×10−5/%RH以下とすることが好ましい。吸湿膨張係数は、15×10−5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10−5/%RH以下であることが更に好ましい。また、吸湿膨張係数は小さい方が好ましいが、通常は、1.0×10−5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルム支持体として用いた際、光学補償フィルムの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0236】
(耐光性)
本発明のセルロースアシレートフィルムの耐光性の指標として、スーパーキセノン光を200時間照射したフィルムのRth値の変動を測定できる。キセノン光照射は、セルロースアシレートフィルム単体で、スーパーキセノンウェザーメーター"SX−75"{スガ試験機(株)製、60℃、50%RH条件}にて、キセノン光を25万Lxで200時間照射した。所定時間の経過後、フィルムを恒温槽から取り出し、上記と同様に調湿を行った後、測定できる。
また、耐光性の指標として色差ΔE***を用いてもよく、上記と同様の条件でスーパーキセノン光を照射し、その前後の色差ΔE***が20以下であることが好ましい。より好ましくは18以下であり、15以下であることが更に好ましい。
色差の測定には、"UV3100"{(株)島津製作所製}を用いることができる。測定の仕方は、フィルムを25℃、60%RHに2時間以上調湿した後に、キセノン光照射前のフィルムのカラー測定を行い、初期値(L0*、a0*、b0*)を求め、その後、フィルム単体で、60℃、50%RH条件にてキセノン光を照射し、所定時間の経過後、フィルムを恒温槽から取り出し、25℃、60%RHに2時間調湿した後に、再びカラー測定を行い、照射経時後の値(L1*、a1*、b1*)を求めることができる。これらから、下記数式(19)に従って色差ΔE***を求めることができる。
数式(19):ΔE***=[(L0*−L1*2+(a0*−a1*2+(b0*−b1*21/2
【0237】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は特に限定されないが、20μm〜120μmが好ましく、40μm〜80μmがより好ましく、40μm〜60μmが更に好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向及び幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%が更に好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0238】
(セルロースアシレートフィルムの構成)
本発明のセルロースアシレートフィルムは単層構造であっても複数のフィルムが貼り合わされた構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースアシレートフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液(ドープ)から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースアシレートフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースアシレートの分子量分布や種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースアシレートフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0239】
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行なうことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)の接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理及びアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0240】
フィルム表面と機能層の接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明のセルロースアシレートフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースエステルフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明のセルロースアシレートフィルム上に使用することができる。
【0241】
《位相差フィルム》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして用いることができ、特に有用である。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることで、Re値及びRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0242】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースアシレートフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物又は棒状液晶性化合物が好ましい。
【0243】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et.al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0244】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0245】
(棒状液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0246】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0247】
《偏光板》
本発明のセルロースアシレートフィルム又は位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルム又は位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、又は、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0248】
また、前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光子を用いる場合、接着剤を用いて偏光子の両面に本発明の透明ポリマーフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記ポリマーフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0249】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光子と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光子を挟んで本発明のセルロースアシレートフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0250】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルム及び偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明のセルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。これらのモードのうち、本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルム及び偏光板は特にVAモード及びIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。
【0251】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号及び特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0252】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)の積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0253】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0254】
(IPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモード及びECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置及びECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、又は偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のポリマーフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0255】
(OCB型液晶表示装置及びHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質及び光学的異方性層と支持体の配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0256】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0257】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されている特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0258】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面又は両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0259】
本発明のセルロースエステルフィルムは、屋外使用のデジタルサイネージ用ディスプレイ等の温湿度環境変化が大きく、長く紫外線にさらされる環境下でも有利に使用することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置のモードを限定せずに用いることが出来るが、コントラストが最も高いVAモード液晶表示装置へ適応することで、特に優れた効果を発揮することができる。
【実施例】
【0260】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
【0261】
まず、実施例で使用したセルロースアシレート、紫外線吸収剤及び可塑剤について説明する。
【0262】
(セルロースアシレート)
下記表2に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを使用した。これらのセルロースアシレートは公知の合成方法により入手可能である。
【0263】
【表2】

【0264】
(紫外線吸収剤)
下記に記載の紫外線吸収剤を使用した。これらの紫外線吸収剤は市販品や公知の合成方法により入手可能である。
UV−1:チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
UV−2:チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
UV−3:チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
UV−4:チヌビン328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
UV−5:チヌビン928(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
【0265】
【化31】

【0266】
PUV−1:下記2(2´−ヒドロキシ−5´−t−ブチル−フェニル)−5−(2´−メタクリロイルオキシ)エチルオキシカルボニル−2H−ベンゾトリアゾールとメタクリル酸メチルのモノマー単位の質量比40:60、数平均分子量4500の共重合体。
【0267】
【化32】

【0268】
PUV−2:下記1−ヒドロオキシ−2−(2−ベンゾトリアゾール)−4−(2−メタクリロイルオキシエチル)ベンゼンと酢酸ビニルモノマー、ラウリン酸ビニルモノマーのモノマー単位の質量比40:20:40、数平均分子量10000の共重合体。
【0269】
【化33】

【0270】
(可塑剤)
下記に記載の可塑剤を使用した。これらの可塑剤は市販品や公知の合成方法により入手可能である。
A−1:TPP(トリフェニルホスフェート)
A−2:BDP(ジフェニルビフェニルホスフェート)
A−3:TMPTBz(トリメチロールプロパントリベンゾエート)
A−4:EPEG(エチルフタリルエチルグリコレート)
【0271】
【化34】

【0272】
A−7〜A−12としては、下記組成のポリエステルオリゴマーを使用した。これらの化合物は公知の合成方法より得ることができる。
【0273】
【表3】

【0274】
A−13〜A−15としては、下記の組成のエチレン性不飽和モノマーを使用して得られた共重合体を使用した。この化合物は市販品及び公知の合成方法より得ることができる。
【0275】
【表4】

【0276】
A−16:スクロースアセテートベンゾエート
(アセチル置換度4.0 ベンゾエート置換度4.0)
A−17:スクロースアセテート
(アセチル置換度8.0)
【0277】
【化35】

【0278】
下記に記載のレターデーション調整剤を使用した。これらのレターデーション調整剤は市販品や公知の合成方法により入手可能である。
【化36】

【0279】
(実施例1)
(セルロースアシレートフィルム(101)の作製)
(セルロースアシレートドープ101の調製)
下記の組成物を加熱しながら攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレートドープ101を作製した。
【0280】
(セルロースアシレートドープ101組成物)
セルロースアシレートC−1(表2記載) 100質量部
可塑剤A−7(前記) 12質量部
メチレンクロライド 435質量部
メタノール 65質量部
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 0.16質量部
(“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製)
紫外線吸収剤UV−5(前記) 5質量部
【0281】
ドープ101の固形分濃度(セルロースアシレート、可塑剤、シリカ粒子及び紫外線吸収剤の合計濃度)は19質量%であった。
【0282】
(セルロースアシレートフィルム101の製膜)
上記方法で作製したセルロースアシレートドープ101を、ステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量30質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド上から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸し、ついで、乾燥ゾーンで搬送しながら140℃40分間乾燥させ、1500mm幅にスリットし、厚み40μmのセルロースアシレートフィルム101を作製した。
【0283】
[セルロースアシレートフィルム102〜167の作製]
セルロースアシレートドープ101の調製において、セルロースアシレートの種類、可塑剤の種類、可塑剤添加量、紫外線吸収剤の種類、紫外線吸収剤添加量、レターデーション調整剤の種類、レターデーション調整剤添加量が下記表5となるようにし、メチレンクロライドとメタノールについては両者の比率がドープ101と同じ比率でかつ固形分濃度が19%となるように量を調製してセルロースアシレートドープ102〜167を作製した。作製した各ドープを用いて、下記表5に記載の膜厚とする以外はセルロースエステルフィルム101と同様にしてセルロースエステルフィルム102〜167を作製した。
表5中、可塑剤、紫外線吸収剤及びレターデーション調整剤の添加量はセルロースアシレートに対する質量%で表す。
【0284】
【表5】

【0285】
表5中、*3)の紫外線吸収部添加量とは、UV−7以外の紫外線吸収剤の場合には、紫外線吸収剤自体の量を表し、UV−7の場合には、下記構造(A)の量を示す。
またPUV−1、PUV−2の場合にはポリマー中に含有された紫外線吸収効果を有するモノマー残基の量を示す。該紫外線吸収効果を示すモノマーとは、PUV−1の場合には上記2(2´−ヒドロキシ−5´−t−ブチル−フェニル)−5−(2´−メタクリロイルオキシ)エチルオキシカルボニル−2H−ベンゾトリアゾールであり、PUV−2の場合には上記記1−ヒドロオキシ−2−(2−ベンゾトリアゾール)−4−(2−メタクリロイルオキシエチル)ベンゼンである。
【0286】
【化37】

【0287】
以上のようにして作製したセルロースアシレートフィルムに対して、以下の評価を行った。評価結果を下記表6に示す。
(ブリードアウト(面状故障))
作製したセルロースエステルフィルムをロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを幅方向に10点裁断してブリードアウトの観察を25℃60%において目視で行い、10点の平均ブリードアウト程度を以下の基準で評価した。
また、裁断したフィルムを80℃90RH%の環境で24時間を経時させた後、同様の評価を行った。
◎ :ブリードアウトは観察されない。
○ :フィルム面積の5%未満でブリードアウトが観察された。
○△:フィルム面積の5%以上20%未満でブリードアウトが観察された。
△ :フィルム面積の20%以上50%未満でブリードアウトが観察された。
× :フィルム面積の50%以上でブリードアウトが観察された。
【0288】
(380nmにおける透過率測定)
紫外線吸収効果の指標として380nmの透過率を測定した。該透過率は分光光度計“U−3210”((株)日立製作所製)にて、波長300〜450nm、25℃60%RHで測定した。透過率は以下のように評価した。
A:380nmの透過率は1.0%未満
B:380nmの透過率は1.0%以上2.5%未満
C:380nmの透過率は2.5%以上4.0%未満
D:380nmの透過率は4.0%以上8.0%未満
E:380nmの透過率は8.0%以上
【0289】
(偏光板の作製とVAモード液晶表示装置の作製)
(位相差フィルムAの作製)
(セルロースアシレートドープAの調製)
下記の組成物を加熱しながら攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレートドープAを作製した。
【0290】
(セルロースアシレートドープA組成物)
セルロースアシレートC−4(表2記載) 100質量部
可塑剤A−1(前記) 7質量部
可塑剤A−2(前記) 5質量部
レターデーション調整剤R−1(前記) 4質量部
メチレンクロライド 430質量部
メタノール 64質量部
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 0.16質量部
(“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製)
【0291】
(位相差フィルムAの製膜)
上記方法で作製したセルロースアシレートドープAを、ステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量30質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド上から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸し、ついで、テンターで両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.3倍となるように、100%/分の速度で幅方向に延伸(横延伸)した。延伸開始時の残留溶剤量は30質量%であった。延伸後に搬送しながら130℃の乾燥ゾーンで20分間乾燥させ、1500mm幅にスリットし、膜厚54μmのセルロースアシレートフィルム(位相差フィルムA)を得た。
【0292】
(偏光板の作製)
1)フィルムの鹸化
上記のように作製したセルロースアシレートフィルム101と位相差フィルムAを、それぞれ55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0293】
2)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1の方法にて、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて厚み20μmの偏光子を作製した。
【0294】
3)貼り合わせ
上記1)で鹸化したセルロースアシレートフィルム101と位相差フィルムAにて、上記2)で作製した偏光子を挟み込み、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光子と各フィルムを貼り合わせ、70℃で10分以上乾燥して偏光板を作製した。ここで、偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルム101の遅相軸とが直交になるように配置した。偏光子の透過軸と位相差フィルムAの遅相軸とは平行となるように配置した。
同様に、セルロースアシレートフィルム101の替わりにセルロースアシレートフィルム102〜167を用いた偏光板も作製した。
ここで、ブリードアウト・白化が顕著であったセルロースアシレートフィルム125、127、146〜150は作製した偏光板に気泡が確認され、偏光子とフィルムの剥離が容易に生じた。これはブリードアウトした成分によりセルロースアシレートフィルムの鹸化が妨げられたためと推測できる。これらのサンプルでは後述のディスプレイへの実装は行わなかった。
【0295】
(VAモード液晶表示装置の作製)
(液晶セルの作製)
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション(即ち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0296】
(VAパネルへの実装)
上記液晶セルの上下に、上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)として上記のとおりセルロースアシレートフィルム101と位相差フィルムAを用いて作製した偏光板を配置した。上下側偏光板共に、位相差フィルムAが液晶セル側となるように設置した。上側偏光板及び下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸と下側偏光板の透過軸とが直交するように、クロスニコル配置とした。
このようにして、セルロースアシレートフィルム101を用いたVAモードパネルを作製した。同様に、セルロースアシレートフィルム101の替わりにセルロースアシレートフィルム102〜124、126、128〜145、151〜167を用いたVAパネルを作製した。
【0297】
以上のようにして、セルロースアシレートフィルム101〜124、126、128〜145、151〜167を用いて作製した液晶表示装置(VAパネル)に対して、以下の評価を行った。評価結果を下記表6に示す。
【0298】
(湿度変化による黒表示時の色ムラ測定)
上記のように作製したVAパネルを25℃60RH%で24時間調湿した後、25℃10RH%の環境下で点灯をさせ、2時間後の黒表示時の色ムラ程度を目視で測定し、以下の基準で評価した。
◎ :色ムラは観測されなかった。
○ :半分未満の面積で弱い色ムラが観測された。
○△:半分以上の面積で弱い色ムラが観測された。
△ :半分以上の面積で強い色むらが観測された。
× :全体的に強い色ムラが観測された。
【0299】
(高温高湿環境経時後における黒表示時の色味変化測定)
上記のように作製したVAパネルを25℃60RH%で24時間調湿した後に点灯させた時と、60℃90RH%で48時間経過させた後、25℃60RH%の環境下24時間調湿した後に点灯をさせたときの黒表示時の色味変化をデジタルカメラで記録して目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎ :1/4以下の面積で弱い色味変化が観測された。
○ :半分未満の面積で弱い色味変化が観測された。
○△:半分以上の面積で弱い色味変化が観測された。
△ :半分以上の面積で強い色味変化が観測された。
× :全体的に強い色味変化が観測された。
【0300】
(高温高湿環境経時後における黒表示時の周辺ムラ測定)
上記のように作製したVAパネルを60℃90RH%で48時間経過させた後、25℃60RH%の環境下24時間調湿した後に点灯をさせ、高温高湿環境経時後における、黒表示時の表示部外周で発生する表示ムラ(周辺ムラ)程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎ :表示部コーナーの2隅以下で弱い周辺ムラが観測された。
○ :表示部コーナーの3隅以上で弱い周辺ムラが観測された。
○△:表示部コーナーの一部で強い周辺ムラが観測された。
△ :表示部コーナーの4隅全てで強い周辺むらが観測された。
× :表示部コーナーの4隅の発生するムラが強く、面積が拡大して中心付近にまで達した周辺ムラが観測された。
【0301】
【表6】

【0302】
表6に示される評価結果により、本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板保護フィルムとして種々の点で優れた効果を有することが確認された。
セルロースアシレートフィルム101、105、106、107、110及び111を比較すると、一般式(2)で表される低分子化合物であるUV−5を用いたフィルムが紫外線吸収効果、ブリードアウト抑制、液晶表示装置への実装時における湿度変化時の色ムラ抑制及び高温高湿環境経時後の黒表示時の周辺ムラ抑制を総合して最も優れており、次いで一般式(2)で表される多量体であるUV−7が優れており、続いて一般式(3)で表されるUV−9が優れており、一般式(1)〜(3)で表される化合物ではないUV−10、UV−11は紫外線吸収効果が不十分であり良好でないことが確認できる。
セルロースアシレートフィルム101、112〜117、122〜125を比較すると、低分子の紫外線吸収剤(UV−5)の添加量がセルロースアシレートフィルムに対して2.5質量%以上10質量%以下であるときの紫外線吸収効果、ブリードアウト抑制、液晶表示装置への実装時における湿度変化時の色ムラ抑制及び湿熱環境経時後の黒表示時の周辺ムラ抑制の全ての点で優れており、特に4.0質量%以上5.0質量%以下であるときが優れていることが確認できる。
同様にセルロースアシレートフィルム105、118〜122、126〜127を比較すると、多量体の紫外線吸収剤(UV−7)の残基添加量がセルロースアシレートフィルムに対して2.5質量%以上10質量%以下であるときの紫外線吸収効果、ブリードアウト抑制、液晶表示装置への実装時における湿度変化時の色ムラ抑制及び湿熱環境経時後の黒表示時の周辺ムラ抑制の全ての点で優れており、特に4.0質量%以上5.0質量%以下であるときが優れていることが確認できる。
セルロースアシレートフィルム128、129、133〜135と、141〜150との比較から、可塑剤に関わらず紫外線吸収剤(UV−5)の添加量がセルロースアシレートフィルムに対して2.5質量%以上10質量%以下であるとき本発明の効果が得られることが確認できる。
【0303】
セルロースアシレートフィルム101、128〜140を比較すると、可塑剤により湿度変化による黒表示時の色ムラ抑制、高温高湿環境経時後における黒表示時の周辺ムラ抑制の程度が異なり、特に糖エステルA−16、ポリエステルオリゴマーA−7〜A−10を使用したフィルムが優れることが分かる。
セルロースアシレートフィルム101と157を比較すると、セルロースアシレート綿に対する紫外線吸収剤と可塑剤の添加量の総和が同じでも、紫外線吸収剤量が本発明の範囲である101のみで効果が得られることが確認できる。
セルロースアシレートフィルム101、151、152より、セルロースアシレートの置換度、置換基が異なっていても本発明の効果が得られると確認できる。
セルロースアシレートフィルム166、167より、紫外線吸収残基の量が本発明の範囲内に入っていても、高分子紫外線吸収剤ではブリードアウトが生じやすく、本発明の効果が得られないことが分かる。高分子紫外線吸収剤は、低分子及び多量体と比較してセルロースアシレートとの相溶性が低いこと、また紫外線吸収部以外の部位を多く有するために、低分子及び多量体紫外線吸収剤と同等の性能を得るためには大量添加が必要となるためと推測できる。
【0304】
(本発明のフィルムによる表示特性確認)
本発明のセルロースエステルフィルム101を使用した前記VAモードディスプレイで、25℃60%環境における表示特性を以下のようにして確認した。
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示透過率(%)及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを求めた。
また、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)を測定した。
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のセルロースエステルフィルム101を用いた液晶パネルは正面方向及び視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現できていた。
また、視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)は上下左右で極角80°以上であり、黒表示時の色ずれも0.02未満であり良好な結果を得た。
【0305】
(実施例2)
(セルロースアシレートフィルム(201)の作製)
(セルロースアシレートドープ201の調製)
下記の組成物を加熱しながら攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレートドープ201を作製した。
【0306】
(セルロースアシレートドープ201組成物)
セルロースアシレートC−4(表2記載) 100質量部
可塑剤A−9(前記) 12質量部
レターデーション調整剤R−1(前記) 4質量部
メチレンクロライド 435質量部
メタノール 66質量部
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 0.16質量部
(“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製)
紫外線吸収剤UV−5(前記) 5質量部
【0307】
(セルロースアシレートフィルム201の製膜)
得られたドープ201を、ステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量30質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド上から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸し、ついで、テンターで両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.3倍となるように、100%/分の速度で幅方向に延伸(横延伸)した。延伸開始時の残留溶剤量は30質量%であった。延伸後に搬送しながら130℃の乾燥ゾーンで20分間乾燥させ、1500mm幅にスリットし、膜厚40μmのセルロースアシレートフィルム201を得た。
【0308】
(セルロースアシレートフィルム202〜204の作製)
セルロースアシレートドープ201の調製において、セルロースアシレートの種類、可塑剤の種類、及び紫外線吸収剤添加量が下記表7で示す種類及び量とした以外はセルロースエステルフィルム201と同様にしてセルロースエステルフィルム202〜204を作製した。
【0309】
【表7】

【0310】
作製したセルロースフィルムに対して実施例1と同様の評価を行った。評価結果は下記表8に示す。
【0311】
(偏光板の作製)
実施例1と同様の条件で鹸化したセルロースアシレートフィルム201と市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)にて実施例1で作製した偏光子を挟み込み、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光子と各フィルムを貼り合わせ、70℃で10分以上乾燥して偏光板を作製した。ここで、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とが直交になるように配置した。偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルム201の遅相軸とは平行となるように配置した。同様に、セルロースアシレートフィルム201の替わりにセルロースアシレートフィルム202〜204を用いた偏光板も作製した。
【0312】
(VAパネルへの実装)
実施例1で作製した液晶セルの上下に、上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)として上記のとおりセルロースアシレートフィルム201を用いて作製した偏光板を配置した。上下偏光板共にセルロースアシレートフィルム201が液晶セル側となるように設置した。上側偏光板及び下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸と下側偏光板の透過軸とが直交するように、クロスニコル配置とした。
このようにして、セルロースアシレートフィルム201を用いたVAモードパネルを作製した。同様に、セルロースアシレートフィルム201の替わりにセルロースアシレートフィルム202〜204を用いたVAパネルを作製した。
以上のようにして、セルロースアシレートフィルム201〜204をそれぞれ用いて作製した液晶表示装置(VAパネル)に対して、実施例1と同様な評価を行った。評価結果を下記表8に示す。
【0313】
【表8】

【0314】
本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板保護フィルムへの使用が最も効果的であるが、表8に示される評価結果により、偏光板保護フィルムだけではなく、特定の位相差により液晶表示装置の視野角を改善する位相差フィルムとしても効果を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物又はその残基を複数含む多量体の紫外線吸収剤を含有するセルロースアシレートフィルムであって、前記化合物又はその残基の含有量がセルロースアシレートに対して2.5質量%以上10質量%以下である、セルロースアシレートフィルム。
【化1】

(式中、Q11は含窒素芳香族複素環を表し、Q12は芳香族環を表す。)
【化2】

(式中、R221〜R228は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい脂肪族基、置換基を有してもよい芳香族基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R221〜R228は、部分構造として、−COO−、−OCO−、―NRCO−、−CONR、−O−、−NR’、−SONR、−NRSO−、−S−、又は−SO−を有してもよい。R及びR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。)
【化3】

(式中、Q31及びQ32はそれぞれ独立に芳香族環を表す。X31はNR、酸素原子、又は硫黄原子を表す。Rは水素原子又は置換基を表す。)
【請求項2】
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物である、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(2)又は(3)で表される化合物である、請求項2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(2)で表される化合物である、請求項2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤が、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体で該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の残基を複数有する多量体である、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記紫外線吸収剤として、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物と、前記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物より誘導される多量体で該一般式(1)〜(3)のいずれかで表される残基を複数有する多量体とを、それぞれ1つ以上含むセルロースアシレートフィルムである、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
可塑剤として、多価アルコールエステル、ポリエステルオリゴマー、及び糖エステルからなる群から選択される化合物を少なくとも1つ含む、請求項1〜6のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記可塑剤として、糖エステル及びポリエステルオリゴマーの少なくともいずれか1つを含む、請求項7に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項10】
偏光子と、その両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項8のセルロースアシレートフィルム又は請求項9に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2011−173964(P2011−173964A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37786(P2010−37786)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】