説明

セルロースエステル樹脂用改質剤、及びそれを含有してなるセルロースエステルフィルム

【課題】本発明は、セルロースエステル樹脂からなるフィルムに優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ製造工程で揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、両末端に芳香族基を有するジエステル化合物と、両末端及び分子鎖中に芳香族環式構造を有するポリエステル化合物との混合物からなるセルロースエステル樹脂用改質剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板用保護フィルム等のフィルムを製造する際に使用可能なセルロースエステル樹脂用改質剤、及びそれを含有したセルロースエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像や文字を鮮明に表示できる液晶表示装置を備えたノートパソコンやテレビ等の情報機器が、次々と市場に供給されている。これら情報機器に対する消費者の要望としては、高機能付与の他に、薄型化・軽量化などがある。なかでも薄型化は、省スペース化等を図るうえで重要であり、消費者からも強く要望されている。
【0003】
情報機器の薄型化を実現するうえで解決すべき1つの課題は、前記情報機器に備えられている液晶表示装置の薄型化を実現することである。前記液晶表示装置は、概略として、2枚のガラス基板の間に電極からなる層と液晶物質からなる層とを有する積層構造体である。前記ガラス基板のうち、液晶層とは反対側の面には偏光板が貼付されており、該偏光板としては、通常、ポリビニルアルコール(PVA)からなる偏光子の両面に保護フィルムを貼付したものが使用されている。前記偏光板保護フィルムとしては、一般的に透明度が高く、適度な強度であり、かつPVAとの接着性に優れたセルロースエステルフィルムが、従来使用されている。
【0004】
しかし、前記セルロースエステルフィルムでは、湿気(水)の浸入を十分に防止することができず、その結果、偏光子の劣化や偏光子と前記フィルムとの剥離を引き起こす場合があった。そのため、偏光板保護フィルムとしては、従来、セルロースエステル樹脂に、トリフェニルホスフェート等の可塑剤を添加したフィルムが、良好な耐透湿性を有するものとして使用されていた。
【0005】
また、前記偏光板保護フィルムとしては、液晶表示装置の構造等により異なるものの、通常、膜厚約80μm程度のものが使用されることが多い。近年は、液晶表示装置の薄型化が進行するのに伴って、保護フィルムの更なる薄膜化、目安として約30〜50μmの膜厚のフィルムの検討が進められている。
【0006】
このような検討が進められる中で、前記可塑剤と前記セルロースエステル樹脂とを含有する従来の偏光板保護フィルムは、その膜厚を要求レベルにまで薄くした場合に、耐透湿性の著しい低下を引き起こすという問題を有していた。
【0007】
また、前記可塑剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性が十分でないため、熱の影響により前記可塑剤がフィルム表面からにじみ出る(ブリードする)場合があった。より具体的には、前記フィルムを液晶表示装置の偏光板保護フィルムに使用した場合、液晶表示装置が有するバックライトの熱等の影響によって前記可塑剤が前記フィルムの表面からブリードし、映像等を鮮明に表示することができなくなるという問題を有していた。
【0008】
また、前記偏光板保護フィルムには、鮮明な映像等の表示を阻害しないレベルの、優れた表面平滑性が求められていることから、前記可塑剤を含むセルロースエステル樹脂の有機溶剤溶液をフィルム状に流延し、次いで加熱乾燥させる、いわゆる溶液流延法で製造される場合が多い。しかし、前記可塑剤は比較的低分子量であるため、前記加熱乾燥工程で揮発しやすく、揮発した前記可塑剤がフィルム製造装置を構成するウェブやロールなどに付着し装置を汚染する場合があった。
【0009】
前記可塑剤のブリード及び揮発のしやすさは、セルロースエステル樹脂が前記偏光板保護フィルム以外の用途、例えば玩具や食器具などに使用される場面において、従来から問題視されていた。かかる問題を解決しうる可塑剤としては、糖アルコールのアセチル化物を主成分とする可塑剤やフタル酸系ポリエステルが知られている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照。)。
【0010】
しかし、前記糖アルコールのアセチル化物とセルロースエステル樹脂とを含有する樹脂組成物からなるフィルムや、フタル酸系ポリエステルとして具体的に記載されている無水フタル酸及び1,3−ブタンジオールを反応させて得られるフタル酸系ポリエステルと、セルロース誘導体樹脂とを含有してなる樹脂組成物を成形して得られたフィルムは、偏光板保護フィルムとして使用可能なレベルの耐透湿性を有しておらず、また、前記可塑剤は、高温多湿下では依然としてブリードしやすいという問題を有していた。
【0011】
また、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと安息香酸を反応させて得られるエステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムが、耐透湿性に優れることが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
しかし、前記エステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムは、その膜厚を薄く、目安として約40〜50μm程度とした場合に、十分な耐透湿性を維持することができないため、実用には今一歩及ばない。また、前記エステル化合物は、比較的低分子量の化合物であることから、保護フィルムの製造工程における加熱乾燥工程で揮発しやすく、フィルム製造装置を構成するロール等を汚す場合があった。
【0013】
ところで、液晶表示装置を備えた前記情報機器には、前記した薄型化等の他にも、用途等に応じて様々な特性が消費者等から求められている。とりわけ、液晶テレビ等には、大画面化に伴う広視野角化等が強く求められている。
【0014】
液晶表示装置の広視野角化は、以前より検討が進められており、例えば偏光板保護フィルムに、広視野角化に寄与しうる光学補償フィルムを貼り合わせる方法等が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0015】
ここで、前記光学補償フィルムとは、前記液晶表示装置を構成する液晶物質によって生じた位相差を補償するものであって、「広視野角化」を実現する上で重要な役割を果たすものである。前記位相差が補償されないと、例えば液晶画面を斜め方向から見た場合に、表示される画像等の色が、本来の色とは異なって見える場合がある。
前記光学補償フィルムとしては、一般に、前記したような機能を発現することを目的として、ある程度の光学異方性を有するものが使用される。かかる光学異方性の程度は、一般にレターデーション値によって把握することが可能である。光学補償フィルムのレターデーション値のうち、フィルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)は、一般にレターデーション上昇剤といわれるものを使用することによって調整することが可能である。しかし、前記文献4に記載されているような一般の上昇剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性が十分であるとは言いがたいため、光学補償フィルムが高温高湿度下に放置等された場合に、ブリードを引き起こす場合があった。
【0016】
なお、前記厚み方向のレターデーション(Rth)値とは、下記式(1)で定義される値である。
【0017】
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d (1)
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。
【0018】
【特許文献1】特開2000−351871号公報
【特許文献2】特開昭61−276836号公報
【特許文献3】特開2003−096236号公報
【特許文献4】特開2000−284124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、セルロースエステル樹脂からなるフィルムに優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ製造工程で揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤、及びそれを含有してなるセルロースエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために各種検討を進めた結果、特に両末端に芳香族基を有するジエステル化合物と、両末端及び分子鎖中に芳香族環式構造を有するポリエステル化合物との混合物からなるセルロースエステル樹脂用改質剤が、セルロースエステル樹脂を主成分とするフィルムに、格段に優れた耐透湿性及び高Rthを付与できることを見出した。また、前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性に優れることから、高温多湿下であってもフィルム表面からブリードせず、かつ製造工程で揮発しにくいことを見出した。
【0021】
即ち、本発明は、下記一般式(I)で示される構造を有するエステル化合物(A)、及び下記一般式(II)で示される構造を有するエステル化合物(B)を含有してなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤に関するものである。
【0022】
【化1】

(一般式(I)中のR1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を表し、G1は、2〜5個の炭素原子を有する直鎖または分岐したアルキレン基を表す。)
【0023】
【化2】

(一般式(II)中のP1及びP2は、それぞれ独立して芳香族モノカルボン酸残基を表し、G2及びG3は、それぞれ独立して2〜5個の炭素原子を有するグリコール残基を表し、T1はテレフタル酸残基またはナフタレンジカルボン酸残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【0024】
また、本発明は、前記セルロースエステル樹脂用改質剤及びセルロースエステル樹脂を含有してなるフィルム、及び偏光板用保護フィルムに関するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、フィルム製造工程で揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤を提供することができる。また、該改質剤とセルロースエステル樹脂とを用いて得られるフィルムは、各種光学フィルムに使用することが可能であり、なかでも光学補償機能を有する偏光板用保護フィルムとして使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
はじめに、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤について説明する。
【0027】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、下記一般式(I)で示される構造を有するエステル化合物(A)と、下記一般式(II)で示される構造を有するエステル化合物(B)とを含有してなる。セルロースエステル樹脂用改質剤は、前記エステル化合物(A)及びエステル化合物(B)の数平均分子量や組成等によって異なるが、通常、液体状又は固体状であり、液状のものがより好ましい。
【0028】
【化3】

(一般式(I)中のR1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を表し、G1は、2〜5個の炭素原子を有する直鎖または分岐したアルキレン基を表す。)
【0029】
【化4】

(一般式(II)中のP1及びP2は、それぞれ独立して芳香族モノカルボン酸残基を表し、G2及びG3は、それぞれ独立して2〜5個の炭素原子を有するグリコール残基を表し、T1はテレフタル酸残基またはナフタレンジカルボン酸残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【0030】
前記エステル化合物(A)は、前記一般式(I)で示されるように分子両末端に芳香族モノカルボン酸残基を有するジエステルである。エステル化合物(A)は、後述する本発明のフィルムの耐透湿性を向上させるとともに、セルロースエステル樹脂と例えばエステル化合物(B)との相溶性を向上させることができる。
【0031】
前記エステル化合物(A)としては、0.5mgKOH/g以下の酸価を有するものを使用することが好ましい。また、前記エステル化合物(A)としては、20mgKOH/g以下の水酸基価を有するものを使用することが好ましく、10mgKOH/g以下の水酸基を有するものを使用することがより好ましい。
【0032】
前記エステル化合物(A)の酸価は、エステル化合物(A)を製造する際に使用した芳香族モノカルボン酸の未反応物に由来するものであって、フィルムに優れた耐透湿性を付与し、かつ該改質剤自身の安定性を維持するうえで、セルロースエステル樹脂用改質剤中に含まれる未反応の芳香族モノカルボン酸等の含有量は、できる限り少ないことが好ましく、目安として酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、水酸基価は、エステル化合物(A)を製造する際に使用したグリコールの未反応の水酸基に由来するものである。水酸基は水との親和性が高いため、得られるフィルムの耐透湿性を維持するうえで、水酸基価は前記範囲内であることが好ましい。
【0034】
前記エステル化合物(A)は、例えばグリコールと、芳香族モノカルボン酸とをエステル化反応することによって製造することができる。
【0035】
前記グリコールは、前記一般式(I)中のG1の構造を構成するものであって、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール等を、単独で使用又は2種以上併用することができるが、なかでも1,2−プロピレングリコールを使用することが、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、かつ十分な耐透湿性を付与可能なセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。
【0036】
また、前記エステル化合物(A)の製造に使用可能な芳香族モノカルボン酸等としては、例えば安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸等や、これらのメチルエステル及び酸塩化物等を単独で使用又は2種以上併用することができる。前記エステル化合物(A)としては、前記一般式(I)中のR1及びR2が水素原子であるものを使用することが好ましいため、前記芳香族モノカルボン酸としては安息香酸を使用することが、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、かつ高温多湿下での耐ブリード性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。
【0037】
前記エステル化合物(A)は、前記グリコール及び前記芳香族モノカルボン酸を、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば180〜250℃の温度範囲内で、10〜25時間、周知慣用の方法でエステル化反応させることによって製造することができる。
【0038】
前記エステル化触媒としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫オキサイド等を使用することができる。前記エステル化触媒は、前記グリコール及び前記芳香族モノカルボン酸の全量100質量部に対して0.001〜0.1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0039】
また、前記エステル化合物(B)は、前記一般式(II)で示したように、分子両末端に芳香族モノカルボン酸残基を有し、かつ2〜5個の炭素原子を有するグリコール、及びテレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸によって構成された繰り返し単位を有するものである。
【0040】
前記一般式(II)中のP1及びP2は、それぞれ独立して芳香族モノカルボン酸残基であって、なかでも安息香酸残基であることがより好ましい。一般式(II)中のP1及びP2が前記残基であるエステル化合物を使用することによって、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、該エステル化合物とセルロースエステル樹脂との相溶性を更に向上することができる。
【0041】
また、前記一般式(II)中のG2及びG3は、それぞれ独立して1,2−プロピレングリコール残基、2−メチルプロパンジオール残基、及びネオペンチルグリコール残基からなる群より選ばれる少なくとも1種からなるグリコール残基であることが好ましい。一般式(II)中のG2及びG3が前記残基であるエステル化合物を使用することによって、該エステル化合物とセルロースエステル樹脂との相溶性、及び得られるフィルムの耐透湿性を更に向上することができる。
【0042】
また、前記一般式(II)中のnは、1以上の整数であればよいが、1〜15の範囲の整数であることが好ましい。前記エステル化合物(B)は、通常、n数の異なる複数のエステル化合物の混合物であることが多い。例えば、一般式(II)中のnが1であるエステル化合物(b1)を、エステル化合物(B)全体に対して、25〜40質量%、一般式(II)中のnが2であるエステル化合物(b2)を20〜40質量%、及び一般式(II)中のnが3以上のエステル化合物(b3)を35〜45質量%含む本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤が、本発明のフィルムにより一層優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ該フィルムの製造工程で揮発しにくいため好ましい。
【0043】
前記エステル化合物(B)は、400〜1500の範囲内の数平均分子量を有することが好ましく、400〜1300の数平均分子量を有することがより好ましく、400〜1000の数平均分子量を有することがさらに好ましい。前記範囲の数平均分子量を有するエステル化合物を含むセルロースエステル樹脂用改質剤は、優れた耐透湿性及び高Rthを付与可能で、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、かつフィルム製造工程等の高温条件下でも揮発しにくい。なお、前記数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。
【0044】
また、前記エステル化合物(B)としては、0.5mgKOH/g以下の酸価を有するものを使用することが好ましい。また、前記エステル化合物(A)としては、20mgKOH/g以下の水酸基価を有するものを使用することが好ましく、10mgKOH/g以下の水酸基を有するものを使用することがより好ましい。
【0045】
前記エステル化合物(B)の酸価は、末端にカルボキシル基を有するポリエステル、及び未反応の芳香族モノカルボン酸の有するカルボキシル基に由来するものである。これらは、エステル化合物(B)を製造した際に得られた副生成物や、原料の芳香族モノカルボン酸の未反応物であって、フィルムに優れた耐透湿性を付与し、かつ該改質剤自身の安定性を維持するうえで、セルロースエステル樹脂用改質剤中に含まれる前記末端に有するカルボキシル基を有するポリエステルや芳香族モノカルボン酸等の含有量は、できる限り少ないことが好ましく、目安として酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、前記水酸基価は、エステル化合物(B)を製造した際に得られた末端に水酸基を有するポリエステルや末端に水酸基を1個有するエステル化合物等の副生成物、及びエステル化合物(B)を製造する際に使用したグリコールの未反応物に由来するものである。水酸基は水との親和性が高いため、得られるフィルムの耐透湿性を維持するうえで、水酸基価は前記範囲内であることが好ましい。
【0047】
前記エステル化合物(B)は、例えばグリコールとテレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸とを反応して得られた分子両末端に水酸基を有するポリエステルと、芳香族モノカルボン酸とを反応することによって製造することができる。
【0048】
前記グリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等を単独で使用又は2種以上併用することができ、なかでも1,2−プロピレングリコール、2−メチル1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコールを使用することが好ましく、特に1,2−プロピレングリコールを使用することが高温多湿下における耐ブリード性に優れ、優れた耐透湿性を付与可能なセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。
【0049】
また、前記前記エステル化合物(B)の製造に使用可能なテレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸等や、これらのエステル化物、及び酸塩化物、1,8−ナフタレンジカルボン酸の酸無水物等を単独で使用又は2種以上併用することができ、なかでもテレフタル酸及びテレフタル酸ジメチルからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、かつ高温多湿下での耐ブリード性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。
【0050】
また、前記エステル化合物(B)の製造に使用可能な芳香族モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸等や、これらのメチルエステル及び酸塩化物等を単独で使用又は2種以上併用することができ、なかでも安息香酸を使用することが、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性及び高Rthを付与でき、かつ高温多湿下での耐ブリード性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得るうえで好ましい。
【0051】
前記エステル化合物(B)は、前記グリコールと、前記テレフタル酸及び/またはナフタレンジカルボン酸及び/またはそれらのエステル化物と、前記芳香族モノカルボン酸とを、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば180〜250℃の温度範囲内で、10〜25時間、周知慣用の方法でエステル化反応させることによって製造することができる。エステル化触媒としては、前記エステル化合物(A)を製造する際に使用可能なものとして例示したものと同様のものを使用することができる。
【0052】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、前記エステル化合物(A)及び前記エステル化合物(B)をそれぞれ別々に製造し、次いでそれらを混合することによって製造してもよいが、エステル化合物の原料組成及び反応条件等を適宜調整することによって、エステル化合物(A)及びエステル化合物(B)を同反応容器内で一括して製造する方法が、生産効率を向上する観点から好ましい。
【0053】
また、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、前記エステル化合物(A)を、前記エステル化合物(A)及び前記エステル化合物(B)の合計に対して5〜40質量%含むことが、得られるフィルムの耐透湿性の向上、及びセルロースエステル樹脂とエステル化合物(B)との良好な相溶性を維持する観点から好ましく、10〜35質量%含むことがより好ましく、15〜30質量%含むことが最も好ましい。
【0054】
また、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物(A)及びエステル化合物(B)の合計の分散度は1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜1.8であることがさらに好ましい。分散度が上記範囲以内であれば、セルロースエステル樹脂との相溶性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができる。なお、分散度とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値(Mw)を数平均分子量の値(Mn)で割った値である。
【0055】
次に、セルロースエステル樹脂、及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を含有するフィルムについて説明する。
【0056】
本発明のフィルムは、セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるフィルムである。
【0057】
本発明のフィルム中に含まれるセルロースエステル樹脂は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部又は全部がエステル化されたものである。なかでも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0058】
前記セルロースエステル樹脂としては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上を併用することが可能である。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを使用することが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0059】
前記セルロースアセテートとしては、平均酢化度(結合酢酸量)が54.0質量%〜62.5質量%を有するものを使用することが好ましく、平均酢化度が58.0質量%〜62.5質量%の範囲である、いわゆるセルローストリアセテートを使用することがより好ましい。前記範囲内の平均酢化度を有するセルロースアセテートを使用することによって、得られるフィルムの耐透湿性を向上させることができる。なお、平均酢化度は、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0060】
前記セルロースアセテートの数平均分子量は、70,000〜300,000のものが好ましく、80,000〜200,000のものがより好ましい。前記範囲内の数平均分子量を有するセルロースアセテートを使用することによって、得られるフィルムの機械的物性を向上させることができる。
【0061】
本発明のフィルムは、前記セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるセルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0062】
本発明のフィルムは、例えば前記セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形することによって得られる。
【0063】
また、本発明のフィルムは、前記成形方法の他に、例えば前記セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を、金属支持体上に流延し乾燥させる、いわゆる溶液流延法で成形することによって得ることができる。溶液流延法によれば、成形途中でのフィルム中における前記セルロースエステル樹脂の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、なかでも偏光板の保護フィルムに使用することができる。
【0064】
また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0065】
また、本発明のフィルムを、光学補償機能を必要とする偏光板保護フィルムに使用する場合、該フィルムには、例えばTN(Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、OCB(Optically Compensatory Bend)等の液晶表示方式に応じてある程度の異方性が求められる。所望の異方性を有するフィルムは、例えば前記溶液流延法で製造した光学等方性のフィルムを延伸等する方法や、所望の異方性を付与可能な添加剤等をフィルム中に含ませることによって製造することができる。
【0066】
前記溶液流延法は、主に前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
【0067】
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0068】
前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0069】
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50質量%〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
【0070】
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が寸法安定性を良くするために好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0071】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂の濃度としては、10〜50質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0072】
前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤に混合、溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解できるものであれば限定されないが、例えば、セルロースエステルとしてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、前記良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5の範囲であることがより好ましい。
【0073】
前記フィルム中に含まれる前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、3〜30質量部の範囲内であることが好ましく、5〜20質量部の範囲内であることがより好ましい。前記範囲の前記セルロースエステル樹脂用改質剤を使用することによって、耐透湿性、高Rth、及び高温多湿下における耐ブリード性に優れたフィルムを得ることができる。
【0074】
本発明のフィルムには、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種添加剤を使用することができる。
【0075】
前記添加剤としては、例えば本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤、紫外線吸収剤、レターデーション上昇剤、熱可塑性樹脂、マット剤等や、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などを使用することができる。これらは、前記有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を溶解、混合する際に、併せて使用することができる。
【0076】
前記セルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル等を使用することができる。
【0077】
前記紫外線吸収剤としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を使用することができる。前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して0.01〜2質量部の範囲内であることが好ましい。
【0078】
前記レターデーション上昇剤としては、例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物や1,3,5−トリアジン環を有する化合物等を使用することができる。前記レターデーション上昇剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して0.01〜20質量部、特に1〜10質量部の範囲内であることが好ましい
【0079】
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等を使用することができる。
【0080】
前記マット剤としては、例えば酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等を使用することができる。前記マット剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0081】
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その配合量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
【0082】
本発明のフィルムは、20〜100μmの膜厚を有することが好ましく、25〜80μmの膜厚を有することがより好ましく、30〜50μmの膜厚であることがより好ましい。かかるフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、30〜50μm程度の膜厚を有するフィルムであれば、液晶表示装置の薄型化を図ることが可能で、かつ優れたフィルム強度、湿熱変化による寸法安定性、及び耐透湿性を維持することができる。
【0083】
また、本発明の偏光板用保護フィルムは、採用する液晶表示方式に応じて異なるものの、概ね70〜400nmの範囲のRthを有していることが、液晶物質由来の位相差を効果的に補償するうえで好ましい。本発明の偏光板用保護フィルムは、ブリード等を引き起こすことなく所望のRthに調整することが可能であることから、比較的高いRthの求められるVA、OCB、及びTN等の液晶表示方式を採用した液晶表示装置にも使用することができる。
【0084】
本発明のフィルムは、耐透湿性、透明性、非揮発性、高温多湿下における耐ブリード性などに優れることから、例えば液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。前記光学フィルムとは、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等である。前記光学フィルムのうち、前記したような優れた特性に加えて、高Rthを有するフィルムは、視野角補償機能を有する偏光板用保護フィルムとして使用することが可能である。
【実施例】
【0085】
以下に本発明の実施例を示す。
【0086】
[実施例1]
1,2−プロピレングリコールを386g、テレフタル酸ジメチルを437g、安息香酸を610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.086gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することによって、下記表1に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤A(酸価0.09、水酸基価6.0)を得た。
【0087】
[実施例2]
ネオペンチルグリコールを529g、テレフタル酸ジメチルを437g、安息香酸を610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.095gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のネオペンチルグリコールを減圧留去することにより、下記表1に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤B(酸価0.15、水酸基価9.5)を得た。
【0088】
[実施例3]
2−メチル−1,3−プロパンジオールを457g、テレフタル酸ジメチルを437g、安息香酸を610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.090gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の2−メチル−1,3−プロパンジオールを減圧留去することにより、下記表1に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤C(酸価0.12、水酸基価12.5を得た。
【0089】
[実施例4]
1,2−プロピレングリコールを386g、テレフタル酸ジメチルを437g、p−トルイル酸を680g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.090gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表1に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤D(酸価0.09、水酸基価10.1)を得た。
【0090】
[実施例5]
1,2−プロピレングリコールを334g、テレフタル酸を332g、安息香酸を488g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.069gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら240℃まで段階的に昇温し、その後240℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表1に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤E(酸価0.29、水酸基価11.2)を得た。
【0091】
[実施例6]
1,2−プロピレングリコールを386g、テレフタル酸ジメチルを437g、m−トルイル酸を680g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.090gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表2に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤F(酸価0.11、水酸基価13.1)を得た。
【0092】
[実施例7]
1,2−プロピレングリコールを162g、テレフタル酸を166g、p−トルイル酸を272g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.037gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら240℃まで段階的に昇温し、その後240℃で反応させ、合計11時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表2に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤G(酸価0.22、水酸基価9.8)を得た。
【0093】
[実施例8]
1,2−プロピレングリコールを325g、テレフタル酸を332g、m−トルイル酸を544g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.073gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら240℃まで段階的に昇温し、その後240℃で反応させ、合計12時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表2に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤H(酸価0.42、水酸基価13.8)を得た。
【0094】
[実施例9]
1,2−プロピレングリコールを155g、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを220g、安息香酸を244g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.037gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計12時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、下記表2に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤I(酸価0.29、水酸基価11.2)を得た。
【0095】
[比較例1]
1,2−プロピレングリコールを125g、テレフタル酸ジメチルを97g、安息香酸を244g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.028gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計11時間脱水縮合反応させた。反応後、190℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することによって、下記表3に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤J(酸価0.07、水酸基価8.1)を得た。
【0096】
[比較例2]
1,2−プロピレングリコールを251g、テレフタル酸ジメチルを388g、安息香酸を244g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.053gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計16時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することによって、下記表3に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤J(酸価0.47、水酸基価15.1)を得た。
【0097】
[比較例3]
1,2−プロピレングリコールを386g、アジピン酸を329g、安息香酸を610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.079gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することによって、下記表3に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤L(酸価0.25、水酸基価14.3)を得た。
【0098】
[比較例4]
1,3−ブタンジオールを270g、無水フタル酸を296g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.034gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、その後220℃で反応させ、合計12時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,3−ブタンジオールを減圧留去することによって、下記表3に示す組成からなるエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤M(酸価1.32、水酸基価110)を得た。
【0099】
[比較例5]
セルロースエステル樹脂用改質剤Nとして2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと安息香酸とを反応させて得られたジエステルを使用した。
【0100】
[比較例6]
セルロースエステル樹脂用改質剤Oとしてソルビトールアセテートを使用した。
【0101】
[比較例7]
セルロースエステル樹脂用改質剤Pとしてジメチルフタレートを使用した。
【0102】
[比較例6]
セルロースエステル樹脂用改質剤Qとしてトリフェニルホスフェートを使用した。
【0103】
エステル化合物(B)中に含まれるエステル化合物(b1)〜(b3)に相当するエステル化合物の質量割合は、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。なお、溶離液としてはテトラヒドロフラン(THF)を使用した。
【0104】
[揮発性]
実施例1〜9及び比較例1〜8の各改質剤を、窒素雰囲気下に130℃で60分間放置した場合の、放置前後の質量減少率をTG−DTA(示差熱熱重量同時測定装置)(セイコーインスツルメンツ社製DMS6100)を用いて測定した。前記改質剤の揮発性は、その用途によって異なるものの、偏光板用保護フィルムに使用する場合には、概ね0.50質量%未満であれば、実用上使用可能である。
【0105】
[フィルムの作製]
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られた各改質剤A〜Qの1gに対して、セルローストリアセテート(酢化度61質量%、重合度265)の10gと、塩化メチレン81g及びメタノール9gからなる混合溶剤とをそれぞれ混合攪拌し、ドープ液を調製した。これらの各ドープ液をガラス板上に約0.5mmの厚さになるようにそれぞれ流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分間乾燥させ、さらに100℃で30分乾燥させることで、膜厚約40μmのフィルムA’〜Q’を得た。
【0106】
[耐ブリード性]
前記フィルムを30mm×40mmの大きさに切り取り、温度85℃、相対湿度90%の恒温恒湿中に120時間放置した。その後、前記フィルム表面を目視で観察し、改質剤のブリードの程度を以下の基準に従い評価した。
【0107】
○:ブリードしていなかった。
×:ブリードしていた。
【0108】
[耐透湿性]
JIS Z 0208に記載の方法に従い、前記フィルムの透湿度を測定した。測定条件は、温度50℃、相対湿度90%である。前記フィルムの透湿度は、その用途によって異なるものの、概ね1000g/m・24h未満であれば、偏光板保護フィルムとして使用することが可能である。
【0109】
[レターデーション(Rth)]
自動複屈折率計KOBRA−WR(王子計測機器(株)製)を用いて、前記フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)を測定した。測定条件は、温度23℃、相対湿度20%の環境下で12時間以上調湿した後、同環境下で測定を行った。前記フィルムのRthは、その用途によって異なるものの、概ね60nm以上であれば、光学補償機能を有する偏光板保護フィルムとして使用することが可能である。
【0110】
実施例及び比較例について評価した結果を、それぞれ表1〜4に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】
















【0113】
【表3】
















【0114】
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される構造を有するエステル化合物(A)、及び下記一般式(II)で示される構造を有するエステル化合物(B)を含有してなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤。
【化1】

(一般式(I)中のR1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を表し、G1は、2〜5個の炭素原子を有する直鎖または分岐したアルキレン基を表す。)
【化2】

(一般式(II)中のP1及びP2は、それぞれ独立して芳香族モノカルボン酸残基を表し、G2及びG3は、それぞれ独立して2〜5個の炭素原子を有するグリコール残基を表し、T1はテレフタル酸残基またはナフタレンジカルボン酸残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記エステル化合物(A)が、前記エステル化合物(A)及び前記エステル化合物(B)の合計に対して5〜40質量%含まれる、請求項1に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項3】
前記エステル化合物(B)が400〜1500の範囲の数平均分子量を有するものである、請求項1又は2に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項4】
前記エステル化合物(B)が、エステル化合物(B)の全量に対して、前記一般式(II)中のnが1であるエステル化合物(b1)を25〜40質量%、前記一般式(II)中のnが2であるエステル化合物(b2)を20〜40質量%、及び前記一般式(II)中のnが3以上であるエステル化合物(b3)を35〜45質量%含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項5】
前記一般式(I)中のR1及びR2が水素原子である、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項6】
前記一般式(II)中のP1及びP2が、それぞれ独立して5〜11個の炭素原子を有する芳香族モノカルボン酸残基である、請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項7】
前記一般式(II)中のP1及びP2が安息香酸残基である、請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項8】
前記一般式(II)中のG2及びG3が、1,2−プロピレングリコール残基、2−メチルプロパンジオール残基、及びネオペンチルグリコール残基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項9】
前記エステル化合物(A)及び前記エステル化合物(B)が、それぞれ0.5mgKOH/g以下の酸価を有し、かつ20mgKOH/g以下の水酸基価を有するものである、請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項10】
セルロースエステル樹脂、及び請求項1〜9のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤を含有してなるセルロースエステルフィルム。
【請求項11】
前記セルロースエステル樹脂用改質剤が、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して3〜30質量部含まれる、請求項10に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
セルロースエステル樹脂、及び請求項1〜9のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤を含有してなる偏光板用保護フィルム。
【請求項13】
前記セルロースエステル樹脂用改質剤が、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して3〜30質量部含まれる、請求項12に記載の偏光板用保護フィルム。


【公開番号】特開2008−69225(P2008−69225A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247938(P2006−247938)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】