説明

セルロースアシレートフィルム、光学補償フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】薄い膜厚で、液晶表示装置の光学補償に寄与する程度に十分に高い面内レターデーションRe及び厚み方向Rthを示すセルロースアシレートフィルム;ならびにそれを有する偏光板及び液晶表示装置を提供することである。
【解決手段】膜厚が10μm以上40μm以下、波長590nmにおける面内レターデーションRe(590)が、40nm≦Re(590)≦70nm、及び波長590nmにおける厚み方向レターデーシRth(590)が90nm≦Rth(590)≦150nmであり、並びに総アシル基置換度が2以上2.35以下であるとともに、プロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度が0.6以上1.1以下であるセルロースアシレートを少なくとも含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム、並びにそれを有する偏光板及び液晶表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、光学補償フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフィルムは、光学補償フィルム、偏光板の保護膜等として、液晶表示装置に用いられている。例えば、VA(Vertically Aligned)モード液晶表示装置等に用いるセルロースアシレートフィルムが種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
ところで、液晶表示装置については薄型化への要請が強く、これを実現するためには、液晶表示装置に組み込まれる種々のフィルム部材の厚みを減少させるのが有効である。しかし、フィルムのレターデーションは膜厚に比例するので、フィルムの膜厚を減少させると、必要な光学特性を達成し得ないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−240948号公報
【特許文献2】特開2003−270442号公報
【特許文献3】特開2007−3679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液晶表示装置の薄型化に寄与するとともに、液晶表示装置の光学補償に寄与する程度に十分にレターデーションを示すセルロースアシレートフィルムを提供すること;ならびにそれを有する偏光板及び液晶表示装置を提供すること;を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための手段は、以下の通りである。
[1] 膜厚が10μm以上40μm以下、波長590nmにおける面内レターデーションRe(590)が40nm≦Re(590)≦70nm、及び波長590nmにおける厚み方向レターデーシRth(590)が90nm≦Rth(590)≦150nmであり、並びに総アシル基置換度が2以上2.35以下であるとともに、プロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度が0.6以上1.1以下であるセルロースアセテート・プロピオネート、セルロースアセテート・ブチレート、又はセルロースアセテート・プロピオネート・ブチレートを少なくとも含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[2] 57nm≦Re(590)≦70nm及び90nm≦Rth(590)≦120nmを満足することを特徴とする[1]のセルロースアシレートフィルム。
[3] ヘイズHzが0%以上0.3%以下であることを特徴とする[1]又は[2]のセルロースアシレートフィルム。
[4] 下記2式を満たすことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかのセルロースアシレートフィルム:
0.7<Re(450)/Re(630)<0.92
0.7<Rth(450)/Rth(630)<0.95 。
[5] 1〜10量体の糖類及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、0.1質量%以上20質量%以下含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
[6] 少なくとも一種の芳香族性ジカルボン酸及び少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び/又は平均炭素原子数が2.0より大きく3.0以下の脂肪族ジオールとの重縮合エステルの誘導体であって、該重縮合エステルの両末端のOH基がモノカルボン酸とエステルを形成してなる重縮合エステルの誘導体の少なくとも一種含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
[7] 下記式を満たすことを特徴とする[5]又は[6]のセルロースアシレートフィルム:
|ΔRth|≦8nm
但し、|ΔRth|は、25℃10%RHで測定したRth(590)と、25℃80%RHで測定したRth(590)との差の絶対値である。
[8] 溶液製膜法により製膜されてなる[1]〜[7]のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
[9] 製膜時の流延方向と直交する方向に1.4倍以上2倍以下の倍率で延伸処理されてなることを特徴とする[8]のセルロースアシレートフィルム。
[10] 製膜時の流延方向と直交する方向に延伸処理された後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されることを特徴とする[9]のセルロースアシレートフィルム。
[11] 長辺方向及び短辺方向の25℃60%環境下での引っ張り弾性率の双方が、3500MPa以上6000MPa以下であることを特徴とする[9]又は[10]のセルロースアシレートフィルム。
[12] [1]〜[11]のいずれかのセルロースアシレートフィルムからなる、又は含むことを特徴とする光学補償フィルム。
[13] 偏光子と、[1]〜[11]のいずれかのセルロースアシレートフィルムとを少なくとも有することを特徴とする偏光板。
[14] [1]〜[11]のいずれかのセルロースアシレートフィルムを少なくとも有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液晶表示装置の薄型化に寄与するとともに、液晶表示装置の光学補償に寄与する程度に十分にレターデーションを示すセルロースアシレートフィルムを提供すること;ならびにそれを有する偏光板及び液晶表示装置を提供すること;ができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において、Re(λ)は、測定対象フィルムの、波長λ(nm)における面内のレターデーション値(単位:nm)を表し、及びRth(λ)は、測定対象フィルムの、波長λ(nm)における厚み方向のレターデーション値(単位:nm)を表す。
【0008】
Re(λ)は、KOBRA 21ADH、又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長λnmの光を、測定対象フィルムの法線方向に入射させて測定される。
測定波長λnmを変更する方法としては、波長選択フィルターをマニュアルで交換する方法、測定値をプログラム等で変換して測定する方法がある。
測定対象フィルムが1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合、以下の方法により、Rth(λ)が算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、測定対象フィルムの面内の任意の方向を回転軸とする)の測定対象フィルムの法線方向に対して、法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と、平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつ測定対象フィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には測定対象フィルムの面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)、及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【0009】
【数1】

【0010】
なお、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
また、式(A)におけるnxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは、面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzは、nx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚を表す。
【0011】
測定される測定対象フィルムが1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optical axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)が算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用できる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定できる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH、又はWRは、nx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
なお、本明細書において、Re、Rth及び屈折率について特に測定波長が付記されていない場合は、測定波長590nmであるものとする。また、特に測定環境について記載がない場合は、温度25℃相対湿度60%RHの環境下で測定した値であるものとする。
【0012】
また、本明細書において、光学部材の光学的軸の角度(例えば「45°」等の角度)、及びその関係(例えば「直交」もしくは「平行」)については、液晶表示装置の技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±5°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な角度との誤差は、4°未満であることが好ましく、3°未満であることがより好ましい。
【0013】
1.セルロースアシレートフィルム
1.−1 セルロースアシレートフィルムの諸特性
本発明は、膜厚が10〜40μm、Re(590)が40〜70nm、及びRth(590)が90〜150nmのセルロースアシレートフィルムに関する。このような光学特性を示すフィルムは、VAモード液晶表示装置の黒表示時に斜め方向に生じる光漏れを軽減する光学補償フィルムとして有用である。本発明では、後述する所定のアシル置換度のセルロースアシレートを用いることで、前記範囲のRe及びRthを、厚みが40μm以下のフィルムで達成している。その結果、VAモード液晶表示装置の表示特性の改善に寄与するともに、薄型化にも寄与する。
【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムのRe(590)及びRth(590)の好ましい範囲については、その用途に応じて種々異なる。一例としては、VAモード液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムであって、液晶セル側に配置される保護フィルムの態様では、Re(590)が57〜70nmであるのが好ましく、61〜70nmであるのがより好ましい。また、Rth(590)は90〜120nmであるのが好ましく、100〜115nmであるのがより好ましい。
【0015】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、膜厚が10〜40μmである。薄型化の観点では、膜厚は薄いほどよいが、10μm未満であると、取り扱い性が損なわれる傾向がある。取り扱い性の観点では、セルロースアシレートフィルムの膜厚は、20μm以上であるのが好ましく、30μm以上であるのがより好ましい。
【0016】
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、低ヘイズであるのが好ましい。低へイズのフィルムを用いると、液晶表示装置の正面(表示面に対して法線方向)のコントラストを低下させないので好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズ0.3%以下を達成可能である。従来のセルロースアシレートフィルムは、Re及びRthを上記範囲とするために、添加剤を多く含んでいたり、もしくは膜厚が厚い等により、ヘイズ0.3%以下を達成するのは困難であった。液晶表示装置の正面コントラストの観点では、本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは、0.2%以下であるのがより好ましく、0.1%以下であるのがさらに好ましい。
なお、本明細書において、フィルムのヘイズの測定方法は以下の通りである。フィルム試料40mm×80mmを準備し、25℃,60%RHの環境下、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)により、JIS K−6714に従って測定する。
【0017】
(Re及びRthの波長分散性)
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記いずれの用途に用いられる態様でも、Re及びRthの可視光域における波長分散性が、逆波長分散性、即ち、短波長なほどRe及びRthが小さい特性、であるのが好ましい。具体的には、本発明のセルロースアシレートは、Re(450)/Re(630)及びRth(450)/Rth(630)が1未満であるのが好ましく、下記式(I)及び(II)を満足するのがより好ましく、
(I) 0.7<Re(450)/Re(630)<0.92
(II) 0.7<Rth(450)/Rth(630)<0.95
下記式(I)’及び(II)’を満足するのがさらに好ましく、
(I)’ 0.8<Re(450)/Re(630)<0.92
(II)’ 0.8<Rth(450)/Rth(630)<0.95
下記式(I)”及び(II)”を満足するのがよりさらに好ましい。
(I)” 0.85<Re(450)/Re(630)<0.92
(II)” 0.85<Rth(450)/Rth(630)<0.95
【0018】
(Rthの湿度依存性)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、環境に依存した光学特性の変動が小さいほうが、液晶表示装置の部材としての用途に好ましい。特に、セルロースアシレートフィルムは、透湿性があるので、環境湿度に依存した光学特性の変動、特にRthの変動(ΔRth)が懸念される。本発明のセルロースアシレートフィルムは、所定のアシル置換度のセルロースアシレートを材料として利用しているので、環境湿度に依存したΔRthが比較的小さいという特徴があり、さらに、添加剤として、後述する所定のオリゴマー系可塑剤及び/又は糖類系可塑剤を含有する態様は、湿度に依存したΔRthが特に小さいという特徴がある。具体的には、本発明のセルロースアシレートフィルムは、25℃10%RHで測定したRth(590)と、25℃80%RHで測定したRth(590)との差の絶対値|ΔRth|が、15nm未満を満足し、添加剤として後述する所定のオリゴマーを含有すること等により、|ΔRth|が8nm以下を達成し得る。より好ましくは、|ΔRth|は6nm以下であり、さらに好ましくは4nm以下である。
なお、本明細書において、一定の温度及び相対湿度環境下におけるRthは、フィルム試料を当該環境下に2時間放置した後、同環境下で測定した値から得られるRthである。
【0019】
(引っ張り弾性率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの機械的特性については特に制限はない。用途に応じて好ましい範囲も変動するであろう。液晶表示装置の部材として用いる態様では、引っ張り弾性率が高いと、偏光板の収縮等の外部応力による寸度変化を小さくすることができるという点でよいが、一方、引っ張り弾性率が高すぎると、取り扱い性が悪い。双方の観点から、液晶表示装置の部材として用いる態様では、本発明のセルロースアシレートフィルムは、長辺方向及び短辺方向の、25℃60%環境下での引っ張り弾性率の双方が、3500〜6000MPaであるのが好ましく、4000〜5500MPaであるのがより好ましく、4500MPa〜5200MPaであるのがさらに好ましい。なお、本明細書では、フィルムの引っ張り弾性率とは、JIS K 7162に従って測定された値をいうものとする。また、フィルムの形状が長辺と短辺の区別ない正方形の態様では、長辺及び短辺は、直交する2辺を意味するものとする。
【0020】
1.−2 セルロースアシレートの材料
1.−2−1セルロースアシレート
本発明のセルロースアシレートフィルムは、1種又は2種以上のセルロースアシレートを主成分として含有する。ここで「主成分として含有する」とは、セルロースアシレートフィルムの材料として用いられているセルロースアシレートが1種である場合は、当該セルロースアシレートをいい、複数種である場合は、最も高い割合で含有されるセルロースアシレートをいう。セルロースには、β−1,4結合しているグルコース単位当り、2位、3位及び6位に遊離の水酸基がある。本発明のセルロースアシレートフィルムの材料には、これらの3つの水酸基のうち平均で2〜2.35の水酸基の水素原子がアシル基に置換され、且つそのうち0.6〜1.1がプロピオニル基及び/又はブチリル基で置換されているセルロースアセテート・プロピオネート、セルロースアセテート・ブチレート、又はセルロースアセテート・プロピオネート・ブチレートを用いる。総アシル基置換度が2未満であると、無置換のヒドロキシ基が多く存在し、フィルムの湿度依存性が大きくなり、液晶表示装置の光学部材としての用途等、湿度に対する耐久性を必要とされる用途には適さなくなる。一方、総アシル基置換度が、2.35を超えてしまうと、Re及びRthの発現性が低下し、厚み40μm以下では、上記範囲のRe及びRthを達成できなくなる。双方の観点では、総アシル基置換度は、2.1〜2.35であるのがより好ましく、2.2〜2.35であるのがより好ましい。
【0021】
一方、セルロースアシレートのプロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度は、フィルムのRe及びRthの発現性に影響するとともに、フィルムの湿度依存性及び弾性率にも影響する。プロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度を0.6〜1.1とすることで、前記範囲のRe及びRthを示すフィルムを提供できる。さらに、プロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度を0.6以上にすることで湿度依存性を小さくすることができるが、当該置換度が1.1を超えると、フィルムの弾性率が低下する傾向がある。
なお、本明細書では、セルロースアシレートのアシル基置換度は、セルロースの構成単位質量当りの結合脂肪酸量を測定して算出することができる。測定方法は、「ASTM D817−91」に準じて実施する。
【0022】
本発明のセルロースアシレートフィルムの材料には、置換度が上記条件を満足する、セルロースアセテート・プロピオネート、セルロースアセテート・ブチレート、又はセルロースアセテート・プロピオネート・ブチレートを用いるのが好ましい。
【0023】
セルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、前記セルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0024】
前記セルロースアシレートは、350〜800の質量平均重合度を有することが好ましく、370〜600の質量平均重合度を有することがさらに好ましい。また本発明に用いるセルロースアシレートは、70000〜230000の数平均分子量を有することが好ましく、75000〜230000の数平均分子量を有することがさらに好ましく、78000〜120000の数平均分子量を有することがよりさらに好ましい。
【0025】
前記セルロースアシレートは、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。工業的に最も一般的な合成方法としては、以下の通りである。綿花リンタや木材パルプなどから得たセルロースをアセチル基並びにプロピオニル基及び/又はブチリル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)又はそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化し、目的のセルロースアシレートを合成することができる。
【0026】
1.−2−2 添加剤
本発明のセルロースアシレートフィルムは、種々の目的により、添加剤の少なくとも1種を含有していてもよい。これらの添加剤は、当該セルロースアシレートフィルムを溶液製膜法で製造する場合は、セルロースアシレートドープ中に添加することができる。添加のタイミングについては特に制限はない。添加剤は、セルロースアシレートと相溶(溶液製膜法ではセルロースアシレートドープ中に可溶)な剤から選択する。添加剤は、セルロースアシレートの光学特性の調整及びその他の特性の調整等を目的として添加される。
【0027】
(可塑剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、可塑剤を含有しているのが、製膜性などが改善されるので好ましい。可塑剤として、糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される糖類系可塑剤、又はオリゴマー類から選択されるオリゴマー系可塑剤を使用すると、セルロースアシレートフィルムの環境湿度耐性が改善されるので好ましい。具体的には、湿度に依存したRthの変動|ΔRth|を軽減することができ、上記条件で測定した|ΔRth|について8nm以下を達成することができる。糖類系可塑剤及びオリゴマー系可塑剤の双方を併用すると、|ΔRth|の軽減効果が高くなる。
【0028】
(糖類系可塑剤)
上記した通り、本発明のセルロースアシレートフィルムは、糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種の化合物を、含有しているのが好ましい。中でも、1〜10量体の糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される化合物は、可塑剤として好ましい。その例には、国際公開WO2007/125764号パンフレットの[0042]〜[0065]に記載のグルコース等の糖のOHの一部又は全部の水素原子がアシル基に置換された糖誘導体が含まれる。糖類系可塑剤の添加量は、主成分であるセルロースアシレートに対して、0.1質量%以上20質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%以上10質量%未満であるのがより好ましく、0.1質量%以上7質量%未満であるのがさらに好ましい。
【0029】
(オリゴマー系可塑剤)
上記した通り、本発明のセルロースアシレートフィルムは、オリゴマー類から選択されるオリゴマー系可塑剤を含有しているのが好ましい。オリゴマー系可塑剤の好ましい例には、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合エステル及びその誘導体(以下、「重縮合エステル系可塑剤」という場合がある)、並びにメチルアクリレート(MA)のオリゴマー及びその誘導体(以下、「MAオリゴマー系可塑剤」という場合がある)が含まれる。
【0030】
前記重縮合エステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合エステルである。ジカルボン酸成分は、1種のジカルボン酸のみからなっていても、又は2種以上のジカルボン酸の混合物であってもよい。中でも、ジカルボン酸成分として、少なくとも1種の芳香族性ジカルボン酸及び少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分を用いるのが好ましい。一方、ジオール成分についても1種のジオール成分のみであっても、又は2種以上のジオールの混合物であってもよい。中でも、ジオール成分として、エチレングリコール及び/又は平均炭素原子数が2.0より大きく3.0以下の脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。
【0031】
前記時カルボン酸成分中の前記芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との比率は、芳香族ジカルボン酸が5〜70モル%であることが好ましい。上記範囲であると、フィルムの光学特性の環境湿度依存性を低減できるとともに、製膜過程でブリードアウトの発生を抑制できる。前記ジカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸は、より好ましくは10〜60モル%であり、20〜50モル%であることがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸の例には、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等が含まれ、フタル酸、及びテレフタル酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が含まれ、中でも、コハク酸、及びアジピン酸が好ましい。
【0032】
前記ジオール成分は、エチレングリコール及び/又は平均炭素数が2.0より大きく3.0以下のジオールである。前記ジオール成分中、エチレングリコールが50モル%であることが好ましく、75モル%であることがより好ましい。脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0033】
前記ジオール成分は、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールであるのが好ましく、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールである。
【0034】
また、前記重縮合エステル系可塑剤としては、前記重縮合エステルの末端のOHがモノカルボン酸とエステルを形成している重縮合エステルの誘導体であるのが好ましい。両末端OH基の封止に用いるモノカルボン酸類としては、脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。重縮合エステルの両末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障の発生を低減することが可能である。また、封止に用いるモノカルボン酸は2種以上のモノカルボン酸の混合物であってもよい。前記重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止されているのが好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基となっている重縮合エステルの誘導体が特に好ましい。
【0035】
前記重縮合エステル及びその誘導体は、数平均分子量は700〜2000程度のオリゴマーであることが好ましく、800〜1500程度がより好ましく、900〜1200程度がさらに好ましい。なお、重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。
【0036】
以下の表1に、重縮合エステル系可塑剤の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【表1】

【0038】
前記重縮合エステルは、常法により、ジカルボン酸成分とジオール成分とのポリエステル化反応もしくはエステル交換反応による熱溶融縮合法、又はジカルボン酸成分の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0039】
前記重縮合エステル系可塑剤の添加量は、主成分であるセルロースアシレートの量に対し0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることがよりさらに好ましい。
【0040】
なお、重縮合エステル系可塑剤が含有する原料及び副生成物、具体的には、脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、及びジオールエステル等、のフィルム中の含有量は、1%未満が好ましく、0.5%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0041】
本発明のセルロースアシレートフィルムの可塑剤としては、メチルメタクリレート(MA)オリゴマー系可塑剤も好ましい。MAオリゴマー系可塑剤と前記糖類系可塑剤との併用も好ましい。併用の態様では、MAオリゴマー系可塑剤と糖類型可塑剤とを質量比で1:2〜1:5の割合で使用するのが好ましく、1:3〜1:4の割合で使用するのがより好ましい。MAオリゴマー系可塑剤の一例は、下記繰り返し単位を含むオリゴマーである。
【0042】
【化1】

【0043】
重量平均分子量は、500〜2000程度が好ましく、700〜1500程度がより好ましく、800〜1200程度であるのがさらに好ましい。
【0044】
また、MAオリゴマー系可塑剤は、MA単独のオリゴマーの他、MAから誘導体される上記繰り返し単位とともに、他のモノマーから誘導される繰り返し単位の少なくとも1種を有するオリゴマーであってもよい。前記他のモノマーの例には、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、ならびに上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルにかえたモノマーが含まれる。また、スチレン、メチルスチレン、ヒドロキシスチレンなどの芳香環を有するモノマーを利用することもできる。前記他のモノマーとしては、芳香環を持たない、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。
また、MAオリゴマー系可塑剤が、2種以上の繰り返し単位を有するオリゴマーである場合は、X(親水基を有するモノマー成分)及びY(親水基を持たないモノマー成分)からなり、X:Y(モル比)が1:1〜1:99のオリゴマーが好ましい。
【0045】
これらのMA系オリゴマーは、特開2003−12859号公報に記載されている方法を参考にして合成することができる。
【0046】
(高分子可塑剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前述した糖類系可塑剤、重縮合エステル系可塑剤、及びMMAオリゴマー系可塑剤のいずれか少なくとも1種とともに、又はそれに代えて、他の高分子系可塑剤を含有していてもよい。他の高分子系可塑剤としては、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、ポリ酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0047】
(少なくとも2つの芳香環を有する化合物)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有していてもよい。当該化合物は、セルロースアシレートフィルムの光学特性を調整する作用がある。例えば、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性、特にReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇にはフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、その一つの方法が、延伸による主鎖配向の向上である。また、延伸処理を施すとともに、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、フィルムの屈折率異方性をさらに上昇させることが可能である。例えば、上記少なくともの2つの芳香環を有する化合物を添加剤として添加したフィルムに延伸処理を施すと、ポリマーの主鎖が配向し、それに伴い、該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0048】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。少なくとも2つの芳香族環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。なお、少なくとも2つの芳香環を有する化合物の分子量は、300〜1200程度であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。
【0049】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量比で0.05%〜10%が好ましく、0.5%〜8%がより好ましく、1%〜5%がさらに好ましい。
【0050】
(光学異方性調整剤)
前記セルロースアシレートフィルムには、光学異方性調整剤を添加することができる。例えば、特開2006−30937号公報の23〜72頁に記載の「Rthを低減させる化合物」が例に挙げられる。
【0051】
(波長分散調整剤)
また、前記セルロースアシレートフィルムには、波長分散性を低下させる化合物(以下「波長分散調整剤」ともいう)を添加することができる。波長分散調整剤は、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、フィルムの|Re(400)−Re(700)|及び|Rth(400)−Rth(700)|を低下させる化合物である。セルロースアシレートの固形分に対して0.01〜30質量%含むことによってセルロースアシレートフィルムのRe及びRthの波長分散を低下させることができる。
【0052】
例えば、セルロースアシレートフィルムのRe及びRthは、一般的に、短波長側よりも長波長側が大きくなるという波長分散特性を示す。従って、可視光域において相対的に小さい短波長側のRe及びRthを大きくすることによって、波長分散を平滑にすることができる。一方、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持つ化合物は、短波長側よりも長波長側の吸光度が大きいという波長分散特性を示す。この化合物自身がフィルム内部で等方的に存在していれば、当該化合物自身の複屈折性、ひいてはフィルムのRe及びRthの波長分散は、吸光度の波長分散と同様に短波長側が大きいと想定される。従って、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、当該化合物を等方的に含むフィルムのRe及びRthの波長分散が短波長側が大きいと想定される化合物を用いることによって、セルロースアシレートフィルムのRe及びRthの波長分散を、平坦化することができる。波長分散調整剤として用いられる化合物は、上記特性を示すとともに、セルロースアシレートに十分均一に相溶することが要求される。なお、波長分散調整剤として用いられる化合物の紫外領域の吸収帯範囲は、200〜400nmが好ましく、220〜395nmがより好ましく、240〜390nmがさらに好ましい。
【0053】
また、近年テレビやノートパソコン、モバイル型携帯端末などの液晶表示装置ではより少ない電力で輝度を高めるために、液晶表示装置に用いられる光学部材の透過率が優れたものが要求されている。その観点では、波長分散調整剤として用いられる化合物には、フィルムの分光透過率を低下させないという特性も求められる。かかる用途では、本発明のセルロースアシレートフィルムは、波長380nmにおける分光透過率が45%〜95%であり、且つ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが望ましい。
【0054】
また、前記波長分散調整剤はフィルムの製膜過程で揮散してしまわないように、分子量が250以上であることが好ましい。より好ましくは260以上であり、さらに好ましくは270以上であり、特に好ましくは300以上である。これらの分子量の範囲であれば、モノマーであってもよいし、そのモノマーユニットが複数結合したオリゴマー、及びポリマーのいずれであってもよい。
【0055】
本発明に好ましく用いられる波長分散調整剤の具体例には、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノ基を含む化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが含まれるが、これらの化合物に限定されるものではない。またこれら波長分散調整剤は、一種を単独で用いても、2種以上の化合物を任意の比で混合して用いてもよい。
【0056】
上述した波長分散調整剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0.01〜30質量%程度であることが好ましく、0.1〜20質量%程度であることがより好ましく、0.2〜10質量%程度であることがさらに好ましい。
【0057】
(マット剤微粒子)
前記セルロースアシレートフィルムには、マット剤を含有していてもよい。マット剤として使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができ、より好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0058】
これらの微粒子は、通常、平均粒子径が0.1〜3.0μm程度の2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μm程度の凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μm程度が好ましく、0.4μm〜1.2μm程度がさらに好ましく、0.6μm〜1.1μm程度がさらに好ましい。1次、及び2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0059】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0060】
これらの中で、アエロジル200V及びアエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下で、且つ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0061】
2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムの製造方法には、微粒子の分散液を用いることができる。微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ調製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集し難い点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースアシレートを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。いずれの方法を利用してもよいし、またこれらの方法に限定されるものでもない。二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散する際の二酸化珪素の濃度は、5〜30質量%程度が好ましく、10〜25質量%程度が更に好ましく、15〜20質量%程度がよりさらに好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度が低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gがより好ましい。
【0062】
上記調製方法に使用される溶剤は、低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースアシレートの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0063】
(低分子可塑剤、劣化防止剤、剥離剤)
前記セルロースアシレートフィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、低分子可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号公報などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期は、ドープ調製工程においていずれのタイミングで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後のタイミングで添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0064】
1.−3 セルロースアシレートフィルムの製造方法
本発明のセルロースアシレートフィルムは、溶液製膜法(ソルベントキャスト法)によって製膜されたフィルムであるのが好ましい。ソルベントキャスト法では、本発明のセルロースアシレートフィルムは、所定のセルロースアシレートを有機溶媒に溶解して調製されたドープを、金属等からなる支持体の表面にキャストして、乾燥して製膜し、その後、膜を支持体面から剥ぎ取り、所望により延伸処理することで製造される。
(ソルベントキャスト法)
ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。該ドープの調製に用いられる溶媒は、有機溶媒から選択することができる。有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を少なくとも含むことが好ましい。
エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上記した好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0065】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることがよりさらに好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0066】
0℃以上の温度(常温又は高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースアシレート溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、且つ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。
加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0067】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0068】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0069】
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。冷却によりセルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0070】
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよく、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0071】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量計(DSC)による測定によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保持する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0072】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープには前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましい。
【0073】
ドープ(セルロースアシレート溶液)をバンド上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行う。また、ドラム上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行うことが好ましい。
本発明において、「剥ぎ取り前乾燥」とはバンドもしくはドラム上にドープが塗布されてからフィルムとして剥ぎ取られるまでの乾燥を指すものとする。また、「前半」とはドープ塗布から剥ぎ取りまでに要する全時間の半分より前の工程を指すものとする。「実質的に無風」であるとは、バンド表面もしくはドラム表面から200mm以内の距離において0.5m/s以上の風速が検出されない(風速が0.5m/s未満である)ことである。
剥ぎ取り前乾燥の前半は、バンド上の場合通常30〜300秒程度の時間であるが、その内の10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、無風で乾燥する。ドラム上の場合は通常5〜30秒程度の時間であるが、その内の1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、無風で乾燥する。雰囲気温度は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。無風で乾燥する操作は剥ぎ取り前乾燥の前半の任意の段階で行うことができるが、好ましくは流延直後から行うことが好ましい。無風で乾燥する時間が、バンド上の場合に10秒未満(ドラム上の場合に1秒未満)であると、添加剤がフィルム内に均一に分布することが難しく、90秒を超えると(ドラム上の場合10秒を超えると)乾燥不十分で剥ぎ取られることになり、フィルムの面状が悪化する。
剥ぎ取り前乾燥における無風で乾燥する以外の時間は、不活性ガスを送風することにより乾燥を行なうことができる。このときの風温は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。
【0074】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンド又はドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0075】
得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、さらに100〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0076】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0077】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、及び、特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することができる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、及び、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0078】
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0079】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0080】
本発明のセルロースアシレートフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。フィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0081】
(延伸)
延伸処理することにより、そのレターデーションを調整して、本発明のセルロースアシレートフィルムを作製してもよい。積極的に幅方向(製膜時の流延方向と直交する方向)に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む±20℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0082】
さらに、延伸ゾーン(例えばテンターゾーン)において、フィルムを噛み込み、搬送し最大拡幅率を経た後に、通常緩和させるゾーンを設ける。これは軸ずれを低減するのに必要なゾーンである。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短く、フィルムの延伸は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。幅方向、即ち製膜時の流延方向と直交する方向、に1.4倍〜2倍の倍率で延伸処理するのが好ましく、より好ましくは延伸倍率は1.4倍〜1.6倍であり、さらに好ましくは延伸倍率は1.4倍〜1.5倍である。
【0083】
延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶剤量(残留溶剤量/(残留溶剤量+固形分量))が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸を行うことが特に好ましい。
【0084】
また本発明のセルロースアシレートフィルムは、二軸延伸フィルムであってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向(長手方法)に延伸した後、長手方向(幅方向)に延伸される。
【0085】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0086】
また、上記した通り、幅方向、即ち流延方向と直交する方向、に延伸処理をしたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されるのが好ましい。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、寸度変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となるであろう。
【0087】
セルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0088】
(セルロースアシレートフィルムの表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースアシレートフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対するケン化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
【0089】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1〜3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0090】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、及び吸着法により求めることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースアシレートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0091】
本発明のセルロースアシレートフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていてもよいが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースアシレートフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースアシレートフィルムを製造する場合も含む。
【0092】
2. セルロースアシレートフィルムの用途
本発明のセルロースアシレートフィルムは、種々の用途に用いることができる。例えば、液晶表示装置の光学補償フィルム、偏光板の保護フィルム等に利用することができる。
(光学補償フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学補償フィルムとして用いることができる。なお、「光学補償フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、光学補償フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
【0093】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して光学補償フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0094】
(偏光板)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板の一例は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明フィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして有する。本発明のセルロースアシレートフィルムが支持体として利用され、その表面に液晶組成物からなる光学異方性層を有する態様について、偏光板の保護フィルムとして利用する場合は、支持体である本発明のセルロースアシレートフィルムの裏面(光学異方性層が形成されていない側の面)を偏光膜の表面に貼り合せるのが好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、又は、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0095】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明セルロースアシレートフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。このように、前記セルロースアシレートフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0096】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有用である。また、前記偏光膜を挟んで本発明のセルロースアシレートフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0097】
(液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルム、ならびそれを利用した光学補償フィルム及び偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。中でも、本発明のセルロースアシレートフィルム、並びにそれを利用した光学補償フィルム及び偏光板は、特にVAモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型及び半透過型のいずれでもよい。
【実施例】
【0098】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0099】
[実施例1]
下記表に記載の置換度のセルロースアシレート、及び添加剤を用いて、以下の方法により、セルロースアシレートフィルム1〜9をそれぞれ作製した。
【0100】
・微粒子分散液の調製
以下の成分を攪拌混合して、微粒子分散液を調製した。
微粒子(R972V(日本アエロジル(株)製)) 11質量部
エタノール 89質量部
【0101】
・ 微粒子添加液の調製
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに、下記の割合でセルロースアシレートを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースアシレート溶液を充分に撹拌しながら、ここに、上記で調製した微粒子分散液を、下記表に記載の割合でゆっくりと添加した。更に、アトライタ一にて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
セルロースアシレート(下記表参照) 4質量部
微粒子分散液 11質量部
【0102】
・ 主ドープ液の調製
下記組成の主ドープ液を調製した。まず、加圧溶解タンクに、メチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアシレートを撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、更に下記表に記載の可塑剤を、添加及び溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 60質量部
セルロースアシレート(置換度は下記表参照) 73質量部
添加剤(化合物は下記表参照) 下記表に記載
【0103】
・ セルロースアシレートフィルム1の作製
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部とを、インラインミキサー(東レ社製静止型管内混合機Hi−Mixer、SVII)で十分に混合してドープを調製し、これをベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.0倍となるように延伸し、次いで、テンターでウェブ両端部を把持し、延伸開始時の残留溶剤量20質量%、温度130℃にて幅手(TD)方向の延伸倍率が1.3倍となるように延伸した。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅方向の張力を緩和させた後幅保持を解放し、更に125℃に設定された第3乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行い、幅1.5m、かつ端部に幅1cm、高さ8μmのナーリングを有する膜厚40μmのセルロースアシレートフィルム1を作製した。
【0104】
・ セルロースアシレートフィルム2〜9の作製
セルロースアシレートの種類、添加剤の種類及び量、延伸倍率、及び加熱水蒸気処理を下記表に示す通り変更した以外は、セルロースアシレートフィルム1と同様にして、セルロースアシレートフィルム2〜9を作製した。
【0105】
【表2】

【0106】
・ セルロースアシレートフィルム1〜9の評価
(Re及びRth)
得られたセルロースアシレートフィルム1〜9について、前述の方法に従ってRe及びRthを測定した。
(|ΔRth|)
上記方法に従って測定したセルロースアシレートフィルム1〜9のRthの値から、|ΔRth|を求めた。なお、|ΔRth|は、はじめに、25℃10%RHにて2時間放置した後、同環境で上記測定を行いRth値(これを「Rth10%」とする)を算出し、同フィルムを続けて25℃80%RHにて2時間放置した後、同環境で上記測定を行いRth値(これを「Rth80%」とする)を算出し、下記の式より求めた。
|ΔRth|=|Rth10%−Rth80%
更に、調湿後の各セルロースアシレートフィルムを、再度25℃60%RHの環境に放置した後、同様の測定を行い、この変動が可逆変動であることを確認した。
【0107】
その他の特性値については、上記の測定法でそれぞれ測定した。
各測定結果を下記表に示す。
【0108】
【表3】

【0109】
上記結果から、本発明のセルロースアシレートフィルム1〜7はいずれも、40μm以下の薄い膜厚でありながら、Reが40nm以上、及びRthが90nm以上を達成している。その結果、いずれもヘイズが小さく且つ充分なレターデーションを示すので、高い透明性が要求される液晶表示装置の光学部材として有用であることが理解できる。中でも、添加剤として重縮合エステル系可塑剤、糖類系可塑剤又はMAオリゴマー系可塑剤を含有するセルロースアシレートフィルム4〜7は、特に|ΔRth|が小さいことが理解できる。
アシル全置換度が本発明の範囲外であるセルロースアシレートを用いて製造された比較例のセルロースアシレートフィルムは、本発明のセルロースアシレートフィルム1〜7と同等のRe及びRthを得るためには、膜厚を厚くしなければならず、その結果、ヘイズが上昇して、透明性が劣っていることが理解できる(比較例8)。一方、透明性を維持するために、本発明のセルロースアシレートフィルム1〜7と同等の膜厚とすると、Reが40nm以上を達成できていないことが理解できる。
【0110】
[実施例2]
実施例1で作製したセルロースアシレートフィルム1〜9の原反試料を用い、偏光板P1〜P9をそれぞれ作製した。
・ アルカリケン化処理
各セルロースアシレートフィルムに、以下の条件でケン化工程を実施し、その後、以下の条件の水洗、中和、水洗の工程を順次行い、次いで80℃で乾燥した。
ケン化工程 2mol/L−NaOH溶液 50℃ 90秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
中和工程 10質量%HCl溶液 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
【0111】
・ 偏光子の作製
厚さ120μmの長尺ロール状のポリビニルアルコールフィルムを、沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で5倍に搬送方向に延伸して偏光膜を作製した。上記偏光膜の片面に、アルカリケン化処理したフジタックTD80を、反対側には上記アルカリケン化処理後のセルロースアシレートフィルム1〜9のそれぞれを、完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として、各々貼り合わせ、乾燥して偏光板P1〜P9を作製した。
【0112】
・ 液晶表示装置の作製
VA型液晶表示装置である富士通製の15型ディスプレイVL−150SDの予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板P1〜P9をそれぞれ液晶セル(VA型)のガラス面に貼合し、液晶表示装置1〜9をそれぞれ作製した。
その際、偏光板の貼合の向きは、予め貼合されていた偏光板と同一方向に吸収軸が向くようにした。
【0113】
・ 液晶表示装置の評価
作製した各液晶表示装置について、下記の各評価を行った。
25℃60%RHの環境下で、ELDIM社製のEZ−Contrast160Dを用いて液晶表示装置の視野角測定を行った。続いて25℃10%RH、さらに25℃80%RHの環境下で、作製した各液晶表示装置の視野角を測定し、下記基準にて視野角の湿度安定性を評価した。最後に25℃60%RHの環境でもう一度視野角測定を行い、前記測定の際の変化が可逆変動であることを確認した。尚、これらの測定は、液晶表示装置を当該環境に2時間置いてから測定を行った。
本発明の液晶表示装置1〜7はパネル厚みを薄く抑え、かつ、良好な表示性能を示した。特に液晶表示装置4〜7は湿度変化に伴う表示性能の変化が少なく良好であった。
一方、液晶表示装置8は液晶表示装置1〜7に比べてパネル厚みが厚く、また正面(表示面に対して法線方向)コントラストが低かった。液晶表示装置9は液晶表示装置1〜7に比べて表示性能が劣り、好ましくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が10μm以上40μm以下、波長590nmにおける面内レターデーションRe(590)が40nm≦Re(590)≦70nm、及び波長590nmにおける厚み方向レターデーシRth(590)が90nm≦Rth(590)≦150nmであり、並びに総アシル基置換度が2以上2.35以下であるとともに、プロピオニル基及び/又はブチリル基の置換度が0.6以上1.1以下であるセルロースアセテート・プロピオネート、セルロースアセテート・ブチレート、又はセルロースアセテート・プロピオネート・ブチレートを少なくとも含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
57nm≦Re(590)≦70nm及び90nm≦Rth(590)≦120nmを満足することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
ヘイズHzが0%以上0.3%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
下記2式を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム:
0.7<Re(450)/Re(630)<0.92
0.7<Rth(450)/Rth(630)<0.95 。
【請求項5】
1〜10量体の糖類及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、0.1質量%以上20質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
少なくとも一種の芳香族性ジカルボン酸及び少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び/又は平均炭素原子数が2.0より大きく3.0以下の脂肪族ジオールとの重縮合エステルの誘導体であって、該重縮合エステルの両末端のOH基がモノカルボン酸とエステルを形成してなる重縮合エステルの誘導体の少なくとも一種含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
下記式を満たすことを特徴とする請求項5又は6に記載のセルロースアシレートフィルム:
|ΔRth|≦8nm
但し、|ΔRth|は、25℃10%RHで測定したRth(590)と、25℃80%RHで測定したRth(590)との差の絶対値である。
【請求項8】
溶液製膜法により製膜されてなる請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
製膜時の流延方向と直交する方向に1.4倍以上2倍以下の倍率で延伸処理されてなることを特徴とする請求項8に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
製膜時の流延方向と直交する方向に延伸処理された後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されることを特徴とする請求項9に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
長辺方向及び短辺方向の25℃60%環境下での引っ張り弾性率の双方が、3500MPa以上6000MPa以下であることを特徴とする請求項9又は10に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムからなる、又は含むことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項13】
偏光子と、請求項1〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムとを少なくとも有することを特徴とする偏光板。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−79241(P2010−79241A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29381(P2009−29381)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】