説明

セルロースエステル系撚り糸およびその製造方法並びに織編物

【課題】 撚糸による毛羽の発生が抑えられ、布帛にシボを立てたり清涼感を付与することの可能な解撚力を有するセルロースエステル系撚り糸およびその製造方法を提供することにある。さらに、それによって、セルロースエステル系繊維が本来有する吸放湿性や高発色性などの利点を損なうことなく、優れた光沢や清涼感、あるいはシボによる意匠性を付与されたセルロースエステル系織編物を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とし、可塑剤の含有率が5重量%以下であるセルロースエステル組成物からなる繊維を用いたことを特徴とするセルロースエステル系撚り糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣料用途に好適な性能を有するセルロースエステル系撚り糸およびその製造方法並びに織編物に関する。より詳しくは、可塑剤が除去された後に撚りを付与された、強度が高く、解撚力を有するセルロースエステル系撚り糸およびその製造方法並びに織編物(織物または編物を総称して「織編物」と呼称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
糸に撚りをかける撚糸は、糸の収束性を高めて織り編みの工程通過性を良くするため、また、織編物に光沢や清涼感を持たせ、さらには、撚り糸の解撚力によって、織編物表面に凹凸のシボを立たせることができる意匠効果のために、広く用いられている技術である。
【0003】
一方、セルロースエステル系フィラメントであるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート繊維は、ポリマーの屈折率が低いことにより美麗で発色性に優れ、また、それぞれ適度な吸湿性を有することから、肌あたりや風合いが良く、制電性も良いといった特徴を持ち、フォーマルウエアやブラウス、裏地等の衣料に広く使われている。
【0004】
しかしながら、ジアセテート、トリアセテート繊維は、一般に強度が低いため、撚糸工程で糸切れや毛羽の発生が起きやすく、また、強撚を入れた場合にも解撚力がほとんどないため、アセテート系繊維単独では織編物にシボを立たせることが困難であるという問題があった。したがって、従来は、強撚のアセテート織編物を得る場合に、特定の撚糸条件でポリエステルと複合撚糸することで、ポリエステルの解撚力を利用しシボを立たせる(特許文献1参照)ことや、あるいは、撚糸品に強力を持たせるために、ポリエステルを芯部に配置し、アセテート糸条が表面になるような複合撚糸を用いる(特許文献2参照)ことが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、アセテート自身の撚糸による損傷は改善されないため、毛羽の発生を抑えることはできない。また、ポリエステルを複合することで、織編物としたときにアセテート特有のソフトな風合いが損なわれたり、また、発色性が損なわれるといった問題がある。
【0006】
アセテートは通常、溶剤を用いた乾式紡糸により製造されるが、これは紡糸ドラフトが小さく、分子配向度が低いため、強度は通常1.2cN/dtex程度である。この強度を向上させる手段として、従来の乾式法より優れた強度を持たせる湿式紡糸方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、乾式紡糸法、湿式紡糸法はともに溶剤を用いることから、環境への影響が懸念されており、また、その回収のためのコストがかかるなどの問題がある。
【0008】
このように、従来のセルロースエステル系繊維は、環境への負荷の高い溶剤を用いる紡糸方法によって得られており、通常、強度不足と解撚力不足から、毛羽の発生で工程通過性が損なわれたり、十分な撚糸効果の得られる撚り糸が得られておらず、また、十分な解撚力を得るためには複合相手の比率を高める必要があるため、セルロースエステル系繊維の本来有する吸湿性や発色性などの良好な特性が十分に発揮できないという問題があった。
【特許文献1】特開平7―305265号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−300775号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平9−268424号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述のセルロースエステル系撚糸の持つ問題点を解決し、撚糸による毛羽の発生が抑えられ、布帛にシボを立てることの可能な解撚力を有するセルロースエステル系撚り糸およびその製造方法を提供することにある。さらに、それによって、セルロースエステル系繊維が本来有する吸放湿性や高発色性などの利点を損なうことなく、優れた光沢や清涼感、あるいはシボによる意匠性を付与されたセルロースエステル系織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題は、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とする可塑剤含有率が5%以下であるセルロースエステル組成物からなる撚り糸によって解決が可能である。
【0011】
さらに好ましくは、その撚り糸は、セルロースエステル系組成物からなる、強度1.5cN/dtex以上で初期引張抵抗度が40〜100cN/dtexである繊維を用い、また、撚り数1000T/m以上で撚糸することによって解決が可能である。
【0012】
その際、セルロースエステルとしては、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどを用いることができる。
【0013】
また、その撚り糸は、溶融紡糸により得られたセルロースエステル繊維から、可塑剤を溶出したのちに撚糸することで得るという製造方法で得ることが可能である。
【0014】
さらに、その撚り糸を用いて織編物となしたのち、染色前にリラックス工程を経ることで、解撚力によるシボを有する織編物を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、従来得られなかった解撚力のあるセルロースエステル系繊維の撚り糸を、毛羽の発生もなく得ることができるため、セルロースエステル系繊維が本来有する吸放湿性や高発色性などの利点を損なうことなく、優れた光沢や清涼感、あるいはシボによる意匠性を付与されたセルロースエステル系織編物を得ることができる。すなわち、本発明の撚り糸は優れた物理的特性と意匠性を併せ持つ従来になかった素材であるため、衣料用途全般に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の撚り糸は、セルロースエステル組成物よりなるが、組成物の主成分であるセルロースエステルは、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたものである。本発明においては、主成分は、その性質が繊維としての特性を特徴づけるために、少なくとも全体の60重量%以上を構成していることが望ましい。通常、炭素数2のアシル基であるアセチル基のみによって置換されたセルロースアセテート(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなど)よりなる撚り糸は、織編物とした後にリラックスした際、十分な解撚力がなく、扁平な布帛しか得られない。しかし、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換され、強度が1.5cN/dtex以上で可塑剤の含有率が5%以下であるセルロースエステル繊維は、セルロースアセテート繊維よりも形状復元力があり、撚糸した後の解撚力が優れている。
【0017】
少なくとも一部の水酸基を置換するアシル基の炭素数に関しては、3以上であれば良好な熱流動性によって、糸物性が良好となって、強度1.5cN/dtex以上を達成することができる。また炭素数18以下であれば糸の強度および耐熱性が低下することがないため好ましい。また、水酸基を置換するアシル基は1種類である必要はなく、炭素数2のアセチル基と炭素数3のプロピオニル基によって置換されたセルロース混合エステルであってもよい。
【0018】
本発明で採用しうる具体的なセルロースエステルの例としては、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、また、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートカプロネート、セルロースアセテートカプリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートパルミテート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどがあげられる。中でも、製造が容易なことおよび耐熱性が優れていることから、本発明のセルロースエステルとしてはセルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好適に採用できる。
【0019】
また、繊維中に含まれる可塑剤の含有率が5重量%以下であれば、撚り止めセット時の繊維の塑性変形が小さくなり、解撚力が向上するため、望ましい。さらに望ましくは、可塑剤の含有率は、0重量%以上1重量%以下であれば、解撚力に優れ、また、繊維の耐熱性もさらに向上するため、織編物の高次加工通過性がより向上する。
【0020】
さらに強度は1.5cN/dtex以上であれば、撚糸の際の毛羽の発生が抑えられ、撚糸工程の通過性や、その後の製織、製編工程でのトラブルがないため、好ましい。さらに好ましくは、1.7cN/dtex以上あれば、織編物としたのちの引き裂き強力等の物性も良好で、強力を高めるためにポリエステル等の繊維と複合する必要がない。また、強度は、3cN/dex以下であれば、伸度を保持し、糸の物性が損なわれないことから、風合いのよい織編物を得ることが出来る。
【0021】
初期引張抵抗度は40cN/dtex以上であれば、適度な張り腰が付与できる上に、撚糸した後の解撚トルクが高くなり、好ましい風合いと表面感を織編物に付与することができる。また100cN/dtex以下であれば、風合いが硬すぎないため、好ましい。
【0022】
本発明の撚糸の撚り数は、1000T/m以上あることが重要である。
【0023】
撚り数が1000T/m以上であれば、織物とした際に撚糸品特有の光沢や清涼感が得られる。さらに好ましくは、1500T/m以上あれば、解撚力が高くなり、織編物に特有のシボが強く発生するため、意匠性の高い布帛を得ることができる。また、2500T/m以下であれば、織編物が硬化せず、風合いの良い布帛を得ることが出来る。
【0024】
本発明で撚糸に用いるセルロースエステル系繊維は、溶融紡糸によって得られるものであることが望ましい。
【0025】
溶融紡糸は乾式紡糸に比べ、高いドラフトをかけることが可能であるため、繊維の配向構造が得られやすいという特長がある。それにより、乾式紡糸に比べて高い強度の繊維を得ることが容易である。また、セルロースエステルの溶融紡糸に際しては、熱可塑性を高めるために可塑剤を添加するが、この可塑剤は、撚糸する前に除去されて5重量%以下になっていることが重要である。そのため、可塑剤は水溶性であることが好ましい。
【0026】
ここで、水溶性とは室温水あるいは加熱された水に対する溶解度が2重量%以上であることを意味している。
【0027】
具体的に用いうる水溶性可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびこれらの変性体、共重合体などをあげることができる。水溶性可塑剤としてポリエチレングリコールを用いる場合には、その分子量は400〜2000であることが好ましく、500〜1500であることが最も好ましい。
【0028】
このような溶融紡糸からなる繊維から、撚糸前に可塑剤を除去する方法としては、糸条を水、あるいは温湯に浸漬すればよく、その際、水の浸透性を高めるために、界面活性剤の水溶液を用いても良い。浸漬する手段は、紡糸後、あるいは延伸中、延伸後、巻き返し前後や、撚糸機の前に糸条が浸漬して走行する液浴槽を設けてもよく、あるいは、糸をチーズに巻き返して、パッケージ処理機によりバッチ処理してもよい。可塑剤を溶出させるために、水または温湯に浸漬する時間は、走行糸条であれば10秒以上あれば大部分の可塑剤が抜けるが、好ましくは30秒以上浸漬すると、溶出斑もなく可塑剤を繊維全体の重量に対して5%以下に除去することができる。また、パッケージ処理機を用いる場合は、走行糸条の浸漬よりも処理時間がかかるが、10分以上水または温湯を循環させればよく、さらには20分以上循環させればさらに斑のない処理ができる。
【0029】
また、可塑剤を含有量5重量%以下に除去した後であれば、糸のガラス転移点温度(Tg)が除去前より上がるため、100℃以上の高温で乾燥することが可能である。
【0030】
可塑剤を溶出した糸の撚糸方法は特に限定されないが、ダブルツイスタやアップツイスタ、ダウンツイスタなど一般的な撚糸機でよく、また撚糸後の撚り止めセット温度は、特に低温である必要はないが、高温すぎると解撚力が低下するため、60℃から90℃が好ましい。特に好ましくは70℃から80℃である。また、撚り止めセットのために、糸にアクリル系糊剤やポリビニルアルコール系糊剤を付与してもよい。
【0031】
本発明においては、セルロースエステル系繊維の強度が高いため、特に物性強化を目的としたポリエステル混繊を行う必要はなく、複合撚糸については特に限定されないが、収縮糸によるふくらみやストレッチ、カラーミックスなど、種々の風合いや機能、視覚効果のために、ポリエステル、ウール、ナイロン、綿、レイヨン、ポリウレタン等、任意の素材と複合してもよい。
【0032】
好ましくは、セルロースエステル系繊維単独での撚糸を用いて、織編物とすると、セルロースエステルの高発色性を最も生かすことができる。また、ポリウレタン等の弾性収縮糸を用いて、織編物表面にセルロースエステル繊維が浮き上がるようにすれば、ストレッチと高発色性が両立した、高品位な織編物を得ることができる。
【0033】
本発明において、セルロースエステル系撚り糸を少なくとも一部に用いた織編物は、染色前にリラックス処理を行うことで、解撚力が発現し、織編物にシボやふくらみなどの表情を付与することができる。リラックス処理の方法は特に限定されるものではなく、一般的なワッシャーや液流染色機、あるいは、リラクサーといった装置を用いて、湿潤状態で少なくとも70℃以上の熱と揉みや揺動といった外力を与えることで糸が動いて糸のひずみがなくなり、リラックス状態を得ることができる。リラックスを行うときは、織編物は緊張をかけた状態ではなく、フリー収縮状態で処理することが重要である。温度と時間も特に限定されないが、本発明で用いるセルロースエステル系繊維は、100℃以上では物性が低下していく傾向にあるので、リラックス処理は70℃以上で100℃を越えない温度で行うことが望ましい。
【0034】
本発明の織編物の形態としては特に制限はなく、任意の組織、糸構成の織物であってもよいし、任意の組織、糸構成の編物であってもよい。特に、解撚力による意匠性を付与するためには、シボを立てた平織物であるジョーゼットやデシン、シャリ感を出したスムースなどに明らかな効果があり、ブラックフォーマルや夏物カットソー、婦人ブラウスなどに好適に使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の評価は次の方法により求めた。
【0036】
A.糸物性
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除した値を強度(cN/dtex)とした。またその時の伸度を伸度(%)とした。なお測定回数は5回であり、その平均値を強度、伸度とした。
初期引張抵抗度は、JIS L 1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に基づいて算出した。
【0037】
B.清涼感
官能検査によって織編物の清涼感について評価し、非常に清涼感があると感じられるものを5、良好と感じられるものを4、普通を3、あまり清涼感がないを2、全く清涼感がないを1とした。本評価においては4以上を合格と判定する。
【0038】
C.シボ立ち
織編物の表面に撚り糸の復元力による凹凸のシボがあるものについて、シボが強いものを5、シボがあるものを4、若干シボが感じられるものを3、ほとんどシボがないものを2、また、全くシボがないものを1とした。本評価では4以上を合格と判定する。
【0039】
実施例1
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80部とポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製PEG600)20部を二軸エクストルーダーで混練し、ペレットを得た。このペレットを棚式乾燥機で80℃×8hrの条件で真空乾燥を行って絶乾状態とした後、溶融紡糸機にて紡糸温度240℃、紡糸速度750m/分の条件で溶融紡糸を行い、105dtex−24フィラメント(f)の繊維を得た。この紡出糸の物性は、強度1.2cN/dtex、伸度25%であった。この糸を巻き返し、パッケージ染色機を用いて40℃で20分間の水洗処理を行い、さらに水を交換して10分水洗して、可塑剤を溶出した。可塑剤溶出前後の重量変化率は19.2%で、ほとんどの可塑剤が溶出し、可塑剤含有量は繊維重量の0.8%以下になったといえる。
この可塑剤溶出糸を乾燥させて物性を測定したところ、強度が1.7cN/dtexに上がり、伸度20%であった。また初期引張抵抗度は40cN/dtexであった。また、繊度は、可塑剤が溶出したことで小さくなり、85dtex−24フィラメント(f)となった。
得られた85dtex−24フィラメント(f)の繊維を供給糸条として用い、ダブルツイスターで2000T/m施撚し、70℃の撚り止めセットを行って、セルロースアセテートプロピオネートの強撚糸を得た。撚糸の工程通過性は良好であった。
この強撚糸を用いて平織物を作成した。平織物は、定法にしたがい、ワッシャーを用いて精練リラックスを行った。リラックス、乾燥の後、150℃の中間セットを行った後、液流染色機を用いて染色した。
リラックスおよび染色後の平織物は、表面に撚糸の解撚トルクによるシボが発生し、立体感のある表面が得られていた。シボの状態を官能評価したところ、シボ感は強く5の評価であった。またこの織物の清涼感を官能試験で評価したところ、5であった。
【0040】
実施例2
実施例1と同様にして溶融紡糸により得られたセルロースアセテートプロピオネートをパッケージ処理機で70℃10分間の処理を行い、水を交換してさらに5分間処理して、可塑剤を溶出した。可塑剤溶出前後の重量変化率は19.6%で、ほとんどの可塑剤が溶出し、可塑剤含有率は0.4重量%以下になったといえる。この可塑剤溶出糸を乾燥させて物性を測定したところ、強度が1.6cN/dtexで伸度20%であった。また初期引張抵抗度は40cN/dtexであった。
この糸を供給糸条として用い、ダブルツイスターで1500T/m施撚し、70℃の撚り止めセットを行って、セルロースアセテートプロピオネートの強撚糸を得た。
得られた繊維を筒編み機(24ゲージ)を用いて編物(天竺)を作成し、沸騰水中で10分間熱水処理を行った。得られた編物はしぼが発生して立体感に優れており官能試験で評価したところ、4であった。また、シャリ感にもすぐれ、清涼な風合いであり、官能評価は5であった。
【0041】
比較例1
市販のセルロースジアセテートよりなる84dtex−20フィラメント(f)のマルチフィラメント糸条の物性を測定したところ、強度1.1cN/dtex、伸度35%、初期引張抵抗度は30cN/dtexであった。この糸を用いて実施例1と同様にダブルツイスターで2000T/mの撚糸を行ったところ、毛羽が多数発生した。
この撚り糸を実施例1と同様に平織物としたが、毛羽があるため、織り欠点が多数発生していた。また、この織物を実施例1と同様に精練リラックス処理したが、撚糸の解撚トルクによるシボはほとんど発生せず、フラットに近い状態であった。
【0042】
比較例2
セルローストリアセテートからなる84dtex−20フィラメント(f)のマルチフィラメント糸条の物性を測定したところ、強度1.2cN/dtex、伸度34%であった。また初期引張抵抗度は35cN/dtexであった。
この糸を用いて実施例1と同様にダブルツイスターで2000T/mの撚糸を行ったところ、糸切れが多発し撚糸が困難であった。糸が十分に取れないため、織物を作成することができなかった。
【0043】
実施例3
実施例2と同様にして、得られたセルロースアセテートプロピオネートを可塑剤溶出後、ダブルツイスターで1000T/mの撚糸を行った。撚糸は毛羽も発生せず、トラブルなく終了した。得られた繊維を実施例2と同様にして編物にし、沸騰水中で10分間熱水処理を行ったところ、得られた編物はしぼほとんど感じられない状態であったが、清涼感のある風合いで評価は4であった。
【0044】
実施例4
可塑剤としてポリエチレングリコール600を16重量%含有するセルロースアセテートブチレートをポリマーとして用いる他は、実施例1と同様にして溶融紡糸によって105dtex−24フィラメント(f)の繊維を得た。繊維の強度は1.1cN/dtexで初期引張抵抗度は32cN/dtexであった。この繊維を、5mの浸漬長を有する液浴処理装置を用いて、水温40℃で3m/分の連続糸処理を行った。これにより、繊維は可塑剤が溶出し、可塑剤の含有量は0.5%以下となった。また、この繊維を乾燥させて物性を測定したところ、強度が向上し、1.5cN/dtex、初期引張抵抗度は35cN/dtexとなった。
この繊維を実施例2同様1500T/m施撚し、70℃の撚り止めセットを行って、セルロースアセテートブチレートの強撚糸を得た。撚糸工程の通過性は良好であった。
この繊維を用いて実施例2と同様に筒編みを行って編物(天竺)を作成し、沸騰水中で10分間熱水処理を行ったところ、ソフトであるが、立体的なシボが発生しており、清涼感のある風合いであった。
【0045】
比較例3
可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを16重量%含有するセルロースアセテートブチレート(イーストマン社製)をポリマーとして用いる他は、実施例4と同様にして溶融紡糸によって105dtex−24フィラメント(f)の繊維を得た。繊維の強度は1.1cN/dtexで初期引張抵抗度は32cN/dtexであった。
この繊維を実施例2と同様1500T/m施撚し、70℃の撚り止めセットを行って、セルロースアセテートブチレートの強撚糸を得た。撚糸は毛羽が発生していた。
この繊維を、パッケージ染色機で熱水処理してみたが、可塑剤は水溶性でないためほとんど溶出することはできず、可塑剤の含有率は15.5重量%であった。繊維の強度は1.1cN/dtexで初期引張抵抗度は32cN/dtexであった。
この繊維を用いて実施例2と同様に筒編みを行って編物(天竺)を作成し、沸騰水中で10分間熱水処理を行ったが、ソフト感は良好なものの、しぼをほとんど有さない繊維であるため、嵩高性・ふくらみについてはほとんど感じられず劣っていた。また、毛羽により、品位が低いものであった。
【0046】
比較例4
実施例1と同様の工程で得られた溶融紡糸からなる紡出糸の物性は、強度1.2cN/dtex、伸度25%であった。また初期引張抵抗は35cN/dtexであった。このセルロースアセテートプロピオネートの繊維を、可塑剤溶出することなく、供給糸条として用い、ダブルツイスターで1500T/m施撚し、70℃の撚り止めセットを行って、セルロースアセテートプロピオネートの強撚糸を得た。撚糸の工程通過性に問題は発生しなかった。この強撚糸を用いて平織物を作成した。
平織物は、定法にしたがい、ワッシャーを用いて精練リラックスを行った。リラックス、乾燥の後、150℃の中間セットを行って、下記内容で液流染色機を用いて染色した。
リラックス後の平織物は、シボがほとんど発生せず、平坦な表面感であった。この織物の清涼感を官能試験で評価したところ、2であった。
【0047】
実施例1〜4、比較例1〜4の結果をまとめて表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とし、可塑剤の含有率が5重量%以下であるセルロースエステル組成物からなる繊維を用いたことを特徴とするセルロースエステル系撚り糸。
【請求項2】
セルロースエステル組成物からなる繊維の強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステル系撚り糸。
【請求項3】
セルロースエステル組成物からなる繊維の撚り数が1000T/m以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステル系撚り糸。
【請求項4】
セルロースエステル組成物からなる繊維の初期引張抵抗度が40〜100cN/dtexであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステル系撚り糸。
【請求項5】
セルロースエステルがセルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステル系撚り糸。
【請求項6】
セルロースエステル組成物からなる繊維を、溶融紡糸によって製造し、該繊維中に含まれる可塑剤を溶出処理によって可塑剤含有率を5重量%以下とし、その後撚糸することを特徴とするセルロースエステル系撚り糸の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の撚り糸、もしくは請求項6に記載の撚り糸の製造方法によって得られる撚り糸を少なくとも一部に用いた織編物であって、織編物表面にシボが存在することを特徴とするセルロースエステル系織編物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の撚り糸、もしくは請求項6に記載の撚り糸の製造方法によって得られる撚り糸を少なくとも一部に用いて織編物としたのち、染色前に該織編物のリラックス処理を行うことを特徴とするセルロースエステル系織編物の製造方法。

【公開番号】特開2007−169853(P2007−169853A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372045(P2005−372045)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】