説明

セルロースエステルフィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板に保護フィルムとして組み込んだときに偏光板の経時性能変化が小さいセルロースエステルフィルムの提供。
【解決手段】セルロースエステルと、式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と、式(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有し、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満であるセルロースエステルフィルム。
(I)(HO)m−G−(L−R1)n;(II)(HO)p−G−(L−R1)q;(III)(HO)t−G'−(L'−R2)r;
(GおよびG'は単糖残基または二糖残基;R1は脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基;R2は脂肪族基;LおよびL'は2価の連結基;m、tは0以上の整数;n、pおよびqは1以上の整数;rは3以上の整数;但し、m+n≧4;p+q≧4;m>p;n<q。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光子とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースエステル、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
セルロースエステルフィルムを液晶表示装置に用いる場合、環境変化による偏光子保護(偏光板耐久性)のため、フィルムの疎水化が必要である。疎水化には通常添加剤が用いられる。しかしながら、セルロースエステルフィルムを製造する方法として広く利用されている溶液製膜法では溶媒を単時間で揮発させるために乾燥工程を含む。しかしながら、疎水化用の添加剤は乾燥工程で揮散して製造機に付着し、再び冷やされることでフィルムに汚れとして付着し、面状故障の原因の一つとして問題となっていた。
【0004】
揮散の抑制を目的として、添加剤の分子量を大きくする方法が近年知られてきたが、分子量が大きい添加剤はフィルムからのブリードアウトが発生するという問題があり、添加剤として糖の誘導体系の可塑剤を用いた場合も同様の問題が生じていた。
これに対し、特許文献1では、スクロース骨格の糖の誘導体である化合物のOH基の一部を残存させ、さらにOH基の数が異なる少なくとも2種以上の置換体を組み合わせることで、製膜時に揮散成分が少なく、ブリードアウトも生じていないセルロースエステルフィルムを製膜する方法が開示されている。また、同文献では、低置換体と高置換体の糖エステルの混合物を用いることで、セルロースエステル分子のアシル置換度の実質的なバラツキを効果的に補償できるため、得られたフィルムは、けん化後の耐久性が高く、偏光子との密着性、偏光板耐久性が良好になると記載がある。しかしながら、同文献では芳香族糖エステルと脂肪族糖エステルを組み合わせることについては何ら言及されていなかった。なお、特許文献1の実施例では、糖エステル可塑剤として、芳香族基を側鎖に置換基として有する芳香族糖エステルであるスクロースベンゾエートの、置換度の異なる置換体3種の混合物を主として用いて検討を行っている。また、同文献にはその他の実施例も開示されているが、いずれも芳香族糖エステルのみを数種併用した組み合わせ、または、脂肪族糖エステルのみを数種併用した組み合わせであった。
【0005】
また、特許文献2では、スクロース骨格糖の誘導体である化合物のOH基の一部を残存させた低置換体を用いることで、ヘイズの低減、ハードコート層の塗布ムラを改善することによる光漏れやコントラストの向上ができることが開示されている。同文献では、糖エステル可塑剤として、芳香族糖エステルのほか、脂肪族基を側鎖に置換基として有する脂肪族糖エステルを用いているが、両者を混合した例は開示されておらず、両者を混合することを示唆する記載もない。
【0006】
一方、液晶表示装置において、視野角の拡大、画像着色の改良、及びコントラストの向上のため光学補償フィルムを使用することは広く知られた技術である。最も普及しているVA(Vertically Aligned)モード(垂直配向モード)、TNモード等では特に光学特性(例えばRe値およびRth値)を所望の値に制御できる光学補償フィルムが求められている。
VAモードに適した光学特性の調整には延伸処理が必要であり、製造時の工程汚染による面状故障への対策が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2009/011228号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/031464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに対し、本発明者らがこれらの文献に記載の糖エステル可塑剤を用いたところ、以前として添加剤の揮散による製造設備の動作の不具合やフィルムの面状故障の発生は満足できるものではなかった。さらに、本発明者らがフィルムのRthや、偏光板形態での直交透過率について、湿熱環境下で経時させたときの性能を検討したところ、これらの性能についても満足できるものではなかいことがわかった。
【0009】
本発明の目的は、面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板に保護フィルムとして組み込んだときに偏光板の経時性能変化が小さいセルロースエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をしたところ、芳香族糖エステルを用いたときに使用時の経時による光学特性の変動が起こりやすくなることを見出すに至った。そこで、置換度が異なる芳香族糖エステルの2種以上の混合体に対して、脂肪族糖エステルを混合したところ、驚くべきことに芳香族糖エステルを用いたときに生じる経時による光学性能変化が抑制されることを見出した。また、このような構成により、上記課題をすべて同時に満たすことがわかった。
【0011】
すなわち、本発明者らは鋭意検討の結果、上記課題は以下の構成の本発明によって解決されることを見出した。
[1] セルロースエステルと、下記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有し、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
(I) (HO)m−G−(L−R1)n
(II) (HO)p−G−(L−R1)q
(III) (HO)t−G'−(L'−R2)r
(一般式(I)〜(III)中、GおよびG'はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。LおよびL'はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。mは0以上の整数を表し、n、pおよびqはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、rは3以上の整数を表し、tは0以上の整数を表す。但し、m+n≧4であり、p+q≧4であり、m>pであり、n<qである。また、m+nおよびp+qはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しく、r+tは前記G'が残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
[2] 前記一般式(III)中の前記R2が2種以上の脂肪族基を表すことを特徴とする[1]に記載のセルロースエステルフィルム。
[3] 前記一般式(III)中の前記G'が二糖残基を表すことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースエステルフィルム。
[4] 前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記Gがスクロース骨格であり、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が5〜7.5であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[5] 前記一般式(II)中のqが8である芳香族糖エステルの添加量が、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物および前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の合計添加量に対して、20質量%未満であることを特徴とする[4]に記載のセルロースエステルフィルム。
[6] 前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記L、および前記一般式(III)中の前記L'が、それぞれ独立に単結合、−O−、−CO−、−NR11−(R11は1価の置換基を表す)のいずれか一つを表すことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[7] 前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記R1、および前記一般式(III)中の前記R2が、それぞれ独立にアシル基を表すことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[8] 前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記R1が、ベンゾイル基を表すことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[9] 前記一般式(III)中の前記R2がそれぞれ独立に非環式脂肪族を表すことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[10] 前記一般式(III)中の前記R2のうち少なくとも1種が、分岐状の脂肪族基を表すことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[11] 前記一般式(III)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基のみを含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
[12] 偏光子と、該偏光子の両側に配置された保護フィルムを有し、
該保護フィルムの少なくとも1枚が[1]〜[11]のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムであることを特徴とする偏光板。
[13] 液晶セル及び該液晶セルの両側に配置された偏光板を有し、該偏光板のうち少なくとも1枚が[12]に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板に保護フィルムとして組み込んだときに偏光板の経時性能変化が小さいセルロースエステルフィルムを提供することができる。また、このセルロースエステルフィルムを用いた経時性能変化が小さい偏光板を提供することができる。また、上記フィルムまたは偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0014】
[セルロースエステルフィルム]
本発明のセルロースエステルフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、セルロースエステルと、下記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有し、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満であることを特徴とする。
(I) (HO)m−G−(L−R1)n
(II) (HO)p−G−(L−R1)q
(III) (HO)t−G'−(L'−R2)r
(一般式(I)〜(III)中、GおよびG'はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。LおよびL'はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。mは0以上の整数を表し、n、pおよびqはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、rは3以上の整数を表し、tは0以上の整数を表す。但し、m+n≧4であり、p+q≧4であり、m>pであり、n<qである。また、m+nおよびp+qはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しく、r+tは前記G'が残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
以下、本発明のセルロースエステルフィルムについて説明する。
【0015】
<糖エステル化合物>
本発明のフィルムは、下記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、下記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有し、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満である。
(I) (HO)m−G−(L−R1)n
(II) (HO)p−G−(L−R1)q
(III) (HO)t−G'−(L'−R2)r
(一般式(I)〜(III)中、GおよびG'はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。LおよびL'はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。mは0以上の整数を表し、n、pおよびqはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、rは3以上の整数を表し、tは0以上の整数を表す。但し、m+n≧4であり、p+q≧4であり、m>pであり、n<qである。また、m+nおよびp+qはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しく、r+tは前記G'が残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
具体的には、本発明では、エステル置換度が異なる複数の芳香族糖エステル化合物と、脂肪族糖エステル化合物とを、上記の条件を満たすように混合した糖エステル化合物混合体を用いることを特徴とする。前記糖エステル化合物混合体をセルロースエステルフィルムに添加することにより、面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板に保護フィルムとして組み込んだときに偏光板の経時性能変化が小さなセルロースエステルフィルムを得ることができる。
以下、前記糖エステル化合物混合体に用いられる各糖エステル化合物に共通する好ましい範囲と、一般式(I)〜(III)をそれぞれ満たす各糖エステル化合物特有の好ましい範囲について、説明する。
【0016】
(各糖エステル化合物に共通する性質)
前記糖エステル化合物混合体に用いられる各糖エステル化合物は、単糖残基または二糖残基を骨格とする。すなわち、前記一般式(I)〜(III)中、GおよびG'はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。
【0017】
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する糖骨格構造中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
【0018】
本発明に用いることができる前記一般式(I)〜(III)で表される前記糖エステル化合物は、フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物であることが好ましい。フラノース構造もしくはピラノース構造を糖骨格として有する場合、前記一般式(I)〜(III)中、m+n≧4であり、p+q≧4でありrは3以上という条件を満たすことができる。
また、フラノース構造もしくはピラノース構造を糖骨格として有する場合、m+nおよびp+qはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しく、r+tは前記G'が残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいという条件も満たすことができる。
なお、前記m+n、p+qおよびr+tの上限値は、前記GまたはG'の種類によって定まる値を採用することができ、GまたはG'が単糖残基であれば5、二糖残基であれば8となる。
【0019】
前記一般式(I)〜(III)で表される前記糖エステル化合物は、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する前記GまたはG'が単糖残基である化合物(A)中の、又は、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個結合した前記GまたはG'が二糖残基である化合物(B)中の、OH基の全て又は一部をエステル化したエステル化化合物であるのが好ましい。
但し、前記一般式(I)および(II)中、m>pおよびn<qを満たすことを本発明で用いられる糖エステル化合物混合体は特徴としており、すなわち、少なくとも前記一般式(I)で表される糖エステル化合物はOH基の全てがエステル化されることはない。このようにエステル置換度が異なる複数の芳香族糖エステル化合物を用いることで、製造工程における揮散性が低くなり、かつ、製膜後にセルロースエステルフィルムからブリードアウトしにくくなる。
【0020】
化合物(A)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノースが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
化合物(B)の例としては、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストースが挙げられる。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられが、これらに限定されるものではない。
これらの化合物(A)及び化合物(B)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造の双方を有する化合物が好ましい。例としては、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フクラトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。また、化合物(B)において、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個結合した化合物であることも、好ましい態様の1つである。
【0021】
化合物(A)及び化合物(B)中のOH基の全てもしくは一部をエステル化するのに用いられる置換基としては、特に制限はない。その中でも、モノカルボン酸を用いることが好ましい。すなわち、前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記R1、および前記一般式(III)中の前記R2が、それぞれ独立にアシル基を表すことが好ましい。
前記モノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種類以上の混合であってもよい。前記R1または前記R2が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
一方、前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記L、および前記一般式(III)中の前記L'が、それぞれ独立に単結合、−O−、−CO−、−NR11−(R11は1価の置換基を表す)のいずれか一つを表すことが好ましく、また、前記L1または前記L'が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。その中でも、前記L1または前記L'が−O−を表すことが、前記R1およびR2としてアシル基で容易に置換できる観点から好ましい。
【0023】
(一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物の混合体)
次に、前記一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物の好ましい態様について説明する。
前記一般式(I)および(II)中、前記R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。その中でも、前記R1はそれぞれ独立に芳香族基のみを表すことが好ましく、全て同一の芳香族基を表すことがより好ましい。
【0024】
前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満であることを特徴とする。このように2種以上の芳香族糖エステル化合物の混合体の平均エステル置換度が94%未満であることで、得られるセルロースエステルフィルムのヘイズを顕著に小さくすることができ、光学フィルムとして偏光板や液晶表示装置に良好に用いることができる。
前記前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度は、62%以上94%未満であることが、偏光板に組み込んだときの湿熱環境下での直交透過率の経時変化を小さくできる観点から好ましい。
【0025】
さらに、前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記Gがスクロース骨格であり、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が5〜7.5であることが、偏光板に組み込んだときの湿熱環境下での直交透過率の経時変化を小さくできる観点からより好ましく、5.5〜7.0であることが特に好ましい。
【0026】
また、前記一般式(I)および(II)中において、mは0以上の整数を表し、n、pおよびqはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、m>pであり、n<qである。
本発明では、前記Gが二糖残基の場合、前記一般式(II)中のqが8である芳香族糖エステルの添加量が、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物および前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の合計添加量に対して、20質量%未満であることが、得られるセルロースエステルフィルムのヘイズを顕著に小さくする観点から好ましい。前記Gが二糖残基の場合、ヒドロキシル基を置換基として一つも有していない芳香族糖エステル化合物の含有量が、全芳香族糖エステルの含有量に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、5質量%以下であることがより特に好ましい。
【0027】
一方、本発明では、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物は、前記Gが二糖残基の場合、nが3以上であることが好ましく、5以上であることも好ましい。すなわち、本発明では、少なくとも前記芳香族糖エステル化合物混合体に含まれる芳香族糖エステル化合物は、少なくとも3置換体以上であることが好ましく、少なくとも5置換体以上であることも好ましい。
【0028】
前記芳香族糖エステル化合物が2糖類である場合、エステル化された置換基が3〜5個の3〜5置換体の含有率が芳香族糖エステル化合物全体に対して10〜70%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。6〜7置換体の含有量が芳香族糖エステル化合物全体に対して20〜85%であることが好ましく、20〜75%であることがより好ましい。
【0029】
1によって置換されるときに用いられる好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環に、アルキル基又はアルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸;ケイ皮酸;ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸;及びこれらの誘導体;を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。すなわち、前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記R1が、ベンゾイル基を表すことが好ましい。
【0030】
複数の前記エステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物を混合する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。また、複数の前記エステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物の混合のタイミングは、例えば溶液製膜法を採用する場合、セルロースエステルドープに添加する前であってもよく、セルロースエステルドープに複数の糖エステル化合物を個別に添加した後でもよい。
【0031】
(脂肪族糖エステル化合物の好ましい態様)
次に、前記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物の好ましい態様について説明する。前記一般式(III)中、前記R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。
【0032】
2によって置換されるときに用いられる好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸;等を挙げることができる。
【0033】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0034】
前記R2は、それぞれ独立に非環式脂肪族基を表すことが好ましく、全てのR2が非環式脂肪族基を表すことが好ましい。
前記R2は、2種以上の脂肪族基を表すことが好ましい。
脂肪族モノカルボン酸の中でも、前記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物は、少なくとも酢酸で置換されていることが好ましい。すなわち、前記一般式(III)中の前記R2の少なくとも1つがアセチル基を表すことが好ましい。
一方、前記R2のうち少なくとも1種が、分岐状の脂肪族基を表すことがより好ましく、前記R2が2種以上の脂肪族基を表す場合において1種のみが分岐状の脂肪族基を表すことが特に好ましい。その中でも、前記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物は、酢酸の他にイソ酪酸でも置換されていることが好ましい。すなわち、前記一般式(III)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基を含むことが好ましく、アセチル基とイソブチリル基のみを含むことが光学性能経時変化の観点から好ましい。
【0035】
前記一般式(III)中の前記G'は二糖残基を表すことが、得られるセルロースエステルフィルムの面状故障を改善し、かつ、偏光板耐久性を改善する観点から好ましい。
【0036】
前記一般式(III)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基のみからなる場合、例えば前記G'が二糖残基のとき、その割合はアセチル基/イソブチリル基=1/7〜4/4であることが好ましく、1/7〜3/5であることがより好ましく、2/6であることが特に好ましい。
【0037】
これら脂肪族モノカルボン酸で置換された脂肪族糖エステル化合物の製造方法は、例えば、特開平8−245678号公報に記載されている。
【0038】
前記エステル化化合物の製造例の一例は、以下の通りである。
グルコース(29.8g、166mmol)にピリジン(100ml)を加えた溶液に無水酢酸(200ml)を滴下し、24時間反応させた。その後、エバポレートで溶液を濃縮し氷水へ投入した。1時間放置した後、ガラスフィルターにてろ過し、固体と水を分離し、ガラスフィルター上の固体をクロロホルムに溶かし、これが中性になるまで冷水で分液した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムにより乾燥した。無水硫酸ナトリウムをろ過により除去した後、クロロホルムをエバポレートにより除き、更に減圧乾燥することによりグリコースペンタアセテート(58.8g、150mmol、90.9%)を得た。尚、上記無水酢酸の替わりに、上述のモノカルボン酸を使用することができる。
【0039】
以下に、本発明に用いることができる一般式(I)〜(III)で表される糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、下記の具体例には各糖エステル化合物のエステル置換度を記載していないが、本発明の趣旨に反しない限りにおいて任意のエステル置換度の糖エステル化合物を用いて、糖エステル化合物混合体とすることができる。特に、一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物は、本発明の要件を満たす任意の組み合わせを選択して用いることができる。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0046】
【化6】

【0047】
【表1】

【0048】
【化7】

【0049】
【表2】

【0050】
【化8】

【0051】
【表3】

【0052】
(芳香族糖エステル化合物と脂肪族糖エステル化合物の混合)
以上の条件を満たすエステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物を複数種と、前記脂肪族糖エステル化合物とを混合してセルロースエステルフィルムに添加することで、エステル置換度が異なる芳香族糖エステル化合物のみの混合体と比較して、湿熱環境下でのフィルムの光学性能耐久性と偏光板耐久性をさらに改善することができる。なお、いわゆるTPP/BDPなどの公知のリン酸エステル系可塑剤に対しても当然フィルムの光学性能耐久性と偏光板耐久性を改善することができる。また、ハードコート層と積層した場合には密着性に優れ、鉛筆硬度も良好なフィルムを得ることもできる。
【0053】
本発明のセルロースエステルフィルムは、前記一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物を合計で、セルロースエステルに対して1〜30質量%含むことが好ましく、5〜20質量%含むことがより好ましく、5〜15質量%含むことが特に好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムは、前記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を、セルロースエステルに対して1〜30質量%含むことが好ましく、1〜10質量%含むことがより好ましく、1〜5質量%含むことが特に好ましい。
前記一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、前記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物の混合割合としては特に制限はない。その中でも、芳香族糖エステル化合物の添加量/脂肪族エステル化合物の添加量(質量比)が1を超えることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、3〜5であることが特に好ましい。
【0054】
本発明のセルロースエステルフィルムは、前記一般式(I)〜(III)で表される糖エステル化合物を合計で、セルロースエステルに対して1〜30質量%含むことが好ましく、5〜30質量%含むことがより好ましく、5〜20質量%含有することが特に好ましく、5〜15質量%含有することがより特に好ましい。この範囲内であれば、ブリードアウトなどもなく好ましい。
【0055】
また、後述する重縮合エステル可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、重縮合エステル可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
また、後述する少なくとも2つの芳香環を有する化合物を前記糖エステル化合物と併用する場合は、少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
【0056】
また、複数の前記芳香族糖エステル化合物と前記脂肪族糖エステル化合物の混合のタイミングは、例えば溶液製膜法を採用する場合、セルロースエステルドープに添加する前であってもよく、セルロースエステルドープに複数の糖エステル化合物を個別に添加した後でもよい。
【0057】
<重縮合エステル>
本発明のフィルムは、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、重縮合エステル(以下、オリゴマー可塑剤とも言う)を含んでいてもよい。
前記重縮合エステルは、少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(芳香環を有するジカルボン酸)と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸と、少なくとも一種の脂肪族ジオールと、少なくとも一種のモノカルボン酸とを含む混合物を原料として得ることができる。
オリゴマー可塑剤の好ましい例には、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合エステル及びその誘導体、並びにメチルアクリレート(MA)のオリゴマー及びその誘導体(以下、「MAオリゴマー可塑剤」という場合がある)が含まれる。
【0058】
前記重縮合エステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合エステルである。ジカルボン酸成分は、1種のジカルボン酸のみからなっていても、又は2種以上のジカルボン酸の混合物であってもよい。中でも、ジカルボン酸成分として、少なくとも1種の芳香族性ジカルボン酸及び少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分を用いるのが好ましい。一方、ジオール成分についても1種のジオール成分おみからなっていても、又は2種以上のジオールの混合物であってもよい。中でも、ジオール成分として、エチレングリコール及び/又は平均炭素原子数が2.0より大きく3.0以下の脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。
【0059】
前記重縮合エステルとしては、特開2010−079241号公報の[0029]〜[0045]に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0060】
<少なくとも2つの芳香環を有する化合物>
本発明のセルロースエステルフィルムは、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、さらに、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有していてもよい。
以下に少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物について説明する。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300ないし1200であることが好ましく、400ないし1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性とくにReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、さらにフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば上記の2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0061】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物または棒状化合物である。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0062】
<セルロースエステル>
本発明のセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。
【0063】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースエステルが最も好ましい。
【0064】
本発明に用いられるセルロースエステル原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースエステルでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースエステルフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0065】
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースエステルについて記載する。
本発明に用いられるセルロースエステルはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明においてセルロースエステルにおける、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0066】
上記のように、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基へのアシル置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。
【0067】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。最も好ましい基はアセチルである。
【0068】
上記のセルロースの水酸基に置換するアシル置換基のうちで、実質的にアセチル基/プロピオニル基/ブタノイル基の少なくとも2種類からなる場合においては、その全置換度が2.50〜2.95であることが好ましく、より好ましいアシル置換度は2.60〜2.95であり、さらに好ましくは2.65〜2.95である。
上記のセルロースエステルのアシル置換基が、アセチル基のみからなる場合においては、その全置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。さらには置換度が2.40〜2.95であることが好ましく、2.85〜2.95であることがより好ましい。
【0069】
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースエステルのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0070】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0071】
<セルロースエステルフィルムの製造方法>
本発明のセルロースエステルフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上記した好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0072】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0073】
0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースエステル溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースエステルの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースエステルの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースエステルと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。
加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0074】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0075】
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフィルムを製造する。ドープには前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
【0076】
本発明では、ドープ(セルロースエステル溶液)をバンド上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行う。また、ドラム上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行うことが好ましい。
本発明において、「剥ぎ取り前乾燥」とはバンドもしくはドラム上にドープが塗布されてからフィルムとして剥ぎ取られるまでの乾燥を指すものとする。また、「前半」とはドープ塗布から剥ぎ取りまでに要する全時間の半分より前の工程を指すものとする。「実質的に無風」であるとは、バンド表面もしくはドラム表面から200mm以内の距離において0.5m/s以上の風速が検出されない(風速が0.5m/s未満である)ことである。
剥ぎ取り前乾燥の前半は、バンド上の場合通常30〜300秒程度の時間であるが、その内の10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、無風で乾燥する。ドラム上の場合は通常5〜30秒程度の時間であるが、その内の1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、無風で乾燥する。雰囲気温度は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。無風で乾燥する操作は剥ぎ取り前乾燥の前半の任意の段階で行うことができるが、好ましくは流延直後から行うことが好ましい。無風で乾燥する時間が、バンド上の場合に10秒未満(ドラム上の場合に1秒未満)であると、添加剤がフィルム内に均一に分布することが難しく、90秒を超えると(ドラム上の場合10秒を超えると)乾燥不十分で剥ぎ取られることになり、フィルムの面状が悪化する。
剥ぎ取り前乾燥における無風で乾燥する以外の時間は、不活性ガスを送風することにより乾燥を行なうことができる。このときの風温は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。
【0077】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0078】
得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0079】
調整したセルロースエステル溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0080】
本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。フィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0081】
(膜厚)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜120μmがより好ましく、40μm〜100μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0082】
(添加剤)
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、効果の発現及びフィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)の抑制の観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。
特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0083】
本発明のセルロースエステルフィルムには紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては特開2006−282979号公報に記載の化合物(ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン)が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は2種以上を併用して用いることもできる。
紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾールが好ましく、具体的にはTINUVIN328、TINUVIN326、TINUVIN329、TINUVIN571、アデカスタブLA−31等が挙げられる。
紫外線吸収剤の使用量はセルロースエステルに対して質量比で10%以下が好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下0.05%以上が最も好ましい。
【0084】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースエステルフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0085】
(延伸)
本発明のセルロースエステルフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。積極的に幅方向(搬送方向に対して垂直な方向)に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、および特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む±20℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0086】
さらに、延伸ゾーン(例えばテンターゾーン)において、フィルムを噛み込み、搬送し最大拡幅率を経た後に、通常緩和させるゾーンを設ける。これは軸ずれを低減するのに必要なゾーンである。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短く、フィルムの延伸は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。幅方向の延伸は5〜100%の延伸が好ましく、特に好ましくは5〜80%延伸を行う。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸を行うことが特に好ましい。
【0087】
また本発明のセルロースエステルフィルムは、二軸延伸を行ってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸されるか、または長手方法に延伸した後、幅方向に延伸される。
【0088】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースエステルフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0089】
(セルロースエステルフィルムの表面処理)
セルロースエステルフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースエステルフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理またはアルカリ処理、すなわちセルロースエステルに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
【0090】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1〜3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0091】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。本発明のセルロースエステルフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースエステルフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0092】
<セルロースエステルフィルムの特性>
本発明のセルロースエステルフィルムは、面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板に保護フィルムとして組み込んだときに偏光板の経時性能変化が小さい。ここで、このような面状故障の少なさは、前記糖エステル化合物混合体を添加剤として用いることで、製膜時の揮散性やブリードアウトが改善んされることによって、主として達成される。また、前記糖エステル化合物混合体を添加剤として用いた場合、製膜時の乾燥条件におけるブリードアウトのみならず、製膜後に得られたセルロースエステルフィルムを湿熱環境下で経時させた場合のブリードアウトも抑制することができる。
以下、その他の好ましい特性とあわせて、本発明のセルロースエステルフィルムの特性を説明する。
【0093】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(商品名、王子計測機器社製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(21)及び式(22)よりRthを算出することもできる。
【0094】
【数1】

【0095】
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは層の厚み(nm)である。
【0096】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0097】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出することができる。
【0098】
本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板の保護フィルムとして用いられ、特に、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、セルロースエステルフィルムの好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
【0099】
VAモード用としては590nmで測定したReは20〜150nmのものが好ましく、50〜130nmのものがより好ましく、70〜120nmのものがさらに好ましい。Rthは100〜300nmのものが好ましく、120〜280nmのものがより好ましく、150〜250nmのものがさらに好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、1〜50nmのものがより好ましく、2〜20nmのものがさらに好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものがさらに好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースエステルフィルム上に光学異方性層を塗布して位相差フィルムとして使用できる。
【0100】
(光学性能経時変化)
本発明のセルロースエステルフィルムは、Rthが良好に発現するのみならず、湿熱環境下で経時させた前後におけるRthの変化量が小さいことを特徴とする。
【0101】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムのヘイズは、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらに好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。
【0102】
(セルロースエステルフィルムの構成)
本発明のセルロースエステルフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていてもよいが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースエステルフィルムを意味する。そして、複数のセルロースエステル溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースエステルフィルムを製造する場合も含む。
【0103】
この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースエステルの分子量分布やセルロースエステルの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースエステルフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0104】
(機能性層)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。ここで、後述する本発明の偏光板は、機能性層を含むことが好ましいが、本発明のフィルムが機能性層を有する態様であっても、本発明の偏光板に本発明のフィルムを組み込むときにその他の機能性フィルムを重ねあわせてもよい。
前記機能性層としては、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はないが、例えば以下の態様の機能性層を挙げることができる。その中でも、本発明のフィルムを基材フィルムとして用いた場合には、特にハードコート層を直接その上に形成することが好ましく、ハードコート層は塗布により設置されることが好ましい。
基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/導電性層/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/高屈折率層(導電性層)/低屈折率層
基材フィルム/ハードコート層/防眩性層/低屈折率層
【0105】
本発明のセルロースエステルフィルムは、ハードコート層を塗布するときに塗布ムラが少ないことが好ましい。
前記ハードコート層を形成するときのハードコート層用塗布液に用いられる光集合性多官能モノマーとしてアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類、ポリオキシアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類、多価アルコールの(メタ)アクリル酸ジエステル類、エチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリル酸ジエステル類などがあり、エポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類などがあるが、これらに限定されず単一で使用してもいくつかを併用しても構わない。
【0106】
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001−139663号等)、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
塗布溶剤としては各成分を溶解または分散可能であること、塗布工程、乾燥工程において均一な面状となり易いこと、液保存性が確保できること、適度な飽和蒸気圧を有すること、等の観点で選ばれる各種の溶剤が使用できる。
溶媒は2種類以上のものを混合して用いることができる。特に、乾燥負荷の観点から、常圧室温における沸点が100℃以下の溶剤を主成分とし、乾燥速度の調整のために沸点が100℃以上の溶剤を少量含有することが好ましい。また、溶解度パラメータの微調整のために溶剤の混合を行ってもよい。
【0108】
沸点が100℃以下の溶剤としては、例えば、ヘキサン(沸点68.7℃)、ヘプタン(98.4℃)、シクロヘキサン(80.7℃)、ベンゼン(80.1℃)などの炭化水素類、ジクロロメタン(39.8℃)、クロロホルム(61.2℃)、四塩化炭素(76.8℃)、1,2−ジクロロエタン(83.5℃)、トリクロロエチレン(87.2℃)などのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル(34.6℃)、ジイソプロピルエーテル(68.5℃)、ジプロピルエーテル(90.5℃)、テトラヒドロフラン(66℃)などのエーテル類、ギ酸エチル(54.2℃)、酢酸メチル(57.8℃)、酢酸エチル(77.1℃)、酢酸イソプロピル(89℃)などのエステル類、アセトン(56.1℃)、2−ブタノン(メチルエチルケトンと同じ、79.6℃)などのケトン類、メタノール(64.5℃)、エタノール(78.3℃)、2−プロパノール(82.4℃)、1−プロパノール(97.2℃)などのアルコール類、アセトニトリル(81.6℃)、プロピオニトリル(97.4℃)などのシアノ化合物類、二硫化炭素(46.2℃)などがあり、沸点が100℃以上の溶剤としては、例えば、オクタン(125.7℃)、トルエン(110.6℃)、キシレン(138℃)、テトラクロロエチレン(121.2℃)、クロロベンゼン(131.7℃)、ジオキサン(101.3℃)、ジブチルエーテル(142.4℃)、酢酸イソブチル(118℃)、シクロヘキサノン(155.7℃)、2−メチル−4−ペンタノン(MIBKと同じ、115.9℃)、1−ブタノール(117.7℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(166℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)などがあるが、これらの溶剤に限定されない。
【0109】
(位相差フィルム)
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースエステルフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0110】
また、本発明のセルロースエステルフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースエステルフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0111】
また、場合により、本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースエステルフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースエステルフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0112】
[偏光板]
本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明フィルム)からなり、本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースエステルフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のセルロースエステルフィルムを構成するセルロースエステルがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0113】
また、前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光子を用いる場合、接着剤を用いて偏光子の両面に本発明の透明セルロースエステルフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースエステルフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0114】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースエステルフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置における偏光子と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光子を挟んで本発明のセルロースエステルフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0115】
[液晶表示装置]
本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0116】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0117】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0118】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0119】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0120】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているのが特徴である。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID
98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0121】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースエステルフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明セルロースエステルフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0123】
[実施例1:セルロースエステルフィルム101の作製]
(セルロースエステル溶液A−1の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースエステル溶液A−1を調製した。アセチル置換度はASTM D−817−91に準じて測定した。粘度平均重合度は宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定した。
【0124】
セルロースエステル溶液A−1の組成
・セルロースエステル(アセチル置換度2.86、粘度平均重合度310)
100質量部
・一般式(I)、(II)の糖エステル化合物 表4に記載の添加量
・一般式(III)の糖エステル化合物 表4に記載の添加量
・メチレンクロライド 384質量部
・メタノール 69質量部
・ブタノール 9質量部
【0125】
(マット剤分散液B−1の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤分散液B−1を調製した。
【0126】
マット剤分散液B−1の組成
・シリカ粒子分散液(平均粒径16nm)
"AEROSIL R972"、日本アエロジル(株)製
10.0質量部
・メチレンクロライド 72.8質量部
・メタノール 3.9質量部
・ブタノール 0.5質量部
・セルロースエステル溶液A−1 10.3質量部
(紫外線吸収剤溶液C−1の調製)
下記の組成物を別のミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、紫外線吸収剤溶液C−1を調製した。
【0127】
紫外線吸収剤溶液C−1の組成
・紫外線吸収剤(下記UV−1) 10.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−2) 10.0質量部
・メチレンクロライド 55.7質量部
・メタノール 10質量部
・ブタノール 1.3質量部
・セルロースエステル溶液A−1 12.9質量部
【化9】

【0128】
(セルロースエステルフィルム(101)の作製)
セルロースエステル溶液A−1に、マット剤分散液B−1を、セルロースエステル100質量部当たり、一般式(I)〜(III)の糖エステル化合物が表4に記載の添加量になるように、さらに紫外線吸収剤(UV−1)及び紫外線吸収剤(UV−2)がそれぞれ1.0質量部となるように紫外線吸収剤溶液C−1を加え、加熱しながら充分に攪拌して各成分を溶解し、ドープを調製した。得られたドープを30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は1470mmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースエステルフィルムをドラムから剥ぎ取った後、両端をピンテンターでクリップした。剥ぎ取り直後のセルロースエステルウェブの残留溶媒量は70%およびセルロースエステルウェブの膜面温度は5℃であった。
【0129】
ピンテンターで保持されたセルロースエステルウェブは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥した。
【0130】
出来上がったセルロースエステルフィルムの膜厚は60μmであった。このフィルム試料101を、実施例1のセルロースエステルフィルムとした。
【0131】
[実施例2〜9、比較例1〜6]
(セルロースエステルフィルム102〜115の作製)
セルロースエステルフィルム101の作製において用いた一般式(I)〜(III)の糖エステル化合物の代わりに、表3に示す糖エステル化合物または比較化合物を使用してドープを調製し、セルロースエステルフィルム102〜115を作製した。
【0132】
[測定法]
(スクロースベンゾエートの平均置換度の測定法)
一般式(I)および(II)で表される芳香族糖エステル化合物の置換体の分布と平均置換度を、以下のHPLC条件下での測定により保持時間が31.5min付近にあるピークを8置換体、27〜29min付近にあるピーク群を7置換体、22〜25min付近にあるピーク群を6置換体、15〜20min付近にあるピーク群を5置換体、8.5〜13min付近にあるピーク群を4置換体、3〜6min付近にあるピーク群を3置換体としてそれぞれの面積比を合計した値に対する平均置換度を算出した。その結果を下記表4に記載した。
《HPLC測定条件》
カラム:TSK−gel ODS−100Z(東ソー)、4.6×150mm、ロット番号(P0014)
溶離液A:H2O=100、
溶離液B:AR=100。A,BともにAcOH、NEt3各0.1%入り
流量:1ml/min、
カラム温度:40℃、
波長:254nm、
感度:AUX2、
注入量:10μl、
リンス液:THF/ H2O=9/1(vol比)
サンプル濃度:5mg/10ml(THF)
【0133】
[評価]
(面状故障)
セルロースエステルフィルムをロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを裁断し、偏光顕微鏡を用いてクロスニコル下、倍率30倍で観察し、異物発生箇所の個数で下記の評価を行った。異物は添加剤に由来するブリードアウト成分、表面の汚れ、あるいはフィルム内部または表面の析出物であり、偏光顕微鏡下で輝点として観察される。
○:異物の個数0〜9個
△:異物の個数10〜50個
×:異物の個数51個以上
得られた結果を下記表4に記載した。
【0134】
(光学性能経時変化)
セルロースエステルフィルムを、自動複屈折率計(KOBRA−WR、王子計測機器(株)製)により25℃で、相対湿度60%における波長590nmにおけるRthを測定した。さらに63℃、相対湿度90%の条件下に20日間保存した後、同じ測定条件でRthを測定した。高温高湿条件下での保存前後のRthの差を、光学性能経時変化として下記表4に記載した。
【0135】
(偏光板経時変化)
1)フィルムの鹸化
得られたフィルムを、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0136】
2)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて厚み20μmの偏光子を作製した。
【0137】
3)貼り合わせ
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の両側に作製したセルロースエステルフィルム101を貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。得られた偏光板を偏光板101とした。同様にしてセルロースエステルフィルム102〜125を用いて、偏光板102〜125を作製した。
【0138】
4)偏光板の評価
偏光板の一方のフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせたサンプルを二組作製し、これをクロスニコルに配置して透過率を測定した(初期透過率、25℃、相対湿度60%にて測定)。さらに上記サンプルを63℃相対湿度90%の条件で1000時間放置し、その後さらに、25℃、相対湿度60%で5時間以上放置した後、再度クロスニコルに配置して透過率を測定した(経時透過率)。初期透過率と経時透過率の波長400nm〜500nmの範囲での最大変化幅に100を乗じた値を偏光板経時変化とした。透過率測定には分光光度計"U−3210"{(株)日立製作所}を用いた。
得られた結果を偏光板経時変化として、下記表4に記載した。
【0139】
(ヘイズ)
ヘイズの測定は、フィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。ヘイズが1.0%以上のものについてはヘイズ増大と評価することとし、ヘイズ増大したものについて、その旨を下記表4に示した。
【0140】
(ブリードアウト)
ブリードアウトは、ドープ流延、乾燥後に温度60℃湿度90%、温度80%湿度10%の湿熱条件下で1000h経時させたときに添加剤の析出が発生するかどうかを評価した。ブリードアウトしたものについて、その旨を表4に記載した。
【0141】
【表4】

*1)括弧内はセルロースアシレート100質量部に対する添加量(質量部)を表す。
【0142】
表4より、本発明の範囲を満たす芳香族糖エステルと脂肪族糖エステルを混合したものを含有するセルロースエステルフィルムは面状故障が少なく、光学性能経時変化も小さく、また偏光板の経時性能変化も小さく保護フィルムとして優れていることがわかった。なお、実施例7より、一般式(I)、(II)の化合物として芳香族糖エステルであるスクロースベンゾエートの平均置換度4.0の置換体を用いた場合は、偏光板経時変化が大きくなる傾向にあった。また、実施例9より、一般式(III)の化合物である脂肪族糖エステルとして、糖構造が単糖骨格(ピラノース骨格)であるグルコース残基の化合物を用いた場合は、偏光板経時変化が大きくなる傾向にあった。
一方、比較例1および2より、一般式(I)、(II)の化合物として芳香族糖エステルであるスクロースベンゾエートの平均置換度7.5以上の置換体、または8置換のみを用いた場合は、それぞれヘイズ増大、ブリードアウト発生の問題が起こることが分かった。
比較例3〜5より、一般式(I)、(II)の化合物である芳香族糖エステルのみを単独で用い、一般式(III)の化合物である脂肪族糖エステルを用いなかった場合は、光学性能経時変化が大きくなることがわかった。
比較例6より、一般式(III)の化合物である脂肪族糖エステルのみを単独で用い、一般式(I)、(II)の化合物である芳香族糖エステルを用いなかった場合は、光学性能経時変化が大きくなることがわかった。
比較例7より、一般式(I)〜(III)の糖エステル以外の比較化合物を用いた場合は、添加剤の揮散性に起因する面状故障が生じてしまうことがわかった。
【0143】
[実施例9]
実施例1の試料103において、セルロースエステルをアセチル置換度2.94の材料に置き換えた以外は同様にして、試料401を作製した。試料401は試料103と同様に良好な結果を得た。
【0144】
[実施例101〜103]
(ハードコート層塗工膜の塗設)
実施例1、2、8で得られた試料101、102、109にハードコート層塗布を以下の態様で行った。なお、下記ハードコート1〜4の内、試料101にはハードコート1を、試料102にはハードコート4を、試料109にはハードコート3を用いた。
【0145】
ハードコート1〜4は下記の表3に示す組成物であり、UV開始剤1は下表に示す構造である。
【表5】

【0146】
ハードコート1〜3に使用している光重合性モノマーは日本化薬(株)のPET30であり、ハードコート4に使用しているモノマーは日本化薬(株)のKAYARAD DPHAである。
【0147】
【化10】

【0148】
UV開始剤1はチバジャパン(株)のIRGACURE127を使用した。
ハードコートの塗布条件は番手8のバーコーターによる手塗布後、100℃で60秒乾燥し窒素0.1%以下の条件でUVを1.5kW 300mJにて照射し硬化させた。
【0149】
(密着性評価)
光照射後の密着性評価を、下記の方法で行った。
JIS K 5600に準処した碁盤目試験を行った。具体的にはハードコート塗布&UV硬化後のサンプル表面上に1mm間隔で縦横に11本の切れ込みを入れて1mm角の碁盤目を100個作った。この上にセロハンテープおよびマイラーテープを貼り付け、素早く剥がし剥がれた箇所を目視観察により密着評価した。サンプルは密着評価前に温度25℃湿度60%の部屋で2時間以上調湿した後に評価した。
【0150】
切れ込みを入れる前にXeを24時間照射後に密着評価した結果が表1中の耐光24h密着結果であり、Xeを48時間照射後に密着評価した結果が耐光48h密着結果である。Xe照射行わずに密着評価した結果が初期密着評価である。
密着性 ○:剥がれ箇所0〜10マス
密着性 △:剥がれ箇所11〜49マス
密着性 ×:剥がれ箇所50マス〜99マス
密着性 ××:剥がれ箇所100マス以上(テープを貼った部分全部)
Xeの照射にはスガ試験機株式会社製のスーパーキセノンウェザーメーターSX75を用いた。
その結果、全てXe24時間で○評価となることがわかった。
【0151】
(鉛筆硬度評価)
鉛筆硬度評価を、下記の方法で行った。
ハードコート塗布&UV硬化後のサンプルを25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS S 6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS K 5400が規定する鉛筆硬度評価法に従い、500gのおもりを用いて各硬度の鉛筆で引っ掻きを5回繰り返し、4回以上傷が無いまでの硬度をOKと測定した。尚、JIS K 5400で定義される傷は塗膜の破れ、塗膜のすり傷であり、塗膜のへこみは対象としないと記載されているが、ここでは、塗膜のへこみも含めて傷と判断している。数字が大きいほど、高硬度を示す。
その結果、いずれも良好(全て3HでOK評価)となることがわかった。
【0152】
〔実施例301:IPSモード液晶表示装置への実装実験〕
セルロースエステルフィルム101と市販のセルロースエステルフィルム(Z−タック、富士フイルム(株)製)に実施例1と同様に鹸化処理を行った。さらにポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例1で作製した偏光子を2つのフィルムで挟み込み、70℃で10分以上乾燥した。
偏光子の透過軸と上記のように作製したセルロースエステルフィルムの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0153】
(液晶セル)
液晶セルや電極・基板は、IPSとして従来から用いられているものがそのまま使用できる。液晶セルの配向は水平配向であり、IPS液晶用に開発され市販されているものを用いることができる。液晶セルの物性は、液晶のΔn:0.099、液晶層のセルギャップ:3.0μm、プレチルト角:5゜、ラビング方向:基板上下とも75゜とした。
【0154】
(IPSパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)に上記セルロースエステルフィルム101を備えた偏光板を、該セルロースエステルフィルムであるZ−タックが液晶セル側となるように設置した。上側偏光板および下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)を測定した。
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のフィルムを用いた液晶パネルは正面方向および視野角方向のいずれにおいても、のニュートラルな黒表示が実現できていた。
【0155】
〔実施例302〕
実施例1の試料101において、膜厚を40μmとした以外は同様にして、試料501を作製した。これを用いて実施例301と同様に偏光板を作製し、IPSモード液晶表示への実装実験を行った。この偏光板を実装したIPS液晶パネルは正面方向にニュートラルな黒表示が得られ、良好なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルと、
下記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と、
下記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物と、
下記一般式(III)で表される脂肪族糖エステル化合物を含有し、
前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が94%未満であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
(I) (HO)m−G−(L−R1)n
(II) (HO)p−G−(L−R1)q
(III) (HO)t−G'−(L'−R2)r
(一般式(I)〜(III)中、GおよびG'はそれぞれ独立に単糖残基または二糖残基を表す。R1はそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基を表し、少なくとも1つは芳香族基を表す。R2はそれぞれ独立に脂肪族基を表す。LおよびL'はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。mは0以上の整数を表し、n、pおよびqはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、rは3以上の整数を表し、tは0以上の整数を表す。但し、m+n≧4であり、p+q≧4であり、m>pであり、n<qである。また、m+nおよびp+qはそれぞれ前記Gが残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しく、r+tは前記G'が残基ではなく同じ骨格の環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。)
【請求項2】
前記一般式(III)中の前記R2が2種以上の脂肪族基を表すことを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
前記一般式(III)中の前記G'が二糖残基を表すことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記Gがスクロース骨格であり、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物と前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の平均エステル置換度が5〜7.5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
前記一般式(II)中のqが8である芳香族糖エステル8置換スクロースの添加量が、前記一般式(I)で表される芳香族糖エステル化合物および前記一般式(II)で表される芳香族糖エステル化合物の合計添加量総量のに対して、20質量%未満であることを特徴とする請求項4に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記L、および前記一般式(III)中の前記L'が、それぞれ独立に単結合、−O−、−CO−、−NR11−(R11は1価の置換基を表す)のいずれか一つを表すことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
前記一般式(I)並びに前記一般式(II)中の前記R1、および前記一般式(III)中の前記R2が、それぞれ独立にアシル基を表すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
前記一般式(I)および前記一般式(II)中の前記R1が、ベンゾイル基を表すことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項9】
前記一般式(III)中の前記R2がそれぞれ独立に非環式脂肪族を表すことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
前記一般式(III)中の前記R2のうち少なくとも1種が、分岐状の脂肪族基を表すことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項11】
前記一般式(III)中の前記R2がアセチル基とイソブチリル基のみを含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
偏光子と、該偏光子の両側に配置された保護フィルムを有し、
該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜11のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項13】
液晶セル及び該液晶セルの両側に配置された偏光板を有し、
該偏光板のうち少なくとも1枚が請求項12に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2012−31313(P2012−31313A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172966(P2010−172966)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】